『罪と罰』(原題:Преступление и наказание)は、フョードル・ドストエフスキーによる長編小説。1866年にロシアの文芸誌『ロシア報知』に連載され、同年に単行本化された。19世紀ロシア文学を代表する作品であり、近代心理小説の先駆的達成として高く評価されている。

概要
舞台は1860年代のサンクトペテルブルク。極度の貧困に苦しむ元大学生ロジオン・ロマノヴィチ・ラスコーリニコフが、「非凡人は人類の進歩のために法を超える権利を持つ」という独自の理論を実践するため、高利貸しの老婆を殺害する。だが犯行は偶発的に妹リザヴェータの殺害へと拡大し、以後彼は罪責感と自己正当化の間で精神的に追い詰められていく。
物語は、犯罪の実行よりもむしろ、その後の心理的葛藤と思想的対決に重点を置く。主人公と予審判事ポルフィーリーとの知的駆け引き、娼婦ソーニャとの宗教的対話などを通じて、罪・自由・救済・苦悩といった主題が掘り下げられる。
あらすじ
ラスコーリニコフは、自らを歴史的英雄(ナポレオンのような存在)と重ね合わせ、「取るに足らぬ存在を犠牲にして多数を救う」ことは許されるという理論を抱く。彼は高利貸しアリョーナを斧で殺害するが、計画外にその妹も殺してしまう。
犯行後、彼は発熱と妄想に苦しみ、家族や友人ラズーミヒン、妹ドゥーニャらとの関係も緊張する。娼婦ソーニャは、家族を養うために身を売りながらも深い信仰を持ち、ラスコーリニコフに福音書(ラザロの復活)を読み聞かせる。
予審判事ポルフィーリーは心理的圧力をかけ、彼の思想的矛盾を突く。最終的にラスコーリニコフはソーニャの勧めもあり自首し、シベリア流刑となる。エピローグでは、流刑地での精神的再生の兆しが描かれる。
主題
1. 非凡人理論と功利主義批判
ラスコーリニコフは「偉大な人物は道徳律を超越できる」という思想を持つが、物語はその自己神格化の破綻を示す。これは急進的合理主義や功利主義への批判として読まれる。
ラスコーリニコフは「偉大な人物は道徳律を超越できる」という思想を持つが、物語はその自己神格化の破綻を示す。これは急進的合理主義や功利主義への批判として読まれる。
2. 罪の心理学
犯罪の外的処罰よりも、内面的な良心の呵責が中心となる。罪は法的概念を超え、存在論的問題へと拡張される。
犯罪の外的処罰よりも、内面的な良心の呵責が中心となる。罪は法的概念を超え、存在論的問題へと拡張される。
3. 苦悩と救済
ソーニャのキリスト教的愛と自己犠牲は、苦悩を通じた再生の可能性を象徴する。罰は単なる刑罰ではなく、精神的浄化の契機とされる。
ソーニャのキリスト教的愛と自己犠牲は、苦悩を通じた再生の可能性を象徴する。罰は単なる刑罰ではなく、精神的浄化の契機とされる。
4. 都市と疎外
ペテルブルクの蒸し暑く閉塞的な都市空間は、主人公の内面を反映する。近代都市の匿名性と貧困が、思想的過激化を生む背景として描かれる。
ペテルブルクの蒸し暑く閉塞的な都市空間は、主人公の内面を反映する。近代都市の匿名性と貧困が、思想的過激化を生む背景として描かれる。
主な登場人物
ロジオン・ラスコーリニコフ:主人公。元法学生。
ソフィヤ(ソーニャ):敬虔な娼婦。精神的支柱。
ポルフィーリー・ペトローヴィチ:予審判事。心理戦を展開。
ラズーミヒン:友人。実務的で誠実。
ドゥーニャ:妹。強い意志を持つ女性。
スヴィドリガイロフ:退廃的地主。もう一つの可能性を体現。
影響・評価
本作は実存主義、心理学、小説技法に大きな影響を与えた。20世紀思想においては、ニヒリズム批判や主体の分裂という観点から再解釈され、フリードリヒ・ニーチェやジャン=ポール・サルトルらの議論とも関連づけられてきた。
多数の映画化・舞台化が行われ、ロシア文学の中でも特に国際的受容の高い作品である。