真田幸村という男は、裏表のない子供が、その資質を持ったまま成長したかのような珍しい男だった。
喜び、怒り、哀しみ、楽しむ。
戦国の世でありながら、そのような当たり前の感情を当たり前のように顔に出すというのは、
町娘ならともかく、武将としては褒められたものではなかった。
しかしそんな彼だからこそ、早すぎる出世にも、周囲の嫉みを集めずにいられるのかもしれない。
戦国の世でありながら、そのような当たり前の感情を当たり前のように顔に出すというのは、
町娘ならともかく、武将としては褒められたものではなかった。
しかしそんな彼だからこそ、早すぎる出世にも、周囲の嫉みを集めずにいられるのかもしれない。
年と生まれを考慮すれば、幸村は主である武田信玄に重用されすぎている。
彼のお付きの忍がひやりとするほどに。
もちろん、彼の武功あってこそのものではあるが、面白くなく思う古参兵がいても不思議ではない。
彼のお付きの忍がひやりとするほどに。
もちろん、彼の武功あってこそのものではあるが、面白くなく思う古参兵がいても不思議ではない。
主に心酔している幸村は、ことあるごとに彼を褒めたたえる。
太鼓持ちだと陰口を叩かれないのは、それが幸村だからに他ならない。
幼いころから信玄に仕える彼を重臣皆がよく見知っていて、子供のころそのままに成長した姿だと理解しているからだ。
太鼓持ちだと陰口を叩かれないのは、それが幸村だからに他ならない。
幼いころから信玄に仕える彼を重臣皆がよく見知っていて、子供のころそのままに成長した姿だと理解しているからだ。
真田の家系は、幸村の祖父の代から信玄に仕えている。
彼の祖父、父はまさに鬼謀と言うにふさわしい戦略家で、同時に優れた武将でもあった。
武はまさに祖父譲り、父譲りの幸村ではあるが、知においてはまだまだもの足りない。
時に内応を図って籠城中の堅城を次々と落とし、時に敵方の捕虜を囮に大軍勢を小隊で殲滅した祖父や父に比べれば、
幸村などまだまだ殻の付いたひよっ子である。
そのような智謀を尽くした戦いに幸村はめっぽう弱い。
幸村の父や祖父は、主の信玄であっても諫言できるだけの知力、胆力、経験を持っていた。
彼の祖父、父はまさに鬼謀と言うにふさわしい戦略家で、同時に優れた武将でもあった。
武はまさに祖父譲り、父譲りの幸村ではあるが、知においてはまだまだもの足りない。
時に内応を図って籠城中の堅城を次々と落とし、時に敵方の捕虜を囮に大軍勢を小隊で殲滅した祖父や父に比べれば、
幸村などまだまだ殻の付いたひよっ子である。
そのような智謀を尽くした戦いに幸村はめっぽう弱い。
幸村の父や祖父は、主の信玄であっても諫言できるだけの知力、胆力、経験を持っていた。
ともあれ、彼は信玄をはじめとする武田家家中では可愛がられていたし、成長を見守られてもいた。
武田家のため、信玄のため。その言葉に嘘偽りは一片もなかった。
武田家のため、信玄のため。その言葉に嘘偽りは一片もなかった。
そう、幸村のすべては武田家のため、武田信玄のためにある。
自らの武功ではなく、武田家の利を求めて槍を振るう。
一番駆けを望むのも、名のある武将との一騎打ちを好むのも、決して恩賞目当てなどではない。
自らの武功ではなく、武田家の利を求めて槍を振るう。
一番駆けを望むのも、名のある武将との一騎打ちを好むのも、決して恩賞目当てなどではない。
幸村のその心のありようは、侍よりも忍に近いのかもしれない。
自らは主の武器となり、そこに意思は存在しない。
主が、たとえば明智光秀のような男だったらまた変わっていただろうが、少なくとも今の彼は自分自身よりも主を信じている。
自らは主の武器となり、そこに意思は存在しない。
主が、たとえば明智光秀のような男だったらまた変わっていただろうが、少なくとも今の彼は自分自身よりも主を信じている。
そのあたりの心栄えを、信玄やお付きの忍に危うく思われながらも――時は流れて運命の川中島がやってくる。