■注意事項
  • ゆっくり制裁ものです
  • ありす優遇(ある意味虐待?)注意
  • 無名の人間が出てきます
  • 読み辛いので漢字を使用した箇所がありますが、知能が高い訳ではありません





■加害者ありすの献身

「ゆっ、バカなにんげんがきたよ!」
「ゆっくりいそいでにげるよ!」

人間の接近を確認して一目散に逃げる。
逃げ切れる自信はある。もう何度も繰り返した事だ。

「きょうもたいりょうなんだぜ!」

畑からの収穫は冬を越すには既に十分な量に達していた。
自分と、れいむと、大事な赤ちゃん達が不自由しないだけの量。
この餌場を見つけたお陰で食料事情は改善し、沢山すっきりする事も出来た。

あの場所を独り占めして、野菜を自分だけで食べる悪い人間には手を焼いたが
仲間のゆっくりと協力する様になった今では楽に勝てるようにもなった。
数が多ければ危険を早く発見できるし、
追われてもバラバラに逃げれば自分が捕まる確率は低い。
グズなヤツがたまに犠牲になるが、弱い物が生き残れないのは仕方ない。
弱者が生き残れるほど世の中甘くは無いのだ。
帰りは野菜を持つので重くなるが、気持ち的には足取りは軽かった。





「ゆぅ~♪ゆぅ~♪ゆゅっゆゆゅ~♪」

巣穴に楽しげな歌声(?)が響く。

「たのちぃね」
「ごはんいっぴゃいだにぇ」
「こりぇでふゆもあんしんだね」

巣の中には相当な量の食料が備蓄されていた。
冬に備えて親であるまりさが頑張って集めたのだ。
通常は両親で狩を行うが、まりさは大量の餌を運んでくる事が出来た為、
れいむは巣に残って子供達を守る事が出来たのだ。
賢く強いパートナーを持った事をれいむは誇らしく思っていた。
もう直ぐそのまりさが帰ってくる筈だ。

「おとうさんまりさは狩がじょうじゅだね」
「おとうさんにおれいをいおうね」
「ゆっ!かえってきたよ!!」
「おかえりなさ・・・??」

入り口から姿を見せたのはありすだった。
ガッカリはしたが警戒はしなかった。
ありす種の危険性は認識していたが、この巣は巧妙に隠されている為、
外敵に発見される事はまず有り得ないとの確信があった。
ありすがこの入り口から入ってくるのは初めてではない。
このありすは自分とまりさと幼馴染で、最近は(特にまりさと結ばれて以降は)
疎遠ではあったが昔は仲が良かったからだ。

だから誰一人逃げなかったし、逃げられなかった。
最初何が起こったのか分からなかった。目の前の光景が理解できなかった。
ありすに襲われながら、黒ずんで死んだ我が子を見ながら、
犯されながら、遅すぎる後悔を繰り返した。
子供達には後悔する暇さえ無かった。





「ゆっくり帰ったよ!」

しかしある筈の返事が無い。
どこかへ遊びに出かけているのだろうか?
それとも遊びつかれて眠ってしまったのか?

返事が無い事に疑問は抱いたが、悪い方には想像は行かなかった。
そんな事がある筈がないから。
優秀な自分が作った頑丈な家が、自分が何より愛するれいむが、
毎日必死で働いて守り続けてきた家族が、
危険にさらされるなど絶対にあってはならない事だから。
許される筈の無い事だから。

だから最初に湧き上がった感情は
驚きでも悲しみでもなく
ただ、ただ激しい怒りであった。

「ゆ"がぁぁぁあ"ぁーーー!!!」

子供達は皆黒ずみ朽ち果てている。
れいむの頭には何本も茎が生えている。
蓄えていた食糧は根こそぎ無くなっている。

だれがこんな事を! だれがこんな事を!! だれがこんな事を!!!
いったい何故?? いったい何故!? いったい何故!!

「どお"じでこ"ん"な"ごどにな"っでるのーーーー!!!」

その声に答えるものがあった。
れいむが微かに動いたのだ。まだ僅かに息がある!!

