宗治が、元親をこのまま元就に引き合わすか否かを決めあぐねている間に、先に動いたのは息子景治であった。
「長曾我部殿、…しばしお時間よろしいか」長身の元親にしっかと目線を合わすため顎をあげて言う。
もちろん、と元親はにやりと笑う。
親父殿、しばらくすまんと景治は言い、若者二人は離れの玄関に入って戸を閉めた。
一人外に残された宗治は、傘に落ちる雨粒の音のせいにか散漫になる思考に軽く苛立つ。
しかし、それもその内自分独りが思い悩んでも仕方のない事と半ば諦め始めた。
最終的には元就の決める事なのだ。
ふ、と鼻に大仰に呼気を通し、せめて主が望まぬ結果にならぬよう祈るしかない。
「長曾我部殿、…しばしお時間よろしいか」長身の元親にしっかと目線を合わすため顎をあげて言う。
もちろん、と元親はにやりと笑う。
親父殿、しばらくすまんと景治は言い、若者二人は離れの玄関に入って戸を閉めた。
一人外に残された宗治は、傘に落ちる雨粒の音のせいにか散漫になる思考に軽く苛立つ。
しかし、それもその内自分独りが思い悩んでも仕方のない事と半ば諦め始めた。
最終的には元就の決める事なのだ。
ふ、と鼻に大仰に呼気を通し、せめて主が望まぬ結果にならぬよう祈るしかない。
さて元親と景治であるが、二人ともしばし無言で土間に胡坐をかき対照的な表情で見詰め合っていた。
元親は軽く眉をひそめ、それでも口にはどこか皮肉気な笑みを貼り付けたまま。
対する景治はといえば、こちらは生真面目さにどこかしら不服を漂わせた硬い表情でいた。
しかし、この状況に持ってきたのは己であるのだからと意を決して景治は口を開いた。
「貴殿は、我が主元就をどうなされるおつもりか」、と。
元親はその問に答える前に、
「んーとだ、もっと適当な喋り方でいいぜ?」と提案する。ウチの手下共とか見てるだろ?堅っ苦しいのは嫌いだ。
しかし、と反論する前にそうまで言われてしまったので、景治も観念して友人達に使うのと同じ口調にする。
「で、どうなんだ長曾我部殿。」
ずい、と真面目な顔で言う景治にいっそ苦笑し元親は正直に返答する。今更誤魔化してもしょうがない。
「そりゃまぁ、喰っちゃおうかなーって」
満面の笑みで清々しいまでにきっぱりと答えられては、景治とてああそうかと引き上げたくなってしまう。
しかしこのままでは納得がいかぬ。何から伝えれば良いものかと、思案しながら景治は口を開く。
「…俺は、あいつの幼馴染でな…」
と、始めた景治の口ぶりに、元親は(こいつも不器用な奴か)と軽く相槌を打ちながら思う。
「元就様…松寿は、今でこそあんな風だが、アレで結構怖がりで泣き虫なんだ」
幼少時につるんでいた仲間内には彼女の弟もいたからか弱い所は見せまいと強がっていたが、
その分よくこっそり兄に泣きついていた。大きな犬が怖い、森の暗がりが怖い、雷が怖い。
「感情を押し殺して、我慢して、それで最後どうにもならなくなって爆発する性質なんだ。
…だから、いじめてくれるな」
こう言われては元親も困る。(別に苛める気はないんだがなぁ)
色々気にかかる点はあるが、まずは一番に気にかかる点を問うてみる。
「その、兄さんと弟はどうしたよ。男兄弟がいるのになんであいつが頭首なんだ」
「兄の先代様は、体を壊し亡くなった。…弟は、…も、死んだ。松寿とは仲の良く、いい奴だったんだが。」
言外に家の事は聞かせたくない事もあるとの匂いを嗅ぎ取った元親は、それ以上は突っ込まない。
「それにしたってよ、婿を取ってそいつを頭にするとか、色々方法はあるんじゃねぇか?」
女でいるのが嫌だと言っていたが、との景治の答えに元親は驚いた。
「あぁ?!何でだ?あんな可愛いのに?!」
「か、かわいい?」その言葉に景治もまた驚いた。
今まで聞いてきた元就を称える言葉は、美しい麗しいなどといった言わば下から崇める物ばかりで、
