レグルスは激怒していた。
必ず、かの邪知暴虐の主催者を除かなければならぬと決意した。
レグルスにはこの催しの理屈がわからぬ。レグルスは、個で完結し、満たされた高潔な存在だと己を自負している。
与えられた福音書に従い、妻を侍らせ謙虚に暮らしてきた。けれども己の権利の侵害に対しては、人一倍敏感であった。
レグルスは「新たな花嫁が見つかる」という福音書の指示に従い、愛する妻たちの同伴のもと、野を越え山を越え、水門都市プリステラに向かっていた。
しかし今は、意味の分からないこの悪趣味な催しに参加させられている。
このバトル・ロワイアルは、レグルスの私財を、権利を、身勝手かつ無意味に侵害していた。
必ず、かの邪知暴虐の主催者を除かなければならぬと決意した。
レグルスにはこの催しの理屈がわからぬ。レグルスは、個で完結し、満たされた高潔な存在だと己を自負している。
与えられた福音書に従い、妻を侍らせ謙虚に暮らしてきた。けれども己の権利の侵害に対しては、人一倍敏感であった。
レグルスは「新たな花嫁が見つかる」という福音書の指示に従い、愛する妻たちの同伴のもと、野を越え山を越え、水門都市プリステラに向かっていた。
しかし今は、意味の分からないこの悪趣味な催しに参加させられている。
このバトル・ロワイアルは、レグルスの私財を、権利を、身勝手かつ無意味に侵害していた。
「まったく、僕を妻たちから引き剥がして、突然こんなところに拉致するとかまず前提としてあり得ないよね。度胸だけは評価できるけど、よりにもよって命のやり取りを強制するとか、もう穏健な僕でも姿も見せない臆病で卑劣で、とんでもないクズだなとしか言い様のない行為だよね」
「自分の都合で相手の同意を得ずにやりたくもない事をさせるって本当に人間として最低だよ。願いを叶えるとか言ってたけど、仮に僕がその権利を望むとしてもまず先に話を通さないなんて常識的におかしいでしょ、っていうか決定的に間違ってるのは明らかだね。僕は優先すべき福音書の指示があるし、誰にだって細やかながらも守られるべき権利ってものがある筈だ」
「ていうか僕はさ、まず、こういう争いとか、元々嫌なんだよね。僕としては、僕はこう、平々凡々とただただひたすら穏やかで安寧とした日々を享受できればそれで十分、それ以上は望まない男なんだ。そんな無欲で謙虚な僕に殺し合えとか、人選として致命的に間違っている。というか、僕を利己的な殺人鬼だと安易に決めつけてるって事だよね。これはもうさ、温厚な僕でも怒ってもいい場面だと思うよ。
仮に主催者が異常者で、僕とは全く違う常識の中で生きてきたからそういった権利を知らないって事もあるかもしれないけどさ、でもそれならそれでまず自分の無知を自覚して、そこから始めるのが人として当然だし、当たり前のことだよね。自分が世界の中心だって考え方はまず当たり前の事だけど、論外だよ。自分の常識が他人と違う事を予め省みるべきだよね。そうした努力もせずに、いきなり意味不明な選択肢をこうして提示するだなんて、相手に歩み寄る気が無いって事だよね?」
仮に主催者が異常者で、僕とは全く違う常識の中で生きてきたからそういった権利を知らないって事もあるかもしれないけどさ、でもそれならそれでまず自分の無知を自覚して、そこから始めるのが人として当然だし、当たり前のことだよね。自分が世界の中心だって考え方はまず当たり前の事だけど、論外だよ。自分の常識が他人と違う事を予め省みるべきだよね。そうした努力もせずに、いきなり意味不明な選択肢をこうして提示するだなんて、相手に歩み寄る気が無いって事だよね?」
「そもそも個人の権利なんて尊重されて当然のものをそう何度も主張したくなんてないけどさ、現時点でそもそもこの状況自体が僕の権利を、数少ない資産を侵害しているって事が解らないのかな。というか最初にさ、その事を理解して自分で自分をおこがましいとか思えないものなのかな? そういう当たり前のことができないなんて、人として卑劣と言われてもしょうがないとさえ思えるよ。……というか、もう僕の福音書を勝手に盗んでる時点で、推定無罪の域を越えてるよねぇ! これはもはや、他者への権利の侵害だ! 温厚で無欲な僕に対する、僕の権利の侵害だ!!」
