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◎生き方・考え方の本棚06Ⅱ
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- 聖書の日本語 翻訳の歴史●鈴木範久 [朝日]
- 「みんなの意見」は案外正しい●ジェームズ・スロウィッキー [朝日]
- 生き延びるための思想 ジェンダー平等の罠●上野千鶴子 [朝日]
- 水子―〈中絶〉をめぐる日本文化の底流●[著]ウィリアム・R・ラフルーア [朝日]
- 建築と破壊--思想としての現代●飯島洋一 [読売]
- 日本美術の歴史●辻惟雄 [毎日]
- わかりやすさの本質●野沢和弘 [読売]
- メイド・イン・ジャパンのキリスト教●マーク・R・マリンズ著、高崎恵訳 [朝日]
- 文芸漫談―笑うブンガク入門 [著]いとうせいこう、奥泉光、渡部直己
- 20世紀英語文学辞典●[編]上田和夫・渡辺利雄・海老根宏 [朝日]
- 回転する世界の静止点/目には見えない何か●パトリシア・ハイスミス [朝日]
- 禅的生活のすすめ●ティク・ナット・ハン [朝日]
- デリダの遺言 「生き生き」とした思想を語る死者へ●仲正昌樹 [朝日]
- 生態系へのまなざし●鷲谷いづみ・武内和彦・西田睦著 [朝日]
- 近代文学の終り●柄谷行人 [読売]
聖書の日本語 翻訳の歴史●鈴木範久 [朝日]
[掲載]2006年03月26日
[評者]野口武彦
[評者]野口武彦
よく政界で使われる「選挙の『洗礼』を受ける」とか、「『三位一体』の改革を進める」とかいった比喩(ひゆ)がもともと神学用語であることは、日頃あまり意識されているとは思えない。
今ではそのくらい日常の言語生活に溶けこんでいる聖書の日本語は、いつから、どのようにして形成されてきたのか。この一冊は、キリスト教の移入と普及の過程を翻訳思想史という角度から丹念にたどった労作である。
最初の布教者だったザビエルが「デウス」を「大日(だいにち)」と訳し、後であわてて取り消した話は有名だ。江戸時代後期の国学者平田篤胤(あつたね)が禁制の中国天主教書を手に入れて神道教義に応用した秘話も紹介される。いちばん力が籠(こも)っているのは、近代以後の翻訳事業であり、「明治元訳」「大正改訳」「口語訳」「新共同訳」と積み重ねられてきた訳語の検討を通じて、「その言葉によって象徴されるものが何であるかが、いかに重大な文化的・政治的問題を惹起(じゃっき)することになるか」という大きなテーマを探求している。
日本語に定着したと見なす「聖書語」のキーワードは、愛・神・救世主・教会・天国・福音……など三十語にわたる。そのうち二十三語は中国語訳聖書からの流入であるという。日本語訳聖書に初出する言葉は、悪魔・クリスチャン・宣教・造主・伝道者・ハルマゲドン・隣人の七語だというのは、それこそ「眼(め)からウロコ」(これも聖書語!)だった。
この事実はたんなる影響関係だけにとどまらず、外来の「思想語」がはらむ在来語との危険な裂け目をあぶりだす。いったいGodと神とカミとは同一の対象を意味しているのか、という根源的な問いかけをはらんでいるのだ。中国語訳聖書では、「上帝」である。最初の訳業に参加したヘボンは、日本語で「神」とするのをためらったそうだ。『和英語林集成』では、カミは「神道の八百万(やおよろず)の神々」と語釈されている。
子どもの頃、「悪いことをしてはいけない。神様が見ているよ」といわれたことを思い出す。頭にどんなイメージを浮かべるかは、人それぞれに微妙だ。
出版社: 岩波書店
ISBN: 4000236644
価格: ¥ 3,360
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200603280319.html
出版社: 岩波書店
ISBN: 4000236644
価格: ¥ 3,360
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200603280319.html
「みんなの意見」は案外正しい●ジェームズ・スロウィッキー [朝日]
[掲載]2006年03月26日
[評者]柄谷行人
[評者]柄谷行人
本書の原題を直訳すると、「群衆の知恵」である。すなわち、本書は「群衆の狂気」あるいは「衆愚」という伝統的な通念に、異議を唱えるものである。
著者があげている例では、見本市に出された雄牛の重量を当てるコンテストで、雄牛についてよく知らない八〇〇人の人たちが投票した値の平均値が、専門家の推測よりも正解に近かったという。
この理由は説明されていない。ただ、個々の専門家よりも群衆のほうが知力・判断力において優越する場合があるということは、衝撃的な発見である。
