A Distinctive Comrade
<What a queer tale!>
『作戦会議』という名の情報交換と、今後の方針の確認を済ませたぼくと梨花ちゃんは民家を出た。
『鬼』の件への危惧は未だに頭の中に存在しているが、だからといって有効な対策があるわけではない。
しかし、自他への危険という理由でこの少女をここに置き去りにすることはできなかった。
その厚意が警官としてか、大人としてか、男性としてかは判然としなかったが、とりあえずは梨花ちゃんをそばに置いておくつもりだ。
「それじゃあ、警察署に向かうけど、いいかな」
「はいなのです。エスコートよろしくですよ、風海」
「ははは。努力するよ」
よもやこんなに小さな女の子の護衛をするとは。
入庁した頃にはそんなこと考えもしなかったな。
あの頃はまだキャリアとしての理想も現実もあったし、
非常識な事件と接することもなかった。
順当に行けば、警視総監は無理でも警視監くらいにはなれたはずなのに。
どこで道を間違えたんだろう。
目頭を押さえたくなるような郷愁に浸っていると、
霧に塗れた視界の中に、巨大な建物が過ぎった。
看板には英語で『警察署』の表記。
おっと、危うく通り過ぎるところだった。
「みぃ。ここですか?」
「うん、ここにぼくと同じ警察の人がたくさんいるんだ」
梨花ちゃんを安心させようとそう言ったが、彼女は不安そうに眉をしかめた。
「でも、入るのはやめておいた方がいいですよ。風海には聞こえないですか?」
「え?」
ぼくは正面にある大きな扉に耳を近づけた。
すぐに鼓膜がその異常を感知して、背中が嫌な汗を流す。
呻き声、悲鳴、銃声、何かが爆ぜる音。液体の飛び散る音、硬いものが壊れる音……。
秩序の権化たる場所には似つかわしくない、むしろ殺人現場にお似合いなものの数々。
子ども特有の敏感な感覚はいち早くそれを察知していたのだ。
こんなところに助けを求めるのは、窃盗犯に荷物を預けるようなものだろう。
「どうするですか?」
「どうしようか」
警察署から少し離れたところで、ぼく達は争いの渦中を眺める。
交通事故が起きたのにパトカーが一台も来ない理由がわかった。
内ゲバ、クーデター、テロ……。現代の日本ではめったに拝めない運動が、どうやらここで起こっているようだ。
あるいは……。いや、そういう考えは止めておこう。そうだとは思いたくない。これは、ここの住民の問題なのだ。
いくら警察官でも、外国の事件に許可なく干渉はできない。それ以前に、護衛対象を危険に晒すことはできない。
時間か政府が解決するのを待つしかないだろう。問題は、これからどうすべきか、ということだ。
「誰か来ましたです」
梨花ちゃんの声に導かれるようにそちらを見ると、一人の老人(東洋人のようだ)が走ってきた。
彼はそばの看板を見上げ、その建築物が警察署だと認識すると、一目散に入っていく。
「あ――――」
危ないですよ、という声がぼくの喉から出るより速く、扉は開き、閉まる。
霧でよく見えなかったが、血を流していたようだ。その状態で病院ではなく、ここに来たということは、恐らく援軍か何かだろう。
民衆の暴動は首謀者から始まり、周囲の人間がどんどん巻き込まれていく。今の人もそういう流れの中にいるのかもしれない。
「とりあえず、ここから離れようか」
「みぃ」
こんなところにいても危険なだけだ。梨花ちゃんもそれを察したらしく、首を縦に振ってくれた。
「梨花ちゃんはどうしてここに来たの?」
「みぃ……。気がついたらここにいたのですよ」
「そうか。ぼくもだよ」
橋の上から水面に視線を落とす。不安定な自分の姿が映っている。
梨花ちゃんは雛見沢という集落に住んでいるらしい。
そこでは仲間たちと仲良く暮らしていて、その人達もここに連れてこられているそうだ。
その証拠となる名簿を見せられた時、ぼくは予想外の驚きを抱く羽目になった。
『式部人見』
『霧崎水明』
『小暮宗一郎』
人見さんの名前が知人の中で先頭だったので、初めは行方不明者リストだろうと思っていたが、
それでは兄さんや小暮さんの表記に説明がつかない。そんな疑念が顔に出ていたのだろう、
梨花ちゃんがもう一枚、資料を恐る恐る渡してくれた。
そこに書かれた『ルール』に目を通した時、ぼくは言葉を失った。
殺し合いの扇動。一言で済ませるなら、そういった文面だった。
生き残れるのは一人だけ。このルール通りならば、ぼくがここから脱出するためには、あの三人に手を掛けなくてはならないことになる。
冗 談 じ ゃ な い !