直ぐにまりさは駆け寄り手当てをする。
あかちゃんゆっくりの実が育つ前に茎ごとヘシ折る。
どの道この数の茎ではれいむも、子も共に助からない。
茎を租借しれいむに口移しで食べさせて少しでも栄養を戻す。
献身的な介護の甲斐もあり奇跡的にれいむは一命を取り留めた。





「ゆゆゅ、どうしてもいくの?」

れいむから事の顛末を聞いたまりさは、ありすへの復讐を決意していた。
しかしれいむの傷が癒えぬうちは、れいむをひとり巣に残して行く訳には行かない。
まりさの献身的介護は実に3時間にも及び、その為に復讐の決行は翌日まで
待たなければ成らなかった。
家族を、幸せな未来を踏みにじられた憎しみの炎に身を焼かれながら、
直ぐにでも叩きのめしたい気持ちを鋼の忍耐力で今日まで耐え忍んできたのだ。

「もう我慢の限界だよ!ありすを殺さないと気がすまないよ!!」
「どうしてもいくなられいむも行くよ!」
「ゆゆっ!れいむは危ないよ!家でまっててね!」
「まりさだけ危ないのは嫌だよ!それにれいむもあかちゃんを殺されたんだよ!!」

れいむを危険に巻き込みたくは無かったが、家に待たせていて
ありすに襲われたのも事実だ。
それに、ありすが憎いのはれいむも同じだろう。
ならば、自分が敵討ちを果たす姿を、れいむにも見せてやりたい。
虫の息で命乞いをするありすの姿をみれば、れいむもすっきりするだろう。

「わかったよ!れいむはまりさが必ずまもるよ!!」





「ゆぅ・・・ここだね」

幼馴染であるありすの巣の位置はわかっていた。
まさか当時と同じ場所に、犯行後にも関わらず
のうのうと居座っている事には驚いたが。
だが、この幸運に感謝する事はなく、寧ろふてぶてしさに腹が立った。

「覚悟は出来ているみたいだね!ありす!!」

巣穴の入り口は一つ。そこには自分とれいむが陣取っている。
如何とでも出来る。取り逃がす心配が無くなって
復讐への焦りは消えうせ、余裕さえうまれてきた。
簡単に殺す物か、少しでも楽しんで痛めつけて恨みを晴らしてやる!

「まりさ・・・どうして?・・・どうして人間の畑に行ったの?」
「ゆっ?」

ありすは泣きそうな声で命乞いをした。
何故その事をありすが知ってる?
自分達も悪事を犯したからお互いさまだとでも?
そうだとしてもこんな事が許される理屈は無い。
こいつは赤まりさも赤れいむも殺した。
こいつは悪だ。
許されて良い筈がない。
命惜しさに他者を非難するとはなお許しがたい。
野菜がたくさんある畑を独り占めしてる人間から食べ物を奪う事と、
一生懸命大切に育てた大事な大事な赤ちゃんの命を奪った大罪とを
比較する事自体が許せない。罪が同じ筈が無い。

「もう絶対に許さないよ!!あ"ーり"ーずうぅぅーーー!!!」

信じられない程あっけなく余裕を失ったまりさは、
憎き敵の息の根を一秒でも早く止める為に全力全開全速前進で
最短距離である直線で突撃する。壁へ。

「ゆべっ!?」

さっきまでありすが居た筈の壁にへばり付き大ダメージを受けて気絶するまりさ。
やわらかいゆっくりの体当たりなどたかが知れているが、
それでも殺意を込めた全力の攻撃は(ゆっくり的には)相応の威力を持つ。
手も足も無いゆっくりである。同じ速度で相手に突っ込まれるのと代わらない。
体当たりは双方にダメージが及ぶのだ。
それが硬い壁にぶつかれば、ダメージはゆっくり同士の衝突の比ではない。

本来、対ゆっくり戦闘術において体当たりは殺傷力が低く決め手には成り辛い。
次の攻撃への位置取りや、跳ね飛ばして岩などにぶつけてダメージを与える技で、
全力で相手に突っ込んでいく事は実戦では有り得ない。
上からの押しつぶし、壁にはさむプレス、崖や川を利用したリングアウトなど
喧嘩とは違う殺し合いにおいて有効な技は他にあるのだ。
模擬戦で負け無しの脳内Y-1最強であるまりさには知る必要の無い知識であったが。