しかし、集団が賢明な判断をくだすためには、いくつかの条件がいる。それは、集団の成員が、多様性、独立性、分散性をもつことである。さらに、多様な意見を集約するリーダーシップが不可欠である。そして、実は、これらの要件を満たすことは容易ではない。
たとえば、集団の中で討議すると、個々人は賢くなるだろうが、討議を重ねるほどに、皆が同じ意見をもつようになる。そして、多様性・分散性・独立性が失われ、いわゆる「群集心理」に陥ってしまう。ゆえに、群衆がいつも賢いというわけではない。一定の状態にある群衆が賢いのである。
実際には、集団がこのような要件をみたす場合は多くない。その要件を満たす代表的な例として、意思決定を市場にまかせる「予測市場」がある。確かに、市場では、人々は相互に独立している。とはいえ、市場であれば何でもいいというわけではない。利潤を目指す市場にはいつも、付和雷同的なバブルが生じる危険があるからだ。
すると、本書は、少数の専門家や指導者よりも大衆が賢い、といっているのではない、ということがわかる。むしろ、私には、集団の成員の多様性・分散性・独立性を保持し、さらにそこから創造的な意見を集約できるようなリーダーシップこそが望ましい、といっているように思われる。
だから、本書の言い分は、見かけほど奇抜ではない。ただ、実行するのが難しいだけである。
出版社: 角川書店
ISBN: 4047915068
価格: ¥ 1,680
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200603280332.html
出版社: 角川書店
ISBN: 4047915068
価格: ¥ 1,680
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200603280332.html
生き延びるための思想 ジェンダー平等の罠●上野千鶴子 [朝日]
[掲載]2006年03月26日
[評者]巽孝之
[評者]巽孝之
ひとつの偽造メールで大混乱をきたした先日の国会だが、ひとつの重要な社会的概念「ジェンダー」(性差)をめぐる保守派の曲解と事実の捏造(ねつぞう)については、何ら問い直さぬままだ。フェミニズム抑圧の風は、ますます強まろうとしているかのように見える。
そんな状況下、論争の達人・上野千鶴子は、湾岸戦争以後の過程で思索した「女性兵士」の投げかける様々な問題を皮切りに、ナショナリズムがいかにヒロイズムによって個人を切り捨てる「死ぬための思想」であったか、いっぽうフェミニズムがあくまで戦争にもテロにも加担せず、民主主義の罠(わな)を回避しようと試みる「生き延びるための思想」であるかを、力強く説く。
独自の理論から概念定義をめぐる論争、今日の国家と性差を考えるための必読書の紹介、自己解題を兼ねた末尾のインタビューまで、著者が新しい思想たりうる「新しい言葉」を希求する姿勢は、読者に深い感銘を与えてやまない。
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200603280347.html
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200603280347.html
水子―〈中絶〉をめぐる日本文化の底流●[著]ウィリアム・R・ラフルーア [朝日]
[掲載]2006年03月19日
[評者]最相葉月
中絶は殺人か基本的人権か。米国を二分する政治的課題だ。いい加減、二元論の隘路(あいろ)から抜け出したい。そう願う米国の日本研究者が水子供養に手がかりを求めた。殺人でも権利でもない、あわいをすくい上げる仏教的な中絶文化を真正面から論じた日本文化論だ。
[評者]最相葉月
中絶は殺人か基本的人権か。米国を二分する政治的課題だ。いい加減、二元論の隘路(あいろ)から抜け出したい。そう願う米国の日本研究者が水子供養に手がかりを求めた。殺人でも権利でもない、あわいをすくい上げる仏教的な中絶文化を真正面から論じた日本文化論だ。
神仏の領域に送り返すという意味の「カエス」、農作業の言葉を借りた「間引き」、救い救われる対象としての「地蔵」。こうした言葉や慣習に罪悪感を和らげる意味をこめた日本人のプラグマティックな生命観を解きほぐす。あくどい水子商売には批判的だが、中絶が必ずしも道徳の荒廃につながるわけではないとして、人々の心を支えるために仏教が果たした役割を前向きに評価する。
原著は一九九二年刊行。隔世の感を覚える部分もあるが、今、翻訳されたことは意義深い。生命倫理の観点からだけではない。痛みを抱えつつ生を紡いできた日本人の心の根にふれた気がするからだ。
