「わ、私……生きてる…?」
会場のどこかで、クレマンティーヌは己の命を実感していた。
「嫌だ……やだ……」
同時に、とてつもない恐怖が彼女の四肢を震わせている。
地面に体育座りし、震えている様子は、普段の彼女を知る人物では想像もつかないほどに衰弱していた。
この催しに招かれる直前、クレマンティーヌは漆黒の戦士……いや、死の支配者の手によって命を絶たれた。
地面に体育座りし、震えている様子は、普段の彼女を知る人物では想像もつかないほどに衰弱していた。
この催しに招かれる直前、クレマンティーヌは漆黒の戦士……いや、死の支配者の手によって命を絶たれた。
格下と侮っていた相手は、その実、想像を絶する化け物だった。
マジックキャスターでありながら、腕力だけで己と渡り合い、最後には魔法すら使われず、鯖折りにされた。
彼女は常に強者だった。
残酷な死を与える側であり続け、弱者を残酷に殺す傲慢な強者であったし、それを常に楽しんでいた。
英雄級の実力を自負し、事実、人類種としては最高潮の実力を誇るクレマンティーヌ。
その心は、無慈悲な死の経験と、越えられない壁により折れた。
残酷な死を与える側であり続け、弱者を残酷に殺す傲慢な強者であったし、それを常に楽しんでいた。
英雄級の実力を自負し、事実、人類種としては最高潮の実力を誇るクレマンティーヌ。
その心は、無慈悲な死の経験と、越えられない壁により折れた。
ここに居るのは、ただ死に怯えるだけの敗者の姿だった。
「GORB!GORBB!!」
やがて、そんな塞ぎ込む彼女を取り囲む小柄な影が複数。
耳障りながなり声で興奮したように喋るゴブリンの集団。
それぞれ手に粗末な、しかし人の命を奪える最低限度の基準を満たす凶器を構え、眼前の獲物を包囲する。
耳障りながなり声で興奮したように喋るゴブリンの集団。
それぞれ手に粗末な、しかし人の命を奪える最低限度の基準を満たす凶器を構え、眼前の獲物を包囲する。
その様子を、クレマンティーヌは他人事のように感じていた。
身に纏うビキニアーマーの下でも想像したのか、興奮した先頭の小鬼が凶器を片手に飛びかかった。
身に纏うビキニアーマーの下でも想像したのか、興奮した先頭の小鬼が凶器を片手に飛びかかった。
ーー嫌だ。
本能だった。
戦士として鍛練し、体に染み付いていた技量が稚拙な攻撃を躱させる。
戦士として鍛練し、体に染み付いていた技量が稚拙な攻撃を躱させる。
「ーーッ!!」
クレマンティーヌは衝動的に、間抜け面を晒すゴブリンの顔面を殴り抜いた。
「GORB!?」
無抵抗だった獲物の突然の抵抗に、小鬼は反応すらできず絶命する。
撒き散らされる脳髄と糞尿。怒り狂ったゴブリンが飛びかかるも、奪い取った武器で呆気なく刺殺される。
その動作、戦闘技術、練り上げられた動きは健在だった。
撒き散らされる脳髄と糞尿。怒り狂ったゴブリンが飛びかかるも、奪い取った武器で呆気なく刺殺される。
その動作、戦闘技術、練り上げられた動きは健在だった。
「GORB!?GORBB!!!」
「GORB!!GORBR!!」
「GORB!!GORBR!!」
あっという間に半数の仲間を殺され、しかしなお頭数のあるゴブリンは脅すように威嚇を続ける。
そんな小鬼どもの視線には、微かな、しかし確かに、獲物であった筈のクレマンティーヌへの恐怖が存在していた。
そんな小鬼どもの視線には、微かな、しかし確かに、獲物であった筈のクレマンティーヌへの恐怖が存在していた。
他者の命を奪う感触と、向けられる恐怖の眼差し。
それらが心の化学反応を経て、彼女の陰りきっていた胸に火をつけた。
それらが心の化学反応を経て、彼女の陰りきっていた胸に火をつけた。
(そうだ!そうに決まってる!あんな化け物、そう簡単にぽんぽん沸いて貯まるか!)
