口をつけ合い、互いの唾液を混ぜる行為など、普段の自分ならば否定するはずだ。愚劣で汚らしいと中国の守護者ならきっと言う。
けれど、けれど――気持ちが、良かった。二人の口内が繋がることで、感覚がぶわりと広がる。繋がる。広がる。寒くない。
独りでよかったはずなのに、独りではないのか。今更感じる安堵。失くした温もりが戻ってきた気がした。けれど、
(でも、違う)元就は否定する。
元親の舌が元就の頬を伝い、顎の線を辿り首の付け根を目指す。白い肌を覆う絹が邪魔で、留め紐に歯をかけ引き千切った。
露わになる痛々しいほど浮き出た鎖骨。痩せた胸部。肌蹴られた胸元に驚いたか、元就が更に手に力をこめる。
そうだ、しっかりつかまってろ。元親は思う。想って、誓う。
「離さねぇから」
(…嘘だ)考える前に湧き出る否定。元就は、男の背に隠れた海の妖の絵を見る。あれはもしや、歌で船員を惑わし船を沈める魔女か。
益体の無い仮定が元就の心に訪れる。(もし、我が何も背負わぬ一個の女だとして、それでこの男と恋い慕うようになったとして…?)
「空と、海の色をくれると言った」
「ああ」
「しかし、けれど長曾我部、美しいばかりではないぞ――空は陰る、海は荒れる、禍々しい黒が――」
この男を、呑み込んでしまったら。もしかして、の言葉だけでこんなに足が竦んでしまうのに、どうして男は考えないのか。
雨がやんで、風が凪いで空がまた青く光っても。海の魔女の歌声が耳に響く気がした。元就の知らない言語だった。
喉を詰まらせてぽつりぽつりと言葉を重ねる元就を彼は静かな気持ちで待つ。白い胸元から顔を移動させて、彼女の瞳を覗き込む。
飴玉みたいだ、と思った目が潤んで揺れていた。
けれど、けれど――気持ちが、良かった。二人の口内が繋がることで、感覚がぶわりと広がる。繋がる。広がる。寒くない。
独りでよかったはずなのに、独りではないのか。今更感じる安堵。失くした温もりが戻ってきた気がした。けれど、
(でも、違う)元就は否定する。
元親の舌が元就の頬を伝い、顎の線を辿り首の付け根を目指す。白い肌を覆う絹が邪魔で、留め紐に歯をかけ引き千切った。
露わになる痛々しいほど浮き出た鎖骨。痩せた胸部。肌蹴られた胸元に驚いたか、元就が更に手に力をこめる。
そうだ、しっかりつかまってろ。元親は思う。想って、誓う。
「離さねぇから」
(…嘘だ)考える前に湧き出る否定。元就は、男の背に隠れた海の妖の絵を見る。あれはもしや、歌で船員を惑わし船を沈める魔女か。
益体の無い仮定が元就の心に訪れる。(もし、我が何も背負わぬ一個の女だとして、それでこの男と恋い慕うようになったとして…?)
「空と、海の色をくれると言った」
「ああ」
「しかし、けれど長曾我部、美しいばかりではないぞ――空は陰る、海は荒れる、禍々しい黒が――」
この男を、呑み込んでしまったら。もしかして、の言葉だけでこんなに足が竦んでしまうのに、どうして男は考えないのか。
雨がやんで、風が凪いで空がまた青く光っても。海の魔女の歌声が耳に響く気がした。元就の知らない言語だった。
喉を詰まらせてぽつりぽつりと言葉を重ねる元就を彼は静かな気持ちで待つ。白い胸元から顔を移動させて、彼女の瞳を覗き込む。
飴玉みたいだ、と思った目が潤んで揺れていた。
「虹は、消えるぞ」
生まれて、生きて、愛しいと思った。愛してると。消えないで、と散々願った風景はもう無い。
ただ、そこに在って欲しいだけだったのに。自分は見つめているだけで十分幸せだったのに。
これ以上、愛しいと想い合う者を失くして悲しむのは、嫌だ。
ただ、そこに在って欲しいだけだったのに。自分は見つめているだけで十分幸せだったのに。
これ以上、愛しいと想い合う者を失くして悲しむのは、嫌だ。
いっそ、大声で泣き喚けばいい。そう元親は思って、促すように元就の左の目尻を舐めた。
目を閉じて、彼女は首を振り柔く拒絶する。涙はなかった。泣けばいいのに。
「放せ…」離さないと言って。裏腹な願い。無理な乞いだけ次々湧き出てくる。無様だ、泣くことすら出来ない。
