ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

悪鬼の泣く朝焼けに(後編)

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

悪鬼の泣く朝焼けに(後編) ◆WAWBD2hzCI



「うっ……うぐ、うええっ……!」

手放してしまった。
手放したくなかった時間を手放してしまった。
やっと、やっと安楽を得られると思ったのに。
人を殺したから、人を殺してしまったから、もう二度と安寧の時間は手に入らない。

「うわっ……わああああああーーーーーっ!!」

人殺しになってしまった。
目を背けたかった事実をも改めて突きつけられ、その心が擦り切れていく。
またひとつ失ってしまった。平穏も、平和も、もう二度と手に入らないことを突きつけられてしまった。
たとえ生きて帰っても、生きている限り背負うヒトゴロシの罪。

「やだよ……そんなの、持てないよぉ……」

フラフラと森の中を彷徨い続けるしかなかった。
指針はない、目的もない。
このままフラフラしているだけで、このみは死ぬ。ファルによって盛られた遅効性の毒とやらで、惨めにも。
一人殺しても首を切る勇気はなかった。その結果がこれとは無残すぎる。

ふらふら。
ふらふら。
ふらふら、ぐちゃり。

「ひぎっ……ぁぁあああああああっ!!?」

直後、左肩に激痛が走った。
熱い鉄の棒を突き刺されたような痛み。
この感覚をこのみは経験している。何しろ、同じ場所を刺されたことがあるのだから。
そう、前からと後ろからの違いこそあれど……このみは、刺されることに慣れてしまったのかも知れない。

「あは、当たった当たった。いい気味だよ、報いなんだから。まだこんなんじゃ足りない、足りない」

その声を聞いて、このみの混乱は最高値に達した。
何故、どうして。それともこれは幻聴なのか、と思った。もしくは地獄から化けて出たのかとも思った。
そんな彼女の都合も、現れた世界には関わりがない。
このみの左肩に包丁が突き刺さっていた。世界が投擲した刃は、ナイフのように少女の柔らかい肌を切り刻んでいた。

「いっ……あぐ」
「逃がすかっ!! 償え、償えっ、償えぇええっ!! 返せ、返せ返せ返せぇええっ!!」
「いぎゃあっ!?」

髪を引っ張られ、そのまま地面に叩きつけられる。
地面に転倒する彼女に圧し掛かり、その顔を殴りつけた。何度も、何度も殴り続けた。
四発目あたりから、このみは目が見えなくなった。一時的なものだが、暗闇の中で殴り続けられるのは恐ろしかった。
七発目には思考が壊れ始めた。目の前で殴り続けている女が誰なのか、考えられなくなった。

ただ、どうして自分はこんな目にあうんだろうという疑問だけが沸いた。

「だ……れ……?」
「はあっ、はあっ……うん?」
「あなた、誰……誰なの……? うぐっ」

その滑稽さが世界の機嫌を大いに満足させた。
なんて無様、ボコボコに殴られるままの少女に対する優越感。彼女の中の復讐心が満たされていく。
もういいや、と世界は思った。
このみの首を両腕で締め上げる。ぐえっ、とこのみが動物の鳴くような声を出すのを聞いて、彼女の高揚感は高くなる。

「あははは、冥土の土産に教えてあげる! 私は世界、あんたを殺すのは世界!」
「……っ……え……?」

黒くて大きな影が、狂気に満ちた笑いと共に名乗った。
酸素不足と精神的なショックで用を為さなくなり始めた視界は、恐怖だけを生み出し続ける。
ただ、僅かに残った聴覚だけが彼女の真名をこのみに告げていた。

(う……っ……あっ……)

そうだ、ずっと考えていた。どうして、ってずっと考えていた。
このろくでもない世界に連れて来られて、いつも自分は酷い目に合わせられた。

想いを寄せていた人を目の前で殺されて。
姉のように慕っていた人まで、目の前で首を吹き飛ばされて。
何度も何度も死神の鎌に嬲られ続けて、こんなに滅茶苦茶にされて。
最後の希望だった幼馴染もあっさりと奪われ、そしてさっきは真人の仲間によって真人から離れざるを得なくなった。

(あっ……う……はっ……!)