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200603210221.html
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200603210221.html
建築と破壊--思想としての現代●飯島洋一 [読売]
(青土社・2940円)
◇「自己否定」が表象する希望なき二一世紀
九・一一のテロに象徴される現代の意味をどう捉えるか。二一世紀に生きる人類の文化をどう位置づけるか。著者はこの難問に対して、真っ向から挑戦する。おそらくやり方は二つあった筈だ。第一は、歴史を再検討し時系列的に実証分析を行うもの。第二は、歴史を素材に時間と空間を往来しながら象徴論的考察を試みるもの。著者は後者を選択し、「建築と破壊」と題するテーマに迫ることになった。
全体は六章から成る。一章は写真、二章も写真、三章で庭に転じ、四章は夢、あげくに五章で写真に戻り、六章もまた写真で始まる。著者自身が意識的に各章の論を立てるにあたって、主として写真をモチーフにしている。ウィトキンの一九八〇年代の「接吻」と題するグロテスクな写真。著者はそれをこう表現する。「一個の人間の頭が二つに割られるというきわめて暴力的な行為の果てに、その割られた頭がさらに一八〇度押し拡げられて、あたかもキュビズムの絵画のごとく、割られた一人の頭が向き合う『二人の人間』になったかのような写真なのである」
この写真に表象されているのは、あたかもオスカー・ワイルドの作品『ドリアン・グレイの画像』が意味するが如く、「空虚」であり「不均衡」であり、自己の「崩壊」に他ならない。著者はここから、論争の手品師のように、めくるめく問題提起的な作品-ヴァルター・ベンヤミン、スーザン・ソンタグ、ポール・ヴィリリオ-に触れながら、一九世紀初頭の写真という複製技術の誕生によって失われたものを追及し、自己像の分裂にいたる。
続く二章は「顔のないポートレイト」から始まり、なぞ解きを楽しむかのように、一九六八年のアンディ・ウォーホルの銃撃事件にゆきつく。その中で一九六〇年代の世界的な体制批判について著者は、「『否定のための否定』は、やがて暴力の矛先をいまそこにある各々の体制それ自体へでなく、くるりと刃の向きを変えて、自分たち自身へも向かって行かざるを得なくなった」と断定する。こうしたパラドクスの果てに、「自己否定」のニヒリズムが漂い始める。そして著者は、この臭いを二一世紀初頭のアメリカにもつながるとの卓抜たる指摘へとつなぐ。
著者の連想は、さらにウォーホルの事件と九・一一のそれへと展開していく。「九・一一で崩壊したツインタワーも一つのものを二つに見せるという、ウィトキンの『接吻』と同じような鏡像関係を演出することによって、現代ならではの空虚感を鋭く漂わせていたわけだ」との著者の解読は言い得て妙ではないか。
三章にいたって著者自ら述べるように、一九世紀から二〇世紀にかけてのロシアを、テロリズムの源流として骨太に描いている。ニヒリストが「破壊のための破壊を信ずる人」と定義された時、ベンヤミン、そして一九六八年五月革命、ドストエフスキー『罪と罰』は、これまた時空を超えて串刺しにされる。
結論をいそごう。著者の博識を楽しむ向きは、四章におけるロシア革命とフロイト論-何とここでもウィトキンの「接吻」が言及される!-、それに五章の心霊とトラウマを、ゆっくり読まれることを勧めておくが。「アメリカがアメリカを食う。アメリカと自己同一化したテロリストの飛行機は、アメリカの象徴としてのツインタワーをそのようにしてあの瞬間に貪り食べたのである」との解釈に、著者は六章でたどりつく。すなわち九・一一のテロリズムは、カニバリズムを抜きには語れないのだ。そしてその先には、ボードリヤール流の「九・一一の出来事は、いわばこの閉ざされたシステムが、急激なグローバル化の果てに限界点に達した時に自壊した出来事だったのだ」との記述が待っている。
かくて「自己崩壊」が「自己否定」のニヒリズムへとむかい、「破壊のための破壊」が呼び寄せるカニバリズムの果てに、テロリズムによる「自己崩壊」性が確認される。著者は専らアメリカ、ロシア、ヨーロッパの事例を顧みて、この議論を組み立てた。ややくどいとさえ思われる引用と、伏線としてはこれまたいささか多すぎる歴史事象の交錯にもかかわらず、本書にちりばめられたアフォリズム的表現が暗示しているものが、実はある。それはいったい何か。
小泉純一郎に率いられた、まさにこの現代日本のあり方に他ならない。小泉改革は、現実にはニヒリズムによるすべての破壊を招いている。いや改革それ自体が悪いのではない。小泉個人の意図をはるかに越えて、改革という名のパンドラの箱が開かれた状況だ。そこでは精神のカニバリズム、自己破壊が日夜すすみつつあるのではないか。昨今のマスコミを騒がせている事件の裏には、こうした破壊衝動が見てとれる。パンドラの箱には希望があった筈だ。しかし希望なき現代日本、出口なき現代日本を、本書は明らかに表象している。
