「ゆうぅ・・・・・・ゆぐっ・・・・・・ゆぅぅぅ・・・・・」

お歌を歌い終え、力無く泣いているまりさに、女がいつものように
オレンジジュースと水溶き小麦粉で補修を施している。

お歌が終わった後は、透明な箱に戻され、
お歌を歌わなかった子のご飯とは違う、
少し美味しいご飯とあまあまを与えられ、それでお終い。
お姉さんが部屋から出ていき、部屋は元の真っ暗闇。

だが、今日はそれが違っていた。

女は補修を終えたまりさを抱えて、再びソファに腰を下ろした。

「ゆ・・・・・?」

今日二度目の、いつもと違う事に、まりさがまだ涙を流したまま、
お姉さんの顔を見上げる。
その瞳に、お姉さんの優しい笑顔が写る。
まりさに向かって、お姉さんが口を開いた。

「ねえ、まりさ。まりさ、赤ちゃんを産みたくない?」

「ゆ・・・・・あか・・・ちゃん・・・・・・」

赤ちゃん。
小さくて、可愛くて、とってもゆっくりできる、ゆっくりの赤ちゃん。
まりさの妹のれいむも、とっても可愛くて、ゆっくりできた。
赤ちゃんがいれば、ここの苦しくて痛くて、ゆっくりできない生活も、
少しはゆっくりできるかも。

ううん、きっと、ゆっくりとした、可愛い赤ちゃんを見れば、
お姉さんも、ゆっくりしてくれるかもしれない。
そうだ。きっとそうだ。そうに決まっている。
そして、昔の、優しいお姉さんに戻ってくれる。
赤ちゃんと、お姉さんと、まりさで、いっぱい、いっぱい、ゆっくりできる。

「ゆっ!!ほしいよ!!まりさ、あかちゃんほしいよ!!!
 うみたい!!あかちゃん、うみたい!!!」

何度も裏切られたであろうに、垂らされた細い糸に縋ろうと、
必死で懇願をするまりさ。

「そう。じゃあ、行きましょうか。」

柔らかい笑顔でそう応えて、お姉さんがまりさを抱えて立ち上がり、歩き出す。
いつもの、壁の透明な箱にではなく、入り口の扉に向かって。

その光景に、部屋の他のゆっくり達がざわめく。
声を出すことなく、空気がざわめく。

羨むような視線で、まりさを目で追ってゆくもの、
選ばれたのが自分ではなかった事を悔やみ、落胆の表情を見せているもの、
どこか安堵を浮かべた表情でまりさをみつめているもの、
まりさに向かって人をも殺せそうな嫉妬の視線を送るもの、
ただ虚空を見つめているもの。

「・・・ゆっ!!まりさなんかより、れいむをたすけてね!!
 れいむはこそだてとくいだよ!!
 まりさなんかより、ずっとずっと、かわいいあかちゃんうむよ!!」

耐えきれず、一匹のれいむが声を張り上げた。
禁を犯して。
女がそのれいむの方を振り返る。
その顔には、まりさに向けていた笑顔は貼り付いていない。

「ゆひぃっっ・・?!」

向けられた、魂すらも凍えそうな冷たい視線に、
れいむは己が取り返しのつかない過ちを犯したことを知った。


こうして、まりさは、"仲間"達からの様々な視線に見送られ、
数ヶ月ぶりに、その部屋の外に出た。

--------------------------------

「ゆっ!まりさ、がんばって、かわいいあかちゃんうむよ!」

誰もいない部屋で、一人楽しそうに笑顔を浮かべながら、
まりさが語っている。

ゆっくりできない部屋から出されたまりさは、
昔、お姉さんによく遊んでもらったお部屋に連れてこられた。

「お姉さん、少し出かけてくるから留守番しててね。」
「ゆん!まりさ、いいこでまってるよ!おねえさん!!」

そう言って外出したお姉さんの帰りをそわそわとしながら待つ。


しばらくすると、お姉さんが戻ってきた。

「ただいま~ごめんね、まりさ、待ちくたびれちゃった?」
「ゆゆん!だいじょうぶだよ!まりさ、いいこで・・・ゆっ!?ゆゆぅ~!!」

お姉さんが抱えていた、成体のれいむに、まりさは目を奪われる。
どこかの飼いゆっくりか、或いは、ペット用として売られているものか、
きちんとした身なりをした、とても綺麗な美れいむであった。

