譲らぬ決意
一面を白く染める霧を懐中電灯の光が丸く切り裂いていく。
ハリー・メイソンは隣を歩くともえの横顔をチラリと眺めると、再び視線を前に戻した。
彼女が着いて来ると聞いた時に感じたのは頼もしさではなく不安だった。恐らくそれは彼女も同じことだろう。民間人が連れ添って行動するより、警察官であるジル達と行動した方が安全なのは言う迄もない。
ただ、自分には我が身の安全を確保するよりも大切な事があった。それは背中の彼女の事であり、愛娘の捜索でもある。
トモエも同じように何か胸に抱くものがあるのだろう、そうでなければ戦闘経験のない一般市民と行動を共にするといった不利益な行動を取るはずはない。生憎とそれが何なのかを伺い知る事は出来ないが。
「どうして…ケビンはあんなことをしたのかしら。」
不意にトモエが口を開いた。本人は気丈に振る舞っているつもりだろうが、彼女がショックを受けているのは誰の目にも明らかだ。
彼女はケビンの死に際して自身に少なからず責任があると考えているようだが、責任があるという点では自分も同じ、あの場にいた全員が責任者だ。
何せ、彼の死をただ見ていることしか出来なかったのだから。
「彼のことかい?」
「ええ…どうして、ケビンは自分が死ぬと分かってるのにあんな無茶をしたのかしら。……勘違いしないでね、ハリー。私は彼の後を追うつもりはないから。」
「それは安心したよ。私の“目”になってくれるんだろう?目を失っては私も困るからね。」
微笑みを返しながらハリーは言った。
彼が何故あのような行動に出たか。彼と親しかった訳ではないし、どのような性格であったかという事さえ知らない。だから彼が命を失った時にも憐れみの情を抱きこそすれ、悲しいとは思わなかった。
ただ、彼の決意は自分のそれと似通っていたのかもしれない。
自分も、トモエも。そしてケビンも。
何故進んで自分の身を危険に晒す?
まるで自分の命などいらない、くれてやると言うように。そこまでして守るべきものは?
「…私は彼についてよく知らない。君やジル程長い間一緒にいた訳でもないし、ジムのように友人だった訳でもない。でもね、彼の考えた事が少しだけ解るような気がするんだ。」
「どういう事?」
「私は、人間には譲れないものが一つはあると思うんだ。
私にとってのそれは娘だ。私は娘の為ならなんだってする。自分の命だって惜しくはない。
彼はきっと、譲れないものを守ろうとしただけなんじゃないかな。…慰めにしか聞こえないかも知れないが、彼のお陰で私達はここに生きていられるんだ。」
「譲れないもの…?」
「そうだ。君にもあるはずだよ。そうでなければわざわざ私に着いて来たりしないだろう?」
ハリーに疑問を投げ掛けられたともえは一瞬だけためらい、帯に挿した拳銃のグリップをなぞりながらはっきりと告げた。
「私は、ケビンに守ってもらったから。だから私はケビンの代わりに誰かを守ってあげようと思ったの。
ケビンの代わりに誰かを守ってあげる事が、私の“譲れないもの”よ。」
「感謝する。私も、私の譲れないものを早く見つけてやらないとな。」
「ええ、私も……!?
ハリー、あれ!!」
ともえの叫び声にハリーは内心舌打ちしながら振り返った。すぐ前方、15メートル程先にナース服を着たモンスターが歩いている。
(こんなに近くに…霧の所為で気付かなかったか……。)
ハリーは内心で舌打ちしながら振り返った。ミヤコを背負っている状態では銃を撃てない。銃の初心者であるトモエの射撃もあまり期待出来ないだろう。
だが、幸いにも相手は自分達に気付いていない。ならばこのままどこかに隠れてやり過ごすのが得策だ。
「よし、トモエ。あいつの視界は見えるか試してくれるか?」
「ええ…やってみる。」
しゃがみながら小声でともえに告げる。
「………ダメ。何か変なもので覆われてるみたい。」
「そうか…仕方ないな。なら」
少しここで隠れていよう、と言おうとしたハリーの声は突然の爆音に掻き消された。
爆音の発生源であろう大型の白バイは先程までそこにいたモンスターを断末魔と共に轢き潰し、呆気にとられるハリーの目の前に停車した。流れるような動作でバイクを降りた運転手は無言のままともえに向けて拳銃を構え、引金を引いた。
鈍く重い音を立ててともえの真後ろで先程とは別のモンスターが倒れる。それを確認した運転手はヘルメットを外し、ハリーに再会の挨拶を行った。
「久しぶりね、ハリー。相変わらず元気そうじゃない。」
「シビル!?シビルか!?」
「緊急事態とはいえ、恐がらせてごめんなさいね。トモエさん。」
互いに自己紹介を終えた後、シビルはともえに非礼を詫びた。
「大丈夫。助けてもらったんだから、文句は言わないわ。」
「そういってもらえるとありがたいわね。…ところでハリー、貴方は何故ここに?」
