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トーニャの不思議なダンジョン及びあやかし懺悔室

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トーニャの不思議なダンジョン及びあやかし懺悔室◆LxH6hCs9JU



 ここは、迷える子羊たちが集う聖なる部屋……あやかし懺悔室。

 ネタ的には、このお話の主要読者層に合っていないと言いますか、
 ボール三つくらいずれてる気がしなくもありませんが。

 なお、このお話の主要成分は筋肉で構成されています。
 大変お見苦しいとは思いますが、ご了承ください。

 ――Amen.


 ◇ ◇ ◇


 鬱蒼とした木々が生い茂る、山の中腹。
 深緑に溶け込むようなひっそりとした舞台に、

 ――現在位置『C-5』
 ――施設名称『寺』

 急な勾配を上り詰め、登山の中継地として適当であろうその地点に、彼女らはいた。
 庭先は整地された石畳、植木には手入れが行き届いており、建物自体は古めかしくも荘厳な雰囲気を放っている。
 様式は中国から定着した堂塔。暑さを避けるために差しかけられた傘は、朝の日差しを和らげる。

「迷える罪深き子羊よ――懺悔を」

 寺院内部。山林特有の燦々とした陽気と涼しさが、冷房器具を必要としないほどの居心地の良さを齎している。
 ぴかぴか――とは言えないものの、住職が苦言を呈さぬほどには美化された廊下を越えた先にある畳の一室。
 経や念仏を唱える声はそこになく、あるのは一人の男の驚嘆の声だけだった。

「やべぇ……こいつぁやばすぎるぜ」

 男の名は、井ノ原真人。筋骨隆々な肉体を赤いタンクトップに包み、上から学ランを羽織っている。
 乱雑に茂った頭髪は赤い鉢巻きで纏め、肉体とラフな服装から暑苦しいほどの情熱が迸っていた。

「ご遠慮なさらず。万能たる神に全てを告白なさい」
「やべぇな……筋肉が爆発しそうだ!」

 外見的印象にそぐい、声量も喧しい。静謐とした山の寺では、なおのこと騒音として際立った。
 真人の無駄に熱血した感動は、傍らに佇む小さな女の声などいとも簡単に掻き消してしまう。

「神の代理人として、神罰の地上代行者として命じます。話を聞けこのファッキン筋肉」
「うおおおおおおー! なんだか無性に腹筋が――ごっはぁ!?」

 少女の背中から、黄色いロープのようなものが伸びる。
 意志を持った蛇のように躍動するロープは、少女の人妖能力『キキーモラ』。
 極細の糸を束ね合わせた、触覚を持つ第三の手のようなものだった。

 高速で動き回るキキーモラは叫ぶ真人の足を打ち払い、次いで足首を絡め取る。
 そのままキキーモラを上に持ち上げればあら不思議、あっという間に逆さ吊りの男が完成だ。

「ってコラ! いったいなにしやがんだ!」
「黙ったほうがいいですよ。逆立ちした状態で喚き散らすと、体の筋肉が脳に移動してしまいますから」
「なんだって……!? 今まで脳みそは鍛えようがねぇと思ってたが、そんな方法で筋肉がつけられたのかよ」
「ええ。まぁ、嘘で虚言で口からでまかせなんですがね。要するに静粛にしろってことです」

 語気は強く、しかし静かな声を発し、少女は真人の足首に絡めたキキーモラを解放する。
 重力の制御下に戻った真人はそのまま頭から落下し、平然と立ち上がった。
 その脇には、なにやら丸っこい形をした茶色の物体が抱えられている。

「ったく……なにがしてぇんだ、テメェはよ」
「それはこっちのセリフです。聞くだけ無駄かとは思いますが、いったいなにがやばいんです?」
「ん? ああ、知りてぇか? なら教えてやるよ……見ろ! この筋肉に勝るとも劣らない立派な――」
「木魚、ですね」
「木魚だ!」