毎日新聞 2006年2月5日 東京朝刊
URL:http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/news/20060205ddm015070091000c.html
URL:http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/news/20060205ddm015070091000c.html
日本美術の歴史●辻惟雄 [毎日]
(東京大学出版会・2940円)
◇縄文からアニメまで一万二千年
◇縄文からアニメまで一万二千年
一人の著者による通史は、もしうまくゆけば読者にとって本当に有難いものだ。歴史を統合的に鮮明にとらえることができる。しかし著者にとっては極めてむずかしい。専門の分化が学問の宿命だからである。そこで、数人ないし十数人による共著形式が次善の策として選ばれ、読者は複数の視点、多様な史観、さまざまの文体の組合せによる渾沌たる歴史像とつきあうことになる。
『日本美術の歴史』は近世絵画史を専攻する辻惟雄が書いた通史だが、例外的と言っていいくらいよく出来ている。時間的には縄文から宮崎駿(!)まで一万二千年をたどり、分野としては絵画、彫刻にはじまり、工藝や建築を経て、写真、デザイン、マンガ、劇画、アニメに至るまで、吐息が出るほど幅広く扱いながら、しかもすっきりと手際がよい。辻は岩佐又兵衛、伊藤若冲、曾我蕭白など、無視あるいは軽視されていた異端奇想の画家の系列を宣揚して名声を馳(は)せた学者だが、その脳裡には多年、フェノロサ=岡倉天心以来の標準型日本美術史への疑惑や対抗意識がわだかまっていて、それがこの、かざり(生活に密着している装飾性)、あそび(遊戯性あるいは遊び心)、アニミズム(自然崇拝的呪術性)の三つを軸とする眺望の書を構想させたのであろう。
もちろん最初は縄文と弥生。荒々しい縄文は原日本人の土着の美意識。和やかな弥生は日本が東アジア文化圏に組込まれてからの混血の美意識となるのだが、岡本太郎が断絶と対立を強調するのに対して、著者はむしろ二種の文化の連続性に注目する。そう言われて見ると、縄文のヴィーナスが最近すこぶる人気が高いのも、原始日本文化の両面を兼ね備えているせいか。縄文的なものへの関心は全巻を赤い糸のように貫いていて、たとえば法隆寺「救世(くせ)観音」(「人間の生首が抽象的な北魏様式の衣服の上にのっている」と梅原猛は評した)の顔面と似ているのは縄文中期の土偶の人面しかないと断言する。神護寺「薬師如来立像」(九世紀初め)の背後には山林修行者の霊木崇拝があって、これは遠く縄文文化に端を発すると主張する。さらに織部好みの茶陶(十七世紀)における気まぐれな意匠の即興性に、侘び茶の精神性を「かぶく」心が変貌させたものを見て、縄文性を感じ取る。このような着眼と論じ方は、普通の美術史教科書とまるで違うことをよく示すだろう。
一体に辻の著作のおもしろさは、博識で平衡感覚に富む学究が、対象の美に心奪われて夢中になり、危険(?)なことを口走る所にある。この本にもその種の発言が多い。引いてみよう。
渡辺崋山の、洋風の陰影法を取入れた肖像では、整っている完成画より、下絵のほうが鋭い人間観察を示す。
高橋由一の静物画がわれわれの心をとらえるのは、卑近な日常のモチーフをひたむきに追求した迫力による。仕上げの見事さのせいではない。
佐伯祐三のパリ風景における壁の文字は、文人画の絵と書との出会いを受けついだもの。
藤田嗣治、宮本三郎、小磯良平などの戦争画は、戦争責任論を離れて造型だけを論ずるならば、彼らの代表作と言える。
記念碑的とも形容すべき大著を、こんなに短い紙数で論評しなければならないめぐりあわせを嘆く。おしまいにぜひ言い添えて置かなければならないのは、色刷りの図版がよくて、ささやかな名画選になっていること、索引をまめに使えば日本美術事典にもなる調法な本だということである。
毎日新聞 2006年2月5日 東京朝刊
URL:http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/news/20060205ddm015070114000c.html
URL:http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/news/20060205ddm015070114000c.html
わかりやすさの本質●野沢和弘 [読売]
出版社:日本放送出版協会
発行:2006年1月
