物象化とは、本来は社会的関係や人間的活動であるものが、あたかも自律的な「物」であるかのように現れる現象を指す概念である。この語はマルクスの「商品フェティシズム」の分析を基礎とし、特にゲオルク・ルカーチによって理論的に体系化された。
マルクスにおける基礎
『資本論』においてマルクスは、商品交換社会では人と人との社会的関係が物と物との関係として現れると論じた。価値は人間労働の社会的関係の表現であるにもかかわらず、それが商品の属性であるかのように見える。この転倒構造が商品フェティシズムであり、物象化の原型である。
ルカーチの展開
ルカーチは『歴史と階級意識』において、資本主義社会の全面的構造を物象化として捉えた。合理化された分業体制のもとで、労働過程は断片化され、人間は全体的な社会関係を把握できなくなる。主体自身もまた計算可能な「機能」として把握され、自己理解すら物的カテゴリーによって規定される。
疎外との関係
疎外が主体の経験構造を中心に捉えるのに対し、物象化は社会的関係の客観的構造に焦点を当てる概念である。ただし両者は分離できず、物象化された社会構造のなかで主体が自己を失うことが疎外であると理解されることが多い。
批判的理論における位置
フランクフルト学派は、物象化を文化産業や大衆社会の分析に応用した。さらに後期資本主義においては、貨幣や市場だけでなく、言語、メディア、データなどが自律的な力を持つように振る舞う現象も物象化の拡張形態として論じられている。