南光太郎が相羽シンヤを連れて役場を脱出してから、数十分が経過した。
シンヤを役場の仲間たちから離すという光太郎のもくろみにより、二人はすでに役場からかなり離れた場所に到達していた。
その点だけを見れば、光太郎が勝っていると言えるだろう。
だがお互いがその体に負った傷の深さを比べれば、シンヤが圧倒的に優勢だった。
それもそのはず。光太郎はシンヤの初撃で片腕を折られており、戦闘力が大幅に低下しているのだ。
それに加えシンヤを倒すことより役場から引き離すことを優先していては、ただ殺すことだけを考えているシンヤに手数で劣るのは必然と言えよう。
シンヤを役場の仲間たちから離すという光太郎のもくろみにより、二人はすでに役場からかなり離れた場所に到達していた。
その点だけを見れば、光太郎が勝っていると言えるだろう。
だがお互いがその体に負った傷の深さを比べれば、シンヤが圧倒的に優勢だった。
それもそのはず。光太郎はシンヤの初撃で片腕を折られており、戦闘力が大幅に低下しているのだ。
それに加えシンヤを倒すことより役場から引き離すことを優先していては、ただ殺すことだけを考えているシンヤに手数で劣るのは必然と言えよう。
「ハア……ハア……。うおおおお!!」
荒い息を吐きながら、光太郎はすでに血で染まった右手でアッパー気味の一撃を繰り出す。だがその拳は、シンヤにあっさりとかわされてしまった。
さらにその直後、シンヤの振るうバットがカウンターで光太郎の胴に叩き込まれる。
さらにその直後、シンヤの振るうバットがカウンターで光太郎の胴に叩き込まれる。
「うぐあっ!」
苦悶の声を漏らし、光太郎はアスファルトの地面に膝をついた。
(まずい……。今のであばらがやられたか? さすがにこれは……)
痛みと焦りで、顔中に汗を浮かべる光太郎。そんな様子を見ながら、シンヤは優越感に満ちた不気味な笑みを浮かべる。
「さんざんコケにしてくれたが……。もうこれで終わりのようだな。さっさと死にな!」
体勢を崩したままの光太郎に引導を渡すべく、シンヤはバットを大きく振りかぶる。
だがその瞬間、彼の耳元を弾丸がかすめていった。
だがその瞬間、彼の耳元を弾丸がかすめていった。
「なんだ!?」
不測の事態に思わず取り乱すシンヤに向かって、弾丸はさらに一発、もう一発と飛んでくる。
だがそのいずれもが、シンヤを捉えることなくあさっての方向に飛んでいった。
だがそのいずれもが、シンヤを捉えることなくあさっての方向に飛んでいった。
「ちっ、当たりゃしねえ。やっぱり俺に、こういうのは向いてねえか」
そんなつぶやきを漏らしながらシンヤに近づいてくるのは、銃弾を放った張本人。
アサルトライフルを手にした、城茂だった。
アサルトライフルを手にした、城茂だった。
「先輩……!」
「よう、光太郎。派手にやられちまったみたいだな。選手交代だ。後は俺に任せろ」
「すみません、先輩……」
「よう、光太郎。派手にやられちまったみたいだな。選手交代だ。後は俺に任せろ」
「すみません、先輩……」
沈んだ声で呟く後輩に、茂は無言で手を振る。そして、シンヤの目前に立った。
「つうわけだ。こっから先は俺が相手してやるぜ」
「ふん、出しゃばらなければもう少しぐらいは長生きできたものを……」
「ふん、出しゃばらなければもう少しぐらいは長生きできたものを……」
茂に対し忌々しげに吐き捨てると、すぐさまシンヤはバットで殴りかかる。
だが茂は、その一撃をライフルの銃身で受け止めた。
だが茂は、その一撃をライフルの銃身で受け止めた。
「せっかちだねえ、相羽ちゃん。カルシウム足りてねえんじゃねえの?」
茂はバットを横にそらすと、間髪入れずシンヤの脇腹に回し蹴りを叩き込む。
さらにライフルを手放し、相手の顔面に拳を叩き込んだ。
さらにライフルを手放し、相手の顔面に拳を叩き込んだ。
「おらおら、どうしたあ!!」
茂はなおも手を緩めず、拳の連打をシンヤに見舞う。防御に徹するしかないシンヤは、徐々に後退していく。
だがいつまでもそんな状況に甘んじているほど、シンヤは寛大ではない。
だがいつまでもそんな状況に甘んじているほど、シンヤは寛大ではない。
「調子に乗るんじゃない、ゴミが!」
被弾覚悟で、シンヤは強引に回し蹴りを放った。しかし攻撃を受けながらの蹴りでは、重心が定まらずたいした威力は出ない。
蹴り自体は命中したものの、その威力は茂にとって有効打とはならなかった。
蹴り自体は命中したものの、その威力は茂にとって有効打とはならなかった。
「効きやしねえんだよ!」
不敵な笑みを浮かべながら、茂は渾身の右ストレートをシンヤに叩き込む。
シンヤの体は後ろに大きく吹き飛び、無様に尻餅をついた。
シンヤの体は後ろに大きく吹き飛び、無様に尻餅をついた。
(くそっ! くそっ! くそっ! クズの分際で、僕をコケにしやがって! 許さないぞ、城茂!)