「まりさのお友達になってくれる、れいむよ。仲良くしてあげてね。」

微笑みながら、お姉さんが、れいむをまりさの横に置く。

「「ゆっくりしていってね!!」」

二匹が同時に挨拶を交わす。

「ゆぅぅ~~!れいむはとってもゆっくりしてるね!!」
「ゆっ!まりさもゆっくりしてるよ!!」

お姉さんは、仲良く会話を始めた二匹に美味しいあまあまを出してくれた後、
二匹を残して部屋から出て行った。



「れいむ゛ぅぅぅぅぅ!!!まりざ、ずっぎりじぢゃうぅぅぅ!!!」
「まりざぁぁっ!!れいむ゛ぼっ!!れいむ゛もぉぉぉぉぉぉ!!」
「「すっきりぃぃぃぃぃーーーー!!!!!!!!!」」

お互いの事を気に入って楽しそうにはしゃいでいた二匹であったが、
やがて、あまあまに混ぜてあった少量のゆっくり用媚薬の効果もあり、
いい雰囲気になって、すっきりを交わした。

目論み通り、にょきにょきと、
まりさの帽子を押し上げて蔦が伸びるのを確認してから、
女はその光景を覗いていた扉の隙間を閉じた。

--------------------------------

「ゆぅん・・・・・・ゆ・・・・ゆっ!?れいむは?」

部屋の窓から差し込む赤い夕日の中で、
すっきりーの疲れから眠りに落ちていたまりさが目を覚まし、
パートナーとなったれいむの姿を探して、辺りを見回す。
だが、その部屋にいるのは、お姉さんと、まりさだけだった。

「ゆ・・・おねえさん・・・・」
「あら?まりさ、起きたの?ゆっくり眠れた?」
「うん・・・ねえ、れいむは・・・?」
「れいむはね、初めて来るお家で、緊張して疲れちゃったみたいだから、
 他の部屋で眠ってるわ。明日には起きてくるんじゃないかしら?」
「ゆっ?そうなの?」
「ええ、そうよ。・・・まりさの赤ちゃん、早く生まれてくるといいわね。」

お姉さんが、そう言って、まりさの頭から生えた蔦を
ちょんと突いて揺らす。

「ゆ・・・ゆゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・!!!!」

その言葉に初めて、新たな命を得た、まりさの赤ちゃん、
実ゆっくりの存在に気づく。
まだ、完全なゆっくりの形を形成しきっていないが、
目や口らしき物ができはじめている。
それが、10匹。

「ゆぅぅぅぅ・・・!!まりさのあかちゃん!!かわいいよぉぉぉ・・・
 あかちゃんたち!!ゆっくりうまれてね!!!」

顔ができあがっていない実ゆっくりでも、赤ちゃんの顔の判別がつくのか、
嬉しそうに、まりさがはしゃぐ。
勿論、まだお口が完全にできていない実ゆっくり達は、返事を返さないが、
それでも微かに笑っているように見えた。

「おねえさん!みて!みて!まりさのあかちゃんだよ!!
 とってもかわいいよぉぉ!!」
「そうね。とてもゆっくりとした可愛い赤ちゃんね・・・
 見てるだけで、お姉さんもゆっくりしてきちゃう。」

お姉さんの優しい微笑みに、
まりさの今までの辛く、苦しい思い出が洗い流されてゆく。

とっても痛かったけど、とっても苦しかったけど、
でも、もう忘れよう。
お姉さんは、やっぱり、優しいお姉さんだった。
昔の優しいお姉さんに戻ってくれた。
これからは、皆でゆっくりしよう。
お姉さんと、赤ちゃん達と、れいむと。

