猫歩肪当(猫も歩けば棒に当る)



福沢玲子はアパートを飛び出した。


三角頭の巨人を追い掛けるために。

というのは誰に言うわけでもない言い訳。

荒井の死体転がるあの部屋にいたくなかったというのが本音。

もちろん巨人を追うというのも嘘ではない。しかし割合にしてみれば荒井6:巨人3程度である。
残りの1割は荒井の死体が有る無しに関わらずあんなアパートにはいたくない。

自分を助けるために犠牲になった荒井の死体から逃げるというのは失礼だとは思ったが、やはり死体と同じ部屋にいたくない。
それに死体を見ていれば嫌でも申し訳ない思いが込み上げてきてしまう。その思いから逃げるためにもアパートから出る必要があった。

そもそも真剣に巨人を追い掛けてどうする?
十発を越える銃弾を打ち込まれても動きを止めないような化け物をごくごく普通の女子高生が追い掛けたところで、荒井の後を追わされるだけでしかない。

これも言い訳。

しかしそう思うのは当然。

勝ち目が無い相手に立ち向かって殺されるのは賢い行動とはいえない。そんな行動に出るほど福沢は無謀ではないし、そんな福沢を無謀な行動に出させるほど荒井は大事な人間ではないのだから。

かといってやられっぱなしというのはおもしろくない。
できることなら…いや、なんとしてもあの巨人に一泡吹かせてやりたい。

しかし。

「んー…どうしようかなあ…?」

今ある銃では殺すどころか怯ませる事すらできない。
つまりもっと強力な武器、それか協力者が必要だ。

それにあの巨人を追いたくてもどこに行ったのかわからない。

「馬鹿馬鹿しい!」

ならば適当に歩いてみよう。

それが福沢の辿り着いた結論。

考えていてもしかたない。歩いていてれば誰かしら他の人間にも会えるだろう。巨人に有効ななにかしらも見つかるだろう。巨人も見つかるだろう。

歩いていれば気も紛れる。ただただアパートで怯えているよりもよっぽどいい。

歩き回って化け物の巣に突っ込んだらどうする?何も見つけられないまま巨人に出くわしたらどうする?

そんなのもやっぱり…。
「馬鹿馬鹿しい!」

都合の悪いことには目を瞑ろう。悪いことを考えていたら何もできない。

決意…というよりも放棄。
福沢玲子は難しく考える事を放棄して、歩き始めた。

  ◇   ◆

ニャーーン!

「ひゃっ!」
福沢が歩きだすと猫が飛び出してきた。
猫は福沢に興味を示す様子も見せずに走り去っていく。

走り去っていく猫を目で追いながら福沢は閃く。

あの猫を追い掛けよう!

とりあえず歩き回ってみると言っても目的地を決めずに歩くというのは結構難しい。
そこに現れたあの猫。

これはもう追い掛けるしかない!

犬も歩けば棒に当たると言うのだから猫だって何かに当たるはず。
走る猫はそれなりに速い。
見失わないようにするために自然と福沢の足も速くなる。

目で、足で、猫を追い掛けていて注意力散漫になっていた福沢は曲がり角を猛スピードで曲がってきた男と衝突してしまう。

「痛っ!」

衝突したのは太った男。
体格差もあって福沢だけが吹き飛ばされてしまう。

男は衝突したことなど気にする様子も無く走り去ってしまった。

曲がり角でぶつかる。
ラブロマンスのシチュエーションとしては定番中の定番。憧れている人間も少なくはないだろう。

とはいえ、福沢は恋の予感などこれっぽっちも感じなかった。

走り去る後ろ姿を見るだけでわかるまるまるとしただらしのない腹。
顔は見ていないがあんなデブはブサイクに決まってる。

そんなデブサイクのくせにぶつかっといてごめんの一言も無い。
福沢の心にあるのはラブロマンスどころか不快感だった。
「あんなやつ…戻ってきたあの巨人に殺されちゃえばいいのよ。」
男がアパートのある方へ走っていくのを見て福沢は悪態をついた。

あんなデブサイクはどうだっていい。猫だ。見失ってしまった。
せっかくの追い掛ける対象も、デブのせいで見失ってしまった。
しかしすぐに猫もどうでもよくなった。

  ◇   ◆

猫を見失って、立ち上がるのも面倒になっていた私の元にもう一人男の人がやってきた。

「大丈夫ですか?」

その人の顔を見たらデブサイクも、猫も、どうでもよくなった。
これでもかと言わんばかりのイケメンなんだ。そんなイケメンが目の前にいるのに猫なんて探してられないよ。

「立てますか?」

目が合ったらイケメンが手を差し出してくれた。
ありがたく立ち上がらせてもらう。

「僕は雛咲真冬といいます。えーっと…。いや、自己紹介は後にしましょう。」

喋りながらも周囲を見渡していたイケメン…もとい真冬さんは何かを見つけたらしい。
気になって同じ方を向いてみたら…人がいた。

股がある。
…じゃなくて、股に頭がある…。股に頭のある人間…。

早く銃を…銃に弾を込めるの忘れてた!

「大丈夫…。僕の後ろに下がって。」

真冬さんは小さく呟いてぶら下げていたショルダーバッグからカメラを取り出した。
こんな状況であの化け物の写真を取るの…?
いくらイケメンでもちょっとどころじゃないくらい趣味悪い。
真冬さんがカメラマンでプロ意識溢れる人で、こんな状況でもそれを忘れないのはかっこいい。
かっこいい…かっこいいけど…なんか…こう…引く感じ…?