彼のようにまるで子供かまたは同等以下の女にでも与えるような評価は初めてだった。
「え、だってよ、なんか可愛いじゃねぇか。背ぇ低くて細っこいし、
歩き方とか一生懸命メシ食ってるとことか、ちまちましててよ」
「そ、そうか…」これが瞬く間に四国を纏め上げた男の度量か。景治はいっそ感心した。
あの氷の面の持ち主をそう評するとは。
「それによ、あんたが今言ったばかりじゃねぇか。怖がりで泣き虫なんだろ?」
それを強がりで隠して?可愛いじゃねぇか、やっぱり。何でもないようにさらりと元親は言う。
そして、ふと何かに気付いたかのように言葉を続けた。
元親は軽く眉をひそめ、それでも口にはどこか皮肉気な笑みを貼り付けたまま。
対する景治はといえば、こちらは生真面目さにどこかしら不服を漂わせた硬い表情でいた。
しかし、この状況に持ってきたのは己であるのだからと意を決して景治は口を開いた。
「貴殿は、我が主元就をどうなされるおつもりか」、と。
元親はその問に答える前に、
「んーとだ、もっと適当な喋り方でいいぜ?」と提案する。ウチの手下共とか見てるだろ?堅っ苦しいのは嫌いだ。
しかし、と反論する前にそうまで言われてしまったので、景治も観念して友人達に使うのと同じ口調にする。
「で、どうなんだ長曾我部殿。」
ずい、と真面目な顔で言う景治にいっそ苦笑し元親は正直に返答する。今更誤魔化してもしょうがない。
「そりゃまぁ、喰っちゃおうかなーって」
満面の笑みで清々しいまでにきっぱりと答えられては、景治とてああそうかと引き上げたくなってしまう。
しかしこのままでは納得がいかぬ。何から伝えれば良いものかと、思案しながら景治は口を開く。
「…俺は、あいつの幼馴染でな…」
と、始めた景治の口ぶりに、元親は(こいつも不器用な奴か)と軽く相槌を打ちながら思う。
「元就様…松寿は、今でこそあんな風だが、アレで結構怖がりで泣き虫なんだ」
幼少時につるんでいた仲間内には彼女の弟もいたからか弱い所は見せまいと強がっていたが、
その分よくこっそり兄に泣きついていた。大きな犬が怖い、森の暗がりが怖い、雷が怖い。
「感情を押し殺して、我慢して、それで最後どうにもならなくなって爆発する性質なんだ。
…だから、いじめてくれるな」
こう言われては元親も困る。(別に苛める気はないんだがなぁ)
色々気にかかる点はあるが、まずは一番に気にかかる点を問うてみる。
「その、兄さんと弟はどうしたよ。男兄弟がいるのになんであいつが頭首なんだ」
「兄の先代様は、体を壊し亡くなった。…弟は、…も、死んだ。松寿とは仲の良く、いい奴だったんだが。」
言外に家の事は聞かせたくない事もあるとの匂いを嗅ぎ取った元親は、それ以上は突っ込まない。
「それにしたってよ、婿を取ってそいつを頭にするとか、色々方法はあるんじゃねぇか?」
女でいるのが嫌だと言っていたが、との景治の答えに元親は驚いた。
「あぁ?!何でだ?あんな可愛いのに?!」
「か、かわいい?」その言葉に景治もまた驚いた。
今まで聞いてきた元就を称える言葉は、美しい麗しいなどといった言わば下から崇める物ばかりで、
彼のようにまるで子供かまたは同等以下の女にでも与えるような評価は初めてだった。
「え、だってよ、なんか可愛いじゃねぇか。背ぇ低くて細っこいし、
歩き方とか一生懸命メシ食ってるとことか、ちまちましててよ」
「そ、そうか…」これが瞬く間に四国を纏め上げた男の度量か。景治はいっそ感心した。
あの氷の面の持ち主をそう評するとは。
「それによ、あんたが今言ったばかりじゃねぇか。怖がりで泣き虫なんだろ?」
それを強がりで隠して?可愛いじゃねぇか、やっぱり。何でもないようにさらりと元親は言う。
そして、ふと何かに気付いたかのように言葉を続けた。




