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雨の青、海の青 [那菜葉]

ラプレーンさんが入室しました
ラプレーン : (雨都、ラプレーン。
ラプレーン : (いつものように今日も雨。
ラプレーン : (ぽつぽつと明かりを灯し始めたオレンジ色の街灯が雨に濡れた夕暮れ時の路地を照らす。
ラプレーン : (地面が雨に濡れた時の香りが街全部を包んでいる。
ラプレーン : (そんないつもの雨都を物思いにふけりながら出て行く女性が一人。
???さんが入室しました
??? : ………。
??? : (名残惜しさからかふと昔を思い出してしまう。
??? : (ーーーその日も、雨だった。いつものように。
??? : (幼いからその時は事情は分からなかったけれど、一家・一族の中で争いが起こった。ただの家族喧嘩なんかじゃない、とても激しい、血を血で洗うようなもの。
??? : (「逃げていなさい」って言われて、別宅で待っていたけれど、どうしてもお父様に、お母様に会いたくて、私は屋敷に行った。
??? : (すると、そこにあったものは皆の亡骸だった。
??? : (お父様、お兄様、いつも私の身の回りの世話をしてくれていたメイドや使用人たち、
??? : (そして幼い頃から私を守るといつも側にいてくれた従者。
??? : (……皆の亡骸が。
??? : (そこからは覚えていない。気を失い、気がつくと私は、生き残ったらしい屋敷に長く仕える老執事に抱き抱えられているところだった。
??? : (その時からだった。私の声が出なくなったのは。
???さんが退室しました
ラプレーン : (ーーーそれから3年後。
那菜葉さんが入室しました
老執事マメゾウさんが入室しました
那菜葉 : (……今日も雨が降っている。いつものように。
那菜葉 : (私は、いつものように水龍様の神殿に行き、いつものように祈る。毎日それを繰り返す。
那菜葉 : (……どうか、お父様が、お兄様が、そして私が赦されますように、と。
那菜葉 : (そして私は屋敷に帰る。きっと執事が待っている。いつものように夕食を作って。
那菜葉 : (屋敷に残ったのは二人だけだったけど、つらい後悔の日々でありながら私は幸せでもあった。
ラプレーン : (ーーーそれから5年後
那菜葉 : (……今日も雨が降っている。いつものように。
那菜葉 : (私は、いつものように水龍様の神殿に行き、いつものように祈る。
那菜葉 : (……どうか、お父様が、お兄様が、そして私が赦されますように、と。
那菜葉 : (そして私は屋敷に帰る。いつものように執事が待っている。きっと今日も夕食を作って。
老執事マメゾウ : おや、お帰りなさいませお嬢様。
老執事マメゾウ : 身体も冷えたことでしょう。とっておきのビーフシチュー、出来てますぞ。
老執事マメゾウ : 今日は市場でよい香辛料が手に入ったので、試しに使ってしまいました。
老執事マメゾウ : 成功してるといいんですがのぉ〜…。
那菜葉 : (私は心労から声が出なくなったけれど…、
那菜葉 : (屋敷に長年仕えるこの執事も、きっと心を痛めているに違いない。
那菜葉 : (……なのに、いつも気丈に、どこにも暗さなんてないように私に振舞ってくれる。
那菜葉 : (私は筆談でこう書いた。
那菜葉 : 「毎日作ってくれるじいやの夕食のおかげでこんなに大きくなれました。」
那菜葉 : 「見ての通り、じいやよりずっと大きいのよ!」
老執事マメゾウ : フフ、これは一本取られました。
老執事マメゾウ : 私ももうおじいちゃんですからのぉ。育ち盛りの那菜葉様には敵いませんて。
那菜葉 : (そして二人で笑い合った。そんな私の、いつものように。
ラプレーン : (ーーー7年後。
那菜葉 : (……今日も雨が降っている。いつものように。
那菜葉 : (私は、いつものように水龍様の神殿に行き、いつものように祈る。
那菜葉 : (……どうか赦されますようにと。
那菜葉 : (そして私は屋敷に帰る。いつものように執事が待っている。きっと夕食を作って。
那菜葉 : (執事の姿はどんどん小さくなっていくように見えるけど、
那菜葉 : (この日々がずっと続くに違いない。きっと、ずっと…。
