雨は止まない。
戦場に零れた血と涙を全て洗い流しても、一向に止む気配はない。
水滴が地面に叩きつけられ弾ける音が絶えず響く。
吹きすさぶ風は肌を冷やし、参加者の体温を容赦なく奪い去る。
戦場に零れた血と涙を全て洗い流しても、一向に止む気配はない。
水滴が地面に叩きつけられ弾ける音が絶えず響く。
吹きすさぶ風は肌を冷やし、参加者の体温を容赦なく奪い去る。
悪天候の中を突っ切るは一台の自動車。
ハンドルを握った青年、桐生戦兎が考え込むのは病院に残して来た仲間達。
自分達が街に行っている間、危険人物に襲撃されていないだろうか。
何も問題が起きなければそれに越したことはないが、いつどこでなにが起きてもおかしくないのが殺し合いだ。
撃退したにしろ脱出したにしろ、三人とも無事であってくれと願う他無い。
ハンドルを握った青年、桐生戦兎が考え込むのは病院に残して来た仲間達。
自分達が街に行っている間、危険人物に襲撃されていないだろうか。
何も問題が起きなければそれに越したことはないが、いつどこでなにが起きてもおかしくないのが殺し合いだ。
撃退したにしろ脱出したにしろ、三人とも無事であってくれと願う他無い。
(…ん?ちょっと待てよ?)
仲間の安否を思う戦兎の胸中に、ふと生まれる疑問。
病院を出発する前、もしナナ達だけでは対処し切れない危険人物が襲ってきた際にどうするかを話し合ったのは覚えている。
そうなった場合は脹相が二人を抱えて飛んで逃げ、戦兎達との合流を目指す。
しかし危険人物の襲撃が無くとも、病院からの移動を迫られる理由が一つあるではないか。
禁止エリアである。
病院を出発する前、もしナナ達だけでは対処し切れない危険人物が襲ってきた際にどうするかを話し合ったのは覚えている。
そうなった場合は脹相が二人を抱えて飛んで逃げ、戦兎達との合流を目指す。
しかし危険人物の襲撃が無くとも、病院からの移動を迫られる理由が一つあるではないか。
禁止エリアである。
聖都大学附属病院があるのはD-2とD-3の丁度境目の位置。
この内D-2は二回目の定時放送で新たな禁止エリアに指定された。
病院全体が丸々禁止エリア内にある訳でないが、放送前に比べれば動ける範囲は限られるだろう。
行動範囲が制限された場所に留まり続ければ、本当に危険人物が襲来した際に不利な状態での戦闘ないし逃走を余儀なくされる。
燃堂はともかくナナと脹相がこの点を全く考慮しないとは考えにくい。
となるとまだ禁止エリアが機能しない時間帯、放送の直後に病院を発った可能性は高い。
この内D-2は二回目の定時放送で新たな禁止エリアに指定された。
病院全体が丸々禁止エリア内にある訳でないが、放送前に比べれば動ける範囲は限られるだろう。
行動範囲が制限された場所に留まり続ければ、本当に危険人物が襲来した際に不利な状態での戦闘ないし逃走を余儀なくされる。
燃堂はともかくナナと脹相がこの点を全く考慮しないとは考えにくい。
となるとまだ禁止エリアが機能しない時間帯、放送の直後に病院を発った可能性は高い。
(本当に移動したとして、問題は行き先か……)
「そろそろ着きそうだな」
「そろそろ着きそうだな」
隣で発せられた声に、思考に耽っていた戦兎も意識を引き戻される。
杉元の言った通り進行方向上に見えるのは白亜の建造物。
甜花以外は既に訪れた為、見覚えのある施設へ戻って来たのだ。
死闘と呼ぶに相応しく死んでしまってもおかしくは無かった、というか杉元に至っては本当に一回死んだDIOとの戦い。
最上の結果とは言えずとも生きてまた合流場所へ戻れたのには、大なり小なり安堵があった。
杉元の言った通り進行方向上に見えるのは白亜の建造物。
甜花以外は既に訪れた為、見覚えのある施設へ戻って来たのだ。
死闘と呼ぶに相応しく死んでしまってもおかしくは無かった、というか杉元に至っては本当に一回死んだDIOとの戦い。
最上の結果とは言えずとも生きてまた合流場所へ戻れたのには、大なり小なり安堵があった。
「あそこで、ナナちゃん達が待ってるんだ……」
後部座席から病院を見つめる甜花だが、緊張が声に滲み出ているのは気のせいではあるまい。
殺し合いに乗っていない仲間達との再会は嬉しい。
けれどDIOに洗脳され散々迷惑をかけたのを思えば、罪悪感と後ろめたさで心が重くなる。
だからといって今更逃げるつもりも無い。
自分のやったことに向き合うと決めた以上、ナナと燃堂にもちゃんと謝らなくては。
殺し合いに乗っていない仲間達との再会は嬉しい。
けれどDIOに洗脳され散々迷惑をかけたのを思えば、罪悪感と後ろめたさで心が重くなる。
だからといって今更逃げるつもりも無い。
自分のやったことに向き合うと決めた以上、ナナと燃堂にもちゃんと謝らなくては。
「……」
甜花の隣にいる神楽もまた表情に元気が見当たらない。
自分達は当初、胡蝶しのぶの救出を目的にして街へ向かった。
そのしのぶが一緒でない以上、当然ナナ達からそれを聞かれるだろう。
悲鳴嶼がいない今、何があったかを知るのは神楽一人。
道中、こちらに気を遣って戦兎達からしのぶの件を聞かれなかったもののずっとそのままとはいかない。
神楽とて永遠に隠し通す気は無いし、それは悲鳴嶼としのぶへの筋が通らないと分かっている。