あの奇怪な名簿に名前があった以上ハリーがもう一度
サイレントヒルへ来ているであろう事は容易に予想出来たが、その理由が分からない。
娘を失った忌々しい土地に再び来訪する理由が。
「娘を探しているんだ。さっきも言っただろう。そうだ、この辺りで娘を見かけなかったか?」
「娘さん…?いえ、見かけてないけど……。」
おかしい。
ハリーは数年前に娘を失ったはずだ。それもこのサイレントヒルで。なのにこのハリーは未だに娘を探し続けている。
(このカミカクシの正体はタイムスリップのようなもの、ね…。)
キリサキの言っていた言葉が頭をよぎる。もしハリーが自分よりも過去の存在だとすれば、娘の死に気付いていないのも合点がいく。
しかし、この状況をハリーに対してどう説明すれば良いのだろうか。突然現れて娘の死を告げたところで、彼がそれを信じるとは到底思えない。
(そういえば、死んでいない可能性もあるんだっけ…。)
アレッサが現在も教団によって生かされているというキリサキの推理。本人は推測に過ぎないと言っていたが、もし当たっていたとしたら………。
とりあえず、今この話をするのは止めておこう。ハリーの為にも、自分の為にも。
バイクに寄りかかりながら思案するシビルの横で、ハリーは美耶子を背負い直した。
「彼女は?娘さんじゃなさそうだけど。」
「この子はもう死んでいるんだ。少しの間一緒にいたから、放っておくのも忍びなくてね。」
「ああ…。それで教会に?」
「いや、それだけじゃない。娘が教会に行くと言っていたのを聞いていた人がいてね。」
「なんですって!?」
有り得ない、と叫びそうになるのを必死で抑える。
…どうやら最悪の形でキリサキの推理は当たってしまったらしい。“自分に”届いた手紙と僅かな情報を頼りに教会を目指したハリー。恐らく彼女はまだ“生かされて”いて―――――
(私達を引き合わせようとした、のかしら…。)
「この辺りにシェリルはいなかったんだろう?なら教会の中にいるかも知れない。」
「ハリー、待ちなさい。私も一緒に行くわ。」
既に教会のドアに手を掛けているハリーを押し退け、ドアノブを握る。片手は拳銃を握ったままだ。
(さて……アレッサ、今度は何を伝えたいというの?)
中で待ち受けるのは、アレッサか、『ヘザー』か。あるいはもっと恐ろしいものかも知れないと思いながら、シビルはドアを開けた―――――。
【C-2/教会玄関前/二日目 黎明】
【
シビル・ベネット@サイレントヒル】
[状態]:精神疲労(中~大)、肉体疲労(小)
[装備]:
SIG P226(2/15)
[道具]:旅行者用バッグ(武器、食料他不明)、
グレネードランチャーHP LV4(炸裂弾5/6)@バイオハザードアンブレラクロニクルズ、白バイ、スタンレー・コールマンの手紙と人形
白バイのサイドボックス(炸裂弾:13、アグラオフォテス弾@オリジナル:23、他不明)
[思考・状況]
基本行動方針:要救助者及び行方不明者の捜索
0:アレッサとヘザーには何か関係が?
1:ハリー、ともえと教会内部を探索
2:その後キリサキ、ユカリと合流する
3:前回の原因である病院に行く
4:ハリーに過去のサイレントヒルでの出来事を伝える
※風海達と情報を共有しました。
※白バイのサイドボックスに道具が入っているようです。
サイドボックスの容量が普通だとは限りません。
※ハリーが自分と異なる時代から来ていることに気付きました。
※アレッサが自分とハリーを教会に呼び寄せたと思っています。
【ハリー・メイソン@サイレントヒル】
[状態]:健康
[装備]:ハンドガン(装弾数15/15)、神代美耶子@SIREN
[道具]:
ハンドガンの弾(20/20)、栄養剤×3、携帯用救急セット×1、
ポケットラジオ、ライト、調理用ナイフ、犬の鍵、
[思考・状況]
基本行動方針:シェリルを探しだす
0:シビル、ともえと教会内部を探索
1:美耶子を安置する
2:学校に向かう
3:機会があれば文章の作成
4:緑髪の女には警戒する
【太田 ともえ@SIREN2】
[状態]:右頬に裂傷(処置済み)、精神的疲労(中)、決意
[装備]:
髪飾り@SIRENシリーズ、
ケビン専用45オート(7/7)@バイオハザードシリーズ
[道具]:ポーチ(
45オートの弾(9/14))
[思考・状況]
基本行動方針:夜見島に帰る。
0:ハリー、シビルと教会内部を探索
1:ケビンの代わりにハリーを守る
2:夜見島の人間を探し、事態解決に動く。
3:事態が穢れによるものであるならば、総領としての使命を全うする。
※闇人の存在に対して、何かしら察知することができるかもしれません
※幻視のコツを掴みました。
最終更新:2016年03月13日 15:31