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ノー・コレクト・アンサー [かすか アルド]

――さんが入室しました
―― : (――求めているものは、健全な家庭、単純な人生、平穏な暮らし。
―― :  
―― : (魔導都市で、二度に渡り傷ましい事件があった。
―― : (そのどちらも復権か、復讐か。
―― : (亡き父を思い出さぬようにと、平穏に暮らしていた筈の数年は
―― : (そこで、忌怨に染まった母の軛でしかなかったと気付いた。
―― :  
―― : (父が居なくなってから、気がつけば視線は高くなっていて、
―― : (世界はこれ以上無いほどに汚れてきっていた。
―― : (だけど、違った。
―― : (気が付かなかっただけで、
―― : (わたしのからだも、ずっとよごれていた。
―― :  
―― : (――”求めていた”ものは、健全な家庭、単純な人生、平穏な暮らし。
―― : (――――いま は――――
―― :  
―― :  
かすかさんが入室しました
―― : 「――――!!!」
かすか : (激痛で目が覚める。――右手は真っ赤に染まっていて、肩口が灼けるよう熱い。
かすか : (どうやら気絶していたのは数秒ほど。なのに、ずいぶん長い夢を見ていた気がする。
かすか : (暗色の夢が、血液不足を訴える脳の中で珍しくクリアーになっていたのだろうか。
―― : 「―、、、して―――― た……!!!」
かすか : ――、、(壁に寄りかかり、力無く目の前の男を見遣る。
かすか : (ナイフを両手に肩で大きく息をしている。血走った双眸からは激しい怒りと悲しみが綯い交ぜになっていて。
かすか : (だがこの男は戦闘者でも、襲撃者でも、魔術師でも、剣士でも何でもない。
かすか : (この街の金融業に努め、それなりの役職についているだけのただの男だ。
―― : 「――――った、、、!!」
かすか : (……数日前、子供を攫われ、数分前に再会を果たした男。
かすか : (ただし、再会した時、子供に人差し指は無かった。
かすか : (床に転がっている異物がなんであるか、その隣に置いてある小包の箱がなんであるか
かすか : (男が持っているナイフが、直前まで、別の誰かによって、”なにをしていた”かなど
かすか : ――、(それこそ、推測するだけで反吐が出る。
―― : 「――、――――!!」
かすか : (赤毛の可愛らしい子供が、男の後ろで、包帯の巻かれた真っ赤な手を見つめて泣いている。
かすか : (……その姿を見るだけで、言葉にならない。
かすか : (今すぐにでも、治療に駆け込めば何とか、なるのだろうか。 こんな大怪我を負わねばならない罪を、十に満たぬ子がいつ背負ったというのだろう。
―― : 「――、、ッぜ、 こんな  真似をした!!」
かすか : (その責任は、誰にあるというのか。 ――激高する男が、ナイフを持ったまま詰め寄ってくる。
かすか : ……。(影に潜む者<かすか>は、何も答えなかった。否、応えられなかった。
かすか : (自分の、行動を説明することはできる。
かすか : (此処を去った、アレグレンと名乗る男の動機を代弁することもできる。
かすか : (だけど、それで得られるものは、なにもない。
かすか : ――、、、(不思議と、涙は出ない。影の鎧を穿った傷は、薄汚れたコンクリートに血溜まりを作る
かすか : (……まさかこの男も、命までは取らないだろう。
―― : 「なぜ。。。こんな真似をした!!!」
かすか : (あの子の痛ましさと、自分の浅ましさと、その何もかもに心が押し潰されて、声が出ない。
かすか : (出たところで、何を言えと、言うのか。
かすか : (当然、男の思惑とは違い、子供を誘拐したのも、指を切り落としたのも彼女ではない。
かすか : (犯人のアルグレンはもう、街を出た頃かもしれない。
かすか : (数年前、アルグレンの息子は、目の前の男に交通事故で殺されてしまった。
かすか : (裁判は、異例とも言えるほど男に対して寛大なものだった。彼の立場からか、もはや調べる術も無いが。
かすか : (息子を理不尽に奪われた悲しみ、憤りが行き詰まった結果が、誘拐などというふざけた復讐に及んだ。
かすか : (――たぶん、正義は、どちらにもない。
かすか : (子供の救出を果たした彼女<シャドウダイバー>は、アルグレンを逃がした。
かすか : (アルグレンは泣いていた。指を失い泣き喚く子供に何度も詫びの言葉を叫びながら、必死に手当てを繰り返し、ひどく憔悴しきった表情のまま泣いていた。
かすか : (だから、彼女は逃がした。彼を手に下すことも、警察に突き出すことも、できなかった。
―― : 「――――、!! ――――!!」
かすか : (怒号が耳を叩く。 絶望を受け止められぬ、悲痛な叫びであった。
かすか : (状況を説明して、彼らは救われるのか
かすか : (我が身を代わりに差し出せば、彼らは救われるのか
かすか : (どうすれば、 あなたのために なれるのか。
かすか : (わからない。 せめて彼らの前で立ち尽くすことしかできない。
かすか : ――、(せめて、彼らからは決して目を離すまいと
―― : 「―――――!」