ただそれでも、悲鳴嶼から悪くないと言われても、己の罪を告白せねばならないのに重苦しさを抱くのは致し方無い事だ。
自分達は当初、胡蝶しのぶの救出を目的にして街へ向かった。
そのしのぶが一緒でない以上、当然ナナ達からそれを聞かれるだろう。
悲鳴嶼がいない今、何があったかを知るのは神楽一人。
道中、こちらに気を遣って戦兎達からしのぶの件を聞かれなかったもののずっとそのままとはいかない。
神楽とて永遠に隠し通す気は無いし、それは悲鳴嶼としのぶへの筋が通らないと分かっている。
ただそれでも、悲鳴嶼から悪くないと言われても、己の罪を告白せねばならないのに重苦しさを抱くのは致し方無い事だ。
各々考えている内に宣伝カーは病院前に到着。
自動車をデイパックに仕舞い、すっかり見慣れた病院内へ足を踏み入れた。
無事合流場所に帰って来た訳だが、仲間達が顔を見せる気配は無い。
暫く待ち、名前を呼んでみても誰も出て来ない。
沈黙に包まれたロビーがいやにこちらの不安を煽り、甜花の心配が顔に現れる。
未だ眠り続ける善逸を抱える腕にも自然と力が入っていく。
自動車をデイパックに仕舞い、すっかり見慣れた病院内へ足を踏み入れた。
無事合流場所に帰って来た訳だが、仲間達が顔を見せる気配は無い。
暫く待ち、名前を呼んでみても誰も出て来ない。
沈黙に包まれたロビーがいやにこちらの不安を煽り、甜花の心配が顔に現れる。
未だ眠り続ける善逸を抱える腕にも自然と力が入っていく。
「も、もしかして、何かあったのかな……?」
「いや、それにしちゃ綺麗過ぎだ」
「俺もそう思う。放送前に出発した時と何も変わってないのは不自然だしな」
「いや、それにしちゃ綺麗過ぎだ」
「俺もそう思う。放送前に出発した時と何も変わってないのは不自然だしな」
ロビーを油断なく見回しながらも、襲われた可能性は低いと考えるのは二人の男。
杉元と戦兎、共に戦闘経験豊富な彼らの目には、ナナ達が病院でアクシデントに見舞われたとするのは不自然に思えた。
とはいえ警戒を完全に解くには気が早い、それぞれ歩兵銃とガンモードのドリルクラッシャーを構えておく。
仮にこちらへ害を為す者が飛び出して来たなら、引き金を引くのに躊躇はない。
杉元と戦兎、共に戦闘経験豊富な彼らの目には、ナナ達が病院でアクシデントに見舞われたとするのは不自然に思えた。
とはいえ警戒を完全に解くには気が早い、それぞれ歩兵銃とガンモードのドリルクラッシャーを構えておく。
仮にこちらへ害を為す者が飛び出して来たなら、引き金を引くのに躊躇はない。
(襲われて脱出した可能性は低い。ってことはやっぱり…)
禁止エリアに指定された為、今後の安全を考えて病院を出た。
そうなると戦兎達が戻って来た時に居場所を伝えられるよう、メモか何かを残しているはず。
但し簡単に目に付く場所には置いていないだろう。
戦兎達や善良な参加者ならともかく、殺し合いに賛同する者へ知られる危険性もあるのだ。
堂々と自分達の居場所を記しては、襲いに来てくださいと言っているのと同じ。
ではどこに置いたか、ナナの視点に立って考える。
禁止エリアから外れた部屋、戦兎達ならば気付けるだろう場所。
条件に当て嵌まり、可能性が高いところに心当たりがあった。
そうなると戦兎達が戻って来た時に居場所を伝えられるよう、メモか何かを残しているはず。
但し簡単に目に付く場所には置いていないだろう。
戦兎達や善良な参加者ならともかく、殺し合いに賛同する者へ知られる危険性もあるのだ。
堂々と自分達の居場所を記しては、襲いに来てくださいと言っているのと同じ。
ではどこに置いたか、ナナの視点に立って考える。
禁止エリアから外れた部屋、戦兎達ならば気付けるだろう場所。
条件に当て嵌まり、可能性が高いところに心当たりがあった。
「あいつらがどこに行ったのか、手掛かりが残してある部屋が分かった。ちょっと行って来る」
「なら俺も一緒に行くぜ桐生。コソコソ隠れてる奴がいないとも限らねぇ」
「なら俺も一緒に行くぜ桐生。コソコソ隠れてる奴がいないとも限らねぇ」
襲撃者の可能性はほぼ無いと言っても、万が一というものがある。
DIOに負わされた傷が未だ重く残る身では、如何に戦兎だろうと連戦は厳しい。
同行を申し出た杉元も万全とは言い難いが、不老不死の肉体故にある程度傷も回復済み。
戦兎一人で行かせるよりはまだ安全。
同じく疲弊の大きい三人はロビーに残し、もしもの時は急いで病院から離れるようにと伝える。
DIOに負わされた傷が未だ重く残る身では、如何に戦兎だろうと連戦は厳しい。
同行を申し出た杉元も万全とは言い難いが、不老不死の肉体故にある程度傷も回復済み。
戦兎一人で行かせるよりはまだ安全。
同じく疲弊の大きい三人はロビーに残し、もしもの時は急いで病院から離れるようにと伝える。
「そんじゃ見て来る。多分すぐ戻って来れるけど、そっちも気を付けてくれ」
「う、うん……。あ、あの…!ちゃんと、戻って来てね……?」
「う、うん……。あ、あの…!ちゃんと、戻って来てね……?」
ほんの少し離れるだけ。
分かっていても甜花の不安は消えない。
最初にPK学園を訪れた時、一人で来訪者の対応に向かう戦兎の背を見送った。
