のこされたもの(狂戦士) ◆WwHdPG9VGI
■
(上手くいった)
豚に向かって飛翔するシグナムの視界の中で、動けないブタの像が拡大していく。
元よりブタの戯言に本気で耳を傾けてなどいない。
会話に応じるフリをして脚の治療に専念していただけのこと。
(あれを斬り捨て、魔力の塊を奪ってこの場から離脱する)
魔力の塊があったとしても拳銃使いの男を、無傷で倒すのは難しい。
(よりよい機会を待つ)
剣から焔が発生。
剣の間合いまで後5歩の距離。
(救いだと?)
冷え切ったシグナムの心に怒りの熱が生まれた。
「笑わせるな!」
零歩。
炎を纏った必殺の剣が無力な豚に向かって振り下ろされる、まさにその刹那。
豚に向かって飛翔するシグナムの視界の中で、動けないブタの像が拡大していく。
元よりブタの戯言に本気で耳を傾けてなどいない。
会話に応じるフリをして脚の治療に専念していただけのこと。
(あれを斬り捨て、魔力の塊を奪ってこの場から離脱する)
魔力の塊があったとしても拳銃使いの男を、無傷で倒すのは難しい。
(よりよい機会を待つ)
剣から焔が発生。
剣の間合いまで後5歩の距離。
(救いだと?)
冷え切ったシグナムの心に怒りの熱が生まれた。
「笑わせるな!」
零歩。
炎を纏った必殺の剣が無力な豚に向かって振り下ろされる、まさにその刹那。
銃弾が纏った衝撃波が、シグナムの三半規管を揺るがし、脳に衝撃を叩きこんだのだ。
速度はほぼそのままにシグナムの体は下方へと向かって突っ込んでいく。
シグナムの瞳に地面が大写しになった。
次の瞬間、全身をすさまじい打撃が打ち据え、一瞬意識が消し飛んだ。
そのまま土と草を派手に巻き上げながら何度も横転し、木に激突してようやくシグナムの体は止まった。
視界が盛大に回り、体のそこかしこが喚きたてるように負傷を自己申告してくる。
「いくら浮気がいい女の甲斐性ってもなぁ……。戦ってる最中はよくねぇ」
男の声がどこか遠くに聞こえた。
痛みを無理矢理頭から追いやり、体を起こそうとするが、腕と足からの痛みが高圧電流となって脳の回路を焼いた。
塞いだばかりの傷が完全に開いていた。足と手から、血が、命が抜けていく。
咄嗟に体内にある全ての魔力を振り絞って、治療を行う。
シグナムは根本的な誤りを犯していたことに気づく。それは、男の本質を捉え損ねていたこと。
(あの男は、『拳銃使い』ではなく、銃火器に精通した『戦士』だ)
でなければ、スタン・グレネードを見破り、対抗することなど何故できよう?
神技と呼ぶにふさわしい銃技の輝きがその本質を覆い隠していただけのこと。
銃技はあの男の技の一つであって、全てではなかったのだ。
速度はほぼそのままにシグナムの体は下方へと向かって突っ込んでいく。
シグナムの瞳に地面が大写しになった。
次の瞬間、全身をすさまじい打撃が打ち据え、一瞬意識が消し飛んだ。
そのまま土と草を派手に巻き上げながら何度も横転し、木に激突してようやくシグナムの体は止まった。
視界が盛大に回り、体のそこかしこが喚きたてるように負傷を自己申告してくる。
「いくら浮気がいい女の甲斐性ってもなぁ……。戦ってる最中はよくねぇ」
男の声がどこか遠くに聞こえた。
痛みを無理矢理頭から追いやり、体を起こそうとするが、腕と足からの痛みが高圧電流となって脳の回路を焼いた。
塞いだばかりの傷が完全に開いていた。足と手から、血が、命が抜けていく。
咄嗟に体内にある全ての魔力を振り絞って、治療を行う。
シグナムは根本的な誤りを犯していたことに気づく。それは、男の本質を捉え損ねていたこと。
(あの男は、『拳銃使い』ではなく、銃火器に精通した『戦士』だ)
でなければ、スタン・グレネードを見破り、対抗することなど何故できよう?
神技と呼ぶにふさわしい銃技の輝きがその本質を覆い隠していただけのこと。
銃技はあの男の技の一つであって、全てではなかったのだ。
――気づくのが遅すぎた。
体内の魔力は尽きた。
(もはや、飛んで逃げることもできぬか……)
シグナムは歯噛みした。
「い、命は流石にやれん!」
次元の後ろに隠れながらブタが叫ぶ。何という逃げ足の速さだろう。
「……そうだろうとも」
シグナムは悪意のこもった笑みを豚に向けた。
「だから言ったろう? 誰も私を『おたすけ』などできないと」
シグナムは身を起こした。
その体から妄執と殺意が噴出し、陽炎となってゆらゆらと揺らめく。
「……救いといったな、貴様。自分の命も捨てずに誰かを救おうとする。
甘い……甘くて温い。貴様のもたらす救いとやらは、お手軽すぎる。
遊戯の匂いが鼻につく……。お前も、そう思わないか?」
くろぐろとしたシグナムの視線を男は肩をすくめただけで受け流し、
「生憎と俺はぺらぺらお喋りするのは好かん性分でな……。そろそろ終わりにしようや」
男の瞳が始めて帽子の奥から露になった。
男の瞳に宿る極限まで凝縮された殺意が弾丸となってシグナムを射抜く。
シグナムの心がわずかに揺れた。その揺れにあわせるように、
(もはや、飛んで逃げることもできぬか……)
シグナムは歯噛みした。
「い、命は流石にやれん!」
次元の後ろに隠れながらブタが叫ぶ。何という逃げ足の速さだろう。
「……そうだろうとも」
シグナムは悪意のこもった笑みを豚に向けた。
「だから言ったろう? 誰も私を『おたすけ』などできないと」
シグナムは身を起こした。
その体から妄執と殺意が噴出し、陽炎となってゆらゆらと揺らめく。
「……救いといったな、貴様。自分の命も捨てずに誰かを救おうとする。
甘い……甘くて温い。貴様のもたらす救いとやらは、お手軽すぎる。
遊戯の匂いが鼻につく……。お前も、そう思わないか?」
くろぐろとしたシグナムの視線を男は肩をすくめただけで受け流し、
「生憎と俺はぺらぺらお喋りするのは好かん性分でな……。そろそろ終わりにしようや」
男の瞳が始めて帽子の奥から露になった。
男の瞳に宿る極限まで凝縮された殺意が弾丸となってシグナムを射抜く。
シグナムの心がわずかに揺れた。その揺れにあわせるように、
男の体が前に出た。
(なにっ!?)
