「!?」
濃姫は、ひくっと喉でしゃっくり上げた。
ぱちぱちと数回まばたきを繰り返すと、やっと元親の言った言葉の意味を理解したかのように
目の色を変えて、まぶたを引き攣らせた。
顔が、さっと青くなった。
「足の裏に塩を塗り込んで、獣に舐めさせるってのはどうだ? 足もとで火を焚くのは?」
怯え始めた濃姫に頓着せず、提案ごとに指を折りながら元親は続ける。
「あ、あぁ、や……」
「足の爪を一枚ずつ、次は一本ずつ……――」
「いやあっ、いやっ! やめて、やっ、鬼! 鬼ぃーッ!!」
世間話でもするように明るい声で言ってのけたのが恐怖を煽ったのか、ついに濃姫は
泣き叫んで悲鳴を上げた。
足をバタつかせ、そのせいで網がギシギシと鳴る。
元親は口角を吊り上げた。
心の深い場所で本物の鬼が歯をむき出しにして笑っている。元親はそれを自覚して、
密かに身震いした。
元来、女が泣く姿を眺めるなど彼の趣味ではない。なのに、このいかにも高飛車そうな
面構えの女を見ていると、ただ意地の悪い考えだけしか浮かばなくなってしまうのだ。
無理に気丈に振舞っていた彼女の中には、結局のところただの弱々しい女の人となりしか
存在しないのに、それを隠そうとしたのがいけない。余計に綻びが生じてくる。繕えない
ものを必死になるから、元親の中の鬼を刺激したのだった。
「やっと分かったようだな、田舎もんがよォ。そうだとも、俺ァ鬼だ。長曾我部元親だぜ?」
蹴り上げてきた濃姫の左足を弾き返し、声高に笑う。
「だがな、まぁ今言ったような惨い真似はしねぇ。別嬪には特にだ。安心しろ、なぁ?」
「う、うぅ……」
呻き声の中に安堵したような響きが混じっている。
それを聞き漏らさず、元親は抱えていた濃姫の右足をパッと離した。
足一本分の重量が唐突に濃姫の元に返り、油断していた彼女の体は網の下方に沈み込んだ。
「ああぁっ!?――あ、ぐぅうっ!」
体重のほとんどを受け止めたのは、股間周辺の一点だけだった。
網目のうちの二本の線がそこに集中してピンと張る。荒い縄特有の強い感触で秘所を
苛んでいるらしく、濃姫の顔が苦痛に歪んだ。
「ううっ、ぎぃ……痛、い、いやぁ、あ……」
必死に上へ伸ばした腕が、懸垂の要領で体重を持ち上げていった。
二の腕がぶるぶるとふるえている。
「……いぁ、あう、うぅ、ん」
濃姫は前のめりの姿勢で網を手繰りながら、呻きとも喘ぎともとれる弱々しい声を漏らした。
濃姫は、ひくっと喉でしゃっくり上げた。
ぱちぱちと数回まばたきを繰り返すと、やっと元親の言った言葉の意味を理解したかのように
目の色を変えて、まぶたを引き攣らせた。
顔が、さっと青くなった。
「足の裏に塩を塗り込んで、獣に舐めさせるってのはどうだ? 足もとで火を焚くのは?」
怯え始めた濃姫に頓着せず、提案ごとに指を折りながら元親は続ける。
「あ、あぁ、や……」
「足の爪を一枚ずつ、次は一本ずつ……――」
「いやあっ、いやっ! やめて、やっ、鬼! 鬼ぃーッ!!」
世間話でもするように明るい声で言ってのけたのが恐怖を煽ったのか、ついに濃姫は
泣き叫んで悲鳴を上げた。
足をバタつかせ、そのせいで網がギシギシと鳴る。
元親は口角を吊り上げた。
心の深い場所で本物の鬼が歯をむき出しにして笑っている。元親はそれを自覚して、
密かに身震いした。
元来、女が泣く姿を眺めるなど彼の趣味ではない。なのに、このいかにも高飛車そうな
面構えの女を見ていると、ただ意地の悪い考えだけしか浮かばなくなってしまうのだ。