思えば正気を保ったままで戦兎と話したのはあれが最後。
そこからは貨物船に連れ去られ、大切な全てを狂わされたのだ。
だからだろうか、一時でも戦兎が離れて行くのが堪らなく心配なのは。
また何か悪いことが起こってしまって、折角助けてもらえたのも無に帰すのではと、自らの想像で心を恐怖させるのは。
分かっていても甜花の不安は消えない。
最初にPK学園を訪れた時、一人で来訪者の対応に向かう戦兎の背を見送った。
思えば正気を保ったままで戦兎と話したのはあれが最後。
そこからは貨物船に連れ去られ、大切な全てを狂わされたのだ。
だからだろうか、一時でも戦兎が離れて行くのが堪らなく心配なのは。
また何か悪いことが起こってしまって、折角助けてもらえたのも無に帰すのではと、自らの想像で心を恐怖させるのは。
大丈夫だと言ってロビー奥の廊下へ進む男達を見送り、二人の少女と一匹の獣が残された。
「……」
「……」
「……」
沈黙。
彼女達の間に会話は無く、甜花の腕の中で小さな寝息が音を立てるのみ。
チラ、と隣に立つ女を横目で見る。
PK学園にいた時はそれどころではなく余裕も無かったが、綺麗な人だなと思う。
眩しいオレンジの髪、大胆に谷間を曝け出した胸、それを下品と感じさせないプロポーション。
千雪や夏葉にも負けず劣らずの、魅力的な年上の女性。
尤も精神は体の持ち主とは別人。
神楽と、そう呼ばれていたこの人物について甜花はほとんど知らない。
分かるのは殺し合いに乗っておらず、先の戦いで大事な人を亡くした事くらいか。
彼女達の間に会話は無く、甜花の腕の中で小さな寝息が音を立てるのみ。
チラ、と隣に立つ女を横目で見る。
PK学園にいた時はそれどころではなく余裕も無かったが、綺麗な人だなと思う。
眩しいオレンジの髪、大胆に谷間を曝け出した胸、それを下品と感じさせないプロポーション。
千雪や夏葉にも負けず劣らずの、魅力的な年上の女性。
尤も精神は体の持ち主とは別人。
神楽と、そう呼ばれていたこの人物について甜花はほとんど知らない。
分かるのは殺し合いに乗っておらず、先の戦いで大事な人を亡くした事くらいか。
(何を話せば良いんだろう……)
こちらを全く見ない彼女から発せられる、非常に重苦しい雰囲気。
甜花を拒絶する意図は無くとも、気軽に声をかけるのは憚れた。
下手な慰めは却って相手を傷付け、無意味に怒らせるだけ。
それならこのまま無言を貫いた方がマシではないだろうか。
何より甜花は洗脳されていたとはいえ、立場的にはDIOの味方だった。
神楽が死を嘆いていた者を殺した男と一緒にいた少女、事情があったとはいえ良くは映らないと思う。
甜花を拒絶する意図は無くとも、気軽に声をかけるのは憚れた。
下手な慰めは却って相手を傷付け、無意味に怒らせるだけ。
それならこのまま無言を貫いた方がマシではないだろうか。
何より甜花は洗脳されていたとはいえ、立場的にはDIOの味方だった。
神楽が死を嘆いていた者を殺した男と一緒にいた少女、事情があったとはいえ良くは映らないと思う。
そう考えると益々罪悪感が募り出す。
貨物船に連れ去られた時、もっと必死に抵抗してれば洗脳されずに済んだのではないか。
ナナや燃堂、善逸が阻止しなかったら自分は本当に戦兎を殺してしまっていた。
現実にそうならなかったと言っても、一歩間違えれば取り返しの付かない事態と化したのは本当だ。
それに洗脳されていた時の自分はDIOからの質問に、馬鹿正直に全部話したのも今考えると後悔しかない。
戦兎達の情報は元より、甘奈を始めとする283プロのアイドルの名まで出す始末。
本当に、自分は一体何をしていたんだろう。
今更悔やんだ所で仕方ないと言っても、思い浮かぶのは皆への申し訳なさと自分自身への怒り。
貨物船に連れ去られた時、もっと必死に抵抗してれば洗脳されずに済んだのではないか。
ナナや燃堂、善逸が阻止しなかったら自分は本当に戦兎を殺してしまっていた。
現実にそうならなかったと言っても、一歩間違えれば取り返しの付かない事態と化したのは本当だ。
それに洗脳されていた時の自分はDIOからの質問に、馬鹿正直に全部話したのも今考えると後悔しかない。
戦兎達の情報は元より、甘奈を始めとする283プロのアイドルの名まで出す始末。
本当に、自分は一体何をしていたんだろう。
今更悔やんだ所で仕方ないと言っても、思い浮かぶのは皆への申し訳なさと自分自身への怒り。
「ピカ…ピ~カ~…?(あれ…ここ病院…?)」
会話は無く鬱々とした空気を壊すような声。
前足で寝惚け眼を擦り、ぼんやり辺りを見回すと自分の居場所がすぐに分かった。
数時間前に出発した施設に戻って来たらしい。
前足で寝惚け眼を擦り、ぼんやり辺りを見回すと自分の居場所がすぐに分かった。
数時間前に出発した施設に戻って来たらしい。
「ピカ……」
ぱちりと、現状を理解し意識も寝惚け半分から脱却。
病院にいるということは、自分達は撤退に成功したのだろう。
残念ながら全員無事にとはならなかったが。
悲鳴嶼行冥はいない、自分を庇った鬼殺隊の仲間は戻って来れなかった。
彼が息絶える瞬間はこの目でハッキリと見た、あれは何かの間違いなどと現実逃避は出来ない。
残酷な現実から目を逸らすにはもう、人間の死を味わい過ぎてしまっている。