 艶のある光沢、見栄えする彫り目、それはそれは見事な木魚だった。
 で?
 叩けばいい音鳴りそうですね、でもお高いんでしょ、といった一般的な反応は返さない。
 少女はただ、凍てついた視線と冷淡な声を持って木魚を翳す真人に接した。

「ええ、木魚ですね」
「ああ、木魚さ!」
「……で、これがなんだっていうんですか?」
「わからねぇか? こいつはやべぇ、やばすぎる武器だぜ……これさえあれば鈴も恭介も敵じゃねぇ」
「やべぇやべぇとなに抽象的表現しかできない現代のチャラついた若者みたいなこと連呼してるんですか。
 例のランキング制バトルの話をしているんだったら、その気持ち悪くも恍惚とした笑みと共に今すぐ捨てなさい。
 そして悔い改めよ。私はろくに家探しもできない無能な筋肉です。グッピー返上プランクトン確定だー! と」
「へへっ……そこまで言われちゃ仕方がねぇ。黙っているわけにはいかねぇな!」
「あなたがいつ黙ったって言うんですか。休まることを知らない筋肉トークぶっ続けのくせして」
「俺はこの木魚を使いこなし、不可能を可能にする男の称号を欲しいがままにしてやるぜ」
「どうやって木魚を使いこなすっていうんですか?」
「不可能を可能にしてだよ!」

 あはは、つき合い切れないわ~――と、少女は和やかな笑みすら浮かべてキキーモラを再動。
 再び真人を宙吊りにし、今度は若干勢いをつけて床に叩きつけた。
 体の主成分が筋肉でできている真人には、もちろんダメージなどない。すぐさま立ち上がってくる。
 その無駄に屈強な肉体を憮然と眺めつつ、少女は深く溜め息をついた。

 トーニャ・アントーノヴナ・ニキーチナ――名簿上ではアントニーナ・アントーノヴナ・ニキーチナ
 神沢市で名乗っている偽名のほうではなく、ご丁寧にも本名のほうで記載されていた少女の名。
 それでも知り合いの多くは彼女をトーニャと判別できているのだろう、そうでなくても特に問題はなく。
 少女はトーニャとして、この地に立つ。
 ゲームと称された殺し合いの競技。
 その舞台装置の一つである『寺』に、旅先で知り合った筋肉と共に。


 ◇ ◇ ◇


 ――コンコン。

 どうぞ。罪深き迷える子羊よ、カムイン。

「失礼します。トーニャ・アントーノヴナ・ニキーチナです」

 ああ、誰かと思えば、筋肉の妖精マッスル☆トーニャ!……さんでは、あーりませんか。
 懺悔ね。ああううん、どうぞ。

「軽いですね……そしてマッスル言うな。自分で自分が嫌いになりそうです」

 まぁ私相手にキャラ作っても意味がありませんし。脳内空間みたいなものですし。素で。
 それはそうと、ここは誰もが知る告白の場、あやかし懺悔室。
 あなたも懺悔をしにここを訪れたのでしょう。ならば懺悔を。
 気兼ねする必要はありません。神は遍く子羊全てに文句を開いています。

「はあ。では……ぶっちゃけると、あの筋肉についてなんですが」

 惚れましたか? まあ確かに、あの筋肉には見惚れ……

「待てい。ボケにしてもツッコミにしてもネタにしてもそこから先は言ってはいけない。
 あんまり迂闊な発言をすると、キャラ的にはおいしいけれど、
 いろいろと複雑な気分になれるイロモノ時空に巻き込まれるわよ私」

 ……失言でした。さっきの部分はディレクターズカットしておきます。
 で、あのグッピーもとい筋肉がなんですか? いいかげん縁切りしたくなってきましたか?
 筋肉防壁とするには最適な人材ですが、足枷になるようならスパッと切り捨てるのが吉ですよ。

「いえ、切り捨てるほど足手まといというわけではないのですが……
 漫才するのにも疲れたと言いますか、いい加減まともな仲間を見つけたいと言いますか、
 とりあえずプランクトン確定筋肉の面倒見てくれる人でもいてくれればこれ幸いと言いますか」

 懺悔というか、ただの愚痴ですね。まあいいですが。

「寺の中になにか使えるものや怪しい箇所がないか探れと指示すれば、木魚で浮かれる始末ですし……」

 というか、どうしていきなりお寺なんですか。筋肉が出家したいとでも言い出したんですか。

「いえ、寺を訪れたのは私の発案です。少し考えがありましてね」

 ほう……これまで漫然と会場内を周旋していただけの私が、今さら指針を見つけたと?

