噛み合わない「世界」
【1】
重い足取りで、レオンは歩みを進める。
その背中は頼りなく、表情も重苦しいものになっており、街に漂流した頃とはまるで別人の様であった。
恐らく、今の様子でパーティーに来たのなら、
瞬く間にそれは告別式の雰囲気に早変わりしてしまうだろう。
それ程に、彼は絶望しきっていた。
自分自身に、深く失望していたのだ。
もっと早く行動を起こしていたのなら、フジタも、あの少女も、死なずに済んだかもしれないのだ。
あの二人を殺したのは、あの半漁人でも、巨大な魚類でもない。
自分自身――レオン・S・ケネディなのだ。
人の命を護るのが使命の警察官が、何と言う体たらくだろうか。
二人はあの世で嘆いているに違いない――「アイツがもっと有能ならば」と!
もっと早く動ければ!
もっと早く状況を把握できれば!
誰も死ぬ事もなく、一人も欠けずに船から脱出できたというのに!
(クソッ……!)
此処で後悔し続けていても彼らが戻って来ない事は、レオン自身にも分かっていた。
それでも、自虐せずにはいられない。
自分が背負っている「弱い」という罪の重さを、少しでも和らげる為に。
そうしなければ、重圧で潰れてしまいそうだから。
何処に向かっているのかすら分からぬまま、進み続ける。
歩みを止めて立ち尽くしても意味がない事を、身体は知っていたから。
そうして歩いていると、懐中電灯の光が文字列を捉えた。
鉄錆の臭いのする「赤」で書かれた、「研究所」の文字を。
【2】
結論から言うと、この大学だけではサイレント・ヒルで何が起こったのかを知るのは不可能だった。
何しろ、至る所で障害物が鷹野の進行の邪魔をするのである。
それらは彼女の腕力だけでは、到底どける事の出来ないものばかり。
せめてもう一人居れば、そこから先に進めたものの。
無意識の内に、右手の親指の爪を噛んでいた。
自身が苛立っている証拠である。
これ以上探索できないのなら、何時までも大学に居座る必要はない。
鷹野は血まみれの通路を通って、大学から脱出する。
結局この施設で何が起こったのかは分からずじまいだったが、
今の鷹野にはそれを調査する術を有していないのだ。
それに、この地はまだ施設が存在している可能性がある。
此処に固執しているよりも、各地を渡り歩いて情報を得るべきだと考えたのだ。
大学の出入り口に到着した頃、鷹野は前方で揺らめく光を発見した。
恐らくは懐中電灯から発せられるものだろう。
周りが黒一色だから、いつも以上に分かりやすい。
どうやらこんなゴーストタウン同然の地にも、人間はまだ居たようだ。
現地の者から話を聞けるかもしれない絶好のチャンスである。
鷹野は懐中電灯の持ち主との接触を試みた。
【3】
レオンは妙な格好をした女と遭遇した。
黒いベレー帽に黒いマント、それに黒のニーソックス。
身体を「黒」で武装した彼女の姿は、怪しげな宗教の教祖を思わせた。
女の名乗った「鷹野三四」という名前からして、藤田と同じく日系の者だろう。
名前と不釣合いな金髪のロングヘアーが、周囲の黒色のせいで余計に目立つ。
(どうしてそんな格好をしているんだ……?)
謎めいた服装の訳を知りたかったが、
今は個人の格好などを気にしている場合ではない。
この疑問は脳の片隅に置いておく事にした。
「研究所」周辺の民家にて、情報交換を行う。
同じ東洋人だから藤田と関係があるのではないかと考えたが、
鷹野は「そのような名前の警察官など知らない」ときっぱりと否定する。
それどころか、「夜見島での集団失踪など聞いた事がない」と言ってみせた。
集団失踪事件なんてものが起きたのなら、国中大騒ぎになる筈だ。
しかし彼女の記憶の中には、「夜見島」も「神隠し」も存在しない。
さらに彼女は、この地を「ラクーンシティ」ではなく「サイレントヒル」と呼んでいた。
「ラクーン大学」なら研究所で見たらしいのだが、
「ラクーンシティ」という名前を聞いてのは、これが最初らしい。
(どうなっている……何故こうも食い違うんだ……!?)
一度ならまだしも、こうも連続して常識の食い違いが発生するとは。
「異常」としか考えられないケースだ。
「本当に、十年前の失踪事件を知らないのか……?」
「十年前……?『1973年』にそんな事件があったの?」
「1973年」。
それはつまり、今年は「1983年」だと言っているようなものである。
レオンの記憶が確かなら、今年は『1998年』の筈だ。
馬鹿な――これは一体全体どういう事だ。
目の前の女性が嘘をついているようには思えない。
だとするのなら、この女は狂っているのだろうか?
――――本当に、本当に狂っている?
『ヤミジマ? いや、すまない、聞いたことが無いな』――『そうか……本当にアメリカに来ちまったのか』
『公開は80年だったかな』――『なんだ、言うほど古くないじゃないの』
『全島民が消えたなんて話、聞いたことないぞ』――『夜見島住民消失事件って、日本じゃ結構騒がれたけどさ』
本当にそう言い切ってしまっていいものだろうか?
鷹野が正常で、本当は藤田が、最悪自分自身が狂っていたという可能性も考えられるのでは?
誰が正しい?誰が嘘を吐いている?誰の時間が正確なのだ?
本当にここは『ラクーンシティ』?
本当に今年は『1998年』?
本当に神隠しは『存在しない』?
本当に狂っているのは――『誰』?
【鷹野三四@ひぐらしのなく頃に】
【状態】健康、自分を呼んだ者に対する強い怒りと憎悪、雛見沢症候群発症?
【装備】拳銃、懐中電灯
【道具】手提げバッグ(中身不明)、プラーガに関する資料、サイレントヒルから来た手紙
【思考】
基本:野望の成就の為に、一刻も早くサイレントヒルから脱出する。手段は選ばない。
0:……この男は何者なの?
1:プラーガの被験体(北条悟史)も探しておく。
2:『あるもの』の効力とは……?
※手提げバッグにはまだ何か入っているようです。
【レオン・S・ケネディ@バイオハザード2】
【状態】打ち身、頭部に擦過傷、混乱
【装備】ブローニングHP(装弾数5/13)、懐中電灯
【道具】コンバットナイフ、ライター、ポリスバッジ、シェリーのペンダント@バイオハザードシリーズ
【思考】
基本:????
0:どういう事だ……?
1:人のいる場所を探して情報を集める。
2:弱者は保護する。
3:ラクーン市警に連絡をとって応援を要請する?