魔導工学 - Vicipaedia - 理外学

目次

概要

　魔導工学は、魔力によって発動される魔法現象を解析する学問である。

Fig.1,2 西洋と東洋の魔法陣の例 共通して円形である

　魔法現象は、生体由来の魔力(アストラル体)を使って、魔法陣や魔導器具でエネルギーや物質に変換することによって発動する。魔力量、変換術式への適性は生物や個人差によるところが大きい。

理論の詳細

　魔法現象はその複雑性から低級魔術、中級魔術、高級魔術(上位、下位魔法ともいう)に分類される。複雑性が増すほどその発動は困難になり、高度な技術と経験、より技巧的な魔導器具による補助が必要になる。特に、高級魔術はほとんど機械式魔導器具によって発動される。

分類	例
高級魔術	医療魔法、転送技術
中級魔術	電気の発生、移動魔法、物質合成
低級魔術	熱、光などの発生
Fig3. 魔法の分類 大まかな特徴として、エネルギー生成などのエネルギー変換系統は簡単であり、 物質合成などの元素の組み換えを必要とする錬金術系統は難解である。

　魔法陣/魔法円は、主に物質合成系の魔導技術によく用いられる。魔法陣は幾何的図形と専用言語の呪文(ルーン文字や梵字で表記されることが多い)によって構成され、描くのに使った素材によってもその効能は変化する。
　魔法陣には、ある一定の法則が存在する。魔法陣は原則として円形と芒星、文字によって構成されるが、魔法の効果は芒星の方向に強く発生する。(円形の場合は球状)また、呪文は最外殻の円に沿って、一定の文法にしたがって書かれる。

　魔導器具は、主にエネルギー変換系の魔導技術によく用いられる。魔導器具は魔法石/魔力電池と魔力変換回路、術式によって構成され、定性的な魔法現象を繰り返し惹起することに優れている。特に、近年開発されている機械式魔導器具は、小型化された魔法陣と組み合わせて、より複雑な魔法現象を発動することができる。

魔法陣の詳細

　魔法陣は、幾何図形とその具体的効果を決定する呪文によって構成される。ここでは、呪文に使われる文字とその文法について記述する。

単語(ルーン文字)	意味
ᚫᛚᛈᚺᚫ	呪文はじめ
ᛟᛗᛖᚷᚫ	呪文おわり
ᛁᚷᚾᛁᛋ	火元素
ᚫᛖᚱ	風元素
ᚫᚲᚢᚫ	水元素
ᛏᛖᚱᚱᚫ	土/地元素
ᚲᚫᛖᚱᚢᛗ	エーテル元素
ᚫᚠᚠᛁ	正/陽
ᚾᛖᚷᚫ	負/陰
Fig4. ルーン文字を使った呪文

　呪文は、次のような文法で記述される。まず、すべての呪文は円環原理によって「始め」と「終わり」の記号に閉じられている。実際のところ、呪文は円形に書かれるため、両者の区別はない。次に、発動する効果に合わせた呪文を書く。例えば物質を顕現させるならば、「混合(混沌)」と「顕現(秩序)」の間に材質を記す。

　例として、硫黄を合成する呪文を示す。
　　ᚫᛚᛈᚺᚫ ᚲᚺᚫᛟᛋ ᚫᚠᚠᛁ ᛏᛖᚱᚱᚫ ᚫᚠᚠᛁ ᛁᚷᚾᛁᛋ ᛟᚱᛞᛟ ᛟᛗᛖᚷᚫ
　　(陽なる土よ、陽なる火よ、混合せよ、顕現せよ)

　　[始め]<混合せよ>(材質)<顕現せよ>[終わり]の順に書かれている。

　呪文は、魔法陣の円に沿うように繰り返し書く。また、魔法陣はより大きいほど魔力を多く投入することが可能になり、呪文を多くかけるようになり、効能が強くなる。

魔導器具の詳細

　魔導器具は、エネルギー源となる魔力電池/魔法石、エネルギー変換を行う魔力変換回路、細かな制御を行う術式によって構成される。機械化された魔導器具は魔力の供給から変換、顕現までをすべて自動で行えるため、定性的な魔法現象を誰でも繰り返し発動できるのが魔導器具の利点である。

魔導工学の〈化学〉的性格

　魔導工学は、少なからず化学の体系を参考にして組み立てられている。そもそも近世以前は錬金術と化学の境が曖昧であったということもあるが、魔法は化学によく似ている。例えば錬金術における"基本元素"は化学元素に該当するものである。物質は全て、化学元素の組み合わせでできているが、同時に基本元素の集合体であるとも言える。火薬を"土"と"火"に分解することも、硝石、硫黄、木炭に分解することもできるのはこの為である。

　硫黄を合成する呪文は、以下のように〈化学的〉に書き下すこともできる。
　火薬　→　"土" ＋ "火"　→　硫黄

　如何に魔法といえども科学であり、拡張エネルギー保存則を破ることはできず、魔力と他の物理的エネルギーを合わせた全エネルギーは一定となる。また、エントロピー増大則に近い性格を持った法則もあり、原則として魔法エネルギー変換効率が100%に達することはない。

代表的な魔法技術

　ここでは、比較的有名な魔法技術(エネルギー変換、物質合成、医療魔法、転移・召喚魔法)についてその詳細を記述していく。

エネルギー変換

　エネルギー変換魔法は、魔力(アストラル体)を何らかの物理的エネルギーに変換する技術の総称である。主に魔導器具によって行使され、初学者に優しい魔法である。
　基本的なエネルギー変換は、魔力変換回路と呼ばれる部品によって行われるため、行使者は制御部品である術式の操作を誤らなければ危険はない。
　最近は術式の半自動化を達成した子供向け玩具である魔法の杖も一般に販売されており、音声認識技術の発達に伴い"魔法使いごっこ"ができるようになった。

物質合成

　物質合成魔法は、物質を基本元素に還元し、別の物質に組み替える技術の総称である。主に魔法陣によって発動する中級者向けの魔法である。
　物質合成魔法は、物質を錬金術基本三元素、西洋基本五元素、東洋基本五元素などに分解し、再構築する。化学反応と同じく、反応の起こりやすさや反応速度、触媒作用が存在し、研究が進んでいる。

医療魔法

　医療魔法は、応急処置など医療的性格を持つ魔法技術の総称である。"マナ酔い"の治療を除けば、その複雑性は高く、現代医療を上回る技術はほとんど開発途上であり実用性はそこまで高くない。
　止血、消毒、自然回復の促進などは、主に魔力照射によって行われる。元々生体由来である魔力は"生命力"的な性格を持ち、初期の救急救命処置に利用される。しかし、折れた骨の再生、がん細胞や病原体の根絶などは難しく、あくまで補助的な役割が主である。

高等医療魔法、転移・召喚魔法

　高等医療魔法、転移・召喚魔法は、"時空のねじれ"と呼ばれる現象を利用した魔法技術である。魔導工学だけでなく、形而工学、空想科学の技術も必要とする最先端の魔法技術である。
　"時空のねじれ"とは、非相対論的時空間歪曲現象の総称である。高等医療魔法では"時流の伸縮"が、転移魔法では"ワームホール生成"が、召喚魔法では"物語線の結合わせ"が利用される。いずれも、特に転移・召喚魔法は細心の注意を払って行使されて然るべき技術であり、場合によっては時空間異常や位相欠陥、局所的/広域因果律災害や準黙示録的事象の引き金になりうる。そのため、全てのUNPSC加盟国において実行には魔法免許と特別許可が必要になる。

　高等医療魔法は、本来治療に長い時間がかかる骨折、深い裂傷などの治療や遅延治療に役立つ。前述の医療魔法と合わせれば致命傷の治療やコールドスリープに近い医療が可能である。

　転移魔法は、ワームホールを生成する魔法技術である。最古の転移魔法の実験は1943年にカルティエで行われたフィラデルフィア計画であり、以降冷戦期に活発に研究された。移動地点のゲート設置と相互通信の確立によって限定的に実現されているが、実用化は未だなされていない。

　召喚魔法は、"物語世界線の結合わせ"と呼ばれる現象を利用する魔法であり、空想科学技術を利用している。大別して上位物語からの"降霊"、並行物語層からの"拉致"、下位物語群から"引っ張り出す"の3つの系統がある。輝くトラペゾヘドロン計画が有名だが、いずれも難しく成功例は多くない。

古典魔法史

　現在の魔法学では西洋と東洋でそれぞれ独自に発展してきた魔法技術を融合し体系化することで成り立っている。ここでは、近世以前の"非科学的な"魔法である古典魔法について記述していく。

西洋古典魔法

　西洋古典魔法は、神智学、悪魔学、錬金術などを含む西洋で発展してきた魔法技術の総称である。大きな特徴はアリストテーレスの唱えた四元素説(後の五元素説)に基づいている点である。四体液説などと合わせて医療魔法も盛んに研究されており、西洋では他の地域に比べ、より世俗的な魔法技術が研究されていた。
　西洋では錬金術や気候操作、黒魔術など数多くの現代魔導工学的な性格を持つ魔法が研究されていた。
　特に中世は、黒魔術が大きく発展した時代である。より高度かつ大規模な魔法を行使するには、より大量の魔力が必要になるが、中世には十分な魔力保管技術が存在せず、必然的に燃料として人間や家畜を利用することがしばしばあった。血液や幼小児は燃料としての適性が高く、いわゆる魔女伝説における魔女が子供をさらう姿はこういった歴史に由来する。
　現代では、魔力保管技術の開発とアストラル放射についての理解が進んだことで、魔法行使に必要な魔力を全て個人や自然由来の魔力で賄うことが可能になった。中世の魔法は多くが下位神格存在の使役や血液魔法などの手法に頼っていたため、アストラル放射技術の向上は魔法の"民主化"と"健全化"を果たしたと言える。

東洋古典魔法

　東洋古典魔法は、妖術、陰陽道、錬丹術などを含む東洋で発展してきた魔法技術の総称である。大きな特徴は、古代華国で発展した陰陽五行思想に基づいている点である。特に式神を従える呪術や八卦を使った占術など、西洋とは異なった趣向での魔法技術が多く、時に国家の命運を占うのに用いられた技術は、現在でも役立てられている。
　東洋では、錬丹術などを除けば主に占星術的な魔法がよく研究されていたため、現代の魔導工学的性格を持った魔法は少ない。詳細は魔法の歴史を参照のこと。

小ネタ集

魔法エネルギー変換効率

魔法現象によって消費された魔力と実際に顕現し、利用可能な形で発生させられる物理エネルギーの比率。より上級な魔法ほど低下する傾向にあり、原則的に100%には達しない。(魔法学の第二法則)

魔法陣の幾何的性質と円環原理

魔法陣は基本的に円形と芒星が構成要素に含まれる。これは円環原理に基づく設計であり、円を含まない魔法陣は正常に発動しない。

魔法陣の呪文

魔法陣の呪文は、伝統的にはルーン文字や梵字、稀にエノク文字で書かれる。呪文は円形に書かれ、その効果を決定する。近年は魔法陣の小型化、効率化のために伝統的な文字でなく、省略した記号で記されることが多い。

四元素説と五元素説

アリストテーレスの唱えた四元素だけでは、善なる方向を指向する(在るべき場所に戻る、落下する)ことのない天空と星を説明できないため、第五元素エーテルを加えたのが五元素説である。

魔法石、魔力電池、魔力の固定技術

形を持たず、生体内に貯めておける量が限られている魔力を一定の場所にとどめておき、後から利用できるように保管しておくことの利益は非常に大きい。自然にできた魔石を参考にして作られた魔力を結晶化した魔法石や、魔法反応から魔力を取り出す魔力電池は長い間最も有効な技術だったが、現在は魔力のみを顕現し空間に固定する技術が研究されている。