ラプレーン : (ーーー10年後。
ラプレーン : (……今日も雨が降っている。屋敷のベッドに老執事が横たわっている。
ラプレーン : (動けないようだ。
老執事マメゾウ : (おぼつかない手で夕食を食べている。ビーフシチューだ。
老執事マメゾウ : ……ありがとうございます。こんなに美味しいビーフシチューは生まれて始めてですじゃ。
那菜葉 : (私は筆談でこう書く。「うそつき」、と。料理なんかほとんどしたことないのに美味しいわけない。
老執事マメゾウ : ふぅ。
老執事マメゾウ : ……私もいささか歳を取り過ぎました。それに、いささか長く生き過ぎました。
老執事マメゾウ : こうなってしまって、那菜葉様の手を煩わせるとは。
老執事マメゾウ : ……いやはや、もう助かりますまい。
老執事マメゾウ : しかし、いささか長く生きたおかげで、那菜葉様とこうしておれました。
老執事マメゾウ : 私の人生で何にも変えがたい、
老執事マメゾウ : ……いや、一番幸福な時でした。
老執事マメゾウ : ……。
老執事マメゾウ : (ゆっくりと那菜葉に向き直る。
老執事マメゾウ : 今後の貴方の成長を見て取れないのは残念ですが、
老執事マメゾウ : ……那菜葉様、
老執事マメゾウ : ……
老執事マメゾウ : どうかこれからは人のためにではなく、自分のために自分の人生を生きてくだされ。
老執事マメゾウ : じいやとの約束ですぞ。ふぉふぉ。
老執事マメゾウ : おっとこれは柄にもないことですかな。
老執事マメゾウ : ……。
那菜葉 : (……そして、それからしばらくたったある日。じいやは意識を失った。
那菜葉 : (私は、いつものように水龍様の神殿に行き、いつもとは違うことを祈る。
那菜葉 : ………、
那菜葉 : どうか、じいやが助かりますように。ずっと一緒にいてくれますように。
那菜葉 : (それが私が声を失ってからもう一度出した、はじめての声だった。
那菜葉 : (その願いは届くことはなかったのだけれども。
那菜葉 : (……。
ラプレーン : (ーーー10年後から半年後
那菜葉 : (……今日も雨が降っている。いつものように。
那菜葉 : (私は、いつものように水龍様の神殿に行き、いつものように祈る。
那菜葉 : (そして、市場に行き、今日の夕飯の支度をする。
那菜葉 : 今日はこんな香辛料があるのですね。試しに買ってみようかしら。お安くなるかしら。いえ、わがまま言ってはいけませんね、ふふ。
那菜葉 : (声も十分に出るようになった。じいやのプレゼントだったのかもしれないと思ったりもする。
那菜葉 : (そして私は屋敷に帰る。伽藍のように大きな屋敷には誰ももう待ってはいないけれど。
那菜葉 : (自分のために自分の人生を生きてくれと、そうじいやは言ってくれたけど、
那菜葉 : (きっと私の人生はこのまま何事もなく過ぎていって、いつか終わりを迎えるのだろう。そう思っていた。
那菜葉 : (ーーーこの日までは。
ラプレーン : (……リリリリリ。
ラプレーン : (雨月藍玉邸の古びた黒電話が鳴る。
ラプレーン : (電話の主は、那菜葉が幼い頃に連れられて行った舞踏会で何度か会ったことのある人物だった。
ラプレーン : (電話の主は告げるーーー
ラプレーン : 「知りたくはないか!?」
ラプレーン : 「新しき世界を!」
ラプレーン :
ラプレーン : 「切り開いてみたくはないか!?」
ラプレーン : 「新しき世界に!頼もしき仲間と共に!」
ラプレーン :
ラプレーン : 「踏み込んでみたくはないか!?」
ラプレーン : 「新しき世界へ!いざ行かん!南大陸へ!」
ラプレーン :
那菜葉 : (彼女は迷った。
那菜葉 : (迷ったが、自分の意思で生まれて始めてラプレーンを離れ、そのクルーズに参加することにした。
那菜葉 : (自分のために自分の人生を生きるために。
那菜葉さんが退室しました
老執事マメゾウさんが退室しました
ラプレーンさんが退室しました

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ログ 2019Q4
最終更新:2019年11月19日 01:32