「ええ、まあ。っていうか、筋肉が出家ってどんな奇想天外な事態ですか。
 坊主と筋肉は馬が合うとでも……とまぁ、あながち間違ってもいませんが。
 っていうかさっきから筋肉率高いですよこの会話!
 まるで私の脳内が筋肉に汚染されているみたいじゃないですか!」

 ふっ、さすがは私。ツッコミどころは逃さない魔性の女番外地。

「棒読み口調で微妙に訳のわからないセリフ吐くのも私ですね。いい加減先に進みましょう。
 確かに、これまでの私はあてもなく各地を彷徨っていた真の意味での迷える子羊でした。
 まぁ目的地を定めていたわけでもなく、道中で人と遭遇できればそれで良しな方針だったからこそですが」

 しかし現実はかくも厳しく。
 これまでに邂逅した人物は異常者ばかり……いえ、ある意味では正常な末路を辿った。
 とも言えなくはありませんか。特に、柚原このみに関しては……グッピーの様子はどうです?

「あのプランクトンが引きずるタマに見えますか?
 見た目の筋肉に反してナイーブな内面を秘めている可能性など考えたくもないです」

 ……まぁ、現状の適度に離れた距離を保ったほうが、後々幸せかもしれませんね。
 何事も入れ込みすぎるのはよくないですし。露骨なツンデレだけは勘弁ですよ?

「……そろそろ自虐ネタに聞こえてきました。自重しろ、脳内の私」

 ふむ。どうにも話が脱線してしまいますね。今後は『筋肉』という単語をタブーにしましょう。
 一回『筋肉』と発言するたびに、『ミ・ミ・ミラクル☆ ミクルンルン☆』と口ずさむ罰を与えます。

「なんて恐ろしいネタを……これはツッコんだら負けのような気がするのでスルーします」

 スルー上等。

「よろしい。では話の続きですが、主催者が開会式……というほどのものでもありませんが、
 ルール説明の際に喋っていた内容は覚えていますか? 彼らはこの殺し合いを、『ゲーム』と呼んでいました」

 便宜上……との前置きもありましたね。ふざけた便宜です。
 人の命をゲーム感覚で奪うなんて、今どきのゲーム脳全開現代っ子じゃあるまいし。

「便利な表現ではありますがね、ゲーム。お遊戯的なニュアンスを含めているのが腹ただしいですが。
 さて、ではこのゲームという単語を頭の隅に一旦置いておき、この会場の地図に着目してみましょう」

 島、ですね。それ以上でもそれ以下でもなく。でもこの島、考えれば考えるほど不自然です。
 東西南北に気色の異なる街々。中央部には天然の山々。
 モスクと教会が目と鼻の先って宗教戦争真っ只中? 辺境に置かれた発電所の意味は?
 空港の滑走路短くない? 遺跡ってなんの遺跡? ってか娼館って……?
 と、それこそ山のようにおかしな部分があるわけですが。

「無人島、ではありません。しかし生活の名残があるわけでもない。
 そもそもこんな様々な文化が密集した島が存在し得るはずがない。
 考えるまでもなく、この島はゲームのために特設された会場……
 殺し合いのために一から作られた、人工島であると推測できます」

 島を作る……それがどれだけ困難なことか、もちろんわかって言っていますね?
 いえ、返答は結構。今さらなにが飛び出しても驚かない、非日常ドンと来いな気構えでいなければ。
 なにせ、『異世界』などという境界線で区分された各人を、一同に介するという時点で……