主催者に対する怒りと不満、福音書を没収された不快感が滝のように口から溢れている。
レグルスが殺し合いに否定的なのは事実。なら対主催であるのかと問われれば否である。
結論から言えば、レグルスは速やかに権利の強姦魔である主催を殺し、この場を脱出する事を計画していた。
彼の理屈では、殺し合いの否定と参加者の殺害は矛盾なく両立していた。
口では散々殺し合いを否定していたが、現状では優勝が一番手っ取り早い帰還手段であることは明白である。
事実、強欲の権能があれば優勝は用意だ。ただ上空から時を止めた砂粒なり何なりをばら蒔くだけで決着はつく。
……が、いざ実行に移そうとした時、新たな問題が浮上した。
レグルスが殺し合いに否定的なのは事実。なら対主催であるのかと問われれば否である。
結論から言えば、レグルスは速やかに権利の強姦魔である主催を殺し、この場を脱出する事を計画していた。
彼の理屈では、殺し合いの否定と参加者の殺害は矛盾なく両立していた。
口では散々殺し合いを否定していたが、現状では優勝が一番手っ取り早い帰還手段であることは明白である。
事実、強欲の権能があれば優勝は用意だ。ただ上空から時を止めた砂粒なり何なりをばら蒔くだけで決着はつく。
……が、いざ実行に移そうとした時、新たな問題が浮上した。
「ーーーうぐぅ!? ハァ……ハァ……ま、まさか……」
痛いほど高鳴る心臓の鼓動に、レグルスは、己が無敵では無くなっている事を自覚した。
より具体的に言うと、レグルスを無敵たらしめる権能、『獅子の心臓』が無効化されている。
レグルスの権能は欠点があり、「自分の心臓」の時間だけは止められない。その欠点を補うため、彼は「小さな王」と名付けた疑似心臓を妻たちの心臓に寄生させていた。
それが使えないということは、恐らくレグルスの妻たちは、主催者によって消されたのだ。
より具体的に言うと、レグルスを無敵たらしめる権能、『獅子の心臓』が無効化されている。
レグルスの権能は欠点があり、「自分の心臓」の時間だけは止められない。その欠点を補うため、彼は「小さな王」と名付けた疑似心臓を妻たちの心臓に寄生させていた。
それが使えないということは、恐らくレグルスの妻たちは、主催者によって消されたのだ。
「ああああ!! 下劣で卑劣な主催の屑め!! 人を誘拐するだけじゃ飽き足らず、僕の権能という権利まで侵害するのか!! しかも何の罪もない妻たちも殺すなんて、恥知らずの異常者め!! こんな非道極まりない行為、許されない、許される訳がない!!」
レグルスは子供の癇癪のように怒鳴り散らすも、何も状況は変わらない。
暫くして激情も収まったレグルスの脳裏に、ある天恵が沸き上がった。
暫くして激情も収まったレグルスの脳裏に、ある天恵が沸き上がった。
(まてよ、逆に考えるんだ……花嫁は、きっとこの催しで僕と出会う運命なのかもしれない。福音書の記述がそう示しているなら、僕は花嫁と出会う運命は決まっている。なら、何も問題はないんじゃないか?)
気休めではあったが、福音書が所有者の未来を示すことは事実。
その都合のいい解釈にレグルスは多少機嫌を良くし、漸く移動を始めた。
その都合のいい解釈にレグルスは多少機嫌を良くし、漸く移動を始めた。
「花嫁を迎えにいくのも夫の勤め。うん、さながら白馬の王子様って所かな。少しベタだけど、素敵じゃないか」
レグルスが移動してから半時ほど、やがて彼は参加者を見つけた。
森の奥、ミニスカワンピースという派手な装いの女性が、緑肌の醜悪な魔物の群れに囲まれている。
剣呑な雰囲気と、首輪のない存在が複数という異常事態に、そういえば、と思い出す。
