罪と罰――Accusation&Banishment――



<Watch out!>



「君は運がいいよ、学校に詳しい僕がガイドにつくなんて、こんな幸運そうそうない!」
 自信満々に、かつ恩着せがましい風間に頓着することなく、宮田は学校へと足を踏み入れる。
こういう雑音は、反応すること自体が無駄で面倒だ。早急に謎を解明するには、あらゆる不必要を排除しなければならない。

 それは人間とて例外ではない。

「うわっ」
 二人の数センチ横の土が跳ね、遅れて風間が悲鳴を上げる。
「狙撃か」
 宮田は恐怖も驚愕もなく、ただ面倒だ、という調子で姿勢を低くし、遮蔽物に身を隠しながら移動する。
今の弾道でおおよその位置・距離は予想ができた。そばにいた男も慌ててそれに倣う。

 医者は平然と、学生は慄然と。

 何とか校舎内に無事に侵入できた二人を迎えたのは、脳漿を垂れ流した女学生の遺体だった。
「ヒッ」
 甲高い声を漏らす風間の横で、医師は懐中電灯の光をそこに向ける。
「後頭部から額への弾創……火傷や髪の燃焼から考えて、密着して発砲している。
他の外傷は……左大腿部にも弾創か。これに火傷は見られない。つまり順番は大腿部から頭部……。
とすると、何者かが殺意を持ってやったと考えるのが妥当だな」
「僕を見ないでくれよ、僕じゃない!」
「では聞こう。こういうことをする人間に心当たりはないか? 君は学校に詳しいようだからな」
 該当する人間を複数知っているのか、風間は何度か「あいつか? いやあいつかもしれない」と呟いて、
「少なくとも僕じゃない」
「…………そうか」
 聞くだけ無駄だったな。しかし予想の範囲内の答えだったので、宮田は失望すらせず、ただ受け入れるだけに止めた。
「本来ならすぐに探索を始めたいところだが、先に狙撃手を片付けなければならない。
一応聞いておくが、どこにいるか――――」

 ガリガリッ――――ガリガリッ

 宮田は言葉を不自然に切り、銃を構える。風間はその後ろに素早く回り、「怖いわけではない」とかなんとか、
誰も聞いていない弁明を述べる。

 暗闇から現れたそれ、最初に認識したのは、三角の頭部。


<So what? It makes no difference to me.>


 三角頭の男が引き摺る巨大な包丁――これが異音の正体。
「あれは知っているか?」
「あんなの知らないよ!」
 風間の絶叫に宮田はそうか、と頷き、医師は両手を挙げてその男に歩み寄る。
「こちらに敵意はありません。私たちはこの異変に巻き込まれた、遭難者です。
もしこの件に関しての知識があるのならば、教えていただけると――」
 警告なく振るわれた刃。宮田は持っていた燭台を犠牲にすることで、なんとか攻撃を凌いだ。
与えられた衝撃に逆らわず、大きく下がる。
「やれやれ。どうやら話が通じんらしい」
 宮田はため息一つして、恐怖に膝を振るわせている風間を見遣る。
「相手が面倒だ、お前に任せる。時間稼ぎをしていろ」
「え……冗談じゃない! そんなのゴメンだ!」
 男はさらにため息をする。だが、これも予想の範囲内だった。
彼は風間のそばに近寄り、肩に片手を置く。
「そうか。それは残念だ」
 破裂音、わずかに舞う白煙。

 風間の体が、崩れた。

「膝を正確に撃った。自力ではもう立てんよ」
 自主的に役に立つ気がないのなら、強制的に役に立ってもらう。
元々爆弾のような存在だったのだ。こちらの都合で破裂してもらう。
宮田は罪悪感の欠片さえ抱かずに、階段へ続く道を急ぐ。


 背後から殺到する怨嗟の咆哮など、まるで頓着しなかった。



【真夜中/A-3/雛城高校】


【宮田司郎@SIREN】
[状態]:健康
[装備]:拳銃(5/6発)
[道具]:懐中電灯
[思考・状況]
基本:生き延びて、この変異の正体を確かめる。
0:学校を調べる。
1:変異について詳しい者から話を聞きたい。


<Desperation>


「待て! 待ちやがれ! クソがッ! くそったれがっぁぁあああ!」
 同行者は闇に消え、後に残るは痛みと熱と――。

 三角頭のみ。

「ヒィッ!? やめろ、やめてくれ!」

 早くはない歩み、けれど着実に近づいてくる。
風間は激痛に呻きながら、残りの四肢で逃走を試みる。
開いている窓から身を放り出し、錆びた地面に腹を強か打つ。
「ぐっ……」
 無様だった、不格好だった。しかしそれでもよかった。
生きている、死んでいない。今はそれだけでよかった。

 と、そこに人の気配。

「だ、誰だ……。いや、誰でもいい、頼むから助けてくれ……!」

 俯いていた顔を何とか上げ、懇願する。
 そこにいたのは、


『…………ウフフ』

 死んだはずの美浜奈保子だった。

「そんな……死んだはず――ギャッ」

 驚愕に凍りつく風間を無視し、奈保子は血の涙を流して包丁を突き刺す。
刃は男の頬を貫通し、舌と交わった。

「やめろ! やめてくれ……!」
『フフフ……アハハハ!!』
 すぐに両腕で顔を守ろうとするが、彼女の足がそれを許さない。
度重なる腕への蹴り、踏み……その永遠にも感じられた苦痛に、無意識がとうとう防御をやめさせた。
痛みに対する体の防衛本能。しかしそれは護身の放棄でもあった。

 止まらない銀色、止められない狂気。

 額が裂け、骨が露出する。

 眼球から透明と深紅の液体が飛びだし、頬を彩る。

 耳は根元の部分をわずかに残すのみで、あとは地に舞った。

「ウゲッ……ごぼっ……ウガガガ……!」

 口中を埋め尽くす体液の中で、男は必死に悲鳴と懇願を述べる。
痛い、やめろ、助けてくれ、許してくれ、お願いだから。
しかし言葉として成立していない以上、常人には通じない。
ましてや人でなくなった存在には――――。


 だというのに、その願いは実現する。 
 救世主が現れたのだ。

『グゲーーーーッ!』

 奈保子の体に、突然の出来事。
 腹に金属が生え、一気に引き抜かれる。
遅れて噴き出す血流。彼女は痛々しい叫びを上げて、どこかへ消える。

(た、助かった)

 風間はその救いに感謝した。

 一瞬だけ。

 現れた三角頭を認識するまで。


 巨大な包丁が男の首を裂く。それは一つの断罪。



【風間望@学校であった怖い話  死亡】




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最終更新:2012年06月23日 17:23