「まりさ!!大丈夫!?しっかりして!!」
「ゆぅ~もう食べられな・・・ゆっ!れいむ?まりさのお菓子は!?」

まりさが意識を取り戻した時には、既にありすの姿は無かった。
夢の中で食べていた筈のお菓子も無かった。





「おねがいじます!あかちゃんたちの仇をうぢたいんでず!!」

群れのゆっくり達のまえで、泣きながら頭を下げる。
復讐の為に手段を選んでいる場合では無くなった。
本来であればこの手で始末したいと思っていたが、
このまま取り逃がしてしまう事だけは許せなかった。
そこで、不本意ではあったが、近くの比較的大きな群れに助けを求めたのだ。
自分達の親が所属していた群れ。しかし自由を求めて飛び出した群れ。
都合よく戻ってきてお願いできる立場ではない。

「むきゅ、辛かったのね」
「この群れでもありすの被害を受けた家族は居るわ」
「力を合わせてありすを駆逐しましょう」

自身の屈辱の為に流した涙は、子を奪われた物の涙の訴えと好意的に解釈された。

「でもそのまりさとれいむがふたりで勝てなかったありすなんでしょ?」
「ゆ?それじゃあぶないよ!」
「もうすぐふゆだよ!たべもの集めの方が大事だよ!」

「れいむも酷い事されたよ!冬のたべものもぜんぶ・・・!!」

れいむの叫びで思い出す。そういえば冬の食べ物も取られたんだった。

「ゆゆっ!ありすは冬の食べ物を狙ってまたくるよ!」
「食べ物のついでにあかちゃんがすっきりしてころされるよ!」
「それだけじゃないよ!ありすはまりさのお菓子も盗んだんだよ!!」

ありすを討たねば自分達も危ない事を強調して、
なんとしても群れの協力を取り付けねばならない。
ありすの家には食べ物は全然無かった。
ありすを殺したあとで取り返すつもりだったが、これでは越冬出来なくなる。
被害者として群れに取り入っておかねば、
このまま話が流れて追い返されてしまったら自分達は・・・

「ゆゆっ、そのはなしはほんとなの?」
「そういえば、最近誰かにたべものを盗まれたよ!」
「かりの間にあかちゃんが殺された事もあったよ!」

どうやら群れのゆっくりも被害にあっていたらしく、
まりさの話を聞いてその原因をありすと断定したようだ。
必死の説得の甲斐あって、群れはありす討伐に動いてくれた。
自分たちの冬の食べ物が保障された訳ではないが、どうにでもなる。
同じ被害者同士だ、ありす討伐で功績を挙げれば無碍にはしないだろう。





即座に群れの数を活かしてのありす捜索が行われたが
なかなか発見には至らなかった。
その間にも被害は続き、それは日に日に酷くなって行った。
蓄えた食糧は奪われ、あかちゃんは襲われ命を落とし、
守ろうと戦ったゆっくりも犯され尽くして干乾びて無残な姿で発見された。
折角今年は沢山野菜が手に入って、冬篭りに十分な餌が確保できたと言うのに、
このままでは群全員で越冬する量に足りなくなる。
もしかしたら、ありすは仲間を集めたのかもしれない。
一刻も早くありすの拠点を見つける事が必要だった。

「またやられたよ!こんどはぱちゅりーが殺されたよ!!」

捜索隊を繰り出して群れの防備が薄く成った所を襲われているのだ。
弱いゆっくりの巣、手薄な所を狙われた。
群れとは言っても、ドスクラスの居ない複数の家族の集まりである。
個々の家族は独立した巣に住まい、皆が夜を共に過ごせる大規模な巣は持たない。
それ故に全てのゆっくりの巣を同時には守れない。
戦力を分散してはありすの襲撃に対応出来ない。
山を張って幾つかの巣に戦力を集中して警護しても、それを避ける様に
守りの薄い巣が狙われ、しかも複数の巣が同時に襲われる事さえあった。

