○
神楽の話が終わり、病院内には数度目となる沈黙が訪れた。
定時放送の直後、一人離れた神楽と追いかけた悲鳴嶼。
終ぞ善逸と再び会えなかったしのぶとの間に何が起きたのか。
全容を知った一同は、何を発すべきか即座には浮かばない。
定時放送の直後、一人離れた神楽と追いかけた悲鳴嶼。
終ぞ善逸と再び会えなかったしのぶとの間に何が起きたのか。
全容を知った一同は、何を発すべきか即座には浮かばない。
数分か、或いは数十秒か。
ゆっくりと、しかしハッキリ聞こえるように問い掛けるのは戦兎だ。
彼の言葉を皮切りに沈黙は再び去って行く。
ゆっくりと、しかしハッキリ聞こえるように問い掛けるのは戦兎だ。
彼の言葉を皮切りに沈黙は再び去って行く。
「悲鳴嶼は、何て言ってたんだ?」
「…私に謝ってたネ。自分がもっとちゃんとしてればって。……んなわけねーダロ。私が、馬鹿やったせいヨ…」
「…私に謝ってたネ。自分がもっとちゃんとしてればって。……んなわけねーダロ。私が、馬鹿やったせいヨ…」
最も怒り狂い、復讐に走っても不思議の無い男は神楽を許した。
そればかりか悪いのは自分の方だと言って頭まで下げたのである。
確かに状況を聞けば、悪意があってしのぶを殺したのではない。
新八を含めて四人の仲間の死を一辺に知らされ、それでも冷静さを保てと言うのは流石に酷というもの。
けれど、神楽がしのぶを手に掛けたのは紛れも無い事実。
そう簡単に自分を許せはせず、だから償いとして悲鳴嶼が生きて帰れるように尽力するつもりだった。
結果は先の戦いの通り、すぐ傍にいながらDIOに殺されるのを防げなかったが。
そればかりか悪いのは自分の方だと言って頭まで下げたのである。
確かに状況を聞けば、悪意があってしのぶを殺したのではない。
新八を含めて四人の仲間の死を一辺に知らされ、それでも冷静さを保てと言うのは流石に酷というもの。
けれど、神楽がしのぶを手に掛けたのは紛れも無い事実。
そう簡単に自分を許せはせず、だから償いとして悲鳴嶼が生きて帰れるように尽力するつもりだった。
結果は先の戦いの通り、すぐ傍にいながらDIOに殺されるのを防げなかったが。
「あ、あの…!神楽、さんは、悪くないよ……」
乾いた声で己を責める神楽に、異を唱える者。
先程からずっと顔色の悪い甜花に視線が集まる。
注目されているのに思わずビクリと震えるも、意を決したように口を開いた。
先程からずっと顔色の悪い甜花に視線が集まる。
注目されているのに思わずビクリと震えるも、意を決したように口を開いた。
「悪いのは……甜花、だよ……」
「は…?何言ってるネ?お前はあの時いなかったアル」
「ち、違う、の…!甜花、本当はしのぶさんと…会った事があるから……」
「は…?何言ってるネ?お前はあの時いなかったアル」
「ち、違う、の…!甜花、本当はしのぶさんと…会った事があるから……」
どういうことだと目で訴えられ、甜花はたどたどしく説明する。
まだDIOの洗脳下にあった時、PK学園を訪れた参加者がいた。
しのぶとデビハム、二人との間にいざこざがあり戦闘に発展したのはハッキリ覚えている。
姉畑の乱入で二人が逃げた後も学園での一騒動後、再びしのぶ達と遭遇。
デビハムは自分達の目の前で壮絶な最期を遂げ、しのぶは姉畑に連れられ姿を消した。
きっとそれから間もなく、神楽が語った通りの出来事が起きてしまったのだろう。
しのぶとデビハム、二人との間にいざこざがあり戦闘に発展したのはハッキリ覚えている。
姉畑の乱入で二人が逃げた後も学園での一騒動後、再びしのぶ達と遭遇。
デビハムは自分達の目の前で壮絶な最期を遂げ、しのぶは姉畑に連れられ姿を消した。
きっとそれから間もなく、神楽が語った通りの出来事が起きてしまったのだろう。
「甜花が襲ったりしなかったら、しのぶさんはちゃんと病院に戻ってたはずで……。で、でも…甜花のせいで、そうならなくて……。だか、ら、しのぶさんが、し、死んじゃったのは…甜花の……せい……」
「…馬鹿も休み休み言えアル。お前は全然悪くないダロ」
「え……」
「…馬鹿も休み休み言えアル。お前は全然悪くないダロ」
「え……」
罪悪感で泣きそうになる甜花に返って来たのは、呆れを大いに含んだ否定。
ポカンとして顔を上げると、何を言ってるんだと言いたげな目の神楽が自分を見ている。
ポカンとして顔を上げると、何を言ってるんだと言いたげな目の神楽が自分を見ている。
「悪いのはお前じゃ無くて、あのDIOだかイボだか言う野郎じゃねーカ。女をコマしてやりたい放題なんざ少年ジャンプ追放ヨ、ヤンマガにでも行ってるがヨロシ」
「え?えっと……で、でも……」
「でもも何も無いアル。どう考えたってお前を洗脳してたイボのが悪いネ」
「え?えっと……で、でも……」
「でもも何も無いアル。どう考えたってお前を洗脳してたイボのが悪いネ」
尚も自分を責め兼ねない甜花にピシャリと言い放つ。
甜花がしのぶと既に会っていたのは驚きだが、その件で責めるつもりは神楽に全く無い。
粗方の事情は察していたがやはり悪いのはDIOではないか。
しのぶが死んだのだって実際に手を掛けたのは自分であり、甜花の罪を問うのはおかしいだろう。
甜花がしのぶと既に会っていたのは驚きだが、その件で責めるつもりは神楽に全く無い。
粗方の事情は察していたがやはり悪いのはDIOではないか。
しのぶが死んだのだって実際に手を掛けたのは自分であり、甜花の罪を問うのはおかしいだろう。
「ピ、ピカ!(あ、あの!)」
また一人、声を張り上げ会話に入り込む者が現れた。
涙の痕が残る顔で、善逸は自身の思いを皆に告げる。
涙の痕が残る顔で、善逸は自身の思いを皆に告げる。
「ピカ…ピカチュウ!ピカピ!(俺も、二人は悪くないと思う。しのぶさんの事は悲しいし悔しいけど、でも、二人を責めるのは何か違うっていうか…。うまく言えないけど、あんまり気に病まないで欲しい!)」
善逸もまた、事情を知って神楽を責める気にはなれなかった。
悪意を持ってしのぶを殺したのなら怒りを見せただろうけれど、現実にはまるで違う。
しのぶ殺害を強く後悔し今も自分を責める彼女をこの目で見ては、怒れる筈が無い。
甜花にしたってそうだ。
悪いのは彼女を洗脳したDIO、もっと言えば殺し合いを始めたボンドルド達だろうに。
悪意を持ってしのぶを殺したのなら怒りを見せただろうけれど、現実にはまるで違う。
しのぶ殺害を強く後悔し今も自分を責める彼女をこの目で見ては、怒れる筈が無い。
甜花にしたってそうだ。
悪いのは彼女を洗脳したDIO、もっと言えば殺し合いを始めたボンドルド達だろうに。
人語を話せないのがもどかしい。
しかし善逸の必死な身振り手振りで何を伝えたいかは察してもらえたらしい。
しかし善逸の必死な身振り手振りで何を伝えたいかは察してもらえたらしい。
「……うん。あの、ありがとう……」
「…でも私は……」
「…でも私は……」
神楽はまだ納得した様子が無い。
そんな彼女へ、黙って様子を見ていた戦兎が話しかける。
そんな彼女へ、黙って様子を見ていた戦兎が話しかける。
「やっぱり、すぐには自分を許せないか?」
「当たり前ヨ。そんなん簡単に納得できる訳無いアル…」
「そうか……。まぁ、気持ちは分かる」
「気休めなんて――」
「当たり前ヨ。そんなん簡単に納得できる訳無いアル…」
「そうか……。まぁ、気持ちは分かる」
「気休めなんて――」
いらない、言葉は急に途切れ最後まで続かない。
自分を見る戦兎の顔が真剣そのものだったから。
自分を見る戦兎の顔が真剣そのものだったから。
