春が過ぎて、夏が来て。
俺の周りは微妙に平和だった。
その原因の一つは、竜の姫さまが奥州に帰ってしまったことだ。
まあ片倉小十郎っていう、ある意味若くてよくわからない暴走をかましてくる姫さまよりも世間の評価っていうものが断然高いうえに姫さまに絶対服従の男が留守を守ってるんだから何も心配はいらないっていえばいらないんだけど、さすがにいつまでも国主が国を空けているわけにはいかない。
姫さまが若くて女だっていうだけでなんだか勝てそうな気がしちゃう馬鹿どもっていうのが世の中には溢れていて、そんな馬鹿どもはよりにもよってあの片倉小十郎が、俺が姫さまの立場だったら感激するよりマジで引くって感じの忠誠を捧げちゃってるあの男が姫さまを裏切る可能性がそれなりにあるっていう夢を見ることができるのだ。
たぶん姫さまは馬鹿どもには簡単には負けないだろうし片倉小十郎も裏切らないだろうから放っておいてもよさそうだけど、いい加減鬱陶しい、というのがあの暑苦しい主従の意見だった。
あ、暑苦しい主従っていえばうちの旦那と大将のことみたいだけど、あっちの双竜もじゅうぶん暑苦しいのよ?
ほんと…見てるだけでいたたまれないっていうか、奥歯ぎりぎり噛みしめたくなるっていうか、うちの旦那たちはまた別の意味で直視できないっていうかしたくない、みたいな感じで。
「はい旦那。お茶入ったよ」
「…うむ」
あーこれは重症だ。
いつもの甲斐の夏は暑い。
夏が暑いのはまあ基本だが、基本的に代謝が盛んな感じの声がでかくてよく動いて色も赤くてほんっとに暑苦しい主従が暑苦しい内容を叫びながら殴りあったりなぜか庭石を投げ飛ばしたりするから、確実に気温が三度は高くなるのだ。
ところが暑苦しい直属の上司である真田の旦那が、姫さまがいなくなって落ち込んでいるのか、静かなのだ。
叫ばないし、槍を振りまわさないし、走らないし、火柱をあげたりしない。
「平和でいいねー」
ぼうっと、「政宗殿はあちらであろうか…」などと遠くを見つめながら茶をすする旦那の隣によっこいしょと腰を下ろす。
普通ならこの無礼者がと斬られちゃったりしそうなものだがここは特殊だから平気だ。まあ特殊なのは場所じゃなくて人なんだけど。
あ、ついでに旦那、奥州はそっちじゃないからね。
「む、そうか。ならば佐助が向いている方か」
「なんでよ」
「片倉殿がいらっしゃるだろう」
「あー」
黙っていればそれなりに凛々しい顔立ちの旦那の訳知り顔がとてつもなくむかついた。
確かに俺は片倉小十郎の妻、らしきものだ。
この後に及んで往生際が悪いとかいわないでほしい。だって相手は大名で俺は忍びなんだもの。
姫さまがいたころは、姫さまからの文を持ってよく奥州まで走った。
俺は忍びで飛脚じゃないのよと形ばかりの抗議をしてみたら、じゃあ今から転職しろとめんどくさそうに姫さまは言った。
確かに俺はあのひとに会いたかったし、会えば腰が抜けるほど激しく執拗に抱かれた。
姫さまがいなくなってからは俺が奥州に行く用事はほとんどなくなって、片倉さんに会う回数も減った。
意外とさびしくないものだと思った。身体も。心も。
俺の周りは微妙に平和だった。
その原因の一つは、竜の姫さまが奥州に帰ってしまったことだ。
まあ片倉小十郎っていう、ある意味若くてよくわからない暴走をかましてくる姫さまよりも世間の評価っていうものが断然高いうえに姫さまに絶対服従の男が留守を守ってるんだから何も心配はいらないっていえばいらないんだけど、さすがにいつまでも国主が国を空けているわけにはいかない。
姫さまが若くて女だっていうだけでなんだか勝てそうな気がしちゃう馬鹿どもっていうのが世の中には溢れていて、そんな馬鹿どもはよりにもよってあの片倉小十郎が、俺が姫さまの立場だったら感激するよりマジで引くって感じの忠誠を捧げちゃってるあの男が姫さまを裏切る可能性がそれなりにあるっていう夢を見ることができるのだ。
たぶん姫さまは馬鹿どもには簡単には負けないだろうし片倉小十郎も裏切らないだろうから放っておいてもよさそうだけど、いい加減鬱陶しい、というのがあの暑苦しい主従の意見だった。
あ、暑苦しい主従っていえばうちの旦那と大将のことみたいだけど、あっちの双竜もじゅうぶん暑苦しいのよ?
ほんと…見てるだけでいたたまれないっていうか、奥歯ぎりぎり噛みしめたくなるっていうか、うちの旦那たちはまた別の意味で直視できないっていうかしたくない、みたいな感じで。
「はい旦那。お茶入ったよ」
「…うむ」
あーこれは重症だ。
いつもの甲斐の夏は暑い。
夏が暑いのはまあ基本だが、基本的に代謝が盛んな感じの声がでかくてよく動いて色も赤くてほんっとに暑苦しい主従が暑苦しい内容を叫びながら殴りあったりなぜか庭石を投げ飛ばしたりするから、確実に気温が三度は高くなるのだ。
ところが暑苦しい直属の上司である真田の旦那が、姫さまがいなくなって落ち込んでいるのか、静かなのだ。
叫ばないし、槍を振りまわさないし、走らないし、火柱をあげたりしない。
「平和でいいねー」
ぼうっと、「政宗殿はあちらであろうか…」などと遠くを見つめながら茶をすする旦那の隣によっこいしょと腰を下ろす。
普通ならこの無礼者がと斬られちゃったりしそうなものだがここは特殊だから平気だ。まあ特殊なのは場所じゃなくて人なんだけど。
あ、ついでに旦那、奥州はそっちじゃないからね。
「む、そうか。ならば佐助が向いている方か」
「なんでよ」
「片倉殿がいらっしゃるだろう」
「あー」
黙っていればそれなりに凛々しい顔立ちの旦那の訳知り顔がとてつもなくむかついた。
確かに俺は片倉小十郎の妻、らしきものだ。
この後に及んで往生際が悪いとかいわないでほしい。だって相手は大名で俺は忍びなんだもの。
姫さまがいたころは、姫さまからの文を持ってよく奥州まで走った。
俺は忍びで飛脚じゃないのよと形ばかりの抗議をしてみたら、じゃあ今から転職しろとめんどくさそうに姫さまは言った。
確かに俺はあのひとに会いたかったし、会えば腰が抜けるほど激しく執拗に抱かれた。
姫さまがいなくなってからは俺が奥州に行く用事はほとんどなくなって、片倉さんに会う回数も減った。
意外とさびしくないものだと思った。身体も。心も。