「だからよぅ」元親が唸る。家やら国やらはどうでもいい。お前が欲しいんだ。言葉に混ぜて、一つ、また一つと唇を落とす。
鼻と、額と、頬と、瞼と。ぽつぽつと振るその仕草に、(雨のようだ)と元就は思う。
外は雷が止み、代わりに強い風雨が離れを揺らす。深海にこの空間だけ沈められたような不安。(今日の我は感傷に過ぎる)
「どうでもいい訳があるか。…明日も明後日も共に居て、我が中国はどうなる」それに、それにだ。
じわりと、理性以外の感情が滲む。元就はそれを無視して踏みつけようとした。
元親が聞き分けの無い女の薄い唇をべろりと舐める。獣のようだ。した方もされた方もそう感じた。
いっそ、獣ならもっと楽にこの女をモノに出来ただろうに。いや、つい先程までは、元親はただの獣だったのだ。
興味本位の性欲で喰らおうとした。女だって大人で、それなりに経験もあるだろう。――だが、違った。
元親は焦れる。肉体ではなく心が欲しい。笑った顔がみたいとは最初の頃に思った。
整った顔が自分に笑顔を向けたら、それこそ宝を手に入れた時以上の喜びがあるだろうと。
それは――優越感だ。自分だけが満足出来ればいいという、一方的に享受するだけのもの。今となってはあまりに滑稽な身勝手さ。
「ここまで言って何でわかんねぇ。お前を、抱きたい」
元就の両の手首をつかみ、己の頭に回す。抱いて、抱きしめられて、二人の体がより密着するように導く。
何事か言いたげに惑う元就の唇を舌で割り、逃げる彼女のそれを吸い上げた。生温く這う快感。くちゅりと甘く卑猥な音が立つ。
「…っ」
息を奪われ苦しくなったか、元就が見じろいだ。強張る小さな肩を撫でる。顔を離して、問いを呼気に悶える顔に落とす。
「抵抗、しねぇのな。嫌じゃねぇのか、こーいうの」
聞いて元就はそういえば、と初めて自分に疑問を覚える。常ならば不必要に他者が近寄るだけでも厭わしいというのに、
何故か包容も接吻も嫌ではない。何故か、と自身の心に問えば、答えはすぐ返ってきた。
…暖かいから。薄い衣服で体が冷えているからか。いいや、本当は最初から求めていた。
見ない振りを決め込んだ感情が、元就の表面まで染み出てくる。熱。温もり。子供が覚える原初の欲求。
弟妹と、父母と、友と、兄と分け合った暖かさ。男が与えてくるものは比べれば随分熱く、力強いものだったが、
氷と呼ばれる自分にはちょうど釣り合いが取れるのかもしれない。受け取って、欲しがっていいのだろうか。
「…嫌では、ない…」
声が震える。何故たじろぐ。毛利の長たる自分らしくない。常に堂々としていなければならないというのに。
「そうか。お前、家とか外面のことばかり言ってっけど、…お前は、嫌じゃないんだな?」
お前は、を強調して元親は言質を取る。馬鹿な女だ。玉藻前のような頭脳と容姿を持っているなら、
それでこの四国の主をたぶらかして乗っ取ってしまうという考え方も出来るだろうに。
そして、そんな女の肌に望んで溺れようとする自分もまた、大馬鹿者だ。
馬鹿馬鹿しい。青臭い。性交なんて綺麗なものでも夢見るものでもない。
ただ互いの粘液と身勝手をぐちゃぐちゃ掻き混ぜて、捏ねて、叩きつけて一人一人で昇り詰めて吐き出すだけのものなのに。
いつだって独りだ。それでいい。心なんぞ邪魔で、浅瀬で足で波を蹴立てる楽な悪ふざけだけ欲しい。
足をさらわれて溺れるなんてごめんだ。(だけど、なぁ毛利、)この女が欲しい。手に入れる為なら、この身を投げたっていい。
「お前からも出せよ」見せつけるように舌を出し、彼女の鼻を舐めた。ひそめられた眉のまま、元就はおずおずと応える。
押し付けあう濡れた弾力に戸惑ってか、銀髪を握る元就の指に力がこもる。指の股を髪がくすぐって、それも悪い感触ではなかった。
