自分はもう役に立たない。ろくな対策も立てずにイブリースへ挑み、
ポヨリンを死なせた自分に、リーダーを続ける資格はない。
だが、それを最も強く引き留めたのはエンバースだった。
ポヨリンを失った悲しみを、無理に乗り越えろとは言わない。それでも、今のなゆたを一人にすることはできない。力がなくても、なゆたはなゆたであり、彼女がいたからこそ、ばらばらだった自分たちはひとつのパーティーになれたのだと訴える。
さらに、死霊術と交霊術に通じた《永劫の》オデットなら、ポヨリンともう一度会える可能性があると告げた。
もう一度だけでも、ポヨリンに会いたい。謝りたい。
万象樹ユグドラエアの根元に築かれた聖都エーデルグーテは、世界宗教
プネウマ聖教の中心地だった。巡礼者が行き交う白亜の都の最奥、大聖堂カテドラル・メガスで、一行は教帝《永劫の》オデットと面会する。
グランダイトから託された親書を読んだオデットは、同盟の申し出を快く受け入れた。
さらに彼女は、なゆたの願いにも慈愛に満ちた笑みで応じる。ポヨリンとの縁を示す壊れたスマートフォンがあり、適切な儀式を行えば、その魂を呼び寄せられるかもしれないという。
カザハもまた、ストームコーザーに宿ったテュフォンとブリーズの魂と話せないかと願い、明神は死霊術の教えを請う。エンバースやジョンもそれぞれの望みを口にし、オデットはまるで一行すべてを我が子として迎え入れるように、その願いを受け止めた。
一方、ガザーヴァだけは彼女の慈愛を信用しなかった。
侵食について何を知っているのか。なぜこれほどの力を持ちながら、世界の危機に動こうとしないのか。
ガザーヴァが問い詰めても、オデットはただ穏やかに微笑むだけだった。
交霊の儀式には準備が必要だと言われ、一行はしばらく聖都へ滞在することになる。
初めのうちは久しぶりに訪れた平穏を楽しんでいた。だが数日が過ぎ、数週間が過ぎても、儀式が行われる気配はない。オデットへの面会も断られ続け、気づけば一か月が経過していた。
その間、一行は食べ物を盗んだ謎の少年と遭遇する。
ゲーム本編では物語の終幕になって初めて姿を現す、存在そのものが謎に包まれた人物。エンデは、なゆたがポヨリンと再会しようとしていることを知りながら、それは無意味だと告げ、理由も説明せず姿を消した。
さらに、気晴らしのため聖都を離れようとした一行は、衛兵によって止められる。
オデットの命令により、なゆたたちは聖都から出ることを禁じられていたのだ。
交霊の儀式を餌に、自分たちはこの街へ閉じ込められているのではないか。
疑念を深めた一行の前に、オデットの妹弟子にあたる十二階梯の継承者、アシュトラーセとエカテリーナが現れる。そして二人は、オデットが誰にも明かさず抱えてきた望みを語った。
オデットは、死を望んでいた。
アンデッドの頂点たる《生命無き者の王》として数千年を生き、何度肉体を破壊されても蘇る彼女は、自らの永劫に疲れ果てていた。しかしオデットは、世界を守る十二階梯としての役割を自分から放棄することもできない。
だから彼女は待っていた。
自分を殺せるほど強く成長した《異邦の魔物使い》が現れ、その永劫に終焉を与える日を。
エンバースは、現実のオデットをゲームのボスとして扱えば、倒せる可能性があると考える。
ブレモンの世界では、どれほど強大な存在にもHPが設定されている。絶対に死なない怪物ではなく、途方もなくHPが高いだけの敵として戦えば、ゲームの法則によって、この世界には存在しなかった「オデットの死」を実現できるかもしれない。
聖樹祭の日。
なゆたたちは巡礼の行列へ紛れ込み、神門を通過したオデットへ宣戦布告する。
なゆたは、もう彼女の憐憫には縋らないと告げる。自分たちの力でオデットを倒し、そのうえでポヨリンと再会する道を探すのだと。
オデットは、その決意を喜ぶように戦いを受け入れた。
第一形態のオデットは光属性魔法を操り、空中から一行を圧倒する。さらに本気を出した彼女は、巨大な金竜を伴う《生命無き者の王》の姿へ変貌。膨大なHPと超速再生に加え、あらゆるアンデッドを強制的に支配する《絶対屍操》を発動する。
その支配は、アンデッドであるエンバースにも及んだ。
しかしエンバースは、あらかじめ自分の心臓を
フラウの体内へ移していた。そのため肉体を操られながらも意識までは奪われず、仲間たちへ自分を救う方法を伝える。
その最中、カザハと
カケルの間にも新たな事実が判明する。
カザハの
テンペストソウルは、彼の中だけに存在しているのではなかった。その一部を、カケルが受け取っていたのだ。
かつて地球で暮らしていたころ、カザハからカケルへ臓器移植が行われていた。