「このままじゃ食べ物がなくなるよ!」
「あかちゃんも危ないよ!」

弱い物から優先的に襲われる。特に無防備な赤ちゃんが。
今まで群の掟で自由にすっきりできず、作った子供も何度か餓死させてしまった。
食糧事情が好転して、待ちに待ってすっきりして沢山生んだ待望の赤ちゃん達。
沢山の赤ちゃんに囲まれて過ごす筈だった幸せな未来が今、奪われていく。
捜索隊を中止して、警護を強化する意見も出たが、
ありすの拠点を叩かねば襲われ続けるのだ。
なによりあのまりさが納得しなかった。

「ゆ、ゆっくり見つかったよ!!」

懸命の捜索の結果、ありすの新しい巣は人間の里近くにある事が分かった。
即座に討伐隊が編成された。
討伐隊は戦う事の出来る強いゆっくりで構成し、
残りは餌集めとあかちゃんの見張りに残すのだ。
れいむも群れに残る事になった。これなら危険に晒す事も無い。
困った時に助け合える群れは有り難いものだ。





「ゆゆっ!ありす聞いてね!もう逃げられないよ!」

まりさの自信に満ちた声が響き渡る。
群れがありすを捜索する傍ら、まりさは戦闘の特訓も受けていた。
元々まりさは優れた身体能力を有し、その自信もあって群れを飛び出したのだ。
その後も畑からの強奪で運動能力を発揮し、生き抜いてきた為に力を過信していた。
しかし自分と同等以上の敵と命がけの戦いは経験が無かった為、
前回のような失態を演じてしまったのだ。

本来、平和に生きていれば戦闘経験を持たない方が普通なのだが、
飢えれば餡子の味を覚えて共食いし、髪飾り一つで殺し合い、お家宣言で巣を奪われる
ゆっくりの場合、常に同属から襲われる危険性があるのだ。
その為、群れのゆっくりは群れの存続の為に強い者に戦闘訓練を施していた。

ここに居るのは、その群れの中でも精鋭の20匹。負ける筈は無い。

「ゆぅ・・・勝てないよ、まりさぁ・・・逃げて・・・遠くへ逃げて」

「ゆっ!もう諦めるんだね!」

なんとも弱々しい声で懇願するありす。
その声に益々勢いづいて勝利を確信し飛びかかろうと身構えたその時。

「外が騒がしいわね?都会的じゃないわ」
「この声はもしかしてまりさかしら?」
「まりさ!まりさが会いに来てくれたのね!!」
「べ、別にまりさなんか待ってなかったけど、どうしてもと言うなら・・・」
「逞しくて肉体的で情熱的でいっぱい・・・べ、別に期待なんかしてないんだから」
「でも私達と愛し合うには数が少ないわね」
「都会派なありすは3Pでも全然かまわないわ」

30匹近いありすが出てきた。しかも発情してるっぽい。
仲間が居たのか!?まったく予想外の事態にまりさ達は混乱を隠せない。
いや、仲間が居る事は想定してはいた筈・・・己の混乱の原因が
戦力的優位が崩れた事による死の恐怖である事に舌打ちする。

しかし、ココで崩れないのが生え抜きで選りすぐったの討伐隊である。
敵の戦力が予想を遥かに上回っていたとしても撤退は有り得ない。
いや、予想外の事態だからこそ、このありすの大群を放置して逃げれば
群れに及ぼす損害の深刻さを考えずには居られなかった。
引けない!負けられない!!ここで食い止めなければ!!

「怯んじゃ駄目だよ!いくよ!」
「「「ゆがぁぁぁっぁぁ!!!」」」

討伐隊は怒号と共に突撃していった。





凄惨を極めた戦いは、辛くも討伐隊の勝利で終わろうとしていた。
既にありすの大半は戦闘不能な状態であったが、討伐隊も相応の損害を出し
僅かな生き残りも無事な者は居なかった。
決死の不転退の覚悟か、混ぜ物と訓練された集団との差か、
いずれにせよ数の不利を覆す勇猛果敢な戦いであった。

まりさ達、生き残りの討伐隊は巣の中へと進入する。
まだ仇のありすを仕留めていない。あいつは戦いが始まると直ぐに、
血相を変えて巣の中へ逃げ込んでいった。
先ほどの騒ぎで全て出てきた筈だが、念のために
ありすの残存勢力が巣の中に潜んで居ないか確認する必要もある。