どれだけ仲間が殺されても歩き続けねばならない、歩みを止めれば鬼は殺せない。
悲しみはある、悔しさはある、怒りだってある。
その全てを火にくべる薪に変えて進まねばならない、鬼殺隊とはそういう世界に生きる者なのだから。
病院にいるということは、自分達は撤退に成功したのだろう。
残念ながら全員無事にとはならなかったが。
悲鳴嶼行冥はいない、自分を庇った鬼殺隊の仲間は戻って来れなかった。
彼が息絶える瞬間はこの目でハッキリと見た、あれは何かの間違いなどと現実逃避は出来ない。
残酷な現実から目を逸らすにはもう、人間の死を味わい過ぎてしまっている。
どれだけ仲間が殺されても歩き続けねばならない、歩みを止めれば鬼は殺せない。
悲しみはある、悔しさはある、怒りだってある。
その全てを火にくべる薪に変えて進まねばならない、鬼殺隊とはそういう世界に生きる者なのだから。
それでもまた一人、自分の前から誰かがいなくなった事実は。
仲間の死とはいつだって、刃のように容赦なくこちらの心へ痛みを与える。
仲間の死とはいつだって、刃のように容赦なくこちらの心へ痛みを与える。
「あ、えっと…お、おはよう……」
「ピカ?」
「ピカ?」
控えめな声に見上げれば、こちらを覗き込む顔。
PK学園でDIOと一緒にいた女の子だ。
確か戦兎が心配していた、甜花と言う名前の少女。
洗脳が解かれてからは一緒に戦ったが、自己紹介などをしている暇は無かった。
正気な状態で話すのはこれが初めて。
と、そこで自分が甜花に抱きしめられているとようやく気付く。
PK学園でDIOと一緒にいた女の子だ。
確か戦兎が心配していた、甜花と言う名前の少女。
洗脳が解かれてからは一緒に戦ったが、自己紹介などをしている暇は無かった。
正気な状態で話すのはこれが初めて。
と、そこで自分が甜花に抱きしめられているとようやく気付く。
ぎこちない笑みを浮かべるのもそこそこに、甜花は申し訳なさそうな顔を作る。
小さな獣と目を合わし、不思議がる反応に構わず頭を下げた。
小さな獣と目を合わし、不思議がる反応に構わず頭を下げた。
「あの…さっきは、ごめんなさい……。いっぱい傷つけようとしちゃって……」
PK学園で斬月に変身し、善逸を殺そうとしたのは記憶に新しい。
奇跡的にか或いは互いの実力差故か、一撃も掠らずには済んだ。
だからといってそれでチャラになりはせず、申し訳ないことをしたと思う。
奇跡的にか或いは互いの実力差故か、一撃も掠らずには済んだ。
だからといってそれでチャラになりはせず、申し訳ないことをしたと思う。
「ピ、ピカ。ピカピ~カ~」
謝罪された善逸はと言うと、少し慌てたように首を横に振る。
確かに何度も斬られたり撃たれたりしたし、攻撃を受けている間は恐くてしょうがなかった。
けれど一発も命中しなかったのだから、そう長々と引き摺る気は無い。
何より甜花がこちらを殺そうとしたのは、DIOに洗脳されたから。
責められるべきは原因を作ったDIOであって、被害者である甜花に文句をぶつけるのはお門違い。
その点は善逸も理解しており、大丈夫だと身振り手振りて伝える。
確かに何度も斬られたり撃たれたりしたし、攻撃を受けている間は恐くてしょうがなかった。
けれど一発も命中しなかったのだから、そう長々と引き摺る気は無い。
何より甜花がこちらを殺そうとしたのは、DIOに洗脳されたから。
責められるべきは原因を作ったDIOであって、被害者である甜花に文句をぶつけるのはお門違い。
その点は善逸も理解しており、大丈夫だと身振り手振りて伝える。
「……うん。あの、本当に、ご、ごめんなさい…。あ、あと、ありがとう……」
言葉は分からないが、何を伝えたいかは何となく分かった。
自分がやったことを今一度噛み締めて謝罪を、それに感謝を口にする。
自分がやったことを今一度噛み締めて謝罪を、それに感謝を口にする。
「そ、それと、あの……悪いのは甜花だけど、でも…なーちゃんの体にえっちなことは、もうしないでね……?」
「ピガッ!?」
「ピガッ!?」
邪な目的があってっではなく、偶然とは分かっている。
そもそも先に襲い掛かった自分が悪いのは十分承知。
それでもやはり妹の体、それも尻を触られるのは抵抗があった。
姉畑のような身勝手な行動では無いので、そう強く咎めはしなかったが。
そもそも先に襲い掛かった自分が悪いのは十分承知。
それでもやはり妹の体、それも尻を触られるのは抵抗があった。
姉畑のような身勝手な行動では無いので、そう強く咎めはしなかったが。
「ピ、ピカー…ピカピ~」
一方の善逸も不可抗力とはいえ甜花を大いに怒らせた瞬間を思い出し、あからさまに目を泳がせる。
だがそれも束の間、ライドウェア越しの柔らかさがまだ前足に残っている気がして、ついだらしなく顔を緩めてしまった。
だがそれも束の間、ライドウェア越しの柔らかさがまだ前足に残っている気がして、ついだらしなく顔を緩めてしまった。
「鼻の下伸びてんぞオイ」
呆れた声色の指摘は、それまで黙っていた神楽から。
生真面目を体現した悲鳴嶼の仲間にしては随分、俗物的な性格のようだ。
生真面目を体現した悲鳴嶼の仲間にしては随分、俗物的な性格のようだ。