カザハは以前から、魂は脳だけに宿るものではないと語っていた。その言葉どおり、移植された臓器にはカザハの魂――テンペストソウルの一部が宿り、カケルの肉体の中で生き続けていたのである。
テュフォンとブリーズは、同じ風から生まれ、二人でひとつのテンペストソウルを持つ存在だった。カザハは以前から、重い宿命を一人で背負わずに済む二人を羨ましく思っていた。
しかし今、カザハにも魂を分かち合う相手がいることが明らかになる。
「やっと……本当の意味であなたのパートナーになれたんですね」
カザハとカケルは、分かたれたテンペストソウルを通じて意識と力を同調させる。二人で一人の完全な《
レクス・テンペスト》として《双剣舞》を繰り出し、フラウの体内からエンバースの心臓を奪還。明神と羽化を果たした
マゴットが支配されたエンバースを食い止め、その胸へ心臓を戻すことで《絶対屍操》から解放した。
なゆたも、《異邦の魔物使い》としての能力を失ったまま戦場へ立っていた。
スマートフォンも、
スキルも、パートナーモンスターもない。それでも彼女は、聖都で手に入れた《万象樹のヤドリギ》に目をつける。
万象樹は、根から闇を吸収し、光へ変換する存在。その幼木であるヤドリギにも、同じ性質が宿っている。
なゆたは自分自身を投射物としてオデットへ打ち出してもらい、その首筋へヤドリギを突き立てた。
オデットが再生しようとすればするほど、ヤドリギはその闇の力を吸って成長する。無敵に思われた超速再生が、逆にオデットを磔にする枷となった。
力を失っても、世界の設定とアイテムの性質を読み解き、誰も思いつかなかった攻略法を生み出す。
なゆたは今も、間違いなく《異邦の魔物使い》だった。
ジョンもまた、イブリースとの戦いで目にした《業魔の一撃》を、自分なりの形で再現しようとしていた。
自らの右手を切り落とし、その肉をオデットの血肉と混ぜ合わせる。そうして生まれた異形の魔剣《生命の輝き》は、ジョンの生命を吸いながら強大な力を発揮する。
怪物の力を恐れて遠ざけるのではなく、その性質を理解し、正面から付き合い、飼い慣らす。
それが、これまで自分の中にある怪物性へ苦しみ続けてきたジョンの出した答えだった。
仲間たちの総攻撃、なゆたのヤドリギ、そしてジョンの一撃。
死を望み続けたオデットへ、ついに終焉を与えられるかと思われた。
しかし、オデットの不死性はそれさえも上回った。
肉体を破壊されても彼女は再生し、戦いの余波で足場が崩壊。一行は万象樹の地下に広がる巨大墓所へ落下する。
そこで待っていたのは、かつてなゆたたちと旅をした知恵の魔女、ウィズリィだった。
ウィズリィは
大賢者ローウェルの命令を受けていると語り、オデットへ《悪魔の種子》を植えつける。種子に意識を支配されたオデットは理性を失い、地下墓所の無数の死者を蘇らせる。
だが、このときはまだ誰も知らなかった。
ウィズリィ自身もまた、すでに悪魔の種子を植えつけられ、ローウェルに操られていたことを。
エンバースの剣も、ガザーヴァの《業魔の一刺》も、胸元の悪魔の種子へ届かない。敵の数とオデットの力に押し潰され、仲間たちは次々と倒れていった。
絶望的な状況のなか、エンデは明神へ一枚のカードを渡す。
《超合体》。
しかし召喚の負荷は凄まじく、明神自身の命を奪いかねない。
エンデは明神を試していた。
事故によって傷つくのではなく、自分の意思で危険を選び、大切なもののために命を懸けられるか。《異邦の魔物使い》の本質である「勇気」を示せるかを。
明神は、ガザーヴァとマゴットを救うためカードを使う。
二人はひとつに重なり、超レイド級《地獄の君主ベルゼビュート》――本人命名《幻蝿戦姫ベル=ガザーヴァ》へ進化した。
それは、ただエンデから与えられた力ではない。
死の運命からガザーヴァを救い、マゴットを育て、二人との絆を築いてきた明神の旅そのものが生み出した姿だった。
ガザーヴァは明神へ契約の蟲笛を渡す。
自分はもう、バロールがカザハを模して作った失敗作ではない。マゴットとともに明神のパートナーモンスターとなり、彼のために戦う新しい存在なのだ。
一方、何の力も持たないなゆたは、ウィズリィへ「全部救う」と宣言する。
策があるわけではない。それでも、仲間も、オデットも、ウィズリィも諦めない。
ウィズリィはそんな言葉を幼稚な精神論だと嘲笑し、オデットへなゆたを殺すよう命じる。
なゆたは蹴り飛ばされ、踏みつけられ、最後にはオデットの巨大な手で握り潰されかける。
それでも彼女は手を伸ばすことをやめなかった。
スマートフォンも、ポヨリンも、戦う力も失った。だが、仲間たちが自分を引き留めてくれた。もう一度、一緒に旅をしようと言ってくれた。
ならば今度は、自分がオデットを引き戻す。