これが梨花ちゃんを『鬼』にさせたというなら、なるほど、わからない話ではない。
ぼくだって胸の内から巻き起こる感情でどうにかなりそうだった。
言うまでもなく、ぼくには“そういうつもり”は一切ない。
早く三人と合流して、こんな場所から逃げだそう。
……いや、それだけではだめだ。梨花ちゃんと彼女の友達も保護しなければ。
問題は、ぼくらのように殺人に否定的な人間がどれだけいるか、ということだ。
《
4. ご 褒 美
最後の一人にはご褒美が用意してあります。頑張って殺してください。
》
ご褒美とやらに釣られる人だっているかもしれない。
万が一そうだった場合、できることならそういった人物は拘束したいところだが、装備も人材も不足している。
現時点では諦めるしかないだろう。
……そうだ、まだ問題はある。名簿以外の人間はどう対応するか、だ。
名簿に載っている人間はここに強制的に連れてこられた可能性が高い。
しかし、この街に住んでいる人間はどうなのだろうか。
先程の警察署での戦闘は連れてこられた人間によるものでなはく、ここの住民によるものだと思いたいが、
そうだとして、それがルールに該当するのだろうか。
《
1. 殺 せ
この街から生きて帰りたいのなら、皆殺して最後の一人になること。
》
《
4. ご 褒 美
“最後の一人”にはご褒美が用意してあります。頑張って殺してください。
》
名簿に該当しない人物までこのルールに沿っているとなると、
参加者はかなりの人数になる。
では、先程の暴動は、ルールによる殺し合いだった?
そうだとしたら、止めるべきだったかもしれない。
人見さんたちが巻き込まれている可能性だってあったわけだし。
いや、でも梨花ちゃんを巻き込むわけには……。
(まるで手が足りない‥…)
普段から少人数で行動していたが、それでうまくいっていたのは、『警察』という組織があってこそだ。
一人の警官の力など、たかが知れている。
せめてあと一人、頼りになる人がいてくれれば……。
ぼくがため息を吐きだすのと、周囲を震わせる轟音が飛んできたのは、ほぼ同時だった。
正午を告げるサイレンのようなそれは、あまりに場違いのように思える。
それに呼応して霧が晴れ、街の姿がつまびらかになっていく。
「――!」
覗き込んでいた川は赤く染まり、地面は奇妙な質感を帯びた。
《
2. サ イ レ ン で 世 界 は 裏 返 る
生き残りたいならサイレンを聞き逃さないこと。何が起きるかはお楽しみ。
》
つまり、裏返った世界がこれということなのだろうか。
すっかり錆びた金属と化した橋の上を凝視していると、小さな手がぼくの服を掴んだ。
「風海、これはなに……?」
困惑した様子で問う梨花ちゃんに答えを返せない自分が情けない。
慰めになるかどうかはわからないが、少女の手をそっと握る。
「ごめんね、ぼくにもわからないんだ」
オカルトにはずいぶん慣れたと思っていたが、それは日本基準の話だったようだ。
グローバルスタンダードにおいて、自分の経験は大したことないらしい。
今度は逃れようがない。暗い街をざっと見まわしたが、変化のない場所はまったくないのだ。
これから逃れるには、街から脱出するしかないだろう。しかし、どうすれば……。
ドスドスドスドス。
何度目かの思案をしようとした時、聞き慣れた音が耳に飛び込んできた。
新鮮な体験しかしていない場所で感じるこの懐かしさ。
それはぼくの興味を引くには充分過ぎるほどだった。
