ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

風の名はアムネジア

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風の名はアムネジア ◆AHO/leKv9s



「……う……ん……」

どれぐらいの時間が経過したのだろう。
顔に差した陽の光によって彼女は目を覚ます。

「きれいね………………」

まだ頭がぼんやりとして思考が定まらない。
視界に入った硝子細工が日光により美しく輝くのを見てぼんやりとしたままつぶやく少女。

「……ステンドグラス……長椅子に……十字架……」

仰向けに倒れたまま、天井に向いていた頭を左右に動かし視界に入ったものを確認していく。
そこが教会であることを認識するまで、今の彼女でもそれほど時間はかからなかった。
思考が鮮明になり始め、四肢が動くことを確認した少女はその場から起き上がる。

「どうして……私、教会なんかに…………痛っ!?」

だが、そこから更に立ち上がろうとした彼女は後頭部に走る強烈な痛みに思わず片膝をつく。
ズキンズキンと痛みの走る箇所に手を当てると、ドロリと粘つく感触があった。

「血、なんで……、それに…………え?」

掌に付いた血を見て「自分が後頭部に怪我をしている」という事実に驚くと同時にもう一つの、
いや、思考がハッキリしはじめた今だから気付いた事実に愕然とする。




「思い出せない……。私、自分が誰なのか思い出せない……!」




それを柚原このみ古河渚の心を弄んだ代償というべきか、或いは単に運が悪かったと言うべきなのか。

いずれにしても彼女、ファルシータ・フォーセットは頭を強くぶつけたショックにより記憶を失っていた――

「どうしよう、目が覚める前のことがまったく思い出せないなんて……」

膝をついたまま、ファルは頭を押さえながら記憶の糸を辿ろうとする。
何しろ名前がわからないのは勿論のこと、自分がどこから来て、いつから此処にいたのかということすら全くわからないのだ。
記憶が戻らねば行動のしようがない。

そうやって暫らくの時間が経過したあと、ファルは頭を横に振る。

「駄目だわ、思い出せない……」

やはり、すぐに記憶が戻るわけでもないらしい。

どうしたものかと思ったその時、遠くで銃声が鳴り響く。

(今のは銃声!?いったいどこから……?)

その音に驚きつつ、ファルは立ち上がろうとしてバランスを崩し、すぐ側の長椅子に手を付く。
体を床に打ち付ける羽目になるのは避けられた。
だが、頭痛がぶりかえし酷く体が重く感じられる。

(無理に動くのはやめたほうがいいみたいね……。それにしてもなぜ奥から誰も出てこないのかしら……)

何とか長椅子にもたれかかりながら、ファルは現在自分のいる場所が明らかに変であるのに気付く。
ここは教会なのだから、今の音を聞いて教会の司祭なり牧師が飛び出してきてもおかしくないはずだ。
彼女には、銃声が聞こえても平然と寝ていられる図太い神経の人間がいるとは思えなかった。

そうしているうちにもう一度、遠くから銃声が聞こえてくる。
しかし、奥の方から人が出て来る気配が無い。

もしかして、この教会には自分以外誰もいないのだろうかという考えがファルの頭をよぎる。
どうであれここにいては教会へ銃を持った危険な人物が来る可能性もある。

(無理はしたくないけど、教会の奥へ行った方がいいみたいね)

ファルは長椅子から立ち上がり、壁伝いに教会の奥へと進んでいく。
ようやく幾つかある部屋の一室へ入ったとき、予想は的中した。

そこは教会の人間が寝泊りするべき部屋、仮眠室であったがそこに人の姿は無かった。
室内にはベッドをはじめとする家具や様々な調度品があり、それらはきれいに整理整頓されてはいたが。

とりあえず、怪我の手当てをしたいと思ったファルは戸棚に置かれていた救急箱を手に取る。
この瞬間にでも教会の人間が戻ってきたらとも思ったが、その時は懺悔して済ませればいいと考えた。

ベッドに座り、箱から取り出した消毒液と化膿止めを後頭部へ塗りこみ包帯を頭に巻く。
まだ頭痛はするが、出血はこれで止まるだろう。

そこで顔を上げたとき、鏡に自分の姿がうつっているのが見えた。

「これが……私の顔」

なんということだろう、自分がどんな顔なのかすら忘れていたとは。

そうやって自分が記憶喪失なのだと改めて実感する。

(これからどうしようかしら……)

鏡に手をつきながら、ファルは今後のことを考える。
外から銃声が鳴り響いたということは、教会の外でそれだけのことが起こっているということだろう。
現に自分は危機を感じて教会の奥に向かったではないか。

だが、今ここにとどまっていても多分記憶がもどることは無いだろう。
なら自分はここを出るべきではないだろうか。

出てどうするのか?

決まっている、自分が誰であるのかを探す。
今、自分はなんとかして記憶を取り戻したいのだから。

外を出れば自分のことを知っている人間もいるかもしれない。
そういった人を利用して情報を得ていくしかない。というのが彼女の出した答えだった。

(……“利用する”ってなぜ?)

