『撤退は不可能。後方支援は不全。君達を救う要因は、今や君達自身の力にしか存在しない』
『よく言うであろう? 運命とは、自ら切り拓いてこそ価値があるのだと』
ジュン√、凌駕達3人は展開されたマンドレイクジャマーの中、
《預言者》と名乗る仮面の機人に遭遇する。
その姿に
司令官が信じられないものを見たかのように狼狽し……連絡は途絶してしまっていた。
強大な素粒子の反応を放ち、半人半機の異形を備える謎の存在を前に、反逆者達は各々の
輝装を武器に協力して立ち向かう。
だが、高速の蹴撃はその鋼の躰を僅かに揺らす事もできず、追撃する鋼の人形はたった一撫でされただけで装甲を砕かれた。
僅かな交錯の中で見せつけられる、圧倒的な性能差。それを理解した上で、少年は
自らの拳の特性を用いて抵抗しようとするも――
『ふむ。では一言───温い』
その読みを仮面の男は当然のように上回っていた。融けない、揺るがない、伸ばされた右腕で超高熱の拳は受け止められた。
これは何だ。融解しない──いや、再生速度が速すぎるのだ。刻鋼人機の常識や標準を、ゆうに三つは上回っている。
効いていないわけじゃない。ただそれを上回るほど、こいつの中で駆動する永久機関が桁外れていることの証。
それでもと、次に繰り出した左の氷結の拳も……
『さらに一言───甘い』
出掛かり、初動の段階でもう一方の腕に受け止められてしまう。特筆すべきは、反応速度ではなく……その読みの鋭さ。
正確にして迅速な判断力。凍て付き若干鈍くなった左腕など意に介してもいない。
鋼の拳を握りしめながら、奴は涼し気に笑っている。
『認識が不足していると見た。鋼の比重が大きいから、見かけ鈍重に感じるから、この程度は通じるはずだと……優しい見通しは止めておいた方がいい』
『それでは、代償の時間だ。痛みを以て学んでくれ』
そのまま凌駕は両腕を掴まれたまま、重圧と共に大地に無理やり捻じ込まれる。
それでも――と、呼び声に応じたジュンが、防御を封じられた体勢の
アポルオンを強襲する。
仲間の一撃が、今度こそこの敵を不安ごと消し飛ばしてくれることを祈った凌駕の表情は、次の瞬間凍り付く。
「―――起動」
予想していた事であり、同時に何としてでも防ぎたかった詠唱。
これを出されたならば、即座に敗北するしかないと理解していたから。
「輝装・呪戒黒鎖」
突然重圧が消え、一転して軽くなった凌駕の躰は棍棒のように振り回され……ジュンを吹き飛ばした後も勢いは止まらず、何度も地面に叩きつけられる。
徹底的に、攻撃は続く。飽きたように投げ捨てられた身体は背後の機械人形を直撃し……本体の美汐もまとめてアポルオンの重厚な鉄拳が追撃する。
戦闘の体すら成していない、一方的な蹂躙劇。気づけば、少年少女は皆同じ場所で地を舐めさせられていた。
重力操作――不可視かつ強力な重圧に立ち上がることすらままならない凌駕達に、まるで
他人事のように、自己の能力を明かすアポルオン。
しかし、ここまで同じ輝装段階で差が出るものかという疑問に、
仮面の代行者は絶望的な回答を告げる。
『当然の帰結だとも、アポルオンの輝装は重力操作しか存在しない。
そら、ご覧の通り、起動後であるというのに刻鋼は纏ってはおらんだろう?
それが答えだ、要は配分の問題にあるのだよ』
『君達も知っての通り、殲機は様々な形態と機能を有して発現する。
その際、単純な基礎能力の向上と、獲得した特殊機能の高機能化は基本的に反比例して現れるわけだ。
まさしく、自己の才能を振り分ける天秤。仮に十の才があった場合、どちらかに六の才を振り分ければ残る片側は四だ』
『この場合は、それが特殊機能に全て振り分けられた結果に過ぎない。
故に、本来ならばアポルオンの単純な戦闘能力は君達に著しく劣る。だがしかし――分かるであろう?』
「ふざ、けんな……何だそりゃ、冗談じゃないんだよ……このっ、反則野郎……!」
――特殊機能に持てる力を全振りしたら、肉体が脆弱になる。ならば機械という補助を用いることで、半人半機となったなら……答はこれだ。
足らない部分を補い合い、高めあったがために弱点などない。
どちらにも振られた力は等しく十。通常の刻鋼人機である時点で、こいつに勝つのは不可能なのだ。
- 全リソースを異能力に割り振ったうえ、同レベルのフィジカル強化を別の手段でやれば同じ位階の奴に負けるわけないだろという、神祖レベルの正論による暴力。しかし能力の相性が良かったとはいえ、同じ輝装でこいつに一方的に攻撃を叩き込み続けた猛者がいる模様 -- 名無しさん (2021-04-01 20:48:38)
- ちょっと兄ちゃん《飢餓虚空・魔王星》とかやってよ -- 名無しさん (2021-12-04 12:18:05)
最終更新:2024年10月05日 23:30