「主催陣営の保有する力に関しては、考えるだけ無駄というものでしょう。
 私では言峰綺礼という神父や神崎黎人という学生の詳細を知りえないのですから。
 その裏に潜む黒幕の存在も……現状、妄想の域を出ぬ存在です」

 頭脳担当だからといって、一人で抱え込むのはよろしくないですね。
 筋肉や軟体生物に相談しても意味のないことではありますが。

「ええ。ですからこうやって脳内懺悔室を開いているわけです。
 そろそろ団体行動を視野に入れたほうが良かれ、かもしれません」

 とはいっても、あなたはお寺を訪れた。まさかここに出会いがあるなどとは……

「思っていませんよ。私がこのお寺を訪れたのは、先ほど着目した会場マップ。
 その不自然すぎる盲点を、この目で確かめるためです」

 不自然すぎる盲点……ですか。

「当然至極ですが、これは地図です。地図だからこそ、会場内の全体図と主だった施設の場所が記されている。
 ですが、なぜ記すのか? 地図という肩書き上の体面を保つためか、いやいやそんなはずがない。
 これが登山家に向けて配られた山岳地図ならともかく、なぜ各施設の名称を記す必要があるのか。
 これはあくまでも殺し合い。目的地の定められたピクニックではなく、単純なサバイバル競争。
 言ってしまえば、地図なんていらないわけです。どうせ絶海の孤島なんですから、どこに行こうと逃亡は無理。
 知らず知らず禁止エリアに引っかかって爆死というのも、悲劇としては十分にアリです」

 つまり……どういうことですか?

「配る必要のない地図……それを配り、さらに施設名称まで記してあるということはつまりずばり。
 主催者たちは、私たちが漫然と殺し合うだけの結果など望んではいない。
 もっとドラマティックなシチュエーションを期待しているということでしょう。
 それこそ、先ほど頭の隅に置いておいた『ゲーム』のように――。
 様々な舞台装置を用い、主催者自らそれを参加者に悟られぬよう、設定しているとしたら?
 この地図に記された施設が、RPGにおけるダンジョンや補給ポイントの役割を担うとしたら?
 これは主催者たちが観戦して楽しむだけの娯楽的な意味合いを持ったゲームではなく、
 私たち自身がゲーム感覚で挑むことこそ正解と言える、デス・ゲームだったとしたら……?」

 とてつもなく突拍子もない、それでいてぶっ飛んだ仮説ですが、理解してますか?
 ……愚問でしたね。続けてください。

「本当に殺し合わせることだけが目的だとするならば、まず会場はもっと狭くてもいいはずです。
 支給品だって、ダンセイニや筋肉チョッキみたいなものじゃなく、確実に人を殺せるものを入れるべきです。
 主催者の真の企みは――」

 ストップ。それ以上考察するのはやめておきなさい。じゃないと、ドツボに嵌りますよ。
 つまりあなたは、こう言いたいわけです――地図に明記された施設には、なにかしらの意味がある。

「ええ、まあそのとおりです」

 そして、柚原このみから逃れ橋を渡った後……あなたは手ごろな目的地としてこのお寺を目指した、と。
 あれ。でもこれ、神社のほうが手ごろじゃないですか? どうしてわざわざお寺のほうに?

「ああ、地図で見ると確かに神社のほうが近いですね。けど、私が歩いているのは実際は山道でして。
 山頂付近にある神社を目指すより、中腹辺りに位置する寺を目指したほうが早く着くに決まってるでしょう。
 山登りなんて実際疲れるだけですよ。まったくファンタジーやメルヘンじゃあるまいし……」

 我ながらなんという……いえ、あえてツッコミはよしましょう。
 あ、そういえばさっきNGワード言っちゃいましたね。罰を与えます。

「え……? あ、筋肉チョッ――ミ・ミ・ミラクル☆ ミクルンルン☆」

 ふふふ……神の天罰ドカンと一発。

「ええい、こっちもこっちでつき合いきれんわ!
 ということで、まだ見ぬ明日に向かって逃亡――!」


 ◇ ◇ ◇


 話はぐるりと廻って、再び寺院内部。
 地図に記された施設が意味する役割……不確定要素を多分に含む仮説を検証するべく、トーニャたちは家探しを続けていた。
 真人が調達した木魚は、もちろんだがトーニャの求めた『答え』ではない。
 そもそもこのような平凡な日本式寺院にどのような仕込みができるのかと問われればそれまでだが、
 それでもトーニャは粘り強く、畳みの底から襖の奥に至るまで、特異点がないかを探った。