「…俺も、前に人を殺したことがあるんだ」
「えっ……」
「えっ……」
衝撃の告白だった。
神楽も、甜花も、善逸も目を見開き戦兎を見る。
ただ一人、杉元だけは意外そうにしながらも余計な口は挟まず黙って続きを促す。
皆の視線を集めながら戦兎は静かに語り出す、過去に犯した大きな過ちを。
神楽も、甜花も、善逸も目を見開き戦兎を見る。
ただ一人、杉元だけは意外そうにしながらも余計な口は挟まず黙って続きを促す。
皆の視線を集めながら戦兎は静かに語り出す、過去に犯した大きな過ちを。
それはまだ三都がパンドラボックスを巡り戦争をしていた頃。
今でこそ頼れる仲間だが、当時は北都の仮面ライダーとして戦兎達とは敵対関係にあった猿渡一海、それに彼の舎弟である北都三羽ガラスとの戦い。
終わりの見えない戦争を一刻も早く終わらせるべく、スクラッシュドライバーを手にした万丈が北都へ侵攻しようとした時だ。
防衛ならまだしも侵略には猛反対の戦兎は万丈を止める為に、彼と一海達との戦闘に乱入。
しかし当時のビルドではスクラッシュドライバーの変身者達や、スマッシュの強化態であるハザードスマッシュには歯が立たずに苦戦。
焦る戦兎は禁断のアイテム、ハザードトリガーに手を出してしまう。
今でこそ頼れる仲間だが、当時は北都の仮面ライダーとして戦兎達とは敵対関係にあった猿渡一海、それに彼の舎弟である北都三羽ガラスとの戦い。
終わりの見えない戦争を一刻も早く終わらせるべく、スクラッシュドライバーを手にした万丈が北都へ侵攻しようとした時だ。
防衛ならまだしも侵略には猛反対の戦兎は万丈を止める為に、彼と一海達との戦闘に乱入。
しかし当時のビルドではスクラッシュドライバーの変身者達や、スマッシュの強化態であるハザードスマッシュには歯が立たずに苦戦。
焦る戦兎は禁断のアイテム、ハザードトリガーに手を出してしまう。
それがどんな結果を齎すかも知らずに。
ハザードトリガーとは万能強化剤により使用者の戦闘力を爆発的に高める、ビルドの拡張システム。
使用すればハザードレベルを大幅に上昇させる反面、大きなリスクも存在する。
戦闘が長引けば脳が強化剤の刺激に耐え切れず理性を失う。
そうなれば最早変身者の意思は関係無い、敵味方の区別なく目に映る全てを破壊する殺戮マシーンと化すのだ。
使用すればハザードレベルを大幅に上昇させる反面、大きなリスクも存在する。
戦闘が長引けば脳が強化剤の刺激に耐え切れず理性を失う。
そうなれば最早変身者の意思は関係無い、敵味方の区別なく目に映る全てを破壊する殺戮マシーンと化すのだ。
ビルドとして戦い慣れていた戦兎とて、ハザードトリガーのデメリットからは逃れられない。
暴走状態となったビルドは万丈を叩きのめし変身解除に追い込んだ。
悲劇はここからだ、尚も暴走の止まらないビルドの次の標的は北都三羽ガラス。
内の一人、青羽へと必殺の蹴りを叩き込み、直後どうにか万丈が制止に入った事でようやく暴走は治まった。
暴走状態となったビルドは万丈を叩きのめし変身解除に追い込んだ。
悲劇はここからだ、尚も暴走の止まらないビルドの次の標的は北都三羽ガラス。
内の一人、青羽へと必殺の蹴りを叩き込み、直後どうにか万丈が制止に入った事でようやく暴走は治まった。
既に手遅れだったが。
「あの時は戦えないどころか飯もロクに食えなくてさ…。色んな人に迷惑かけちまった」
「……それから、どうなったアルか?」
「……それから、どうなったアルか?」
青羽を殺した精神的なショックは余りにも強く、戦兎はビルドとしての戦いを放棄。
万丈が一人で戦いに行くのを見ても、再起の兆しは微塵も存在せず。
更には罪悪感で青羽の幻を見て取り乱す程に追い詰められていた。
だが殺し合いでの戦兎からはそういった様子は見られない。
打倒主催者を強く決意し、DIO達にも果敢と戦いを挑む、正義のヒーローを体現した姿。
一体どうやって立ち直れたのか。
万丈が一人で戦いに行くのを見ても、再起の兆しは微塵も存在せず。
更には罪悪感で青羽の幻を見て取り乱す程に追い詰められていた。
だが殺し合いでの戦兎からはそういった様子は見られない。
打倒主催者を強く決意し、DIO達にも果敢と戦いを挑む、正義のヒーローを体現した姿。
一体どうやって立ち直れたのか。
「死にたいぐらい痛くて、苦しくても、戦うしかなかったんだ…」
記憶を奪われ、創られた偽りのヒーローだったとしても。
守るものがあるから、信じた正義の為に戦う。
自分達を欺き裏切った男に言った言葉を、その男からそっくりそのまま返されたのだ。
どれだけ逃げたくても、自分の信じた正義だけは裏切れず戦兎は再びビルドドライバーに手を伸ばした。
守るものがあるから、信じた正義の為に戦う。
自分達を欺き裏切った男に言った言葉を、その男からそっくりそのまま返されたのだ。
どれだけ逃げたくても、自分の信じた正義だけは裏切れず戦兎は再びビルドドライバーに手を伸ばした。
何より戦兎は一人では無い。
戦兎を消滅させてハザードフォームの暴走を止めるよう懇願されても、断固として拒否した美空。
再び暴走した戦兎を、スクラッシュドライバーを使いこなし決死の思いで止めた万丈。
仲間の存在が、まだ残っているものがあるから戦兎は仮面ライダービルドである事をやめなかった。
新世界を創り青羽を含めた多くの人の死が無かったことになった今でも、犯した罪を忘れた日は一度も無い。
戦兎を消滅させてハザードフォームの暴走を止めるよう懇願されても、断固として拒否した美空。
再び暴走した戦兎を、スクラッシュドライバーを使いこなし決死の思いで止めた万丈。
仲間の存在が、まだ残っているものがあるから戦兎は仮面ライダービルドである事をやめなかった。
新世界を創り青羽を含めた多くの人の死が無かったことになった今でも、犯した罪を忘れた日は一度も無い。
「神楽、胡蝶の事を吹っ切るのは相当難しいと思う。けど自分にまだ残ってるものがあるんだったら、それを投げ出して後悔する羽目にはならないで欲しい。…俺も何かが違えば、そうなってたかもしれないからさ」
尤も再起の切っ掛けを作ったのがそもそもの元凶である男なのには、今でも苦い思いが抑えられない。
「……」
自分にまだ残っているもの。
銀時と新八が死んで、カイジ達が死んで、悲鳴嶼が死んで銀時の肉体も失われた。
取り零し続ける自分にまだ残っているもの、戦う理由はあるのか。
銀時と新八が死んで、カイジ達が死んで、悲鳴嶼が死んで銀時の肉体も失われた。
取り零し続ける自分にまだ残っているもの、戦う理由はあるのか。
そんなの、沢山あるじゃあないか。
この地で出会った仲間、広瀬康一とゲンガーはまだ生きている。
殺し合いの打破を共に志した彼らを存在を無視し、自暴自棄になどどうしてなれようか。
自分の体だってそうだ。
オレンジ髪の航海士を本人の元に戻さなければ、ロビンに一生顔向けできない。
死んでしまった彼女へしてやれる事は残されていなくても、彼女の仲間を助けるチャンスはまだ失われていない。
この地で出会った仲間、広瀬康一とゲンガーはまだ生きている。
殺し合いの打破を共に志した彼らを存在を無視し、自暴自棄になどどうしてなれようか。
自分の体だってそうだ。
オレンジ髪の航海士を本人の元に戻さなければ、ロビンに一生顔向けできない。
死んでしまった彼女へしてやれる事は残されていなくても、彼女の仲間を助けるチャンスはまだ失われていない。
何よりも、自分が帰らなければ誰が銀時達の死を伝えられると言うのか。
万事屋銀ちゃんに一匹残された定春はどうなる?