ポロポロと、辛い記憶と共に、まりさの目から涙が流れ落ちる。


「・・・まりさ、お腹空いたでしょ?晩ご飯、何が食べたい?
 何でも好きな物作ってあげる。」

「ゆ・・・ゆぅぅ・・・・!ゆぐっ・・・!まりさ、しちゅーがたべたい!!
 おねえさんがつくってくれた、
 あったかい、しちゅーがたべたいよぉぉ・・・!!」

まりさが泣きながら、そう答える。

初めてこのお家に来たとき、お姉さんが食べさせてくれた、
とてもおいしくて、冷え切った餡子があったかくなった「しちゅー」。
今の季節は既に春。
ポカポカと暖かい日だったが、
辛く苦しい地獄のような生活を送っていたまりさの心は、
その温かいご馳走を何よりも渇望した。

「はいはい、シチューね。いいわよ。お姉さん、腕によりをかけて作るわね。」


その晩は、まりさは、お姉さんと一緒に
暖かくて美味しい「しちゅー」を一杯食べ、
デザートの、甘くて美味しい餡蜜を食べ、
それから、可愛い赤ちゃんを一緒に眺めたり、呼びかけたりしながら過ごし、
やがて、幸せな眠りに落ちていった。

--------------------------------

翌日の昼近く、まりさが目を覚ます。

「ゆぅん・・・・・ゆっ!ゆっくりおきたよ!!」

そして、頭上の赤ちゃん達を見やる。
親の栄養が十分に伝わり、すくすくと大きく育った、実ゆっくり達。
既に目も口も飾りもしっかりと形成されている。
赤れいむが5匹に、赤まりさが5匹。
もう程なく、生まれ落ちることだろう。

「ゆぅ・・・まりさのあかちゃん・・・!まちどおしいよぉぉ・・・!」

芽生えたばかりの母性に満ちた瞳で赤ゆっくりを見つめる。

その時、部屋の扉が開いて、お姉さんが入ってきた。

「まりさ、おはよう。もう起きた?」
「ゆっ!おねえさん、おはよう!!ゆっくりしていってね!」
「はい。ゆっくりしていってね。」

まりさに返事をしてから、赤ゆっくりに視線を移す。

「あら・・・もう少しで産まれそうね。急がなきゃ・・・」

そう呟くと、慌ただしく部屋を出て行ってしまった。

「ゆ・・・・・?」

少し寂しそうに疑問の表情を浮かべたまりさだったが、
すぐにお姉さんは戻ってきた。
何かの道具が入った箱を持って。


「ゆぅぅぅ・・・・・おねえさん、まりさのあかちゃんになにしてるの・・・?」

少しだけ不安そうな声色で、まりさがお姉さんに疑問の声を投げかける。

「これはね、赤ちゃんの体をとっても丈夫にしてくれるお薬なのよ。
 赤ちゃんのお体はとっても弱いでしょ?
 でも、このお薬を塗ると、赤ちゃんの体が頑丈になって、
 簡単には、傷ついて餡子を出しちゃったりしなくなるのよ。」

お姉さんは、まだ茎に繋がった実ゆっくりを、一匹一匹、順番に
透明な液体の入った小さなコップに浸している。
その粘性の高いドロリとした液体が、実ゆっくりの肌に厚い層を形作る。

「ゆぅぅぅ・・・!じょうぶにぃ・・・!?すごい!?すごいね!!お姉さん!」

お姉さんの作業を邪魔しないよう、嬉しくて飛び跳ねたい気持ちを抑えて、
プルプル震えながら、まりさがはしゃぐ。

「そう。凄いでしょう。
 これはね、死んじゃったお姉さんのお友達のお兄さんが考えてくれたのよ。」

今度は、ドロリとした液体に包まれた実ゆっくりを、別のコップに浸す。
すると、たちまちドロリとした液体は硬化を始め、
実ゆっくりをすっぽりと包んだ状態で固まった。

「ゆぅぅ・・・そうなんだぁ・・・!
 きっと、そのおにいさんは、あかちゃんがだいすきだったんだね!!」

「ふふふ・・・ええ、そうね。とっても赤ちゃんゆっくりが大好きだったわ。」

お姉さんは、さも可笑しそうに笑った。

女は何一つ嘘は言っていない。
男は赤ちゃんゆっくりが大好きだった。
赤ちゃんゆっくりを潰すのが大好きだった。
己の命と引き替えにする程にまで。

その男が、己の欲求を満足させるために考えた虐待方法。
赤ゆを弾力性のあるゴムで包み込み、
力一杯踏み潰しても容易にゆっくりの命の源である餡子を漏らさないようにする。
踏み潰され、体がひしゃげ、たわむ、
その苦しさに悲鳴をあげる赤ゆっくりの命を奪うことなく、
何度も何度も踏み潰して悲鳴を聞く事を繰り返せるように。