 そして数分後。
 トーニャが求めていた答えは、ダンセイニの功績によって導き出される。

「てけり・り」
「お、ダンセイニがなんか見つけたみたいだぜ」
「またしょうもないものですか」
「ふっ……ダンセイニは至高の筋肉の持ち主だぜ? 俺なんかと一緒にするなよ」
「その発言、ナチュラルに自分を貶してるってわかってますか?」
「んだとぉ……し、しまったああああああああああああっ!!」
「てけり・り」
「これは……穴、ですか」

 ダンセイニが指し示すその場所は、寺の裏庭だった。
 整地された石畳ではなく、雑草茂る地面の上にポッカリ空いた大穴。
 井戸かなにかとも思えたが、水を貯水しておくには明らかに面積が膨大すぎる。
 中を覗けど視界は暗闇に閉ざされ、小石を投げれば落下音は虚無に消えていく。
 そしてこの大穴には、ご丁寧にも下降用の鉄梯子が取り付けられていた。

「かなり深いなこりゃ。穴掘って埋まるにしてもやりすぎだぜ」
「……怪しい臭いがぷんぷんしますね。ちょっと降りてみましょう」
「おう、いってらっしゃい」
「……(ジロ)」
「あん? なんだよ、俺の筋肉になんか文句でもあんのか?」

 先に行け――という念を込めた睨みは、しかし真人には通じなかった。
 この数時間で井ノ原真人という少年の扱い方を熟知してきたトーニャは、焦らず動じず。
 筋肉担当を合理的に使う術として、より適切な手段に躍り出た。

「知ってますか? 梯子を上り下りするのって、結構な重労働なんですよ?
 これだけの深さです。一往復するだけでも、相当筋肉が鍛えられることでしょう」
「なに……マジかよ。おい、ちょっくら降りてみようぜ」
「イエス単純脳細胞。さすがは私、言葉の魔術師」

 トーニャの口車にあっさり乗せられた真人は、先行して梯子を伝い降りていく。
 続いてトーニャ、最後にダンセイニが軟体を器用に操り、三人連なって下降していった。

「しっかし本当に深いな。まだ底が見えねぇぞ」
「手元くらいは見えるでしょう。真っ直ぐ梯子を降りていけばいずれは底に辿り着きます」
「んだとぉ………………あ」
「――ッ!? う、上を見るな!」
「グハッ!?」
「くっ……迂闊。私としたことが、なんたる迂闊……!」
「てけり・り」

 周囲が壁で囲まれているためか、トーニャたちの会話は反響して聞こえた。
 とはいえここは山の中。耳にする者など誰もおらず、ビックリドッキリ青春ハプニングは闇に消える。

 何十メートルか下降して、やっと踏み締めた大地の感触。
 固い土の上に降り立ったトーニャは、そこが井戸の底などではないということを改めて実感する。

「井戸の底に照明灯なんてものが……つけられているはずはありませんからね」

 穴倉の最下層は、暗闇の空間などではなかった。
 円形の壁際には、東西南北に分かれて設置された四つの燭台があり、微かな火が灯っている。
 足元の確認はもちろん容易。
 そして目の前の壁に、さらなる奥地へと続き洞穴の入り口があることも――容易に目視できた。