まりさ達は十分慎重に動いたつもりだったが、重要な事実を理解していない。
何故突然大量のありすが現れたのか?
何故ありすは発情していたのか?
ありすの新しい巣が、明らかな人工物である事に気付いていれば、
もっと別の結末があったかもしれないが。
まりさは賢い固体ではあったが、畑を「勝手に野菜が出てくる場所」程度にしか
認識していない様に、人間に対する知識が欠如していた。
ここは人間の場所なのだ。





お家の中にはありすともう一人何かが居た。
人間だった。

「ゆ?人間が居るよ?」

人間は畑で意地悪をしたり、ゆっくりを殺したりする危険な生き物である。
しかしゆっくりの言葉を理解できる程度の知能は持っている。
ゆっくりの中にも「自分達は間違った事をしていないのだから、話し合えば分かる筈だ」
そう考える者も居たが、餌が絡むと強欲で、直ぐに襲ってくる
人間は危険な生き物だとまりさは理解していた。
だからまりさは考えた。餌が無い、畑ではないこの場所なら、
対話が可能であるのではないかと。
もとより疲労困憊の今の自分達では人間相手では分が悪いし、
ありすを見逃して帰る選択肢は有り得ないと考えての対話であった。
もしこの人数で万全なら、話などする必要は無い。
さっさとありすを始末して逃げればよいのだから。
つまり不本意では有るが、人間と話して平和的に解決してやる事にしたのだ。

「にんげんさん。そのありすは悪いゆっくりだよ!」
「まりさ達が裁きを下すからこっちに渡してね」
「わたさないならにんげんさんが殺してもいいよ!」

人間にとって不利な条件は出していない。
もしかしたら人間もあのありすに被害を受けていて、殺すつもりかも知れないが、
そこは謙って執行の権利を渡しても良いとさえ思っている。

「裁く?お前がありすを?何故?」

人間は理解できていないようだが仕方ない。
向こうはコチラの事情を知らないのだから。
ありすが相手の気持ちも考えずに一方的なすっきりをする事。
大事に育てていた赤ちゃんを犯して殺した事。
苦労して一生懸命集めた食料を盗んで持って行った事。
楽しみに取っておいた美味しいお菓子をむ~しゃむ~しゃされた事。
ありすは死んで当然の罪を犯したのだと言う事を、
まりさは人間の知能でも理解出来るように分かりやすく説明した。

「そうか。お前たちがありすを許さない理由は分かった」

まりさは、安堵した。
畑を我が物顔で占有し、野菜を採りに来たゆっくりを襲う人間。
人間は言葉が分かるとはいえ、自分勝手な生き物なので
モノの善悪を正しく理解できるか多少心配だったが、話は通じたらしい。

「ところで、だ」
「ゆ?」

「お前たちの話に感心したので、俺もお前達を裁きたい」
「ゆゆゆっ!?」

何を裁くって?

「お前達が盗んでいった野菜についてだ」
「ゆっ?あれはまりさが見つけたんだよ!」

「違う。アレは人間が育てた作物だ」
「どぼじでー?!あのおやざいは、れいむだぢがみづけだんだよ!!」
「わけ分からない事いわないでね!おやざいはがっでにはえてぐるんだよ!」
「おじさんはそんな事もしらないの?ばかなの?しぬの?」

「お前達が頑張って大事に育てた赤ちゃんを殺したありすは悪いよな?」
「あたりまえだよ!ゆるせないよ!死んでとうぜんだよ!!」

「頑張って沢山集めた食べ物を勝手に持って行って食べるのは悪いよな?」
「誰かをゆっくりさせないゆっくりは偽者のゆっくりだよ!」
「がんばって食べ物をあつめないと本当のゆっくりはできないよ!」

「お前達はそれと同じ事をしたんだ。人間が育てた野菜を盗んだんだ」
「ぜんぜんちがうよ!おなじわけないでしょ!!」
「かわいいあかちゃんとお野菜をいっしょにするなんてバカなの?」
「あかちゃん育てる苦労もしらないくせに!!」