どうして、このセカイは……こんなにも私のことが嫌いなんだろう―――――?

「あはは、死ね、死ね! 友情のためにね、桂さんの子供の仇! 死ね、人殺しっ……人殺し!」

セカイが笑い続けている、罵り続けている。
また、セカイが自分から奪おうとしている。このみに残った最後のもの、命を奪おうとしている。
やっと分かった、とこのみは心中で独白した。
この世、このセカイの総て、存在するもの万象の全てが、自分を不幸にするために動いているんだ。

「よくも殴ったな、よくもこんな目に合わせてくれたなっ……死ね、死ね死ね死ね死ねっ! うふ、あははははっ!」

許さない。
許さない。
許さない。

(は……はっ……あっ……!)

生きろ、と誰かが願ってくれていた。
なのに奪うなんて許さない。ここで死んでしまったら、何のために彼女は死んだというのだろう。
何のために、どんな意味があってお姉ちゃんは死んだのだ―――!

「あは、ははは……は?」

首を押さえていることしか出来なかった手を、地面に落ちたままの包丁へと手を伸ばす。
それを思いっきり、苦し紛れに振り回した。我武者羅なその行動はしかし、セカイには届かない。
だが、突然振り回された凶器の存在に気をとられて、首の拘束をはずしてしまう。

緩んだセカイの腕を払いのける。
視界は未だ戻らない。涙とその他諸々で曇ってしまっている。
今のこのみに見ることが許されているのは、黒い腕……このみを殺そうと首を締め上げた魔手。
こいつが、この手が殺そうとした。
こんな汚らわしい腕が、姉のような人の最後の願いを奪おうとしたのだ。

「許さない」

両腕をセカイの右腕に絡める。
強引に引き抜こうとするセカイを力で押しとどめ――――さあ、どうしよう?
押し倒されているので自由になるのは上半身のみ。そして両腕は使ってしまっている。
なら残っているのは、残されているのは……口だ。

「はぐっ!」
「ぎゃあっ!?」

黒い手、セカイの一部に喰らいついた。
思い知れ、私が大嫌いなセカイ。
思い知れ、私の大嫌いなセカイ。
加速したまま止まらない破壊衝動のままに、白い断頭台は力を増していく。

「痛い、痛い、痛い、痛いっ!! や、やめっ……ぎゃぁああああっ!!」

ぎちり、ぎちり、ぎちり。
ブチブチブチッ!!
ギチ、ギチ、ぐちゃり、ぐちゃり。

「あがっ……ぎゃっ……あがぁああぁあああああっ!!!?」

喰らいつかれたセカイの右手の人差し指は、呆気なく崩壊した。
肉を断ち、皮を絶ち、骨が砕けて……千切れた。セカイの口から、女とは思えないほどの壮絶な叫びが木霊した。
少女の指は、報酬のようにこのみの口の中に納まった。
憎らしいセカイの一部を喰いちぎってやった、という充足感のまま、このみは恍惚な笑みで思う。


(食べちゃえ)


そのまま、少女の口は『それ』を咀嚼した。
歯で噛み付き、舌で丹念に転がしながらバラバラにしていく。
おいしくないなぁ、と心中で呟いた。
脂肪が少ないとか、酸っぱい味がするとかそういう問題じゃない。噛むたびにブチブチという感触が不愉快だ。
人間の肉はスジばっかりで加工もしてない生肉で旨みなどはない。食べられるために生み出された豚が上等だということを知る。

「嘘……痛い……食べてる……私の、指……痛い……」

まずい肉を、ごくりと飲み込んだ。
本当に美味しくない。それが偽らざる感想……だったはずなのに。
なんて、甘美な味なんだろう。あれだけ憎んでいたセカイの一部が自分のモノとなったのだ。
体がこんなにも軽い。そして気分がこんなにも気持ちいい。