梨花ちゃんにとってもそうだったようで、彼女の手がぼくを動かし、橋を渡らせる。
暗闇で見づらいが、そこにいたのは頼れる部下だった。
「こ――」
声を掛けようとしたが、直前で口を閉じる。そしてすぐに梨花ちゃんを抱き寄せ、そばにある建物の陰に隠れる。
たしかにそこにいたのは自分の部下の小暮宗一郎だったが、どこか様子がおかしい。
着衣は乱闘の後のように乱れ――――
血走った目が鋭い視線をあちらこちらに飛ばし――――
興奮した猛獣のように荒い息を吐き続け――――
猟銃を構えてその巨体を走らせている。
どう贔屓目に見ても、『一人くらいは殺しちゃってます』といった感じだ。何かあったのだろうか。
第三者の一般人が今の彼を見れば、一目散に逃げ出すか、泣いて許しを請うだろう。
「風海、あの危険極まりない男を知っているの?」
腕の中の梨花ちゃんがわずかに顔を赤くして問う。
強く抱きすぎたかな。そっと力を緩めて少女を解放する。
「一応ね。ところで、それが素の口調かな?」
すると梨花ちゃんは驚いた顔をして口を押さえる。
あんなことが起これば、化けの皮も現れるだろう。
彼女は一度ぼくに背を向けて、すぐにくるりと振り返る。
「みぃ? 風海が何を言っているか、ボクにはちんぷんかんぷんなのですよ。にぱ~」
「ごめんごめん。変なこと聞いちゃったね」
こういう場合、素直に向こうに合わせてやるのが“大人”というものだ。
ぼくは自分の成長に感心しつつ、視線を小暮さんに戻す。
彼はここから少し離れたガソリンスタンドの中に入っていった。
あまりの変貌に一度躊躇してしまったが、上司が部下を怖れてどうする。
早く合流しないと。
「そっちへ行っちゃだめなのです」
追跡しようとしたぼくを小さな手が止める。
当然かもしれない。こんな小さな子から見れば、
今の小暮さんは鬼同然だろう。そういえば、この子も『鬼』だった。
無理に彼と会わせて、もし暴走してしまったら捜索どころではなくなる。
さて、どうしよう。
自分のことだけなら楽観視もできるが、梨花ちゃんのこともある。
迂闊な行動は許されない。きちんと冷静に、客観的に状況を判断し、行動しなければ。
ぼくは――――――
⇒
小暮さんの後を追うことにした
梨花ちゃんを連れて素早く避難した
◆ 何もかも諦めて梨花ちゃんとこの街で暮らすことにした
【C-2跳ね橋制御室付近/一日目夜】
【古手 梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康。L3-。鷹野への殺意。自分をこの世界に連れてきた「誰か」に対する強烈な怒り。
[装備]:山狗のナイフ
[道具]:懐中電灯、山狗死体処理班のバッグ(中身確認済み。名簿も入っていました)
[思考・状況]
基本行動方針:この異界から脱出し、記憶を『次の世界』へ引き継ぐ。
1:あの大男を追うなんて冗談じゃない。
2:自分をこの世界に連れてきた「誰か」は絶対に許さない。
3:風海は信用してみる。
※皆殺し編直後より参戦。
※名簿に赤坂の名前が無い事はそれほど気にしていません。
【風海 純也@流行り神】
[状態]:健康。梨花に対する警戒心。
[装備]:拳銃@現実世界
[道具]:御札@現実、防弾ジャケット@ひぐらしのなく頃に、防刃ジャケット@ひぐらしのなく頃に
射影器@零、自分のバッグ(小)(中に何が入っているかはわかりません)
[思考・状況]
基本行動方針:サイレントヒルの謎を解き明かし、人見さんたちと脱出する。
1:どうしよう。
2:人見さんと兄さんを探す。