0.
「え、僕が、でしょうか」
間の抜けた声が、書斎の絨毯に吸い込まれていった。
「何度も言わせるな。お前もゴールドスミス家の端くれならば、少しは役に立つ事をせよ」
父の声は厳しかった。
僕の父ーアルフレッド・ゴールドスミス。
望月重工グループの経営陣、第4席の富豪。
その父は、僕に対してこう言った。
間の抜けた声が、書斎の絨毯に吸い込まれていった。
「何度も言わせるな。お前もゴールドスミス家の端くれならば、少しは役に立つ事をせよ」
父の声は厳しかった。
僕の父ーアルフレッド・ゴールドスミス。
望月重工グループの経営陣、第4席の富豪。
その父は、僕に対してこう言った。
『ナンバーズという組織に、ピアレスエースと名乗るパイロットがいる。それを監視し、報告をせよ』
僕。
エミリオ・ゴールドスミスは、この父から血を分けられた4男。
しかし、あらゆる才能が、兄たちに及ばなかった出来損ないだ。
「……解りました。計画を練った後、実行します」
そう言うが早いか、一方的にテキストファイルが送りつけられ、ブツリと通信が切られる。
テキストファイルのトップには望月重工のロゴ。
軍事産業で成り上がった日本の企業も今やグローバルな長寿企業。
僕は経営陣の息子で、経営権継承順位第77位の子息。
それが、今はこじんまりとした書斎に押し込まれている。
ここがどこかと言えば、地方都市の紛争地帯目前。
望月重工の孤児保護施設と治安維持部隊が配置された田舎都市である。
詰まるところ、僕はたった齢14の頃から、既に左遷された身なのだ。
77。
僕はこの数字をずっと見続けてきた。
スリーセブンにひとつ足りない|幸運なし《ラックレス》。
僕にはお似合いの、しみったれた数字だ。
自嘲もそこそこに、僕はテキストファイルに目を通す。
ナンバーズ。
とある盟主が設立した私設旅団。
所属する者は必ず何かを探しており、構成員が何かしらの数字を冠する。
類まれなる戦闘能力を持つもの、奇っ怪な特殊能力を操るもの、化け物じみた巨躯を操るものもいるとかいないとか。
そんなものは冗談だ。
事実なら、このテキストが示す構成員が語っている。
すなわち、|エースの中のエース《バケモノ》揃い。
「ナンバーズ、か」
その組織を、僕は知っている。
組織を、というか、そのピアレスエースという人物を。
思い浮かべる顔は、いつもしかめっ面。
一度も素直に言うことを聞いてくれなかった僕の部下。
アリス・ピルグリム・ヴェンデッタ。
元・望月重工治安維持部隊所属、現在は子会社であるグリムシェイドの調達班リーダー。
そして、僕の『恩人』だ。
エミリオ・ゴールドスミスは、この父から血を分けられた4男。
しかし、あらゆる才能が、兄たちに及ばなかった出来損ないだ。
「……解りました。計画を練った後、実行します」
そう言うが早いか、一方的にテキストファイルが送りつけられ、ブツリと通信が切られる。
テキストファイルのトップには望月重工のロゴ。
軍事産業で成り上がった日本の企業も今やグローバルな長寿企業。
僕は経営陣の息子で、経営権継承順位第77位の子息。
それが、今はこじんまりとした書斎に押し込まれている。
ここがどこかと言えば、地方都市の紛争地帯目前。
望月重工の孤児保護施設と治安維持部隊が配置された田舎都市である。
詰まるところ、僕はたった齢14の頃から、既に左遷された身なのだ。
77。
僕はこの数字をずっと見続けてきた。
スリーセブンにひとつ足りない|幸運なし《ラックレス》。
僕にはお似合いの、しみったれた数字だ。
自嘲もそこそこに、僕はテキストファイルに目を通す。
ナンバーズ。
とある盟主が設立した私設旅団。
所属する者は必ず何かを探しており、構成員が何かしらの数字を冠する。
類まれなる戦闘能力を持つもの、奇っ怪な特殊能力を操るもの、化け物じみた巨躯を操るものもいるとかいないとか。
そんなものは冗談だ。
事実なら、このテキストが示す構成員が語っている。
すなわち、|エースの中のエース《バケモノ》揃い。
「ナンバーズ、か」
その組織を、僕は知っている。
組織を、というか、そのピアレスエースという人物を。
思い浮かべる顔は、いつもしかめっ面。
一度も素直に言うことを聞いてくれなかった僕の部下。
アリス・ピルグリム・ヴェンデッタ。
元・望月重工治安維持部隊所属、現在は子会社であるグリムシェイドの調達班リーダー。
そして、僕の『恩人』だ。
*
1.
遡ること2年。
僕は本家から左遷され、この部隊に配属されました。
「エミリオ・ゴールドスミスです。本日よりこの第115部隊の隊長として配属されました。皆さん、よろしくお願いします」
望月重工が各地に持つ独立治安維持部隊、その末席。
その指揮官クラスとして、僕はアルト・クルセイダーを与えられ、部隊員たちに始めて面会しました。
緊張と人見知りで、じっとりと手に汗をかいた状態での挨拶は、意外にもすらすらと言えて一安心。
そんな矢先に、さっそく事件は起きました。
その日の事は、僕は絶対に忘れられないでしょう。
「さっさと帰れや、とっつぁん坊や。ここはガキの来る場所じゃねぇんだ」
隊服を着崩した黒髪の短髪の女の子(?)から、いきなり罵倒されたからです。
白いメッシュ、紅い瞳、見下した突き刺さる視線。
なにより凄まじい威圧感に、どっと冷や汗がでます。
「な、なんだ君は。じじじ上官に向かって失礼な」
これでも財閥での教育は行き届いており、立場の有用性を認識していた僕はなんとか反論することはできたものの、やれたのはそこまででした。
「ァ?舐めた口聞いてんじゃねェぞ?」
ドスの効いた声色で、僕は途端にしぼんでしまったからです。
なんという恐ろしい女の子なのでしょう。
僕と年端は変わらないはずなのに、絶対に勝てないと、身体が認識してしまいました。
そしてこんなのに初日から絡まれるなんて、なんて運なしなんだと、僕は己の数字を呪いました。
僕にできるのは、内心でそんなことを思うだけです。
「ぁ、う、僕は、その」
「言いたい事があるなら、ハッキリ喋れや、軟弱野郎が」
はっきり言って、この女の子ーアリス・ピルグリム・ヴェンデッタとの出会いは最悪でした。
僕は本家から左遷され、この部隊に配属されました。
「エミリオ・ゴールドスミスです。本日よりこの第115部隊の隊長として配属されました。皆さん、よろしくお願いします」
望月重工が各地に持つ独立治安維持部隊、その末席。
その指揮官クラスとして、僕はアルト・クルセイダーを与えられ、部隊員たちに始めて面会しました。
緊張と人見知りで、じっとりと手に汗をかいた状態での挨拶は、意外にもすらすらと言えて一安心。
そんな矢先に、さっそく事件は起きました。
その日の事は、僕は絶対に忘れられないでしょう。
「さっさと帰れや、とっつぁん坊や。ここはガキの来る場所じゃねぇんだ」
隊服を着崩した黒髪の短髪の女の子(?)から、いきなり罵倒されたからです。
白いメッシュ、紅い瞳、見下した突き刺さる視線。
なにより凄まじい威圧感に、どっと冷や汗がでます。
「な、なんだ君は。じじじ上官に向かって失礼な」
これでも財閥での教育は行き届いており、立場の有用性を認識していた僕はなんとか反論することはできたものの、やれたのはそこまででした。
「ァ?舐めた口聞いてんじゃねェぞ?」
ドスの効いた声色で、僕は途端にしぼんでしまったからです。
なんという恐ろしい女の子なのでしょう。
僕と年端は変わらないはずなのに、絶対に勝てないと、身体が認識してしまいました。
そしてこんなのに初日から絡まれるなんて、なんて運なしなんだと、僕は己の数字を呪いました。
僕にできるのは、内心でそんなことを思うだけです。
「ぁ、う、僕は、その」
「言いたい事があるなら、ハッキリ喋れや、軟弱野郎が」
はっきり言って、この女の子ーアリス・ピルグリム・ヴェンデッタとの出会いは最悪でした。
*
結局のところ、僕は僕でしかないのです。
場所が変わったって、何かができるようになるはずもないし。
他の兄たちよりも、ほんのわずかに機体を扱うのが上手かっただけで、他の能力は軒並みダメダメでした。
だから、例え隊長格だからといって、隊員たちは敬ってくれなかったのです。
当たり前ですね。
アリスを筆頭として、彼女らはそれまで実際の戦場を経験してきているのです。
少なくとも、僕のようにシュミレータと訓練だけの人間より、よほど現実を知っています。
お飾りの隊長。
むしろお荷物ですらあった僕に払う敬意など、これっぽっちもありません。
ゆえに、現場では居ないものとして扱われ、支社では曲がりなりにも経営陣の関係者なので、腫れ物扱い。
それが子供の僕にすらわかるほどなので、よほどあからさまだったのは推し量るに容易い。
毎日が針のむしろでした。
けれども幸い、僕は努力することだけはできました。
自分の力が劣っていることを理解するのと、周りの力量を測ることだけはできたのです。
元々本家でもそういう扱いだったし、兄たちから直接暴力や嫌がらせがない分、僕にはましな環境。むしろ現場に出たことで機体を扱う事に楽しみすら感じてしまったので、僕は一気にEXMにのめり込んでいきました。
……こんなに楽しいと思ったことは、それまでの人生にありませんでした。
特に、第115部隊には二人のエースがいて、僕はその二人の技術を学ぶことができました。
これが大きい。
一人は言わずもがな。
アリス。
もう一人は、アリスの妹分であり親友。
クラリス・望月・ハンマーヘッド。
この二人は、すこぶる強かった。
僕は必然的に、この二人の後を追いかけるように動き回ることになりました。
クラリスはせいぜい自由奔放な子というレベルでしたが、アリスは札付きの規律違反常習犯でした。
経歴書でその出自は知っていましたが、誰かここまでのワルだと考えるでしょうか。
僕の日課は彼女らの戦闘成果の報告書と、彼女のこさえる事件の始末書と対応、そして機体を動かす訓練に染まっていきました。機体を動かす際には、彼女たちは僕を差別しません。それも僕を惹きつけた要因でしょう。
そして僕は、強い者に迎合することがいかに重要か、身をもって学習していったのでした。
同じ機体なのに、なんで10倍じゃ効かないくらいの模擬戦の敗北数を重ねる事ができるのか、僕には今でもまったくわからないままです。
場所が変わったって、何かができるようになるはずもないし。
他の兄たちよりも、ほんのわずかに機体を扱うのが上手かっただけで、他の能力は軒並みダメダメでした。
だから、例え隊長格だからといって、隊員たちは敬ってくれなかったのです。
当たり前ですね。
アリスを筆頭として、彼女らはそれまで実際の戦場を経験してきているのです。
少なくとも、僕のようにシュミレータと訓練だけの人間より、よほど現実を知っています。
お飾りの隊長。
むしろお荷物ですらあった僕に払う敬意など、これっぽっちもありません。
ゆえに、現場では居ないものとして扱われ、支社では曲がりなりにも経営陣の関係者なので、腫れ物扱い。
それが子供の僕にすらわかるほどなので、よほどあからさまだったのは推し量るに容易い。
毎日が針のむしろでした。
けれども幸い、僕は努力することだけはできました。
自分の力が劣っていることを理解するのと、周りの力量を測ることだけはできたのです。
元々本家でもそういう扱いだったし、兄たちから直接暴力や嫌がらせがない分、僕にはましな環境。むしろ現場に出たことで機体を扱う事に楽しみすら感じてしまったので、僕は一気にEXMにのめり込んでいきました。
……こんなに楽しいと思ったことは、それまでの人生にありませんでした。
特に、第115部隊には二人のエースがいて、僕はその二人の技術を学ぶことができました。
これが大きい。
一人は言わずもがな。
アリス。
もう一人は、アリスの妹分であり親友。
クラリス・望月・ハンマーヘッド。
この二人は、すこぶる強かった。
僕は必然的に、この二人の後を追いかけるように動き回ることになりました。
クラリスはせいぜい自由奔放な子というレベルでしたが、アリスは札付きの規律違反常習犯でした。
経歴書でその出自は知っていましたが、誰かここまでのワルだと考えるでしょうか。
僕の日課は彼女らの戦闘成果の報告書と、彼女のこさえる事件の始末書と対応、そして機体を動かす訓練に染まっていきました。機体を動かす際には、彼女たちは僕を差別しません。それも僕を惹きつけた要因でしょう。
そして僕は、強い者に迎合することがいかに重要か、身をもって学習していったのでした。
同じ機体なのに、なんで10倍じゃ効かないくらいの模擬戦の敗北数を重ねる事ができるのか、僕には今でもまったくわからないままです。
*
2.
