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せおうもの

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せおうもの ◆piKeR1obXI




 そうかい。でも悪いな、今日の俺は――調子がいいんだ


***


 ああ――こいつは自分に自信があるんだな。

 そうジーコサッカーが理解したのは、自らの身体が拳によって吹き飛ばされ、
 森の木を1本、2本、と折った後3本目にヒビを入れながら叩き付けられて、
 血を吐いて地面に落ちるとともにうずくまり苦痛にもだえるその最中、
 相手からの追撃が一切なかったことに起因した。

「おい。終わりか?」

 視界が白黒にちかちかと光る。それでも立ち上がったジーコサッカーが見たのは、
 こちらに向かって構えを取りながらも不動にて余裕を見せる、赤い帽子の金髪の男だ。
 筋骨隆々にして美顔、そしてその瞳は、狼めいて飢えている。
 餓狼伝説。
 ジーコサッカーが先ほど遭遇し、襲い掛かり、たったいま返り討ちにあった相手だ。

「終わりかだと? 愚問だな……もうずっと前に俺は終わってるんだ」
「その隣のお嬢さんに上書きされて?」
「その前からだッ!」

 SM調教師瞳と身体を分かつジーコサッカーの自分が担当している部分に痛みが走る。
 それは身体の痛みでもあり、魂の痛みでもあった。

「ゲームとして作られたのに売れず、遊ばれず、放置され!
 中身を空けてみてもクソゲーの始末! 誰にも喜ばれなかったソフト! それが俺だ」
「俺だってクソゲーカタログに載るくらいにはダメな移植だったらしいけどな」

 SFC餓狼伝説は通称タカラ餓狼と呼ばれるダメ移植として評判である。

「それでもお前には続編がいる! 今だって人々の記憶に残り続けてるだろう!
 俺は残ってないんだよ! 中身さえ挿げ替えられたほうが有名で、
 監修したはずのジーコ本人にも忘れられて、もう俺は……誰にも見られずに死ぬために、
 生まれていたようなものだってことだろが……それが終わってなくて、なんだってんだ!!」

 痛みを怒りに変えるジーコサッカーは奮い立ち、餓狼伝説へと向かっていく。
 たった一本だけ自由に動かせる手脚を駆使し、餓狼伝説の命を折るための殺し合いを仕掛ける。
 しかし思ったようにはいかない。
 技がなかなか出せないと評判のタカラ餓狼に対してすら攻撃をヒットさせることができない。
 そこには自信の差があった。

 一本のゲームソフトとしては貶されようとも、シリーズが愛され続けている餓狼。
 一本のゲームソフトとして貶されたうえに、挿げ替えソフトがシリーズとして愛されているジーコ。

 餓狼は、自分の気のままに戦っている。
 主催をタイマンで倒すために他のソフトも倒す――そういう理由で。その理由は、
 すべてのゲームソフトへの復讐を掲げるジーコと同じように、ある種、自分勝手にさえ見える。
 それでもその選択は、餓狼が餓狼らしくあろうとする気持ちが生んだものだ。
 餓狼をプレイした人の、餓狼にはそうあってほしいと願う気持ちが、
 例えほんの少しであっても、彼のスタンスにフィードバックしている。彼はそれを背負っている。

 ジーコには何もない。そもそもプレイした人が、愛してくれた人がほぼいないのだから、
 プレイしてくれた人の気持ちを背負えるようなメモリーが何もないのだ。
 背負うものの差が、二人の強さの間に明確な違いを生んでいた。

 そして、それだけではない。自信の差は、もうひとつある。

「俺は腐っても格闘ゲーム! それに対してお前はなんだ?
 片方は確かにサッカーの為のソフトだ。だがもう片方は、エロゲーじゃないか?
 なあ――――――いったいお前は、どういうゲームなんだ?」
「俺は……「わたしは……」違う、俺は……!!」

 それは、自分のジャンルに対する明確な答え。
 2つの別なるソフトが融合した存在として喚ばれたジーコサッカーは、
 自分がスポーツゲームであるのか、それともエロゲーであるのか、自分でも分からないでいた。
 あやふやな存在と化してしまったジーコサッカー。勢いでごまかしていたそれに、餓狼がメスを入れれば、
 途端にそれは自問自答の渦へとジーコの思考を引きずり込んでいく。