その意志に呼応するように、なゆたの内側で封じられていた記録が目を覚ます。
シルバーブロンドに輝く髪。膨大な光の魔力。そして、あらゆる傷と状態異常を癒す《悠久済度》。
かつてローウェルの計画へ反旗を翻し、姿を消した皇魔将軍シャーロット。
彼女は自分が失われた場合に備え、その力と記録を受け継ぐ存在を用意していた。その継承先こそ、なゆただったのである。
なゆたはシャーロットそのものへ戻ったわけではない。
シャーロットの記録を受け継ぎながら、崇月院なゆたとしてその力を使う、新たな《救済の聖女》となったのだ。
さらにエンデは、ポヨリンが最初から死んでいなかったことを明かす。
イブリースの攻撃でライフを失ったポヨリンは、ブレモンのシステムによってスマートフォンへ自動的に戻されていた。端末が壊れたため確認できなかっただけで、ポヨリンはずっと、なゆたのそばにいたのである。
修復されたスマートフォンから、ポヨリンが再び飛び出す。
もう二度と会えないと思っていた、なゆたの最初の仲間。
再会を果たしたなゆたは、ポヨリンとともにオデットへ立ち向かう。
ジョンは《生命の輝き》をオデットへ接続し、自分の命を分け与えるようにして彼女の動きを止める。
なゆたは人魚の女王マリーディアから託された《
人魚の泪》を掲げ、超レイド級モンスター・ミドガルズオルムを大召喚。
世界蛇の一撃《終焉を告げる角笛》が地下墓所を光で満たし、オデットの胸に根を張っていた悪魔の種子を粉砕する。
その光は、オデットの背後にいたウィズリィをも呑み込んだ。
吹き飛んだ帽子の下、ウィズリィの額にも悪魔の種子が埋め込まれていた。
種子が砕け、ウィズリィは意識を失う。
彼女はローウェルの忠実な部下として、自分の意思でオデットを操っていたのではない。彼女自身もまた、自由意思を奪われた被害者だったのだ。
オデットとウィズリィを救い、地下墓所での戦いは終わった。
だが、エンデの語った言葉は、カザハの胸へ深く突き刺さっていた。
アルフヘイムとニヴルヘイムの住人は、プログラムに従って動いているだけ。《異邦の魔物使い》だけが、自由意思と勇気を持つ。
気を失ったウィズリィを抱き起こしながら、カザハは彼女へ自分自身を重ねる。
風精王となる資格を持って生まれ、即位すれば始原の風車と一体化する運命にあった。テュフォンとブリーズは、それを防ぐために反乱を起こし、悪役となってカザハを故郷から追放した。
その後、カザハとカケルは地球でひとつの身体を共有し、さらに臓器移植によって魂まで分け合った。
だがアルフヘイムへ戻ったあと、カザハは始原の風車によって精神を「最も輝いていた時代」へ寄せられ、装備やデッキまで改造されたうえで、《風精王の間者》として仲間たちのもとへ戻されている。
自分が選んできたと思っていた道も、最初からすべて何者かに定められていたのではないか。
カザハとカケルは、《異邦の魔物使い》なのか、モンスターなのか。自由意思を持つ者なのか、世界を維持するための端末にすぎないのか。
ガザーヴァのように、たった一人の
マスターへ忠誠を誓うパートナーモンスターにさえなりきれない。
「カケル、我々にはきっと……なゆたちゃんたちのような《異邦の魔物使い》の自由意思は……エンデ君の言うところの“勇気”は無い。
ガザーヴァのように、パートナーモンスターとしてたった一人の相手に忠誠を誓うこともできない……。
何もかも中途半端だ……」
カケルとテンペストソウルを分け合っていると分かっても、その疑念は消えなかった。
むしろ本当の意味でカケルのパートナーになれたからこそ、自分が何者なのかという問題は、一層切実なものになる。
カザハは仲間へ怒りをぶつけることも、引き留めてほしいと頼むこともしない。ただ、自分の都合で誰かを拘束したくないと考え、表向きには何事もないように振る舞いながら、再びパーティーを離れることを悩み始める。
ポヨリンを取り戻し、なゆたは新たな力へ目覚めた。
明神とガザーヴァは、《異邦の魔物使い》とパートナーモンスターとして確かな契約を結んだ。
カザハとカケルもまた、臓器と魂を分け合う、本当の意味でのパートナーとなった。
それでも、力を得ることと、自分が何者なのかを信じられることは同じではない。
そして戦いの直後、エンデはただ一言、不吉な言葉を残す。
「時間が……もう無い」
ローウェルが仕掛けた悪魔の種子。シャーロットの記録を受け継いでいたなゆた。世界を動かすシステムと、その筋書きへ抗う《勇気》。
三つの世界を巡る戦いは、誰が本物で、誰が偽物なのか。そして、自らの意思で生きるとは何かを問う、新たな局面へ踏み込んでいく。
最終更新:2026年08月14日 19:56