無理に気丈に振舞っていた彼女の中には、結局のところただの弱々しい女の人となりしか
存在しないのに、それを隠そうとしたのがいけない。余計に綻びが生じてくる。繕えない
ものを必死になるから、元親の中の鬼を刺激したのだった。
「やっと分かったようだな、田舎もんがよォ。そうだとも、俺ァ鬼だ。長曾我部元親だぜ?」
蹴り上げてきた濃姫の左足を弾き返し、声高に笑う。
「だがな、まぁ今言ったような惨い真似はしねぇ。別嬪には特にだ。安心しろ、なぁ?」
「う、うぅ……」
呻き声の中に安堵したような響きが混じっている。
それを聞き漏らさず、元親は抱えていた濃姫の右足をパッと離した。
足一本分の重量が唐突に濃姫の元に返り、油断していた彼女の体は網の下方に沈み込んだ。
「ああぁっ!?――あ、ぐぅうっ!」
体重のほとんどを受け止めたのは、股間周辺の一点だけだった。
網目のうちの二本の線がそこに集中してピンと張る。荒い縄特有の強い感触で秘所を
苛んでいるらしく、濃姫の顔が苦痛に歪んだ。
「ううっ、ぎぃ……痛、い、いやぁ、あ……」
必死に上へ伸ばした腕が、懸垂の要領で体重を持ち上げていった。
二の腕がぶるぶるとふるえている。
「……いぁ、あう、うぅ、ん」
濃姫は前のめりの姿勢で網を手繰りながら、呻きとも喘ぎともとれる弱々しい声を漏らした。
闖入者が現れたのは、そんなときだった。
夜闇を無粋に濁しながら、不気味な羽音が近づいてくる。
ふらふらと彷徨うふうな奇妙な音だ。
「モトチカ、モトチカ! モトチカ!」
無機質な響きの声が、バサバサという羽音に重なった。
巨木の枝のひとつに激突するようにして着地したそれは、極彩色の怪鳥――オウムだった。
うるさい奴が来てしまった、と思いながらも元親は舌を巻いた。
「よぉ、ご苦労さん。夜目が利かねぇくせにお宝のにおいには鼻が利く、ってところか?」
南蛮産まれのそのオウムは、首を数回素早く傾げてからクチバシを動かした。
「モトチカ、オタカラ!」
「うん、分かってるさ。見ろ、別嬪だろ?」
ようやく落ち着ける高さまで腕を運んだ濃姫は、肘を網に絡めるようにして位置を固定
していた。
「なんなの、オウム……?」
「オウム、オウム! オレサマ、オマエ、マルカジリ!」
「ひっ!」
突然、網の側面に舞い降りた鳥に驚き、濃姫は片手を離す。
オウムがどこで妙な言葉を覚えてきたのか分からないが、脅し文句のようなセリフに濃姫が
怯えを見せたことが元親には面白かった。
夜闇を無粋に濁しながら、不気味な羽音が近づいてくる。
ふらふらと彷徨うふうな奇妙な音だ。
「モトチカ、モトチカ! モトチカ!」
無機質な響きの声が、バサバサという羽音に重なった。
巨木の枝のひとつに激突するようにして着地したそれは、極彩色の怪鳥――オウムだった。
うるさい奴が来てしまった、と思いながらも元親は舌を巻いた。
「よぉ、ご苦労さん。夜目が利かねぇくせにお宝のにおいには鼻が利く、ってところか?」
南蛮産まれのそのオウムは、首を数回素早く傾げてからクチバシを動かした。
「モトチカ、オタカラ!」
「うん、分かってるさ。見ろ、別嬪だろ?」
ようやく落ち着ける高さまで腕を運んだ濃姫は、肘を網に絡めるようにして位置を固定
していた。
「なんなの、オウム……?」
「オウム、オウム! オレサマ、オマエ、マルカジリ!」
「ひっ!」
突然、網の側面に舞い降りた鳥に驚き、濃姫は片手を離す。
オウムがどこで妙な言葉を覚えてきたのか分からないが、脅し文句のようなセリフに濃姫が
怯えを見せたことが元親には面白かった。