常に間合いを取ろうとしてきた男が初めて見せた行動に、シグナムの行動が一瞬遅れる。
咄嗟に地を蹴るが、虚を突かれた遅れはそのまま体に伝わり、そして負傷した左腕の動きはその損傷の分だけさらに遅延した。
そして、それを見逃してくれるほど男は甘くなかった。
「っぁ……」
轟音が轟き、シグナムの左腕がダラリと垂れ下がった。
男が後ろに飛びすさった。
またも両者の間に間合いが横たわる。負傷したシグナムにとって、絶望的なまでに遠い間合いが。
じわり、と恐怖がシグナムの心の壁を這い登った。
死など怖くはない。
だが、自分の命が終わってしまえば全てが終わってしまう。
常に間合いを取ろうとしてきた男が初めて見せた行動に、シグナムの行動が一瞬遅れる。
咄嗟に地を蹴るが、虚を突かれた遅れはそのまま体に伝わり、そして負傷した左腕の動きはその損傷の分だけさらに遅延した。
そして、それを見逃してくれるほど男は甘くなかった。
「っぁ……」
轟音が轟き、シグナムの左腕がダラリと垂れ下がった。
男が後ろに飛びすさった。
またも両者の間に間合いが横たわる。負傷したシグナムにとって、絶望的なまでに遠い間合いが。
じわり、と恐怖がシグナムの心の壁を這い登った。
死など怖くはない。
だが、自分の命が終わってしまえば全てが終わってしまう。
――それだけが、怖い。
――八神はやてを救えなくなってしまうことだけが、たまらなく怖い。
シグナムは未だ残留した魔力で炎を纏ったままの剣を、左腕の傷口に押し当てた。
「ぅぐぅあ……!」
煙と異様な匂いがあたりに充満し、常人なら一瞬で失神するような痛みがシグナムの脳を焼く。
声にならぬ呻きをもらしながら、必死でシグナムは歯を食いしばった。
噛み締めすぎたせいか歯茎から血が流れ、金臭い味が口の中に広がっていく。
シグナムの行為はまだ終わらない。
自分の右耳に刃を押し当てると、くぐもった絶叫と共に、右耳を切断。
「て、てめぇ……。なにを」
推測不能の手負いの美獣の行動に、初めて男の声に驚愕が混じる。
血まみれの右耳をほとんど力の入らない左手で握りながら、シグナムは凄絶な笑みを浮かべた。
煙と異様な匂いがあたりに充満し、常人なら一瞬で失神するような痛みがシグナムの脳を焼く。
声にならぬ呻きをもらしながら、必死でシグナムは歯を食いしばった。
噛み締めすぎたせいか歯茎から血が流れ、金臭い味が口の中に広がっていく。
シグナムの行為はまだ終わらない。
自分の右耳に刃を押し当てると、くぐもった絶叫と共に、右耳を切断。
「て、てめぇ……。なにを」
推測不能の手負いの美獣の行動に、初めて男の声に驚愕が混じる。
血まみれの右耳をほとんど力の入らない左手で握りながら、シグナムは凄絶な笑みを浮かべた。
――何を驚いているのだろう。
ただ、耳をカートリッジ代わりに使おうとしているだけなのに。
――いらない。私は他に何も要らない
はやてが蘇るなら、自分には何も要らない。
髪の一筋から血の一滴まで、全て、要らない。
髪の一筋から血の一滴まで、全て、要らない。
シグナムは剣を振り上げた。
■
(なんてヤツだ……。イカれてやがるぜ!)
戦慄が次元の体を駆け抜けた。
次元の体細胞全てが、警戒警報をがなり立てている。
「俺からあんまり離れるな! どうやら、やっこさんはお前さんにご執心のようだ」
大きく跳びすさりながら、
後ろのぶりぶりざえもんに向かって怒鳴る。
女の剣が振り下ろされ、爆音と衝撃波が発生。
(足を怪我してんのに同じ手だと? そんなわけはねぇ……)
この技も先ほどと比べると威力が格段に落ちている。蛮勇しか持たない相手にルパンが負けるはずが無い。
疑問という名の烈風が次元の心で吹き荒れる。
戦慄が次元の体を駆け抜けた。
次元の体細胞全てが、警戒警報をがなり立てている。
「俺からあんまり離れるな! どうやら、やっこさんはお前さんにご執心のようだ」
大きく跳びすさりながら、
後ろのぶりぶりざえもんに向かって怒鳴る。
女の剣が振り下ろされ、爆音と衝撃波が発生。
(足を怪我してんのに同じ手だと? そんなわけはねぇ……)
この技も先ほどと比べると威力が格段に落ちている。蛮勇しか持たない相手にルパンが負けるはずが無い。
疑問という名の烈風が次元の心で吹き荒れる。
――何かある
次元の心とは裏腹に、万戦練磨の戦士の体は自動的に反応し、敵を殲滅せんと索敵する。
荒れ狂う土煙の流れと色が微細に変化。
荒れ狂う土煙の流れと色が微細に変化。
――あそこか
倒れたルパンの体が次元の脳裏に閃いた。
射撃行動を強制中断し、回避行動を選択。
「せあぁぁっ!!」
女の裂帛の気合が次元の耳を打った。
高速で弧を描いた剣の軌跡から何とか体を捻って離脱。
顔面スレスレを刃が通り過ぎ、下方に流れていく。
「せあぁぁっ!!」
女の裂帛の気合が次元の耳を打った。
高速で弧を描いた剣の軌跡から何とか体を捻って離脱。
顔面スレスレを刃が通り過ぎ、下方に流れていく。
――女の体が紫光に包まれている。
と、思う間もない。
通り過ぎた刃が下から跳ね上がってくる。
(よけられねぇ!)
剣と銃身がぶつかり合い、ガギチと異様な音が響いた。
だが銃身は剣ではない。銃身の上をすべり刃が閃いた。
鮮血が舞い、次元の胸から肩にかけて焼けるような痛みが走る。
片手斬りであったこと、銃身で威力を減殺したことが次元の命を救った。
(接近戦じゃ分が悪すぎらぁ)
二度、三度背後に跳躍するが、女はピタリと追撃してくる。
一閃、二閃、三……と刃がひらめき、その度に次元の服が切り裂かれ、小さな痛みが走る。
賞賛すべきは、シグナムの数多の怪我、疲労、といった要素を差し引いても、その剣をかわす次元大介の技量であろう。
そして、次元の知らぬことであるが、シグナムを覆っていた紫光こそがシグナムの奥義が一つ。
鉄壁の盾を身にまとうパンツァーガイスト。
ルパンの銃撃を弾き返し、彼の死の大きな一因となった技であった。
(えぇい、くそっ! 隙がねえ……)
ひたすら回避するだけで精一杯で、反撃できない。
焦燥が次元の胸を焼き焦がそうとするが、鋼の自制心で次元は焦燥を抑えこむ。
再度、後方へ跳躍する。
女が来ない。だが。
通り過ぎた刃が下から跳ね上がってくる。
(よけられねぇ!)