「とりあえずタマを潰しといた方が良いと思うアル」
「ピカ!?(え゛!?)」
「えぇ…!?そ、そこまでしなくても……」
「ピカ!?(え゛!?)」
「えぇ…!?そ、そこまでしなくても……」
まさかのバイオレンスな提案に、揃って顔を引き攣らせた。
善逸に至っては姉畑を前にした時とは別の意味での下半身の危機。
全身を青くして突然変異を思わせる見た目と化すも神楽は平然と続ける。
善逸に至っては姉畑を前にした時とは別の意味での下半身の危機。
全身を青くして突然変異を思わせる見た目と化すも神楽は平然と続ける。
「男なんて基本はぶら下げたタマで物事を考える生き物って姉御が言ってたネ。おらっ、お前も隠したマスターボールを見せてみろヨ」
「ピガアアアアアアア!?(ひぎいいいい!?引っ張らないでえええええ!!)」
「ひゃっ…!そ、そんなとこ引っ張っちゃ、ダメだよ……」
「ピガアアアアアアア!?(ひぎいいいい!?引っ張らないでえええええ!!)」
「ひゃっ…!そ、そんなとこ引っ張っちゃ、ダメだよ……」
雨音に負けじとロビーに響き渡る汚い高音は、戦兎達が戻って来るまで続いた。
○
「宇宙船…?」
「ああ。どうやら放送が始まってすぐそこに向かったみたいだ」
「ああ。どうやら放送が始まってすぐそこに向かったみたいだ」
そう言って戦兎が見せるのはナナが書き残したメモ。
これを見つけたのはまだ悲鳴嶼達が病院に来る前、ナナが斉木楠雄との接触を果たした部屋だ。
戦兎達なら気付けて、尚且つ他の者には簡単に見つからない場所。
条件に当て嵌まるとしてナナが選んだ置き場所で、無事にメモを発見。
記された内容は戦兎が予想した通り、病院の一部が禁止エリア指定されたので、安全性を考慮し移動する旨。
新しい合流場所には北西に存在するフリーザの宇宙船。
余り距離が離れておらず、何より主催者の一人、ハワードの肉体と関係があるだろう施設である。
有益な情報を手に入れられる可能性もあると踏んで宇宙船に向かったのだろう。
これを見つけたのはまだ悲鳴嶼達が病院に来る前、ナナが斉木楠雄との接触を果たした部屋だ。
戦兎達なら気付けて、尚且つ他の者には簡単に見つからない場所。
条件に当て嵌まるとしてナナが選んだ置き場所で、無事にメモを発見。
記された内容は戦兎が予想した通り、病院の一部が禁止エリア指定されたので、安全性を考慮し移動する旨。
新しい合流場所には北西に存在するフリーザの宇宙船。
余り距離が離れておらず、何より主催者の一人、ハワードの肉体と関係があるだろう施設である。
有益な情報を手に入れられる可能性もあると踏んで宇宙船に向かったのだろう。
(まぁそんな簡単に大事な情報は見つからないだろうけどな)
体のみとはいえ主催者に繋がる重要な記録を、会場の一施設に保管してあるとは考え辛い。
情報は全て抹消されているか、恐らくは知られた所で何の問題にならないものしか残されていない。
しかし距離の近さと念の為に調べて損は無いとの考えだ。
移動先に宇宙船を選んだ理由は十分理解出来る
情報は全て抹消されているか、恐らくは知られた所で何の問題にならないものしか残されていない。
しかし距離の近さと念の為に調べて損は無いとの考えだ。
移動先に宇宙船を選んだ理由は十分理解出来る
何にしてもナナ達の移動先は分かった。
安堵する甜花達を尻目に杉元は今後の動きを尋ねる。
安堵する甜花達を尻目に杉元は今後の動きを尋ねる。
「で、こっからどうする?俺らもすぐ柊達を追うか?」
「…いや、合流が遅れるけど一旦病院で休むべきだと思う」
「…いや、合流が遅れるけど一旦病院で休むべきだと思う」
DIOとの戦闘で負った傷は未だ深く刻まれており、全員体力の消耗も激しい。
宇宙船に向かう道中でトラブルが起きないとも言い切れない以上、少しでも万全の状態に近付けておいた方が良い。
加えて降り続ける雨も問題だ。
サッポロビールの宣伝カーは移動の足としては問題無くとも、雨風を凌ぐ効果は期待出来ない。
現代で販売されている自動車と違い、瓶型のボディを被せただけの宣伝カーには窓ガラスが無いのだ。
おまけに車体の後ろには遮る物が見当たらず、後方確認には打ってつけだが今の天候では困りもの。
病院への移動中にも車内は雨で濡れ、全員口には出さなかったが寒く感じた。
特に神楽は肌を大きく露出した格好の為、無意識にか冷えた両腕を擦っている。
よってここは病院で暖を取り体力を回復させるべきとの判断を下す。
一部が禁止エリアに指定された施設で不安はあるものの、他の施設へ移動し時間を消費するよりは聖都大学附属病院に留まる方がマシだ。
それに放送前ならともかく、放送で一部が禁止エリアに指定された施設へ進んで行きたがる者はそういない。
病院が襲撃される可能性は高くない筈。
宇宙船に向かう道中でトラブルが起きないとも言い切れない以上、少しでも万全の状態に近付けておいた方が良い。
加えて降り続ける雨も問題だ。
サッポロビールの宣伝カーは移動の足としては問題無くとも、雨風を凌ぐ効果は期待出来ない。
現代で販売されている自動車と違い、瓶型のボディを被せただけの宣伝カーには窓ガラスが無いのだ。
おまけに車体の後ろには遮る物が見当たらず、後方確認には打ってつけだが今の天候では困りもの。