(あっ……は、は……あはっ)

さあ、改めて考えよう。これからの自分の身の振り方を。
何のために生きようか?
それはもちろん、もちろん、もちろん―――――復讐のために、生きるべきだ。
柚原このみが大嫌いなセカイの全てを壊し尽くしてやる。


―――――――けて。


あははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははは


                           セカイが


                                  憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
                                  憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
                                  憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
                                  憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
                                  憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
                                  憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い


―――――――助けて、よ。


消えかけた良心が、ぽつりと呟いていた。


     ◇     ◇     ◇     ◇


逃げなきゃ―――――逃げないといけない。
それが、西園寺世界が抱いた唯一の思いだった。

世界は脇目も振らずに背を向けた。
もはやデイバックには目もくれない。狂ってしまったはずの彼女はこの瞬間だけ、生存本能に従って覚醒していた。
お腹の子供のことも、誠のことも、言葉や刹那のことも今は考えることなく逃げ出した。
あんな化け物、化け物っ、化け物……!

(ひぎっ……痛い……ひいっ……!)

痛いのと苦しいのと怖いのがごっちゃになって、まともな思考が出来そうにない。
狩る者と狩られる者の立場は逆転した。
無様に転げまわる世界を見て、このみは可笑しくて仕方がなかった。
なんて可愛らしい、豚だろう。

「逃がさないのでありますよ~……」
「ひぃいっ……!?」

制圧する。世界の髪を引っ張り、肩を掴んで地面に叩きつけた。
まるで大の男がか弱い少女を押し倒すような呆気なさ。
乱暴に叩き付けられた反動で、世界は肺の空気を残らず吐き出してしまう。
優しく彼女に覆いかぶさり、その首に添えるかのように自身の手をあてがった。

同じ苦しみを味わわせてやるために。

「い……がっ……ぎ……」
「ふう、ふふ……くくっ……」

白目を剥く少女の絶望がたまらない。
楽しい……そうだ、楽しい。
今まで自分を虐げてきた者たちを征服するという歓喜に、心臓が裏返ってしまいそう。

殺してやる。
殺してやる。
殺してやる。

あと数秒も締め付ければ、窒息する前に首の骨が折れていただろう。
初めての殺人という禁忌を犯そうとしたこのみ。
そのまま壊れてしまえたなら、ある意味で彼女は幸せだったのかも知れない。

ヒュン――――!

だが、運命の神様とやらはそんな展開を望まなかったらしい。
その直後に飛来してくるものがあった。それは鉛製の先端、紐で繋がれたアクセサリーのような物体だ。
世界の必殺に意識を集中させていたこのみに避ける手段はなく、キキーモラはこのみの胸に直撃する。

「かはっ……!?」
「うぐっ……げは、げほっ……ごほっ……っ!」

跳ね飛ばされたのはこのみだった。
このみは新たなる客人を見据え、そして凍りつく。このみの凶行を止めたのは、トーニャと真人の二人だった。
彼らは……少なくとも、アントニーナ・アントーノヴナ・ニキーチナは、最大の警戒心を持って、このみに攻撃を仕掛けていた。
もしもこのみが防弾チョッキを着用していなかったなら、キキーモラの膂力を持って心臓を貫く算段だった。

「分かりましたか、井ノ原さん。……あれが、彼女です」
「………………」

真人は無言のまま、もはやトーニャの言葉に反論もしない。
このみは自分に突きつけられた四つの冷たい視線に押され、一歩だけ後ろに下がる。
その隙に世界は立ち上がった。九死に一生を得、そしてそのまま走り出す。
このみへの歪んだ憎しみも、助けてもらったトーニャたちにも構わずに逃げ出した。死にたくなかったから。