もう二度と帰って来ないのに、いつかひょっこり戻って来ると有り得ない希望を妙に持たせるのか?
銀時の盟友であるロン毛は事情を察するかもしれないけど、それでも死んだとはっきり伝えるべきでは?
万事屋銀ちゃんに一匹残された定春はどうなる?
もう二度と帰って来ないのに、いつかひょっこり戻って来ると有り得ない希望を妙に持たせるのか?
銀時の盟友であるロン毛は事情を察するかもしれないけど、それでも死んだとはっきり伝えるべきでは?
『こんな僕らの力でも必要としてくれている人がいる』
『僕らにも守れるものが今ある』
『いつだって、何かを守るために僕らは強くなってきた』
『きっと僕らは、また一つ強くなれる』
『僕らにも守れるものが今ある』
『いつだって、何かを守るために僕らは強くなってきた』
『きっと僕らは、また一つ強くなれる』
思い出すのは嘗て新八が言ってくれた言葉。
最初の放送の後で冷静さを失った自分を落ち着かせてくれた、忘れられない大切な記憶。
ああそうだ、戦兎の言う通りじゃないか。
自分は確かに多くを失った、だけどまだゼロではない。
罪悪感と喪失感は容赦なく心を痛め付け、今だって痛くて泣きそうだ。
だけどまだ残っているものがある、守りたいと思える人がいる。
戦う為の、拳を振るう理由が自分にはある。
最初の放送の後で冷静さを失った自分を落ち着かせてくれた、忘れられない大切な記憶。
ああそうだ、戦兎の言う通りじゃないか。
自分は確かに多くを失った、だけどまだゼロではない。
罪悪感と喪失感は容赦なく心を痛め付け、今だって痛くて泣きそうだ。
だけどまだ残っているものがある、守りたいと思える人がいる。
戦う為の、拳を振るう理由が自分にはある。
「そうアルな……私はまた忘れてたみたいネ……」
つくづく情けない己に苦笑いが浮かぶも、そこに自暴自棄の色は無い。
完全に吹っ切れたかと言えばそんな訳はなく、きっとこの先も蝕まれる痛みと付き合わねばならないのだろう。
だがそれは戦いを止める理由にはならない、止めるつもりもない。
完全に吹っ切れたかと言えばそんな訳はなく、きっとこの先も蝕まれる痛みと付き合わねばならないのだろう。
だがそれは戦いを止める理由にはならない、止めるつもりもない。
「ごめん、もう大丈夫アル」
明るい、とまではいかないが幾分光を取り戻した瞳。
神楽の様子に場の空気も和らぐ。
神楽の様子に場の空気も和らぐ。
「あー…ちょっといいか?」
少々遠慮がちにその空気へ割って入る声。
バツが悪そうに頭を掻きながらも、重要な話なのか瞳は真剣味を帯びている。
後回しにするよりは今の内に言うべきと判断したのか、杉元が話し始めた。
バツが悪そうに頭を掻きながらも、重要な話なのか瞳は真剣味を帯びている。
後回しにするよりは今の内に言うべきと判断したのか、杉元が話し始めた。
「水を差すようで悪いけどよ、早目にはっきりさせときてぇ。…胡蝶はどうするつもりだ?」
「どうするって……そりゃここに置きっぱなしには…」
「どうするって……そりゃここに置きっぱなしには…」
そうじゃねぇと戦兎に返し、自分の首を指でトントンと叩く。
杉元が何を言いたいのかが瞬時に分かり、思わず顔が強張った。
杉元が何を言いたいのかが瞬時に分かり、思わず顔が強張った。
「おい杉元、それは…」
反論の言葉が口を突いて出るも、現実的な思考が待ったを掛けた。
首輪なら脹相が既に入手しており、合流時に譲って貰えば良い。
しかし首輪を多く手に入れるのは決して悪い考えとは言えない。
首輪の解除には首輪のサンプルを解析し、どういった構造になっているかを知る必要がある。
当然、サンプルとなる首輪は多い方がより成功の確率を高められるだろう。
もし一つ目の解析に失敗しても、もう一つあれば問題無い。
仮に首輪一つで解析に成功した場合であっても使い道は残されている。
モノモノマシーン、首輪の投入と引き換えに何らかの道具を提供する主催者が設置した機械。
殺し合い促進の為に置かれた装置を使うのは余り気分が良いものではない。
だがDIOやエボルトが健在であり、未だ全容の分からない主催者との戦いも控えている状況だ。
戦闘の助けとなる武器や道具を入手する機会を、一時の感情のみで捨て去れば後々困るのは自分達の方ではないのか。
首輪なら脹相が既に入手しており、合流時に譲って貰えば良い。
しかし首輪を多く手に入れるのは決して悪い考えとは言えない。
首輪の解除には首輪のサンプルを解析し、どういった構造になっているかを知る必要がある。
当然、サンプルとなる首輪は多い方がより成功の確率を高められるだろう。
もし一つ目の解析に失敗しても、もう一つあれば問題無い。
仮に首輪一つで解析に成功した場合であっても使い道は残されている。
モノモノマシーン、首輪の投入と引き換えに何らかの道具を提供する主催者が設置した機械。
殺し合い促進の為に置かれた装置を使うのは余り気分が良いものではない。
だがDIOやエボルトが健在であり、未だ全容の分からない主催者との戦いも控えている状況だ。
戦闘の助けとなる武器や道具を入手する機会を、一時の感情のみで捨て去れば後々困るのは自分達の方ではないのか。
新たな首輪を手に入れるメリットは大きい。
但ししのぶの首を斬り落とすという、避けては通れない作業を行う大前提の上でだが。
但ししのぶの首を斬り落とすという、避けては通れない作業を行う大前提の上でだが。
「ピカピ……」
善逸が小さな体を震わせ、動揺を露わにするのは無理もない。
幾ら首輪が必要だとはいえ、仲間の死体を更に傷付ける真似をするのだから。
正確にはしのぶ本人の体ではないものの、どうやったって抵抗は大きい。
幾ら首輪が必要だとはいえ、仲間の死体を更に傷付ける真似をするのだから。
正確にはしのぶ本人の体ではないものの、どうやったって抵抗は大きい。
善逸の様子に戦兎の中では、しのぶの首輪は手に入れるべきではない方へ傾く。
彼女の仲間の前でこんな話をするだけでも酷だろうに。
やはりしのぶの首輪は必要ない、既に脹相が手に入れたものだけで十分。
杉元にそう返そうとし、
彼女の仲間の前でこんな話をするだけでも酷だろうに。
やはりしのぶの首輪は必要ない、既に脹相が手に入れたものだけで十分。
杉元にそう返そうとし、
「ピカ…ピカチュウ(分かった……)」
重々しく、されど肯定するように善逸が頷いた。
「良いのか…?首輪を手に入れるには胡蝶の……」
「ピカピー、ピッピカチュウ。ピカ…(正直滅茶苦茶嫌だけど、でも必要な事だって俺も分かるし…。それに多分、しのぶさん本人もそれで良いって言うと思うから…)」
「ピカピー、ピッピカチュウ。ピカ…(正直滅茶苦茶嫌だけど、でも必要な事だって俺も分かるし…。それに多分、しのぶさん本人もそれで良いって言うと思うから…)」
鬼との戦いとは、無惨との戦いとは犠牲無しで終わらせられる優しいものでは決してなかった。
煉獄が上弦の参に殺されたように。
無惨との決戦で柱を含めた多くの隊士が命を落としたように。
彼らの死を悲しむのは誰も否定しない、しかし死者に足を取られるのは良しとされない。
折れた刀を手放し、遺された刃を拾い上げ突き立てるのを死者は憤慨するだろうか。