かすか : (子供を救出してヒーロー、のようには往かない。
かすか : (いや、本当のヒーローなら、誰も傷つけず、誰も悲しませず、誰一人泣かせることなく、
かすか : (そんな、理想を歩くのではないだろうか。
かすか : (ああ、せめて、ここに来る時間が、あと少し、あと少しだけ早ければ
―― : 「――――!!!」(血濡れたナイフを振り上げる
かすか : (……懺悔にもならぬ重石を呑み込んで、歯を食いしばる。
アルドさんが入室しました
アルド : (悲痛な静寂が埋める空間を、乱暴に扉が開く音が裂くように響く
―― : 「―――!」(背後で響く音に動きを止める
アルド : ――…(扉を足蹴に蹴り飛ばし、銃を構えて突入して来た人物。
アルド : …止まンなさい。 警察です。(室内に踏み入りながら、状況を、3者の有様を認識して――…
アルド : 、…(赤に染まった包帯に、僅かに、だが確かに顔を歪める
―― : 「っ……警察……っっ……!!」
かすか : ――……、、、
アルド : … ウィルバー・ブリッドウェル氏ですね。
―― : (返り血に汚れ、激しい興奮状態にある男――ブリッドウェルとその子。
アルド : …(どうやら親子の顔は把握している。まあ、出動してきた警察官なのだから当然か。
―― : 「――来るな!! 何が……何が警察だ……!!」
アルド : ……敵は。(黒外殻に尋ねるように
かすか : ………(敵。
アルド : ……。 ……落ち着いて下さい。ブリッドウェル氏。 (返事は無いが、誰かが潜んでいる気配は無いと見て
かすか : (そう、ここには他に誰も居ない。 倒すべき明確な邪悪も居なければ、誇るべき正義もありやしない。
アルド : …ご子息の救出が先でしょう。 …相応の機関に行けば、まだ間に合います(言って、子どもの方に歩み寄ろうと
―― : 「なっ……ッ、、、!! ………!!」
アルド : ……、(道中、床に転がる血に塗れた異物に気付く 言葉にならない表情で拾い上げて
アルド : ……大丈夫だ、ちゃんと治るよ。(泣く子供に目線を合わせて、笑みを見せて
―― : 『……、、、 』(泣き腫らした子供が、アルドと目を合わせて
―― : 『ホン、、 ト……?』
アルド : …あぁ。 本当だ。( ――そうだ。
かすか : ――――。
アルド : (この街の医療は「ちゃんとしている」。 特に、富裕層は 
アルド : (……この子どもの傷は、この街が救う事が出来る。
―― : 『 ちが  うの』 (ぽつりと
アルド : … ――…ん、
―― : 『おにー、さん  ちがう の』 (それは、怒りに震える父には掛けられなかった言葉
アルド : ……違う…?
―― : 『あの人、、じゃな―――っ”っ”!!!』(起き上がろうとして、激痛に声をあげて転びそうに
アルド : ――……、 …あぁ、、(支え、抱きかかえて
アルド : 解ってるよ。(当然、という様に
―― : 「――!!」(思わず駆け寄って
かすか : ――……
―― : 「だっ 大丈夫か っ  け、怪我―― す、すぐ、、病院、にっ」
―― : (冷静になった男は、激しく狼狽しながらも、何を最優先すべきかは悟ったようで
かすか : …………
アルド : …下に救護車が付けてあります。(子を抱き抱えて立ち上がり、狼狽する男を向いて
―― : 「すまんっ っ  父さんは、、父”さんは”……っっ、、!!」
―― : 『……、、』(アルドに蹲るように
アルド : …傍に付いててあげてください。(そうして、外へと進みだす
―― : 「……! ………!!」
―― : (男は早口で我が子に話しかける。 もう大丈夫だ、や きっと治る、など
―― : (励ましと、謝罪と、安心を齎すように
かすか : ……(その姿を見て、壁に手をついて立ち上がると割れた窓へ向かって歩き出す
かすか : (大切なものを喪わぬよう立つ男達の姿が見えた。温かいだろうその胸に抱かれている子供も見えた。
―― : 「――!!? 待て!!  何処に行く!!?」(そんな彼――彼女に気付いて
かすか : ――。(立ち止まらない。背に響く怒号に、もはや殺気や怒りは無かった。
―― : 「待―――っ、!!」
アルド : …、……(そんな様子を背で感じて
かすか : ――わからない。(ぽつりと
アルド : …アチラは警察で追います。 …報告を聞かせます、必ず。
―― : 「し、しかし……っ、、……!」
アルド : …(敵ではない。悪者ではない。どちらも口には出来ない。 この男の生き方次第で、それは変わるからだ。
かすか : (窓の外へと影が伸びたかと思うと――その姿が掻き消える
アルド : ……とにかく、今はご子息の事を。(宥めるように呟いて
かすか : ―――――……
かすかさんが退室しました
―― : 「……っ、、、……!!」
―― : (もはや追う術は、彼にはない。冷静を取り戻しつつある頭もあってか再び息子に視線を戻して
―― : (アルドに抱えられる少年と共に、その場を後にする
アルド : ―――……(一度だけ後ろを見遣って
アルド : (その場を後にする
アルドさんが退室しました
―― : (ほどなくして、けたたましいサイレンの音が、街の向こうへ劈いていく――
――さんが退室しました
最終更新:2021年02月14日 05:02