「…なンか、言えよ」
呆然とした元就の表情が、徐々にまた何か考え込むものに変わった。瞳は伏せられて、元親が一方的に握った手を見つめている。
時折逃げるように手をもがいたが、それは元親が許さなかった。(腕力で勝てると思ってんのか)
沈黙に耐え切れず発した元親の声に、元就が戸惑う瞳を上げる。双眸に元親のそれが映った。
元就の唇が何か言いたげに二、三度動き、ついに出された言葉はこうだった。
「――何の、調略か…?」
は、と元親の喉が唸る。調略、ときたか。元親の頬が引きつった。
「此度の同盟だけでは足りぬか。大体、国主同士で婚姻を結んでどんな利益がある」
「この、俺がよぅ……」
低い元親の声に今度は元就の顎が引ける。どうやら質問の答えではないようだ。男の考えがまったく読めない。
「女口説くのに、んなチンケな策使うように見えんのかよ…!」
怒りを孕んだ声を出す元親が言いながら、右手を元就の腰に手を回した。
そしてそのまま軽々と彼女の体を膝に乗せ横抱きにする。両手は解放された元就だが、今度は二の腕と脛を固定されて動けない。
何をするか、と言いかけた声は最後まで元就の口からこぼれ出ることはなかった。
元親が、唇で塞いで舌でもって押し返したから。
呆然とした元就の表情が、徐々にまた何か考え込むものに変わった。瞳は伏せられて、元親が一方的に握った手を見つめている。
時折逃げるように手をもがいたが、それは元親が許さなかった。(腕力で勝てると思ってんのか)
沈黙に耐え切れず発した元親の声に、元就が戸惑う瞳を上げる。双眸に元親のそれが映った。
元就の唇が何か言いたげに二、三度動き、ついに出された言葉はこうだった。
「――何の、調略か…?」
は、と元親の喉が唸る。調略、ときたか。元親の頬が引きつった。
「此度の同盟だけでは足りぬか。大体、国主同士で婚姻を結んでどんな利益がある」
「この、俺がよぅ……」
低い元親の声に今度は元就の顎が引ける。どうやら質問の答えではないようだ。男の考えがまったく読めない。
「女口説くのに、んなチンケな策使うように見えんのかよ…!」
怒りを孕んだ声を出す元親が言いながら、右手を元就の腰に手を回した。
そしてそのまま軽々と彼女の体を膝に乗せ横抱きにする。両手は解放された元就だが、今度は二の腕と脛を固定されて動けない。
何をするか、と言いかけた声は最後まで元就の口からこぼれ出ることはなかった。
元親が、唇で塞いで舌でもって押し返したから。
――――くちづけ……――?
元就が今日何度目かの予想外の出来事に目を見張ると、元親はついと合わせた顔を離し、己の唇を舐めた。
見下ろす目は笑っていない。どこか暗い光を湛えていて、元就は(ああ、これがこの男の鬼たる所以か)と思った。
見つめていると、元親はすぅっと軽く息を吸い込んだ。深く、海に潜る時の動作。
再び唇が合わせられる。先程の勢い任せとは違って、今度はより深く重ねられるように元親は首の角度を変えた。
元就は目を開けたままでいたので、鼻先がぶつかる距離まで離れて「目、閉じろよ」と囁く。
ふるりと軽く首を横に振り、元就は否の答えを返した。
「そなたが何をしているのか、見極めねばならぬ」
だから、口吸いの時にまで目を開けてなきゃならないって?元親は口の端だけで笑った。
「ナニされてるかわかんねぇ?…んな訳ねぇだろ」
「わからぬ」
余計な誤魔化ししてんなよ、と思う元親の心内の呟きは、彼女の真剣な眼差しに否定された。
「…は、だから、そんな見え透いた嘘……マジで?」
元親の心に不安がよぎる。まさか、本気で今の状況が理解出来ないなどという事はないだろう。
子供だって、夜中に男女が二人きりで抱き合い口付ける事にどんな意味があるかわかるはずだ。それこそ、本能とやらで。
「長曾我部殿に、我を娶ってどんな利益があるかわからぬ。国主同士で婚姻を結んでもどうにもなるまい」
抱かれながらも真剣な眼差しで言う元就の説明はこうだった。
四国の長という立場なら、確かに毛利の女を娶るのは得策だろう。
同盟関係なのだから、両家の絆を深める意味でも、人質としても重要な役割がある。
けれど、頭首同士というのは益がない。二人で完結する結びつきは、家にも国にも広がりを見せない。
むしろ極個人的な事が両国の破綻にもなりかねない。自分達の気性を鑑みれば、尚更その危険性は高い。
他国への牽制や体面上、夫婦が離れて暮らすのは良くない。しかしお互い若く跡継ぎがいない。
どちらかの国を――この場合、女である元就の中国だが――を国主不在の空の国にするというのはあまりに愚か。
「そなたは、確かに粗野で下品で騒々しいが、聡い人物と我は思うておったが…見込み違いか?」
見下ろす目は笑っていない。どこか暗い光を湛えていて、元就は(ああ、これがこの男の鬼たる所以か)と思った。
見つめていると、元親はすぅっと軽く息を吸い込んだ。深く、海に潜る時の動作。
再び唇が合わせられる。先程の勢い任せとは違って、今度はより深く重ねられるように元親は首の角度を変えた。
元就は目を開けたままでいたので、鼻先がぶつかる距離まで離れて「目、閉じろよ」と囁く。
ふるりと軽く首を横に振り、元就は否の答えを返した。
「そなたが何をしているのか、見極めねばならぬ」
だから、口吸いの時にまで目を開けてなきゃならないって?元親は口の端だけで笑った。
「ナニされてるかわかんねぇ?…んな訳ねぇだろ」
「わからぬ」
余計な誤魔化ししてんなよ、と思う元親の心内の呟きは、彼女の真剣な眼差しに否定された。
「…は、だから、そんな見え透いた嘘……マジで?」
元親の心に不安がよぎる。まさか、本気で今の状況が理解出来ないなどという事はないだろう。
子供だって、夜中に男女が二人きりで抱き合い口付ける事にどんな意味があるかわかるはずだ。それこそ、本能とやらで。
「長曾我部殿に、我を娶ってどんな利益があるかわからぬ。国主同士で婚姻を結んでもどうにもなるまい」
抱かれながらも真剣な眼差しで言う元就の説明はこうだった。
四国の長という立場なら、確かに毛利の女を娶るのは得策だろう。
同盟関係なのだから、両家の絆を深める意味でも、人質としても重要な役割がある。
けれど、頭首同士というのは益がない。二人で完結する結びつきは、家にも国にも広がりを見せない。
むしろ極個人的な事が両国の破綻にもなりかねない。自分達の気性を鑑みれば、尚更その危険性は高い。
他国への牽制や体面上、夫婦が離れて暮らすのは良くない。しかしお互い若く跡継ぎがいない。
どちらかの国を――この場合、女である元就の中国だが――を国主不在の空の国にするというのはあまりに愚か。
「そなたは、確かに粗野で下品で騒々しいが、聡い人物と我は思うておったが…見込み違いか?」