「あー・・・やっぱりな・・・」

正直少し落胆した。
話を聞いて、コイツラにも少しは知性や家族愛や所有権の概念があるのかと思ったが。
期待した事さえ腹立たしい。

善悪など関係ない。自分にとって邪魔だからありすを殺すと言っているのだ。
コイツラにとって自分に都合の良い事が善で、悪い事が悪なのだ。
だから人間の畑を荒らす事は、善であっても悪にはならない。
モノの善悪を正しく理解できるなら畑を荒らさない様に教えて
被害を減らせれば駆除の手間も楽になるかと思ったが。
まぁいいさ、楽な駆除方法ならもう見つかった。

唐突にありすを抱えて振動を与え始める。

「ゆっ!ゆゆゅぅぅ・・・いやぁ、もういやぁ!!」

かまわず振動を続ける。次第に目がトロ~ンとしてきて息遣いが荒くなる。
こうなってはもう理性の押さえは効かないだろう。

「さぁ、ゆっくりを駆除するんだ」

ありすを放すが、しかし一向に動こうとしない。
何かに耐えるようにブルブル震えているだけだ。
そうこうしている内に、好機と思った周囲のゆっくりが体当たりを始める。

流石にこの数相手では、ありす一匹では分が悪いか。
ありすを回収すると、周りの饅頭を適当に蹴り飛ばして始末した。
悪いと理解できないヤツを痛めつけても反省も改心もしない。
痛めつけて楽しむ趣味が無いので、手間ばかり掛かる饅頭の駆除にうんざりしていたが、
これからはそれもありすがやってくれる。






ありすは朦朧とする意識の中で思い返していた。
何故こうなったのか分からない。
友達だと思っていたまりさとれいむ。
でもそれ以上に、もっともっと大好きだったまりさ。
ずっと一緒に居たかったまりさ。二人きりになって
はじめてはまりさと。あかちゃんも。都会的なおうちを作って、
皆が羨むような家族で・・・
でもそうならなかった。れいむに取られた。
悔しかった。悲しかった。何もしなかった自分を呪った。
都会的な自分から告白などしなくても、まりさは気持ちに気付いてくれると思ってた。
そばに居るだけでとても幸せだったから、抱きついてでも繋ぎとめておけなかった。
飛びついて抱きしめたかった。でもそうしなかった。もう遅い。
毎日が真っ暗だった。新しい家に招待されても行きたくなかった。
あんなれいむとのおうちなんか。でもまりさはとても幸せそうだった。
まりさの幸せそうな顔をもう一度みたかった。どうしても。
れいむと二人で居る姿を見るのは辛かった。でもまりさは幸せなのだ。
大好きだった人が幸せなのだ。大好きな人の幸せなのだ。
守らなければ成らない幸せなのだ。苦しくても、辛くても、どんな事をしても。

人間に捕まった時。もうどうでも良かった。
自分はもうお邪魔虫。生きていなくてもいい。
大好きだったまりさは幸せで居てくれる。未練は、あった。
大好き、とても大好き・・・もっと好き、愛していたまりさ。
まりさのそばで死にたい。まりさの顔が見たい。まりさにあいたい。まりさ。

最後の願いは、叶ってしまった。
人間に抱えられ、畑を襲うまりさを、遠くから見せられ、
アレを、殺せと、言われて、揺すられた。

抑えられない性欲。すっきりしたい。考えられない。
意識が混濁する。何故ありすに生まれたのか。こんな醜い性欲饅頭に。
何故早く死ななかったのか。まりさに迷惑をかける前に。
ま、りさ・・・愛してるまりさとすっきりしたい・・・でもだめ。
死のう・・・早く・・・私が駄目になる前に・・・

「ん?逃げた?・・・駄目か、意外に意思が強いな」
「まぁいいさ、代わりのありすを探してこよう」

目の前の畑から、まりさから逃げるように走り出す。
森の中をひたすらに走る。気が付くとまりさのお家の前に居た。
ふらり誘われるように入って、気が付く、わかってしまう。目前に積まれた人間の野菜。
まりさが盗んだ物。人間を怒らせたもの。まりさが殺される。
自分が死んでも、あの人間はまりさを。どうして?まりさ、
どうして人間の畑を。冬の食べ物、こんなに沢山。何の為に?
あかちゃん。やめさせないと。沢山食べるの。止めないと。
このれいむとあかちゃんに食わせる為にまりさがっ!!
コイツラが居なければ!!

