リップクリーム
「寒い…」
「本格的に冬って感じで冷えてきたよねぇ。空気も乾燥してるから保湿に気をつかわないと」
「そうだな。唇ががさがさになったりするのは嫌だし、今の内にリップクリーム塗っておこうかな」
「そうだねぇ…。あ、澪ちゃんはどんなの使ってるの?」
「どんなのっていわれても。別に普通のやつだけど。ほら」
「おー確かに。よくある薬用リップクリームって感じだね。使った後スースーしない?」
「うん。塗った後にスッキリするからな」
「そっかぁ。私は逆にスースーしてるのが駄目なんだよねぇ」
「じゃあ唯はどんなのを使ってるんだ?」
「よくぞ聞いてくれました!私のはねぇ、これだよっ。ちょっとこのポーチ開けてみてー」
「化粧ポーチ?唯、化粧してたのか?」
「違うよー。可愛かったからそのポーチ使ってるだけだもん。ポーチの中身を見たら分かるからさ」
「唯がそういうなら…ってうわ…っ」
「えへへー、どう?」
「どう、って…もしかしてこれ、全部リップクリーム…なのか?」
「そうです!」
「1、2、3……ポーチに10個以上入ってるんだけど…、全部?」
「そうです!」
「なんでこんなに入ってるんだ?そもそもそんなに使わないだろ…」
「えー、だって可愛いくない?キャップのデザインがすっごく可愛いのとか見つけると欲しくなっちゃうんだもん。ほら、これとかこういうのって澪ちゃんも好きでしょ?」
「あ、ホントだ…可愛い…」
「やっぱり澪ちゃんもこういうの好きだよねっ!これなんかねぇ、よく見るとすっごい小さなお花がいっぱい描かれてたりするんだよ!」
「うわぁ…細かいな。もしかしてコレって手描き?」
「うんっ、そうなの!こっちのなんかね…あ、こっちはグロスなんだけど。蓋全体に模様が彫られてるんだよっ。すごいよね!?」
「すごい…。こんなに小さい模様までちゃんと描かれてるし、彫ったなんて分からないくらい繊細な模様だ…」
「でしょでしょー!澪ちゃんだったら分かってくれると思ってたよ!」
「唯、これって全部同じ店で買ったのか?」
「店っていうか、駅前でたまに見かける露店で買ったんだ。他に売ってるアクセサリーも可愛いんだよー」
「そっか…、露店か…。私も、欲しいな…」
「じゃあ、買いにいこっか?」
「いいのか?唯のお気に入りの店なんじゃない?」
「そうだけど、澪ちゃんなら全然おっけーだよ!私の秘蔵のコレクションを気に入ってくれたんだもん!」
「コレクション…。でも、確かにあんな可愛いデザインだったら集めたくなるかも」
「よしっ。善は急げだよ、今行ってみよう!」
「え、えぇっ!?今!?」
* * * *
「買えなかったね…」
「…うん」
「まさかもう商品を作ってないなんて計算外だったよ」
「もとから計算なんてしてないだろ唯は」
「ひどいなぁ、私だって考えたりするよ?…それよりもごめんね。こんな寒い中連れ出して結局買えないとか…」
「別に買えなかったのは唯の所為じゃないし、気にしてないよ。代わりにあの店で可愛いアクセサリー買えたしさ」
「でも…」
「唯がそこまで気に病む必要はないよ。確かに買えなかったのは残念だけど、私は別に気にしてないし」
「それでもなんか申し訳なくて…あ」
「ん?どうかした?」
「澪ちゃんの唇、ちょっと荒れてる」
「え?…あ、ホントだ。この時期は乾燥しやすいからなぁ」
「リップクリームは?」
「あ…しまった。慌てて出てきたから部室に置きっぱなしだ」
「うぅ…ごめんね澪ちゃん」
「もう。だから気にしてないって」
「じゃあじゃあ、お詫びにというのもあれだけど私のリップ1つあげるよ!」