半年経ちました。
あっという間に時間はすぎる。
濃すぎるほどに濃厚な戦闘と訓練と報告書の山。
僕は一般的にまだ子供のはずなのに、毎日腱鞘炎になりながら機体を駆っていました。
その頃にはようやく部隊からも認められ始め、周りの態度は軟化していたので、毎日がかなり楽しくなっていた頃です。
多分、クラリスのおかげですね。
「よ、隊長♪元気?」
半年で舎弟に昇格した僕は、割と可愛がられていると思います。アリスとクラリスのシゴキに耐える上官は、いままで居なかったらしいので、大躍進ですね。
僕はこの成長不足な容姿があまり好きではないけれど、クラリスに気に入られた点については感謝しています。
「クラリスさん、無造作に頭を撫でないでくださいよ……」
隊長室に入り浸る隊員は、多分クラリスくらい。
「まあいいじゃない、減るもんじゃなし」
「すり減って僕の身長がまさに縮んでいるきがします……」
クラリスはころころと表情を変える女の子です。
僕よりお姉さんのはずですが、むしろ子供っぽいですね。
「ところで、うちのエース様来なかった?」
アリスは今日は執務室には来ていません。
ここに来るのは始末書のための聞き取りの時くらいだし、そもそも寄り付かないからです。
……余談ですが、僕は間違ってアリスをアリスと呼んで、何回か殺されかけています。
一度目は拳銃、二度目は拳、三度目は足。
それ以降は考えるのをやめました。
圧倒的に間の悪い僕が悪いし、覚えないこの頭のせいでもあるで、仕方ありません。
「アリスさんはまた訓練所ではないですかねぇ?」
そう答えた時。
「テメェ、また私をその名前で呼んだな?」
地獄耳の鬼がそこにいました。
「ひぇっ」
「アチャー、記録更新だねぇ」
音もなく近寄り胸ぐらを掴まれますが、クラリスがアリスをなだめてくれました。
「まぁまぁ抑えて抑えて。なんか用があって来たんでしょ?」
クラリスに一瞬だけ目線をなげると、アリスはすぐに目線を戻して舌打ち。
「……命拾いしたな」
いちいちギラつく瞳には恐怖しかないです。
ぞくぞくします。
「それで?なにしに来たのよ?」
アリスはいつものしかめっ面に戻って、言いました。
「外れの市街地でテロが起きてる。増援に行くぞ」
僕には隊長権限がありますから、拒否もできますし、むしろ決定権があるのは僕。ですが、こういった時のアリスは引かないのを、半年でちゃんと学びました。それに、拒否したとしても、アリスとクラリスは勝手に出撃してしまうことでしょう。そうすると、また僕の始末書が一枚増えるわけです。
それに、アリスたちが動く理由も理解しています。
きっとまた、孤児院のある区画なのでしょう。
望月重工の保護施設は、民間の孤児院を支援しており、二人には孤児院に知り合いがいるのです。
規律違反もなく、人助けもできるのに、躊躇はいりませんね。
僕は乱れた襟を正して言いました。
「第115部隊、出撃しますよ」
あっという間に時間はすぎる。
濃すぎるほどに濃厚な戦闘と訓練と報告書の山。
僕は一般的にまだ子供のはずなのに、毎日腱鞘炎になりながら機体を駆っていました。
その頃にはようやく部隊からも認められ始め、周りの態度は軟化していたので、毎日がかなり楽しくなっていた頃です。
多分、クラリスのおかげですね。
「よ、隊長♪元気?」
半年で舎弟に昇格した僕は、割と可愛がられていると思います。アリスとクラリスのシゴキに耐える上官は、いままで居なかったらしいので、大躍進ですね。
僕はこの成長不足な容姿があまり好きではないけれど、クラリスに気に入られた点については感謝しています。
「クラリスさん、無造作に頭を撫でないでくださいよ……」
隊長室に入り浸る隊員は、多分クラリスくらい。
「まあいいじゃない、減るもんじゃなし」
「すり減って僕の身長がまさに縮んでいるきがします……」
クラリスはころころと表情を変える女の子です。
僕よりお姉さんのはずですが、むしろ子供っぽいですね。
「ところで、うちのエース様来なかった?」
アリスは今日は執務室には来ていません。
ここに来るのは始末書のための聞き取りの時くらいだし、そもそも寄り付かないからです。
……余談ですが、僕は間違ってアリスをアリスと呼んで、何回か殺されかけています。
一度目は拳銃、二度目は拳、三度目は足。
それ以降は考えるのをやめました。
圧倒的に間の悪い僕が悪いし、覚えないこの頭のせいでもあるで、仕方ありません。
「アリスさんはまた訓練所ではないですかねぇ?」
そう答えた時。
「テメェ、また私をその名前で呼んだな?」
地獄耳の鬼がそこにいました。
「ひぇっ」
「アチャー、記録更新だねぇ」
音もなく近寄り胸ぐらを掴まれますが、クラリスがアリスをなだめてくれました。
「まぁまぁ抑えて抑えて。なんか用があって来たんでしょ?」
クラリスに一瞬だけ目線をなげると、アリスはすぐに目線を戻して舌打ち。
「……命拾いしたな」
いちいちギラつく瞳には恐怖しかないです。
ぞくぞくします。
「それで?なにしに来たのよ?」
アリスはいつものしかめっ面に戻って、言いました。
「外れの市街地でテロが起きてる。増援に行くぞ」
僕には隊長権限がありますから、拒否もできますし、むしろ決定権があるのは僕。ですが、こういった時のアリスは引かないのを、半年でちゃんと学びました。それに、拒否したとしても、アリスとクラリスは勝手に出撃してしまうことでしょう。そうすると、また僕の始末書が一枚増えるわけです。
それに、アリスたちが動く理由も理解しています。
きっとまた、孤児院のある区画なのでしょう。
望月重工の保護施設は、民間の孤児院を支援しており、二人には孤児院に知り合いがいるのです。
規律違反もなく、人助けもできるのに、躊躇はいりませんね。
僕は乱れた襟を正して言いました。
「第115部隊、出撃しますよ」
*
3.
5機のアルト・クルセイダーが出撃します。
「エミリオより第115部隊各機、通信確認をしてください」
「1番、ピルグリム、問題ねぇ」
「2番、クラリス、問題なし」
「3番、ジョン、問題なしだ」
「4番、アンソニー、問題ないよ」
僕らの隊は5人一組です。
陸戦型で、ビームサーベルとマシンガンを装備したアルトカスタムは、値段に対して頑丈で、望月重工廉価EXMの売れ筋商品です。
脚部に装備したストライドユニットー市街地走行用の脚部補助装置が、アルト・クルセイダーたちを滑るように走らせます。少しだけ荒れた路面、増援が必要な区画まで数ブロック。
こういったテロはバイロンの工作兵によって時折発生しており、連合傘下の望月重工が治安維持を担っています。
この地方都市も、正規の連合の手が足りない他の都市のように、なんとか火の粉を払うのです。
いつものパターンでは4機チームで攻めてくる事が多いため、ここいらを攻める軍はそういう編成なのでしょう。編成も市街地迷彩を施したポルタノヴァのなかに指揮官仕様が1機いるかどうか。
頑丈なアルト・クルセイダーが損壊することの方が少なく、バイロンも主に都市の破壊を目的としているようなので、バイロン勢力は削れているものの、都市も徐々に疲弊しているという塩梅です。
レーダーの反応は5つ。固まっていました。
「エミリオより各機、友軍は固まっています。敵影に注意して接近、援護開始」
僕らは味方の後方から、碁盤の目の左右に分かれて近づいて行きます。編成はアリスとクラリスに僕が右、ジョンとアンソニーが左です。
「銃弾の音がしますね……」
タタタと軽いマシンガンの音に混じって、重たいライフルの音が響きます。マシンガンが友軍、ライフルがテロリストでしょう。
「ピルグリムとクラリスは前に出過ぎないように」
僕の指示など聞かないでしょうが、二人にも釘を刺しつつ、僕らは前進。
ビル群が立ち並ぶ区画で、いまだ友軍の姿は見えません。
音とビーコンを頼りに進む僕らには、ビルに反響する銃声が一方向からしているなどと気付ける者はいませんでした。
「ぐぁっ!」
いきなりジョンがやられました。
左右に分かれての前進だったために、状況が全く見えません。
状況は不明ながら、通信は途絶。アンソニーの混乱する声だけが通信に流れ、ジョンの安否もわからないまま。
僕の頭は真っ白になってしまいます。
そして、そんな僕がぼけっとしている間に、次の犠牲者がでてしまいました。
「あぁーーー!」
アンソニーがやられました。
狙撃?
それとも強襲?
それすらわからないまま、冷静に動いていたクラリスに、ビル影に引き込まれます。
「隊長、狙撃手がいる」
状況は不明。
味方は二人もやられています。
恐らくはすべてが敵の罠。
味方機は、もう……。
それを悟った瞬間、僕ははじめて、死を意識したのです。
ガチガチと何かが音を立てているのに気付き、それが自分の歯であると理解して、僕は自分が恐怖しているのだと知りました。
ここがれっきとした戦場で、あのクラリスでさえ、緊張をはらませた声色で、操縦桿を握る手は感覚がなくなるほどに力が入って。
そんな中で、アリスだけは……笑っていたのです。
「ハッハー!面白くなってきやがった!」
戦闘狂だ、と、僕は思いました。
でも、その通信の声に、ひどく安堵を覚えたのです。
いっそ神々しささえ感じる程に、アリスの声は、僕を落ち着かせました。
戦闘という、特殊な状況下で、精神がへんな方向に高ぶっていたのかもしれません。
しかし、僕がアリスに対して妙な安心感を得たのは事実でした。
「狙撃手はさっきのジョンとアンソニーの位置からして、ここだと、思う」
冷静さを取り戻せた僕は、市街地マップにビーコンを打ちます。
ちょうど高いビルがある場所。
そこに、きっと狙撃手がいる。
「やりゃ出来んじゃねぇか、エミリオ」
「そうと解れば撃ちに行くわよ」
好戦的な二人は、ビル影を縫うように前進。
僕もそれに追随。
ヒーロー気取りで、そうしようとしたのがいけませんでした。
「エミリオより第115部隊各機、通信確認をしてください」
「1番、ピルグリム、問題ねぇ」
「2番、クラリス、問題なし」
「3番、ジョン、問題なしだ」
「4番、アンソニー、問題ないよ」
僕らの隊は5人一組です。
陸戦型で、ビームサーベルとマシンガンを装備したアルトカスタムは、値段に対して頑丈で、望月重工廉価EXMの売れ筋商品です。
脚部に装備したストライドユニットー市街地走行用の脚部補助装置が、アルト・クルセイダーたちを滑るように走らせます。少しだけ荒れた路面、増援が必要な区画まで数ブロック。
こういったテロはバイロンの工作兵によって時折発生しており、連合傘下の望月重工が治安維持を担っています。
この地方都市も、正規の連合の手が足りない他の都市のように、なんとか火の粉を払うのです。
いつものパターンでは4機チームで攻めてくる事が多いため、ここいらを攻める軍はそういう編成なのでしょう。編成も市街地迷彩を施したポルタノヴァのなかに指揮官仕様が1機いるかどうか。
頑丈なアルト・クルセイダーが損壊することの方が少なく、バイロンも主に都市の破壊を目的としているようなので、バイロン勢力は削れているものの、都市も徐々に疲弊しているという塩梅です。
レーダーの反応は5つ。固まっていました。
「エミリオより各機、友軍は固まっています。敵影に注意して接近、援護開始」
僕らは味方の後方から、碁盤の目の左右に分かれて近づいて行きます。編成はアリスとクラリスに僕が右、ジョンとアンソニーが左です。
「銃弾の音がしますね……」
タタタと軽いマシンガンの音に混じって、重たいライフルの音が響きます。マシンガンが友軍、ライフルがテロリストでしょう。
「ピルグリムとクラリスは前に出過ぎないように」
僕の指示など聞かないでしょうが、二人にも釘を刺しつつ、僕らは前進。
ビル群が立ち並ぶ区画で、いまだ友軍の姿は見えません。
音とビーコンを頼りに進む僕らには、ビルに反響する銃声が一方向からしているなどと気付ける者はいませんでした。
「ぐぁっ!」
いきなりジョンがやられました。
左右に分かれての前進だったために、状況が全く見えません。
状況は不明ながら、通信は途絶。アンソニーの混乱する声だけが通信に流れ、ジョンの安否もわからないまま。
僕の頭は真っ白になってしまいます。
そして、そんな僕がぼけっとしている間に、次の犠牲者がでてしまいました。
「あぁーーー!」
アンソニーがやられました。
狙撃?
それとも強襲?
それすらわからないまま、冷静に動いていたクラリスに、ビル影に引き込まれます。
「隊長、狙撃手がいる」
状況は不明。
味方は二人もやられています。
恐らくはすべてが敵の罠。
味方機は、もう……。
それを悟った瞬間、僕ははじめて、死を意識したのです。
ガチガチと何かが音を立てているのに気付き、それが自分の歯であると理解して、僕は自分が恐怖しているのだと知りました。
ここがれっきとした戦場で、あのクラリスでさえ、緊張をはらませた声色で、操縦桿を握る手は感覚がなくなるほどに力が入って。
そんな中で、アリスだけは……笑っていたのです。
「ハッハー!面白くなってきやがった!」
戦闘狂だ、と、僕は思いました。
でも、その通信の声に、ひどく安堵を覚えたのです。
いっそ神々しささえ感じる程に、アリスの声は、僕を落ち着かせました。
戦闘という、特殊な状況下で、精神がへんな方向に高ぶっていたのかもしれません。
しかし、僕がアリスに対して妙な安心感を得たのは事実でした。
「狙撃手はさっきのジョンとアンソニーの位置からして、ここだと、思う」
冷静さを取り戻せた僕は、市街地マップにビーコンを打ちます。
ちょうど高いビルがある場所。
そこに、きっと狙撃手がいる。
「やりゃ出来んじゃねぇか、エミリオ」
「そうと解れば撃ちに行くわよ」
好戦的な二人は、ビル影を縫うように前進。
僕もそれに追随。
ヒーロー気取りで、そうしようとしたのがいけませんでした。
「っ!危ねえ!」
庇いに入ったアリス機、その片腕が斬りとばされたのです。
「アリス!?」
自身の機体がやられたにも関わらず、僕の機体をビル影に押しのけ、自分は伏兵と対峙。
その間にスナイパーに走るクラリス。
見事な連携。
そして無様な僕。
アリスは片腕でビームサーベルを構えて、敵を睨めつけます。
「テメェは自分の命を守れ!私がコイツをやる!」
敵はシエルノヴァ。
高出力ビームサーベルを構えて、アリスの隙をうかがっている。シエルはアリスをロックオンしつつも、こちらを警戒している素振りで攻めるか悩んでいるらしい。
僕は無様にへたりこんだままで。
「いくぜ?レンジが長いほうが勝つとは!限ら!ねぇ!」
細かくサイドステップを踏み、アリスは華麗に回避してからシエルノヴァを斬り払います。
なんという直感力!
驚嘆はそれだけでは終わらず、アリスはそのまま体当たりをかますと、マウントをとってすかさずビームサーベルをコックピットに突き立てました。
僕は、それを見て、恐怖を感じたのです。
……それと同時に、拭いされない憧れまでも。
その時の僕には、その感情がなんなのか、理解できませんでした。
今はそれがなんなのか、はっきりと理解しています。
それは、恋慕。
憧れを核にした、恋心。
抱くべきではなかった、僕の初恋。
その日、僕に好きな人ができました。
その日、僕の好きな人は、人を殺めました。
その日、僕の価値観は壊れてしまいました。
僕は、本当は戦場になんて出るべきではなかった。
甘ちゃんにつける薬なんて、劇薬しかない。
僕は壊れて、それまで求めてもなかった強さについて、焦がれるようになったのです。
それは、ひとえにアリスに振り向いてもらうためでした。
けれど、それで良かった。
僕は助かった。
アリスが、僕を味気ない、緩やかな死しかない日常から、救い出したのだ。
「アリス!?」
自身の機体がやられたにも関わらず、僕の機体をビル影に押しのけ、自分は伏兵と対峙。
その間にスナイパーに走るクラリス。
見事な連携。
そして無様な僕。
アリスは片腕でビームサーベルを構えて、敵を睨めつけます。
「テメェは自分の命を守れ!私がコイツをやる!」
敵はシエルノヴァ。
高出力ビームサーベルを構えて、アリスの隙をうかがっている。シエルはアリスをロックオンしつつも、こちらを警戒している素振りで攻めるか悩んでいるらしい。
僕は無様にへたりこんだままで。
「いくぜ?レンジが長いほうが勝つとは!限ら!ねぇ!」
細かくサイドステップを踏み、アリスは華麗に回避してからシエルノヴァを斬り払います。
なんという直感力!