あの姿も表さない卑怯で傲慢な主催者は、殺し合いを円滑に進めるため『えむぴーしー』とやらを場に放っていると言っていた。
首輪の類が無いのを見るに、あれが例の『えむぴーしー』の類いなのだろう。
武器と言えば粗末な棍棒や錆びたナイフ程度で、粗末なボロ切れを纏っただけの装いは同僚の暴食担当を連想させる。
なるほど、個として完成し満たされた自分とは違い、そこらの一般人では囲まれれば手にあまりそうだ。
森の奥、ミニスカワンピースという派手な装いの女性が、緑肌の醜悪な魔物の群れに囲まれている。
剣呑な雰囲気と、首輪のない存在が複数という異常事態に、そういえば、と思い出す。
あの姿も表さない卑怯で傲慢な主催者は、殺し合いを円滑に進めるため『えむぴーしー』とやらを場に放っていると言っていた。
首輪の類が無いのを見るに、あれが例の『えむぴーしー』の類いなのだろう。
武器と言えば粗末な棍棒や錆びたナイフ程度で、粗末なボロ切れを纏っただけの装いは同僚の暴食担当を連想させる。
なるほど、個として完成し満たされた自分とは違い、そこらの一般人では囲まれれば手にあまりそうだ。
「まったく、あんな下等な生物まで放って、そうまでして人が死ぬのを見たいのかな。とてもじゃないけど、その異常な趣向は僕には理解できないね。逆に理解したくもないけど」
正論を述べ終わると、レグルスは石つぶてを拾い上げ、『獅子の心臓』で時を止めた状態で投げつける。
世界から拒絶された石つぶては、背後の木々も何もかも巻き添えに、軌道上のゴブリンの群れを轟音を兼ねてぶっ飛ばした。
運良く余波を免れたゴブリンは、消し飛ばされた仲間を呆然と見やると、漸くレグルスの存在に気がついたようだ。
世界から拒絶された石つぶては、背後の木々も何もかも巻き添えに、軌道上のゴブリンの群れを轟音を兼ねてぶっ飛ばした。
運良く余波を免れたゴブリンは、消し飛ばされた仲間を呆然と見やると、漸くレグルスの存在に気がついたようだ。
「見れば見るほど気持ち悪いなぁ、その顔。下衆な我欲が見え透いてるよ。その行いも、そのあり方も、何もかも唾棄すべきものだ。僕は世界の調和を尊ぶ人間だけど、君たちみたいな害虫は駆除すべきだと思うし、その方が世界のためになるよね。彼女みたいな被害者を増やさないためにも、僕はあえて手を汚そう。そうして一人一人が労を惜しまず貢献することで、世界は廻っているんだからね」
小鬼に言葉は通じない。しかし、レグルスの歪さは伝わったのか、目敏い小鬼は一目散に逃げ出した。
しかし、レグルスは慌てる事なく、ただ少しだけ息を吐いた。
『時の制止した』吐息は、そのままゴブリンを引き裂き、中身を大地にぶちまける。
レグルスと名も知らぬ女性、両者を除くと全て居なくなった。
駆除を終えたレグルスは、唖然とする女性に向かって歩み出す。
そして、ヘタリこむ彼女に右手を差し出すと、優しく問いかけた。
しかし、レグルスは慌てる事なく、ただ少しだけ息を吐いた。
『時の制止した』吐息は、そのままゴブリンを引き裂き、中身を大地にぶちまける。
レグルスと名も知らぬ女性、両者を除くと全て居なくなった。
駆除を終えたレグルスは、唖然とする女性に向かって歩み出す。
そして、ヘタリこむ彼女に右手を差し出すと、優しく問いかけた。
「やあ、君。大丈夫かい?」
女性は、レグルスが自分を助けた事を理解したのか、真摯に礼をしてきた。
素直に感謝を口にする姿勢に、レグルスの機嫌が良くなる。
なるほど、格好は派手だが、顔は悪くない。美人だ。これで処女なら充分妻に加えるのも吝かではない。
いや、もしかしたら彼女こそ福音書にあった『花嫁』なのでは?
レグルスが口を開くより先に、女性が決心したように喋り始めた。
素直に感謝を口にする姿勢に、レグルスの機嫌が良くなる。
なるほど、格好は派手だが、顔は悪くない。美人だ。これで処女なら充分妻に加えるのも吝かではない。
いや、もしかしたら彼女こそ福音書にあった『花嫁』なのでは?
