れみりゃが、何時もの屈託のないすばらしい笑顔を浮かべながら街を歩いていた。
 こういうときは、何か良くない事が起こるのだろう。

 とりわけ、ありすが浮かれているのと一緒である。

「うっう〜〜♪ なkkがいいかんじだどぉ〜〜〜♪」
 普段と変わらない格好をして、普段以上のおめかしをしていると自信満々のれみりゃは、優雅に歩きながら、あっちをキョロキョロこっちをキョロキョロ。

 この日、れみりゃは始めてのお使い!! をしている最中だった。
 特に誰かに頼まれた訳ではない。
 以前、咲夜についてきたときに、少年誌を買う本物のレミリアの姿が全世界カリスマ!! だったからだ。
 ちなみに、フランドールは元のライトノベルを買っていた。

 そんな理由で、れみりゃは猛烈に買い物がしたかった。
 しかし、それはなかなか叶わない事であった。

 咲夜に、まだれみりゃ熱があった頃は、危なっかしくてそんなことはさせなかったし、完全に熱が冷めた今は、そもそも話など聞いていない。
 当然、ゆっくりといえども数十回そんな事が続けば、一回分くらいの歯カウントされるのだろう。

 つまり、我慢できなかったのである。
 出来ずにお家を飛び出し。
 寝ているホンさんの横を素通りし、屋敷の中からレミリアのもう戻ってくるなとの心の叫びに見送られ、小悪魔とフランにつけられているのだ。

「うっう〜〜♪ たまには、おじょ〜さまもおかいものをするどぉ〜〜♪」

 繰り返すが、れみりゃはそんなことは知らない。
 頭の中では、数十回の都合の良い理由が上書きされているのだ。
 その証拠に、既にお使いのおの字も出てこない。

「うっう〜〜♪ このおみせがいいどぉ〜〜♪」

 そう言って入っていったのは、何てことないスーパー。
 元は酒屋だったのだが、幻想郷でも進化の波が押し寄せ、今はスーパーになっている。

 中は、そこそこの人がいた。
 時々、ゆっくりを連れた買い物客の姿もあるが、その殆どが備え付けの声も聞こえないスーパー特製透明な箱専用カートに入れられ、欲しいお菓子を尽くスルーされている。
 ので、目に涙をいっぱいに浮かべているのだ。

「までぃさそのおかじがほしい〜〜〜!!!」
 とでも行っているのかもしれないが、生憎聞こえないので何も出来ない。
 何より、すばらしい音楽が聞けるほうがすばらしい。
「ゆふふ。やっぱりとかいはなおみせは、くらしっくがよくにあうわ!!」
 バリバリのテクノ曲である。



「うあーー♪ たべものがいっぱいだっどぉ〜〜♪」
 そんな光景いざ知らず、我が物顔で歩き回るれみりゃ。
 それはそうである。
 なんたってごーまかんのおぜうさま。
 何かあればざくやが飛んできてくれる。
 珍しく、店主である人間と、ゆっくりであるれみりゃの思考が一致した瞬間である。

「う〜〜〜〜♪ ぷっでぃ〜〜ん♪」
 子供用の籠を引きずる事も忘れないれみりゃが目をつけた食べ物に駆け寄っていく。
「うあっあ〜〜♪ うあうあ〜〜〜♪」
 ムンズとつかんで二・三パック を籠の中へ、満足げな表用をしたら次の場所へ。

「うあーー!! おざがなざんぎらいだどぉーー!!」
 触りたくもないのか、スルーしていったれみりゃ。
 この辺りが、ありすとはちがうカリスマと言うものであろう。

「う〜〜〜♪ おっかっし〜〜〜〜〜〜ぃ♪ だどぉ〜〜♪」
 目の前に、お菓子の壁が出来るお菓子コーナー。
 当然。そんなものを見せられてしまって自生できるのはれみりゃではない。

「うっう〜〜〜♪ あまあま〜〜〜♪」
 手始めにチョコレート を手にしうまうま。
 飴玉、ましゅまろ、饅頭と食べ進めてゆく。
 その顔はまさに至福のときといったような顔である。

「うあーー!! まずいーー!!」
 籠に入れてあったプリンはお気に召さなかったようである。
 名称は卵豆腐である為だろう。


「うっ? おっかいけ〜〜をわすれてたどぉ〜〜〜♪」
 突然、何を思ったかお会計と言い出した。
 ピッピと言う電子音と、沢山のお金を受け渡しする事に憧れているのだろうか。
 なんにせよ、軽い籠をうんしょうんしょスライドさせ、はるばるやってきたレジ。
 渾身の力で、台の上まで乗せた後、店主に向かって一言。
「うっう〜〜〜♪ おかいけ〜〜だどぉ〜〜♪」
 汗だくの、妙にやり遂げたような笑顔だった。