驚嘆はそれだけでは終わらず、アリスはそのまま体当たりをかますと、マウントをとってすかさずビームサーベルをコックピットに突き立てました。
僕は、それを見て、恐怖を感じたのです。
……それと同時に、拭いされない憧れまでも。
その時の僕には、その感情がなんなのか、理解できませんでした。
今はそれがなんなのか、はっきりと理解しています。
それは、恋慕。
憧れを核にした、恋心。
抱くべきではなかった、僕の初恋。
その日、僕に好きな人ができました。
その日、僕の好きな人は、人を殺めました。
その日、僕の価値観は壊れてしまいました。
僕は、本当は戦場になんて出るべきではなかった。
甘ちゃんにつける薬なんて、劇薬しかない。
僕は壊れて、それまで求めてもなかった強さについて、焦がれるようになったのです。
それは、ひとえにアリスに振り向いてもらうためでした。
けれど、それで良かった。
僕は助かった。
アリスが、僕を味気ない、緩やかな死しかない日常から、救い出したのだ。
*
4.
さらに一年がすぎ、アリスはとうとう規律違反をしすぎて除隊。紆余曲折の末、子会社のグリムシェイドに行ってしまった。しばらくして、クラリスも追うようにグリムシェイドへ。
僕は落胆した。
けれども、それまでの指針が変わるわけではなかった。
アリスに振り返ってもらうには、強さが必要だったから。
アリスが戦場にいる限り、強くなければ見てすらもらえないから。
その頃には、二人には及ばないものの、僕は曲がりなりにも部隊内でエースと呼ばれるくらいには強くなった。
まぁ、あくまでも、治安維持部隊の中で、ではあるけれど。
僕は知っている。
もっと強い乗り手や機体はたくさんいるし、巨大な兵器を打ち倒すものだっている。
だからこそ、僕は研鑽を続けた。
敵を恐れていただけの僕はなりを潜め、的確な射撃と思い切りのいい踏み込みと斬撃を身に着けた。
ちなみにアリス移籍後、僕は時折グリムシェイドの視察に同行させてもらっている。数少ないアリスやクラリスと会話できる機会だからだ。
アリスはこのたび、|月蝕石《ムーンクォーツ》という機体を建造したらしい。
ジャッカルをモチーフとした真っ白な機体。
一度見せてもらったが、死神とすら形容される、凄まじい機体だった。
……僕とアリスの差は開くばかり。
僕は嘆き、しかし、止まることだけはしなかった。
アリスはいつでも走り続けていた。
僕の知っているアリスは、何かに焦がれ、前しか向いていない。
なら、僕はそれに追いつくように頑張るしか、ない。
願わくば、その隣に並んで、一緒に走ってみたい。
そんなことを、考えていた。
僕は落胆した。
けれども、それまでの指針が変わるわけではなかった。
アリスに振り返ってもらうには、強さが必要だったから。
アリスが戦場にいる限り、強くなければ見てすらもらえないから。
その頃には、二人には及ばないものの、僕は曲がりなりにも部隊内でエースと呼ばれるくらいには強くなった。
まぁ、あくまでも、治安維持部隊の中で、ではあるけれど。
僕は知っている。
もっと強い乗り手や機体はたくさんいるし、巨大な兵器を打ち倒すものだっている。
だからこそ、僕は研鑽を続けた。
敵を恐れていただけの僕はなりを潜め、的確な射撃と思い切りのいい踏み込みと斬撃を身に着けた。
ちなみにアリス移籍後、僕は時折グリムシェイドの視察に同行させてもらっている。数少ないアリスやクラリスと会話できる機会だからだ。
アリスはこのたび、|月蝕石《ムーンクォーツ》という機体を建造したらしい。
ジャッカルをモチーフとした真っ白な機体。
一度見せてもらったが、死神とすら形容される、凄まじい機体だった。
……僕とアリスの差は開くばかり。
僕は嘆き、しかし、止まることだけはしなかった。
アリスはいつでも走り続けていた。
僕の知っているアリスは、何かに焦がれ、前しか向いていない。
なら、僕はそれに追いつくように頑張るしか、ない。
願わくば、その隣に並んで、一緒に走ってみたい。
そんなことを、考えていた。
*
5.
さらに半年が経った。
世の中ではエリシオン事件が騒がれ、それが過ぎ去った頃。
アリスの|月蝕石《ムーンクォーツ》が改修され、さらに高みへ行ってしまった事を知った。
|煉獄月蝕石《ムーンクォーツ・ヘル》と銘打たれた改修機は、翼を宿した地獄そのものであると噂され、1機で都市さえも落とすのではと囁かれるくらいに強力になったそうだ。
もはや零細ジャンク屋が保有する戦力ではない。
この計画には、実は望月重工が嚙んでいた。
でなければ、開発自体が潰されるか、望月重工に召し上げられていたはずだ。
魔石シリーズと銘打たれた、|月蝕石《ムーンクォーツ》を始めとする機体群。これはアリスの引いた基本設計を元にグリムシェイドで思想反映と検討をされ、建造されたものだが、ワンオフである|月蝕石《ムーンクォーツ》、|陽煌石《アルビオナイト》、|冥天石《レミエライト》は、端から操縦者パーソナライズ済みのピーキーなカスタムをされている。
これらはそれまでの機体流用のためにすぐに使用されるという理由もあったが、それ以上にエリシオンや富嶽で得たデータの実地試験という側面が強い。
それに対応でき、かつ、望月重工の力が及ぶ場所として、グリムシェイドが選ばれたと言う訳だ。
ゆえに、同時期に、|月蝕石《ムーンクォーツ》を基礎設計に利用した魔石シリーズが建造され始めた。
それが一般化機体である|魔晶石《ガルムクォーツ》だ。
現在開発中であり、近々僕の元にも配備される予定になっている。
魔石保持者に選ばれたパイロットは、すでに別部隊として再編成され、僕はその新設部隊の隊長に任命された。
相変わらず左遷組だが、新しい機体が手に入るのなら権力はどうでもいい。
新部隊の名前は、|魔晶石《ガルムクォーツ》の名前が由来して、魔犬部隊。すでに狗とか猟犬とかで呼ばれているそうだ。
部隊員については、治安維持部隊の中でもエース揃いだった。ただ、アリスやクラリスを超える者は未だにいない。
僕はエースたちの中でも秀でていたが、それでも二人にはまだ届かない。
だから努力を重ねた。
血の滲むような鍛錬を続けた。
テスト機体の稼働訓練も、隊の中の誰よりも長く行った。
あの背中に追いつくためだけに、僕は走り続けていた。
そして機体は正式に配備され、エース仕様と銘打たれたSAS搭載の|魔晶石《ガルムクォーツ》を、僕は乗りこなしてみせた。
世の中ではエリシオン事件が騒がれ、それが過ぎ去った頃。
アリスの|月蝕石《ムーンクォーツ》が改修され、さらに高みへ行ってしまった事を知った。
|煉獄月蝕石《ムーンクォーツ・ヘル》と銘打たれた改修機は、翼を宿した地獄そのものであると噂され、1機で都市さえも落とすのではと囁かれるくらいに強力になったそうだ。
もはや零細ジャンク屋が保有する戦力ではない。
この計画には、実は望月重工が嚙んでいた。
でなければ、開発自体が潰されるか、望月重工に召し上げられていたはずだ。
魔石シリーズと銘打たれた、|月蝕石《ムーンクォーツ》を始めとする機体群。これはアリスの引いた基本設計を元にグリムシェイドで思想反映と検討をされ、建造されたものだが、ワンオフである|月蝕石《ムーンクォーツ》、|陽煌石《アルビオナイト》、|冥天石《レミエライト》は、端から操縦者パーソナライズ済みのピーキーなカスタムをされている。
これらはそれまでの機体流用のためにすぐに使用されるという理由もあったが、それ以上にエリシオンや富嶽で得たデータの実地試験という側面が強い。
それに対応でき、かつ、望月重工の力が及ぶ場所として、グリムシェイドが選ばれたと言う訳だ。
ゆえに、同時期に、|月蝕石《ムーンクォーツ》を基礎設計に利用した魔石シリーズが建造され始めた。
それが一般化機体である|魔晶石《ガルムクォーツ》だ。
現在開発中であり、近々僕の元にも配備される予定になっている。
魔石保持者に選ばれたパイロットは、すでに別部隊として再編成され、僕はその新設部隊の隊長に任命された。
相変わらず左遷組だが、新しい機体が手に入るのなら権力はどうでもいい。
新部隊の名前は、|魔晶石《ガルムクォーツ》の名前が由来して、魔犬部隊。すでに狗とか猟犬とかで呼ばれているそうだ。
部隊員については、治安維持部隊の中でもエース揃いだった。ただ、アリスやクラリスを超える者は未だにいない。
僕はエースたちの中でも秀でていたが、それでも二人にはまだ届かない。
だから努力を重ねた。
血の滲むような鍛錬を続けた。
テスト機体の稼働訓練も、隊の中の誰よりも長く行った。
あの背中に追いつくためだけに、僕は走り続けていた。
そして機体は正式に配備され、エース仕様と銘打たれたSAS搭載の|魔晶石《ガルムクォーツ》を、僕は乗りこなしてみせた。
*
「その結果が、これか」
父の指令から数日後、新たに配備された機体が届いた。
格納庫には、整備と調整が終わった真新しいシルエットが、静かに稼働を待っていた。
「これが、ナンバーズになるために与えられた僕の機体……」
|月蝕魔晶石《ガルムクォーツ・フィーリア》。
|魔晶石《ガルムクォーツ》は、アヌビス神をモチーフにしている|月蝕石《ムーンクォーツ》の直系系譜で、尖りすぎた性能を削り、使い勝手を良くしたもの。言い換えれば次世代汎用機とも言える。ゆえに、獣を冠した宝石の名称を与えられており、その意味には活力の原石と獣の狩猟が込められている。
この機体は、その形質を踏襲しつつも、原型に近い高機動飛行を与える方向でつくられた。
量産型をベースに僕にパーソナライズされ、さらには換装と設計変更がなされたワンオフ。
小型でも出力の大きいバーニアとブースターを複数装備した、小回りのきく調整だ。
空戦はまだシュミレータでしか経験がないが、訓練はした。
武装面はオールレンジで戦えるように、予備も含めて多めに携行するようにマウントを改造。ちなみに、意外にも僕は近接格闘戦が得意らしいので、ブレードは多めに用意してもらった。
中距離戦を意識した2つのロングレンジビームライフルが主兵装。この点は通常仕様から変わらない。
後はミサイルが火力重視と速度重視で二種類、これは通常仕様にはない。
さらには|煉獄月蝕石《ムーンクォーツ・ヘル》に搭載されたSCASをダウングレードしたSASも引き続き搭載されている。
実に僕らしい、安全をみた構成の機体だ。
アリスがみたら笑われそうな心配症。
けれど、それでいてきっちりと火力をだせる。
「ーーーーこれなら、僕も君と飛べるかな?」
流石にアリス機には届かないが、ワンオフの魔石と渡り合うくらいのスペックにはなっている。
あくまでもスペック上では、だが。
父の指令から数日後、新たに配備された機体が届いた。
格納庫には、整備と調整が終わった真新しいシルエットが、静かに稼働を待っていた。
「これが、ナンバーズになるために与えられた僕の機体……」
|月蝕魔晶石《ガルムクォーツ・フィーリア》。
|魔晶石《ガルムクォーツ》は、アヌビス神をモチーフにしている|月蝕石《ムーンクォーツ》の直系系譜で、尖りすぎた性能を削り、使い勝手を良くしたもの。言い換えれば次世代汎用機とも言える。ゆえに、獣を冠した宝石の名称を与えられており、その意味には活力の原石と獣の狩猟が込められている。
この機体は、その形質を踏襲しつつも、原型に近い高機動飛行を与える方向でつくられた。
量産型をベースに僕にパーソナライズされ、さらには換装と設計変更がなされたワンオフ。
小型でも出力の大きいバーニアとブースターを複数装備した、小回りのきく調整だ。
空戦はまだシュミレータでしか経験がないが、訓練はした。
武装面はオールレンジで戦えるように、予備も含めて多めに携行するようにマウントを改造。ちなみに、意外にも僕は近接格闘戦が得意らしいので、ブレードは多めに用意してもらった。
中距離戦を意識した2つのロングレンジビームライフルが主兵装。この点は通常仕様から変わらない。
後はミサイルが火力重視と速度重視で二種類、これは通常仕様にはない。
さらには|煉獄月蝕石《ムーンクォーツ・ヘル》に搭載されたSCASをダウングレードしたSASも引き続き搭載されている。
実に僕らしい、安全をみた構成の機体だ。
アリスがみたら笑われそうな心配症。
けれど、それでいてきっちりと火力をだせる。
「ーーーーこれなら、僕も君と飛べるかな?」
流石にアリス機には届かないが、ワンオフの魔石と渡り合うくらいのスペックにはなっている。
あくまでもスペック上では、だが。
あぁ、僕の|魔犬《フィーリア》。
機体の仕上がりにうっとりとする。
これは僕が機体フェチなのではない、断じて。
詰まるところ、この機体には、何が込められているのか。
それに起因する。
答えは、僕の心なのだ。
自己陶酔も多少はあるが、そこは黙殺する。
昔ならいざ知らず、今の僕は明確にアリスへの恋慕を自覚している。指令とはいえ彼女を監視する事に忌避感が無い訳ではないが、僕はそういう感情の軋轢をある程度は既に黙殺できるようになっているのは、幸か不幸か。
矛盾した恋慕と忌避、義務と無力感。その他色々。
かつて、僕には思い入れのある物語があり、その主人公には愛する者がいた。
何故か家にあった童話。
魔術師と使い魔の恋物語だ。
僕はその使い魔の名を、心として刻んだ。
魔犬にして魔剣、そして魔神、フィーリア・ブラックランタン。
これは僕の一縷の希望であり、掲げる目標。
かつて物語すら取り上げられた出来損ないの僕には、こうしてその名を騙ることくらいしか、反抗できなかった。
まやかしの父の顔が、失望に歪む。
だが、それも黙殺した。
裏腹に、笑みが溢れる。
傍から見て、それがはにかんだようなささやかなものなのか、それとも仄暗い感情からくるものなのか。
格納庫には誰もおらず、その笑みに秘められた意味を知る者はいない。
「あとはアリスに接触して、ナンバーズに加入するだけ、かな」
これは僕が機体フェチなのではない、断じて。
詰まるところ、この機体には、何が込められているのか。
それに起因する。
答えは、僕の心なのだ。
自己陶酔も多少はあるが、そこは黙殺する。
昔ならいざ知らず、今の僕は明確にアリスへの恋慕を自覚している。指令とはいえ彼女を監視する事に忌避感が無い訳ではないが、僕はそういう感情の軋轢をある程度は既に黙殺できるようになっているのは、幸か不幸か。
矛盾した恋慕と忌避、義務と無力感。その他色々。
かつて、僕には思い入れのある物語があり、その主人公には愛する者がいた。
何故か家にあった童話。
魔術師と使い魔の恋物語だ。
僕はその使い魔の名を、心として刻んだ。
魔犬にして魔剣、そして魔神、フィーリア・ブラックランタン。
これは僕の一縷の希望であり、掲げる目標。
かつて物語すら取り上げられた出来損ないの僕には、こうしてその名を騙ることくらいしか、反抗できなかった。
まやかしの父の顔が、失望に歪む。
だが、それも黙殺した。
裏腹に、笑みが溢れる。
傍から見て、それがはにかんだようなささやかなものなのか、それとも仄暗い感情からくるものなのか。
格納庫には誰もおらず、その笑みに秘められた意味を知る者はいない。
「あとはアリスに接触して、ナンバーズに加入するだけ、かな」
*
6.