「先へ進みましょう。行きますよプランクトン」
「おいちょっと待て。プランクトンってなんだよ」
「言ったでしょう。次で活躍できなかったら改名すると」
「いつ俺が活躍しなかったってんだよ!?」
「この穴を発見したのはダンセイニ。その頃あなたは木魚で大はしゃぎ」
「なんだとぉ……木魚なんて筋肉に比べればただの木屑ですよ、
 っていうか真人には立派な筋肉があるから木魚なんて無用の動物ですよ……とでも言いたげだなぁ!?」
「全然言いたげではないです。ついでに言うなら無用の動物ではなく無用の長物です。
 なんですか無用の動物って。全世界の動物に喧嘩売ってますか。
 仮にこの世で無用の動物なんて存在がいるとすれば、それはどこぞのフォックスビッチのみです」
「なに言ってるかよくわからねぇが……とりあえず叫ぶぜ。
 うおおおおお! しまっ――って、なんじゃこりゃあああ!?」

 横に続く小さなトンネルを越えた先には、大きな空洞が広がっていた。
 形状はドーム状。野球の試合が執り行えるほどの面積が広がっており、照明灯の数も先ほどの比ではない。
 地下にこれほど広大な空間が形成されていたという驚きもあるが、真人が叫び、トーニャが瞠目したのには別の理由がある。

「てけり・り」
「……特別、日本の寺院に詳しいわけではありませんが……さすがにこれはないでしょう」

 ダンセイニとトーニャが視線を上に仰ぎ、唖然とする。
 真人が興奮のあまり周囲を走り回ろうとし、うるさいのでキキーモラを使って転ばせておく。

「あれ、なにに見えますか?」
「なにって、んなもん決まってるだろ。だ」
「いえ、答えてくれなくても結構。あれは、〝大仏〟です。間違いなく」

 苦笑気味の声で、トーニャは事実を受け入れた。

 会場内の、少なくとも地図に記された各施設には、なにかしらの意味がある。
 そう、あたりをつけたトーニャが立ち寄った先……寺の裏庭には、奇妙な大穴がポカリ。
 降りてみれば、怪しげな地下通路。そしてさらに奥へと進んだ結果……トーニャが発見した答え。

 それは、お寺には付き物の巨大な巨大な大仏様だった。

「って、なんでわざわざ寺の地下に大仏なんて置くんですかー!?
 これが日本の文化ですか、仏教の真髄ってやつですか、ロシア人なめんな!
 だいたい――」
「てけり・り!」

 トーニャの怒涛のツッコミがスタートする……と思われた刹那、ダンセイニの齎す音が彼女の憤怒を沈静化させた。
 あれを見ろ、と言わんばかりにスライム状の体を蠢動させられ、トーニャと真人は大仏の足元に目をやった。
 大仏が置かれる土色のカーペットの上に、見知らぬ少女が一人、横たわっている。

「まさか……仏陀ですか!?」
「ブタ? いやいや、ありゃどう見ても人間だろ」
「ええいそんなことはわかっとるわ! そういう問題ではなく、誰ですかあなたー!?」
「……ん…………っ、ん……え?」

 極光の眩しさから解放されたような面持ちで、その少女はゆっくりと身を起こす。
 ストレートのロングヘアが際立つ、大人びた風貌の女性は、衣服から察するに学生だろうか。
 地下空洞に置かれた大仏の安座で眠るなど、あまりにも不似合いに思える美貌を晒し、ことんと首を垂れる。

 まるで彼女自身、まったく事情が飲み込めていないといった風に。

「えぇと……ここは、どこでしょう」

 トーニャと真人とダンセイニは即答を返すことができず、棒立ちのまま少女を見つめていた。
 ――これが、極上生徒会会長、神宮司奏とのファースト・コンタクトである。


 ◇ ◇ ◇


 光の先には――――深い深い穴倉へと繋がる抜け道があった。
 この穴倉になにが眠っているのかは、まだ誰にもわからない。

 ……ただ、トーニャはこの深い穴倉に漠然としたなにか……光明のようなものを感じ取っていた。
 キーワードは『ゲーム』……主催者等の言う便宜がなにを意味するのか、答えはどこぞにあるのかもしれない。



