井戸の表面には薄く氷が張っていたものか、水中に細かに割れた氷が混じり込み、月光を水中でも乱反射している。
指先が痛むほど冷たい水だ。
「ったく、ここで手合わせなんて言い出さなくて助かったぜ……」
少し後ろで歩みを止めた気配。快く冷えた水。熱が有り余る体。早く頭を冷やそう。
「そんなことを言い出すわけがありませぬぞ」
言い切って幸村は井戸の水を頭から被った。
氷の欠片が肌を、衣の表面をひっかこうとして溶けていく。
夏の水浴びの如く心地がいい。
指先が痛むほど冷たい水だ。
「ったく、ここで手合わせなんて言い出さなくて助かったぜ……」
少し後ろで歩みを止めた気配。快く冷えた水。熱が有り余る体。早く頭を冷やそう。
「そんなことを言い出すわけがありませぬぞ」
言い切って幸村は井戸の水を頭から被った。
氷の欠片が肌を、衣の表面をひっかこうとして溶けていく。
夏の水浴びの如く心地がいい。
「――――こっ……の、バカがッ!」
一瞬後に、政宗が一気に距離をつめてきた。反射的に飛びすさって距離を取る。
「心臓止めてぇのかっ!」
「なななななにを怒っ……」
慌てる幸村に構わず、政宗は激しく背後を振り返った。
「てめぇら!目を抉られたくなかったら後ろ向けぇぇっ!」
間違いようもない殺気に、兵卒が素晴らしい勢いで幸村達に背を向ける。
幸村は只、呆然とした。何事か。
ぽかんとしているうちに政宗が羽織を脱ぐやいなや幸村にすっぽり被せ、凄い膂力を発揮して幸村を肩に担いだ。
いくらも違わなかったはずの身長、腕力。
「まままままさむっ……」
「暴れてんじゃねぇこのバカが!」
怒り狂った声音で、暴れるのではなく問いかけただけの幸村を担いだまま、政宗は一気に城へ駆け上がった。
「心臓止めてぇのかっ!」
「なななななにを怒っ……」
慌てる幸村に構わず、政宗は激しく背後を振り返った。
「てめぇら!目を抉られたくなかったら後ろ向けぇぇっ!」
間違いようもない殺気に、兵卒が素晴らしい勢いで幸村達に背を向ける。
幸村は只、呆然とした。何事か。
ぽかんとしているうちに政宗が羽織を脱ぐやいなや幸村にすっぽり被せ、凄い膂力を発揮して幸村を肩に担いだ。
いくらも違わなかったはずの身長、腕力。
「まままままさむっ……」
「暴れてんじゃねぇこのバカが!」
怒り狂った声音で、暴れるのではなく問いかけただけの幸村を担いだまま、政宗は一気に城へ駆け上がった。
勢いを一度も緩めないまま、湯船の中に思い切り放り込まれた。
指先が痛むほど熱い。
ごぼばっ、と湯混じりの息を吐き出し幸村は目を丸くしたまま湯の中に座り込む。
頭からひっ被せられていた深い蒼の羽織がずぶぬれで、それでも後ろ頭に引っかかっていた。
濡れそぼった羽織は重く、首を振って払い落とす。
「………この、バカ………」
短い間に何度も投げつけられた言葉を、今度はずいぶん力無く、嘆息のような声で政宗が口にした。
「な、なんでござるか、政宗殿の羽織も濡れてしまったでは……」
払い落とした羽織のすみを持ち上げて呟くと、政宗は凶悪な目で睨んだ。
「テメェなぁ……オレ以外のヤツの前で女の顔してんじゃねぇぞ」
「は?」
自分の顔は自分の顔、毛利の顔になることもなければ妹の顔になるわけもなく。
ましてや曖昧な”女”の顔と言われたところで意味が分からない。
「自分の体見て何にも感じねぇのか」
見下ろす。出がけに羽織った自分の赤い羽織もずぶぬれだ。
単衣の湯衣ならばともかく、夜着と羽織の重ね着では肌に張り付いた時にずっしりと重い。
勿論甲冑の重さに比べればどうと言うこともないが、ぴったりと張り付く布の方が動きにくい。
そのうえ上物の絹地が駄目になる。
なるほど怒られるも道理。
幸村の親代わりとなって面倒を見てくれた佐助も、上物の衣を焼けこげだらけ、かぎ裂きまみれにした時には嘆いたものだった。
「………なるほど、羽織のまま湯に入っては、折角の衣が台無しでござるな」
手をついて頭を下げたが、未だに固い声で政宗が言葉を重ねた。
「他は?」
暫く考え、幸村はざっと引いた。今更ながら自分の火照りを思い出す。
「ふふふ婦女子の湯殿に入り込むとは!政宗殿破廉恥きわま……」
指先が痛むほど熱い。
ごぼばっ、と湯混じりの息を吐き出し幸村は目を丸くしたまま湯の中に座り込む。
頭からひっ被せられていた深い蒼の羽織がずぶぬれで、それでも後ろ頭に引っかかっていた。
濡れそぼった羽織は重く、首を振って払い落とす。
「………この、バカ………」
短い間に何度も投げつけられた言葉を、今度はずいぶん力無く、嘆息のような声で政宗が口にした。
「な、なんでござるか、政宗殿の羽織も濡れてしまったでは……」
払い落とした羽織のすみを持ち上げて呟くと、政宗は凶悪な目で睨んだ。
「テメェなぁ……オレ以外のヤツの前で女の顔してんじゃねぇぞ」
「は?」
自分の顔は自分の顔、毛利の顔になることもなければ妹の顔になるわけもなく。
ましてや曖昧な”女”の顔と言われたところで意味が分からない。
「自分の体見て何にも感じねぇのか」
見下ろす。出がけに羽織った自分の赤い羽織もずぶぬれだ。
単衣の湯衣ならばともかく、夜着と羽織の重ね着では肌に張り付いた時にずっしりと重い。
勿論甲冑の重さに比べればどうと言うこともないが、ぴったりと張り付く布の方が動きにくい。
そのうえ上物の絹地が駄目になる。
なるほど怒られるも道理。
幸村の親代わりとなって面倒を見てくれた佐助も、上物の衣を焼けこげだらけ、かぎ裂きまみれにした時には嘆いたものだった。
「………なるほど、羽織のまま湯に入っては、折角の衣が台無しでござるな」
手をついて頭を下げたが、未だに固い声で政宗が言葉を重ねた。
「他は?」
暫く考え、幸村はざっと引いた。今更ながら自分の火照りを思い出す。
「ふふふ婦女子の湯殿に入り込むとは!政宗殿破廉恥きわま……」
かぽーん。
湯殿に桶の音が響く。桶で幸村の頭をどついた音が。