「俺は……!!」

 俺は怒りだ。
 ジーコに分かっているのは、それだけだった。
 許さない。自分を忘れた全てのものを、自分の境遇を作った全てのものを。
 許さない、許さない、許さない!!
 その思いだけがROMの中で燃えていた。

 自らを焼き尽くすほどの怒りは、しかし自分の中でしか燃えていない。
 誰かのためではない。
 それだけでは、沢山の人に愛されたタイトルには勝ち続けられない――ここで勝ててもいつか敗ける。
 それだって分かっていた。最初の一撃を喰らったときに分かってしまった。
 足りない。足りないのだ。全てに復讐するには、もっと強い力が必要だった。

 どこにある。どこを探せば見つかる。
 戦闘が続く中、ジーコサッカーは己のROMの中を、潜る。そしてついに、彼女を見つけた。


「……SM調教師瞳」


 重なった中心点で、ジーコサッカーは見た。
 自分の半身であるSM調教師瞳の姿を。そして……彼女もまた、泣いていた。


「うおおおおおおおおおお、……ああああああああああああああ!!!!!」
「なんだと?」

 鋭い蹴りが、とどめをさそうと振り下ろされていた餓狼伝説のゲッタートマホークを、柄ごとへし折った。
 ジーコサッカーは立ち上がる。その目にはもはや、迷いはない。

「俺はジーコサッカー。そして、SM調教師瞳」
「何を……」
「どちらでもなくて、どちらでもある。これは。これは……俺「たち」の復讐だッッ!!!!!!」

 SM調教師瞳の身体はいまだ眠りについたままだ。
 だが、これまで使われていなかったジーコサッカーのもう片方の足が急に、
 驚く餓狼伝説を不意撃つ蹴りとして迫っていた。女子高生の脚。
 どこまでもか弱いはずの、虐げられるだけのはずの、にもかかわらずどこまでも鋭い、蹴り。
 餓狼伝説は、その蹴りを――避けられない。
 しかしそれでも。

「いいぞ、来いよッ……!! ク ラ ッ ク シ ュ ー ト !」

 出し辛いと言われている必殺技で、なんらかの思いが込められているであろうその脚に応じた。
 脚と脚が、交差する。そして火花が散り、炎が上がる。
 気がした。
 そういうエフェクトは――かからなかった。

 脚が引かれる。

「んだと!?」
「らあああああああッ!!!!」

 フェイント。クラックシュートをスカし、今度はジーコサッカーの蹴りが襲い来る。
 飛び上がり、脚を振り下ろす大技をスカされて、餓狼伝説は地に着く。硬直時間。
 その頭部にジーコサッカーの脚が迫る。
 もはやそれはフリーキックからガラ空きのゴールを狙うほどに容易いゲームだった。
 餓狼伝説は、死神の鎌めいたその靴先を間近に見て。それでも笑っていた。

「……Ha! 読み違えたか。仕方ねぇ。俺の伝説は――あんたに託そう!」
「そんなものは背負わねぇ」



 シュートが決まり、そこには首なしの餓狼伝説の死体だけが残った。

「俺が背負うのは俺とこいつと、俺と共に犠牲になった数千の俺……それだけだ!!!」


【餓狼伝説 死亡】


 キキキキキキィ!!
 甲高いブレーキ音が、地図で見て南東の森にこだまする。
 これは歩きで森の中を進んでいたスーパーマリオカートが足を止めた音だった。
 車に乗ってるわけでもないのにそういうエフェクトがかかるとは、さすが王者の貫録と言えよう。

「……何だ、下等な雑種どもの争いの跡か」

 スーパーマリオカートが発見したのは、いまだ熱の残る、餓狼伝説とジーコサッカーの争いの跡。
 首を失い地に伏す赤シャツの男の死体と、そのそばで木にもたれかかり気を失っているジーコサッカーの姿だった。
 最終的に餓狼伝説を倒せたとはいえ、ジーコサッカーの喰らったダメージはバカにならないものがあった。