「え、それは駄目だよ。唯のお気に入りなんだろ?」
「私は澪ちゃんにだったらあげられるよ。それとも私が使ったのは、嫌?」
「別に嫌とかじゃないよ。ただ、私にはもったいないから。それは唯が使ってあげて」
「うー…」
「そんな目で睨まれても。ほら、唯の唇もちょっと荒れてるし。な?」
「むぅ…じゃあ澪ちゃんが塗って」
「…えっ!?わ、私が!?」
「じゃないとリップ塗らないもん」
「う…。わ、分かった…」
「やったぁ!じゃあ、このお花がいっぱい付いたので!」
「あ…これ…、唯が最初に見せてくれたやつだ…」
「うん!お気に入りだから澪ちゃんに塗ってもらいたいんだー」
「…っ。じゃ、じゃあ、塗るから。唯、もう少し近付いて」
「ほーい。それじゃあよろしくお願いしますっ」
「じゃあ、いくぞ(あ、目つぶるんだ…)」
「ん…」
「少し、口開けて」
「ふぁ」
「……(可愛い…)」
「…ひおはん?(澪ちゃん?)」
「あ、もういいよ口閉じても」
「ん」
「…よし、終わった。後は唇で…んぅ!?」
「んぅー」
「んんっ!?(唯の唇に私の唇が食べられてる…!?)」
「はむ、んむ…」
「んぅぅ…っ(唯の唇…柔らかい…)」
「…ぷはっ」
「んっ、はぁ…っ!」
「んー。こんなものかなー」
「はぁっ…はぁっ、な、何が…っ」
「何って、おすそわけ」
「はぁ…はぁ…、おすそ、わけ…?」
「唇荒れてるのに澪ちゃんがリップクリームいらないっていうからおすそわけしてあげたの」
「んな…っ!」
「甘かったでしょ?」
「……っ!?」
「このリップクリーム、いろんな花の蜜が入ってるんだよ。キャップに描いてあるお花の蜜全部だって。すごいよね」
「……」
「そういえば澪ちゃんは知ってた?」
「な、何を?」
「いっぱいちゅーしてる人は唇荒れないんだって。何でだろうね?」
「な…!し、知らない!」
「試してみよっか」
「……っ!」
「澪ちゃんとちゅーできる上に唇荒れないなんてお得だよね」
「唯…!んぅ…!」
「はむ」
「!?!??」
「んー」
「ぷはぁっ!ゆ、唯…いきなり…っ」
「ねぇ、澪ちゃん」
「な、何だ…?」
「私が澪ちゃんのリップクリームになるよ。そしたらリップクリーム忘れても私がいれば大丈夫だし」
「えええええっ!?」
「うん。それがいいよ!そうしよう!」
「ちょ…っ、待て待て!なんでそんなことになるんだ!?」
「え?私が澪ちゃんのリップクリームになるの、嫌?」
「い、嫌とかじゃなくて…。だって唯がいきなりキ、キス…」
「あ。そっか。さっきはいきなりだったから驚かせちゃったよね。今度からはちゃんと確認とってからにするよ」
「いやいやそうじゃなくて!」
「だいじょうぶ、色んな味があるからきっと澪ちゃんも気に入るよ」
「……っ」
「澪ちゃん」
「……ぅ」
「ね?」
「…う、ん」
こうして、唯は私のリップクリームになりました。
* * * *
―1週間後。
「はむ…ん…」
「ん、ぅ…」
「…ん。澪ちゃんの唇、全然荒れてないね。やっぱりちゅーのおかげかな」
「そう、なのかな。…うぅ、やっぱり恥ずかしいよ…」
「もー、澪ちゃんがそういうからちゃんと人のいないところでしてるでしょー?」
「そう、だけどさ…」
「むー…」
「…唸られても困るよ(そもそも恋人同士でもないのになんで唯とキス、してるんだろう…)」
「…あ!そうだ、言い忘れてた!」
「?」
「私、澪ちゃんが好きなんだ。恋人になってくださいっ」
「えええぇ!?今さら!?」
おわり。
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