「もしかして…あれ撮るんですか…?」

私の質問に答えず真冬さんはシャッターを切る。
一回…。

「えっ、化け物がひるんでる?真冬さんすごーい!」
「まだ倒したわけでは無いですから油断しないでください…。」

そうだよ、しまった!ぼんやりと化け物の撮影会を見てる場合じゃなかった!
二回目のシャッター音。

また化け物がひるんだ。この隙に早く鞄から銃を出して弾を込めないと…化け物との距離はあとどれくらい…?

顔を上げると三回目のシャッター音。

「えっ!?嘘!すごい!なんで!?」

三回目のシャッター音と同時に化け物のいろんなところから真っ青な炎が出てきてあっという間に全身へ燃え広がって…化け物が燃え尽きちゃった。
真冬さんはカメラをショルダーバッグに戻してる。

…どういうこと?

「もう大丈夫です。あの化け物は闇人というようですよ。光に弱いそうです。」
「あの…えっと、そうなんですかー。物知りなんですね!」

この場面で物知りって言うのはなんか違うような気もする。

「この本に載っていたんです。貴女も読みますか?」

ショルダーバッグから今度は雑誌を取り出した。

でも化け物が載った雑誌?
あっ、そうか。この本に見本を載せる為に写真を撮ってたんだ!
きっと真冬さんは化け物を倒しながら人を助けて回ってるのね。

だから化け物を倒せたんだ。化け物の相手も慣れっこなんだ。
どことなく説明口調というか昔っぽい話し方なのはいろんな人に化け物の説明をしてたせいで変な癖がついちゃったのかな?
よく見るといろんなところが血で汚れてるのは化け物と戦ってる時に誰かを庇って怪我したのね。
怪我してるところがまだあるならどこか適当な家を借りて手当てしなきゃ!

「あ、でも立ちながらだと読みにくいしどこか適当な家を借りましょう!手当てもしないといけないですし!」
「手当て?どこか怪我されてるんですか?」
「何言ってるんですか!真冬さんの傷の手当てをするんですよ!」
「えっ。でも僕はもう自分で手当てして…。」
「いいからいいから!早く行きましょうよ!」
真冬さんの手を掴んで走りだす。
真冬さんは少し困ったような顔をしてるけど気にしない!
とにかく明るくいかないと気が滅入っちゃうからね。

それにしても…真冬さんは困った顔を見てもイケメンだなあ。


【C-5民家内:1日目夜中】

【福沢玲子@学校であった怖い話】
[状態]深い悲しみ、固い決意
[装備]ハンドガン(7/10発)
[道具]ハンドガンの弾:12、女子水泳部のバッグ(中身不明)

[思考・状況]
基本行動方針:荒井の敵を撃ち出来るだけ多くの人と脱出する
1:真冬さんと情報交換
2:三角頭を追う
3:人を見つけたら脱出に協力する、危ない人だったら逃げる

※荒井からパラレルワールド説を聞きました
※荒井は死んだと思っています


【雛咲真冬@零~ZERO~】
[状態]脇腹に軽度の銃創(処置済み)、未知の世界への恐れと脱出への強い決意
[装備]鉄パイプ@サイレントヒルシリーズ
[道具]メモ帳、射影機@零~ZERO~、クリーチャー詳細付き雑誌@オリジナル、ショルダーバッグ(中身不明)
[思考・状況]
基本行動方針:サイレントヒルから脱出する
0:少女(福沢)から話を聞く
1:この世界は一体?
2:他にも街で生きている人がいないか探す


   ◇   ◆

エディ・ドンブラウスキーはアパートに飛び込んだ。


「はぁ…はぁ…。ウッ…。」

明らかなオーバーワーク。
普段のエディならまず出せない速度で走っていたし、そうでなくても相当な距離を走った。

「くそっ…どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって…。」
曲がり角でぶつかった女も俺を馬鹿にしているに違いない。

ーーー趣味の悪い部屋だ。
どこも似たような状態だがここはそれにも増して酷い有様だ。
ある程度息が整ってきたエディは部屋を見渡し思う。

ーーーあの槍はなんだ。そしてあの槍に刺さっている死体はなんなんだ。

ーーー槍に刺さった死体…?

薄暗いので顔はよく見えない。しかし間違い無く人間の死体が刺さっている。

三角頭の巨人にやられた荒井の残骸。
常態ならば傷口にひびが入り、ところどころ蟲の蠢く荒井の残骸を人間の死体と間違えたりはしないだろう。
それでも錯乱状態のエディには十分だった。
エディの中で何かが切れた。

音が立つほど思いきりドアを開けアパート内に侵入する。それを見つけて蠢く影は濁った皮膚の、手の無い化け物。

「運動ができるやつも!頭の良い奴も!死んじまえばみんな同じ……!」

化け物を殴り付け地に屈伏させる。粘液が飛び散る。

「ただのデブより価値がねぇ!」

そしてその頭を何度も殴り、砕く。
血に染まった腕を高らかに挙げ、そして宣言した。

「全員ぶっ殺してやるよ!!パーティータイムの始まりだ!」


【C-5アパート通路:1日目夜中】

エディー・ドンブラウスキー@サイレントヒル2】
 [状態]:肉体疲労(大)、殺人と死体を見たことによるパニック状態
 [装備]:ハンドガン (0/10)。
 [道具]:特になし
 [思考・状況]
 基本行動方針:とにかく最後の一人になる。
 1:とにかく誰かいる所に行く。
 2:最後の一人になりたい。
 3:でもとりあえず少し休みたい。
 ※サイレントヒルに来る前、知人を殺したと思い込んでいます


※荒井は気絶しています。いつ起きるかはわかりません。



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魔弾の射手 投下順・目次 A Distinctive Comrade
 
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雲上海下(うんじょうかいか)前編 福沢玲子 レギオン
罪と罰 雛咲真冬 レギオン
錆びた穽 エディー・ドンブラウスキー さらに深い闇へ

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最終更新:2013年06月26日 20:57