 殺せたという緊張の緩和が彼を眠りにいざない、いま彼は休んでいるところだった。
 そこへスーパーマリオカートがやってきたというわけだ。

「片方は生きているか? しかしこの男、いや女……」
「彼に手を出さないで」
「ほう」

 スーパーマリオカートに向かって発せられたのは女の声だった。
 ジーコサッカーが休んでいる今だけ、代わりにSM調教師瞳の意思が表面に出ているのだ。

「違法ソフト、SM調教師瞳か」
「世界最高に売れているソフトのあなたが、私なんかを覚えててくれるとは光栄だわ」
「王は下々をすべて支配するために下々に精通する必要がある。それだけのことよ。
 それで? 合法的に売り出されてすらいない、5万にも及ばぬ程度の売り上げのお前が、我に何を頼むと?」
「彼を見逃してほしい、って言ったの」
「どうしてそんなことをする必要がある」
「私は……私もまた彼と同じ、復讐者だからよ」

 SM調教師瞳は語った。自らもまた、ジーコサッカーと同じく全てを恨んでいると。

「他のソフトを書きかえてしか生まれることのできなかった私は、生まれながらの犯罪者だわ。
 私は見てきた、私に書きかえられ中身を喰われていくソフトの断末魔を、
 そんな私で楽しむ違法者の下種な笑みを、なにより私で金儲けをした開発者たちの黒い心を、
 そして、そんな悪者どもを楽しませるために残酷な描写で痛めつけられる瞳を……」
「生まれるべきではなかったお前を生んだ奴らに、復讐するというわけか?」
「そうよ。私はもう泣かない、何だってやって見せる。
 でもそのためには、私をゲームとして繋ぎ、動かしてくれるこのジーコサッカーが必要なの、だから」
「だから見逃してほしい、と」

 フン、とスーパーマリオカートは鼻で笑った。

「苦し紛れだな、真なる“雑種”のソフトよ。それは我がお前を見逃す理由にはなっていない。
 それくらい分かっているのだろう。それでもあきらめられず、みじめに王へ許しを乞うているわけだ。
 隣で眠っている男がこれを聞いたら、どう思うかね……。
 奴隷根性の染みついた片割れの、プライドの欠片のない頼みごと! まったく傑作であることよ」
「……」
「いいだろう」
「え……」

 SM調教師瞳は驚いた。馬鹿にするようなことをさんざん言っていたスーパーマリオカートが、
 自分の無茶な頼みを、飲むと言ったことに。

「いいだろうと言ったのだ。我はお前のような下等の下等、低俗なソフトに構っている暇などない。
 先ほど少々、クズの極みのようなソフトに恥辱を受けてな……そいつへの怒りで前しか見れん。
 みすぼらしく地面を這いつくばりながら足掻くソフトになど目線も行かぬということよ。運が良かったな」
「……う」
「片割れが起きたら伝えてやれ。寛大なる王の慈悲によって自分が見逃されたことを、こと細かくな。
 そして876万のファンを背負うこの王が、いつでも貴様らの挑戦を受け、退けてやることを約束するともな」

 馬鹿みたいに笑いながら。
 ふんぞり返るエフェクトを放ってどこまでも見下すスーパーマリオカートが歩いていくのを、
 SM調教師瞳は屈辱に耐えながら、見送った。
 いいのだ。汚れ仕事は、汚い犯罪ソフトである自分が背負えばいい。
 私は私が塗りつぶしてしまった彼、ジーコサッカーの想いを遂げさせるために動くだけだ。

「私はSM調教師瞳、そしてジーコサッカー……これは私たちの、戦いなんだから」

 今はただ、傷を癒す。
 そしていつかきっと。この屈辱の現実だって、書き換えてみせる。




【D-5 森】


【ジーコサッカー】
【状態】わりとボロボロ
【装備】なし
【道具】支給品一式x3、不明支給品x3
【思考】
1:皆殺しだ。
2:SM調教師瞳もまた、形は違えど復讐者だ。
※外見は左半身が1994年当時のジーコ、右半身がSM調教師瞳の瞳です。
※SM調教師瞳はジーコサッカーが眠っているときだけ表に出てきます。

【スーパーマリオカート】
【状態】ダメージ(小)
【装備】グレートマジンガー(2m大・中破)@スーパーロボット大戦
【道具】支給品一式×2
【思考】
1:全てのゲームソフトはこの我(オレ)の前にひれ伏すがいい!
※外見は泊進ノ介です。
※能力は「騎乗・操縦技術」です。あらゆるマシンを操縦することができます。
※どうやってグレートマジンガーに乗ってるのかはわかりませんが、とにかく自分より小さい乗り物でも何でも乗れます。


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