「中になりもありませんよ。詰めてませんよ」
 とでも言いたげな店主だったが、商売根性か、紅魔館のプレッシャーか、はたまたMなのか、律儀にレジを通す。

「1341円です」
 店主が、金額を告げた瞬間、れみりゃの顔が変わった。
 何か、仕掛けた悪戯に引っかかろうとしている人を見たときに顔のように。

「う〜〜♪ おつりはいらないんだどぉ〜〜♪」
 差し出した、札二枚。

「?」
 そこには、C83とE94と書かれた二枚の札だった。

「………………」
 店主が困るのは無理もない。
 ここら辺でれみりゃを飼っている家は紅魔館しか考えられない。
 そもそも、野生なら間違ってもこんな事しないだろうし、そもそも紅魔館近くに行くだろう。
 ただ、散々食い尽くされた挙句、さらにつり銭まで渡すのは悔しい。
 イヤ本当に悔しいのだろう。表情的に。


「こんにちは」
「こんにちは〜〜♪」
 そんなときに店内に入ってきたのは、例の二人。
 ニコニコしながら、店主の方へ聞こえるように会話を発する。

「ソウイエバー。イモートサマー、シッテマスカー?」
「ナニー? コァクマー」
「オヤシキ、レミリャカウコトヤメタンデスヨ〜。高貴なカリスマのあるお嬢様の醜態をさらすなどと言う生き物を、館内に入れておくのは、スカーレット家の末代までの恥!! トカイッテ〜」
「ソウダッタンダ〜。ジャアーアソコニイルノハ〜?」
「オソラク、ノラユックリか、ドコカノカイユックリデスカネー? バッジガナイヨウダシ、ノラジャナインデスカネー?」
「そーなのかー!」

 まるで、あらかじめ決めていたかのようにすらすらと会話する二人の声は、店主をはじめ近くにいた人にまでしっかりと聞こえた。


 ので。

「うっう〜〜♪ はやくおつりよこすんだどぉ〜〜♪」

「…………。お……」

「う?」

「お〜れをソンナメデミンナーー!!」

「びじょっぷぉーーー!!!」

 これは当然の反応。
 れみりゃは蹴り出され、店の外まで飛び出し、砂と傷と食べかすでボロボロになった洋服を見て泣いていた所を、またもや店主に連れ戻された。

「うあーーー!! おべべーー!! ゆいじょある、こーまがんのおべべがーーー!!!」

「んなもんあるか」
 二人の紅魔館関係者を含む、店内全員の思考である。

「だまらっしゃい!! さんざん人様のモン食い散らかしやがってこの肉まんが!!」
 こうなると、店主は止められない。止めるものなどはなっからいないが……。

「うあーーー!! ざぐやーーー!! こわいひどがいるどーーー!!!! うあーー!!!」
 基本的になき落としのれみりゃ、ただ、まりさが生きる為にすたこらさっさと逃げるのと同様、受けはよろしくない。

「うるせえってんだー!! キンダーチョコレート!!」
 泣いている、れみりゃの口を黙らせるように、蹴りを一発。
「んーー!! んーーーーー!!」
 歯が全て折れてしまったが、その内再生するので気にはしないだろう。
 店主も、好き好んで虐待したいわけではない。
 ただ、食い逃げ犯として捌けない以上、他の方法を取らざるを得ないのは仕方がないことである。

「う? うあーー? うあーーー!!」
 腐っても、酒屋。
 ケースに入った空瓶が店の横に並べられた一角。
 そこまでれみりゃを引っ張ってきた男は、おもむろに一分のスキマを開け、そこにれみりゃを放り込む。

「うーー!! せまいおうじだどぉーーー!!」
 既に、歯は再生しているのか、不満たらたらの文句を言い放つれみりゃ。


「う? うあーー!! だじでーー!! だぜーー!!」
 日本酒のケースの上に、ビールケースを乗せて完全に囲った後、云々と頷きその場を後にする。
 そこそこ繁盛している店は、既に次の会計者がいるのだ。

「うあーー!! だじでーー!! おうちがえるーーー!!!」

 いくら泣いても、れみりゃはそこから出る事は出来なかった。
 気が付くと夕刻。
 そういえば、今日の夕飯は何だろう?
 れいむ?
 まりさ?
 久し振りに、ハヤリーバーチュー?
 おなかがすいたから早く帰ろう。