否、逝ってしまった自分達でも役立てれるならと喜びを見せるだろう。
しのぶもきっと同じだ。
生きる仲間の為に首輪が必要と知れば、仮の体となった少女へ申し訳ないとは思うだろうけれど。
感傷で拒否するより、生きている者達の為に首輪を手に入れる選択を望むはず。
煉獄が上弦の参に殺されたように。
無惨との決戦で柱を含めた多くの隊士が命を落としたように。
彼らの死を悲しむのは誰も否定しない、しかし死者に足を取られるのは良しとされない。
折れた刀を手放し、遺された刃を拾い上げ突き立てるのを死者は憤慨するだろうか。
否、逝ってしまった自分達でも役立てれるならと喜びを見せるだろう。
しのぶもきっと同じだ。
生きる仲間の為に首輪が必要と知れば、仮の体となった少女へ申し訳ないとは思うだろうけれど。
感傷で拒否するより、生きている者達の為に首輪を手に入れる選択を望むはず。
「ピカァ…ピカ……(俺に気とかは遣わなくて大丈夫…だから……)」
何と言っているのかは分からないが、伝えたい事は分かった。
最もしのぶの首を斬るのを拒否するだろう少年がそう言うのであれば、神楽も甜花も口出しできない。
戦兎もまた暫しの沈黙を挟み、ややあって承諾する。
最もしのぶの首を斬るのを拒否するだろう少年がそう言うのであれば、神楽も甜花も口出しできない。
戦兎もまた暫しの沈黙を挟み、ややあって承諾する。
「……分かった。じゃあ少し、席を外して来る」
しのぶの死体を抱き上げ、善逸達に背を向ける。
流石に皆の見ている前で首を斬る訳にはいかない。
どこか別の部屋で首輪を手に入れる、そしてその役目は誰に言われるまでも無く戦兎が引き受けた。
流石に皆の見ている前で首を斬る訳にはいかない。
どこか別の部屋で首輪を手に入れる、そしてその役目は誰に言われるまでも無く戦兎が引き受けた。
死体の破壊に抵抗が微塵も無いと言えば嘘になる。
しかし首輪のサンプルを手に入れねばならない以上、遅かれ早かれこうなると分かっていた。
決して進んでやりたいものではない、だが他の者に押し付けるつもりも無い。
やけに重く感じる足を一歩一歩進める背が、廊下の奥へと消えて行き、
しかし首輪のサンプルを手に入れねばならない以上、遅かれ早かれこうなると分かっていた。
決して進んでやりたいものではない、だが他の者に押し付けるつもりも無い。
やけに重く感じる足を一歩一歩進める背が、廊下の奥へと消えて行き、
「いや、それは俺がやる」
いつの間にか横に並んだ少女が、戦兎の歩みを止めた。
「杉元…?」
「最初に首輪の話を持ち出したのは俺だ。なら俺がやるのが筋ってもんだろ。それにまぁ、俺のが慣れてるしな」
「最初に首輪の話を持ち出したのは俺だ。なら俺がやるのが筋ってもんだろ。それにまぁ、俺のが慣れてるしな」
何でもない風に言う杉元に一瞬言葉が詰まる。
杉元が明治時代の元軍人だとは聞いた。
PK学園での戦闘でDIOを撃ち殺した事から、殺しに躊躇を抱かない男だとも察しは付く。
戦兎の世界で起こったパンドラボックスが絡んだ戦争とは違う、超常の存在が介入しない教科書に載っている戦争を経験した男だ。
だから「慣れている」との言葉にも納得はいく。
杉元が明治時代の元軍人だとは聞いた。
PK学園での戦闘でDIOを撃ち殺した事から、殺しに躊躇を抱かない男だとも察しは付く。
戦兎の世界で起こったパンドラボックスが絡んだ戦争とは違う、超常の存在が介入しない教科書に載っている戦争を経験した男だ。
だから「慣れている」との言葉にも納得はいく。
だからといって、じゃあやってくれと気軽には任せられない。
手を汚す役目だけを押し付け自分は首輪だけを手に入れるというのは、流石にどうなのか。
自分がやるから大丈夫だと返答を口にしかけ、
手を汚す役目だけを押し付け自分は首輪だけを手に入れるというのは、流石にどうなのか。
自分がやるから大丈夫だと返答を口にしかけ、
「桐生」
名前を呼ばれ、再び口を噤む。
こちらを射抜く真紅の瞳から目を逸らせない。
威圧されてはいない、怒気や殺気など以ての外。
ただ話を聞かねばならないと思わせる力強さが、戦兎の瞳を捉えて離さない。
こちらを射抜く真紅の瞳から目を逸らせない。
威圧されてはいない、怒気や殺気など以ての外。
ただ話を聞かねばならないと思わせる力強さが、戦兎の瞳を捉えて離さない。
「お前は、やらない方がいい」
「――――」
「――――」
杉元は知っている。
いや、最初に会った時から分かっていたのかもしれない。
桐生戦兎は善人で、信用できて、殺し合いを肯定する馬鹿な真似はしない男。
ただ根本的な部分で自分とは違うのだろうと。
自分のみならず、金塊の争奪戦に関わった大半の人間と違う。
人を殺す、杉元ならば即座に実行に移せるソレへ戦兎はきっと躊躇する。
さっきの話を聞いて確信に変わった。
人を殺した事実を重く受け止める戦兎を、甘いだの何だのと吐き捨てる気は毛頭ない。
だって、その反応こそが正しい在り方だろうから。
異端なのは日露戦争が終わって尚も、銃声と怒号が犇めくあの地へ心を置き去りにした自分の方だから。
いや、最初に会った時から分かっていたのかもしれない。
桐生戦兎は善人で、信用できて、殺し合いを肯定する馬鹿な真似はしない男。
ただ根本的な部分で自分とは違うのだろうと。
自分のみならず、金塊の争奪戦に関わった大半の人間と違う。
人を殺す、杉元ならば即座に実行に移せるソレへ戦兎はきっと躊躇する。
さっきの話を聞いて確信に変わった。
人を殺した事実を重く受け止める戦兎を、甘いだの何だのと吐き捨てる気は毛頭ない。
だって、その反応こそが正しい在り方だろうから。
異端なのは日露戦争が終わって尚も、銃声と怒号が犇めくあの地へ心を置き去りにした自分の方だから。
なればこそ、今から戦兎がしようとしているのはきっと、彼がするべきではない。
誰よりもその役目を果たすのに相応しいのは、人の死に慣れ過ぎた自分だ。
死体を破壊するのだって、刺青人皮を剥いで来た自分で十分だろう。
誰よりもその役目を果たすのに相応しいのは、人の死に慣れ過ぎた自分だ。
死体を破壊するのだって、刺青人皮を剥いで来た自分で十分だろう。
多くは語らない。
けれど短い言葉にどれだけの重みが込められているのか。
こちらを見上げる白髪の少女、見下ろす位置にありながら戦兎は不思議と対等に視線をぶつける男の姿を一瞬幻視した。
けれど短い言葉にどれだけの重みが込められているのか。
こちらを見上げる白髪の少女、見下ろす位置にありながら戦兎は不思議と対等に視線をぶつける男の姿を一瞬幻視した。
○
「悪い、押し付けちまって……」
「だから謝んなくていいって。こっちは気にしてねぇんだからよ」
「だから謝んなくていいって。こっちは気にしてねぇんだからよ」
よく謝る奴だとつい呆れ笑いが浮かぶ。
気にしていないのは本当だ、だからそっちも引き摺らなくて良いのに。
気にしていないのは本当だ、だからそっちも引き摺らなくて良いのに。
現在彼らがいるのは一階ロビーから離れた場所に位置する部屋。
入院患者の遺体を一時的に保管する霊安室である。
しのぶをこの部屋に運び、杉元が彼女の首を斬り落とし首輪を回収。
ベッドに寝かせられた遺体に黙祷を捧げ、目的は果たした。