某日。
ジャンク屋グリムシェイド社長室。
ドロシーとセレネによるナンバーズ関連の報告書に目を通していた社長ーレオン・グリムシェイドは、眼鏡を外して目頭をおさえた。
「グロリア、月蝕石、エリシオン事件、ナンバーズ。あの子は何になろうとしているんですかねぇ」
社長室にはドロシーのマテリアルボディが待機しているが、今は調達班に付いて作戦行動中。
レオンの呟きに反応するものはない。
付随して発生した魔石シリーズプロジェクトも頭が痛い。
以前であれば、道楽技師を抱えるだけの零細だったはずなので、そんな話は微塵も起き得ないことだったのだが、アリスがドロシーを借りだすようになって以降、社内データベースの充実ぶりが甚だしく改善、ジャンクかつピーキーな武装や機体も売れ始め、過去最高利益を更新し続けている。
そこに、今回の魔石のシリーズ化だ。
忙しいにも程がある。
それに加えて、望月重工の査察も増えた。
今回の魔石シリーズの件など、極めつけは戦艦の払い下げに、ナンバーズの非公式支援ときた。
先日の望月重工査察は、パイプラインの役員である烏月と一緒に、経営継承権付きまで同行させてのものだ。
この状況、頭が痛いといわずして、なんと言おうか。
元々厄介払いを引き取っただけのはずが、会社を動かす程のものとは、当時のレオンはもちろんこれっぽっちも考えていなかった。
道楽技師たちと好きに技術研究をやれるのが、私のこじんまりとした余生だったはずなのだが、とレオンは内心嘆く。
「ーーーーとやかく言っても仕方ありませんねぇ。細々とやっていくつもりでしたが、やるならとことん突き詰めましょうかね」
静かに決心を決める。
レオンもこう見えて、昔は改造アルトを乗り回した暴れ者。
はねっかえり共をまとめていた傑物でもあった。
そんな折、社内室をノックする音が。
「社長、来客が見えておりますが」
事務員によれば、この間烏月と一緒に査察にきたエミリオ・ゴールドスミスが単身で来ているらしい。
「ここに通してください」
さて、なんの話をするつもりやら。
レオンの中の荒々しい血が、久々に騒ぐ気がしていた。
ジャンク屋グリムシェイド社長室。
ドロシーとセレネによるナンバーズ関連の報告書に目を通していた社長ーレオン・グリムシェイドは、眼鏡を外して目頭をおさえた。
「グロリア、月蝕石、エリシオン事件、ナンバーズ。あの子は何になろうとしているんですかねぇ」
社長室にはドロシーのマテリアルボディが待機しているが、今は調達班に付いて作戦行動中。
レオンの呟きに反応するものはない。
付随して発生した魔石シリーズプロジェクトも頭が痛い。
以前であれば、道楽技師を抱えるだけの零細だったはずなので、そんな話は微塵も起き得ないことだったのだが、アリスがドロシーを借りだすようになって以降、社内データベースの充実ぶりが甚だしく改善、ジャンクかつピーキーな武装や機体も売れ始め、過去最高利益を更新し続けている。
そこに、今回の魔石のシリーズ化だ。
忙しいにも程がある。
それに加えて、望月重工の査察も増えた。
今回の魔石シリーズの件など、極めつけは戦艦の払い下げに、ナンバーズの非公式支援ときた。
先日の望月重工査察は、パイプラインの役員である烏月と一緒に、経営継承権付きまで同行させてのものだ。
この状況、頭が痛いといわずして、なんと言おうか。
元々厄介払いを引き取っただけのはずが、会社を動かす程のものとは、当時のレオンはもちろんこれっぽっちも考えていなかった。
道楽技師たちと好きに技術研究をやれるのが、私のこじんまりとした余生だったはずなのだが、とレオンは内心嘆く。
「ーーーーとやかく言っても仕方ありませんねぇ。細々とやっていくつもりでしたが、やるならとことん突き詰めましょうかね」
静かに決心を決める。
レオンもこう見えて、昔は改造アルトを乗り回した暴れ者。
はねっかえり共をまとめていた傑物でもあった。
そんな折、社内室をノックする音が。
「社長、来客が見えておりますが」
事務員によれば、この間烏月と一緒に査察にきたエミリオ・ゴールドスミスが単身で来ているらしい。
「ここに通してください」
さて、なんの話をするつもりやら。
レオンの中の荒々しい血が、久々に騒ぐ気がしていた。
*
7.
某日、昼時。
ナンバーズ基地“イマジナリ・ロスト”。
アリスは自身宛に来ていたメールを読んでいた。
ナンバーズ基地“イマジナリ・ロスト”。
アリスは自身宛に来ていたメールを読んでいた。
『
親愛なるナンバーズNo.1殿
親愛なるナンバーズNo.1殿
御機嫌よう。
エースの名と死神の機体のご活躍、常々耳に入り、さぞや満足されている事でしょう。
小生としては少々小煩く感じる日々、大変うっとおしく感じざるを得ません。
つきましては、ナンバーズ共々、消えて頂きたく。
首を洗ってお待ちいただければ幸いです。
エースの名と死神の機体のご活躍、常々耳に入り、さぞや満足されている事でしょう。
小生としては少々小煩く感じる日々、大変うっとおしく感じざるを得ません。
つきましては、ナンバーズ共々、消えて頂きたく。
首を洗ってお待ちいただければ幸いです。
地獄の縁より憎悪を込めて。
死神の口づけ盟主“ベルベット・バルデス”
』
死神の口づけ盟主“ベルベット・バルデス”
』
ご丁寧に、メールにはアリスと銃弾の写真が添付されている。
「なぁ、これについて、どう思う?」
アリスはたまたまベースにいた何人かに、意見を求めてみた。
それぞれ思案する中、一番先に口を開いたのは盟主。
「……邪魔になるなら振り払うだけだな」
ナンバーズの設立者にしてNo.4を冠する男。
しかし、頭の上に番ちゃんが乗っている辺り、あんまし聞いてなさそうだ。チキンライス食べてるし。それ、また番ちゃん肉じゃ、いや、まァ……聞くまい。
多分だが、小物臭しかしないため、そもそも敵として認識していないのだろう。
「盟主は機体に乗ってる時と力抜いてる時のギャップがスゲェよな。まァ確かにこいつ小物っぽいけどよ」
そう返すと、他のメンバーからも声が上がる。
「歓迎用の|用意《トラップ》仕掛ける?」
「むー、皆んなを虐めようとするヤツは許さないよ!」
「お、喧嘩ふっこまれてますウチら?」
十六夜とハオ、メビウスは交戦派か。
3人はそれぞれおにぎりを手にしている。
「迎撃戦でもいいが、なんとなくそこまでの相手じゃねェ気がするんだよな」
「なるべく穏便に済ましたいですが…無理でしょうか」
「やるしか…ないのか!!」
シャーリと11は穏便にしたい感じっぽい。
インドカレーに欧風カレー。スパイスが香る。
そこに部屋に入ってきてメールを見た者が、さらに意見を述べる。
「へえ…随分とご丁寧な挨拶じゃない、これは、こちらも最大限にもてなしてあげないといけないわね?」
「エースちゃんへの恨み節なんて、不愉快極まりないわ。刻むくらいなら協力するわよ」
「…なんやわかり易く砕くべき“禍”の気配やな?」
ペンテとカリータ、百。
アラビアータにペペロンチーノ、あれは蕎麦か?
「別に私が恨まれるのは、ジャンク屋の時から変わんねぇよ。まァ、全く心当たりはねぇが」
心当たりが無いというか、そもそも小物なら覚えてすらいないのが正しくはあるな。
背後の扉が開く。
住居区画から戻ってきたのは光里。
同時にラボ側の扉からランティス、それにゼロ。
「ほお?なんだか楽しそうなお手紙じゃありませんかァ?」
光里が背後から覗き込むようにメールを読み上げる。
「なかなかに香ばしい方ですねぇ」
読み上げたことで、ランティスとゼロはニヤリとした。
「ハハッ君も大変だねぇ お友達かな?」
「これは随分とcoolな友達だね、エース」
その言葉にアリスは振り向いて呆れる。
「いや、流石に友達は選ぶわ」
それまで昼餉に集中していた組も、読み上げられたことで内容を認識した。
「いずれにせよ、障害なら排除する。それだけのシンプルな話だ」
「戦うにしろ、そうでないにしても、敵意ある相手の情報は、集めておくに越した事はありません。私とレピスで可能な限り行わせていただきす」
「送り付けた事を後悔させてあげますわ」
エスタはたこ焼き……たこ焼き?!
10も、あれは、お好み焼き?
まじでベースの調理場どうなってんだ……?
「なあ、面白そうだな!なあ、なあ!」
「お前は関係ないだろ!しかもNUMBERSですら無いし!」
うむ。白焔とユーはいつも通りだな。
そんなナンバーズ連中を、そこらかしこで黄色いヒヨコが眺めている。
……番ちゃん増えたなー。
って、そんなこと考えてた訳じゃなかったわ。
メールだ、メール。
ドロシーに解析させてた返信が届いており、敵の基地と居場所はすでに丸裸。所属する機体数もたいした数ではない。
「とりあえず、敵基地の座標だけ置いとくわ。多分私だけで壊滅させられんだろ。……そうだな、2時間で帰ってこなかったら、念の為救援だしてくれ」
そう言い残したアリスは、ドッグから出撃していく。
「なぁ、これについて、どう思う?」
アリスはたまたまベースにいた何人かに、意見を求めてみた。
それぞれ思案する中、一番先に口を開いたのは盟主。
「……邪魔になるなら振り払うだけだな」
ナンバーズの設立者にしてNo.4を冠する男。
しかし、頭の上に番ちゃんが乗っている辺り、あんまし聞いてなさそうだ。チキンライス食べてるし。それ、また番ちゃん肉じゃ、いや、まァ……聞くまい。
多分だが、小物臭しかしないため、そもそも敵として認識していないのだろう。
「盟主は機体に乗ってる時と力抜いてる時のギャップがスゲェよな。まァ確かにこいつ小物っぽいけどよ」
そう返すと、他のメンバーからも声が上がる。
「歓迎用の|用意《トラップ》仕掛ける?」
「むー、皆んなを虐めようとするヤツは許さないよ!」
「お、喧嘩ふっこまれてますウチら?」
十六夜とハオ、メビウスは交戦派か。
3人はそれぞれおにぎりを手にしている。
「迎撃戦でもいいが、なんとなくそこまでの相手じゃねェ気がするんだよな」
「なるべく穏便に済ましたいですが…無理でしょうか」
「やるしか…ないのか!!」
シャーリと11は穏便にしたい感じっぽい。
インドカレーに欧風カレー。スパイスが香る。
そこに部屋に入ってきてメールを見た者が、さらに意見を述べる。
「へえ…随分とご丁寧な挨拶じゃない、これは、こちらも最大限にもてなしてあげないといけないわね?」
「エースちゃんへの恨み節なんて、不愉快極まりないわ。刻むくらいなら協力するわよ」
「…なんやわかり易く砕くべき“禍”の気配やな?」
ペンテとカリータ、百。
アラビアータにペペロンチーノ、あれは蕎麦か?
「別に私が恨まれるのは、ジャンク屋の時から変わんねぇよ。まァ、全く心当たりはねぇが」
心当たりが無いというか、そもそも小物なら覚えてすらいないのが正しくはあるな。
背後の扉が開く。
住居区画から戻ってきたのは光里。
同時にラボ側の扉からランティス、それにゼロ。
「ほお?なんだか楽しそうなお手紙じゃありませんかァ?」
光里が背後から覗き込むようにメールを読み上げる。
「なかなかに香ばしい方ですねぇ」
読み上げたことで、ランティスとゼロはニヤリとした。
「ハハッ君も大変だねぇ お友達かな?」
「これは随分とcoolな友達だね、エース」
その言葉にアリスは振り向いて呆れる。
「いや、流石に友達は選ぶわ」
それまで昼餉に集中していた組も、読み上げられたことで内容を認識した。
「いずれにせよ、障害なら排除する。それだけのシンプルな話だ」
「戦うにしろ、そうでないにしても、敵意ある相手の情報は、集めておくに越した事はありません。私とレピスで可能な限り行わせていただきす」
「送り付けた事を後悔させてあげますわ」
エスタはたこ焼き……たこ焼き?!
10も、あれは、お好み焼き?
まじでベースの調理場どうなってんだ……?
「なあ、面白そうだな!なあ、なあ!」
「お前は関係ないだろ!しかもNUMBERSですら無いし!」
うむ。白焔とユーはいつも通りだな。
そんなナンバーズ連中を、そこらかしこで黄色いヒヨコが眺めている。
……番ちゃん増えたなー。
って、そんなこと考えてた訳じゃなかったわ。
メールだ、メール。
ドロシーに解析させてた返信が届いており、敵の基地と居場所はすでに丸裸。所属する機体数もたいした数ではない。
「とりあえず、敵基地の座標だけ置いとくわ。多分私だけで壊滅させられんだろ。……そうだな、2時間で帰ってこなかったら、念の為救援だしてくれ」
そう言い残したアリスは、ドッグから出撃していく。
*
8.
