政宗に見せる必要がある書類を持ち、小十郎は奥に入った。
襟元はきっちりと合わせられ、昨日の情事の跡は隠れて見えない。過剰なまでに
肌を隠す様子と隠し切れない気だるさに、家臣の何人かが昨日の事に気づいたようだった。
「政宗様」
書斎に入るが、姿がない。小十郎は眉根をきつく寄せ、書類を文机に叩きつけるように置いた。
襟元はきっちりと合わせられ、昨日の情事の跡は隠れて見えない。過剰なまでに
肌を隠す様子と隠し切れない気だるさに、家臣の何人かが昨日の事に気づいたようだった。
「政宗様」
書斎に入るが、姿がない。小十郎は眉根をきつく寄せ、書類を文机に叩きつけるように置いた。
逃げられたか、それとも堂に籠って書を読み耽っているか。
後者であれば引きずり出せばいいだけだが、前者ならば甲斐に急使を、と思いながら
小十郎はすれ違った女中の肩を掴んだ。
「政宗様を見なかったか!?」
脅すように尋ねると、女中は目を見張り、怯えたように震え、厨におられます、と微かな声で答える。
分かった、と小十郎は駆けた。逃げられる前に確保せねば、後が面倒だ。
「政宗様!」
勢いよく厨に駆け込むと、小十郎は政宗を見た。政宗はたすきと前掛けをつけ、頭には
手ぬぐいを被っている。
「何をなさっておいでですか」
「気分転換だよ。お前も食うか?」
蒸し器を開け、もうもうと湯気が立ち込め小十郎と政宗の顔を撫でる。
「お、うまくできた」
政宗は嬉しそうに笑い、蒸し器をかまどから外した。仕事を放り出していったい何を、と
中を覗き込むと、白磁の器に、白っぽい黄色の、ぷるぷるしたものが入っている。
小十郎は目を細めた。
「茶碗蒸し、ですか。何故また」
政宗は料理を趣味としている。
気分転換だと言って菓子を作ったり、客人を迎えるときに懐石料理を作ってもてなしたりする。
「百合根が食いたくなったんだが、茶碗蒸ししか思いつかなくてな。旬は過ぎてるから
客人に出せるようなものじゃねぇが……どうだ、お前も食うか?」
政宗は布巾を器用に使いながら、白磁の碗を一つ取り出す。
匙を使って一口すくい、ほら、と出されれば小十郎は口を開けるしかない。
差し出された匙に顔を運び、口に入れる。熱い。
「……どうだ?」
口許を抑え、卵の中に入っているものを噛み締める。ほっくりねっとりとした味わいの
それが百合根だろう。小十郎は薬としての百合根しか知らないため、こんな味なのかと妙に感心した。
「大変おいしゅうございます」
「It's natural。……俺も食うかな」
政宗は小十郎に差し出した匙をそのまま使い、自分の口に茶碗蒸しを入れた。熱いな、と笑う。
「何故急に百合根など……。そんなにお好きなのですか?」
口の中に残る百合根の感覚を冷やされている茶で流し、政宗に尋ねた。政宗は茶碗蒸しを
かき込んで小十郎を見た。
「昨日のお前を見ていたら、食べたくなった」
「……まだ足りませんか」
「ああ、足りないね」
白磁の碗が床に置かれた。布巾が床に落とされる。政宗の右腕が小十郎の頭を包む。
「しょうがないお人だ。……一度だけですよ? 見てもらわねばならぬ書類がございますので」
「OK」
後者であれば引きずり出せばいいだけだが、前者ならば甲斐に急使を、と思いながら
小十郎はすれ違った女中の肩を掴んだ。
「政宗様を見なかったか!?」
脅すように尋ねると、女中は目を見張り、怯えたように震え、厨におられます、と微かな声で答える。
分かった、と小十郎は駆けた。逃げられる前に確保せねば、後が面倒だ。
「政宗様!」
勢いよく厨に駆け込むと、小十郎は政宗を見た。政宗はたすきと前掛けをつけ、頭には
手ぬぐいを被っている。
「何をなさっておいでですか」
「気分転換だよ。お前も食うか?」
蒸し器を開け、もうもうと湯気が立ち込め小十郎と政宗の顔を撫でる。
「お、うまくできた」
政宗は嬉しそうに笑い、蒸し器をかまどから外した。仕事を放り出していったい何を、と
中を覗き込むと、白磁の器に、白っぽい黄色の、ぷるぷるしたものが入っている。
小十郎は目を細めた。
「茶碗蒸し、ですか。何故また」
政宗は料理を趣味としている。
気分転換だと言って菓子を作ったり、客人を迎えるときに懐石料理を作ってもてなしたりする。
「百合根が食いたくなったんだが、茶碗蒸ししか思いつかなくてな。旬は過ぎてるから
客人に出せるようなものじゃねぇが……どうだ、お前も食うか?」
政宗は布巾を器用に使いながら、白磁の碗を一つ取り出す。
匙を使って一口すくい、ほら、と出されれば小十郎は口を開けるしかない。
差し出された匙に顔を運び、口に入れる。熱い。
「……どうだ?」
口許を抑え、卵の中に入っているものを噛み締める。ほっくりねっとりとした味わいの
それが百合根だろう。小十郎は薬としての百合根しか知らないため、こんな味なのかと妙に感心した。
「大変おいしゅうございます」
「It's natural。……俺も食うかな」
政宗は小十郎に差し出した匙をそのまま使い、自分の口に茶碗蒸しを入れた。熱いな、と笑う。
「何故急に百合根など……。そんなにお好きなのですか?」
口の中に残る百合根の感覚を冷やされている茶で流し、政宗に尋ねた。政宗は茶碗蒸しを
かき込んで小十郎を見た。
「昨日のお前を見ていたら、食べたくなった」
「……まだ足りませんか」
「ああ、足りないね」
白磁の碗が床に置かれた。布巾が床に落とされる。政宗の右腕が小十郎の頭を包む。
「しょうがないお人だ。……一度だけですよ? 見てもらわねばならぬ書類がございますので」
「OK」
小十郎は柔らかく微笑みながら、政宗の背中に背を回した。
以上。
「さく」は「裂く」でも「咲く」でもお好きなように。
「さく」は「裂く」でも「咲く」でもお好きなように。
ヤマユリは高速道路でも石垣の隙間でも咲いちゃう、結構しぶとくしつこく逞しい花だったりする。
花言葉は「威厳、甘美」
花言葉は「威厳、甘美」