剣と銃身がぶつかり合い、ガギチと異様な音が響いた。
だが銃身は剣ではない。銃身の上をすべり刃が閃いた。
鮮血が舞い、次元の胸から肩にかけて焼けるような痛みが走る。
片手斬りであったこと、銃身で威力を減殺したことが次元の命を救った。
(接近戦じゃ分が悪すぎらぁ)
二度、三度背後に跳躍するが、女はピタリと追撃してくる。
一閃、二閃、三……と刃がひらめき、その度に次元の服が切り裂かれ、小さな痛みが走る。
賞賛すべきは、シグナムの数多の怪我、疲労、といった要素を差し引いても、その剣をかわす次元大介の技量であろう。
そして、次元の知らぬことであるが、シグナムを覆っていた紫光こそがシグナムの奥義が一つ。
鉄壁の盾を身にまとうパンツァーガイスト。
ルパンの銃撃を弾き返し、彼の死の大きな一因となった技であった。
(えぇい、くそっ! 隙がねえ……)
ひたすら回避するだけで精一杯で、反撃できない。
焦燥が次元の胸を焼き焦がそうとするが、鋼の自制心で次元は焦燥を抑えこむ。
再度、後方へ跳躍する。
女が来ない。だが。
剣が来た。
「ううぉ!?」
次元の視界を女が投擲した剣が埋め尽くす。
傭兵時代、殺し屋時代、泥棒時代、幾千幾万の危機を乗り切ってきた次元の全身がこの危機に超反応。
意識の埒外にある動きで、次元の肉体が投擲された剣を回避。
次元の視界を女が投擲した剣が埋め尽くす。
傭兵時代、殺し屋時代、泥棒時代、幾千幾万の危機を乗り切ってきた次元の全身がこの危機に超反応。
意識の埒外にある動きで、次元の肉体が投擲された剣を回避。
だが、自分の体を一本の矢としたシグナムの蹴撃はかわせなかった。
崩れた体勢では回避も防御もできなかった。
脇腹からすさまじい衝撃が襲い、内臓まで突き抜けた。
浮遊感を感じ、一呼吸置いて背中から背骨が折れたかと思うほどの衝撃。
ソロモンに抉られた脇腹の傷口が盛大に開いた。
幸か不幸か、全身がバラバラになりそうな痛みと、脇腹からの猛烈な痛みが意識をつなぎとめた。
だが、体と意識が連結しない。
揺らめく次元の視界の中で女が銃を構えた。
気力を振り絞って体を起こさんとするが、体が言うことを聞かない。
(くそったれが!!)
食いしばった歯が唇を噛み破り、つっと赤い筋が流れた。
脇腹からすさまじい衝撃が襲い、内臓まで突き抜けた。
浮遊感を感じ、一呼吸置いて背中から背骨が折れたかと思うほどの衝撃。
ソロモンに抉られた脇腹の傷口が盛大に開いた。
幸か不幸か、全身がバラバラになりそうな痛みと、脇腹からの猛烈な痛みが意識をつなぎとめた。
だが、体と意識が連結しない。
揺らめく次元の視界の中で女が銃を構えた。
気力を振り絞って体を起こさんとするが、体が言うことを聞かない。
(くそったれが!!)
食いしばった歯が唇を噛み破り、つっと赤い筋が流れた。
――銃声が轟き、
――鮮血が舞った。
感情が瞬時に沸騰し、次元の両眼がカっと見開かれた。
「てめぇぇええ!!」
怒気の塊が喉から迸り、殺意が全身を駆け抜け、激痛も何もかも全て吹き飛ばした。
轟音が空間を震わせた。
.454カスール カスタムオートの弾丸は空間を切り裂いて飛び、狙い過たず女の胸にぶち当たった。
甲冑ごと肉体を破壊され、女が仰け反り、崩れ落ちる。
だが、その光景を次元は見ていない。見ようともしない。
彼の意識にあるのは一つ。
「おいっ! しっかりしろ!」
ふらつく足で、ぶりぶりざえもんに駆け寄り、その胸が上下していると見るや抱え上げ、走り出す。
その足取りは信じがたいほど遅く、左右にふらついていた。
それでも次元は懸命に足を動かす。
「死ぬなよ……。死ぬんじゃねえぞ、相棒!!」
次元は叫んだ。
轟音が空間を震わせた。
.454カスール カスタムオートの弾丸は空間を切り裂いて飛び、狙い過たず女の胸にぶち当たった。
甲冑ごと肉体を破壊され、女が仰け反り、崩れ落ちる。
だが、その光景を次元は見ていない。見ようともしない。
彼の意識にあるのは一つ。
「おいっ! しっかりしろ!」
ふらつく足で、ぶりぶりざえもんに駆け寄り、その胸が上下していると見るや抱え上げ、走り出す。
その足取りは信じがたいほど遅く、左右にふらついていた。
それでも次元は懸命に足を動かす。
「死ぬなよ……。死ぬんじゃねえぞ、相棒!!」
次元は叫んだ。
■
――寒い
全身から力が抜けていくのが分かる。
視界がどんどん暗くなっていく。
視界がどんどん暗くなっていく。
――これが、死か。
――寂しい
そう思ってしまった瞬間、凍てつかせたはずの心にヒビが生まれた。
封印したはずの幾つもの光景があふれ出し、頭の中で次々と瞬く。
食欲を誘う芳香漂う食卓、暖かい団らんの一時。
その卓に並ぶ仲間の顔が、戦場で認め合った友の顔が浮かぶ。
ヴィータ、シャマル、なのは、テスタロッサ……。
封印したはずの幾つもの光景があふれ出し、頭の中で次々と瞬く。
食欲を誘う芳香漂う食卓、暖かい団らんの一時。
その卓に並ぶ仲間の顔が、戦場で認め合った友の顔が浮かぶ。
ヴィータ、シャマル、なのは、テスタロッサ……。
――会いたい。
彼女達の笑顔がみたい。笑い声が聞きたい。
そして。
そして。
――はやて
その名を呼んだ瞬間、何かが爆発した。心の奥底に燃え残った火に、再び輝きが戻る。
何度も何度もはやての名を呼ぶ。呼ぶたびに火は火勢を増し、眩い輝きを取り戻す。
(そうだ……。はやての魂を、未来を、取り戻す。その時まで私は……。膝を屈するわけには……。いかない!!)