死神の口づけ、及びベルベット・バルデスについて。
死神の口づけは、かつて連合傘下協力企業で経営破綻した警備会社を母体とする傭兵群である。ベルベット・バルデスはかつての社長であり、現在の群のリーダーを担う。その実態は傭兵ではあるが、極めて素行不良であり、命令違反も多いが、荒事には容赦も躊躇もなく挑んでいくため、一部の組織からは鉄砲玉として使われている、いわゆるゴロツキに近い。
「んだよ、やっぱ小物じゃねぇかよ」
「マスターの想像通りでしたね」
「どうせ反望月グループか私に恨みがあるか、そういう奴の嫌がらせ依頼だろ、これ」
「でしょうね。お姉さまのハッキングでも依頼主までは特定できませんでしたから、それなりのバックがいるのでしょう」
「まァ、そうでなきゃ、ナンバーズを相手どるなんてアホな真似しねぇわな」
「そもそも、マスターに勝てる見込みがありませんよ、彼等程度では」
「違ぇねぇ。さっさと片付けるとするかね」
ドロシーのメール内容を改めて確認しおえて、目的地座標まで、アリスはブースターを吹かせる。
死神の口づけは、かつて連合傘下協力企業で経営破綻した警備会社を母体とする傭兵群である。ベルベット・バルデスはかつての社長であり、現在の群のリーダーを担う。その実態は傭兵ではあるが、極めて素行不良であり、命令違反も多いが、荒事には容赦も躊躇もなく挑んでいくため、一部の組織からは鉄砲玉として使われている、いわゆるゴロツキに近い。
「んだよ、やっぱ小物じゃねぇかよ」
「マスターの想像通りでしたね」
「どうせ反望月グループか私に恨みがあるか、そういう奴の嫌がらせ依頼だろ、これ」
「でしょうね。お姉さまのハッキングでも依頼主までは特定できませんでしたから、それなりのバックがいるのでしょう」
「まァ、そうでなきゃ、ナンバーズを相手どるなんてアホな真似しねぇわな」
「そもそも、マスターに勝てる見込みがありませんよ、彼等程度では」
「違ぇねぇ。さっさと片付けるとするかね」
ドロシーのメール内容を改めて確認しおえて、目的地座標まで、アリスはブースターを吹かせる。
*
「ハッハー!こっちから来てやったぜ!」
オープンチャンネルで来訪を告げつつ、バスターレーザーライフルをぶっ放す。
基地格納庫の分厚い金属扉を飴細工にしたら、巻き込んだ機体を蹴り飛ばしつつ中へ。
事前情報によれば、ここは元・警備会社の地下シェルターを利用した施設で、地下に闘技場があるらしい。背後にビーコンを巻きつつ下へ下へ。
道中何機かの奇襲を軽く退け、挨拶がてら機体を壊して進む。
「やっぱ弱っちいわ」
難なく闘技場にたどり着く頃には、想定の半分を倒している。
闘技場にはその残り。
一番奥にベルベット・バルデスは陣取っていた。
「ようこそ、ナンバーズのエース。よくぞここまでたどり着いた、と褒めてやりたいところだ」
名前の通りベルベットカラーの陸戦アルトが身体を軋ませて嘲う。
特殊そうなバックパックは背負ってるが、全く威圧を感じない。
「御託はいらん。さっさと始めようぜ」
全く燃える要素のない戦いなど、アリスには退屈な作業でしかない。むしろ、戦いにすらならなそうだ。
そんなことを考えていると、ベルベットは言う。
「まぁそう急くな。とっておきの秘策を用意してあるのだ」
ゴゥン。
何かの起動音がしたと思いきや、身体が一気に重たくなる。
機体操作も鈍くなり、セレネがアラートを表示した。
これは。
「ははぁ、これは局所重力場発生装置か?なかなか金のかかるものを。アンタ金欠で会社潰れたんじゃなかったっけか?」
機体が重たくなるため、丁度いいハンデになるか?
まだ相手の威圧感は足りないので、挑発してみる。
それは想像以上にベルベットに刺さったらしい。
「黙れ!会社が潰れたのは、連合の阿呆どものせいだ!私の戦力を無碍にした挙げ句、やすやすと切り捨てた罪は、必ず償わせてやる!」
こいつ、無能なのに自覚なく、世界が自分中心じゃなきゃ済まないタイプだな?
「それを私に言うなよな。関係ないだろうが」
いい感じにキレたのが、タイミングだった。
「貴様らは目障りなんだよ!お前たち、やれ!」
総勢10機。
アルトとラビオット、それぞれそれなりにカスタムした機体。
「ハァー、生温いにも程があんぜ」
だが、全く持って不足。
これじゃ欲求不満確定だな。
「なっ?!」
|煉獄月蝕石《ムーンクォーツ・ヘル》が、連接剣を真一文字に振り抜く。
重力場にも負けない速さと鋭さは、闘技場となっていたために横一列でアリスを囲んでいた機体全てを一刀両断した。
「この程度で、私とこの死神が止まるとでも思ったか?」
力量も機体性能も全く足りん。
出直してこい。
まァ、出直す機会なんざ、もう無いけどな。
「テメェ、誰の差し金だ?死にたくなけりゃ、さっさと金の出処吐けよ」
後退るベルベットを追い詰める。
マウントからアサルトライフルに持ち替え、一歩進むごとに腕を、脚を撃ち抜いていく。
「ひ、ヒィ、馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!この私が、死ぬ?死ぬ、のか?」
あー、こいつダメだな。
この状況でこうなるか。
ま、後でドロシーに電子データ漁らせればいいか。
ズドン、。
小悪党どもを、感慨もなく始末する。
「さて、と。どっかで見てんだろ?出てこいよ」
鎌をかける。
妙な威圧感。
どこからか視線を感じていたが、その感覚はどうやら正しかったらしい。
背後に現れたのは、一頭の魔犬。
「ぁあ?テメェ、なんでうちがテスト中の機体をーーー」
アリスが言い終える前に、魔犬ー|魔晶石《ガルムクォーツ》らしき機体が、飛びかかってくる。
得物は大小のブレード。
大型機の懐に入って片をつけようという魂胆か!
通信にはだんまりを決め込むが、その熱意は感じる。
「いいぜ、戦おうや!」
連接剣はこの空間じゃ使いづらい。
温まっていないヒートチャージブレードとアサルトライフルを握り込み、ブレードの連撃を受け止める。
「ーーーー!」
間髪入れず、間合いをとり、同時にブレードを投擲。
流れるような動作で腰からロングレンジビームライフルを取り上げると、ミサイルとともに斉射。
こいつぁ中々の手練!
そう感じた瞬間、肩プレートを盾にし、距離を詰める。
電磁パルスフィールドを機体表面に展開、強化フレームに物を言わせた回し蹴りを繰出せば、背中のユニットからブレードを引き抜いて刃で受け流す。
ギャリギャリと装甲やフレームから散る火花。
遠心力に任せたヒートブレードとテールブレードもお見舞いしてやるが、魔犬は意にも介さず回避してのける。
こっちが立体機動しづらい空間をうまく利用しやがる!
アリスの内心の舌打ちが聞こえたかのように、魔犬は狭い空間を縦横無尽に駆け巡る。
ライフルとブレード、ミサイル。
装甲を抜かれるほどの威力はなくとも、うっとおしい。
それ以上に、防御の電磁パルスによるエネルギー損耗が激しい。
「ハッハー!やるじゃねぇか!その新型をよくぞこの短期間でそれほど使えるように仕上げたな!」
純粋に称賛に値する。
アリスはわずかに、しかし明確に威圧を感じている。
つまり、この魔犬は戦うに値する。
技術は荒いが、コイツは伸びる。
敵にしておくには惜しい。
鹵獲、するか?
魔石の新型に乗ってるのも気になる。
「私の興味を引くくらいには強いらしいな。だが、その程度じゃ私は墜とせねぇぞ!」
気迫の一閃。
ヒートチャージブレードによる鋭い踏み込み。
しかし本命は別にある。
鈍く鋼を打ちつける音とともに、ブレードで受けた魔犬が吹き飛ぶ。闘技場の柱を2本ほどぶちぬいてなお、すぐに立ち上がる。
「中々タフだな。だが、もうじき動けなくなるぞ?」
なぜなら、戦闘しながらウイルスインジェクターを散布しているから。
地下構造は相対的に小さい魔犬に有利だが、こっちの極小ロイロイならば関係ない。むしろ風がない分扱いやすい。
「ーーーーー!!」
そうら効いてきた。
魔犬の動きは如実に鈍り、まさに感染したかのよう。
ゆっくりと近づいていくと、だんまりを決め込んでいた魔犬のコックピットが開き、ナノマシン溶液のプールから人影が立ち上がる。
同時に回線も開かれた。
オープンチャンネルで来訪を告げつつ、バスターレーザーライフルをぶっ放す。
基地格納庫の分厚い金属扉を飴細工にしたら、巻き込んだ機体を蹴り飛ばしつつ中へ。
事前情報によれば、ここは元・警備会社の地下シェルターを利用した施設で、地下に闘技場があるらしい。背後にビーコンを巻きつつ下へ下へ。
道中何機かの奇襲を軽く退け、挨拶がてら機体を壊して進む。
「やっぱ弱っちいわ」
難なく闘技場にたどり着く頃には、想定の半分を倒している。
闘技場にはその残り。
一番奥にベルベット・バルデスは陣取っていた。
「ようこそ、ナンバーズのエース。よくぞここまでたどり着いた、と褒めてやりたいところだ」
名前の通りベルベットカラーの陸戦アルトが身体を軋ませて嘲う。
特殊そうなバックパックは背負ってるが、全く威圧を感じない。
「御託はいらん。さっさと始めようぜ」
全く燃える要素のない戦いなど、アリスには退屈な作業でしかない。むしろ、戦いにすらならなそうだ。
そんなことを考えていると、ベルベットは言う。
「まぁそう急くな。とっておきの秘策を用意してあるのだ」
ゴゥン。
何かの起動音がしたと思いきや、身体が一気に重たくなる。
機体操作も鈍くなり、セレネがアラートを表示した。
これは。
「ははぁ、これは局所重力場発生装置か?なかなか金のかかるものを。アンタ金欠で会社潰れたんじゃなかったっけか?」
機体が重たくなるため、丁度いいハンデになるか?
まだ相手の威圧感は足りないので、挑発してみる。
それは想像以上にベルベットに刺さったらしい。
「黙れ!会社が潰れたのは、連合の阿呆どものせいだ!私の戦力を無碍にした挙げ句、やすやすと切り捨てた罪は、必ず償わせてやる!」
こいつ、無能なのに自覚なく、世界が自分中心じゃなきゃ済まないタイプだな?
「それを私に言うなよな。関係ないだろうが」
いい感じにキレたのが、タイミングだった。
「貴様らは目障りなんだよ!お前たち、やれ!」
総勢10機。
アルトとラビオット、それぞれそれなりにカスタムした機体。
「ハァー、生温いにも程があんぜ」
だが、全く持って不足。
これじゃ欲求不満確定だな。
「なっ?!」
|煉獄月蝕石《ムーンクォーツ・ヘル》が、連接剣を真一文字に振り抜く。
重力場にも負けない速さと鋭さは、闘技場となっていたために横一列でアリスを囲んでいた機体全てを一刀両断した。
「この程度で、私とこの死神が止まるとでも思ったか?」
力量も機体性能も全く足りん。
出直してこい。
まァ、出直す機会なんざ、もう無いけどな。
「テメェ、誰の差し金だ?死にたくなけりゃ、さっさと金の出処吐けよ」
後退るベルベットを追い詰める。
マウントからアサルトライフルに持ち替え、一歩進むごとに腕を、脚を撃ち抜いていく。
「ひ、ヒィ、馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!この私が、死ぬ?死ぬ、のか?」
あー、こいつダメだな。
この状況でこうなるか。
ま、後でドロシーに電子データ漁らせればいいか。
ズドン、。
小悪党どもを、感慨もなく始末する。
「さて、と。どっかで見てんだろ?出てこいよ」
鎌をかける。
妙な威圧感。
どこからか視線を感じていたが、その感覚はどうやら正しかったらしい。
背後に現れたのは、一頭の魔犬。
「ぁあ?テメェ、なんでうちがテスト中の機体をーーー」
アリスが言い終える前に、魔犬ー|魔晶石《ガルムクォーツ》らしき機体が、飛びかかってくる。
得物は大小のブレード。
大型機の懐に入って片をつけようという魂胆か!
通信にはだんまりを決め込むが、その熱意は感じる。
「いいぜ、戦おうや!」
連接剣はこの空間じゃ使いづらい。
温まっていないヒートチャージブレードとアサルトライフルを握り込み、ブレードの連撃を受け止める。
「ーーーー!」
間髪入れず、間合いをとり、同時にブレードを投擲。
流れるような動作で腰からロングレンジビームライフルを取り上げると、ミサイルとともに斉射。
こいつぁ中々の手練!
そう感じた瞬間、肩プレートを盾にし、距離を詰める。
電磁パルスフィールドを機体表面に展開、強化フレームに物を言わせた回し蹴りを繰出せば、背中のユニットからブレードを引き抜いて刃で受け流す。
ギャリギャリと装甲やフレームから散る火花。
遠心力に任せたヒートブレードとテールブレードもお見舞いしてやるが、魔犬は意にも介さず回避してのける。
こっちが立体機動しづらい空間をうまく利用しやがる!
アリスの内心の舌打ちが聞こえたかのように、魔犬は狭い空間を縦横無尽に駆け巡る。
ライフルとブレード、ミサイル。
装甲を抜かれるほどの威力はなくとも、うっとおしい。
それ以上に、防御の電磁パルスによるエネルギー損耗が激しい。
「ハッハー!やるじゃねぇか!その新型をよくぞこの短期間でそれほど使えるように仕上げたな!」
純粋に称賛に値する。
アリスはわずかに、しかし明確に威圧を感じている。
つまり、この魔犬は戦うに値する。
技術は荒いが、コイツは伸びる。
敵にしておくには惜しい。
鹵獲、するか?