レグルスが口を開くより先に、女性が決心したように喋り始めた。
「わたくしと結婚してください。」
「ーーーーは?」
まさかの相手からの求婚であった。
自らを「キングダムの姫」と名乗った女は、レグルス自身も驚くほど従順に婚約に応じた。というか婚約してきた。
聞いたこともない国の王族を名乗る時点で、どこか狂っているのかとも思ったが、顔が良くて処女なら性格はどうでも良い。及第点である。問題はない。
レグルスは機嫌が良かった。
レグルスは多妻の身だ。これまで相応しい女性を娶った経験は多い。
しかし、レグルスが相手から求婚された経験は一度として無かった。
レグルスの基準でも十二分に美人と言える女性から、心から夫に求められるというシチュエーションは、彼の矮小な自尊心を大いに満たしていた。
元々『獅子の心臓』の常時発動には妻は必須だったが、まさかこんなに早く花嫁を見つけられるとは。
情報交換もそこそこに、上機嫌で新たな妻となった姫を侍らせる。
聞いたこともない国の王族を名乗る時点で、どこか狂っているのかとも思ったが、顔が良くて処女なら性格はどうでも良い。及第点である。問題はない。
レグルスは機嫌が良かった。
レグルスは多妻の身だ。これまで相応しい女性を娶った経験は多い。
しかし、レグルスが相手から求婚された経験は一度として無かった。
レグルスの基準でも十二分に美人と言える女性から、心から夫に求められるというシチュエーションは、彼の矮小な自尊心を大いに満たしていた。
元々『獅子の心臓』の常時発動には妻は必須だったが、まさかこんなに早く花嫁を見つけられるとは。
情報交換もそこそこに、上機嫌で新たな妻となった姫を侍らせる。
「さて、……そうだな、夫の財産を管理するのも妻の仕事だから、僕のデイパック、君に預けておくよ。
僕はこう見えて武闘派だから、こんなもの使わなくても負けないからね。あ、あと笑うのも表情を変えるのも禁止ね。僕はありのままの君に惚れたんだから。妻の顔が醜く歪むのなんて耐えられないんだ。大丈夫、怖がることはないよ。妻を守るのは夫の義務だからね」
僕はこう見えて武闘派だから、こんなもの使わなくても負けないからね。あ、あと笑うのも表情を変えるのも禁止ね。僕はありのままの君に惚れたんだから。妻の顔が醜く歪むのなんて耐えられないんだ。大丈夫、怖がることはないよ。妻を守るのは夫の義務だからね」
「はい」
「うんうん、実に素直で大変よろしい。さて、最初の夫婦の共同作業と言えば、この催しだね。記念に君に勝利を捧げるよ。その程度の労力は惜しまない。君はただ美しいままに僕を支えてくれるだけでいいんだ。分かった?」
「はい」
「君は素晴らしい女性だね。全く、君のように常識を弁えた人間がもっと世に増えてくれれば、世界は平和になるのにね。君もそう思うだろう?」
「はい」
ゴブリンの死体を背に、どこまでも歪な夫婦の会話が繰り広げられるのだった。
【レグルス・コルニアス@Re:ゼロから始める異世界生活】
[状態]:健康、『獅子の心臓』発動中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×3
[思考・状況]基本行動方針:主催者を被害者の正当な権利として殺す。
1:とりあえず優勝を目指す。
2:夫として妻(姫)を守る。
[備考]
参戦時期は5章直前。
現在「小さな王」を姫に寄生させています。
自分のデイパックを姫に預けています。
[状態]:健康、『獅子の心臓』発動中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×3
[思考・状況]基本行動方針:主催者を被害者の正当な権利として殺す。
1:とりあえず優勝を目指す。
2:夫として妻(姫)を守る。
[備考]
参戦時期は5章直前。
現在「小さな王」を姫に寄生させています。
自分のデイパックを姫に預けています。
【姫@ファイナルソード】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×3、レグルスのデイパック
[思考・状況]基本行動方針:キングダムに生還する
1:勇者様(レグルス)に従う
[備考]
主人公に救出される前からの参戦。
「小さな王」の効果により、レグルスの疑似心臓に寄生されています。姫に自覚はありません。
レグルスのデイパックを持たされています
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×3、レグルスのデイパック
[思考・状況]基本行動方針:キングダムに生還する
1:勇者様(レグルス)に従う
[備考]
主人公に救出される前からの参戦。
「小さな王」の効果により、レグルスの疑似心臓に寄生されています。姫に自覚はありません。
レグルスのデイパックを持たされています
【ゴブリン@ゴブリンスレイヤー】
NPC。狡猾で残忍、かつ極めて自己中心的で執念深い。
夜目が利き、暗所を好み、闇夜に乗じて害を振り撒く。
弱そうな参加者を積極的に襲い、基本的に女性は「孕み袋」にする。上位種もいるかもしれない。
NPC。狡猾で残忍、かつ極めて自己中心的で執念深い。
夜目が利き、暗所を好み、闇夜に乗じて害を振り撒く。
弱そうな参加者を積極的に襲い、基本的に女性は「孕み袋」にする。上位種もいるかもしれない。
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