私の名は喪黒福造、人呼んで笑うセールスマン。
ただのセールスマンじゃございません。
私の取り扱う品物は心、人間の心でございます。
この世は老いも若きも、男も女も、心の寂しい人ばかりそんな皆さんの心の隙間をお埋め致します。
いえ、お金は一銭も頂きません、お客様が満足されたらそれが何よりの報酬でございます。
さて今日のお客様は……
鬼井三也(17) 男子高校生
「お帰りなさいませぇ、ご主人様♪」
三也はここ秋葉原のメイド喫茶で働く男の子。
名前に似合わず、高い声質と中性的な容姿を持っていたので、同級生のオタク女子から紹介されて入ってきた。
「鬼井さーん、3番のテーブルにお客さん入りました!」
「はーい!」
呼ばれると三番のテーブルには全身黒のスーツに身を包んだ中年の男が座っていた。その上大きな口と不気味な笑顔がをドキッとさせる。
「まりさの活け造りパフェを良く虐げて持ってきてください。砂糖アリアリで」
「は、はぁ……(きめぇよ顔自重)、かしこまりました」
まるでニコニコ動画にコメントを書き込むようなことを思いながら、注文を取った。
出来上がったを男の席に運ぶ、早くこんな仕事終わらせたい、だが
「うわっ!」
うっかり自分の足につまずき、宙を舞うまりさの器は男のスーツを直撃した。
「す、すみません! ついうっかり!!」
「いやいや、いいんですよ、クリーニングに出せば済むことですから」
男はハンカチで汚れた部分を拭きながら、いや、そぎ落としながら三也に向かってにぃっと愛想笑いをした。
翌日、三也は教室でうなだれていた。
ソレを言うのも昨日の一件でメイド喫茶をクビになった上に、メイド喫茶で働いていたことがバレてしまったのだ。
「マジでメイドやってたのかよ!? マジきめぇ! ギャハハハハハハ!」
「おぉ、きめぇきめぇ」
「てめぇら……」
最近は三也にとって安心できる場所は無い。
この二人――怜史と崇人(れいし と すうと)は最近三也に冷たく当たっている。テキサス気質の不良ユニットで同性愛やオカマ、なよなよした男という存在を許さないのだ。例えるならば、ゆっくりできないと言って、レイプされて出来た子どもを殺した親を制裁するゲスどもと同類なのだ。
最近は慰めてくれる友人も分が悪すぎる、といって助けてくれない。そうこうしているうちに絶望の一日が終わった。
「今日は本当に疲れた、どうしようか……」
「おやぁ? 随分とお疲れのようですなぁ? 鬼井さん……」
「うわっ! 昨日喫茶店に来ていたおじさん!」
どこから来たというのだろうか?突然後ろから声をかけられた。そう、昨日喫茶店に来ていた黒服の男。
「ここではなんですからどこかでお話しましょうか……」
「あの、俺はお酒飲めないので……」
「わかってますよ、マスター。コールドれいむジュースをこの方に……」
「あ、あのぉ? おじさんは一体何者ですか?」
「失礼、自己紹介がまだでしたね、私こういう者と申します」
「心の隙間……お埋めします? 喪黒福造……」
「あなた、心に悩みがあるのではないですか?」
「えっと……これって?」
三也は喪黒から受け取った物体を見つめる。
三日月形のプラスチックで出来た物体――小学校女子がつけているアレだ、どう見てもカチューシャです。
「あなたは現実世界から逃げたいと思っているのでしょう? これを付けて念じれば、その世界があなたの現実となるのですよ」
「…………」
三也は押し黙ってしまう。
この男は一体何を言っているのか?
ひょっとしてひょっとしなくても外見通りの危ない人なのだろうか?
「あの、スイマセンけどお受け取りできません……俺お金持ってなくて」
「イエイエ、御代は結構ですよ。もし試してみて気に入らなければすぐにでも返品していただければ結構です──」
その夜──
「……」
何時の間に帰宅していたんだろう?
ありのままに今起こった事を話せば、喪黒から話を聞いたと思ったら自宅にワープしていた……
何を言っているのか分からないと思うが、三也にも何が起こったのかわからない。
催眠術とか幻覚だとかそんなチャチなものでは断じて(ry
気がついたら三也は机に座り、喪黒から受け取ったカチューシャを見つめている。
「まさか、だよね」
先ほどの喪黒の説明を思い出す。
いくらなんでも非現実的すぎる、きっと何か上手い事を言って大金を騙し取る商法だろう。
だったらさっさとクーリングオフするべきだ。
そう思ってはいたが、何故か三也は喪黒の言った事を行動で否定する事ができないでいた。(でもどうせだし、一回だけ)
(やだな、俺、期待しちゃってるのかなぁ?)