魔石の新型に乗ってるのも気になる。
「私の興味を引くくらいには強いらしいな。だが、その程度じゃ私は墜とせねぇぞ!」
気迫の一閃。
ヒートチャージブレードによる鋭い踏み込み。
しかし本命は別にある。
鈍く鋼を打ちつける音とともに、ブレードで受けた魔犬が吹き飛ぶ。闘技場の柱を2本ほどぶちぬいてなお、すぐに立ち上がる。
「中々タフだな。だが、もうじき動けなくなるぞ?」
なぜなら、戦闘しながらウイルスインジェクターを散布しているから。
地下構造は相対的に小さい魔犬に有利だが、こっちの極小ロイロイならば関係ない。むしろ風がない分扱いやすい。
「ーーーーー!!」
そうら効いてきた。
魔犬の動きは如実に鈍り、まさに感染したかのよう。
ゆっくりと近づいていくと、だんまりを決め込んでいた魔犬のコックピットが開き、ナノマシン溶液のプールから人影が立ち上がる。
同時に回線も開かれた。
「やぁ、こないだぶりですね、アリス」
エミリオは、その光景を目の当たりにして、身体を震わせた。
凄まじい威圧感をまとう死神、|煉獄月蝕石《ムーンクォーツ・ヘル》は、今にも僕をとり殺しそうだった。
けれど、僕の歓喜に比べれば、それは些細な事だ。
「テメェ、またその名を……いや、それは後でだな。……なんで此処にいる?その魔犬はなんだ?」
コックピットが開く。
相変わらず、身内には甘いね、アリス。
怒りと疑問を滲ませたその可愛い顔を、戦場で間近に見ることができて嬉しいよ。
それを作り出したのが僕だという事実が、なお喜びを深くする。
「相変わらずせっかちですねぇ」
知らず、笑みがこぼれてしまい、アリスは怒りを強く顕にした。
「勿体ぶんじゃねぇ、はったおすぞ」
それでも相手が僕だから、少しは抑えてくれている。
そんなやりとりを、僕は進んで楽しんでしまっている。
「ふふ。僕もナンバーズに入れてもらおうと思いまして」
もう、笑みは隠さなくても、いいかな。
「ーーーハァ?」
疑問と呆れ。
わかるよ、僕みたいな弱虫、そぐわないと思うんだろ?
僕もそう思うんだ、君がそう感じるのは当たり前だよね。
でも、だからこそ、僕はナンバーズに入る理由がある。
「僕はね、君みたいに強くなりたいんですよ。あわよくば居場所が欲しいんです。だから、本社の説得も終わらせた。魔犬の、ひいては今後の魔石シリーズの改良データ取得を材料に、ナンバーズに出向する事を認めさせたんですよ」
一息に詰め込む。
アリスが何か言う前に、言い切る。
直感で見破られては元も子もない。
本当は、ベルベットも僕がけしかけた。
ナンバーズに入る理由も君の監視。
僕は平気で偽りを話す。
「ーーーほぉ?随分と思い切った事をしやがるじゃねぇか。んで?なんでここに居た?」
アリスは裁定者の瞳で、僕を見下ろす。
僕は嘘を重ねた。
「|煉獄月蝕石《ムーンクォーツ・ヘル》の信号を追いました。そしたら君が戦っていたので、観戦させてもらっていました。君と戦ったのは、この機体でどこまでやれるか、試してみたかったから、ですかね」
真偽入り混じる言葉は、果たして。
凄まじい威圧感をまとう死神、|煉獄月蝕石《ムーンクォーツ・ヘル》は、今にも僕をとり殺しそうだった。
けれど、僕の歓喜に比べれば、それは些細な事だ。
「テメェ、またその名を……いや、それは後でだな。……なんで此処にいる?その魔犬はなんだ?」
コックピットが開く。
相変わらず、身内には甘いね、アリス。
怒りと疑問を滲ませたその可愛い顔を、戦場で間近に見ることができて嬉しいよ。
それを作り出したのが僕だという事実が、なお喜びを深くする。
「相変わらずせっかちですねぇ」
知らず、笑みがこぼれてしまい、アリスは怒りを強く顕にした。
「勿体ぶんじゃねぇ、はったおすぞ」
それでも相手が僕だから、少しは抑えてくれている。
そんなやりとりを、僕は進んで楽しんでしまっている。
「ふふ。僕もナンバーズに入れてもらおうと思いまして」
もう、笑みは隠さなくても、いいかな。
「ーーーハァ?」
疑問と呆れ。
わかるよ、僕みたいな弱虫、そぐわないと思うんだろ?
僕もそう思うんだ、君がそう感じるのは当たり前だよね。
でも、だからこそ、僕はナンバーズに入る理由がある。
「僕はね、君みたいに強くなりたいんですよ。あわよくば居場所が欲しいんです。だから、本社の説得も終わらせた。魔犬の、ひいては今後の魔石シリーズの改良データ取得を材料に、ナンバーズに出向する事を認めさせたんですよ」
一息に詰め込む。
アリスが何か言う前に、言い切る。
直感で見破られては元も子もない。
本当は、ベルベットも僕がけしかけた。
ナンバーズに入る理由も君の監視。
僕は平気で偽りを話す。
「ーーーほぉ?随分と思い切った事をしやがるじゃねぇか。んで?なんでここに居た?」
アリスは裁定者の瞳で、僕を見下ろす。
僕は嘘を重ねた。
「|煉獄月蝕石《ムーンクォーツ・ヘル》の信号を追いました。そしたら君が戦っていたので、観戦させてもらっていました。君と戦ったのは、この機体でどこまでやれるか、試してみたかったから、ですかね」
真偽入り混じる言葉は、果たして。
「ーーーーー嘘は、ねぇだろうな?」
「もちろん」
アリスは何も言わず、僕のことをじっと見据えた。
射抜くような視線に、僕は怯まない。
アリスが信じてくれると、僕も信じているから。
「……ふん、なら良い。とりあえず表に出るぞ。ここにゃもう用はねぇからな」
ややあって、アリスはふっと目線を外した。
それからすぐにコックピットを閉めてしまう。
「ーーーーあと15分。ちょうどいいな」
そのつぶやきは、僕には届かなかった。
アリスは何も言わず、僕のことをじっと見据えた。
射抜くような視線に、僕は怯まない。
アリスが信じてくれると、僕も信じているから。
「……ふん、なら良い。とりあえず表に出るぞ。ここにゃもう用はねぇからな」
ややあって、アリスはふっと目線を外した。
それからすぐにコックピットを閉めてしまう。
「ーーーーあと15分。ちょうどいいな」
そのつぶやきは、僕には届かなかった。
*
9.
アリスがウイルスインジェクターを回収したことで、|月蝕魔晶石《ガルムクォーツ・フィーリア》は再び元気になった。
動力炉をいななかせ、僕はアリスの後に続いて地上へ。
そして僕は、驚愕することとなった。
動力炉をいななかせ、僕はアリスの後に続いて地上へ。
そして僕は、驚愕することとなった。
「時間ぴったしだな」
アリスの声とともに、上空から降ってくるいくつもの影。
まず降り立つのは、翼を携えた純白。
スノウブライド。
続けて、僕らを取り囲むように。
アイオロス。スティグマータにホットグルーム。
ヴェスピナス、オクテット、デクテットに11仕様のエスポジット、グレイドレッド、幻月、スピナティオ・アッシュ、桃染・魔凛、ビートスターにMODE-RED。
総勢15機の|数字持ち《ナンバーズ》が次々と現れたのだ。
極めつけは、黒雲を呼び寄せ、雷鳴を轟かす魔鳥サンダーバードまでが上空を旋回している。
地面に着地する重低音が、その荘厳さを肯定する。
ナンバーズ。
全員ではないにしろ、これだけの人数が集まるところを見られるとは。
全員が着地すると、アリスは回線を開く。
「皆、すまん。もう殲滅した」
「終わったならちゃんと連絡しろ。皆にいらない心配をかけるな」
アリスの救援に来てくれたであろうメンバーに謝罪する。
これは2時間と告げてでたアリスが、時間内に通信をしなかったために救難に出たものらしいと、あとで知った。
基地内をサーチしていた十六夜がつぶやく。
「……ん。確かに生命反応はない」
続いて盟主である4が口を開いた。
「無事ならいい。ところで、その機体は?」
そして皆の疑問を代表した。
その機体、すなわち、僕の乗る魔犬は何か、と。
「ーーーこいつはナンバーズに入りたいって此処まで来た私の知り合いでな」
アリスは僕を指して言う。
一体何を言うつもりなのだろう。
「ほぉ?エースの知り合い、ですか。ふぅん?」
値踏みするような視線と声。
他にも多数の注目の的にされて、すごく居心地が悪い。
だけど、そんなものはアリスの言葉が吹き飛ばしてしまう。
「せっかく集まってもらってるし、皆には入団試験の立会人になって欲しいんだわ」
え、なんだって?
一気に不安が湧き上がる。
そんなものがあるなんて、聞いてない。
そんな情報も、なかった。
僕の調べが甘かったのか?
「え、入団試験とかあったっけ……?」
「いえ、ないはずよ。エースちゃん、一体何を?」
いや、5さんや6さんがつぶやいていることからも、アリスの気まぐれっぽい。
なんだ、やっぱりそんなもの無いんじゃないか。
そう考えた時、その試験は、他ならぬ盟主によって認められた。
「……1がそういうのなら、好きにして構わない。試験内容はどうするんだ?」
アリスを見据え、真意をはかるように、4は問いかける。
その問いにたいして、アリスはただ静かにこう告げた。
まず降り立つのは、翼を携えた純白。
スノウブライド。
続けて、僕らを取り囲むように。
アイオロス。スティグマータにホットグルーム。
ヴェスピナス、オクテット、デクテットに11仕様のエスポジット、グレイドレッド、幻月、スピナティオ・アッシュ、桃染・魔凛、ビートスターにMODE-RED。
総勢15機の|数字持ち《ナンバーズ》が次々と現れたのだ。
極めつけは、黒雲を呼び寄せ、雷鳴を轟かす魔鳥サンダーバードまでが上空を旋回している。
地面に着地する重低音が、その荘厳さを肯定する。
ナンバーズ。
全員ではないにしろ、これだけの人数が集まるところを見られるとは。
全員が着地すると、アリスは回線を開く。
「皆、すまん。もう殲滅した」
「終わったならちゃんと連絡しろ。皆にいらない心配をかけるな」
アリスの救援に来てくれたであろうメンバーに謝罪する。
これは2時間と告げてでたアリスが、時間内に通信をしなかったために救難に出たものらしいと、あとで知った。
基地内をサーチしていた十六夜がつぶやく。
「……ん。確かに生命反応はない」
続いて盟主である4が口を開いた。
「無事ならいい。ところで、その機体は?」
そして皆の疑問を代表した。
その機体、すなわち、僕の乗る魔犬は何か、と。
「ーーーこいつはナンバーズに入りたいって此処まで来た私の知り合いでな」
アリスは僕を指して言う。
一体何を言うつもりなのだろう。
「ほぉ?エースの知り合い、ですか。ふぅん?」
値踏みするような視線と声。
他にも多数の注目の的にされて、すごく居心地が悪い。
だけど、そんなものはアリスの言葉が吹き飛ばしてしまう。
「せっかく集まってもらってるし、皆には入団試験の立会人になって欲しいんだわ」
え、なんだって?
一気に不安が湧き上がる。
そんなものがあるなんて、聞いてない。
そんな情報も、なかった。
僕の調べが甘かったのか?
「え、入団試験とかあったっけ……?」
「いえ、ないはずよ。エースちゃん、一体何を?」
いや、5さんや6さんがつぶやいていることからも、アリスの気まぐれっぽい。
なんだ、やっぱりそんなもの無いんじゃないか。
そう考えた時、その試験は、他ならぬ盟主によって認められた。
「……1がそういうのなら、好きにして構わない。試験内容はどうするんだ?」
アリスを見据え、真意をはかるように、4は問いかける。
その問いにたいして、アリスはただ静かにこう告げた。
「機体が動かなくなるまでに、“本気の私”に一撃入れる。シンプルだろ?」
なんてことを、言い出すのか。
本気のアリスと|煉獄月蝕石《ムーンクォーツ・ヘル》に、一撃を入れるだなんて。
「わかった。では、そこの。名乗りをあげて試験を受けるといい」
しかし、ナンバーズの面々が見ている中で拒否はできない。
これはアリスが僕の覚悟を問うているということなのだろうか。
アリスのように強くなるのなら、確かに本気を見せねばならない。
きっとそういう事なのだろう。
……なんだ、いつもの通り。簡単じゃないか。
覚悟が決まって、僕の中の焦りがなりをひそめる。
本気のアリスと|煉獄月蝕石《ムーンクォーツ・ヘル》に、一撃を入れるだなんて。
「わかった。では、そこの。名乗りをあげて試験を受けるといい」
しかし、ナンバーズの面々が見ている中で拒否はできない。
これはアリスが僕の覚悟を問うているということなのだろうか。
アリスのように強くなるのなら、確かに本気を見せねばならない。
きっとそういう事なのだろう。
……なんだ、いつもの通り。簡単じゃないか。
覚悟が決まって、僕の中の焦りがなりをひそめる。
「エミリオ・ゴールドスミス。機体は|月蝕魔晶石《ガルムクォーツ・フィーリア》。居場所と強さを求めてナンバーズ加入を希望します。No.77、ラックレスの座を賭けて、僕と戦ってくれますか、ミス・ピルグリム?」
僕は最初から、アリスしか見ていないのだから。
いつも通りに、目的までやりきるんだ。
その宣言を聞いて、ナンバーズ機が距離を取る。
アリスは死神を進ませて、改めて僕に対峙した。
「エミリオ。私はお前の事を弟分だと思ってるが、手加減はなしだ」
「望むところです」
そもそも手加減なんて知らないでしょ。
僕は心の声とともに、気を引き締める。
試合の開始は、盟主のコールとともに。
「……では試験を始める」
言い終えると同時に、アリスはアクセルをベタ踏みした。
いつも通りに、目的までやりきるんだ。
その宣言を聞いて、ナンバーズ機が距離を取る。
アリスは死神を進ませて、改めて僕に対峙した。
「エミリオ。私はお前の事を弟分だと思ってるが、手加減はなしだ」
「望むところです」
そもそも手加減なんて知らないでしょ。
僕は心の声とともに、気を引き締める。
試合の開始は、盟主のコールとともに。
「……では試験を始める」
言い終えると同時に、アリスはアクセルをベタ踏みした。
「ーーーーSCASバースト!私の全力で!お前を墜とす!!」
時限コマンドからの高速思考処理。
早打ちガンマンの如くマウントのダブルライフルを抜くと、トリガーを引いた。
アサルトライフル、レーザーライフル、加えて魔砲杖からはホーミングビームが千々と舞い、ミサイルポッドからはやや弾速の遅いミサイルが牙をむく。
死神は僕を殺す勢いで猛チャージ。
ここまでほとんど一息。
僕も同時に動いている。
「SASバースト!出し惜しみはしない!後悔、したくない……!!」
同じく時限コマンドによる高速思考。
ダウングレード版でも、やるしかない。
ロングレンジビームライフルではだめだ、即座に切り捨ててブレードを抜く。
腰マウントにセットしたミサイルとバックパックのミサイルを放つ。
手数が足りないので、ブレードを投擲、火力を相殺するとともに、予備のブレードを2本使用。
チャージしてくるアリスと交錯するが、ブレードに手応えはなく、逆に弾丸が装甲を叩き、レーザーが一部を貫く衝撃が走った。
こんな攻防、今まで一度たりともなかった。
アリスから発せられる殺気は本物だ。
今だって僕を蜂の巣にするつもりだった。
真後ろにターンする。
強烈なGが身体を襲うが、ナノマシン溶液が密度を操作し、僕を保護、僕は補助による締め付けの痛みも気にせずに魔犬を前へ!