入院患者の遺体を一時的に保管する霊安室である。
しのぶをこの部屋に運び、杉元が彼女の首を斬り落とし首輪を回収。
ベッドに寝かせられた遺体に黙祷を捧げ、目的は果たした。
なのだが戦兎は自分がする筈だった首を斬る作業を杉元にやらせたのに、申し訳なさを抱いているらしい。
こうまで気を遣われるというか、謝る奴は自分の周りではほとんどいないので何処か新鮮な気分。
というか若干の居心地の悪さを感じる。
良くも悪くも自分の周りは切り替えが早い連中が多い。
このままずっと引き摺られるのも困るので、一つ提案を口にする。
こうまで気を遣われるというか、謝る奴は自分の周りではほとんどいないので何処か新鮮な気分。
というか若干の居心地の悪さを感じる。
良くも悪くも自分の周りは切り替えが早い連中が多い。
このままずっと引き摺られるのも困るので、一つ提案を口にする。
「代わりにって言うのも変な話だが、こいつを貰っても良いか?」
「それをか?…まぁ別に良いけど」
「それをか?…まぁ別に良いけど」
戦兎からの承諾も得たソレを腰に差す。
元々は戦兎のデイパックにあった三つ目の支給品。
しのぶの首を斬るのにも使った刀は、杉元が知る男が振るっていた名刀。
これを譲ってくれと言ったのにそう深い理由は無い。
歩兵銃もコルト・パイソンも弾の数には限りがあり、炎の弾幕とて霊力の消費を考えれば無制限には放てない。
武器がもう一つあって損は無いし、刃物を使う機会は何かと多いと考えてのこと。
前々から持ち歩いている三十年式銃剣でないのは残念だが、そこは仕方ない。
元々は戦兎のデイパックにあった三つ目の支給品。
しのぶの首を斬るのにも使った刀は、杉元が知る男が振るっていた名刀。
これを譲ってくれと言ったのにそう深い理由は無い。
歩兵銃もコルト・パイソンも弾の数には限りがあり、炎の弾幕とて霊力の消費を考えれば無制限には放てない。
武器がもう一つあって損は無いし、刃物を使う機会は何かと多いと考えてのこと。
前々から持ち歩いている三十年式銃剣でないのは残念だが、そこは仕方ない。
「これでもまだ気にしてるってんなら、首輪を外してくれりゃそれで良いさ」
「…ああ。そっちは任せてくれ」
「…ああ。そっちは任せてくれ」
自身の首を指さす杉元へ力強く頷き返す。
何はともあれ首輪は手に入った、後は実際に外せるか否かの問題。
主催者に握られた命を解放し、連中との戦いに備える為にも首輪解除は必須だ。
ならここからは頭を切り替えねばと、霊安室を出てロビーに戻る。
帰って来た二人を見ても、あれこれ追及する者はいなかった。
ただ無言で視線を寄越す善逸に一度頷き、向こうも言葉無く首を縦に振った。
何はともあれ首輪は手に入った、後は実際に外せるか否かの問題。
主催者に握られた命を解放し、連中との戦いに備える為にも首輪解除は必須だ。
ならここからは頭を切り替えねばと、霊安室を出てロビーに戻る。
帰って来た二人を見ても、あれこれ追及する者はいなかった。
ただ無言で視線を寄越す善逸に一度頷き、向こうも言葉無く首を縦に振った。
「後回しになっちまったが、まずは全員の手当てが先だ」
悲鳴嶼のデイパックからはしのぶの死体以外に、予想通り傷の処置に必要な道具一式が見つかった。
提案に反対する者はいない。
と言っても異性のいる前で肌を曝け出すのは双方にとって流石に気まずい。
よって一人ずつ別の部屋に移動し手当てを受ける事となった。
提案に反対する者はいない。
と言っても異性のいる前で肌を曝け出すのは双方にとって流石に気まずい。
よって一人ずつ別の部屋に移動し手当てを受ける事となった。
「よろしくお願い、します……」
「おう」
「おう」
診察室で制服の上を脱いだ甜花にテキパキと処置を施す。
肌を晒け出した少女を前にしても、杉元から邪な感情は一切感じられない。
真面目な顔で包帯を巻き、精神は男でも体は女なのもあって、妹の下着姿を見られる抵抗感はある程度薄れていた。
肌を晒け出した少女を前にしても、杉元から邪な感情は一切感じられない。
真面目な顔で包帯を巻き、精神は男でも体は女なのもあって、妹の下着姿を見られる抵抗感はある程度薄れていた。
「あ、あの、杉元、さん……」
「ん?どうした?」
「ん?どうした?」
外見は自分と近い年頃の少女でも佇まいや口調から恐らく大人の男性と判断。
恐る恐るさん付けで話しかけると、特に不審には思われず反応してくれた。
恐る恐るさん付けで話しかけると、特に不審には思われず反応してくれた。
「えっと、ありがとうございます……」
「…?手当てしてることか?」
「そ、それもだけど、あの、甜花のこと助けに来てくれて……」
「…?手当てしてることか?」
「そ、それもだけど、あの、甜花のこと助けに来てくれて……」
思えばこの少女とまともに会話をするのはこれが初めてだ。
最初にPK学園を訪れた時から互いの存在は把握していたものの、呑気に会話をしてられる状況では無かった。
甜花が正気に戻ってからも姉畑の乱入やDIOの復活やらで、双方自己紹介の余裕も皆無。
これまで杉元から見た甜花という少女は思考をおかしくされ、DIOに心酔していた時が大半。
病院に戻って来てからようやっと素の彼女を見れた気がする。
最初にPK学園を訪れた時から互いの存在は把握していたものの、呑気に会話をしてられる状況では無かった。
甜花が正気に戻ってからも姉畑の乱入やDIOの復活やらで、双方自己紹介の余裕も皆無。
これまで杉元から見た甜花という少女は思考をおかしくされ、DIOに心酔していた時が大半。
病院に戻って来てからようやっと素の彼女を見れた気がする。
「礼なら俺より桐生に言ってやれ。お前をずっと心配してて、助けるのに一番張り切ってたしな」
「え、あ、そ、そうなんだ……」
「え、あ、そ、そうなんだ……」
離れている間も気に掛けて貰えたのは純粋に嬉しい。
そこまで自分の事を考えてくれていたと聞くと、少々照れくさくもある。
恥ずかし気に目をあっちこっち泳がせる甜花の処置を終え、次の仕事に取り掛かった。
そこまで自分の事を考えてくれていたと聞くと、少々照れくさくもある。
恥ずかし気に目をあっちこっち泳がせる甜花の処置を終え、次の仕事に取り掛かった。
やがて全員の手当てが済むと一行は再びロビーにて顔を突き合わせる。
甜花から話したいことがあると言われ、こうして腰を落ち着け聞く体勢に入った。
その前に戦兎以外の面子とは改めて自己紹介もしておく。
DIOに操られなければ彼らとももっと早くから親交を深め合えたのだろうけど、言った所で今更な話だ。
甜花から話したいことがあると言われ、こうして腰を落ち着け聞く体勢に入った。
その前に戦兎以外の面子とは改めて自己紹介もしておく。
DIOに操られなければ彼らとももっと早くから親交を深め合えたのだろうけど、言った所で今更な話だ。
甜花が話すのはDIOの元にいた時に何があったか。
もしかしたら戦兎達にとって必要となる情報があるかもしれないし、何より甜花自身が伝えておかねばならない事実がある。
自分の犯した間違いを語るのは楽ではないが、意を決して一つずつ説明していく。
もしかしたら戦兎達にとって必要となる情報があるかもしれないし、何より甜花自身が伝えておかねばならない事実がある。
