「次回北京オリンピックで日本のメダルを2倍にするにはどうすればいいか提案してください」
「競技数を増やす」
匿名希望さん
「競技人口の少ない、比較的メダルの取りやすそうな競技を探し、
恐らくそういった競技では選手活動における資金やバックアップ体制が
整っているとは言い難いと思いますので
それらを支援することでメダル増を見込む。」
匿名希望2さん
「審判を買収する」「採点方法を変える」「ばれないドーピング方法を開発する」などというユニークなものも考えられます。
しかし、どれの答えも決定打に欠ける気がしませんか?
どうしてそう感じるのかといえば、たぶんこういうことなのです。
「どうしてその方法がベストなの?」
「他に方法はないの?」
「それだけでほんとに2倍になるの?」
ということだとおもいます。だからスッキリしません。
面接でこの問題がでたときも、面接官のツッコミは、まさにそれでした。
問題の考え方を考える
「北京でメダル2倍」
みなさんはどのように考えましたか?
おそらく問題解決になれていないひとは、具体的な解決策のアイデア出しみたいなものを始めにディスカッションしてしまうのではないでしょうか。
みんなでアイデアを20個出してみて、いけそうだ、と思うのを多数決投票して、ちょっとキャッチコピーを付け加えて提案する。
学生の議論をみていますと、まさにそういう感じなのです。
コンサルタントのアプローチは違います。
コンサルタントは、いきなり答えを考えません。いきなりというのは、具体的なレベルの解決策は最初は考えないということです。
具体的なレベルの解決策というのは、「審判を買収」とか「ドーピング」とかの、個々の解決策を議論しないということです。
コンサルタントは、まずはじめに「問題の考え方を考え」ます。考え方を考えるというのは、なんともややこしいです。あまりイメージがわかないかもしれません。
しかし、このステップを踏むことで、答えに納得性が出て、さらに抜けや漏れもなくなるのです。
まずは、「メダル2倍」を個々の要因に分解して考えてみます。
メダルの数は、どういう要因で決まるのでしょうか?
メダル増 = 【メダル対象種目増】×【選手の活躍=メダル取得増】
ということだと思います。
要するに、メダルへチャレンジする機会が増えて、そのなかで選手がメダルを取れば、結果的にメダルは増えるというわけです.
メダル増 = 【メダル対象種目増】×【選手の活躍=メダル取得増】
と定義しましたが、【メダル対象種目増】はどのような考え方がありますか?
これには2つのアプローチがあります。競技自体の新設と、競技内での階級の新設です。
競技自体の新設は、剣道を新しい競技を認めてもらうといったようなことです。
競技内での階級新設というのは、体重別に区分されている競技(例えば柔道)などで、新しい階級を増やすということです。女子レスリングのグレコローマンスタイル新設もこの範疇でしょうか。
たとえば、
- 剣道をオリンピック競技にする
- 女子レスリングで、男子同様グレコローマン級を導入=4競技増
- 柔道でさらに細分化=1競技増
- 競泳を身長別で3クラス制に→水泳が一気に競技数3倍
すべての競技をあらってみて、競技を増やす機会がありそうなものを評価します。さらに、その実現可能性も評価します。
これを、【競技増でのメダル獲得機会】などの資料にします。これを見れば、どの分野で競技を増やす機会があり、どれが実現可能性があるか、一目瞭然というわけです。
選手の活躍=メダル取得増】はどうでしょうか?
これは、競技参加人数という母集団のうち3位がメダルなのですから、【競技人口】と【相対的競争力】などで定義できそうです。
2×2のマトリクスにでもしてみましょうか?