【C-5 寺の地下/一日目/午前】

【井ノ原真人@リトルバスターズ!】
【装備:木魚、マッチョスーツ型防弾チョッキ@現実【INダンセイニ@機神咆哮デモンベイン】】
【所持品:なし】
【状態:胸に刺し傷、左脇腹に蹴りによる打撲】
【思考・行動】
基本方針:リトルバスターズメンバーの捜索、及びロワからの脱出
0:ボス狸と行動。筋肉担当
1:目の前の少女に対処。
2:理樹や鈴らリトルバスターズのメンバーや来ヶ谷を探す。
3:主催への反抗のために仲間を集める。
4:ティトゥス、クリス、ドライを警戒。
5:柚原このみが救いを求めたなら、必ず助ける
【備考】
※防弾チョッキはマッチョスーツ型です。首から腕まで、上半身は余すところなくカバーします。
※現在、マッチョスーツ型防弾チョッキを、中にいるダンセイニごと抱えています。
※真と誠の特徴を覚えていません。見れば、筋肉でわかるかもしれません。
※真人のディパックの中はダンセイニが入っていたため湿っています。
※杏、ドクターウェストと情報交換をしました

【ダンセイニの説明】
アル・アジフのペット兼ベッド。柔軟に変形できる、ショゴスという種族。
言葉は「てけり・り」しか口にしないが毎回声が違う。
持ち主から、極端に離れることはないようです。
どうやら杏のことを気に入ったようです


【アントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナ@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備:ゲイボルク@Fate/stay night[Realta Nua]】
【所持品:支給品一式、不明支給品0~2、スペツナズナイフの刃、智天使薬(濃)@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:打倒主催
0:たまご風味のグッピーと行動。頭脳担当。
1:目の前の少女に対処。
2:寺の地下を探索。
3:神沢学園の知り合いを探す。強い人優先。
4:主催者への反抗のための仲間を集める。
5:地図に記された各施設を廻り、仮説を検証する。
6:ティトゥス、クリス、ドライ、このみを警戒。アイン、ツヴァイも念のため警戒
7:状況しだいでは真人も切り捨てる
【備考】
※制限によりトーニャの能力『キキーモラ』は10m程度までしか伸ばせません。先端の金属錘は鉛製です。
※真人を襲った相手についてはまったく知りません。
※八咫烏のような大妖怪が神父達の裏に居ると睨んでいます。ドクターウェストと情報交換をしたことで確信を深めました
※杏、ドクターウエストと情報交換をしました
【トーニャの仮説】
  • 地図に明記された各施設は、なにかしらの意味を持っている。


【神宮司奏@極上生徒会】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式。スラッグ弾30、ダーク@Fate/stay night[Realta Nua]、
      SPAS12ゲージ(6/6)@あやかしびと -幻妖異聞録-、不明支給品×1(確認済み)
【状態】:健康。爪にひび割れ
【思考・行動】
0:ここは……どこでしょうか?
1:自分にしか出来ない事をしてみる。
2:蘭堂りのを探す。
3:できれば、九郎たちと合流したい。
4:藤野静留を探す。
5:大十字九郎に恩を返す。
【備考】
加藤虎太郎とエレン(外見のみ)を殺し合いに乗ったと判断。
浅間サクヤ・大十字九郎と情報を交換しました。
※第二回放送の頃に、駅【F-7】に戻ってくる予定。
ウィンフィールドの身体的特徴を把握しました。
※主催陣営は何かしらの「組織」。裏に誰かがいるのではと考えています。
※禁止エリアには何か隠されてかもと考えてます。


【寺の地下】
寺の裏庭に、地下へと通じる大穴が開いています。
地下の空洞には大仏が安置されており、その他の詳細は一切不明。



113:Second Battle/少年少女たちの流儀(後編) 投下順 115:もう一人の『自分』
111:大馬鹿者達の出会い 時系列順 128:日誌とクドリャフカと刑務所とドライ
090:悪鬼の泣く朝焼けに(後編) アントニーナ・アントーノヴナ・ニキーチナ 134:交錯する雄と雌~綺麗な雫~
井ノ原真人 134:交錯する雄と雌~綺麗な雫~
107:光の先には? 神宮司奏 134:交錯する雄と雌~綺麗な雫~

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