死闘/舞姫異聞録(後編) ◆WAWBD2hzCI
暗闇の中、その光景を見た老人の哄笑が響き渡る。
暗闇の中、老神父は珍しいほどの歓喜の声をあげて彼女の成長を祝福していた。
暗闇の中、隔絶された部屋で確かに一人の父親が喜びをあらわにしていた。
暗闇の中、老神父は珍しいほどの歓喜の声をあげて彼女の成長を祝福していた。
暗闇の中、隔絶された部屋で確かに一人の父親が喜びをあらわにしていた。
ジョセフ・グリーア。
彼の心に希望が宿った。
深優がHiMEとして覚醒を果たしたのだ。
これが意味することはプログラムからの脱却、心と感情の獲得だ。
元々生前の優花にはHiMEの素養があることを示す紋章があった。彼女の生体を使っている以上、不思議ではない。
彼の心に希望が宿った。
深優がHiMEとして覚醒を果たしたのだ。
これが意味することはプログラムからの脱却、心と感情の獲得だ。
元々生前の優花にはHiMEの素養があることを示す紋章があった。彼女の生体を使っている以上、不思議ではない。
この絶望的な環境の中。
この絶対的なプログラムの中。
この絶大的な死闘や殺し合いの中で、深優・グリーアは人として完成しようとしている。
奇跡としか言いようがない。
その奇跡を目の当たりにして、ジョセフ神父はますます思うのだ。
やはり彼女こそ優花の生まれ変わりだ、と。
娘は生きている。今はまだ深優という名前だが、いずれ彼女は変質していくのだ。
この絶対的なプログラムの中。
この絶大的な死闘や殺し合いの中で、深優・グリーアは人として完成しようとしている。
奇跡としか言いようがない。
その奇跡を目の当たりにして、ジョセフ神父はますます思うのだ。
やはり彼女こそ優花の生まれ変わりだ、と。
娘は生きている。今はまだ深優という名前だが、いずれ彼女は変質していくのだ。
ジョセフ・グリーアがずっと求め続けたもの。
娘を失った交通事故のあの日からずっと一途に求め続けた娘の笑顔を取り戻す。
そのための絶対条件であり、第一歩がここに完成した。
人の心。それもHiMEになれるほどの強い想い。それさえあれば時間が深優を優花へと変えてくれる。
娘を失った交通事故のあの日からずっと一途に求め続けた娘の笑顔を取り戻す。
そのための絶対条件であり、第一歩がここに完成した。
人の心。それもHiMEになれるほどの強い想い。それさえあれば時間が深優を優花へと変えてくれる。
優花はよく笑う娘だった。
優しくてとても気の利く少女だった。
深優に優花となってほしい。そのためにはどうすればいいだろうか、と躍る心が想像する。
優しくてとても気の利く少女だった。
深優に優花となってほしい。そのためにはどうすればいいだろうか、と躍る心が想像する。
深優の行く先を見てみたい。
プログラムを脱却した先に何があるのかを見てみたい。
彼女が何処へ行くのか、何を考えてこれから生き続けるのかをずっと見守り続けていたい。
それが父親だった。どんなに狂っていようと、彼は誰がなんと言おうと父親だった。
深優・グリーアの父であり、そして優花・グリーアを求める父だった。
プログラムを脱却した先に何があるのかを見てみたい。
彼女が何処へ行くのか、何を考えてこれから生き続けるのかをずっと見守り続けていたい。
それが父親だった。どんなに狂っていようと、彼は誰がなんと言おうと父親だった。
深優・グリーアの父であり、そして優花・グリーアを求める父だった。
だが。
だがしかし、だ。
ここでジョセフ神父は惜しくなる。
希望が湧き上がると同時に感じ始める不安。
彼女は今、地獄の中にいる。殺し、殺される世界の中にいる。
なら、彼女が壊される可能性はこれからも続く。優花の可能性を限りなく期待できる彼女が壊される。
中途半端に見出した希望がジョセフ神父に恐怖と不安を与えようとしていた。
だがしかし、だ。
ここでジョセフ神父は惜しくなる。
希望が湧き上がると同時に感じ始める不安。
彼女は今、地獄の中にいる。殺し、殺される世界の中にいる。
なら、彼女が壊される可能性はこれからも続く。優花の可能性を限りなく期待できる彼女が壊される。
中途半端に見出した希望がジョセフ神父に恐怖と不安を与えようとしていた。
どうすればいい。
どうすればいい。
どうすればいい。
どうすればいい。
どうすればいい。
そうだ、ジョセフは元々この殺人遊戯には懐疑的だった。
結果として深優が心を自覚できたのは僥倖だったが、もうこれ以上付き合いたくない。
父親として娘の雛形が壊されようとしている現状が一分一秒も惜しい。
今すぐ娘を連れてここから離れたい。ゲームなら好きにやってもらって構わないが、深優は日常に返したい。
優花が生前、ずっといた日常だ。感情と優しい心を育み続けた平和な世界だ。
