「もう…良いぞ、元親」
ぐい、と腕を伸ばして彼の手を解くと、家康は首を横に振った。
「…そう、か」
ぱっと手を離すと、元親は家康の顔を一瞥し、鈍色の髪をがしがしと掻いた。
「あのな…家康……」
「元親、わしは大丈夫だ」
声が震えないようにしながらも、膝に置いた手はきつく着物の裾を握り締めていた。
「…お前の事は……兄のように思っている」
ぐい、と腕を伸ばして彼の手を解くと、家康は首を横に振った。
「…そう、か」
ぱっと手を離すと、元親は家康の顔を一瞥し、鈍色の髪をがしがしと掻いた。
「あのな…家康……」
「元親、わしは大丈夫だ」
声が震えないようにしながらも、膝に置いた手はきつく着物の裾を握り締めていた。
「…お前の事は……兄のように思っている」
嘘だ。
そんな事は露ほども考えていないのに。
そんな事は露ほども考えていないのに。
自分の言葉を責め立てる内なる声に耳を塞ぐ。
小さな胸で深呼吸をすると、黒い瞳でまっすぐに彼を見詰める。
小さな胸で深呼吸をすると、黒い瞳でまっすぐに彼を見詰める。
「また、会いに行っても良いか、元親?」
「いつでも良いぜ、家康なら」
にっと歯を見せて笑う元親の顔に、家康の心がずきりと痛む。
「良かった、じゃあ、今度はすごいお宝持っていくからな!」
お前が目の玉剥くようなものだぞ、と明るい声で言うが、家康の眼から涙が溢れ出る。
「いつでも良いぜ、家康なら」
にっと歯を見せて笑う元親の顔に、家康の心がずきりと痛む。
「良かった、じゃあ、今度はすごいお宝持っていくからな!」
お前が目の玉剥くようなものだぞ、と明るい声で言うが、家康の眼から涙が溢れ出る。
「そいつは楽しみだな」
がしっと彼の胸に抱きしめられているのだと気付くと、彼女はじたばたと暴れて抵抗した。
「だから、わしはもう…」
ちょっとやそっとでは外れないのは承知している。
しかしそこは家康も意地になっているのか、顔を真っ赤にしながら腕を外そうとする。
「…分かっている、俺はお前の事を妹のように思っている」
ぽつりと呟かれた元親の言葉に、抵抗する気も失せ、こくりと小さく頷いた。
「うん…」
涙が止まらず、家康は鼻を啜り上げる。
「お前がいつか誰かの所へ嫁に行くなら、俺よりも良い男を選べよ」
元親の声は優しく胸に響く。
穏やかに寄せては返す漣のように。
「…そうだな、お前が悔しがる程に良い奴を選んでやるぞ」
「何言ってやがる」
苦笑する彼の声を聞きながら、自分の中の淡い恋は終わったのだと、家康は俯いた。
「だから、わしはもう…」
ちょっとやそっとでは外れないのは承知している。
しかしそこは家康も意地になっているのか、顔を真っ赤にしながら腕を外そうとする。
「…分かっている、俺はお前の事を妹のように思っている」
ぽつりと呟かれた元親の言葉に、抵抗する気も失せ、こくりと小さく頷いた。
「うん…」
涙が止まらず、家康は鼻を啜り上げる。
「お前がいつか誰かの所へ嫁に行くなら、俺よりも良い男を選べよ」
元親の声は優しく胸に響く。
穏やかに寄せては返す漣のように。
「…そうだな、お前が悔しがる程に良い奴を選んでやるぞ」
「何言ってやがる」
苦笑する彼の声を聞きながら、自分の中の淡い恋は終わったのだと、家康は俯いた。