 そう思い立ったれみりゃと、頑丈なバリケードが解かれたのは同時だった。

「うーー♪ おうちかえどぅーー♪」
 テコテコ、歩き出すれみりゃを捕まえる店主。
「う? おくってるれるんだどぉ〜〜〜♪」
 そのまま、店内へは入らず、店の入り口で止まる。
 そこには、先ほどまでなかった金属製の物体があった。
 ピラミッドの形をしている、大きな物体。
 一箇所に多少大きな穴が開いていて、頂点の部分は採光のためか透明になっている。
 そして、でかでかとした文字でコウ書いてある。
「生ゴミどうぞこの中へ。みんなのアイドル可愛いれみりゃちゃんが無料で処分してあげます」
 れみりゃにその文字は読めないので、首をかしげているが、そんなことは関係ない。
 店主はそのまま上部を開け、そこかられみりゃを中に投げ入れ、また厳重に締めなおした。

「まっくらだどぉーー!! せまいどぉーー!!」
 最初のうちは、訝しげな様子だったれみりゃだが、状況が理解できてくると、途端に大声で泣き出し始めた。

「おーいれみりゃ。良いこと教えてあげるよ」
「うあ? いいごどぉ〜〜〜?」
 良いこと、と聞いて、泣き声をあげることは止まった。
 それでも、涙は止まらないのは女の子であるからではないだろうが。
「そうそう。そこに入ってれば、毎日食べ物が食べられるよ」
「ほんどぉ〜〜にぃ〜〜〜〜い?」
「もちろんさ」
「う〜〜!! たべものだっどぉ〜〜〜♪」
 それを聞いて、すっかり機嫌が直ったれみりゃは、狭い空間の中でひっしにダンスを踊っているようだ。
「今から入れるから、しっかり食べるんだよ!!」
「うっう〜〜〜♪ れ☆み☆りゃ☆う〜♪」
 笑顔の顔面に降り注いだのは、俗に言う残飯ドイ割れるものである。
 特に、悪臭を放っている訳ではないが、残飯特有の感触がれみりゃの体中を、駆け巡る。
「うあーー!! きだないどぉーー!!」
 結果、絶叫。
「うあーー!! こんなのいらないどぉーー!! ぽいっ!! ぽいっするどぉーーー!!!」
 捨てたくても捨てる場所はない。
 ただただ自分の手と、既に汚れている服をさらに汚くするだけだ。
「これからは、毎日それだけだからな。しっかり食べないと、ドンドン溜まってくさ〜〜〜くなっちゃうぞ!!」
「いやだーーー!!! ぷっでぃ〜〜〜んもってくるんだどぉーーーーーー!!!!!」
 れみりゃの声を無視して、店主は店の奥へと入っていった。


 今日は、ちょっと早めの店じまい。
 それには、理由があった。
 れみりゃを閉じ込めた後、小悪魔がれみりゃの分のお金を払ったときの事。
「すばらしいものを見せていただいたお礼です」
 よく意味は分からなかったが、取り合えず、お金はいただいた店主。商売人である。
「ところで、あの二枚のサイズは?」
 ついでに変態である。
「レミリアスカーレットお嬢さまと、ルーミアさんです」
 この時点で、店主はその日の夕飯はとびっきりの酒で祝杯と決めたのだ。



 翌日から、店主の店は以前より繁盛する事になった。
 特に、残飯を捨てに来た主婦がちょっと買い物をしていったり、ゆっくりを連れた客が多くなったり、会計の際、友を見つけたような顔をするようになったり。
「うあーー!! くさいどーー!! もういらないどぉーー!!」
 れみりゃは、発酵してきた残飯を涙ながらに食べていた。
 最初の数日間は、それこそ殆ど手もつけなかったが、発酵し、匂いを発してくると、仕方がなしに食べ始めた。
 それでも、評判を聞きつけドンドン捨てる人は多くなってくる。
 次第に、れみりゃの食べるペースも上がってくる。
 お上品をモットーにするれみりゃでは、すでに限界に近かった。
「う〜〜♪ こんなにたべられないんだどぉ〜〜♪ もういらないんだどぉ〜〜♪」
 そんな風に可愛がってみた日もあったが、その日は同じ人が二度三度入れに来た。
 当然、れみりゃは多くの残飯を処理する事になった。
「うあーー!! さぐやーー!!! たすけるんだどぉーーーー!!!!!」
 食べても食べても減らない夢のような生活の中で、れみりゃは泣きながら嘗ての飼い主の名前を呼んでいた。
 当の飼い主が買い物に訪れる事もあったが、家でもやってみようかしら、と考えただけでその場を後にした。
 後に、当主その他に本気で止められた。

「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」
 それでも、店主はいつも通り仕事を続けるのであった。

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最終更新:2022年05月21日 23:00