私は他人がウソを言うと、ウソだとすぐにわかってしまう。
ウソを適当に流すのが疲れるので。人と話すのが面倒なわけで。
それならば他人とは関わらないのが吉。それがかねての信条だった。
だけどまあ、適度なウソも人間関係には悪くないスパイスとなる……こともある。そういう考えが湧いてきたのも確かだ。
だからこそ、殺し合いを命じられたこの世界で如何なるウソを人は吐くのか、気になって。
少なくとも私――佐藤アカネはその好奇心を後悔させられることとなった。
――ピクッ。
いつもの、脳裏に電流が流れ込むかのような感覚が訪れた。それはたった今目の前の人物が"語った"言葉がウソであると示すサインである。ウソつきがいることくらい予想はしていたし、それ自体は特に驚きでも何でもなかった。殺し合いなんかさせられている時に騙されない体質で良かった、と胸を撫で下ろすだけ。だが、それだけではなかったのだ。
そのウソひとつだけなら良かった。何せ、殺し合いなのだ。正直者ほど損をするし、ウソで乗り切れるのなら私だってそうする。しかし私は、かのようなウソを見たことがない。感じたことがない。
同級生の大橋ミツキよりもいっそう白いロングヘアーをなびかせるその女。口から語られる言葉は、その全てがウソであった。名乗った名も、殺し合いにおける方針も、その他その口から語られる何もかもがウソで塗り固められていた。まるで、ウソを付くのが平常とばかりに。むしろウソに憑かれているかのように。
「それ、全部ウソ、なんでしょ。」
脳裏に何度も何度も繰り返されるウソの感覚が擽ったくなって。積もりに積もったモヤモヤはとうとう抑えきれなくて。最終的に私はそれを突きつけた。
「なっ……何を言うか!」
その指摘に対し、目の前の、『とがめ』を名乗った女は火を付けたように真っ赤になりながら激高しながら反論する。
「私は人のウソが分かる――ウソじゃないわよ。」
その堂々とした態度に、とがめは気圧された。ウソが分かるなどという超能力地味た言葉など突拍子も無い。口から出まかせだとしらを切ることも可能だ。しかし、その意味内容は紛れもなく図星だった。全部ウソ――的を射た一言であり、とにかくぎくりとさせられた。老獪に弄した知恵を全て捨てさせられるが如く、とがめの全てを"否定する"一言だった。
結果、とがめの答えは――
「……ああ、その通りだ。」
――認めること、それしか残されていなかった。
「分かった。それじゃあ。」
とがめの答えにウソを感知しなかったアカネは、自身の感覚が正常であることを確認して内心でホッとしつつ、開口一番とがめに背を向けて立ち去ろうとする。認めた結果、とがめを待っていたのは妥当にして自明の末路、拒絶であった。
「ま、待たんか!」
とがめは呼び止める。
「ウソが分かる、と言ったな。ならばわたしの言葉を聞き、その先を判断せよ。」
奇策士とがめ。実の名を、容赦姫。彼女の唯一の目的は、父親を殺した尾張幕府への復讐だった。そのために、周りの全てを"駒"として利用し、生き抜いてきた。しかし、四季崎記紀の完成系変体刀十二本の収集の旅の最中、唐突に訪れたこの殺し合いという催し。何を隠そう、とがめはすべての参加者の中で最も弱い自信がある。それならば、友好的でなくとも対話の余地が最低限あり、ウソが分かるという真庭忍軍もびっくりな能力を持った"駒"を逃がすわけにはいかなかった。
「まずわたしは現在、そなたを殺す手を持たない。」
電流は流れてこない。その言葉にウソは無いとアカネは理解する。その身体は障子紙の如く脆く、戦闘力はうさぎ以下と自称するとがめ。そんな彼女が何の武器も与えられなかったため、目の前のアカネをいかなる暴力を用いても殺すことは出来ないと自覚していた。
「それでも殺し合いを生き抜くため、そなたを駒として利用しようとしておった。」
ピクッ。アカネに電流が走る。それを指摘すると、とがめは「今も利用しようとしておる」と訂正した。
「だがこのような世界、ウソを暴けるそなたとて暴力による蹂躙にはかなうまいて。そこで、だ。」
優位はアカネが握っているはずなのに、一切それを感じさせぬほど力強く、とがめは言い放つ。
「その能力で裏切らない駒を判定してほしい。その対価に、生き残るための"奇策"を授けようではないか。」
「奇策……?」
「ああ。わたしの練る策はどれも真っ当なものではない。その全てに想定外を盛り込んだ奇策のみだ。」
言葉の咀嚼を終え、続ける。
「わたしは常に、最終的に自分が生き残れる策を弄している。わたしに手を貸してもらえるならば――そなたの命、わたしの次に重きを置いて奇策を練ると約束しよう。」
その言葉に、ウソは含まれていなかった。自分の命に関わる場合は見捨てるが、それ以外では生き残れる手段を提示してやる――要約するとつまりはこういうことだ。
「わたしは奇策のためならウソをつく。しかしそれを峻別できるそなたに対しては、常に正直であり続けるということよ。悪い提案ではあるまい。」
とがめの言う通り、それは悪い提案では無かった。一介の女子高生に過ぎないアカネは誰かを殺す能力など持っていないし、殺人犯にもなりたくない。かといって当然、死にたくもない。しかし生きるためには群れる必要があったとしても、多くの人が保身のためにウソをつくであろうこの環境で、『自分を貶める意図でウソをつくワケではない』ことが保証されている同行者というのもそうそう得られまい。それを悪い提案ではないと自信を持って提示してくるとがめは、なるほど奇策士を名乗るだけのことはあり切れ者ではあるのだろう。
「分かった。その代わり、私に誰かを殺すのを求められても困るからね。」
承諾。その結論に至るのに迷いは無かった。むしろ、迷いのないよう的確に誘導されていたともいえるかもしれない。
何にせよ――今宵の物語はここまでと致しましょう。続き語りが成されるか否か。それは、神のみぞ知る、といったところでございましょうか。
【佐藤アカネ@そんな未来はウソである】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]:基本行動方針:死にたくも殺したくもない
0:殺し合いなんて、笑えない冗談だわ。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]:基本行動方針:死にたくも殺したくもない
0:殺し合いなんて、笑えない冗談だわ。
※殺し合いが行われることや、優勝者の願いをひとつ叶えるといった主催者の言葉に対してウソの感知は行われておらず、それを信じています。しかし、その時に限って能力を制限されていた可能性もあります。
【とがめ@刀語】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3(武器の類は無し)
[思考・状況]:基本行動方針:自分だけは生き残る
0:佐藤アカネの命は自分の次に優先する。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3(武器の類は無し)
[思考・状況]:基本行動方針:自分だけは生き残る
0:佐藤アカネの命は自分の次に優先する。
※鑢七実に髪を切られる前からの参戦です。
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