元親の手のひらが彼女の後頭部に当てられ、そっと床に落とした。はずみでほどけた元就の腕が、行き場無く漂う。
「はなさない」
元親のものとは比べ物にならないほど滑らかで小さな背を床につけ、覆い被さる。二段目の留め紐に手をかけ、外した。
緩い曲線を描く小造りな乳房が現れて、押し込められていた反動でぷるりと弾む。
(小っちぇえの)
大人で、慣れた女でも胸の小さな者は珍しくもないが、彼女の場合は何も知らない少女に手をかけるようで少し罪悪感がある。
同時に表裏一体の加虐性もそそられるのだが。
元就のさ迷う手が力なくも拳をつくり、ぐ、と元親の胸を押し返す。震えていた。(可哀想に)
「怖ぇか」低い呟きは普段より掠れてる。元親も、もう余裕がないのだから。(だから、ごめんな)
「お、…大方さま、が」
「ん?」
「…ははさまが、」こんな時におかーさんを出すのは子供の証拠だ。元親は苦笑する。「ははさまが?」
言い淀む元就を促すと、彼女は視線をゆらゆら漂わせて続けた。
「恋に落ちれば、自然とわかるといった」
溜息と共に吐き出された言葉の続きを、元親は読めない。子供の考えは彼にはもうわからない。だから、黙って聞く。
「本能に従えばいい、とも」言って、床についた元親の手を取って、自らの頬に導いた。すり、と頬ずりをして、軽く啄ばむ。
彼女らしくない甘い仕草に驚いて、そして行為を了承されたのだと受け取って、空いた右手で乳房に触れた。
「あたたかい…これが、」「うん」「これが、本能、という事か?」欲しいと願う。養母は教えてくれなかった事。
困ったように真っ直ぐ視線を合わせて問いかけてきた。「そうだろうよ」一つになりたい。独りでは嫌だ。
元就は思う。今まで手に入れていたあまりに拙い知識を確認して、結論を導く。
「求婚した。妻に、と。では――」そして、男は自分の上に乗ってきているのだから。
目を閉じて、彼女は首を振り柔く拒絶する。涙はなかった。泣けばいいのに。
「放せ…」離さないと言って。裏腹な願い。無理な乞いだけ次々湧き出てくる。無様だ、泣くことすら出来ない。
元親の手のひらが彼女の後頭部に当てられ、そっと床に落とした。はずみでほどけた元就の腕が、行き場無く漂う。
「はなさない」
元親のものとは比べ物にならないほど滑らかで小さな背を床につけ、覆い被さる。二段目の留め紐に手をかけ、外した。
緩い曲線を描く小造りな乳房が現れて、押し込められていた反動でぷるりと弾む。
(小っちぇえの)
大人で、慣れた女でも胸の小さな者は珍しくもないが、彼女の場合は何も知らない少女に手をかけるようで少し罪悪感がある。
同時に表裏一体の加虐性もそそられるのだが。
元就のさ迷う手が力なくも拳をつくり、ぐ、と元親の胸を押し返す。震えていた。(可哀想に)
「怖ぇか」低い呟きは普段より掠れてる。元親も、もう余裕がないのだから。(だから、ごめんな)
「お、…大方さま、が」
「ん?」
「…ははさまが、」こんな時におかーさんを出すのは子供の証拠だ。元親は苦笑する。「ははさまが?」
言い淀む元就を促すと、彼女は視線をゆらゆら漂わせて続けた。
「恋に落ちれば、自然とわかるといった」
溜息と共に吐き出された言葉の続きを、元親は読めない。子供の考えは彼にはもうわからない。だから、黙って聞く。
「本能に従えばいい、とも」言って、床についた元親の手を取って、自らの頬に導いた。すり、と頬ずりをして、軽く啄ばむ。
彼女らしくない甘い仕草に驚いて、そして行為を了承されたのだと受け取って、空いた右手で乳房に触れた。
「あたたかい…これが、」「うん」「これが、本能、という事か?」欲しいと願う。養母は教えてくれなかった事。
困ったように真っ直ぐ視線を合わせて問いかけてきた。「そうだろうよ」一つになりたい。独りでは嫌だ。
元就は思う。今まで手に入れていたあまりに拙い知識を確認して、結論を導く。
「求婚した。妻に、と。では――」そして、男は自分の上に乗ってきているのだから。
「では、長曾我部、は、…子供、を、作ろうと、しているの、か?」




