新生したトシローと覚醒した伯爵との相剋はトシローに軍配が上がった。
「ああ――無念だ。後一歩であったというのに」
「やはり、お前は素晴らしいな……宿敵よ。まさか私に敗北まで授けてくれるとは」
跡形もなく粉砕された心臓の痛みと、生涯を通じて最初で最後の失敗と辛酸を味わって・・・
伯爵は苦笑しながら、勝者たるトシローに事切れんとする虫の息のまま語りかけた。
「口惜しい……たまらぬな、この痛苦。
成る程…誰もがこぞって私に敬服したわけだ。強い殻を纏わねば軋む心に耐えられん……」
「全て、為すがまま――闇の寵愛が恋しくもなろう」
だから人間は吸血鬼になりたがる。別の何かに生まれ変わって解消してしまわなければ。
こんな激烈な痛み、己のような超越者を含め誰もが避けてしかるべきだろう。
「二度と味わいたくもない……
そんな傷を二度も三度も味わってきたわけか、おまえは」
「はは、怪物め………」
だが、そう笑みを向ける心情など判らぬ、判りたくもないと―――
「……言うのが、遅くなったがな」
伯爵に白刃を突き立て、疲弊の極みにありながらもトシローは冷たく言い放つ。
「馴れ馴れしいのだ、吸血鬼。おまえなどに、俺は友などと呼ばれたくは……ない」
「そして、これだけは言わせてもらおう。これは……俺の勝利にあらず」
「遅かれ早かれ、たとえ俺ではなくとも───おまえは、こうなっていただろう」
偶然、自分が側に居たからこそ貴様の生涯の総算たる裁きを下したに過ぎない。
これまで積み重ねてきた無数の小さな過去が導く……例外なき必滅の運命がおまえを射止めたのだと。
そう―――
「運命は、幻想などではないのだから」
原因と結果を生み出すのは、常に自分達自身。業は巡って必ず己自身へと返ってくる。
それは視認できるかできないかに過ぎず……世界は徹底的に潔癖で、貴様が背負えと告げているのだ。
傷を刻みながら歩んできた男が、傷を背負わなかった怪物に教授する最後の現実の理。
理不尽が起こるくせに裁きは必ず下る、縛られた現実の恐怖を思い知らされ、
“灰は灰に、塵は塵に”――伝承をなぞるように、幻想の残滓は跡形も残らず消滅の瞬間を迎えようとしていた……。
「そうだ───名を……教えては、くれぬか……?」
その寸前…伯爵は最後の力を振り絞り、己を下した男に、最後の問いを投げかける。
「吸血伝奇に、終止符を打った者よ……どうかその字を、私の墓碑銘とさせてくれ……」
「教えてくれ……何処とも知れぬ、何者かよ……」
「夜を受け入れ、現実に嬲られながら……
尚も、ただ歩き続ける───無窮の宿敵よ……」
「私の死に──銘を刻んで欲しい」
その懇願に対し、男が答える言葉は決まっていた。
「縛血者──鹿島杜志郎」
告げられた言葉と共に……吸血鬼は灰となり、砕け散ってゆく。
死闘が繰り広げられた、この世ならざる死海の畔に命の欠片が舞い上がる。
仄かに紅く光る灰は、その刹那まで幻想的であり―――
その光景は、散りゆく薔薇の花弁を連想させた。
麗しくも、儚い。現実には根を張れない……幻想の華を。
――――そして。
再臨のための力を全て使い切ったトシローの姿も、いつしか消え…
この闘いを終わらせた、一振りの無骨な刃のみが、ただその場に残されたのだった………
- ??「やはり人間は素晴らしいな。もっと輝きが見たいぞ」 -- 名無しさん (2015-11-03 18:21:46)
- ↑大尉はお帰りください(真顔)だれか448呼んできてー! -- 名無しさん (2015-11-04 11:02:37)
- ラグナロクやったらリリスも出てくるじゃないですかやだー -- 名無しさん (2015-11-04 14:05:55)
- ?????「素敵だ やはり人間は 素晴らしい」 -- 名無しさん (2016-01-06 20:31:24)
- ↑4大尉が相手したらトシローとゼファーは喀血して死ぬから。 -- 名無しさん (2016-01-06 20:54:01)
- 相対したら核爆弾投げてくるカッスだから投げられる前に喀血して戦闘不能になるのは生存本能的な何かではないだろうか -- 名無しさん (2017-12-31 15:15:56)
- カッスが戦闘不能程度で諦めるわけないだろ絶対起き上がらせるためにリトルボォォイしてくるぞ -- 名無しさん (2020-02-29 12:29:29)
最終更新:2020年12月11日 22:22