残る力を振り絞って目を見開き、シグナムは右腕を持ち上げた。
左目に指をそえる。
何度も何度もはやての名を呼ぶ。呼ぶたびに火は火勢を増し、眩い輝きを取り戻す。
(そうだ……。はやての魂を、未来を、取り戻す。その時まで私は……。膝を屈するわけには……。いかない!!)
残る力を振り絞って目を見開き、シグナムは右腕を持ち上げた。
左目に指をそえる。
いっきに抉った。
「ぐっぎっ……がぁっ!」
脳に直接電撃を間断なく流し続けるような激痛に悶絶しそうになりながらも、目玉を掴み、引き抜く。
目玉をカートリッジにして、胸の傷を癒す。
脳に直接電撃を間断なく流し続けるような激痛に悶絶しそうになりながらも、目玉を掴み、引き抜く。
目玉をカートリッジにして、胸の傷を癒す。
――やはり、足りない
他者が見ればあまりの光景に卒倒したかもしれない。
それほど満身創痍の姿で顔面を朱に染めて這いずるシグナムの姿は、すさまじかった。
それほど満身創痍の姿で顔面を朱に染めて這いずるシグナムの姿は、すさまじかった。
ようやく剣のある所に辿り着き、剣を拾い上げ、髪を切る。
ろくに動かない左手のせいで、拾い集めるのは予想以上に手間だった。
髪が消失。
ろくに動かない左手のせいで、拾い集めるのは予想以上に手間だった。
髪が消失。
――まだ、足りない
ほとんど利かなくなった左腕の五指を開いて地面に押し付け、指に剣を撃ち落とす。
切断した指に、残りのクラールヴィントがはまったままの4指を押し付ける。
指が消失。ようやく、胸の傷をある程度塞ぐことができた。
だが失った血は戻らない。他の傷からの出血も止まらない。
切断した指に、残りのクラールヴィントがはまったままの4指を押し付ける。
指が消失。ようやく、胸の傷をある程度塞ぐことができた。
だが失った血は戻らない。他の傷からの出血も止まらない。
――このままでは、死ぬ
(あの豚の、魔力の塊を奪い……治療、しなければ……)
半分になった視界がぐらぐらと揺れる。
足がふらつき、痛みが間断なく襲う。
痛い。辛い。苦しい。吐きたい。死にたい。投げ出したい。倒れてしまいたい。
弱音という弱音が頭の中で踊り狂い、悪魔の囁きが耳元でオーケストラを奏でる。
だから呼ぶ。
半分になった視界がぐらぐらと揺れる。
足がふらつき、痛みが間断なく襲う。
痛い。辛い。苦しい。吐きたい。死にたい。投げ出したい。倒れてしまいたい。
弱音という弱音が頭の中で踊り狂い、悪魔の囁きが耳元でオーケストラを奏でる。
だから呼ぶ。
――はやて
その名だけが体に力を呼び、足を前に進ませる。
――はやて
――会いたい、もう一度
■
大穴の開いている壁からビルの中に飛び込み、次元は荒い息を吐きながらナイフで袖口を引き裂き、
手早く自分の脇腹を縛ると、続いてぶりぶりざえもんの傷口を縛ろうとした。
「……やめておけ。もう、だめらしい……」
力の無い声がぶりぶりざえもんの口から漏れた。
手早く自分の脇腹を縛ると、続いてぶりぶりざえもんの傷口を縛ろうとした。
「……やめておけ。もう、だめらしい……」
力の無い声がぶりぶりざえもんの口から漏れた。
――ふざけんなっ! なに物分りのいいこと言ってやがる!
次元の心はそう激しく叫んだ。心の中で荒れ狂う感情のままに、そう叫びたかった。
だが、次元は悟ってしまう。
次元の理性が、積み重ねてきた経験が、言っている。
だが、次元は悟ってしまう。
次元の理性が、積み重ねてきた経験が、言っている。
――助からない、と
「痛みは、あるか?」
静かな声で次元は訊いた。
「大丈夫だ……」
どこか澄んだものを感じさせる声だった。
「……すまねえ」
「いいってことよ。これも、おたすけだ」
苦渋と悔恨に満ちた声で詫びる次元とは対照的に、ぶりぶりざえもんの声は穏やかだった。
「……あの女をおたすけできなかったのは、すこし……。残念だ」
ぽつりと、呟くようにぶりぶりざえもんはいった。
「ぶりぶりざえもん、おめぇ……」
「あの女は……。とても苦しそうだった。人を殺して回る奴だというから……。
ホテルで暴れていた、あの化物のような奴かと思っていたのだが……。全然違った」
途中で小さく咳き込みながらも、ぶりぶりざえもんは言葉を紡いでいく。
「人をおたすけするものは……また人におたすけされる……。それが、わたしの掴んだすくいの真髄。
……なのに、あの女のやっていることはその逆だ。あれでは……」
ぶりぶりざえもんの言葉が途切れた。
何度も咳き込み、苦しそうに顔を歪める。
次元はそっと、ぶりぶりざえもんのヒヅメを握った。
(ちいせぇな……)
体が幼児程度の大きさしかないから当然だ。
だが自分を庇ってくれたあの背中は、とても大きく見えた。
「……次元。私は……ヒーローではなかったのだな……。あの女を、おたすけできなかった」
荒い息の下から吐き出したぶりぶりざえもんの声は、震えていた。
「……ヒーローってのはよ。すぐにはなれねえから、ヒーローって言うんじゃねえのか?