男の亡骸の周りに散らばっていた、ゴムで包まれた無数の
赤ゆっくりの死骸から、虐待仲間達は、男がやっていたであろう、
その虐待の内容を知ることになった。
そして、男の死出の旅立ちを送るため、仲間達は、銘々、
ゴムで包んだ赤ゆを用意することを申し合わせていたのだ。

だから、女は、このまりさの赤ゆを男に送ることにした。
男が何らかの関わりを持ったであろう一家の、このまりさの赤ちゃんを。

--------------------------------

「ゆぅん♪ゆゆ~ん♪まりさのあかちゃん♪」

それから、まりさは、一時間ほど、赤ゆっくりを嬉しそうに眺めていた。
不意に、一匹の赤まりさが、閉じていた目を初めて開いた。

「ゅ・・・ゆっきゅりしてっちぇにぇ!!」

母であるまりさの姿を目にすると、元気良く、
最初のゆっくりしていってね!を口にする。

「ゆぅぅ・・・あかちゃぁん・・・!ゆっくりしていってね!!」

初めての赤ちゃんの誕生に、感動に身を震わせながら、
まりさがご挨拶を返す。

本来なら、蔦から落ちた後で、喋り始めることが多い赤ゆっくりであるが、
この赤ちゃん達の場合、蔦の付け根の部分まで、
ゴムで覆われ、しっかりと蔦に固定された状態だったため、
蔦から落ちることができなかったのだ。

赤まりさと母まりさの声に反応するかのように、
他の赤ゆっくり達も次々に目を開ける。

「ゆっきゅりしちぇっちぇね!!」
「ゆっきゅりしてっちぇね!!」
「ゆっきゅりしちぇっちぇにぇ!!」

母まりさとご挨拶を交わしてゆく、赤ゆっくり達。

すぐに部屋の中は、
ゆ~♪、おきゃーしゃん♪、ゆんゆん♪、ゆっきゅりしてっちぇにぇ♪
と言った、赤ゆの声で賑やかになる。


「まりさー・・・あら?生まれたのね?」

部屋に戻ってきたお姉さんが、赤ゆっくりの声に気づく。

「ゆっ!うまれたよ!みんな、げんきなあかちゃんだよ!
 あかちゃんたち!まりさのおねえさんに、げんきよくあいさつしてね!!」

「「「おねえしゃん!ゆっきゅりしてっちぇにぇ!!」」」

綺麗に揃った、ご挨拶をする赤ゆっくり達。
お母さんよりも大きな、人間のお姉さんをゆわわぁぁぁ~♪と
瞳を煌めかせながら見上げている。

「ふふふ、ゆっくりしていってね。」

お姉さんも笑顔で答える。
そして、赤ちゃんが繋がったままのまりさを、ひょいと抱え上げた。

「ゆ?」
「まりさ、お姉さんと一緒にお出かけしましょう。赤ちゃん達も一緒よ。」

「ゆ・・・おでかけ・・・・ゆっ!おそとにいくの!?
 まりさ、おでけかするよ!あかちゃんたちも、おでかけしようね!」

この家に来て以来、一度も外に出された事が無かったまりさが喜びの声を上げる。

「ゆぅ~・・・おじぇかけ・・・?」
「そうだよ!おそとにいくんだよ!
 おそとはとってもひろくて、ゆっくりできるよ!」
「ゆゅ!ゆっきゅりできりゅのぉ~?!」
「れいみゅも!れいみゅもおじぇかけしゅるよ!」
「ゆゆん♪おかあしゃんとおじぇかけぇ♪」

赤ゆっくり達も、まだ見ぬお外の光景にそれぞれに夢を膨らませて、はしゃぐ。


「ゆゆ?」

お出かけのため、玄関口で靴を履いているお姉さんの姿が
いつもと違うことにまりさが気づく。

「ゆっ・・・!おねえさんのおようふく、まりさとおそろいだね!!」

「え・・・おそろい・・・?ああ、ホントね。お揃いね。」

一瞬疑問の声を上げたお姉さんだが、すぐにまりさの言わんとしている事に気づく。
自分の黒いお帽子とお揃いの黒いお洋服、ワンピースの喪服、に身を包んだ、
いつもよりもちょっと綺麗なお姉さんを、
まりさはキラキラと賞賛と憧れが籠もった目で見上げている。

「さあ、行きましょうか。まりさ。」
「ゆぅん♪おでかけ♪おねえさんとおそろいでおでかけ♪」

靴を履き終えたお姉さんに抱きかかえられ、
まりさは子ゆっくりのように嬉しそうにはしゃいでいた。

--------------------------------

遠くに見える雄大な山々、
どこまでも広がる青い空とふわふわと浮かぶ白い雲、
一面に広がる緑の田畑。

そんな光景を眺めながら、まりさと赤ゆっくり達は、
ゆんゆん♪と賑やかに談笑しながら、お姉さんに抱かれて行った。


そして、目的地、葬儀場に辿り着く。

そこにいたのは、お姉さんと同じ黒の喪服に身を包んだ男女。
その顔は、皆一様に、悲しみに包まれている。

「ゆぅ・・・みんな、ゆっくりしてないね・・・どうしたのかな・・・?」

人間達の悲しみが伝染したか、まりさも少し悲しそうにお姉さんに尋ねる。

「・・・ここはね、死んじゃったお兄さんをお見送りする所なの。
 だから、みんな、お兄さんの事を思い出して悲しい気持ちになっているのよ。」

そう答えるお姉さんの表情も、どこか悲しそうであった。

「ゆぅん・・・・・・」
「だから、まりさもちょっとの間だけ、静かにしててね。赤ちゃん達もね。」
「ゆっ!まりさ、ゆっくり、りかいしたよ!
 あかちゃんたちも、しー、だよ!」
「「「ちー、ぢゃよ!!」」」

漠然とだが、死者への追悼の気持ちを感じ取ったか、
素直に言うことを聞くまりさ。
赤ゆっくり達は、流石に理解できていないだろうが、
素直な赤ゆっくり達なので、お母さんの言いつけをしっかり守ろうとする。

--------------------------------

控えの間で葬儀が始まるの待っている間、
まりさは、お姉さんの膝の上に抱かれていた。

不謹慎かもしれないと思ったが、まりさは幸せを噛みしめていた。
お姉さんが、優しいお姉さんに戻ってくれたことが。
可愛い赤ちゃんができたことが。
まりさは、幸せの絶頂にあった。

だから、お姉さんが、ハンドバッグから、針と糸を取り出した時も、
その様子を楽しそうに眺めていた。

それで、まりさのお口を縫い合わせ始めた時も、
痛かったけど、じっと我慢していた。

いたいよぉ・・・おねえさん。
そんなことしなくても、まりさ、ちゃんとしずかにしてるよ!
まりさはいいこだよ!まりさ、もう、おかあさんなんだもん!

少し涙が出てしまったけど、それでも、まりさはにこにこしていた。
そうしていないと、今の幸せが逃げてしまうような気がして。
お口を完全に縫いつけられるまで、にこにこしていた。

--------------------------------

やがて葬儀が始まる。
時折、人々の嗚咽が流れる、しめやかな空気の中、厳かに儀式は進んでゆく。

そして、納棺。

席を立ち、棺に向かって歩くお姉さんに抱えられたまりさ。

目の前に集まった人間さん達は、みんな、何かを持っている。
あれは・・・赤ちゃんだ。ゆっくりの赤ちゃんだ。
可愛い赤ちゃんだけど、何人か、泣いている子もいる。

「・・・・・・・・・?」

お口を開けないので、お姉さんに視線で訴えかける。
お姉さんは、その視線に気づく。
いや、その視線が向くのを、待っていた。
そして、まりさの耳元に小さな声で囁く。

「あれはね・・・死んだ人と一緒にね、その人の好きだったものを入れて、
 一緒に埋めてあげるの。死んでからもゆっくりできるようにね。」

お姉さんが、棺の横に立つ。

「ゆぇぇぇん!はなしちぇぇ!!」
「やめちぇぇ!だしちぇぇ!」
「れいみゅを つぶしゃないぢぇ!つぶしゃないぢぇ!」
「ゆっ!つぶしゅのは、れいみゅだけに しゅるんだじえ!
 まりしゃは ゆっきゅり にがちてにぇ!」
「どぉぉちちぇ ちょんなこちょ ゆぅにょぉぉぉぉ!?」