自分の犯した間違いを語るのは楽ではないが、意を決して一つずつ説明していく。
ナナの運転する車で戦兎達が学園から逃げた後。
一回目の定時放送が終わり少し経ってから、PK学園にやって来たしのぶとデビハムの二人と戦闘になった。
先程話した時よりも細かく説明する。
自分はメロンを被った仮面ライダーに変身し、貨物船と共にデビハムを相手取った。
一回目の定時放送が終わり少し経ってから、PK学園にやって来たしのぶとデビハムの二人と戦闘になった。
先程話した時よりも細かく説明する。
自分はメロンを被った仮面ライダーに変身し、貨物船と共にデビハムを相手取った。
「甜花がデビハムと…」
「う、うん。あのベルトで、色々変身できたから……」
「う、うん。あのベルトで、色々変身できたから……」
思ったよりも戦極ドライバーを使いこなしているらしい甜花に、戦兎は複雑な心境だ。
彼女が変身する必要がないよう守ろうとしたのだが、結局は戦いへと引き摺り込んでしまった。
先の戦いで決意の言葉を聞いた為、もう戦うなと水を差すつもりは無いが。
複雑ではあれどそれ以上話の腰を折らずに続きを聞く。
戦闘はDIOがエターナルに変身し猛威を振るい優勢に持ち込み、貨物船が二人にトドメを刺そうとしたのだと言う。
彼女が変身する必要がないよう守ろうとしたのだが、結局は戦いへと引き摺り込んでしまった。
先の戦いで決意の言葉を聞いた為、もう戦うなと水を差すつもりは無いが。
複雑ではあれどそれ以上話の腰を折らずに続きを聞く。
戦闘はDIOがエターナルに変身し猛威を振るい優勢に持ち込み、貨物船が二人にトドメを刺そうとしたのだと言う。
その直後だ。
別の意味でDIO以上の危険人物、姉畑支遁が乱入したのは。
別の意味でDIO以上の危険人物、姉畑支遁が乱入したのは。
「いきなりあの人が出て来て……それで、貨物船、さんを……甜花にも…う、うぅ……」
「あー…無理しなくていいぞ大崎。何があったかは大体分かる」
「あー…無理しなくていいぞ大崎。何があったかは大体分かる」
色んな意味でショッキングな光景を思い出してか、目尻に涙を浮かべガタガタ震える。
嫌悪と恐怖がこれでもかと顔に現れた甜花へ杉元が助け船を出す。
反応だけで姉畑が何をしたのか察しが付く。
杉元同様に姉畑の異常性を知っている善逸もまた、顔を青くし縮こまっていた。
嫌悪と恐怖がこれでもかと顔に現れた甜花へ杉元が助け船を出す。
反応だけで姉畑が何をしたのか察しが付く。
杉元同様に姉畑の異常性を知っている善逸もまた、顔を青くし縮こまっていた。
「先生のことだ、大方あのデカい猿とウコチャヌプコロしたんだろ。無理に話さなくていい」
「グスッ、うん……え?ウコチャ……え?」
「んなヤベー奴だったアルか、あのネオアームストロングジェットアームストロング大猿王銃(キングコングガン)は」
「その長ったらしい名称は何なんだよ…」
「グスッ、うん……え?ウコチャ……え?」
「んなヤベー奴だったアルか、あのネオアームストロングジェットアームストロング大猿王銃(キングコングガン)は」
「その長ったらしい名称は何なんだよ…」
姉畑に関して詳細に語るのは甜花の精神衛生上良くないので次に移る。
しのぶ達が撤退した後、残された姉畑はDIOと二人きりで話をし、そこで具体的に何が起きたかは甜花も知らない。
ただ次に見た時にはもう象の下半身を持つ怪物へ変貌しており、貨物船を捕まえ逃走。
何をされたのか怒り心頭のDIOと共に貨物船を追いかけ、再びしのぶとデビハムに遭遇。
今度はもう一人、氷を操る青髪の少女の姿もあった。
しのぶ達が撤退した後、残された姉畑はDIOと二人きりで話をし、そこで具体的に何が起きたかは甜花も知らない。
ただ次に見た時にはもう象の下半身を持つ怪物へ変貌しており、貨物船を捕まえ逃走。
何をされたのか怒り心頭のDIOと共に貨物船を追いかけ、再びしのぶとデビハムに遭遇。
今度はもう一人、氷を操る青髪の少女の姿もあった。
「ヴァニラ・アイス…それがあの女の子の名前なのか?」
「う、うん。部下だってDIOさ…あの人は言ってたよ……」
「承太郎って奴はまだ分からねぇが、もう一人はこれでハッキリしたな」
「う、うん。部下だってDIOさ…あの人は言ってたよ……」
「承太郎って奴はまだ分からねぇが、もう一人はこれでハッキリしたな」
空条承太郎とヴァニラ・アイス。
最初に会った時DIOが口にした二名の内、後者の正体は判明した。
DIOの部下、つまり自分達にとっても相容れない敵。
ヴァニラとはPK学園で交戦経験のある杉元からも皆に説明をしておく。
校舎内で戦った時に見せた能力についてだ。
曰く、髑髏のような口に自らを飲み込ませ姿を消し、壁や床を削り取る謎の攻撃。
姿が見えない間は気配が完全に消失しており、五感を総動員しての回避は非常に困難。
但し向こうも敵の姿は見えておらず、片っ端から攻撃するしかない。
敵の撃破を確認する為に髑髏から顔を出した瞬間のみ、攻撃を当てられる。
最初に会った時DIOが口にした二名の内、後者の正体は判明した。
DIOの部下、つまり自分達にとっても相容れない敵。
ヴァニラとはPK学園で交戦経験のある杉元からも皆に説明をしておく。
校舎内で戦った時に見せた能力についてだ。
曰く、髑髏のような口に自らを飲み込ませ姿を消し、壁や床を削り取る謎の攻撃。
姿が見えない間は気配が完全に消失しており、五感を総動員しての回避は非常に困難。
但し向こうも敵の姿は見えておらず、片っ端から攻撃するしかない。
敵の撃破を確認する為に髑髏から顔を出した瞬間のみ、攻撃を当てられる。
弱点があっても強力無比な能力の持ち主だ。
加えて戦兎達を凍らせた力も使う危険な相手がDIOの部下。
DIOの脅威がより一層高まったのを嫌でも感じ取った。
加えて戦兎達を凍らせた力も使う危険な相手がDIOの部下。
DIOの脅威がより一層高まったのを嫌でも感じ取った。
甜花の話に戻る。
しのぶがどうやってDIOの元から逃げたのか。
そしてデビハムと貨物船の最期、どちらも戦兎達には意外な内容だ。
DIOかしのぶに殺されたと考えていたデビハムは自害を選び、おまけにしのぶと姉畑を逃がしたのも彼。
行動の真意も本人が死んでしまった以上、問い質すのは不可能。
しのぶがどうやってDIOの元から逃げたのか。
そしてデビハムと貨物船の最期、どちらも戦兎達には意外な内容だ。
DIOかしのぶに殺されたと考えていたデビハムは自害を選び、おまけにしのぶと姉畑を逃がしたのも彼。
行動の真意も本人が死んでしまった以上、問い質すのは不可能。
二回目の定時放送が流れた後はPK学園に戻り、そこからは全員が知っている通り。
ただDIOは次の目的地として街から南東に位置する地下通路に向かうつもりだったとのこと。
何故地下通路を選んだのかは安易に予想が付く。
新たに導入された殺し合いを促進させる設置物、モノモノマシーンを利用する為だろう。
禁止エリアに阻まれ遠回りを余儀なくされる網走監獄よりは、地下通路の方がスムーズに行ける。
デビハムと貨物船に加え、悲鳴嶼と姉畑、更には鳥束の首輪も回収されたに違いない。
貨物船を殺し使用権を得ているのもあって、DIOは計6回もモノモノマシーンが使用可能。