ましてや、おまえさんのヒーロー道は、なんたって『救い』だ。
さっきも言ったが、こいつはなかなか難しいもんだ。なるのに時間がかかっちまうのが当然だと思うんだがな」
「……もう少し時間があれば、なれたのだろうか?」
「ああ、なれたさ。きっと、お前さんが考えてるようなヒーローにな」
次元は大きく頷いて見せた。
「少なくとも俺にとっちゃ、お前さんがまぎれもねぇ救いのヒーローさま、さ」
「……ふっ、当然だ……」
言い終わるやいなや、ぶりぶりざえもんの顔が激しくゆがみ、その呼吸がさらに荒くなった。
苦しげに体を捩るぶりぶりざえんもんのヒヅメを次元は強く握った。
「それによ……。仮に救いのヒーローとやらじゃなくたってよ……。
おめぇは、ヤマトってやつのダチで、俺の相棒だろうが! それじゃあ、不満だってのか?」
「……少し……な」
ぶりぶりざえもんは笑ったようだった。
「馬鹿野郎……。こういうときはな、嘘でも、ねえ って答えるもんだぜ」
静かな声で次元は訊いた。
「大丈夫だ……」
どこか澄んだものを感じさせる声だった。
「……すまねえ」
「いいってことよ。これも、おたすけだ」
苦渋と悔恨に満ちた声で詫びる次元とは対照的に、ぶりぶりざえもんの声は穏やかだった。
「……あの女をおたすけできなかったのは、すこし……。残念だ」
ぽつりと、呟くようにぶりぶりざえもんはいった。
「ぶりぶりざえもん、おめぇ……」
「あの女は……。とても苦しそうだった。人を殺して回る奴だというから……。
ホテルで暴れていた、あの化物のような奴かと思っていたのだが……。全然違った」
途中で小さく咳き込みながらも、ぶりぶりざえもんは言葉を紡いでいく。
「人をおたすけするものは……また人におたすけされる……。それが、わたしの掴んだすくいの真髄。
……なのに、あの女のやっていることはその逆だ。あれでは……」
ぶりぶりざえもんの言葉が途切れた。
何度も咳き込み、苦しそうに顔を歪める。
次元はそっと、ぶりぶりざえもんのヒヅメを握った。
(ちいせぇな……)
体が幼児程度の大きさしかないから当然だ。
だが自分を庇ってくれたあの背中は、とても大きく見えた。
「……次元。私は……ヒーローではなかったのだな……。あの女を、おたすけできなかった」
荒い息の下から吐き出したぶりぶりざえもんの声は、震えていた。
「……ヒーローってのはよ。すぐにはなれねえから、ヒーローって言うんじゃねえのか?
ましてや、おまえさんのヒーロー道は、なんたって『救い』だ。
さっきも言ったが、こいつはなかなか難しいもんだ。なるのに時間がかかっちまうのが当然だと思うんだがな」
「……もう少し時間があれば、なれたのだろうか?」
「ああ、なれたさ。きっと、お前さんが考えてるようなヒーローにな」
次元は大きく頷いて見せた。
「少なくとも俺にとっちゃ、お前さんがまぎれもねぇ救いのヒーローさま、さ」
「……ふっ、当然だ……」
言い終わるやいなや、ぶりぶりざえもんの顔が激しくゆがみ、その呼吸がさらに荒くなった。
苦しげに体を捩るぶりぶりざえんもんのヒヅメを次元は強く握った。
「それによ……。仮に救いのヒーローとやらじゃなくたってよ……。
おめぇは、ヤマトってやつのダチで、俺の相棒だろうが! それじゃあ、不満だってのか?」
「……少し……な」
ぶりぶりざえもんは笑ったようだった。
「馬鹿野郎……。こういうときはな、嘘でも、ねえ って答えるもんだぜ」
答えは返ってこなかった。
握っていたヒヅメをはなすと、ぶりぶりざえもんの手は地面に落ちた。
同時にぐらっ、と次元の体が揺れた。
(すまねぇな、相棒……。おめぇに救ってもらった命だってのに、俺もすぐそっちに行くかもしれねぇ)
脇腹に巻いたシャツは既に真っ赤に染まり、それでも血は流れ続けている。
「だがよ……。 おめぇと、ルパンの仇だけは、俺が……」
力を振り絞り、震える手で銃を握りなおし、次元は立ち上がった。
あの女が近づいてきていた。
ついさっきまでの月の女神もかくや、という美貌は消えうせている。
髪はザンバラ、左目、右耳、左手の親指は欠け、夥しい出血で、顔も服も赤に染まっている。
墓場から蘇った亡者といった風情だ。
「そうかい……。地獄へ行く準備は万端ってわけだ。安心しな、その格好なら向こうでひっぱりだこだろうからよ!!」
次元は、獰猛な笑みを浮かべ、猛禽の如き視線を歩み寄ってくる女に叩きつけた。
同時にぐらっ、と次元の体が揺れた。
(すまねぇな、相棒……。おめぇに救ってもらった命だってのに、俺もすぐそっちに行くかもしれねぇ)
脇腹に巻いたシャツは既に真っ赤に染まり、それでも血は流れ続けている。
「だがよ……。 おめぇと、ルパンの仇だけは、俺が……」
力を振り絞り、震える手で銃を握りなおし、次元は立ち上がった。
あの女が近づいてきていた。
ついさっきまでの月の女神もかくや、という美貌は消えうせている。
髪はザンバラ、左目、右耳、左手の親指は欠け、夥しい出血で、顔も服も赤に染まっている。
墓場から蘇った亡者といった風情だ。
「そうかい……。地獄へ行く準備は万端ってわけだ。安心しな、その格好なら向こうでひっぱりだこだろうからよ!!」
次元は、獰猛な笑みを浮かべ、猛禽の如き視線を歩み寄ってくる女に叩きつけた。
■
男の後方で倒れている豚の尻の下から、翠色と赤色の光が漏れている。
(あれさえ……。あれば……)
一歩、一歩、重い足を引き摺るようにシグナムは歩を進める。
今の状態でどう、あの男の弾丸を掻い潜るか。
(それが問題、だな)
体はこれ以上削れない。五感をこれ以上失って勝てる男ではない。
いちおうの切り札はある。
正真正銘、最後の最後だが、騎士甲冑の魔力を使う。
それをいかに使うか。
(あれさえ……。あれば……)
一歩、一歩、重い足を引き摺るようにシグナムは歩を進める。
今の状態でどう、あの男の弾丸を掻い潜るか。
(それが問題、だな)
体はこれ以上削れない。五感をこれ以上失って勝てる男ではない。
いちおうの切り札はある。
正真正銘、最後の最後だが、騎士甲冑の魔力を使う。
それをいかに使うか。
――紫電一閃
論外
――パンツァーガイスト
この足、この体ではあの男を斬る前に、効果が切れかねない。
――シュテルングウィンデ
後ろにある魔力の塊を損傷する恐れがある。それでは男に勝っても意味が無い。
論外
――パンツァーガイスト
この足、この体ではあの男を斬る前に、効果が切れかねない。
――シュテルングウィンデ
後ろにある魔力の塊を損傷する恐れがある。それでは男に勝っても意味が無い。
騎士甲冑なしであの銃の弾丸を食らえば、腕と脚なら千切れ飛び、
胴体に食らえばどこに当たっても致命傷になるだろう。
だが、迷っている時間はない。
自分に残されている時間は、あとわずか。
覚悟を決め、シグナムは剣を握り締めた。
シグナムの騎士甲冑が消失。
飛行魔法で体を浮かし、一気に体を前方へと運ぶ。
男の像がシグナムの瞳の中でみるみる巨大化していく。
胴体に食らえばどこに当たっても致命傷になるだろう。
だが、迷っている時間はない。
自分に残されている時間は、あとわずか。
覚悟を決め、シグナムは剣を握り締めた。
シグナムの騎士甲冑が消失。
飛行魔法で体を浮かし、一気に体を前方へと運ぶ。
男の像がシグナムの瞳の中でみるみる巨大化していく。
男の左腕の銃口と目が合った。
右方向に急速方向転換。強烈なGが体を締め上げ、体全体に激痛が走る。
轟音が鳴った。
再度、方向転換。今度は一直線に男へと向かう。
どこかへと吹き飛びかける意識を舌を噛んで引き戻す。
男の体が迫った。
轟音が鳴った。
再度、方向転換。今度は一直線に男へと向かう。
どこかへと吹き飛びかける意識を舌を噛んで引き戻す。
男の体が迫った。
「はぁぁ!!」
男の右手に握られたコンバットナイフと左手の銃が交差し、シグナムの剣を挟みこむように受け止めていた。
そんなことで。
そんなことで。
――我が一撃
「あっ……」
――止められるものか!!