ISBN:4140881690
価格:¥735 (本体¥700+税)
知的障害者たちと新聞を作る著者は現役の記者だ。難解な情報を障害者にも分かりやすく表現する知恵と工夫は――。障害者の取材と記事作成に立ち会い、10年目に入った新聞作りの現場からリポートする。(生活人新書、700円)
発行:2006年1月
ISBN:4140881690
価格:¥735 (本体¥700+税)
知的障害者たちと新聞を作る著者は現役の記者だ。難解な情報を障害者にも分かりやすく表現する知恵と工夫は――。障害者の取材と記事作成に立ち会い、10年目に入った新聞作りの現場からリポートする。(生活人新書、700円)
(2006年1月30日 読売新聞)
URL:http://www.yomiuri.co.jp/book/paperback/20060130bk0d.htm
URL:http://www.yomiuri.co.jp/book/paperback/20060130bk0d.htm
メイド・イン・ジャパンのキリスト教●マーク・R・マリンズ著、高崎恵訳 [朝日]
[掲載]2005年12月25日
[評者]柄谷行人―書評委員のお薦め「今年の3点」
[評者]柄谷行人―書評委員のお薦め「今年の3点」
(1)複雑な世界、単純な法則(マーク・ブキャナン著、阪本芳久訳)
(2)国家とはなにか(萱野稔人著)
(3)メイド・イン・ジャパンのキリスト教(マーク・R・マリンズ著、高崎恵訳)
(1)は、近年のネットワーク理論がもたらした意外な発見に満ちている。たとえば、自由な市場経済では富が一部に集中してしまうことがわかりやすく簡単に証明されている。また、ネットワーク的な反体制運動にとっても必要な観点が随所に示されている。
(2)は、国家とは何かを、暴力の視点から根本的に問い直す著作である。国家は、資本主義のグローバリゼーションの下で希薄化したように見えるが、自立的な主体であることを決してやめない。
(3)は、内村鑑三の無教会派以来、数多い日本的キリスト教団を総合的に分析している。著者は、こうした土着化をキリスト教が各国で根づくために不可欠なものとして肯定している。にもかかわらず、日本でキリスト教が根づかないのはなぜか。その問いの中で、日本の社会の特質が浮き彫りにされる。
複雑な世界、単純な法則?ネットワーク科学の最前線
著者: マーク・ブキャナン
出版社: 草思社
ISBN: 4794213859
価格: ¥ 2,310
著者: マーク・ブキャナン
出版社: 草思社
ISBN: 4794213859
価格: ¥ 2,310
国家とはなにか
著者: 萱野 稔人
出版社: 以文社
ISBN: 4753102424
価格: ¥ 2,730
著者: 萱野 稔人
出版社: 以文社
ISBN: 4753102424
価格: ¥ 2,730
メイド・イン・ジャパンのキリスト教
著者: マーク・R. マリンズ
出版社: トランスビュー
ISBN: 4901510304
価格: ¥ 3,990
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270301.html
著者: マーク・R. マリンズ
出版社: トランスビュー
ISBN: 4901510304
価格: ¥ 3,990
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270301.html
文芸漫談―笑うブンガク入門 [著]いとうせいこう、奥泉光、渡部直己
[掲載]2005年12月25日
[評者]高橋源一郎―書評委員のお薦め「今年の3点」
[評者]高橋源一郎―書評委員のお薦め「今年の3点」
(1)文芸漫談 笑うブンガク入門(いとうせいこう、奥泉光、渡部直己著)
(2)アメリカン・ナルシス(柴田元幸著)
(3)小説の自由(保坂和志著)
多くの優れた小説が刊行された。だが、小説以外のものでも素晴らしい収穫があった年だ。(1)は近現代文学についてあまりに真剣に考えすぎた結果、笑いのめす以外、手段はないという境地に至った快作。「生きる現代文学」(?)奥泉光の苦衷に満ちた蝶(ちょう)ネクタイ姿が痛ましい(あるいは、微笑〈ほほえ〉ましい)。(2)は、アメリカ文学の本質を「自己の似姿」を求めるナルシスとして描きつつ(そのことについてはまったく書いていないのに)アメリカを「自己の似姿」としてきた日本文学に思いを馳(は)せさせてしまう魔法の書。(3)は、小説家による「小説の正しい読み方」の提示。小説に「正しい読み方」なんてあるのか? あるんです! ほとんどの人の、小説の読み方は間違ってるの? その通り、間違ってます! この3冊を読めば、小説というものがいままでと違って見えることは間違いない!