脳裏に浮かぶ恐怖を誤魔化すように、クレマンティーヌは叫ぶ。
覇気、怒り、嘆き、ごちゃまぜになった何もかもを乗せた気迫に小鬼はたじろく。
覇気、怒り、嘆き、ごちゃまぜになった何もかもを乗せた気迫に小鬼はたじろく。
その隙を見逃すほど、クレマンティーヌは甘くはない。
しなやかな動作で飛びかかり、肉食獣のように機敏に、機械のように正確に、彼女は小鬼を処理していく。
振り下ろされる短剣が、握り締められた拳が、群がる小鬼をズタズタに引き裂く。
しなやかな動作で飛びかかり、肉食獣のように機敏に、機械のように正確に、彼女は小鬼を処理していく。
振り下ろされる短剣が、握り締められた拳が、群がる小鬼をズタズタに引き裂く。
「ハハ……アッハハハハッ!!!」
悲鳴と血飛沫に染まるにつれて、クレマンティーヌは徐々に満たされていく。
小鬼の悲鳴が、蹂躙される怪物の生き絶える絶叫が、彼女に生を実感させ、心の糧になっていった。
小鬼の悲鳴が、蹂躙される怪物の生き絶える絶叫が、彼女に生を実感させ、心の糧になっていった。
「GORB!!!GORBB!!!!」
小鬼が叫ぶ。”こんな筈じゃ無かった!あの野郎、騙しやがったな!”と、理不尽な死に抗議しているようだった。
小鬼が何を喚こうがクレマンティーヌにはどうでもいい。
ただ、殺す。いつものように、愛して狂って狂おしいほどに殺すだけ。
小鬼が何を喚こうがクレマンティーヌにはどうでもいい。
ただ、殺す。いつものように、愛して狂って狂おしいほどに殺すだけ。
そうだ、自分は強い!英雄の領域に踏み込んだ絶対的強者!そうである、そうでなきゃおかしい!
折れた心が、死に屈しかけていた精神に再び活力が漲る。
クレマンティーヌは戻りかけていた。
不死鳥のごとく復活をなしかけていた。
少し前までの、己の実力への自信に溢れていた頃に。
不死鳥のごとく復活をなしかけていた。
少し前までの、己の実力への自信に溢れていた頃に。
「GOB!?」
「ハァ……ハァ……」
最後の小鬼の脳髄を切り潰したクレマンティーヌは天を仰ぐ。
血濡れで酷い有り様だったが、彼女の心は晴れやかだった。
漲る決意は、優勝への渇望、強者としての復帰を望む覚悟である。
優勝すれば、願いを叶える。あの声は確かにそう言っていた。
血濡れで酷い有り様だったが、彼女の心は晴れやかだった。
漲る決意は、優勝への渇望、強者としての復帰を望む覚悟である。
優勝すれば、願いを叶える。あの声は確かにそう言っていた。
「殺ってやる……このクレマンティーヌ様が最強だって証明してやる!」
全ての参加者を殺し尽くし、より強く、より高みに、あのエルダーリッチを片手で殺せるほどの力を手に入れる。
そう決めたクレマンティーヌは、漸くデイパックを引っ掴むと、参加者を求めて歩き出そうとした。
そう決めたクレマンティーヌは、漸くデイパックを引っ掴むと、参加者を求めて歩き出そうとした。
「やぁ、クレマンティーヌ」
その声を聞くまでは。
歩みだそうとしたクレマンティーヌは、録画の停止ボタンを押した映像のごとく硬直していた。
彼女の視線の先には”死”が立っていた。
漆黒の鎧という装い、唯一前と異なる露出した顔は、皮も肉もない骸骨。
歩みだそうとしたクレマンティーヌは、録画の停止ボタンを押した映像のごとく硬直していた。
彼女の視線の先には”死”が立っていた。
漆黒の鎧という装い、唯一前と異なる露出した顔は、皮も肉もない骸骨。
アンデット。
エルダーリッチ。
漆黒の戦士。
エルダーリッチ。
漆黒の戦士。
そこに居たのは、自らを殺した化け物だった。
次の瞬間、クレマンティーヌは全身全霊を賭けて逃げた。
「ーーーっ!!?!」
言葉の体を成さぬ悲鳴を上げ、ただただ足を動かす。
復活したクレマンティーヌの闘争心は、再び完膚なきまでにへし折られたのだった。
復活したクレマンティーヌの闘争心は、再び完膚なきまでにへし折られたのだった。
【クレマンティーヌ@オーバーロード(アニメ版)】
[状態]:健康、死への恐怖(極大)、ゴブリンの返り血で血塗れ
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×3
[思考・状況]基本行動方針:死にたくない。
1:嫌だ嫌だ嫌だ……ッ!!
2:あの化け物も居るのかよッ!!
3:この……クレマンティーヌ様が……
[備考]
参戦時期は死亡後から。
[状態]:健康、死への恐怖(極大)、ゴブリンの返り血で血塗れ
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×3
[思考・状況]基本行動方針:死にたくない。
1:嫌だ嫌だ嫌だ……ッ!!
