Sensible solution = Realistic Conception






<Credit/Wisdom/Thought>

{It is true that the ability
to be puzzled is the beginning of wisdom.}




 ――――まず状況を整理しよう。
 自分は気がついたら異境の地にいた。
ここがアメリカのサイレントヒルであるかどうかはわからないが、暫定的にそう考えておく。
現在地は調査を続けていけば、いずれわかるだろう。
 次に、失踪した北条悟史(プラーガ)と『あるもの』。
前者は外見がわかるが、後者はわからない。
北条悟史は発見次第、経過・結果を調べておくとして、『あるもの』は基本的に諦めた方がいいだろう。
そもそも、姿形の知れぬものを捜す術などない。


 優先順位としては、

・サイレンヒルの脱出。
・北条悟史の捕獲・研究。

 当面はこうなる。さらに、これをもとに方法論を構築すると、

・サイレントヒルの調査。

 これに尽きる。上述の二項目はこれで対処できるのだ。


(さて、どうしたものかしらね)
 鷹野はイライラを何とか抑え、西洋風のおぼろげな街並みを見まわす。
異国で困った時は大使館に頼るのが妥当なのだが、付近にそれがあるのだろうか。
あるいは警察・市役所……そういった公共機関でもいいのだが。
生憎、地図も指針も持ち合わせていない。人に尋ねようにも、ここはまるで人の気配――生命の感覚とも言える――がまるでない。
とりあえず歩くことも考えたが、無闇に動くのは体力の浪費につながる。遭難した場合、助けが来るまでじっとしているのがセオリーである。
 どう動くべきか、彼女は悩んでいた。情報が、手段が少なすぎる。こういう時、一つのミスが全てをダメにするものだ。
 と、そこで。


 サイレン。

 冥府からの声。

 轟音。


 耳を劈く大きな音が彼女の意識を強制的にそちらへ向け、次に周囲の激変を認識させる。
「これは……」
 霧の消失。街の腐食。闇の出現。
 科学的・常識的な見地ではありえない現象。少なくとも現代のレベルでは説明できない。
(催眠、幻覚、迷彩……可能性はあるにはあるけど、どれも現実的じゃないわね)
 イライラを引っ込めた胸に好奇心が躍り出るが、すぐに抑制する。
たしかにこの街に興味はでてきたが、だからといって宿願より優先すべきことではない。
雛見沢でやることをやってから、またここに戻ればいい話だ。

(とりあえず、どこかの施設を訪ねようかしら)

 自分のいた診療所には目ぼしいものはなかったし、必要最低限のものはバッグに入っている。
霧が晴れ、暗闇ながらも遠くが見えるようになった周囲に視線を走らせる。

「あら」

 それは洋館のように見えた。
日本ではめったにみれない造りで、一部の公共機関や金持ちの邸宅に見られる造形。
(そうね、あれにしましょう)
 頼るなら、ただの民家よりああいう屋敷がいい。
経済的に豊かでない人間は他人の困難に無関心か悪意的であることが多い。
たとえ善良であっても、手段がなければ同じだ。
その点、上流層の人間は違う。少なくとも人助けの手段が確立されている。
つまり、頼ってみるだけの価値はあるのだ。

(ノブレスオブリージュに期待するとしましょう)
 こんな街にそんな価値観があるかは定かではないが、他に行くあてはない。


<Evaluation/Inspection/Hardship>


{“How long does culture shock last?”she inquired.}


 ラクーン大学。彼女が洋館だと思っていたそこは、表記を見間違えなければそう書かれていた。
立派な造りではあったが、よく見ればあちこちに破壊の爪痕が残っており、奇妙なほどの血生臭さがある。
それを引きたてるのは、大学名の下に血で書かれた『研究所』という文字のせいでもあった。
(イタズラ書き……にしては面白みがないけど、普通にペンキや張り紙済むことをどうしてこんな……)
 ここの風習だろうか。
(そういうことにしておきましょう)
 雛見沢にも奇妙な逸話や習わしがあったので、鷹野は特に気にはしていない。
あんな贈り物をしてくるような連中だ。非常識なエスニシティー(民族性)を持っていても不思議ではないだろう。

 キャンパスには警備員どころかセキュリティさえなかった。ここまで無防備だと逆に警戒してしまうのは、
ある種のカルチャーショックなのだろう。鷹野は身に付けている拳銃を一度確認してから、慎重に扉を開いていく。

 中には誰もおらず、広々とした空間と仰々しい階段があるだけだった。
大声で呼びかけようと思ったが、すぐにそれを中止する。
あの血文字が気になる。奇怪な寄生虫を送りつけてくる連中が、まともじゃないのは言うまでもないが、
問題は「どこまでまともじゃないか」ということだ。
 閉鎖的な集落で根付く風習が、どこまで現代社会から乖離しているか。
鷹野はその疑問が持つ重みをよくわかっている。
 腹を裂いて腸を流す行為や、数多の拷問器具、それらを肯定する儀式……。
自分がこの場所でその対象にならないと断言はできない。ゆえに、音もなく探索を開始する。

(妙……いえ、妙なのは今に始まったことじゃないけど……やっぱり妙よね)
 しばらく校内を歩いたが、相変わらず人はいなかった。こんな夜中に学生や講師がいないのはわかるが、
宿直の人間さえいないのは妙だ。
(ここはもう廃校になっているとすれば……いえ、それでも釈然としないわ)
 大学ではなく、研究所として活動しているなら、研究員がいるだろう。
それに、そういった機関なら保安は尚更必要だ。やはり疑念は拭えない。

 ヌルリ。

 足元に妙な感触。今まで気付かれないように何も点灯せずに歩いていたが、これはさすがに気になる。
バッグから懐中電灯を取り出し、一瞬だけ下を照らす。

 赤。

 気が進まないが、しゃがんで鼻を近づける。

 慣れ親しんだ臭い。

 すなわち、血である。


 自分が血の水たまりに立っているのだと理解した鷹野は、恐る恐る懐中電灯の光を周囲に走らせる。


 夥しいまでの赤。


 つまり、大量の血液。

 あるいは狂気と惨劇。

(猟奇殺人……? それとも学生による集団ヒステリー、暴動……可能性は尽きないわね)
 暗闇と異国の空気で気付けなかった。彼女は床や壁を改めて調べる。
血液の劣化を見るに、そこまで日数は経過していない。
生死はともかく、ここに大勢の人間がいたのは間違いないだろう。
しかし、現時点で一人もいない。これはどういうことだろう。

(死体を運んだか、全員が病院に向かったか……あるいは……)

 そこまで考えて、鷹野は首を振る。止まっていた足を再び働かせ、彼女は奥へと進む。
さすがにそれはない。そんなことがあってたまるものか。


 死者が勝手に歩き回るなど……。



【D-3/研究所(ラクーン大学内)/一日目夜】



【鷹野三四@ひぐらしのなく頃に】
[状態]健康、自分を呼んだ者に対する強い怒りと憎悪、雛見沢症候群発症?
[装備]拳銃、懐中電灯
[道具]手提げバッグ(中身不明)、プラーガに関する資料、サイレントヒルから来た手紙
[思考・状況]
基本行動指針:野望の成就の為に、一刻も早くサイレントヒルから脱出する。手段は選ばない。
1:此処について知っておきたい。
2:プラーガの被験体(北条悟史)も探しておく。
3:『あるもの』の効力とは……?
※手提げバッグにはまだ何か入っているようです。


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彷徨える大罪 鷹野三四 噛み合わない「世界」

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最終更新:2012年06月22日 23:36