狂気の光を目に宿しながら、シンヤはゆっくりと体を起こす。
その心には、怒りと闘争心が荒れ狂っていた。だがそんな心の内とは裏腹に、かなりのダメージを受けた肉体はこれ以上の戦いを拒絶してしまう。
その心には、怒りと闘争心が荒れ狂っていた。だがそんな心の内とは裏腹に、かなりのダメージを受けた肉体はこれ以上の戦いを拒絶してしまう。
(ちくしょう、なんでこんな事に……! ここで逃げるなんて、僕のプライドが許さない!
どうにかしてこいつをぶち殺す方法は……)
どうにかしてこいつをぶち殺す方法は……)
その時シンヤの視界に、あるものが映る。
(そうか……あれを利用してやれば……)
起死回生の策を思いついたシンヤの顔に浮かぶのは、悪魔の笑み。
「おいおい……。頭打っておかしくなったんじゃねえだろうな……」
不気味な笑みを目の当たりにして、さしもの茂もたじろいでいた。だが、シンヤにとってそんな事実はどうでもいいことである。
「余計な心配、どうもありがとう。僕はいたって正常だよ」
醜悪な笑みを消さぬまま、シンヤは右腕を振りかぶる。そして、おのれの獲物であるバットを勢いよく放り投げた。
(なんだ、どこに投げて……)
見当外れの方向へ飛んでいこうとするバットを見て、茂は頭に疑問符を浮かべる。
だがすぐに、彼はその答えに気づいた。
今、自分の後ろにあるもの。それは重傷を負っている光太郎の体だ。
だがすぐに、彼はその答えに気づいた。
今、自分の後ろにあるもの。それは重傷を負っている光太郎の体だ。
(この野郎、光太郎の方を狙って……!)
シンヤがバットを投げてから、ここまでに経過した時間はほんのわずか。そしてそのわずかな時間が、勝負の行方を大きく変えた。
茂の選択は、自分の体を盾にして光太郎をかばうこと。結果としてその行為は、バットの直撃による多大なダメージを引き込む。
そうなれば、当然天秤はシンヤに傾く。
シンヤはすかさず鉄パイプを取り出し、崩れ落ちようとする茂の脇腹にそれを叩き込んだ。
さらに、完全に茂が倒れたところでもう一撃。今度は、後頭部へ鉄パイプを振り下ろす。
鮮血が舞い、茂は動かなくなった。
茂の選択は、自分の体を盾にして光太郎をかばうこと。結果としてその行為は、バットの直撃による多大なダメージを引き込む。
そうなれば、当然天秤はシンヤに傾く。
シンヤはすかさず鉄パイプを取り出し、崩れ落ちようとする茂の脇腹にそれを叩き込んだ。
さらに、完全に茂が倒れたところでもう一撃。今度は、後頭部へ鉄パイプを振り下ろす。
鮮血が舞い、茂は動かなくなった。
◇ ◇ ◇
ああ? どこだ、ここ。俺はいったい何を……。
『なあ、五郎』
『なんだ?』
『なんだ?』
あれは……。中学の頃の俺と五郎? ってことは……。これが話に聞く走馬燈ってやつか?
『あれなんだ? さっきの体育で言ってた、すとろんぐとか……がー……ってやつ』
『「STRONGER」のことか? お前、もう英語で比較級は習っただろ』
『ああ、まあな』
『強いの比較級、つまり「より強く」だ。今の俺たちにふさわしい言葉だと思わないか?