ただでさえ厄介な相手が今以上に戦力を強化するのは全員にとって悩みの種に他ならない。
阻止したい気持ちは山々だがナナ達をほったらかしにも出来ない。
悔しいが今は体力の回復と仲間達との合流を優先、戦力を整えてから改めて対策を考えるべきだ。
ただDIOは次の目的地として街から南東に位置する地下通路に向かうつもりだったとのこと。
何故地下通路を選んだのかは安易に予想が付く。
新たに導入された殺し合いを促進させる設置物、モノモノマシーンを利用する為だろう。
禁止エリアに阻まれ遠回りを余儀なくされる網走監獄よりは、地下通路の方がスムーズに行ける。
デビハムと貨物船に加え、悲鳴嶼と姉畑、更には鳥束の首輪も回収されたに違いない。
貨物船を殺し使用権を得ているのもあって、DIOは計6回もモノモノマシーンが使用可能。
ただでさえ厄介な相手が今以上に戦力を強化するのは全員にとって悩みの種に他ならない。
阻止したい気持ちは山々だがナナ達をほったらかしにも出来ない。
悔しいが今は体力の回復と仲間達との合流を優先、戦力を整えてから改めて対策を考えるべきだ。
これでDIOと共にいた際の動向は全て話し終えた。
しかし甜花にはまだ言わねばならない事が残っている。
むしろこれから話すのが本題と言っても良い。
しかし甜花にはまだ言わねばならない事が残っている。
むしろこれから話すのが本題と言っても良い。
「あのね…最初の放送で空助って人が言ってた、誰がどの体になってるか分かる名簿を見たの…」
精神と肉体の組み合わせ名簿。
参加者を殺した者のみが手に入れられるボーナス支給品は、貨物船が入手したらしい。
戦兎と杉元は直接現場を見ていないが、貨物船は教室で鳥束を殺害している。
手に入った名簿を主であるDIOに献上し、甜花も一応確認の為にと名簿を見た。
そうして知ったのは甘奈以外にも知っている人物が巻き込まれているという、決して望まない事実。
参加者を殺した者のみが手に入れられるボーナス支給品は、貨物船が入手したらしい。
戦兎と杉元は直接現場を見ていないが、貨物船は教室で鳥束を殺害している。
手に入った名簿を主であるDIOに献上し、甜花も一応確認の為にと名簿を見た。
そうして知ったのは甘奈以外にも知っている人物が巻き込まれているという、決して望まない事実。
「千雪さんと、真乃ちゃんの名前があって……」
真乃の体に入った精神の名に甜花は聞き覚えが無い。
ダグバなる人物は戦兎達にも初耳で、残念ながら詳細な情報は得られなかった。
せめて殺し合いに否定的な人物であると願うばかりだ。
問題は前者、千雪の体に入っている参加者の方。
ダグバなる人物は戦兎達にも初耳で、残念ながら詳細な情報は得られなかった。
せめて殺し合いに否定的な人物であると願うばかりだ。
問題は前者、千雪の体に入っている参加者の方。
「甜花…それは間違いないのか?」
「う、うん……。その、戦兎さんが前に教えてくれたエボルトって人、じゃなくて、宇宙人が千雪さんの…体に入ってる、みたい……」
「う、うん……。その、戦兎さんが前に教えてくれたエボルトって人、じゃなくて、宇宙人が千雪さんの…体に入ってる、みたい……」
思いもよらぬ情報に言葉を失くし頭を抱える。
「最っ悪だ」と普段の口癖を言える余裕は無く、ため息すら出せない。
「最っ悪だ」と普段の口癖を言える余裕は無く、ため息すら出せない。
エボルトが戦いとは無縁の一般人の肉体に入っている可能性を、微塵も考慮していなかったと言えば嘘になる。
しかしだ、よりにもよって甜花と同じ事務所の、所属するユニットも同じで縁の深いアイドルがエボルトに与えられた体。
最悪どころの話ではない。
組み合わせを考えた主催者へふざけるなと怒鳴り付けてやりたい気分だった。
しかしだ、よりにもよって甜花と同じ事務所の、所属するユニットも同じで縁の深いアイドルがエボルトに与えられた体。
最悪どころの話ではない。
組み合わせを考えた主催者へふざけるなと怒鳴り付けてやりたい気分だった。
「そんなにヤバいアルか?その厨二くせー名前の天人は」
「…ああ。俺が知る限りじゃ間違いなく最悪の相手だ」
「や、やっぱり……千雪さんの体で殺し合いに……!」
「…ああ。俺が知る限りじゃ間違いなく最悪の相手だ」
「や、やっぱり……千雪さんの体で殺し合いに……!」
直接会っていなくとも、戦兎の反応を見ればどれだけ危険な存在かが分かる。
そんな男が千雪の体を使って参加者を殺して回っているかもしれない。
想像するだけで気絶しそうなくらいにショッキングな光景だ。
どうしてあんなに優しい、自分と甘奈が本当の姉のように慕っている人の体をそんな風に扱うのか。
不安と怒りと悲しみで意識せずとも顔が歪む。
そんな男が千雪の体を使って参加者を殺して回っているかもしれない。
想像するだけで気絶しそうなくらいにショッキングな光景だ。
どうしてあんなに優しい、自分と甘奈が本当の姉のように慕っている人の体をそんな風に扱うのか。
不安と怒りと悲しみで意識せずとも顔が歪む。
「いや……エボルトが殺し合いに乗っているとは限らないと思う」
意外な所から否定意見が飛ぶ。
発したのは戦兎、エボルトの危険性を最も知る男にも関わらずエボルトは殺し合いに乗っていないと言う。
知っているからこそと言うべきか。
発したのは戦兎、エボルトの危険性を最も知る男にも関わらずエボルトは殺し合いに乗っていないと言う。
知っているからこそと言うべきか。
「アイツがロクでもねぇのは本当だ。けど、自分の状態を軽く見て考え無しに動くような馬鹿でもない」
エボルトという男は非常に狡猾である。
10年以上も地球に潜伏し、嘘と真実を交えて信頼を作り、自らの立場をのらりくらりと替え、己の望む方向へと人間達を掌で転がす。
ジーニアスフォームの力で感情を植え付けてしまってからは計画に遊びを入れる傾向が多く見られたものの、用意周到さと臨機応変に対応するアドリブ力の高さは健在。
何よりあの男は必要とあれば敵である戦兎達に手を貸す柔軟性も持ち合わせている。
最上やキルバスが起こした事件の時が分かり易い例だ。
そのような男が石動惣一よりも非力な女の体にされた現状で、馬鹿正直に優勝を目指すだろうか?
可能性は低い。
エボルトの立ち回りの上手さを考えれば戦兎や殺し合いに反抗する者を利用し脱出を目論むか、仮に優勝するにしてももっと慎重に動く筈。
むしろ今のエボルトは千雪を最悪の状態で人質に取っているようなもの。
素直に殺し合いに乗るよりも、迂闊に千雪の体へ手出し出来ない現状を有効活用する方へ舵を切るだろう。
例えば自分の首輪解除を戦兎に要求したりだとか。
10年以上も地球に潜伏し、嘘と真実を交えて信頼を作り、自らの立場をのらりくらりと替え、己の望む方向へと人間達を掌で転がす。
ジーニアスフォームの力で感情を植え付けてしまってからは計画に遊びを入れる傾向が多く見られたものの、用意周到さと臨機応変に対応するアドリブ力の高さは健在。
何よりあの男は必要とあれば敵である戦兎達に手を貸す柔軟性も持ち合わせている。
最上やキルバスが起こした事件の時が分かり易い例だ。
そのような男が石動惣一よりも非力な女の体にされた現状で、馬鹿正直に優勝を目指すだろうか?