何人かの人間さんが、持っていた赤ちゃん達を、
眠っている人間さんが入った箱の中に落としている。

赤ちゃんが入ってるよ?

まりさがお姉さんに、目で語りかける。

入ってるわね。

とでも答えるかのように、お姉さんが優しい笑顔を返す。

死んだ人と一緒に
その人の好きだったもの
ゆっくりの赤ちゃんが大好きだったお姉さんのお友達
一緒に埋めてあげる
死んじゃったお姉さんのお友達
箱に入れられてる知らない赤ちゃん達

…まりさの赤ちゃん


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!!!!!!」

それらの言葉が繋がった時、まりさは開かない口で絶叫を放った。


「うちのゆっくりに今朝作らせたばかりの赤ちゃんよ・・・
 向こうで沢山可愛がってあげてね。」

女は、そう言いながら、暴れようとしているまりさを
左手でしっかりと抱きかかえ、
まりさの頭に伸びた蔦から、ゴムで包まれたまりさの赤ちゃん達を
プチプチと毟り取り、棺に落としてゆく。

「おきゃーしゃーん・・・」
「ゆゆ、れいみゅおしょらをゆべっ」
「ゆっ?おきゃあしゃん、どきょいくの?・・・ゆぴゅっ!」

母親と離される事を悲しんだり、
ゆっくりできるお遊びと思ってはしゃいだり、
何も状況がわからず、ぽかーんとしていたり、
様々な反応を見せながら、赤ゆっくり達が棺に飲み込まれてゆく。

女の瞳から涙が零れ落ちる。
まりさも、次々に棺に収められてゆく可愛い我が子を呆然と見つめながら、
ブルブルと震えて涙を流している。
糸で結わえ付けられた口が千切れそうになる程、
何かを叫ぼうとしているが、それすらも叶わない。

10匹の赤ゆを棺に納めると、女が一歩退く。
遠ざかる、可愛い赤ちゃん達。

「ゆぁぁぁん!おきゃーしゃん!ぢょこいくのぉぉ!?」
「おいちぇかないじぇぇぇ!?」
「ゆぇぇぇん!!ゆぇぇぇぇん!!」

遠ざかる、可愛い赤ちゃん達の泣き声。

「さようなら。」

女が、永遠の別れの言葉を告げた。



「はぁ・・・はぁ・・・間に合ったか。ほらよ、三途の川の渡し賃代わりだ。」

息を荒くしながら、駆け込んできた体格のいい男が、
女と入れ替わるようにして、棺の横に立つと、
ザラザラと音を立てながら、背中に背負っていた籠から
百個以上の赤れいむと赤まりさが詰まったゴムボールを棺に流し込んだ。
もう、まりさの赤ちゃん達の姿は見えない。

「楽しかったぜ、ゆっくり共の群れにレイパーありす十匹けしかけてやったんだ。
 ハッハッ、あの時のあいつらの顔って言ったら・・・
 …どうして死んじまうんだよ・・・まだ・・・これからじゃねーかよ・・・・」

男が嗚咽を漏らす。
よく見ると、ボールの中には栄養不足で赤ゆっくりになれず、
黒ずんで朽ちた実も混ざっていた。

--------------------------------

「・・・死んでるのも混ざってたじゃない。」

自席に座った女が、隣席に座った先程の男にハンカチを差し出しながら、
咎めるような口調で、ヒソヒソと言った。
死んだ男は、悲鳴を上げて潰れてゆく、赤ゆっくりが好きだった。
物言わぬ赤ゆっくりの残骸など、何の興味も無いだろう。
ましてや、赤ゆっくりになる前に朽ち果てた実ゆっくりなど。