俺たちはまだガキだ。これからもっともっと強くなれる。そしていつかこれ以上ないくらいに強くなって……二人で栄光を掴もうじゃねえか』
『おうおう、言ってくれるねえ。そこまで期待されたんじゃ、俺も頑張らないとな』
『「STRONGER」のことか? お前、もう英語で比較級は習っただろ』
『ああ、まあな』
『強いの比較級、つまり「より強く」だ。今の俺たちにふさわしい言葉だと思わないか?
俺たちはまだガキだ。これからもっともっと強くなれる。そしていつかこれ以上ないくらいに強くなって……二人で栄光を掴もうじゃねえか』
『おうおう、言ってくれるねえ。そこまで期待されたんじゃ、俺も頑張らないとな』
……ああ、そうだ。俺は、あいつの分まで強くなると誓ったんだった。
だったら……こんなところでくたばってられねえよなあ!
だったら……こんなところでくたばってられねえよなあ!
◇ ◇ ◇
「何?」
シンヤは、驚きを隠すことが出来なかった。光太郎を次なる犠牲者にしようと歩き始めた矢先、間違いなく殺したはずの茂に足を掴まれたのだ。
「お前、まだ息が……」
シンヤの言葉など意に介さず、茂は彼の体を這い上がるようにして自分の体を起こしていく。
「くそっ! 離れろ!」
たまらず、シンヤは茂の体に何発も拳を叩き込む。しかし、茂はびくともしない。
やがて、茂の手はシンヤの首にはめられた金属のリングにかけられた。
やがて、茂の手はシンヤの首にはめられた金属のリングにかけられた。
「おい! 何をする気だ!」
「ST……」
「ST……」
尋常でない握力を、首輪にぶつける茂。すると、シンヤの首輪から電子音が流れ出す。
首輪が力ずくで外されることを防ぐための、加圧センサーが作動したのだ。
首輪が力ずくで外されることを防ぐための、加圧センサーが作動したのだ。
「ふざけるな! やめろ!」
「RON……」
「RON……」
死にものぐるいで、茂を突き放そうとするシンヤ。だが、茂の手は首輪から離れない。
「やめ……!!」
「GERRRRRRRR!!」
「GERRRRRRRR!!」
茂の雄叫びとほぼ同時に、爆発が起きる。爆発は、シンヤの頭部と茂の両手を飲み込んだ。
◇ ◇ ◇
「先輩! しっかりしてください、先輩!」
この声……。光太郎か……。俺だってしっかりしたいが……ちくしょう、無理か……。
情けねえ……。俺はもっともっと強くならなきゃいけないはずなのによ……。
ああ、気が遠くなってきた……。五郎、風見先輩、チンク先輩、すまねえ……。
約束……守れねえわ……。
だけどせめて、俺たちの魂をこいつに……。最後に少しだけ動いてくれ、俺の口……。
情けねえ……。俺はもっともっと強くならなきゃいけないはずなのによ……。
ああ、気が遠くなってきた……。五郎、風見先輩、チンク先輩、すまねえ……。
約束……守れねえわ……。
だけどせめて、俺たちの魂をこいつに……。最後に少しだけ動いてくれ、俺の口……。
「こ……た……ろ……」
「なんですか、先輩!」
「勝……て……」
「なんですか、先輩!」
「勝……て……」
たったこれだけの言葉で、俺の真意が伝わったかどうかはわからない。
だが、こいつならきっとわかってくれるはずだ。後は頼んだぜ、後輩……。
だが、こいつならきっとわかってくれるはずだ。後は頼んだぜ、後輩……。
【1番 相羽シンヤ 死亡】
【16番 城茂 死亡】
残り13人
【16番 城茂 死亡】
残り13人
【34番 南光太郎】
【学年】高1
【状態】左腕及び肋骨数本骨折
【所持品】金属バット、鉄パイプ、スタングレネード×2、アサルトライフル
【能力】知力:C 体力:S 歌唱力:E
【学年】高1
【状態】左腕及び肋骨数本骨折
【所持品】金属バット、鉄パイプ、スタングレネード×2、アサルトライフル
【能力】知力:C 体力:S 歌唱力:E
【1番 相羽シンヤ】
Former
Next
死亡
【16番 城茂】
Former
Next
死亡