病院への移動中にも車内は雨で濡れ、全員口には出さなかったが寒く感じた。
特に神楽は肌を大きく露出した格好の為、無意識にか冷えた両腕を擦っている。
よってここは病院で暖を取り体力を回復させるべきとの判断を下す。
一部が禁止エリアに指定された施設で不安はあるものの、他の施設へ移動し時間を消費するよりは聖都大学附属病院に留まる方がマシだ。
それに放送前ならともかく、放送で一部が禁止エリアに指定された施設へ進んで行きたがる者はそういない。
病院が襲撃される可能性は高くない筈。
何より病院に来るだろう神楽の仲間、広瀬康一の存在も無視できない。
ナナのメモに康一の名が出ていなかった為、三人が病院を発つまでの間にも康一は来ていないらしい。
方針不明の巨大な虫の追跡に苦戦しているのか、何か別のアクシデントに見舞われたか。
前向きに考えるなら雨のせいで遅れているだけで、どうにか病院に向かってる最中かもしれない。
いずれにしろもう少し待ってみて無事病院に到着するなら良し、もし来なければ様子を見に行く事も検討する。
その場合はナナ達と合流する組と康一を迎えに行く組で、二手に分ける必要があるが。
ナナのメモに康一の名が出ていなかった為、三人が病院を発つまでの間にも康一は来ていないらしい。
方針不明の巨大な虫の追跡に苦戦しているのか、何か別のアクシデントに見舞われたか。
前向きに考えるなら雨のせいで遅れているだけで、どうにか病院に向かってる最中かもしれない。
いずれにしろもう少し待ってみて無事病院に到着するなら良し、もし来なければ様子を見に行く事も検討する。
その場合はナナ達と合流する組と康一を迎えに行く組で、二手に分ける必要があるが。
「とりあえずこんな感じで動こうと思うけど、皆はどうだ?」
「う、うん。大丈夫……」
「ピカ…ピカチュウ……(しのぶさんが心配だけど…もしかしたら自力で来るかもしれないか……)」
「…私もそれで良いアル」
「う、うん。大丈夫……」
「ピカ…ピカチュウ……(しのぶさんが心配だけど…もしかしたら自力で来るかもしれないか……)」
「…私もそれで良いアル」
康一の安否は気になるし、こっちから探しに行きたいとも思う。
彼だけでなくゲンガーも心配だ。
同行者二人だけでなくカイジまで死に、今どんな状態になってるのか見当も付かない。
放送で名前が呼ばれなかったからといって、絶対的な安全が保障されるとは限らないのだから。
だが戦兎の言う通り、すぐに動けるほど体力的に余裕はない。
このような状態で一緒に来てくれと言うのは流石に抵抗がある。
自分一人で探しに行くにしても疲弊したまま向かった所で、もし向こうで戦闘が起きたら却って足手纏いになるだけ。
何より勝手な単独行動を取った末にしのぶを殺した件を考えると、神楽と言えどもここは大人しく皆と共にいるべきと自制心が働き出すのだ。
不安は尽きないが康一とゲンガーを信じて休む事にする。
彼だけでなくゲンガーも心配だ。
同行者二人だけでなくカイジまで死に、今どんな状態になってるのか見当も付かない。
放送で名前が呼ばれなかったからといって、絶対的な安全が保障されるとは限らないのだから。
だが戦兎の言う通り、すぐに動けるほど体力的に余裕はない。
このような状態で一緒に来てくれと言うのは流石に抵抗がある。
自分一人で探しに行くにしても疲弊したまま向かった所で、もし向こうで戦闘が起きたら却って足手纏いになるだけ。
何より勝手な単独行動を取った末にしのぶを殺した件を考えると、神楽と言えどもここは大人しく皆と共にいるべきと自制心が働き出すのだ。
不安は尽きないが康一とゲンガーを信じて休む事にする。
「それなら全員手当てした方が良いだろ。場所が場所だ、道具にゃ困らねぇ」
杉元も皆と同じく休憩に異論はない。
アシリパと共に極寒の北海道を駆け抜けた男だ。
要所要所での体力回復の重要性はこの中で一番に理解している。
休むと決めたら休む、但しその間にもやれる事は全て手を付け次の戦いに備えるのが吉。
何せDIOを始めとして障害は多い、この先も激戦が予想される以上事前の準備に手は抜けない。
まずは最初にやるべきは傷の手当て。
杉元自身は妹紅の体の恩恵で放って置いても治るが他の者は違う。
アシリパと共に極寒の北海道を駆け抜けた男だ。
要所要所での体力回復の重要性はこの中で一番に理解している。
休むと決めたら休む、但しその間にもやれる事は全て手を付け次の戦いに備えるのが吉。
何せDIOを始めとして障害は多い、この先も激戦が予想される以上事前の準備に手は抜けない。
まずは最初にやるべきは傷の手当て。
杉元自身は妹紅の体の恩恵で放って置いても治るが他の者は違う。
「悪いな杉元。手間かけさせちまって…」
傷の処置に最も長けている相手に任せるのは間違っていない。
されど杉元一人に負担が圧し掛かるのには申し訳なさを抱く。
当の杉元は気にした風も無くからからと笑って、「謝んなよ」と返し包帯や消毒液を取りに行こうと背を向け、
されど杉元一人に負担が圧し掛かるのには申し訳なさを抱く。
当の杉元は気にした風も無くからからと笑って、「謝んなよ」と返し包帯や消毒液を取りに行こうと背を向け、
(いや、わざわざ探しに行かなくてもいいか?)
