セーブポイント [カルク グリアス]

ーーーさんが入室しました
ーーー : >> クオーツ=イーグレット
「カルク、元気にやっていますか? ちゃんと食べていますか?
 便りが無いのは…と言いますし、大学生活が充実しているならば何よりなんですけどね。
 都市部の方は最近とても物騒だと聞いています。ニュースを見る度に不安になります。
 よかったら、たまには家に帰ってきませんか?
 父さんと母さんに、元気な顔を見せてくれると嬉しいな」
ーーー : ―――
ーーーさんが退室しました
カルクさんが入室しました
カルク : (キアシス北部、田園地区。
カルク : (キアシス5区の中でもっとも豊かな自然に溢れた地区。落ちかけた陽が田圃の水面をオレンジ色に照らしている。夕刻だ。
カルク : (小高い丘の上に建つ、白い壁が特徴的な大きな一軒家がひとつ。
カルク : (イーグレット家は田園地区の農地転がしと魔サギの生息管理で身を立てる地主。
カルク : (貴族や元老院に名を連ねる類の家柄ではないが、このキアシス田園地区ではトップクラスに裕福な…
カルク : (ようするに田舎の金持ちの家だ。
カルク : ……。
カルク : (街は今や人の気配がほとんど無い。魔サギのどこか不穏げな鳴き声が遠くから響くのみ。
カルク : (まるで映画のように静まり返ったその場所で… 二階の窓の傍に立ち、広がる田圃を俯瞰している青年。
カルク : ………。
カルク : (窓から離れ、テーブルに広げられた数冊の資料ファイルを本棚にしまうと
カルク : (部屋を出て、ゆっくりと階段を降りていく。
カルク : (廊下を歩き、静かな足取りでリビングへ。
カルク : (そこには――――
カルク : …………。
カルク : (白目を剥いてひっくり返っている2名の男女。年の頃は…40代くらいか。
カルク : (2人とも丁寧にソファに寝かされている。意識を失っているようだ。
カルク : (…広いリビングは荒れ果てている。あちこち家具が倒れ、壊れ、壁や床には焼け焦げたような跡も。
カルク : (床に転がるのは割れたアンプル器具。中の液体が漏れ、カーペットに妙な色の染みを作っている。
カルク : (安らげる場所であるはずの実家の惨状を眺め見渡し、
カルク : ……
カルク : ………  はぁ………。
カルク : (深々と溜息を吐く。……自分に嫌気が差す。そういう類の溜息だ。
カルク : (――警戒はしていた。だからこそ難を逃れられたとも言えるのだが。
カルク : (キアシスの民は既に多くが洗脳されている。 …事前に情報を得ていてなおこの為体。
カルク : ………
カルク : (――家から距離を置いている自覚はあった。
カルク : (血の縁。 家族が家族であり、片割れと片割れ同士である限り、逃れられないものがある。
カルク : (片割れには何の非も無いと知っていた。両親はいつだって大らかで、二人を比べるような事はしなかった。
カルク : (…正確には、比較を表に出さないようにつとめていた、とカルクは認識している。
カルク : (…変に八つ当たるような真似をしたくなかった。
カルク : (だからこそ彼はその鬱積を、言葉でも、態度でも、表情でも語らずに過ごしていたのだが…