モニターにはすでにターンを終えてこちらに迫るアリスの姿。
ブレードを構え、最初と同じミサイルと光弾を引き連れての2ターン目。
「引いて、たまるかっーーー!!!」
意地と根性で魔犬をトップスピードへ。
焼け付くほどにブーストをかけて、僕はさらに加速する。
火器はいらない!
装甲とともに全てをパージし、ブースターとブレードのみの姿に変わると、僕は地を這うひとふりの剣と化した。
限界だ。
SASバーストの残り時間、数秒。
これで!決める!!
二度目の交錯。
白と黒がお互いに色を引く、美しいシンメトリ。
静寂は一瞬だった。
“SAS Burst Locked...”
モニターのアラート表示はひび割れている。
ビームとブレードを食らった装甲なしの魔犬が、オリジナルの攻撃を耐えられるはずもなかった。
明滅するモニターが、ぐらついて地面を映す。
届かなかった。
僕の意識は、その想いを最後に、闇に沈んでいった。
早打ちガンマンの如くマウントのダブルライフルを抜くと、トリガーを引いた。
アサルトライフル、レーザーライフル、加えて魔砲杖からはホーミングビームが千々と舞い、ミサイルポッドからはやや弾速の遅いミサイルが牙をむく。
死神は僕を殺す勢いで猛チャージ。
ここまでほとんど一息。
僕も同時に動いている。
「SASバースト!出し惜しみはしない!後悔、したくない……!!」
同じく時限コマンドによる高速思考。
ダウングレード版でも、やるしかない。
ロングレンジビームライフルではだめだ、即座に切り捨ててブレードを抜く。
腰マウントにセットしたミサイルとバックパックのミサイルを放つ。
手数が足りないので、ブレードを投擲、火力を相殺するとともに、予備のブレードを2本使用。
チャージしてくるアリスと交錯するが、ブレードに手応えはなく、逆に弾丸が装甲を叩き、レーザーが一部を貫く衝撃が走った。
こんな攻防、今まで一度たりともなかった。
アリスから発せられる殺気は本物だ。
今だって僕を蜂の巣にするつもりだった。
真後ろにターンする。
強烈なGが身体を襲うが、ナノマシン溶液が密度を操作し、僕を保護、僕は補助による締め付けの痛みも気にせずに魔犬を前へ!
モニターにはすでにターンを終えてこちらに迫るアリスの姿。
ブレードを構え、最初と同じミサイルと光弾を引き連れての2ターン目。
「引いて、たまるかっーーー!!!」
意地と根性で魔犬をトップスピードへ。
焼け付くほどにブーストをかけて、僕はさらに加速する。
火器はいらない!
装甲とともに全てをパージし、ブースターとブレードのみの姿に変わると、僕は地を這うひとふりの剣と化した。
限界だ。
SASバーストの残り時間、数秒。
これで!決める!!
二度目の交錯。
白と黒がお互いに色を引く、美しいシンメトリ。
静寂は一瞬だった。
“SAS Burst Locked...”
モニターのアラート表示はひび割れている。
ビームとブレードを食らった装甲なしの魔犬が、オリジナルの攻撃を耐えられるはずもなかった。
明滅するモニターが、ぐらついて地面を映す。
届かなかった。
僕の意識は、その想いを最後に、闇に沈んでいった。
*
10.
目を覚ますと、知らない天井だった。
「あ、目を覚ましたよ」
はい、と眼鏡を手渡されてかける。
手渡してくれたのは、無垢な笑みを浮かべる獣耳の少女。
No.80、ハオさん。頭の上には黄色いヒヨコが鎮座している。
それから、No.5ペンテさんとNo.6カリータさんがこちらへやってくる。
「あ、起きたのね。気分は大丈夫?どこか痛い所は?」
「6も80も、番ちゃんがいるとはいえ、少し気を許しすぎよ。それと、寝起きの所悪いけれど、貴方にはもう少し大人しくしていて貰うわ」
ペンテさんの腰にはホルダーに入った銃が下がっている。
「えっと、ここはどこでしょうか?」
「ここはナンバーズ基地内の医務室だよ」
ハオさんの笑みには敵意を感じないが、カリータさんからは様子を伺う雰囲気が感じられ、ペンテさんからは明確に疑いを向けられている。
ベルベットをけしかけた件がバレたかな。
そんな考えが頭をよぎる。
確かに基地のデータを消し切ることはできなかった。
それを肯定するように、医務室に新たに3人が入ってくる。
「……後少し起きるのが遅かったら、すごく苦い気付け薬を飲ませてた」
「おはようございます。体調は…大丈夫そうですね。良かったです」
「なんですか、こんなチンチクリンなボーヤがエースさんの元上司で、今回の喧嘩の売り主ですか?ほーおぉ?」
No.16十六夜さん、No.831シャーリさん、No.7光里さん。
特に光里さんからの疑惑の目が痛い。
女性だらけで居心地悪い、などと考えている場合ではないらしい。
女性陣は、光里さんに僕の脇の席を譲る。
その隣にペンテさんが立ち、ホルダーの銃に手をかけた。
「安心しなさい、実弾ではなくてゴム弾よ。当たっても悶絶するくらいで済むわ」
僕の視線に、ペンテはすぐに答えた。
問答無用ではないが、光里さんが蛇の目をしていることからも、簡単に切り抜けられる訳ではない。
「サァて、ナンバーズ加入試験の追試を始めましょうか」
ごくりと唾を飲む。
「先の傭兵崩れ達の予告、貴方が関与したのは間違いない?だとすれば、ナンバーズに潜入しようとしたのは何故です?」
蛇の目に、見透かされている。
深の深まで覗き込まれているかのような感覚に、僕は覚悟を決めて口を開く。
「……僕がベルベット・バルデスを唆しました」
権謀術数には淘汰された僕だが、経営権氏族に生まれた成果を今出さずしていつ出すのか。
光里がすっと目を細めた。
「ほぉ?案外素直ですねェ?」
よどみなく答える。
全てが予想通りだと演じる。
「えぇ。僕の最終目標はアリスですから」
どもったり、詰まったりするものか。
「では続けてください?」
一挙手一投足まで気を抜けない。
「まず、前提からお話しましょう」
そうして僕は、自身の出自とアリスとの出会いを語った。
詳細はもちろん、僕の恋慕も省いている。
できるだけ手短に。
そして、僕は望月重工からアリスを監視するように言われていると、嘯いた。
「ふむ。では、貴方はエースさんだけを監視するおつもりで?キヒッ、冗談はやめましょうよ。そんな甘っちょろいものじゃないですよねぇ?貴方はナンバーズを内から監視するために入るつもりなんでしょう?」
見透かされるな。隙を見せるな。
「やはり、そう思いますか?」
隊長としてやってきた殻をかぶって冷静を装う。
「当然でしょう」
今までこんなに踏み込まれたのはアリスかクラリスくらい。
手に汗がにじむが、それすら無視して、視線を受け止める。
「仮にそうだとして。望月重工はナンバーズと敵対しませんよ。リスクが大きすぎる。せいぜい動向を掴んでおく程度にしか、僕は信頼されていませんから」
僕は捨て駒であると称する。
実際にその通りだし、それで納得してくれると有り難いが。
「経営権継承順位77番には、その程度の価値しかない、と?」
やはり引いてはくれない。
「逆に考えてみてください。経営権継承の権利があるとはいえ、競争に破れてドロップアウトした末端を、そこまで信頼できますか?僕が経営陣にいたなら、利用こそすれ信頼はしません」
僕の補強に、光里さんは顎に指をあてた。
「一理あります、かねェ」
畳み掛ける。
「故に僕には、アリスを監視するという命令しか与えられていない。魔犬部隊と戦艦を預けられているのに、です」
さて、どうだろうか。
「ーーーーーー」
ダメ押しで、こう付け加える。
「圧倒的に下っ端で、会社にとって枝葉にも満たないんですよ、僕の存在は」
光里さんは間髪入れずに言葉を返す。
まるで僕が焦っているように見えたのか、それとも。
「しかし、専用機は与えられている。それも条件次第ではエースの死神についていける高性能、しかも次世代型と謳われる仕様。ーーー貴方は自身を枝葉未満と言いましたけど、矛盾しちゃあいませんかねェ?」
実際に矛盾などない。
魔犬や魔石は確かにジャンク屋の結晶だが、望月重工にとっては数ある原石の一つでしかない。それは事実。
矛盾があるとすれば、それは僕の内心とここ最近の評価くらいか。
「その点については、まぁ、僕も驚いていますよ。アリスが去った跡の治安維持部隊で必死にやってきただけで、エースに担ぎ上げられ、試験機パイロットに選ばれ、密命がくだされただけで、扱いとしては多少使える捨て駒ですよ。なんの矛盾もないと思いますが」
僕は左遷された身だ。
使える経営権継承者ではなく、落ちこぼれて現場で足掻いているだけの捨て駒。
だが、その認識が、どうやら光里とは違うらしい。
「噛み合いませんねぇ、それが矛盾だと言ってるんですよ」
呆れたように言う。
だが、その指摘こそ的はずれだ。
本当に期待されるような人材ならば、僕はここにいるはずが無いのだから。
「あ、目を覚ましたよ」
はい、と眼鏡を手渡されてかける。
手渡してくれたのは、無垢な笑みを浮かべる獣耳の少女。
No.80、ハオさん。頭の上には黄色いヒヨコが鎮座している。
それから、No.5ペンテさんとNo.6カリータさんがこちらへやってくる。
「あ、起きたのね。気分は大丈夫?どこか痛い所は?」
「6も80も、番ちゃんがいるとはいえ、少し気を許しすぎよ。それと、寝起きの所悪いけれど、貴方にはもう少し大人しくしていて貰うわ」
ペンテさんの腰にはホルダーに入った銃が下がっている。
「えっと、ここはどこでしょうか?」
「ここはナンバーズ基地内の医務室だよ」
ハオさんの笑みには敵意を感じないが、カリータさんからは様子を伺う雰囲気が感じられ、ペンテさんからは明確に疑いを向けられている。
ベルベットをけしかけた件がバレたかな。
そんな考えが頭をよぎる。
確かに基地のデータを消し切ることはできなかった。
それを肯定するように、医務室に新たに3人が入ってくる。
「……後少し起きるのが遅かったら、すごく苦い気付け薬を飲ませてた」
「おはようございます。体調は…大丈夫そうですね。良かったです」
「なんですか、こんなチンチクリンなボーヤがエースさんの元上司で、今回の喧嘩の売り主ですか?ほーおぉ?」
No.16十六夜さん、No.831シャーリさん、No.7光里さん。
特に光里さんからの疑惑の目が痛い。
女性だらけで居心地悪い、などと考えている場合ではないらしい。
女性陣は、光里さんに僕の脇の席を譲る。
その隣にペンテさんが立ち、ホルダーの銃に手をかけた。
「安心しなさい、実弾ではなくてゴム弾よ。当たっても悶絶するくらいで済むわ」
僕の視線に、ペンテはすぐに答えた。
問答無用ではないが、光里さんが蛇の目をしていることからも、簡単に切り抜けられる訳ではない。
「サァて、ナンバーズ加入試験の追試を始めましょうか」
ごくりと唾を飲む。
「先の傭兵崩れ達の予告、貴方が関与したのは間違いない?だとすれば、ナンバーズに潜入しようとしたのは何故です?」
蛇の目に、見透かされている。
深の深まで覗き込まれているかのような感覚に、僕は覚悟を決めて口を開く。
「……僕がベルベット・バルデスを唆しました」
権謀術数には淘汰された僕だが、経営権氏族に生まれた成果を今出さずしていつ出すのか。
光里がすっと目を細めた。
「ほぉ?案外素直ですねェ?」
よどみなく答える。
全てが予想通りだと演じる。
「えぇ。僕の最終目標はアリスですから」
どもったり、詰まったりするものか。
「では続けてください?」
一挙手一投足まで気を抜けない。
「まず、前提からお話しましょう」
そうして僕は、自身の出自とアリスとの出会いを語った。
詳細はもちろん、僕の恋慕も省いている。
できるだけ手短に。
そして、僕は望月重工からアリスを監視するように言われていると、嘯いた。
「ふむ。では、貴方はエースさんだけを監視するおつもりで?キヒッ、冗談はやめましょうよ。そんな甘っちょろいものじゃないですよねぇ?貴方はナンバーズを内から監視するために入るつもりなんでしょう?」
見透かされるな。隙を見せるな。
「やはり、そう思いますか?」
隊長としてやってきた殻をかぶって冷静を装う。
「当然でしょう」
今までこんなに踏み込まれたのはアリスかクラリスくらい。
手に汗がにじむが、それすら無視して、視線を受け止める。
「仮にそうだとして。望月重工はナンバーズと敵対しませんよ。リスクが大きすぎる。せいぜい動向を掴んでおく程度にしか、僕は信頼されていませんから」
僕は捨て駒であると称する。
実際にその通りだし、それで納得してくれると有り難いが。
「経営権継承順位77番には、その程度の価値しかない、と?」
やはり引いてはくれない。
「逆に考えてみてください。経営権継承の権利があるとはいえ、競争に破れてドロップアウトした末端を、そこまで信頼できますか?僕が経営陣にいたなら、利用こそすれ信頼はしません」
僕の補強に、光里さんは顎に指をあてた。
「一理あります、かねェ」
畳み掛ける。
「故に僕には、アリスを監視するという命令しか与えられていない。魔犬部隊と戦艦を預けられているのに、です」
さて、どうだろうか。
「ーーーーーー」
ダメ押しで、こう付け加える。
「圧倒的に下っ端で、会社にとって枝葉にも満たないんですよ、僕の存在は」
光里さんは間髪入れずに言葉を返す。
まるで僕が焦っているように見えたのか、それとも。
「しかし、専用機は与えられている。それも条件次第ではエースの死神についていける高性能、しかも次世代型と謳われる仕様。ーーー貴方は自身を枝葉未満と言いましたけど、矛盾しちゃあいませんかねェ?」
実際に矛盾などない。
魔犬や魔石は確かにジャンク屋の結晶だが、望月重工にとっては数ある原石の一つでしかない。それは事実。
矛盾があるとすれば、それは僕の内心とここ最近の評価くらいか。
「その点については、まぁ、僕も驚いていますよ。アリスが去った跡の治安維持部隊で必死にやってきただけで、エースに担ぎ上げられ、試験機パイロットに選ばれ、密命がくだされただけで、扱いとしては多少使える捨て駒ですよ。なんの矛盾もないと思いますが」
僕は左遷された身だ。
使える経営権継承者ではなく、落ちこぼれて現場で足掻いているだけの捨て駒。