「ああぁぁっ!!」
かまわずシグナムは剣を振り切った。
飛行魔法の推進力も加算した剛刃がナイフと銃身を圧しのけ、刃が男の肩から脇腹への軌道を描いた。
ほぼ同時に、魔力の減衰と共に推力と浮力を失ったシグナムの体が地に落ちる。
手ごたえはあったが――
飛行魔法の推進力も加算した剛刃がナイフと銃身を圧しのけ、刃が男の肩から脇腹への軌道を描いた。
ほぼ同時に、魔力の減衰と共に推力と浮力を失ったシグナムの体が地に落ちる。
手ごたえはあったが――
――浅いかっ!?
よろめきながら、男が銃を構える。シグナムは回避行動を取り、銃の射線から逃れようとした。
突然、男が前に出た。
突然、男が前に出た。
――男の右手が見えない
――負ける……
「かあっ!!」
シグナムの額が次元の顔面に叩きつけられた。
怯んだ相手に更に前蹴りをいれ、突き放す。男が吹き飛んだ。
だが、シグナムにできたのはそこまでだった。力が抜け、勝手に膝が落ちる。
右手の剣を支えにして、何とか姿勢を維持するが、足がおこりのように震え、目が本格的に霞んでいく。
どうやら状態は男も似たようなものらしい。
体を起こしはしたが、膝をついたまま立ち上がらない。いや、立ち上がれないのだろう。
この短い攻防で、床には互いの血で咲かせた火牡丹が咲き乱れている。
それなのに男は、シグナムの視界が半分であることと、否応さか。
(何か、なにかないか……)
この男の息の根を止める方法は無いのか。この男に死角はないのか。
シグナムの額が次元の顔面に叩きつけられた。
怯んだ相手に更に前蹴りをいれ、突き放す。男が吹き飛んだ。
だが、シグナムにできたのはそこまでだった。力が抜け、勝手に膝が落ちる。
右手の剣を支えにして、何とか姿勢を維持するが、足がおこりのように震え、目が本格的に霞んでいく。
どうやら状態は男も似たようなものらしい。
体を起こしはしたが、膝をついたまま立ち上がらない。いや、立ち上がれないのだろう。
この短い攻防で、床には互いの血で咲かせた火牡丹が咲き乱れている。
それなのに男は、シグナムの視界が半分であることと、否応さか。
(何か、なにかないか……)
この男の息の根を止める方法は無いのか。この男に死角はないのか。
――いかに殺すか
殺意の思考がシグナムの頭を埋め尽くしていく。
――何を躊躇う
心をわずかにかすめた躊躇を、シグナムは嗤った。
(私は全てを捨て、取り返しのつかないものを取り返す!!)
シグナムの唇が半月を描き、瞳に暗黒の炎が宿る。
無理矢理体を引き起こす。
霧散しかけた魔力を無理矢理引き摺り戻し、掬い上げ、飛行魔法を発動。
前方に向かうと見せ、上方に方向転換。シグナムの体が天井近くまで上昇。
しかし、既に底をついた魔力によるそれは、飛行というにはあまりにも遅く、あまりにも緩やかだった。
せいぜいが大跳躍、といった程度のもの。
だが、それで十分。
人の目は、上下運動に弱い。そして半分以下の高さになったあの姿勢で上方を狙うは困難。
予想どおり弾丸は来なかった。
男の頭上を超える。目標の物体が迫る。
「はぁっ!!」
シグナムは落下の運動エネルギーと位置エネルギーも利用し、思い切り豚の体に剣を突き立てた。
剣が貫通し、ガチンと剣の先端が床に突き当たった。
「ぬぅあぁっ!!」
満身の力を込めて豚の体ごと剣を持ち上げ、男に向ける。
あまりの酷使に体の全ての筋肉が悲鳴を上げ、全ての傷が脳神経を焼ききらんばかりに絶叫を上げた。
シグナムの全身から血がほとばしり、ぐるん、と眼球が上を向いた。
(私は全てを捨て、取り返しのつかないものを取り返す!!)