「おっ、おい……!」
「放っときなさい、グッピー。私たちだって人の心配する余裕はないですよ」
「……なあ、トーニャ。……あいつは、誰だ……?」

真人が呆然と呟くのも無理はない。
顔が腫れ上がり、涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった少女を……殺そうとした、柚原このみ。
世界を害そうとした時の彼女は、狂おしく笑っていた様子を真人は確かに見てしまった。
このみの口は若干、赤く染まっている。まるで人を喰らったかのように。

「さて……可能性は幾つかありますけど」
「…………」
「私の見立てですが……まるで鬼ですね。人を喰らう鬼……それとも、別世界の人外か何かでしょうか。現状ではなんとも」
「鬼……このみの奴が、鬼だってのかよ……?」

信じられない、と真人は正直に思う。
だって柚原このみは筋肉も弱い女の子で、か弱い少女の印象しかなくて。
だけどそれでも、真人の見立てがそれを裏付けている。
出逢ったばかりのこのみの筋肉は大したことなかったが、今のこのみは筋肉―――もとい、身体能力はそれまでの比ではない。

「分かりませんが、確かなことはひとつ。柚原このみは、人を笑って殺そうとした化け物です」

精神に異常を来たした人妖か、もしくは人を喰らう鬼か。
この世界、この地獄の島で起こりうる可能性。
とある世界では、最愛の息子を殺された男が復讐を誓って悪鬼に変貌していくかのように。
この島では、目の前で愛する男を殺された少女が、鬼に覚醒したかのように。

ならば、それは必然だったのだろう。
この島は彼らの知っている世界の可能性の全てを追求することが出来る。
殺し合いを強要させられ、目の前で好きな人と姉のような人を理不尽に奪われ。
何度も、何度も殺されかけた彼女が……世界の全てを憎んだ彼女なら。

悪鬼となる資格があった。

「ばけ……もの……?」

このみは呆然としたまま、その言葉を飲み込んだ。
思えば、以前から前兆はあったはずだ。
西園寺世界とモスクで争ったとき、ほんの一時間ぐらい前の出来事……生存したいがために、記憶を封印していた。
その封印が解かれる、刹那と名乗った少女に自分がしたことを思い出す。

このみは、笑っていた。殺し合いを……少女を殺すことを純粋に楽しんでいた。
その事実がようやく、欠けたピースのようにこのみの記憶にはまって……ようやく、彼女は自分が化け物になったことを自覚した。

「あっ……あああ……っ……!」

だが、理性はそれを受け入れることができなかった。
今までの不満が、不安が『化け物』という言葉を引き金にして弾けようとしている。
トーニャは敢えて冷酷に、冷静にその決断を下した。

「逃げますよ、井ノ原さん」
「……はあ!? おい、待てよ! 逃げるってテメエっ!」
「いいから急ぎなさい、早く!」

トーニャは彼女を助けない。そんな義理などないのだから。
トーニャは彼女を救わない。見知らぬ少女のために命を懸けるようなことはしないから。
トーニャは彼女を殺さない。悪鬼と変貌した彼女と戦うのは危険すぎると判断したから。

君子危うきに近寄らず。
トーニャは強引に真人をキキーモラで拘束して持ち上げると、その場から退却した。
納得しない真人の声がフェードアウトするのを、このみが気づくことはなかった。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「はあ、はあ、ひい、ぎいっ……!」

九死に一生を得た西園寺世界は走る。
取り留めのない思考はただ回転する。ぐちゃぐちゃになったのは彼女の理性。
鬼を前にして命を狙われた少女は、狂ったまま仲間を求め続けた。

なんで自分だけがこんな目に合わなければならない。
なんで自分はこんなに悲劇のヒロインになっているのだろう。

「誰か、誰か、誰か、誰かっ……!」

恐怖のまま、世界は走り続けた。腹の中の子供のことなど考えない。
もうそこには命がない、と知っているし……何より、世界は自分が一番大事だった。
身勝手な彼女は南へと走り続ける、仲間を求めて。