文芸漫談?笑うブンガク入門
著者: いとう せいこう・渡部 直己・奥泉 光
出版社: 集英社
ISBN: 4087747611
価格: ¥ 1,680
著者: いとう せいこう・渡部 直己・奥泉 光
出版社: 集英社
ISBN: 4087747611
価格: ¥ 1,680
アメリカン・ナルシス?メルヴィルからミルハウザーまで
著者: 柴田 元幸
出版社: 東京大学出版会
ISBN: 413080104X
価格: ¥ 3,360
著者: 柴田 元幸
出版社: 東京大学出版会
ISBN: 413080104X
価格: ¥ 3,360
小説の自由
著者: 保坂 和志
出版社: 新潮社
ISBN: 4103982055
価格: ¥ 1,785
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270312.html
著者: 保坂 和志
出版社: 新潮社
ISBN: 4103982055
価格: ¥ 1,785
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270312.html
20世紀英語文学辞典●[編]上田和夫・渡辺利雄・海老根宏 [朝日]
[掲載]2005年12月25日
[評者]巽孝之―書評委員のお薦め「今年の3点」
(1)20世紀英語文学辞典(上田和夫・渡辺利雄・海老根宏編)
[評者]巽孝之―書評委員のお薦め「今年の3点」
(1)20世紀英語文学辞典(上田和夫・渡辺利雄・海老根宏編)
(2)アメリカのジャンヌ・ダルクたち??南北戦争とジェンダー(大井浩二著)
(3)神狩り2 リッパー(山田正紀著)
古典新訳ブームの昨今、アメリカ文学の分野でも、ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』の若島正訳やトルーマン・カポーティ『冷血』の佐々田雅子訳(ともに新潮社)など、斬新な視点による優れた新訳が相次いだ。
その中で、前世紀までの「英米文学」の枠組みそのものを根本から問い直し、グローバリズム時代ならではの「英語文学」を明らかにする(1)は、21世紀文学を読むためにもぜひ座右に置きたい、画期的な試み。
戦争と女性の積極的な関(かか)わりを主題にした(2)は、文学研究と文化研究の結節点を探り、現代社会の問題をも抉(えぐ)って読みごたえ十分。
(3)は日本SFの想像力がオーストラリア作家グレッグ・イーガンやアジア系アメリカ作家テッド・チャンなど世界SF(英語圏SF!)の最先端と伍(ご)することを証明した、作家生活30年にふさわしい集大成。
20世紀英語文学辞典 (CD-ROM付)
著者:
出版社: 研究社
ISBN: 4767490669
価格: ¥ 18,900
著者:
出版社: 研究社
ISBN: 4767490669
価格: ¥ 18,900
アメリカのジャンヌ・ダルクたち?南北戦争とジェンダー
著者: 大井 浩二
出版社: 英宝社
ISBN: 4269730005
価格: ¥ 1,890
著者: 大井 浩二
出版社: 英宝社
ISBN: 4269730005
価格: ¥ 1,890
神狩り2?リッパー
著者: 山田 正紀
出版社: 徳間書店
ISBN: 4198619905
価格: ¥ 1,995
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270315.html
著者: 山田 正紀
出版社: 徳間書店
ISBN: 4198619905
価格: ¥ 1,995
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270315.html
回転する世界の静止点/目には見えない何か●パトリシア・ハイスミス [朝日]
[掲載]2005年12月25日
[評者]中条省平―書評委員のお薦め「今年の3点」
[評者]中条省平―書評委員のお薦め「今年の3点」
(1)回転する世界の静止点/目には見えない何か(パトリシア・ハイスミス著、宮脇孝雄訳)
(2)日影丈吉全集 別巻(日影丈吉著)
(3)画家の手もとに迫る 原寸美術館(結城昌子著)
町田康『告白』、村上龍『半島を出よ』、三浦雅士『出生の秘密』、伊藤剛『テヅカ・イズ・デッド』などのベスト級作品は本紙ですでに書評したので、それ以外からベスト3を紹介する。
(1)は、まさかと思ったハイスミスの単行本未収録短篇(たんぺん)集(しかも二冊)。それでもこんなに密度が高いのだから驚く。人間の心という深淵(しんえん)を穿(うが)ちつづけたこの人は本当に異常天才である。
(2)は、日本の探偵小説界で、久生十蘭と並ぶ最も洗練された作家の豪華きわまる全集だが、この「別巻」には、料理とミステリーの評論が集大成されていて、この人の作家としての奥行きの深さを物語る。
(3)は、コロンブスの卵のような楽しい美術書。原寸で見るだけで、絵画の常識がどんどん粉砕されていく。例えば、マネこそ近代絵画の祖だということをどんな研究書より雄弁に伝えてくれる本なのだ。
回転する世界の静止点─初期短篇集1938~1949
著者: パトリシア・ハイスミス
出版社: 河出書房新社
ISBN: 4309204252
価格: ¥ 2,520
著者: パトリシア・ハイスミス
出版社: 河出書房新社
ISBN: 4309204252
価格: ¥ 2,520
日影丈吉全集〈別巻〉
著者: 日影 丈吉
出版社: 国書刊行会
ISBN: 4336044198
価格: ¥ 13,650
著者: 日影 丈吉
出版社: 国書刊行会
ISBN: 4336044198
価格: ¥ 13,650
原寸美術館?画家の手もとに迫る
著者: 結城 昌子
出版社: 小学館
ISBN: 4096817910
価格: ¥ 3,990
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270319.html
著者: 結城 昌子
出版社: 小学館
ISBN: 4096817910
価格: ¥ 3,990
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270319.html
禅的生活のすすめ●ティク・ナット・ハン [朝日]
[掲載]2005年12月25日
[評者]天外伺朗―書評委員のお薦め「今年の3点」
(1)叡知(えいち)の海・宇宙(アーヴィン・ラズロ著、吉田三知世訳)
[評者]天外伺朗―書評委員のお薦め「今年の3点」
(1)叡知(えいち)の海・宇宙(アーヴィン・ラズロ著、吉田三知世訳)
(2)禅的生活のすすめ(ティク・ナット・ハン著、塩原通緒訳)
(3)魂の民主主義(星川淳著)
社会が大きな変曲点にさしかかっている、と私は思う。(1)は従来はオカルトとして切り捨てられてきた神秘的な、あるいは宗教的な現象を説明する科学のパラダイム・シフトの話題。ある意味では、従来の意味での科学的合理主義の破綻(はたん)を暗示。(2)は、自分の中の野獣を肯定してはじめて非暴力の実践につながると説く生き方の指南書。よりよい社会を目指すなら、まず自分自身の心の平和が必要。世界中の指導者、平和や環境のために運動している人たちに本書を読んで欲しいと思う。
(3)は民主主義のルーツがアメリカ先住民社会だったという衝撃の書。激しい人種差別の中で長年にわたって抑圧されてきた内容を掘り起こした。じつは、文明社会が導入し損なった部分に一番大切な鍵がある。現在の民主主義にかわる次の社会システムのヒントになる重要な鍵だ。
叡知の海・宇宙?物質・生命・意識の統合理論をもとめて
著者: アーヴィン ラズロ
出版社: 日本教文社
ISBN: 4531081447
価格: ¥ 1,700
著者: アーヴィン ラズロ
出版社: 日本教文社
ISBN: 4531081447
価格: ¥ 1,700
あなたに平和が訪れる~禅的生活のすすめ?心が安らかになる「気づき」の呼吸法・歩行法・瞑想法
著者: ティク・ナット ハン
出版社: アスペクト
ISBN: 4757211171
価格: ¥ 2,100
著者: ティク・ナット ハン
出版社: アスペクト
ISBN: 4757211171
価格: ¥ 2,100
魂の民主主義?北米先住民・アメリカ建国・日本国憲法
著者: 星川 淳
出版社: 築地書館
ISBN: 4806713090
価格: ¥ 1,575
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270325.html
著者: 星川 淳
出版社: 築地書館
ISBN: 4806713090
価格: ¥ 1,575
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270325.html
デリダの遺言 「生き生き」とした思想を語る死者へ●仲正昌樹 [朝日]
[掲載]2005年12月25日
[評者]宮崎哲弥―書評委員のお薦め「今年の3点」
[評者]宮崎哲弥―書評委員のお薦め「今年の3点」
宮崎哲弥さん テレビ番組に多数出演。近著は『M2:思考のロバストネス』(共著、インフォバーン)。来年こそ懸案の仏教対論を出す予定。
(1)自由と社会的抑圧(シモーヌ・ヴェイユ著、冨原真弓訳)
(2)デリダの遺言 「生き生き」とした思想を語る死者へ(仲正昌樹著)
(3)道元 自己・時間・世界はどのように成立するのか(頼住光子著)
「理想主義」を履き違え、時の流れに抗し、なお「変わらない夢」を見続けたがる者たちと戦うために。
(1)共産主義とファシズムという狂った「理想」が猛威を揮(ふる)った時代に抗(あらが)った聖女、ヴェイユの代表的論著の新訳。第四章「現代社会の素描」を一読すれば、誰もが息を呑(の)むだろう。「あらゆる領域において成功はほぼ場当たり的なものと化し」、「受動性、投げやりな態度、万事を外部に期待する習慣、奇蹟(きせき)への軽信が育まれるようになった」。これはまさに「いま」の姿だ!