限界だった。他に方法はあった筈だ。
でもそうできなかった。目の前のまりさが余りにまりさに似ていたから。
まりさとの初めてのすっきり。ずっと夢見ていた光景。
新しい都会的なまりさのお家で、やさしいまりさと沢山たくさんすっきりして。
「おがーちゃん!!たすげてー!!」
まりさ、可愛いよ、まりさ!まりしゃ!まりさぁー!
「どお"じでこんなごとずるのー!?!?」
れいむ?れいむもお祝いしてくれるの?いいよ。
まりさとれいむと三人で幸せになろうね!

すっきりして我に返ったありすが見たのは、瀕死のれいむと
黒ずみ朽ち果てたあかちゃんゆっくりだった塊。
己の行いに恐怖し、後悔するありす。だが、このままココには居られない。
巣内部の野菜を大急ぎで運び出し、遠くまで運ぶ時間は無いので付近に隠す。
そして一度に咥えられるだけ咥えて先ほどの人間の元へ戻っていった。

これを返して許してもらおう。許してくれなくても
自分が罪を被ればこれ以上の追跡は無くなるかもしれない。
最悪でもまりさが逃げるだけの時間は稼ぎたい。

「想像以上の戦果だな。上手くすれば巣まで追って家族も犯し殺すかと期待はしたが」
「まさか戻ってくるとは。しかも野菜まで持って」
「殆ど手を付けずに蓄えていた様だな。これなら出荷は無理だが冬を凌ぐ位には」

自分がしたことで少しでも事態は好転したのだろうか?
判断は正しかったのか?違う結果が有ったのだろうか?
後悔、不安・・・しかしまりさが人間に狙われ危機に瀕している。
何もしないで後悔するのはもう嫌だった。
まりさの為なら、何でも出来る。まりさの為なら、何でも出来る。
自分に言い聞かせるように繰り返した。

男達は再びありすを揺すって野に放した。何度もそれを繰り返した。

自分の巣に戻った時はまりさと奇跡的に再会できた。
嬉しかったが、憎まれている事も分かっていた。
それでも人間の畑に行かないように、ここは危険だから逃げて欲しいと伝えた。
伝わったと信じたい。信じなければ壊れてしまいそうだった。

それからは留守の巣を襲っては人間の野菜を探し持ち帰る生活が続いた。
あかちゃんが居れば犯して殺す。
野菜を持ち去った後で、冬の間に食糧難にならない様に。
食料に困って安易に人間の畑に近づかない事を願って。






秋野菜収穫のシーズン、冬篭りり直前の森には、
発情したありすが大量に目撃されるようになった。
この時期の人間達は、ありすを見つけると殺さずに振動させて野に放つ。
発情したありすが他のゆっくりの巣を襲えば、
殺すよりも多くのゆっくりを減らせるからだ。

子ゆっくりは子を作れないし、万一作れても母体は確実に死ぬ。
親が死ねば子供だけが生き残っても冬は越せない。
襲われたゆっくりが成体であれば、ありすに襲われても母子共に存命する場合も有るが、
この時期に食いぶちが増えれば越冬に失敗して一家全滅する寸法だ。

噂に聞いて半信半疑だったが、今回の一件でゆっくりの畑荒らし対策として
一定の効果がある事が確認された。
まぁ殲滅とは行かないが、他の対策とあわせて地道にやるしかない。
今後はこの村でも積極的にありすを発情させる事にしよう。
もっとも、野菜を取り返したのは最初のありすだけだったが。

このありすは賢い固体かもしれない。
良く働くし飼い馴らして畑の番をさせてみようか。
ありすを抱えて飼育用の小屋を後にし、自宅へ向かう。
一匹で放置すればまた襲われかねない。

「おにいさん・・・まりさが死んじゃったよ・・・」
「みんな居なくなっちゃった・・・全部なくなっちゃったよぉ・・・」

「?・・・あぁ、心配するな。襲われたらまた助けてやるからな」
「冬の間の食べ物も準備するから安心していいぞ」

約束?そう言えばまりさだけは助ける約束をしたような・・・まぁいいか。
お菓子でも与えれば機嫌を直すだろうし、
すっきり用のまりさならもっとイイやつを探してやろう。


BY アンノーマン


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最終更新:2022年05月04日 22:52