「誰でもいいから助けなさいよ……!」

その先には世界の求めた親友の姿がある。
世界も知らないうちに、彼女が夢想した子供へと近づいていくのだろう。
だが、心せよ。
その先にあるのは殺すか殺されるか、それでしか結果の出せない―――――惨劇である。



【D-3 中央部 森 朝】

【西園寺世界@School Days】
【装備】:なし
【所持品】:時限信管@現実×4、BLOCK DEMOLITION M5A1 COMPOSITION C4(残り約0.9kg)@現実
【状態】:妊娠中(流産の可能性アリ)、右手人差し指消失、疲労(大)、顔面と首に痣、精神錯乱、思考回路破綻(自分は正常だと思い込んでいます)
【思考・行動】
基本:桂言葉から赤ちゃんを取り戻す。元の場所に帰還して子供を産む。
0:誰でもいいから助けなさいよ……!
1:『桂言葉の中を確かめる』、そして『桂言葉の中身を取り戻す』。

【備考】
※参戦時期は『二人の恋人』ED直後です。従って、桂言葉への感情や関係は良好です。
※下着や靴の中などにC4を仕込んでいます。デイパック内部にC4は存在しません。
※時限信管はポケットに入っています。デイパック内部に時限信管は存在しません。
衛宮士郎、リトルバスターズ!勢の身体的特徴や性格を把握しました。
※このみから、このみの知り合い(雄二、ドライ)とファルについて聞きました。
※第一回放送内容については、死者の名前くらいしか覚えていません。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「離せ、こらあ! 離しやがれぇえーっ!」
「はい、どうぞ」
「ぐぶらっ!? き、急に離してんじゃねえよ! そして頭から落としやがったなああーーっ!?」
「ああ、ごめんなさい、可哀想なグッピー。衝撃であなたの頭が反転してくれたら、頭が良くなると思っての行動だったんです」
「おう、なんだ。それじゃあ仕方ねえな」

このみから大分離れることが出来ただろうか、とトーニャは思う。
彼女が人妖か、それとも妖であるかは知らないし、もしくはそれ以上に不可思議な存在かもわからない。
ただひとつの事実として、彼女は殺し合いに乗ったということだけ。
さすがの真人も、そしてダンセイニも……このみについては全く、言及しようとしない。

「………………」
「てけり・り……」

筋肉同士、仲良く落ち込んでいるのか。
気持ちは分からなくもない。裏切られていたという事実は、きっと人の心を大きく切り刻むのだろう。
裏切る側である自分がそんなことを考えるのは滑稽かも知れないが、それでも人並みの良心は持っているつもりだった。

「あいつは、救いを求めてた……今でも、そんな気がするんだ」
「現実はこんなもんです。いちいち気にしてたら、身が持ちませんよ」
「……そうなのかも知れねえな」

それでも、真人はまだ信じたかった。
彼女が求めていたもの、あの涙、世界に絶望していたあの表情。
それを止めたいと思ったのだ。笑わせてやりたい、と思ったのだ。本当に真人はそう願っていた。
だってあんまりではないか。自分のような未来のなかった者ですら、自由に生きているのに。

かつて、同じく絶望した少年と少女がいた。
それを見ていながらも、自分から手を差し伸べてやれなかった。見ているだけは辛かった。

「でもよ、古狸。今のうちにこれだけは言っておくぜ」
「……なんですか?」
「もしも、またあいつが……今度こそ助けを求めてきたらよ。俺は助ける側に回らせてもらうからな」

トーニャの驚きは一瞬、その後は少し不機嫌そうな顔で真人を睨んだ。
まだこの甘ちゃんは諦めませんか、と言わんばかりだ。
それも当然だ、とダンセイニと笑い合うことにした……とは言っても、このスライムが笑っているかは分からないが。