(2)「生き生き」とした語り口の言論人たち。古いマンガのセリフを援用すれば、お前はすでに死んでいる! それなのに、右にも左にも「生き」のよいゾンビたちが徘徊(はいかい)している……。デリダの衣鉢を継ぐ、アグレッシヴな言説批判。
(3)そして人は「空」なる世界を観じ、新たな「現実」をみる。道元のように。
自由と社会的抑圧
著者: シモーヌ・ヴェイユ
出版社: 岩波書店
ISBN: 4003369017
価格: ¥ 588
著者: シモーヌ・ヴェイユ
出版社: 岩波書店
ISBN: 4003369017
価格: ¥ 588
デリダの遺言?「生き生き」とした思想を語る死者へ
著者: 仲正 昌樹
出版社: 双風舎
ISBN: 4902465078
価格: ¥ 1,890
著者: 仲正 昌樹
出版社: 双風舎
ISBN: 4902465078
価格: ¥ 1,890
道元?自己・時間・世界はどのように成立するのか
著者: 頼住 光子
出版社: 日本放送出版協会
ISBN: 4140093285
価格: ¥ 1,050
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270338.html
著者: 頼住 光子
出版社: 日本放送出版協会
ISBN: 4140093285
価格: ¥ 1,050
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270338.html
生態系へのまなざし●鷲谷いづみ・武内和彦・西田睦著 [朝日]
[掲載]2005年12月25日
[評者]渡辺政隆―書評委員のお薦め「今年の3点」
(1)ダークレディと呼ばれて(ブレンダ・マドックス著、福岡伸一監訳・鹿田昌美訳)
[評者]渡辺政隆―書評委員のお薦め「今年の3点」
(1)ダークレディと呼ばれて(ブレンダ・マドックス著、福岡伸一監訳・鹿田昌美訳)
(2)生命 最初の30億年(アンドルー・H・ノール著、斉藤隆央訳)
(3)生態系へのまなざし(鷲谷いづみ・武内和彦・西田睦著)
書評で取り上げられなかった好著3冊を、あえて辛口に紹介。
(1)DNA構造の発見に最も肉薄していながら、その功を「横取りされた」とされる科学者ロザリンド・フランクリンの評伝。英国人の伝記好きは病的とも揶揄(やゆ)されるほどだというのに、この伝記は遅すぎた。時系列に沿った客観的な語り口を心がけている分、ドラマ性を欠いているのが残念。
(2)原始的な生命が誕生してから多細胞生物が登場するまでの歴史。扱っている時代とテーマは魅力的なのだが、語り口が端正でいささか教科書的な分、損をしている。
(3)「生態系」というとらえどころのない概念の実体についてわかりやすく解説し、無味乾燥な記述に陥りがちなテーマを物語風に語る試みに成功している。ただしその分、教科書なのか一般書なのか、焦点がぼけてしまった。
ダークレディと呼ばれて?二重らせん発見とロザリンド・フランクリンの真実
著者: ブレンダ・マドックス
出版社: 化学同人
ISBN: 4759810366
価格: ¥ 2,940
ダークレディと呼ばれて?二重らせん発見とロザリンド・フランクリンの真実
著者: ブレンダ・マドックス
出版社: 化学同人
ISBN: 4759810366
価格: ¥ 2,940
生命 最初の30億年?地球に刻まれた進化の足跡
著者: アンドルー・H. ノール
出版社: 紀伊國屋書店
ISBN: 4314009888
価格: ¥ 2,940
著者: アンドルー・H. ノール
出版社: 紀伊國屋書店
ISBN: 4314009888
価格: ¥ 2,940
生態系へのまなざし
著者: 鷲谷 いづみ・西田 睦・武内 和彦
出版社: 東京大学出版会
ISBN: 4130633252
価格: ¥ 2,940
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270349.html
著者: 鷲谷 いづみ・西田 睦・武内 和彦
出版社: 東京大学出版会
ISBN: 4130633252
価格: ¥ 2,940
URL:http://book.asahi.com/review/TKY200512270349.html
近代文学の終り●柄谷行人 [読売]
出版社:インスクリプト
発行:2005年11月
ISBN:4900997129
価格:¥2730 (本体¥2600+税)
あるものの起源がわかるのは、それが終わる時だと著者は記す。『日本近代文学の起源』を書いた時に、すでに柄谷さんにはその終焉(しゅうえん)が見えていたのかもしれない。それにしても、ここまで明確に近代文学の「終わり」を宣告することになるとは、著者自身も思っていなかっただろう。
発行:2005年11月
ISBN:4900997129
価格:¥2730 (本体¥2600+税)
あるものの起源がわかるのは、それが終わる時だと著者は記す。『日本近代文学の起源』を書いた時に、すでに柄谷さんにはその終焉(しゅうえん)が見えていたのかもしれない。それにしても、ここまで明確に近代文学の「終わり」を宣告することになるとは、著者自身も思っていなかっただろう。
文芸の「カラオケ化」が指摘される現在、文学の読み手も書き手も尽きない。それでも、柄谷さんは、文学は終わった、もはや何も期待しないと断言する。著者自身が返り血を浴びかねないその論旨は、評者には説得的に胸に響く。文学の現状を肯定する者も、ともかくは柄谷さんの警世に耳を傾けてはどうか。
国家のあり方や人間存在の根底を引き受ける文学は、なぜ消え去ってしまったのか。終わりは別の何かの誕生につながるとしても、その創始には漱石くらいの批評性と胆力が要ると覚悟を決めるべきである。
評者・茂木健一郎(脳科学者)
評者・茂木健一郎(脳科学者)
(2006年1月16日 読売新聞)
URL:http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20060116bk0a.htm
URL:http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20060116bk0a.htm