思い直しデイパックを見やる。
確か悲鳴嶼としのぶは一回目の放送が始まる少し前まで病院にいた。
ならその間、治療に必要な道具を入手しそれぞれのデイパックに入れた可能性は高い。
実際、最初に戦兎の手当てをした際、幾つかの道具が持ち出された形跡があった。
それが悲鳴嶼達の手によるものだとしたら、回収したデイパックに残されているのではないか。
一々取りに行かなくてもデイパックから出した方が手っ取り早い。
悲鳴嶼のデイパックを降ろして、特に躊躇もせず中を開く。
確か悲鳴嶼としのぶは一回目の放送が始まる少し前まで病院にいた。
ならその間、治療に必要な道具を入手しそれぞれのデイパックに入れた可能性は高い。
実際、最初に戦兎の手当てをした際、幾つかの道具が持ち出された形跡があった。
それが悲鳴嶼達の手によるものだとしたら、回収したデイパックに残されているのではないか。
一々取りに行かなくてもデイパックから出した方が手っ取り早い。
悲鳴嶼のデイパックを降ろして、特に躊躇もせず中を開く。
そこに予期せぬものが入っているとも知らずに。
「……」
デイパックの中からこちらを覗くソレを前に、杉元は表情を消す。
いや、厳密には覗くという表現は間違いだ。
何故なら彼女の瞳は閉じられ、杉元の姿を映しはしないのだから。
こういう状態になったモノを見るのは初めてではない。
むしろ感覚が麻痺する程に見過ぎているくらいだ。
大きな動揺はない、されど疑問は生まれる。
いや、厳密には覗くという表現は間違いだ。
何故なら彼女の瞳は閉じられ、杉元の姿を映しはしないのだから。
こういう状態になったモノを見るのは初めてではない。
むしろ感覚が麻痺する程に見過ぎているくらいだ。
大きな動揺はない、されど疑問は生まれる。
何故、悲鳴嶼のデイパックに少女の死体が入っているのか。
街に行く前の情報交換で悲鳴嶼が語った内容に、少女の死体を確保したとは一言も無かった。
首輪が装着されたままなら、脹相が首輪を回収した相手とも違う。
実は死体に性的興奮を抱く性癖の持ち主で、不審がられない為に隠していた?
その可能性も無くは無いが、悲鳴嶼は仲間思いで生真面目な人間という印象が強い。
刺青囚人達のようなアクの強さとは無縁な気がする。
首輪が装着されたままなら、脹相が首輪を回収した相手とも違う。
実は死体に性的興奮を抱く性癖の持ち主で、不審がられない為に隠していた?