可能性は低い。
エボルトの立ち回りの上手さを考えれば戦兎や殺し合いに反抗する者を利用し脱出を目論むか、仮に優勝するにしてももっと慎重に動く筈。
むしろ今のエボルトは千雪を最悪の状態で人質に取っているようなもの。
素直に殺し合いに乗るよりも、迂闊に千雪の体へ手出し出来ない現状を有効活用する方へ舵を切るだろう。
例えば自分の首輪解除を戦兎に要求したりだとか。
「まぁそういう奴だから、確実に殺し合いに乗ってるとは言い切れねぇ」
「つっても警戒するに越した事はない相手だろ?悪知恵が働く分、下手に暴れられるより面倒な野郎だな」
「つっても警戒するに越した事はない相手だろ?悪知恵が働く分、下手に暴れられるより面倒な野郎だな」
渋い表情で言う杉元に戦兎も同意する。
体が千雪である以上、戦って倒すという方法でどうにかなる相手では無い。
敵対者には容赦ない杉元と言えども、甜花の前でいざとなれば自分が殺すなどとは口にできなかった。
体が千雪である以上、戦って倒すという方法でどうにかなる相手では無い。
敵対者には容赦ない杉元と言えども、甜花の前でいざとなれば自分が殺すなどとは口にできなかった。
体を取り戻すのは殺し合い当初から考えていたがエボルトの情報を得て、より重要性が増した。
いずれ向こうから接触を図りに来るだろうが好都合。
殺し合いに乗っていないかもしれないとはいえ、千雪の体でおかしな真似に出ない保障も無い。
監視の為にもエボルトをなるべく早く発見したいところだ。
いずれ向こうから接触を図りに来るだろうが好都合。
殺し合いに乗っていないかもしれないとはいえ、千雪の体でおかしな真似に出ない保障も無い。
監視の為にもエボルトをなるべく早く発見したいところだ。
「甜花、エボルトの事は俺に任せてくれ。アイツに好き勝手馬鹿な真似はさせたりしない」
「…うん、分かった。戦兎さんのこと、信じてるから……」
「…うん、分かった。戦兎さんのこと、信じてるから……」
DIOの言葉に安心を得た時とは違う。
偽りの愛情ではない、本心から戦兎を信じられる。
不安が消えたわけではなく、だけど甜花は知っているから。
桐生戦兎は優しくて、誰かの為に戦える本当のヒーローのような人だと。
偽りの愛情ではない、本心から戦兎を信じられる。
不安が消えたわけではなく、だけど甜花は知っているから。
桐生戦兎は優しくて、誰かの為に戦える本当のヒーローのような人だと。
「なぁ大崎、その名簿って今も持ってたりするか?」
組み合わせ名簿があれば誰の体が参加しているかが一発で分かる。
アシリパや白石の体が巻き込まれているのを危惧する杉元としては、甜花の手元に名簿があるなら見せて欲しいと頼み込む。
戦兎や善逸も同様だ、仲間の体が無事か否かは確認しておきたい。
アシリパや白石の体が巻き込まれているのを危惧する杉元としては、甜花の手元に名簿があるなら見せて欲しいと頼み込む。
戦兎や善逸も同様だ、仲間の体が無事か否かは確認しておきたい。
「あ、その…甜花は持ってなくて……他の人の名前も、ちゃんと覚えてない……」
名簿はDIOが所持したまま、記載されていた名前も全てをはっきりとは覚えていない。
見れないのは残念だが甜花を責める真似は誰もせず、別の機会に見ればいいと話は落ち着いた。
見れないのは残念だが甜花を責める真似は誰もせず、別の機会に見ればいいと話は落ち着いた。
伝えたい内容はこれで全てだ。
話が終わり肩の力を抜いたからだろう、どっと疲れが甜花を襲う。
思わず椅子に深く腰を沈めた時、くぅと可愛らしい音がお腹から聞こえた。
話が終わり肩の力を抜いたからだろう、どっと疲れが甜花を襲う。
思わず椅子に深く腰を沈めた時、くぅと可愛らしい音がお腹から聞こえた。
「あ……。あ、あの、こ、これは…その…」
「何あざとい反応してんだオメーは。ニセコイどころかエセコイじゃねーカ。マガジンのラブコメにでも帰れコノヤロー」
「ピカピ~…(何でそんなに厳しいのこの人…)」
「何あざとい反応してんだオメーは。ニセコイどころかエセコイじゃねーカ。マガジンのラブコメにでも帰れコノヤロー」
「ピカピ~…(何でそんなに厳しいのこの人…)」
空腹を訴える音を鳴らしてしまい、羞恥で顔が真っ赤に染まる。
微笑ましい姿の甜花へ神楽が向ける態度は何故か辛辣だった。
それはともかく殺し合いが始まってから入浴や睡眠は取ったが食事はまだなのだ。
腹が減るのはごく自然なことだろう。
微笑ましい姿の甜花へ神楽が向ける態度は何故か辛辣だった。
それはともかく殺し合いが始まってから入浴や睡眠は取ったが食事はまだなのだ。
腹が減るのはごく自然なことだろう。
「まぁ話も一段落着いたし、何か食べて休んで良い頃合いかもな」
「それなら丁度……いや何でもねぇ!なにも無かった!」
「急にどうした…?」
「それなら丁度……いや何でもねぇ!なにも無かった!」
「急にどうした…?」
デイパックを開きかけ、慌てて取り繕う杉元に訝し気な目を向ける。
話す気は無いのか目を逸らし何でもないと言い張るのには、困惑するしかない。
話す気は無いのか目を逸らし何でもないと言い張るのには、困惑するしかない。
とはいえ杉元がそんな反応をするのは無理もない話だ。
悲鳴嶼のデイパックに入っていた鍋。
それを温め直して食べようという提案は、鍋の正体に思い直し無かった事にしたのである。
以前白石や尾形、谷垣にキロランケと五人で食べたラッコ鍋。
あれの香りに中てられてしまい色々と、本当に色々あった。
正直あの時に起きた事は永遠に忘れてしまいたい。
悲鳴嶼のデイパックに入っていた鍋。
それを温め直して食べようという提案は、鍋の正体に思い直し無かった事にしたのである。
以前白石や尾形、谷垣にキロランケと五人で食べたラッコ鍋。
あれの香りに中てられてしまい色々と、本当に色々あった。
正直あの時に起きた事は永遠に忘れてしまいたい。
神楽に疑いの目を向けられた悲鳴嶼と脹相がどことなく余所余所しい態度だったのにも納得がいく。
きっと彼らはラッコ鍋を食べ、嘗ての自分達と同じ目に遭ったに違いない。
果たして二人が未遂で終わったのか、はたまたイクとこまでイってしまったのは本人達の名誉の為にも気にしないでおこう。
きっと彼らはラッコ鍋を食べ、嘗ての自分達と同じ目に遭ったに違いない。
果たして二人が未遂で終わったのか、はたまたイクとこまでイってしまったのは本人達の名誉の為にも気にしないでおこう。
とにかくラッコ鍋の恐ろしさを知っているが故に、ここにいる面子に食べさせられはしない。
善逸はまだしも、女である甜花と神楽、女の体の自分がいて心身共に男なのは戦兎一人。
もしもあの時と同じ事が起きてしまえば、流石に気まずいとかでは済まない事態に発展しかねない。
ラッコ鍋のせいで殺し合いに反抗する陣営が崩壊などとなっては目も当てられない。
かと言って捨てる気にもなれない、ラッコ鍋という料理自体には何の罪も無いのだから。
デイパックの奥深くに封印しておくのが吉だろう。
善逸はまだしも、女である甜花と神楽、女の体の自分がいて心身共に男なのは戦兎一人。
もしもあの時と同じ事が起きてしまえば、流石に気まずいとかでは済まない事態に発展しかねない。
ラッコ鍋のせいで殺し合いに反抗する陣営が崩壊などとなっては目も当てられない。
かと言って捨てる気にもなれない、ラッコ鍋という料理自体には何の罪も無いのだから。
デイパックの奥深くに封印しておくのが吉だろう。
「い、いや、あれだな!折角なら体があったまるもんとか食いたいよな!」
「それなら、丁度良いのがある…かも……」
「それなら、丁度良いのがある…かも……」
誤魔化す為に言った温かい食事。
それに当て嵌まるものを甜花は見付けていた。
それに当て嵌まるものを甜花は見付けていた。