シグナムの唇が半月を描き、瞳に暗黒の炎が宿る。
無理矢理体を引き起こす。
霧散しかけた魔力を無理矢理引き摺り戻し、掬い上げ、飛行魔法を発動。
前方に向かうと見せ、上方に方向転換。シグナムの体が天井近くまで上昇。
しかし、既に底をついた魔力によるそれは、飛行というにはあまりにも遅く、あまりにも緩やかだった。
せいぜいが大跳躍、といった程度のもの。
だが、それで十分。
人の目は、上下運動に弱い。そして半分以下の高さになったあの姿勢で上方を狙うは困難。
予想どおり弾丸は来なかった。
男の頭上を超える。目標の物体が迫る。
「はぁっ!!」
シグナムは落下の運動エネルギーと位置エネルギーも利用し、思い切り豚の体に剣を突き立てた。
剣が貫通し、ガチンと剣の先端が床に突き当たった。
「ぬぅあぁっ!!」
満身の力を込めて豚の体ごと剣を持ち上げ、男に向ける。
あまりの酷使に体の全ての筋肉が悲鳴を上げ、全ての傷が脳神経を焼ききらんばかりに絶叫を上げた。
シグナムの全身から血がほとばしり、ぐるん、と眼球が上を向いた。
肉の盾を構え、シグナムは男に向かって突撃していく。
「っの野郎っっ!!!」
「ぐっっ……」
だが、シグナムは止まらない。歯を軋らせ、鬼の形相で残った右脚で跳躍し、
残りカスの魔力を磨り潰して、男に向かって体を加速させた。
残りカスの魔力を磨り潰して、男に向かって体を加速させた。
「がああああぁぁっ!!」
狂戦士の雄叫びが夜を切り裂いた。
■
気絶していたのはほんの一瞬らしかった。
あの一瞬。
男の体を貫いた時、力を使い果たし、倒れてしまったらしい。
あの一瞬。
男の体を貫いた時、力を使い果たし、倒れてしまったらしい。
――勝った。
シグナムは身を起こし、豚の尻ポケットにある魔力の塊に向かって手を伸ばそうとする。
だが、その速度は亀より遅かった。
(あれだ、あれを……あれ、アレぁ……)
左脚からの大量の出血によって、シグナムの意識は混濁していく。
床に赤いラインを描きながら、それでもシグナムは豚へとにじり寄っていく。
だが、その速度は亀より遅かった。
(あれだ、あれを……あれ、アレぁ……)
左脚からの大量の出血によって、シグナムの意識は混濁していく。
床に赤いラインを描きながら、それでもシグナムは豚へとにじり寄っていく。
――だいじょ……ですか! ごふじん!
――いま……てあてを
男が耳元で叫んでいる。
「……の、ぶたの……で……ひかっている……あれ、を……とってく……れ」
混濁した意識の中に残された執念が、言葉を紡いだ。
「……の、ぶたの……で……ひかっている……あれ、を……とってく……れ」
混濁した意識の中に残された執念が、言葉を紡いだ。
――こ……れか?
それきり、シグナムの意識は永遠の闇に落ち――
二度と戻ることは無かった。
二度と戻ることは無かった。
■
「生憎と、目は良くてな……。やむにやまれず味方の死体を使ったというケースも一応考えてみたんだが、
味方を名前で呼ばずに、豚呼ばわりするような奴はいやしない」
女が死んだのを確認し、ゲインは銃をおろした。
豚の首には首輪があり、まだ温かかった。つまり殺されたばかりの参加者ということだ。
そして、『ぶた』という名前は名簿のどこにもない。
味方でない参加者を殺して特定の物を奪おうとする人間がどんな人間だかは、考えるまでもない。
もっとも、男と豚が女性を二人がかりで襲ったという可能性もなくはないが、
このゲームでチームを組めるということは、参加者を殺してまわる類ではない可能性が高い。
(確かに、殺して回る輩が何かの理由で組む可能性もゼロじゃあないが……)
その低い可能性にかけて、昼間の過ちを繰り返す気にはなれなかった。
あの時、怪我をした女性だからとキャスカを無条件に信じなければ、ひかるはまだ生きていたかもしれない。
のはらみさえの足を引っ張る真似もしなくてすんだ。
(あんなミスは二度とごめんだ……)。
ゲインは一本の剣に串刺しにされている男と豚に近寄った。
無残な有様だった。
銃声を聞いて駆けつけてはみたが、ゲインが走り寄る前に全ては終わってしまった。
(幾らなんでもこれじゃあ、酷すぎる)
だが、二人の体を貫いている剣の柄に触れた瞬間、炎がゲインの腕を這い登った。
慌てて飛びすさり、火を消す。
「っつう……。なんて物騒な武器だ」
手を振り、ゲインは顔をしかめた。これでは埋葬も出来ない。
(参ったぜ……)
ゲインは歩きながら頭をかき、破壊された壁から外をみやった。
(埋葬する礼としてもらっていく予定だったんだが)
ゲインの視線の先には誰のものともしれないディパックが転がっていた。
取り上げて空けて中身を確認するうちに、数枚のメモとサングラスが転がり出た。
(俺の趣味じゃないな……)
サングラスはとりあえずディパックに戻し、ゲインはマッチを摺ってメモを読み始めた。
読み進めるうちに、ゲインの表情が喜色の色で輝き始める。
(……どうにかして、このトグサってヤツと接触しなくちゃならんな。
いや、そりゃ贅沢というものか。この際、このメモに載っている人間なら誰でもいい。
さて、どうやって連絡をつけたものか……)
数度読み返し、ゲインはメモをディパックの中にしまった。
「すまない、お二人さん。埋葬の手段を考えている時間はなくなっちまった。
だが、その代わりと言っちゃあなんだが、あんた達二人の命は絶対に無駄にしない。
あの世で見ててくれ。あんた達の運んだものがエクソダスに通じる扉を開く所をな!」
物言わぬ二つの体に誓い、闇の中に再びゲインは駆け出した。
「見ててくれよ! 俺達のエクソダスとギガゾンビの野郎への復讐をな!」
行き先を定めた請負人の足取りに一切の迷いは無かった。
味方を名前で呼ばずに、豚呼ばわりするような奴はいやしない」
女が死んだのを確認し、ゲインは銃をおろした。
豚の首には首輪があり、まだ温かかった。つまり殺されたばかりの参加者ということだ。
そして、『ぶた』という名前は名簿のどこにもない。
味方でない参加者を殺して特定の物を奪おうとする人間がどんな人間だかは、考えるまでもない。
もっとも、男と豚が女性を二人がかりで襲ったという可能性もなくはないが、
このゲームでチームを組めるということは、参加者を殺してまわる類ではない可能性が高い。
(確かに、殺して回る輩が何かの理由で組む可能性もゼロじゃあないが……)
その低い可能性にかけて、昼間の過ちを繰り返す気にはなれなかった。
あの時、怪我をした女性だからとキャスカを無条件に信じなければ、ひかるはまだ生きていたかもしれない。
のはらみさえの足を引っ張る真似もしなくてすんだ。
(あんなミスは二度とごめんだ……)。
ゲインは一本の剣に串刺しにされている男と豚に近寄った。
無残な有様だった。
銃声を聞いて駆けつけてはみたが、ゲインが走り寄る前に全ては終わってしまった。
(幾らなんでもこれじゃあ、酷すぎる)
だが、二人の体を貫いている剣の柄に触れた瞬間、炎がゲインの腕を這い登った。
慌てて飛びすさり、火を消す。
「っつう……。なんて物騒な武器だ」
手を振り、ゲインは顔をしかめた。これでは埋葬も出来ない。
(参ったぜ……)
ゲインは歩きながら頭をかき、破壊された壁から外をみやった。
(埋葬する礼としてもらっていく予定だったんだが)
ゲインの視線の先には誰のものともしれないディパックが転がっていた。
取り上げて空けて中身を確認するうちに、数枚のメモとサングラスが転がり出た。
(俺の趣味じゃないな……)
サングラスはとりあえずディパックに戻し、ゲインはマッチを摺ってメモを読み始めた。
読み進めるうちに、ゲインの表情が喜色の色で輝き始める。
(……どうにかして、このトグサってヤツと接触しなくちゃならんな。
いや、そりゃ贅沢というものか。この際、このメモに載っている人間なら誰でもいい。
さて、どうやって連絡をつけたものか……)
数度読み返し、ゲインはメモをディパックの中にしまった。
「すまない、お二人さん。埋葬の手段を考えている時間はなくなっちまった。