「いや・・・そうなんだけどさ・・・あいつらの親が・・・」

女の言葉の意図を理解して、ハンカチで涙を拭いながら答える。

「親・・・?」
「ああ・・・あいつらを生やしてた、れいむ・・・
 頭に鉄杭を打ち付けられてたんだ。」

れいぱーありすをけしかけた、ゆっくりの群れ。
その群れの生息地帯の外れにある森の中の洞穴で、
男は朽ちたれいむを見つけた。
その、何かから解放されたような安らかな死に顔を思い起こしながら、
男が答える。

「珍しくないじゃない。そんなもの。」

女が冷たく返す。
娯楽の少ない田舎故か、この近辺には、虐待お兄さん&お姉さん人口が多い。
森の中で、人の手が入った被虐ゆっくりが見つかることなど、
さして珍しいことではなかった。

「その杭に、コイツがぶら下がってたんだ。」

言って、男は懐から、ある物を取り出した。

「う・・・・・」

醜悪なソレに、女が思わず呻く。それから、

「ああ・・・・そういう事ね・・・」

と得心した様子で言った。


ジャラ

ソレからは、錆びた鎖が垂れ下がっている。
その鎖に繋がれた物は、ゴムで包まれた、赤ゆっくり・・・なのだろうか。
ただし、饅頭皮は無い。
少し腐敗し、崩れかかった黒い餡子の塊。
その中に無造作に浮かぶ、剥きだしの二つの眼球だったもの。
剥きだしのピンク色の歯茎と、そこについている白い歯が、
眼球と眼球の間に浮いている。

そして、それを包む透明なゴムは、黄色く変色していた。
女や、他の仲間達が持参した赤ゆっくりを包むゴムとは違う。
明らかに、加工後、数ヶ月は経過している、ゴムの饅頭皮。

これを作る事ができた者は、恐らく一人しかいないだろう。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ?!
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!!!」

まりさが、陸に打ち上げられた魚のように、突如として、
体がグネグネと曲がるほどに、ビクビクと跳ね出す。
まりさの体を力を込めて押さえつけながら、女が口を開く。

「ねえ、コレ、私に貰えないかしら?」
「ん・・・?別にいいけど、どうすんだ?こんなもの?」

女はまりさの金髪を撫でながら、笑みを浮かべて答えた。


「妹なのよ。この子の。」


--------------------------------

「ゆ゛びりぎげぇぇっっ!?ぎっぐゆ゛っげっげっぎゆ゛ぎょげぇぇ!!
 ゆぎぎぃっ!!ゆ゛びゃりゃべぇぇ!?ゆ゛ぎがぁぁぁぁ!!!」

今日も、まりさは歌う。

まりさのおうたを。

母を想い、姉妹を想い、そして、赤ちゃんを想い。

揺れているまりさの三つ編みには、まりさの"妹"のまりさが、
しっかりと、結びつけられていた。
まりさのおうたの中で、この"妹"へは、どんな想いが込められているのだろうか?


女が、ソファに座り、まりさの歌声を聞きながら本のページを捲っている。

不意に、ページを捲ろうとした、その白い指が止まる。

「・・・・・・あら・・・」

何かに気づいたように、声を漏らし、
そして、満面の笑みを浮かべた。心から、嬉しそうに。


「まりさ、また、お歌上手になったわね。」





おわり

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あとがき



ちょっと自分で突っ込みどころなど。

「うちのゆっくりに今朝作らせたばかりの赤ちゃん」

→実際に仕込んで蔦が生えたのは前日ですが、
赤ちゃんの形になったのが当日ということで、強引に解釈してください。
この部分まで書いて、前々作の葬儀の場面に繋げた時点で、
「やべ、赤ゆ作ったの当日にしてた。」と気づきました。

赤ゆがはえてきてお姉さんもゆっくりできるよ!→晩ご飯はしちゅー
の流れに変わる話を考える気力が出なかったので、妥協してしまいました。

まあ、新参空気の空気SSですし、誰も気にしませんよね?


「スーパー赤ゆっくりボール」から繋がるお話はこれでお終いにします。
暗めのお話で二本書いたので、今度は楽しいのを書いてみたいです。
短いやつを。
短いやつを。




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最終更新:2025年04月29日 01:34