もしかしたらこの辛い現実世界から虐待SSのお兄さんみたいに仲間がたくさんいる世界にいけるのかもしれない。
三也は頭に被った────
「さあ、ゆっくりどもを虐待に行くぜ! ヒャッハー!」
三也は目の前の事が信じられなかった。
気がつけば校舎内、だがいつもの教室とは違うのだ。
そして目の前に居るのは────!
「虐待お兄さん……」
顔には鉄化面、金色のモヒカン刈り、アメフトのプロテクターを着込み、手斧を持つその姿は虐待SSでよく見る虐待お兄さんだった。
「いくぜ三也。今日こそ、どすを狩るんだ!」
そこでの虐待は……まぁ口で細かく説明するのは省くとしよう。
オーソドックスにゆっくりの巣を攻撃して親の「どぼじでぞんなごどをずるのおおお!」を聞くもよし、
虐待後は甘いゆっくりをお兄さんと味わうもよし、
エサで釣ってゆっくり姉妹を殺し合わせるもよし、
とにかく、三也も憧れていた非日常がそこにはあったのだ。
(ずっと……ここに居たいなあー)
本当にそう思えるほど夢のような日常。だが……夢もいずれは終わりが来る。
三也が目覚めるとすでに部屋には朝日が差していた。
現在午前7時前後……学校に行かなくては。いつもだったら憂鬱になるこの時間も、今ばかりは小躍りしたい気分になる
(やっぱり……やっぱり本物だったんだ!)
三也はそのカチューシャをゆっくり虐待カチューシャ、略してゆチューシャと名づけた。
その日、相変わらず怜史や崇人にはイジメられ、時には反撃で退かせるような善戦を繰り広げるときもあった。孤軍奮闘の割には戦績は良い。撃退して勝つ率は40%だ。
善戦を見るや、友人もよりを戻してくれた。もはや敵などいない。三也はあまり暗い顔はしなくなった。
「今更イジめなんて流行んないよ」
その言葉に気を悪くしたのか、二人からの暴力的なイジメも加わったがやはり顔はいつもの和み顔になっている。
いくら現実がつらくても、ポケットに忍ばせているあのゆチューシャがある……。
泣きたくなった時にはトイレへ駆け込んでスイッチを押せばすぐに虐待の世界へ旅立てるのだから……。
「いやーおかげで助かっちゃってるよ喪黒さん」
「それはそれは嬉しい限りで」
明くる日、喪黒と三也は同じバーで話している。
自分の渡した品物が気に入ってくれたかどうかを態々聞きに来てくれたのだ。
男子トイレで背後から突然現れるというのはどうかと思うのだが……細かいことは気にしないで置いた。
「この前なんかはゆっくりに脅かされる村の救世主になっちゃってさー。でも驚いたねえ、相方が俺の親友になったってんだもん」
ドスが怜史になっていたのは思う存分殴れて嬉しかったが、そこでちょっと疑問に思った事がある。
だがそれを口に出す前に、まるで予め分かっていたかのように喪黒は答えてくれた。
「ええ、これはあなたの思考からあなたが望む人物を選抜して配役してくれるんですよ。
もし使う人が望んでいなければ↓のような姿で出てきてくれるんですが……」
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「つまり脳ミソを探られちゃってるって事? なんか怖いねぇ」
コップに注がれたジュースを一口飲んで話を中断する。
「ああ、三也さん。こちらの商品を満足していただけたのは大変結構……」
「うん、喪黒さんのおかげで毎日が楽しみだよ。だけどホントにタダでいいの? こんなにすごいのが……」
「勿論ですよ、最初に言いましたからね。 ただし!」
喪黒の口調が突然強くなる。
「夢の世界に浸るのは大変結構です。でもあなたは飽く迄作られた世界に飛び立ってるんですからね?」
妙な威圧感に三也は首をコクコク揺らす。
「絶対にその世界を大きく壊すような行動を取らないでくださいよ? なぁに、ようするにSSやマンガの範疇からあんまり外れないでくださいと言う事です。例えば、幼稚園児を胴付きれみりゃに見立てて殺すとか……そうなったら台無しでしょ?」