鼻と、額と、頬と、瞼と。ぽつぽつと振るその仕草に、(雨のようだ)と元就は思う。
外は雷が止み、代わりに強い風雨が離れを揺らす。深海にこの空間だけ沈められたような不安。(今日の我は感傷に過ぎる)
「どうでもいい訳があるか。…明日も明後日も共に居て、我が中国はどうなる」それに、それにだ。
じわりと、理性以外の感情が滲む。元就はそれを無視して踏みつけようとした。
元親が聞き分けの無い女の薄い唇をべろりと舐める。獣のようだ。した方もされた方もそう感じた。
いっそ、獣ならもっと楽にこの女をモノに出来ただろうに。いや、つい先程までは、元親はただの獣だったのだ。
興味本位の性欲で喰らおうとした。女だって大人で、それなりに経験もあるだろう。――だが、違った。
元親は焦れる。肉体ではなく心が欲しい。笑った顔がみたいとは最初の頃に思った。
整った顔が自分に笑顔を向けたら、それこそ宝を手に入れた時以上の喜びがあるだろうと。
それは――優越感だ。自分だけが満足出来ればいいという、一方的に享受するだけのもの。今となってはあまりに滑稽な身勝手さ。
「ここまで言って何でわかんねぇ。お前を、抱きたい」
元就の両の手首をつかみ、己の頭に回す。抱いて、抱きしめられて、二人の体がより密着するように導く。
何事か言いたげに惑う元就の唇を舌で割り、逃げる彼女のそれを吸い上げた。生温く這う快感。くちゅりと甘く卑猥な音が立つ。
「…っ」
息を奪われ苦しくなったか、元就が見じろいだ。強張る小さな肩を撫でる。顔を離して、問いを呼気に悶える顔に落とす。
「抵抗、しねぇのな。嫌じゃねぇのか、こーいうの」
聞いて元就はそういえば、と初めて自分に疑問を覚える。常ならば不必要に他者が近寄るだけでも厭わしいというのに、
何故か包容も接吻も嫌ではない。何故か、と自身の心に問えば、答えはすぐ返ってきた。
…暖かいから。薄い衣服で体が冷えているからか。いいや、本当は最初から求めていた。
見ない振りを決め込んだ感情が、元就の表面まで染み出てくる。熱。温もり。子供が覚える原初の欲求。
弟妹と、父母と、友と、兄と分け合った暖かさ。男が与えてくるものは比べれば随分熱く、力強いものだったが、
氷と呼ばれる自分にはちょうど釣り合いが取れるのかもしれない。受け取って、欲しがっていいのだろうか。
「…嫌では、ない…」
声が震える。何故たじろぐ。毛利の長たる自分らしくない。常に堂々としていなければならないというのに。
「そうか。お前、家とか外面のことばかり言ってっけど、…お前は、嫌じゃないんだな?」
お前は、を強調して元親は言質を取る。馬鹿な女だ。玉藻前のような頭脳と容姿を持っているなら、
それでこの四国の主をたぶらかして乗っ取ってしまうという考え方も出来るだろうに。
そして、そんな女の肌に望んで溺れようとする自分もまた、大馬鹿者だ。
馬鹿馬鹿しい。青臭い。性交なんて綺麗なものでも夢見るものでもない。
ただ互いの粘液と身勝手をぐちゃぐちゃ掻き混ぜて、捏ねて、叩きつけて一人一人で昇り詰めて吐き出すだけのものなのに。
いつだって独りだ。それでいい。心なんぞ邪魔で、浅瀬で足で波を蹴立てる楽な悪ふざけだけ欲しい。
足をさらわれて溺れるなんてごめんだ。(だけど、なぁ毛利、)この女が欲しい。手に入れる為なら、この身を投げたっていい。
「お前からも出せよ」見せつけるように舌を出し、彼女の鼻を舐めた。ひそめられた眉のまま、元就はおずおずと応える。
押し付けあう濡れた弾力に戸惑ってか、銀髪を握る元就の指に力がこもる。指の股を髪がくすぐって、それも悪い感触ではなかった。