だが、その認識が、どうやら光里とは違うらしい。
「噛み合いませんねぇ、それが矛盾だと言ってるんですよ」
呆れたように言う。
だが、その指摘こそ的はずれだ。
本当に期待されるような人材ならば、僕はここにいるはずが無いのだから。
「ーーーー人が失望した時の目をご存知ですか?」
「………」
思い出す、本家の書斎。
窓からの逆光を差し引いてさえ、何も見えなくなる瞬間。
「人が失望する時、目の色がなくなるんです。何もない空間を見つめているみたいに。それはもう綺麗なもので、もう何度みたかも忘れるくらいなのに、毎度毎度、『あぁこんなにも無色になるのか』って感動するんですよ」
何度、それを見たことか。
何度、それを見て、自分に失望したことか。
何度、それを見て、自分を責めたことか。
「なんです?不幸自慢がしたいなら、洗いざらい喋ってから、酒場にでも行ってやって下さい」
別に不幸自慢がしたいわけではない。
そのつもりがあれば、それこそずっと喋っていられる。
自分を客観的に見ることができるくらいには飲み込んだ。
だから、この言葉は、僕の評価に対する裏付けだ。
「いえ、情に訴えるつもりはありません。単に、僕がこれまで失敗をし続けていたという事実があり、現場レベルでは小さな成功をおさめていますが、経営権継承者という器には到底不足しているので、僕は捨て駒でしかないという結果の話です」
これは事実だ。
紛れもなく、僕は落ちこぼれ。
能力が足りずに剪定される者なのだ。
「……解りました、では切り口を変えましょう」
「えぇ、どうぞ」
それを理解したのか、はたまたただ飲み込んだのか。
光里は次の質問を口にする。
「今回の件、エースに全てを打ち明ける事もできたのでは?下手に隠し事をせずとも、あの人なら貴方を受け入れるでしょうに。それこそ、スパイだと告げても笑い飛ばすでしょう、エースは」
次の切り口はアリスか。
確かにアリスなら、スパイなどどうでもいいと言うだろう。
「そうかもしれませんね。でも、僕にも意地がありますから。この状況になってしまったので、隠しても仕方ないかもしれませんが、成功するとしてもそういう交渉はしたくなかった、というのが正しい」
これは僕の本心だった。
思い出す、本家の書斎。
窓からの逆光を差し引いてさえ、何も見えなくなる瞬間。
「人が失望する時、目の色がなくなるんです。何もない空間を見つめているみたいに。それはもう綺麗なもので、もう何度みたかも忘れるくらいなのに、毎度毎度、『あぁこんなにも無色になるのか』って感動するんですよ」
何度、それを見たことか。
何度、それを見て、自分に失望したことか。
何度、それを見て、自分を責めたことか。
「なんです?不幸自慢がしたいなら、洗いざらい喋ってから、酒場にでも行ってやって下さい」
別に不幸自慢がしたいわけではない。
そのつもりがあれば、それこそずっと喋っていられる。
自分を客観的に見ることができるくらいには飲み込んだ。
だから、この言葉は、僕の評価に対する裏付けだ。
「いえ、情に訴えるつもりはありません。単に、僕がこれまで失敗をし続けていたという事実があり、現場レベルでは小さな成功をおさめていますが、経営権継承者という器には到底不足しているので、僕は捨て駒でしかないという結果の話です」
これは事実だ。
紛れもなく、僕は落ちこぼれ。
能力が足りずに剪定される者なのだ。
「……解りました、では切り口を変えましょう」
「えぇ、どうぞ」
それを理解したのか、はたまたただ飲み込んだのか。
光里は次の質問を口にする。
「今回の件、エースに全てを打ち明ける事もできたのでは?下手に隠し事をせずとも、あの人なら貴方を受け入れるでしょうに。それこそ、スパイだと告げても笑い飛ばすでしょう、エースは」
次の切り口はアリスか。
確かにアリスなら、スパイなどどうでもいいと言うだろう。
「そうかもしれませんね。でも、僕にも意地がありますから。この状況になってしまったので、隠しても仕方ないかもしれませんが、成功するとしてもそういう交渉はしたくなかった、というのが正しい」
これは僕の本心だった。
「……それ、やっぱり矛盾ですよね?」
そして、それが失言だったと、返ってきた言葉で確信した。
「そう、ですか?作戦行動については一任されていますし、成功すると踏んでのこの結果ですから説得力はありませんがーーー」
光里は止まらない。
「いえ、ここまで聞いた貴方ならむしろ普段はコネを最大限に使うのでは?ダブルスタンダードになってるの、気付いてます?」
まるで血の匂いを嗅ぎつけた鮫みたいに、僕の言葉を噛みちぎる。
「え、そんな事は、ないですよ。これは成功すると踏んだからであってーーー」
そして、得心した。
それから、独りで納得したと呟いた。
「そう、ですか?作戦行動については一任されていますし、成功すると踏んでのこの結果ですから説得力はありませんがーーー」
光里は止まらない。
「いえ、ここまで聞いた貴方ならむしろ普段はコネを最大限に使うのでは?ダブルスタンダードになってるの、気付いてます?」
まるで血の匂いを嗅ぎつけた鮫みたいに、僕の言葉を噛みちぎる。
「え、そんな事は、ないですよ。これは成功すると踏んだからであってーーー」
そして、得心した。
それから、独りで納得したと呟いた。
「あぁ、そうか。私の考えすぎだったんですね。なァんだ、こんな単純な事だったとは。ウフーフ、これはこれは」
何かがマズイと警告するが、もう遅かった。
「え?一体、何です、何を考えてるんです?」
まくしたてる言葉に、僕は何も言えなかった。
「え、言ってしまって良いんですか?まァ、これはそのうちに皆気付くか。言っても構いませんね」
結果、大惨事を引き起こした。
「え?一体、何です、何を考えてるんです?」
まくしたてる言葉に、僕は何も言えなかった。
「え、言ってしまって良いんですか?まァ、これはそのうちに皆気付くか。言っても構いませんね」
結果、大惨事を引き起こした。
「貴方、エースの事が好きなんですね?」
ーーー、!、!!!??!?
「なァんだ、ウフフ、純朴ですねェ、真っ赤になっちゃって。いえ、ある意味凄い。そのためだけにここまで来れてしまうんですから。いやぁ、青い春ですねぇ、キ!ヒ!ヒ!」
言葉にならない何かが口から出ようとして、戻って、もう一度でようとしてから引っ込んだ。
耳まで熱くなっていることに時間差で気付く。
なんて墓穴、なんて運なし。
これはもう、駄目だ。
思考停止する僕には、生理現象を止めることは出来なかった。
「「「あーあ」」」
いくつかの声が重なった。
頬を伝う、熱いなにか。
あれ、なんだ、これ。
もう訳がわからなくなって、僕はベッドから転げ落ちるように逃げ出した。
だから、その背後で。
No.5が「あーあ、光里、あとでエースにしばかれるわね……」
No.6が「いたいけな男の子に傷をつけた代償は大きいわよ、光里ちゃん……」
No.16が「ちょっと、やりすぎ」
No.80が「ちょっと、いやけっこう、むしろかなり?可哀想だったね」
No.831が「……こういうのには疎い私でも、光里がいじめたのはわかったわ」
No.69が「ピーー、ー……」
それぞれに一斉に反旗を翻し、一気に形勢逆転していたことを、僕は知る由もない。
「えぇ……?これ私が悪いんですかねェ?!」
齢16、花の男子、落ちる雫は儚く消える。
男の涙は、場合によっては、金より高い。
「なァんだ、ウフフ、純朴ですねェ、真っ赤になっちゃって。いえ、ある意味凄い。そのためだけにここまで来れてしまうんですから。いやぁ、青い春ですねぇ、キ!ヒ!ヒ!」
言葉にならない何かが口から出ようとして、戻って、もう一度でようとしてから引っ込んだ。
耳まで熱くなっていることに時間差で気付く。
なんて墓穴、なんて運なし。
これはもう、駄目だ。
思考停止する僕には、生理現象を止めることは出来なかった。
「「「あーあ」」」
いくつかの声が重なった。
頬を伝う、熱いなにか。
あれ、なんだ、これ。
もう訳がわからなくなって、僕はベッドから転げ落ちるように逃げ出した。
だから、その背後で。
No.5が「あーあ、光里、あとでエースにしばかれるわね……」
No.6が「いたいけな男の子に傷をつけた代償は大きいわよ、光里ちゃん……」
No.16が「ちょっと、やりすぎ」
No.80が「ちょっと、いやけっこう、むしろかなり?可哀想だったね」
No.831が「……こういうのには疎い私でも、光里がいじめたのはわかったわ」
No.69が「ピーー、ー……」
それぞれに一斉に反旗を翻し、一気に形勢逆転していたことを、僕は知る由もない。
「えぇ……?これ私が悪いんですかねェ?!」
齢16、花の男子、落ちる雫は儚く消える。
男の涙は、場合によっては、金より高い。
*
11.
イマジナリ・ロスト、格納庫ブロック。
僕は無我夢中で走っていた。
途中で誰にあったとか、何を見たとか、全部覚えてない。
ここでも僕は失敗した。
やはり僕は、運なしなんだ。
ここぞという時に失敗する、不甲斐ないやつなんだ。
走る。
消えてしまいたい。
このまま何処かに、誰も知らない場所に。
失敗した。
失敗した。
失敗した。
僕は無我夢中で走っていた。
途中で誰にあったとか、何を見たとか、全部覚えてない。
ここでも僕は失敗した。
やはり僕は、運なしなんだ。
ここぞという時に失敗する、不甲斐ないやつなんだ。
走る。
消えてしまいたい。
このまま何処かに、誰も知らない場所に。
失敗した。
失敗した。
失敗した。
「おっと、危ないぞ」
そんな時に、人にぶつかった。
「お前は……魔犬のパイロットじゃないか。もう動けるのか?」
僕は何も言えず、咄嗟に顔を隠して後退る。
そんな様子の僕に何を言うこともなく、その男ーナンバーズ盟主にしてNo.4、レン・イヴェールは告げた。
「お前は……魔犬のパイロットじゃないか。もう動けるのか?」
僕は何も言えず、咄嗟に顔を隠して後退る。
そんな様子の僕に何を言うこともなく、その男ーナンバーズ盟主にしてNo.4、レン・イヴェールは告げた。
「見てみろ。お前が俺たちに見せた覚悟だ」
見上げた視線の先には、白い死神。
その脚部の外装に、一条の斬撃痕が真新しく残されている。
「お前が勝ち取ったものだぞ」
そして、通路の向こうから、むすっとした顔の少女がスパナ片手に肩をいからせて歩いてくる。
「おい、テメェ、なんて機体のってやがる!整備がめちゃくちゃ面倒くせぇじゃねぇか!」
こっちの事も慮ることなく胸ぐらをつかむ、その姿。
黒髪に病的な白さ、真紅の瞳の復讐者。
アリス・ピルグリム・ヴェンデッタ。
その脚部の外装に、一条の斬撃痕が真新しく残されている。
「お前が勝ち取ったものだぞ」
そして、通路の向こうから、むすっとした顔の少女がスパナ片手に肩をいからせて歩いてくる。
「おい、テメェ、なんて機体のってやがる!整備がめちゃくちゃ面倒くせぇじゃねぇか!」
こっちの事も慮ることなく胸ぐらをつかむ、その姿。
黒髪に病的な白さ、真紅の瞳の復讐者。
アリス・ピルグリム・ヴェンデッタ。
「ーーーーーよくも私の機体に傷をつけたな。これでお前は私の後輩だ。こき使うから覚悟しとけよ」
恥ずかしそうに言い放つと、アリスはそそくさと元きた通路を戻っていく。
「ようこそ、NUMBERSへ」
こうして、僕は“|No.7《ラックレス》”エミリオになった。
「ようこそ、NUMBERSへ」
こうして、僕は“|No.7《ラックレス》”エミリオになった。
12.
エピローグ
明くる日。
イマジナリ・ロストに戦艦がやってきた。
望月重工製のフリゲート艦。
積載可能機体数、30程度の小型艦。
これはNo.77である僕が手土産として持ち込んだ戦力だ。
ナンバーズにジャンク屋グリムシェイドが名目上貸与したものであり、そこには魔犬部隊が含まれる。
あの決闘のあと、僕は父の支持の通りに戦艦と魔犬部隊を引き連れる事を承諾し、その代わりとしてナンバーズと望月重工の不可侵を申し出た。
当然に却下されるものと考えてはいたが、なんと一部が認められた。
ナンバーズを望月重工の戦力に引き込む交渉と引き換えに、交渉中である限りは不可侵であると約束を取り付けたのだ。
もっともそれが本当に効力をもつなどと、さすがの僕も考えていない。
重要なのは、僕が父からあの透明な眼差しを受けず、形上でも譲歩を引き出したという点。
今までから比べれば、大きな進歩だった。少しは認めてくれた、などと自惚れないようにしなければ。
イマジナリ・ロストに戦艦がやってきた。
望月重工製のフリゲート艦。
積載可能機体数、30程度の小型艦。
これはNo.77である僕が手土産として持ち込んだ戦力だ。
ナンバーズにジャンク屋グリムシェイドが名目上貸与したものであり、そこには魔犬部隊が含まれる。
あの決闘のあと、僕は父の支持の通りに戦艦と魔犬部隊を引き連れる事を承諾し、その代わりとしてナンバーズと望月重工の不可侵を申し出た。
当然に却下されるものと考えてはいたが、なんと一部が認められた。
ナンバーズを望月重工の戦力に引き込む交渉と引き換えに、交渉中である限りは不可侵であると約束を取り付けたのだ。
もっともそれが本当に効力をもつなどと、さすがの僕も考えていない。
重要なのは、僕が父からあの透明な眼差しを受けず、形上でも譲歩を引き出したという点。
今までから比べれば、大きな進歩だった。少しは認めてくれた、などと自惚れないようにしなければ。
ベースにはいつも誰かがいる。
僕はとりとめもなく考える。
この騒がしくも心地よい居場所を、どうか壊させないで下さい。
僕がこれ以上、|運なし《ラックレス》だと思わなくていいように努力しますから。
もしも神様なんてものがいるのなら、どうか僕にも僅かでいい、心休まる居場所を。
そのためになら、僕は。
僕は、どんなことだって。
この騒がしくも心地よい居場所を、どうか壊させないで下さい。
僕がこれ以上、|運なし《ラックレス》だと思わなくていいように努力しますから。
もしも神様なんてものがいるのなら、どうか僕にも僅かでいい、心休まる居場所を。
そのためになら、僕は。
僕は、どんなことだって。