「アハ、大丈夫だって。そんな事しないよ~」
ゆっくりばりの媚びポーズで喪黒をドン引きさせた。
「ふぁっくゆ~、ゆ~まざふぁっか~、あいるきるゆ~♪」
今日も三也はパソコンを開いて虐待SSを読み漁り、インスピレーションを高める。
ここ最近ずっと学校をサボりっぱなしだが、そんな事はもうどうでも良かった。
これから更に新しい世界を体感できるのだと思うと心が沸き立ってくるのだ。
今日読んだSSの内容は、悪魔に魂を売った残酷な主人公がゆっくりを容赦無く殺していくと言う内容だった。
まだ詳しいストーリーはしらないが、まぁ普通にやっていけばストーリーを大きく壊す事は無いだろうと思う。
三也はゆチューシャを被った。
最初に予想したとおり、ゲスゆっくりには怜史や崇人、そして自分を少しでも苛めたDQNを模したゆっくりが大量に出てくる。
命乞いする彼らをいたぶって同じ顔をした子どもまで殺す……現実世界では無いのだからやりたい放題だ。
そしてストーリー通り、三也はドスの間にたどり着く。
恨みのあるゆっくりは途中で殺してしまった……となるとボスは誰かと思っていたのだが……。
「お前が!?」
そこに居たのは金色の髪に黒い魔法使いの帽子を被った三也の親友の顔だった。
多分本来はドスまりさで、今のままの姿なのだろう。
(な、なぜだ……俺、あいつと戦うなんて……望んでないのに!?)
ドスは地を揺るがす咆哮を上げ、三也に真っ直ぐ向かってくる。
「ま、待ってくれ! 駄目だぁぁぁぁぁぁ!」
グチャッ
「ね、ねぇ! しっかりしてよ、ねえってば!」
虐待SSのドスという事で弱めに設定されていたのだろう。
日本刀を振るっただけで、ドス親友はアッサリと倒れてしまった。
確か最後まで読んだ内容によれば、このドスをいたぶらねばならない
──虐待SSの世界を大きく壊さないでくださいよ?
喪黒との約束が耳に蘇る。
やらなければ……きっと自分は恐ろしい目に会う。
本能でそれを探知していのだが……。
「駄目だ……できないよ……」
三也は剣を落とし、虫の息となった親友を抱きかかえる。
気弱で怜史と崇人を怖がって、自分に協力してくれなかったときもあった。
しかし、今までの思い出を振り返れば大切な友人なのだ。殺せるはずがない。
「大好きなこいつを殺すなんて……絶対いやだ……いやだぁぁぁぁぁぁ!」
「も、喪黒さん!!」
「三也さん、あなたは約束を守りませんでしたね~」
「や、約束って・・・・」
「あなたは虐待SSの世界観に則らずに、ドスを寛大に見た」
「ちょ、ちょっと待ってよ、だ、だって・・・・・」
「亡国の主など処刑せねばならないのです。あなたがしていることはSS改変にも似た重罪なのですよ」
すると喪黒は引きつっている三也の額に指をあてがい、大声で叫んだ・・・
「どーーーーーーーーん!!!」
「うわああああああああああああああああああああああああ――」
翌日、閑静な住宅街に立つ一軒の家、そこには大勢の人が詰め掛けていた、そして大量のパトカーと慌しく動く警察官
「酷い・・・これは即死ですね・・」
そこに横たわっていたのは虐待お兄さんのコスプレをした三也、だが既に彼の瞳には光を感じない
もはやそれは肉塊だった。彼の頭部から流れる夥しい量の血、それは金色のモヒカンを真っ赤に染め上げていた・・・
「なんでも『I can fly!』と叫んで飛んだそうだぜ」
「カマの上にバカかよ。本当に救いがたいなぁ。ギャハハハハハハハ!」
それを笑いながら眺めていた二人の男子高生が野次馬の中にいたことは誰も知らない
「全く虐待もいいですが、現実を忘れるくらいハマるのもどうかと思いますねぇ~
三也さんもそれに気付いて現実に立ち向かっていたらこんなことにはならなかったんです。
皆さんも気をつけて下さいね、おーっほっほっほ・・・・・」
最終更新:2022年05月22日 10:38