カルク : (あの事件――『レウカ』の件を皮切りに、結局ソレは表出することになる。
カルク : (歪な切っ掛けで、初めての事だからこそ盛大で、そして今も長引く双子喧嘩は、大学進学とたまたま重なった。
カルク : (…良い機会だとも思った。 自立と独り立ちに混ぜ込みながら、距離を取る。
カルク : (そうやって落ち着けて、己に折り合いを付けていけば、それはきっと自然な成長に違いないと。
カルク : (――何処にでもあるような、まるでありふれた家族の話だと。
カルク : (その選択は悪いことでは無い筈だ。少なくとも自分は、そう思ったからこそ選んだ。
カルク : (だが――――
カルク : (自ら家族を遠ざけるという選択に、ひそかに内に抱えていた後ろめたさ。
カルク : (……ソレを、ものの見事に突かれた。 ……そういう事だろう。
カルク : ………。
カルク : (テーブルに着き、組んだ両手を額に当てている
カルク : (考える。 彼女も、こうだったのだろうかと。
カルク : (「家」に何かある事は知っていた。母との関係に鬱屈を抱えている事も。
カルク : (何でもない風に振舞いながら、助けを求めるようにぽつぽつと零される言葉を聞いた。
カルク : (強がりで。天邪鬼で。危うげで。不器用で。
カルク : (いつだってうまく手を伸ばす事もできないけれど 自分は、そんな彼女を―…
カルク : (…… 思い出す。 隈の目立つ目元。時折うつろになる瞳。……言葉にならない違和感。
カルク : (……彼女もこうだったのだろうか。
カルク : (今日の自分と同じように。 心の隙を、弱みを突かれたのだろうか。
カルク : …………
カルク : …… クッソ野郎……
カルク : (いつになく低い声で呟く。 ……どうも最近口が悪くなってる気がする。
カルク : (とにかく、彼に戦う理由は充分だった。
カルク : (市政関係者でも八首でもない、只の一般市民でも。……只のキアシス市民、一個人だからこそ。
カルク : ―――
カルク : (…こうしてどれだけの時間が経っただろう。随分と長い時が過ぎたように感じる。
カルク : (北に向かうと決めた。その道中、顔見せにと実家に足を伸ばしたのは、…昨晩の事だっただろうか。
カルク : (それで、 ――― こんな羽目になって。 街中に避難勧告が響いている間もココに留まり続けていた。
カルク : ……(ふと携帯を取り出し、視線を落とす。
カルク : (手筈では合図がある筈だ。単独で突入するのは危険が大きいと言う話。
カルク : (正直、この状況で誰かと連絡を取るのは博打だとも思ったが… 『時計台の魔本』あの怪しい店員の言葉がヒントになった。
カルク : (…実際にかの魔本の効果を見、知り、事態に対処した者ならば、もしかしたら――と。
カルク : (結果的にそれは大当たりだった。…出会い頭に両目からビーム当てられたのには驚いたが。
カルク : (携帯画面に映し出された奇怪なマスコットは言っていた。
カルク : ( 『もし夜になっても何の音沙汰も無ければ、 その時は――』
カルク : ……。
カルク : …。
カルク : (意を決したように、携帯をポケットにしまう。
カルク : (その時――――
カルク : (――― 夜空に 目映い光が奔った。
カルクさんが退室しました

