アントナン・アルトー(1896年9月4日 - 1948年3月4日)は、フランスの詩人・劇作家・演出家・俳優。演劇理論「残酷演劇(テアトル・ド・ラ・クルオテ)」の提唱者として知られ、20世紀演劇に決定的な影響を与えた。
幼少期から神経疾患に苦しみ、精神的不安定のなかで創作活動を続けた。1920年代にはシュルレアリスム運動に参加するが、無意識の自動性を方法化するブルトンの立場に反発し、1926年に運動から排除される。その後は独自の演劇理論を展開し、言語中心の演劇を否定し、身体、叫び、身振り、リズム、照明といった非言語的要素による直接的衝撃を重視した。
主著『演劇とその分身』では、西欧演劇の心理主義的・文学的伝統を批判し、観客の感覚と神経を揺さぶる儀式的演劇の必要性を説いた。アルトーにとって「残酷」とは暴力の誇張ではなく、存在の根源的真実に直面させる強度を意味する。
1930年代以降は精神病院への入退院を繰り返し、長期の電気ショック療法も受けた。晩年のテクストは断片的かつ呪術的な言語実験を示し、身体と言語の解体を通じて主体の再構築を試みている。アルトーは演劇理論家としてのみならず、近代的主体の崩壊を体現した作家として、戦後前衛演劇やパフォーマンス芸術に広範な影響を与えた。