「もしも、の話だっての。だから、そうなったら……すまねえな」

いつものふざけた対応ではない、真面目な謝罪。
それは切り捨てられない男の日和見な対応だ。トーニャだって真人の気持ちは理解できないでもない。

だが、トーニャは切り捨てられる人間だった。
目的のためなら手段は選ばない。生きて帰れるならゲームをひっくり返すことも、優勝することも厭わないのだ。

「……その場合、私は勝手にさせてもらいますね」
「おう、構わねえよ」

短い確認事項。
それがどこまで意味を為すのかは分からない。
ただそれでも、暗雲が彼らの間に流れるのは事実としてそこにあった。

「さて、これからどうしますか……一応、橋もあのますし、向こうに渡るのも手ですね」
「おし、俺の筋肉に任せとけ!」
「ええ、期待してますよ。いい加減、次で活躍できなかったら、今度はグッピーからプランクトンに改名しますからね」
「うおおぉおおおおおっ!!?」

二人の珍道中は続く。
ここで生まれた若干の目的の違いを明確にしながら。



【C-4 橋周辺 森 朝】

井ノ原真人@リトルバスターズ!】
【装備:マッチョスーツ型防弾チョッキ@現実【INダンセイニ@機神咆哮デモンベイン】】
【所持品:なし】
【状態:胸に刺し傷、左脇腹に蹴りによる打撲】
【思考・行動】
基本方針:リトルバスターズメンバーの捜索、及びロワからの脱出
0:ボス狸と行動。筋肉担当
1:理樹や鈴らリトルバスターズのメンバーや来ヶ谷を探す。
2:主催への反抗のために仲間を集める。 どこに行くかはまだ不明
3:ティトゥス、クリス、ドライを警戒
4:柚原このみが救いを求めたなら、必ず助ける

【備考】
※防弾チョッキはマッチョスーツ型です。首から腕まで、上半身は余すところなくカバーします。
※現在、マッチョスーツ型防弾チョッキを、中にいるダンセイニごと抱えています。
※真と誠の特徴を覚えていません。見れば、筋肉でわかるかもしれません。
※真人のディパックの中はダンセイニが入っていたため湿っています。
※杏、ドクターウェストと情報交換をしました

【ダンセイニの説明】
アル・アジフのペット兼ベッド。柔軟に変形できる、ショゴスという種族。
言葉は「てけり・り」しか口にしないが毎回声が違う。
持ち主から、極端に離れることはないようです。
どうやら杏のことを気に入ったようです



【アントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナ@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備:【ゲイボルク@Fate/stay night[Realta Nua]】
【所持品:支給品一式、不明支給品0~2、スペツナズナイフの刃、智天使薬(濃)@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【状態:健康、走り回ったことによる疲労中】
【思考・行動】
基本方針:打倒主催
0:たまご風味のグッピーと行動。頭脳担当。
1:神沢学園の知り合いを探す。強い人優先。
2:主催者への反抗のための仲間を集める。どこに行くかはまだ不明
3:ティトゥス、クリス、ドライ、このみを警戒。アイン、ツヴァイも念のため警戒
4:状況しだいでは真人も切り捨てる


【備考】
※制限によりトーニャの能力『キキーモラ』は10m程度までしか伸ばせません。
 先端の金属錘は鉛製です。
※真人を襲った相手についてはまったく知りません。
※八咫烏のような大妖怪が神父達の裏に居ると睨んでいます。ドクターウェストと情報交換をしたことで確信を深めました
※杏、ドクターウエストと情報交換をしました
※次の目的地については後続の書き手氏にお任せします


     ◇     ◇     ◇     ◇


「あっ……」

気付けば、そこには誰もいなかった。
それが自分の未来を象徴しているようで、涙が零れそうになった。
両手をじっと見つめた。
この手が、この腕が容易に人を殺そうとしたのだと思うと震えが止まらなかった。

「あっ……あは……」

ふらふら、とまた歩き続けた。
生き続けないといけない、生き続けないといけない。
生き続けなくちゃ、代わりに死んだ姉のような人に顔向けできない。
このみは心に言い聞かせながら、ぶつぶつと呟き……緩やかに狂っていく。