だが、その代わりと言っちゃあなんだが、あんた達二人の命は絶対に無駄にしない。
あの世で見ててくれ。あんた達の運んだものがエクソダスに通じる扉を開く所をな!」
物言わぬ二つの体に誓い、闇の中に再びゲインは駆け出した。
「見ててくれよ! 俺達のエクソダスとギガゾンビの野郎への復讐をな!」
行き先を定めた請負人の足取りに一切の迷いは無かった。
請負人が駆け去った後には、3つの亡骸だけが残された。
串刺しにされた2つの亡骸と、体に多くの欠損を抱えた女の亡骸。
それが、死闘の果てに、それぞれの思いの果てに、のこされたもの。
【F-7/2日目/黎明】
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:疲労(小)、右手に火傷(小)全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)、ギガゾンビへの怒り
[装備]:ウィンチェスターM1897(残弾数5/5)、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、『亜空間破壊装置』『監視』『首輪』に関するメモ
[道具]:支給品一式×10(食料3食分消費)、鶴屋さんの首輪、サングラス(クーガーのもの)
9mmパラベラム弾(40発)、ワルサーP38の弾(24発)、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(26発)
極細の鋼線@HELLSING、医療キット(×1)、マッチ一箱、ロウソク2本
ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの
スパイセットの目玉と耳@ドラえもん、13mm爆裂鉄鋼弾(21発)@HELLSING、デイバッグ(×4)
レイピア、ハリセン、ボロボロの拡声器(使用可)、望遠鏡、双眼鏡
蒼星石の亡骸(首輪つき)、リボン、ナイフを背負う紐、ローザミスティカ(蒼)(翠)
トグサの考察メモ、トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ
『亜空間破壊装置』『監視』『首輪』に関するメモ
[思考・状況]
基本:ここからのエクソダス(脱出)
1:信頼できる仲間を捜す。
(トグサ、トラック組、トラック組の知人を優先し、この内の誰でもいいから接触し、
得た知識を伝え、情報交換を行う)
2:しんのすけを見つけ出し、保護する。
3:ゲイナーとの合流
4:電車、寺、温泉を廻り、残り三つの亜空間破壊装置を破壊する。
5:ギガゾンビにバレるのを防ぐため、施設内のツチダマは必ず破壊する。可能ならスパイセットも没収。
6:ギガゾンビを倒す。
[備考]:第三放送を聞き逃しました。
首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています。
モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました。
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:疲労(小)、右手に火傷(小)全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)、ギガゾンビへの怒り
[装備]:ウィンチェスターM1897(残弾数5/5)、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、『亜空間破壊装置』『監視』『首輪』に関するメモ
[道具]:支給品一式×10(食料3食分消費)、鶴屋さんの首輪、サングラス(クーガーのもの)
9mmパラベラム弾(40発)、ワルサーP38の弾(24発)、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(26発)
極細の鋼線@HELLSING、医療キット(×1)、マッチ一箱、ロウソク2本
ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの
スパイセットの目玉と耳@ドラえもん、13mm爆裂鉄鋼弾(21発)@HELLSING、デイバッグ(×4)
レイピア、ハリセン、ボロボロの拡声器(使用可)、望遠鏡、双眼鏡
蒼星石の亡骸(首輪つき)、リボン、ナイフを背負う紐、ローザミスティカ(蒼)(翠)
トグサの考察メモ、トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ
『亜空間破壊装置』『監視』『首輪』に関するメモ
[思考・状況]
基本:ここからのエクソダス(脱出)
1:信頼できる仲間を捜す。
(トグサ、トラック組、トラック組の知人を優先し、この内の誰でもいいから接触し、
得た知識を伝え、情報交換を行う)
2:しんのすけを見つけ出し、保護する。
3:ゲイナーとの合流
4:電車、寺、温泉を廻り、残り三つの亜空間破壊装置を破壊する。
5:ギガゾンビにバレるのを防ぐため、施設内のツチダマは必ず破壊する。可能ならスパイセットも没収。
6:ギガゾンビを倒す。
[備考]:第三放送を聞き逃しました。
首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています。
モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました。
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん 死亡】
【次元大介@ルパン三世 死亡】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's 死亡】
【次元大介@ルパン三世 死亡】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's 死亡】
【残り24人】
獅堂光の剣(次元とぶりぶりざえもんの死体に突き刺さっている)
クラールヴィント(シグナムの死体の指にはまっている)
454カスール カスタムオート(残弾:0/7発) 次元大介の死体が握っている
コンバットナイフ
クラールヴィント(シグナムの死体の指にはまっている)
454カスール カスタムオート(残弾:0/7発) 次元大介の死体が握っている
コンバットナイフ
以下の物がF-7エリアのどこかに放置されています
鳳凰寺風の弓(矢18本) コルトガバメント(残弾5/7)
[シグナム?のデイパック]
[道具]:支給品一式×3(食料一食分消費)、スタングレネード×2
ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night
トウカの日本刀@うたわれるもの、ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾6/15)
[道具]:支給品一式×3(食料一食分消費)、スタングレネード×2
ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night
トウカの日本刀@うたわれるもの、ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾6/15)
時系列順で読む
Back:のこされたもの(相棒) Next:「選んだら進め。進み続けろ」
投下順で読む
Back:のこされたもの(相棒) Next:峰不二子の陰謀
244:のこされたもの(相棒) | ゲイン・ビジョウ | 250:自由のトビラ開いてく |
244:のこされたもの(相棒) | シグナム | |
244:のこされたもの(相棒) | 次元大介 | |
244:のこされたもの(相棒) | ぶりぶりざえもん |