 

 

 

--さんが入室しました
-- : (――グリアス・ネムロスは破綻した家の子どもだった。
-- : (10歳の頃、今にもこわれてしまいそうな家庭を繋ぎ留める為、彼はあらゆる役割を担った。
-- : (どうすれば上手くやれるのか。どうしたら上手に生きられるのか。
-- : (ずっと、ずっと、そればかりを考えていた。
-- : (そうすれば家は保たれると考えた。
-- : (20歳の頃、彼の家––由緒あるはずの名家は、金銭的な失敗によって完全なる凋落の危機を迎える。
-- : (そのなかで、当時力のあった分家の主導で凋落にあった本家と分家の入れ替えが行われようとしていた。
-- : (そこで、グリアス・ネムロスはその分家の当主を殺害する。そして、うまく騙くらかし分家の当主死亡の保険金を本家の金策に当てさせた。そうすれば家は保たれると考えた。
-- : (30歳に至るまで、グリアスは友と出会う。そして全力を尽くし、魔術の技能を磨いた。そうすれば家は保たれると考えた。
-- : (努力の甲斐あってグリアスは名声を博し、家の威信は取り戻された。
-- : (だが、名声を博していた彼に夜な夜な殺害の現場が頭をよぎる。
-- : (奇妙な感情。自らの悪への激烈な嫌悪と愉悦。その二つの混雑。グリアス・ネムロスはそれを日々胸に感じていた。
-- : (35歳になるまでに、ある人物がキアシスに現れる。
-- : (まさしく天才と呼ばれるにふさわしい魔術師。及ぶもののない才覚と天性の人柄の良さを持ち合わせた魔術師だった。
-- : (グリアスは努力を重ねた。あらゆる手段を試した。
-- : (だが彼女との差は開く一方だった。
-- : (そこで彼はある画策をする。
-- : (ある元老を呼び出し、誰にも気づかれないように殺害する。今度は明確に自らの意思によって。
-- : (そして入れ替わりに彼は元老院に所属する。そしてそれを足がかりに政治的な力によって、リーズベルトの教授に就任する。
-- : (時は戻り、二度目の殺害の現場。グリアスは血に染まりながら嗤っていた。
-- : (魔術師として義を求める心。道義。探求心。なんという虚飾なのだろうか。それは、明確に力のあるものだけが勝利する、その事実を覆い隠すためだけの衣に過ぎないのだ。
-- : (そして、自分が守ろうとしたもの、自分が築こうとしたもの、それがいかに自分の足をひっぱっていたのだろうか。
-- : (自分には、もはや家はいらない。
-- : (そして、いつしか彼には親しい友人も誰もいなくなった。
-- : (そして彼は道に外れた研究に邁進し始める。
-- : ――――
-- : (時は流れ……、
-- : (50歳の頃、彼は自らが殺害した分家の子どもを養子に取ることにした。
-- : (幼い頃の自分を見ているようで苛立ったからだ。
-- : (再び失わない為にはどうすればいいのか。そればかり考えているその子を。
-- : (それならば、自分が家族になってやろう。
-- : (そして、身も心も削り、砕いてやろう。それがいかにくだらないかを教えてやろう。
-- : (積み重ねられた実験の果てに、グリアスはロレの人生を培養液に浸した。
-- : (グリアス・ネムロスは嗤う。愉悦。
-- : ――――
-- : (同じ頃、自らを師と慕って疑わない、ある孤児と出会った。
-- : (まるで自分を顔も知らない彼の父親と重ね合わせているかのようだった。
-- : (それはグリアスを再び苛立たせた。
-- : (そうならば望みの通り、優しい優しい父親を演じてやろう。
-- : (そして、最後の時に――――
-- : (心からの裏切りを見せてやろう。そして、絶望の淵に叩き込んでやろう。身も心も削り、砕き、差し出させよう。
-- : (長い長い年月をそう思いながら、彼は裏切ることをいつの間にか忘れてしまっていた。
-- : (何故なのだろうか。
-- : (そして――――
-- : (グリアス・ネムロスに死が近づいていた。病による死である。
-- : (もっとも彼は延命魔法を好まないため、処置はなされていないに等しいのだが。
-- : (そして日に日に、死が近づいていることに気づくにつれ、
-- : (彼は退屈を感じていた。
-- : (そして、ある日気づいた。
-- : (そうだ。自分は自分が望んだことをまだ果たせていないのだ、と。
--さんが退室しました
キアシス地下牢さんが入室しました
キアシス地下牢 : ––––––これは今から少し前か、それとも少し後の話か。
キアシス地下牢 : 場所はキアシス地下牢。
キアシス地下牢 : その奥の奥。大罪人が収容されるなかの、小さな一室。
キアシス地下牢 : 不死の病にかかった老人に割り当てられたため、牢獄にしては整えられた一室。
キアシス地下牢 : そこに収容されていた老人が突如として消滅した。それも跡形もなく。
キアシス地下牢 : 一滴の血痕のみを残して。そのように見せかけた。
キアシス地下牢 : その消滅は協力者の迷彩光学による騒ぎの中の脱獄、という極めて原始的なトリックだった。
キアシス地下牢 : 室内には乱れた筆跡で書かれた遺書のようなものが残されており、魔導警察は自らの魔術を用いた自殺と断定した。
キアシス地下牢 : だが、その遺書には、細工がされていた。
キアシス地下牢 : 炎魔法の魔力によって隠されたメッセージが浮かび上がるというこれも極めて原始的なトリック。
キアシス地下牢 : そこにはこう書かれていた。
キアシス地下牢 : 「キアシスの阿呆どもは自らを 恥じるだろう 
キアシス地下牢 : 魔法使いとしての己が力の無さを。それとも挑戦を受けるか?臆病者よ
キアシス地下牢 : よーするに、ワシが最強の魔法使いじゃ。
キアシス地下牢 : グリアス」
キアシス地下牢 : 老人の死の間際の退屈は、彼を「最強の魔術師」という幼い頃に抱いた幻想へと突き動かした。
キアシス地下牢 : このようにして、キアシスの存亡をかけた戦いは密やかに幕を切ろうとしていた。
キアシス地下牢さんが退室しました