が、そこで自分の答えを出しながらもその直後ファルは疑問を持つ。

普通ならこういう場合「協力してもらう」とか「助力を請う」という言い回しが浮かぶはずなのに、先ほど頭に浮かんだのは“利用する”というものだった。

それは、彼女が記憶を失う前に持っていた性(さが)あるいは本質の断片でもあるが、そのことに気付くはずも無い。

小さな疑問はうかんだものの、そのあとのファルの行動は早かった。
とりあえず、必要なものを拝借していったほうがいいかもしれないと考え、部屋にあった救急箱と他に使えそうなものを近くにあったリュックサックに詰め込んでいく。

時折、記憶を失う前の自分は手癖の悪い人間だったのだろうかと考えたりもしながら。
あらかた必要と思えるものを詰め込んだリュックを背負うと、ファルは部屋を抜けて教会の外へ出る。

教会の敷地を抜けると、そこがスラム街であることを理解した。
周囲の風景を見渡し、物陰からならず者が出てくるのではないかという気分になってくる。

目が覚めてから聞こえてきた銃声を思い出す。

(用心に越したことはないわね)

そう考えてファルは一旦教会の敷地に入ると、置かれていた一本のデッキブラシを手にとった。
銃を持った人間相手に大して意味は無いが素手であるより幾らかはましだろう。

最後に一度だけ教会の方を振り返ったあと、ファルは歩き出す。
とりあえずはこのスラム街以外の場所に行くべきだ。

途中、歩を早めようとしてよろめき、ブラシを杖代わりにする。
やはり体の調子が悪い。
どこか、適当に休める場所を探したほうがいいだろうと考える。

(あとは、これをどうにかしたいわね)

ファルは自分の裂けたスカートに目を向ける。
裁縫道具でもあれば縫い合わせられるかもしれないが、あいにく教会にそれらしいものはなかった。
修道服を拝借する気はさすがに起きなかった。

(仕立て屋とかどこかにあるといいんだけど……)

思わずそんなことも考えたりするが、一方で自分のスカートが破れていたことが気にもなった。
これが記憶を失う前に何があったのかを知る糸口になるかもしれないのだから。

(私は目が覚めたとき、頭から血を流して倒れていた。そしてスカートも下着が見えそうなところまで裂けていた……。
もしかして私、気絶するまで乱暴されていたの?)

だとしたら、自分が目を覚ましたとき一人だったのも合点がいく。
記憶が無い以上憶測でしかないが、多分記憶をなくす前の自分は教会で乱暴されていて気を失った。
そして、自分を襲っていた人間は頭から血を流す自分を見て死んだと思い逃げ出したのかもしれない。

(それなら、男の人に近づくのはやめたほうがいいかもしれない)

そんなことを考えていると遠くのほうから煙が見えた。

(あれは、火事……?)

思わず、煙の昇る方に向かおうかとも思う。
だが、それとともに目が覚めてから聞こえた銃声の主がいるかもしれないとも思う。

(どうしようかしら……煙の見えた方向に向かう?それとも……)

そうやってファルは暫し思案する。

一度堕ちた少女は這い上がってみせた。
だが、その代償として記憶を失った。

それは“今の”本人にとって幸福だったのか不幸なのかはまだわからない。


【B-1 スラム街 午前】
【ファルシータ・フォーセット@シンフォニック=レイン】
【装備:デッキブラシ】
【所持品:リュックサック、救急箱、その他色々な日用品】
【状態:重度の記憶喪失、頭に包帯、体力疲労中、精神的疲労中、後頭部出血(処置済み)、頭痛あり、スカートが大きく縦に裂けている(ギリギリ下着が見えない程度)】
【思考・行動】
 基本:自分の記憶を取り戻したい
 1:自分のことを知っている人間から自分についての情報を得たい。
 2:とりあえず、途中休憩を取りながらスラム街から他の場所へ移動する。
 3:男性には極力近づかないようにする。
 4:火事?のある方向に行くかどうか考える。

【備考】
※ファルの登場時期は、ファルエンド後からです。
※頭を強く打った衝撃で目が覚める前の記憶を失ってます。
※気絶前のことを断片的に覚えている可能性もあります(例として“他者を利用する”など)
※当然バトルロワイアルに参加していること自体忘れてます。
※教会に倒れていたこととスカートが裂けてたことから、記憶を失う前は男性に乱暴されてたと思ってます。
※激しい運動をすると立ちくらみがする状態です。
※火事のあった方向に行くかどうかは次の人次第。


090:悪鬼の泣く朝焼けに(後編) 投下順 092:doll(前編)
089:影二つ-罪と罰と贖いの少年少女- 時系列順 092:doll(前編)
083:少女のおちる朝に ファルシータ・フォーセット 094:記憶の水底

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