生き続けるためには、死んではならない。
でも自分は毒に犯された身体で、あと一日も持たない。
化け物になっていく、この身体が解毒してくれるなら在りがたいのだが、そういうわけにもいかないのだろう。

「あはは……っ」

生きるのが辛い、もう日常には帰れない。
いき続けないといけない、それがあの人の願いだったから。

「お姉ちゃん……それでも、私に生き続けろって言うの……?」

生き続けるには、人を殺して……首輪を三つ集めないといけないのに。
そうしないと解毒方法も教えてもらえないのに。
人を殺してまで生きろ、とそう言うのだろうか……そんな理性が、どんどんどんどん塗り潰されていく。

憎い。
憎い憎い憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い
自分から全てを奪ったセカイそのものが、憎い――――!


「いいよ、分かった……お姉ちゃん、私……生きるね」


こうして一人の少女が修羅に落ちる。
化け物になってしまった己の悲運を嘆きつつも、尊い決意を胸に秘めた。
彼女を責められる者などいないだろう。
このセカイはここまで彼女に残酷だったのだから。だから、自分にも復讐する権利があるはずだ。

文字通り、悪鬼と堕ちた少女が歩く。
目標は西へ、もくもくとあがった煙がある。そこには人がいる、自分を取り巻くセカイの一部がある。
それに教会だってあの近くだ。なら、一石二鳥というものだろう。
人を殺せるか、などと問うものではない。
あの憎しみの衝動に身を任せればいい。それだけで簡単に人は殺せるのだろうから。



――――――助けて、よ。



最後に残った良心が悲鳴をあげている。
その心には善と悪、光と闇、希望と絶望が同居している。
即ち、セカイの全てを憎む心。
即ち、最後に残された真人の言葉。

大きな絶望と僅かな希望を秘めて、このみは歩き続ける。
もう、そんなことにしか希望が持てなかった。その程度のことにしか、希望を持つことを許されなかった。
少女の本来の心は復讐心の中に消えていく。

そのままずっと、ずっと、彼女は心の中で嘆き続けた。


【C-3 北部 森 朝】

【柚原このみ@To Heart2】
【装備:包丁、防弾チョッキ】
【所持品:支給品一式】
【状態:悪鬼侵食率20%、左肩上部に裂傷、二の腕に軽い切り傷、右のお下げのリボンが無い上に不ぞろいに切り裂かれている、
    右手の平に刺傷、顔面と後頭部に痣、重度の混乱症状、人間不信、疲労(大)
【思考・行動】
0:助けて、よ
1:煙の方向へ
2:憎しみのままに
3:ファルの命令通りに動き、首輪を三つ集める
4:状況しだいではファルだけを狙い、無理やり解毒させる

【備考】
※制服は土埃と血で汚れています。
※世界の名を“清浦刹那”と認識しています。
※ファルから解毒剤を貰わなければ、二十四時間後に遅効性の毒で死ぬと思い込んでいます(実際には毒など飲まされていません)
※ファルがこのみに命令した内容は以下の通りです
1.三人以上の参加者の殺害(証拠となる首輪も手に入れる事)
2.ファルに脅されたという事を誰にも漏らさない
3.十八時間後に教会へ来る事
※第一回放送内容は、向坂雄二の名前が呼ばれたこと以外ほとんど覚えていません。
※悪鬼に侵食されつつあります。侵食されればされるほど、身体能力と五感が高くなっていきます。


090:悪鬼の泣く朝焼けに(前編) 投下順 091:風の名はアムネジア
時系列順 093:これより先怪人領域(前編)
西園寺世界 104:Worldend Dominator
柚原このみ 109:往こう、苦難と逆境と熱血と不屈に彩られた王道を
アントニーナ・アントーノヴナ・ニキーチナ 114:トーニャの不思議なダンジョン及びあやかし懺悔室
井ノ原真人 114:トーニャの不思議なダンジョン及びあやかし懺悔室

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー