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001:時計 (1)

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匿名ユーザー

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「ねぇ、これは何なの?」
 オルニアが指差して尋ねたのは、地につけられた印と、その中に立つ石の棒。
「日時計、という奴だ」
 荷物の中を漁りながらリラーは言った。探しているのは金である。
 ここは魔界のトリアード市。人間界とは異なる世界には、見慣れぬ物が多数ある。日時計も人間界には無かった代物だ。
「幻界にもこれは無いなぁ」
 アイドも初めて見る物らしく、興味津々として眺めている。
「日の影で時間を測っているのさ。今は……13時だ」
 少し手を休め、リラーは日時計を見る。影は印の一つと重なっていた。その下に小さく文字が書かれていた。4つの世界の文字は全て統一されている(らしい)ので、オルニアもアイドも読める。確かに13と書かれていた。
「お客さん、早く代金」
「あ、すいません」
 店の主人に言われて、慌てて荷物の中を探り出す。
 言っていなかったが、今留まっている理由は、昼食代を払う金が見つからないためである。
 オルニアはそんなリラーをじっとりと見た後、また日時計に目をやった。本物よりも短い影が少しずつ位置をずらしながら伸びていく。
「……ちょっと、早過ぎない?」
「うん、そんな気がする」
 影は二人が見ている前でぐんぐん伸びていく。太陽を、直視しないように見てみると、
「…………!?」
 すでに暮れかけ。日時計の表示を見れば、すでに16の印を越えていた。
「リラー、ちょっと――」
 呼びながら振り返ると、なぜか誰もいない。綺麗な夕焼けがその場の二人を照らし出す。
「……どうなってるの?」
「僕にもサッパリ」
 柔らかな風がオルニアの髪を撫でた。普段ならばとても心地よく、心動く環境だが、異常の中で感じれば、ただただ不安になっていく。
 日時計の影は動かない。太陽は完全に停止していた。
「まったく、どうしてこうも私達の周りって変な事ばかり起こるの?」
「運命と思って諦めたら?」
 既にアイドは二本の刀を両手に装備していた。筒に玉がついたその刀。刀身の色は共に銀。あらゆる物を切り裂ける、その名は曰く斬奏刀。
 オルニアも、腰から短剣を抜いた。こちらは何の変哲も無い、ただの短剣である。
 二人とも、何かがいると気付いたのだ。おそらく、この奇妙な空間を作り出した存在が。
 日時計を見る。関連性がありそうなのは、これ以外には思いつかない。
 影がいきなり伸びた。本当の影ならばありえない、横へと。その先にいるのは、アイド。だが彼は、横に跳びつつ地を刀で薙ぐ。一文字の跡を残した地には、影があった。痛覚があるらしく、影がぐにょぐにょと蠢く。見た目に気持ちが悪い。
「どーやら、この影が犯人のようね」
「そうだね。これを仕留めたら終わると思うよ」
 二人は頷き合い、影を見る。
 オルニアが手に持つ短剣を投擲。影は奇妙な動きでそれを回避、短剣が地で跳ねる。影は既に日時計の棒から離れ、素早く動き回っている。オルニアは別の短剣を出現させ、何度も投擲。そのことごとくを回避していく影の先に、アイドが待ち伏せていた。影の到来と共に双剣を下に振る。二本の傷が地面に残る。が、影は斬られていなかった。
「これから、影っていう言葉の定義を変えないといけないのかな?」
「純粋に、これは影じゃありません、とした方が簡単だし的確だと思うわよ」
 紙よりも薄い黒が、宙に浮いていた。緩い風が吹いているが、その黒は揺るがない。
「魔界って、こういうのがたまにいるから厄介なのよね……」
 オルニアは右手を(元)影に向けた。そして、紫電を放つ。刹那に流れる電流が、回避する暇を与えずに影を直撃した。焦げる匂いも何も無いが、手応えを感じることができる。
 アイドが疾走。右の刀を上から一気に振り下ろす。空間を裂く一撃の軌跡に影は巻き込まれていた。何でも裂ける斬奏刀は、影をも切り裂いていた。

「お前ら、どこ行ってたんだ?」
 声がかかり、振りかえると、リラーが腰に手を当て、半眼でこちらを見ていた。
「金払ってから日時計の方見ても、お前らの姿が無いし。三十分近く探し回ったんだぞ?」
 確かに、少し汗を掻いているようにも見える。
 オルニアとアイドは日時計を見た。
 影は、13と14の中間を示していた。


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