(1)は「確実にメダルがねらえる競技です」
競技人口が少なく、相対的に日本が強い競技が有利なことは明らかです。
つまり、柔道の軽量級や野球が最たるものです。これにはチャンスがありそうです。競技人口は増えてほしくありません。柔道はあまり世界に広めてはいけないのかも知れません。階級を減らされたり、ノルディック複合のような不利なルール改正をされないよう気を付けるべきです。
(2)は「メダルがとれるかもしれない競技です」
競技人口が多いものの、日本も強いというものです。
マラソンなどがこれにあたるかもしれません。
これは実力が拮抗しているということですから、ルール改正などで、日本選手だけを飛び抜けさせることも可能かもしれません。
(3)は「強化対象の競技です」です。
競技人口は少ないものの、日本はそれほど強くないというのがここです。マイナー競技だと、日本の参加選手がいないという競技もあるかもしれません。この分野で日本ほどの国力のある国が気合いをいれて選手を育成すれば、メダルをねらえるレベルになるかもしれません。
オリンピックの全種目をこのマトリクス上に分類して1~4までの優先順位をつけてみることにします。これを、【活躍機会によるメダル増】という資料にします。
(4)は「メダル薄の競技です」
どうでしょう。競技人口が多く、日本がそれほど強くない競技、
つまり、サッカーや陸上短距離でしょうか。
これは、無視ですね。メダル増にはつながりません。選手の奇跡を期待するだけです。
将来を期待して・・ということなら、ここにカネ突っ込むよりも、(3)の選手育成をすべきです。
ここまでくれば、多少は結論めいたものが出せそうです。
さて、いままでの議論を組み合わせてみます。有効な策というのは限られてきます。どこに力を入れるべきか、だいたいの方向性が見えてきました。
(1)「メダル確実競技」「メダルかも競技」にて、階級増や、競技新設を狙う。
(2)「メダルかも競技」での「選手強化」。
(3)将来を視野に入れ「強化対象競技」への布石を打つ。
この3本柱ではないかと思います。他の戦略もあると思いますが、優先順位を付けるとするとこれになるのではないでしょうか。
オリンピックの競技構造と、日本の選手層からみて、戦略的にどこにメダル機会があるかが評価をしてきました。これが基本的な戦略になります。
「考え方を考える」というのは、このように、問題の構造を明らかにして、評価の軸や、結論をだすための枠組みを作ることです。
この過程を経ることで、「どうしてその方法がベストなの?」「他に方法はないの?」
という疑問に対して強くなることができます。
面接対策ということで、書いてみましたが、参考になりましたでしょうか。
面接でのお話をもうちょっとしましょう。
このようなケーススタディの練習をしますと、必ず「専門知識」でツッコミをいれるひとがいます。
ノルディック複合は競技人口が多いから「メダル確実競技」ではないとか。シンクロは実は競技人口が少ないとか。
情報としてはありがたいです。
しかし面接では逆効果。重箱の隅を突っつくような指摘をして「こんな初歩的なことがわからないようでは・・」と全体の枠組みや議論をどこかに追いやってしまうような、くらーい雰囲気を醸し出す人がいるのです。
本人は、俺は知識があるぞ、ということでポイントを稼いだと思っているのですが、面接官からら見れば「大局を理解できないひと」ということで、マイナス100点です。
面接官は、専門知識の有無を問うているのではないのです。
面接官は、そのひとがどのように物事を考えるかという筋道をみているのです。筋道を立てるのがコンサルタントの仕事ですから。
そこを勘違いしている人は、まず落ちます。
個々の事象の細かいこと(シンクロの競技人口うんぬん)といったことは、あとで調べたり、専門家に聞いてみればなんとかなります。だから、面接の場ではそれが間違っていても別に構わないのです。
この「何々で2倍」というのは、いろいろ応用がききます。
「七味唐辛子の消費量を2倍にするには?」
「牛肉の消費量を2倍にするには?」
「日本人のアカデミー賞を2倍にするには?」
「日本のチェス人口を2倍にするには?」
いくらでもケースを作ることができると思いますので、昼休みにでも同僚と練習してみて下さい。
最終更新:2009年03月10日 21:51