2:あの化け物も居るのかよッ!!
3:この……クレマンティーヌ様が……
[備考]
参戦時期は死亡後から。
ーーーー
クレマンティーヌが去った後。
残された死の支配者は、唖然としたように立ち尽くしていた。
残された死の支配者は、唖然としたように立ち尽くしていた。
瞬間、その姿が変貌する。
髑髏の顔はペンキで塗り固めたような白化粧に、漆黒の鎧は同じく白一色の道化服へと変化する。
やがて現れたのは、見た者の不安を駆り立てるような雰囲気の道化師(クラウン)だった。
髑髏の顔はペンキで塗り固めたような白化粧に、漆黒の鎧は同じく白一色の道化服へと変化する。
やがて現れたのは、見た者の不安を駆り立てるような雰囲気の道化師(クラウン)だった。
”それ”はオーバーロードでは無かった。
名をペニーワイズ。
デリーに潜む怪異であり、クレマンティーヌの知らぬ異世界の怪物であった。
デリーに潜む怪異であり、クレマンティーヌの知らぬ異世界の怪物であった。
「ウフフフ、アッハハハ!ギャハハハハハハハハハッ!!」
クレマンティーヌの恐怖の形、死の支配者に擬態していた道化師は邪悪に笑う。
強者でありながら、己から無様に逃げ出した人間(クレマンティーヌ)を、彼はただ嗤っていた。
強者でありながら、己から無様に逃げ出した人間(クレマンティーヌ)を、彼はただ嗤っていた。
「ウフフフ……そうさ、まさかあの子供たちのような人間が、そう簡単に居るわけがない!」
この地に参加者として存在してから、ペニーワイズは一縷の不安を抱いていた。
餌場として永く住み着いていたデリーの町で、唯一”それ”への恐怖を克服し、ペニーワイズを打ち倒した『負け犬たち(ルーザーズ・クラブ)』。
もしやこの地はそういった人間ばかりを集めているのではないかと、ペニーワイズは不安だったのだ。
餌場として永く住み着いていたデリーの町で、唯一”それ”への恐怖を克服し、ペニーワイズを打ち倒した『負け犬たち(ルーザーズ・クラブ)』。
もしやこの地はそういった人間ばかりを集めているのではないかと、ペニーワイズは不安だったのだ。
だからこそ、最初は自らクレマンティーヌを襲うこと無く、この地に居た矮小な同類を体よくけしかけたのだ。
しかし、それは全くの杞憂だった事が証明された。
他ならぬ人間の手によって。
しかし、それは全くの杞憂だった事が証明された。
他ならぬ人間の手によって。
ペニーワイズは視ていた。
己よりもずっと下等で矮小とはいえ、人ならざる者を容易く殺害するクレマンティーヌの姿を。
己よりもずっと下等で矮小とはいえ、人ならざる者を容易く殺害するクレマンティーヌの姿を。
あの女は強い。少なくとも、あの子供たちとは比較にすらならないほどに。
そんな相手も、ペニーワイズが少し本気を出せば、容易く恐怖に屈した。
ペニーワイズは確信した。この催しでは、己こそが強者だと。
そんな相手も、ペニーワイズが少し本気を出せば、容易く恐怖に屈した。
ペニーワイズは確信した。この催しでは、己こそが強者だと。
「ここは楽園!楽しい楽しい遊園地!皆が浮かぶ餌場だ!
私は恐ろしい捕食者!決して狩られる側ではない事を証明してやる!」
私は恐ろしい捕食者!決して狩られる側ではない事を証明してやる!」
クレマンティーヌの見事な逃げっぷりに上機嫌になったペニーワイズは、新たな獲物を探し始めた。
敗者復活戦。とりあえずの勝者はーーペニーワイズ!
【ペニーワイズ@IT それが見えたら、終わり】
[状態]:『ペニーワイズ』、健康、興奮
[装備]:赤い風船
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×3
[思考・状況]基本行動方針:捕食者として、この催しを楽しむ。
1:餌を探す。できれば子供が良い。
[備考]
参戦時期は『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』の前。
クレマンティーヌの恐怖を抱くもの(アインズ/モモン)を把握しました。
[状態]:『ペニーワイズ』、健康、興奮
[装備]:赤い風船
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×3
[思考・状況]基本行動方針:捕食者として、この催しを楽しむ。
1:餌を探す。できれば子供が良い。
[備考]
参戦時期は『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』の前。
クレマンティーヌの恐怖を抱くもの(アインズ/モモン)を把握しました。
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