その可能性も無くは無いが、悲鳴嶼は仲間思いで生真面目な人間という印象が強い。
刺青囚人達のようなアクの強さとは無縁な気がする。
では何故死体を回収したのか、そもそもいつ死体を仕舞ったのか。
脹相と会った時でないなら考えられるタイミングは一つのみ。
恐らく、少女の正体と何が起きたかを悲鳴嶼以外に知っている人物も一人しかいない。
脹相と会った時でないなら考えられるタイミングは一つのみ。
恐らく、少女の正体と何が起きたかを悲鳴嶼以外に知っている人物も一人しかいない。
「杉元?」
「悪い桐生、今は俺に話させてくれ。…神楽」
「な、なにアルかいきなり…」
「悪い桐生、今は俺に話させてくれ。…神楽」
「な、なにアルかいきなり…」
デイパックの中を覗いたと思えば明らかに雰囲気が一変。
困惑する戦兎には悪いが彼への説明は後に回させてもらう、先に用があるのは別の仲間だ。
急に名前を呼ばれた彼女も困惑を隠せない様子。
疑問の浮かぶ表情は次に放たれた言葉で凍り付く事になる。
困惑する戦兎には悪いが彼への説明は後に回させてもらう、先に用があるのは別の仲間だ。
急に名前を呼ばれた彼女も困惑を隠せない様子。
疑問の浮かぶ表情は次に放たれた言葉で凍り付く事になる。
「青い帽子を被って、髪の毛の先がこう…巻いてる女の子と会ったか?」
「え……」
「え……」
心臓がいやに大きく跳ねた。
一瞬呼吸が止まり、ひゅっという音が耳に残る。
杉元から告げられた特徴、それとぴったり一致する人物を神楽は知っている。
知らない筈が無いのだ。
一瞬呼吸が止まり、ひゅっという音が耳に残る。
杉元から告げられた特徴、それとぴったり一致する人物を神楽は知っている。
知らない筈が無いのだ。
横では甜花も神楽と同じような顔。
腕に抱いた善逸が首を傾げるのにも気付かず、サァッと青ざめた。
腕に抱いた善逸が首を傾げるのにも気付かず、サァッと青ざめた。
甜花はともかく神楽の反応は予想通り。
どうして知ってるんだとか聞かれる前に答えを見せる。
ロビーの椅子に横たわる少女。
純白を通り越し死人の如き青白い肌は、彼女から魂が抜け落ちた証拠。
瞼と口は閉じられたまま、未来永劫開かれはしない。
それでも少女が浮かべる表情に苦痛の色は見当たらない。
心の底からの安堵を顔に出した理由を知るのは少女と、少女に生かされ、今はもう同じ場所へと旅立った男だけ。
どうして知ってるんだとか聞かれる前に答えを見せる。
ロビーの椅子に横たわる少女。
純白を通り越し死人の如き青白い肌は、彼女から魂が抜け落ちた証拠。
瞼と口は閉じられたまま、未来永劫開かれはしない。
それでも少女が浮かべる表情に苦痛の色は見当たらない。
心の底からの安堵を顔に出した理由を知るのは少女と、少女に生かされ、今はもう同じ場所へと旅立った男だけ。
「この子は……」
「悲鳴嶼の鞄に入ってた」
「悲鳴嶼の鞄に入ってた」
短く告げられた杉元の言葉はより混乱を齎し、しかし戦兎の頭脳は即座に正体へ行き着く。
悲鳴嶼が心配していた行方知れずの仲間。
PK学園で合流した時の悲鳴嶼と神楽の妙な態度。
自分達と別れて再び会うまでに何かが起きた。
答えは自ずと導き出される。
悲鳴嶼が心配していた行方知れずの仲間。
PK学園で合流した時の悲鳴嶼と神楽の妙な態度。
自分達と別れて再び会うまでに何かが起きた。
答えは自ずと導き出される。
「もしかして、胡蝶しのぶなのか…?」
「ピカ……?(え……?)」
「ピカ……?(え……?)」
戦兎が何を言ったのか、善逸にはすぐに理解できない。
だって今口にしたのは探している仲間の名前で。
手遅れになってる可能性もあったけど、どうにかDIOの所から逃げれた筈の人で。
なのに戦兎は、死んでいる女の子を見て彼女の名前を出した。
それじゃあつまり、結局彼女は助からなかったんじゃあないか。
自分はまたしても遅すぎたってことじゃあないか。
だって今口にしたのは探している仲間の名前で。
手遅れになってる可能性もあったけど、どうにかDIOの所から逃げれた筈の人で。
なのに戦兎は、死んでいる女の子を見て彼女の名前を出した。
それじゃあつまり、結局彼女は助からなかったんじゃあないか。
自分はまたしても遅すぎたってことじゃあないか。
「ピカ……ピカチュウ……(なんだよそれ……何でだよ……)」
煉獄が死んだ。
悲鳴嶼が死んだ。
しのぶも、善逸と再会する事無く死んでしまった。
彼らは元々死人、鬼との戦いで既にこの世を去った筈の亡霊。
だから帰るべき場所へ帰っただけと、そんな薄情に割り切れない。
悲鳴嶼が死んだ。
しのぶも、善逸と再会する事無く死んでしまった。
彼らは元々死人、鬼との戦いで既にこの世を去った筈の亡霊。
だから帰るべき場所へ帰っただけと、そんな薄情に割り切れない。
ただ悔しかった。
もし自分が別の行動を取れていたら、もっとちゃんとやれていたら。
彼らがこの地で命を落とさず、元いた所へ帰れたかもしれない。
彼らの帰還を皆が喜んでくれる、そんなもしもの光景は二度と現実にならない。
それが悔しくて、悲しくて、双眸から絶えず雫が伝い落ちていく。
大声は出さない、しのぶの傍へ寄り添い小さな体を震わせる背中に、誰もかける言葉が見つからなかった。
もし自分が別の行動を取れていたら、もっとちゃんとやれていたら。
彼らがこの地で命を落とさず、元いた所へ帰れたかもしれない。
彼らの帰還を皆が喜んでくれる、そんなもしもの光景は二度と現実にならない。
それが悔しくて、悲しくて、双眸から絶えず雫が伝い落ちていく。
大声は出さない、しのぶの傍へ寄り添い小さな体を震わせる背中に、誰もかける言葉が見つからなかった。
「……神楽」
名前を呼ばれ顔を向ける。
自分を見つめる戦兎の目に、責める意思は宿っていない。
ああしかし、何を言いたいかは分かった。
自分を見つめる戦兎の目に、責める意思は宿っていない。
ああしかし、何を言いたいかは分かった。
「分かってるネ…。全部、話すアル」
いずれ自分の口から伝えねばならない、罪の告白。
今がその時なのだろう。
今がその時なのだろう。