そこで数年も暮らせば、いつしか彼女は優花になってくれる。くれるはずだ、そうに違いない。
結果として深優が心を自覚できたのは僥倖だったが、もうこれ以上付き合いたくない。
父親として娘の雛形が壊されようとしている現状が一分一秒も惜しい。
今すぐ娘を連れてここから離れたい。ゲームなら好きにやってもらって構わないが、深優は日常に返したい。
優花が生前、ずっといた日常だ。感情と優しい心を育み続けた平和な世界だ。
そこで数年も暮らせば、いつしか彼女は優花になってくれる。くれるはずだ、そうに違いない。
老神父の口元がニヤリと笑った。
希望だ、希望がすぐ近くにあるのだ。ずっと長年求め続けた結果が手に入ろうとしているのだ。
何を恐れることがある、とジョセフは思う。
亡き娘のために神も道徳も捨て去ったのだ。ならば、もはや何も躊躇わなかった。
希望だ、希望がすぐ近くにあるのだ。ずっと長年求め続けた結果が手に入ろうとしているのだ。
何を恐れることがある、とジョセフは思う。
亡き娘のために神も道徳も捨て去ったのだ。ならば、もはや何も躊躇わなかった。
このゲームに反逆しよう。
我が目的はただひとつ。亡き娘を取り返すために。
我が目的はただひとつ。亡き娘を取り返すために。
こんこん、とノックがひとつ。
老神父はその音にようやく気づいて、モニターに釘付けの瞳を億劫そうにドアのほうへと向けた。
そこには――――――
老神父はその音にようやく気づいて、モニターに釘付けの瞳を億劫そうにドアのほうへと向けた。
そこには――――――
◇ ◇ ◇ ◇
撃ち尽くさん、と言わんばかりに応酬が続く。
衛宮士郎と深優・グリーア、両者は譲れない者のために互いの存在を否定しあう。
深優のエレメントはそれを触媒にして力を行使するタイプだ。
アリッサが使っていた天使の羽を模したレーザーのようなもの、と言えば分かりやすいかも知れない。
それらを全力で扱い、士郎が放つ刀や矢を全て叩き落とす。
衛宮士郎と深優・グリーア、両者は譲れない者のために互いの存在を否定しあう。
深優のエレメントはそれを触媒にして力を行使するタイプだ。
アリッサが使っていた天使の羽を模したレーザーのようなもの、と言えば分かりやすいかも知れない。
それらを全力で扱い、士郎が放つ刀や矢を全て叩き落とす。
「ぐっ……」
遠距離での戦いは互角となった。
士郎の唯一のアドバンテージだった遠距離での戦いもまた拮抗することになったのだ。
それも士郎のほうが分が悪い。
彼が量産する刀は禁断の魔導書を利用した投影魔術のようなもの。使えば使うほど頭痛が酷くなる。
このまま消費し続ければ、深優よりも先に消耗してしまうのは目に見えている。
士郎の唯一のアドバンテージだった遠距離での戦いもまた拮抗することになったのだ。
それも士郎のほうが分が悪い。
彼が量産する刀は禁断の魔導書を利用した投影魔術のようなもの。使えば使うほど頭痛が酷くなる。
このまま消費し続ければ、深優よりも先に消耗してしまうのは目に見えている。
この均衡を崩さなければ勝利は有り得ない。
一瞬の判断で士郎は火炎瓶を矢として放つことを選択。
もちろん深優の天子の羽で撃ち抜かれるが、その結果として解放された火炎が教室の中を赤く染めた。
一瞬の判断で士郎は火炎瓶を矢として放つことを選択。
もちろん深優の天子の羽で撃ち抜かれるが、その結果として解放された火炎が教室の中を赤く染めた。
「―――――!?」
「うっ、ぉぉおおおおおおおおおおっ!!!」
「うっ、ぉぉおおおおおおおおおおっ!!!」
視界が突然、朱に染まったことに深優の動きが一瞬停滞する。
火炎瓶は次々と放たれ、ついには煙と炎で深優は士郎の姿を見失った。
その業火の中を赤毛の少年は疾走した。目の前に迫る炎の壁の中から、士郎が踊りだしてくる。
深優が反応する時間も、演算させる時間も与えない。
一秒も掛からず士郎は鬼殺しの刀を握ると、深優へと肉薄する。
火炎瓶は次々と放たれ、ついには煙と炎で深優は士郎の姿を見失った。
その業火の中を赤毛の少年は疾走した。目の前に迫る炎の壁の中から、士郎が踊りだしてくる。
深優が反応する時間も、演算させる時間も与えない。
一秒も掛からず士郎は鬼殺しの刀を握ると、深優へと肉薄する。
反撃は間に合わない。
回避すらも間に合わない。
かろうじて防備を固めるため、深優はエレメントで己の体を包み込もうとする。
回避すらも間に合わない。
かろうじて防備を固めるため、深優はエレメントで己の体を包み込もうとする。
だが、その必要はなかった。
士郎と深優の真横から飛び出す影がある。
身体そのものが弾丸のような速度で士郎へと肉薄すると、彼の左腕が螺旋を描いて咆哮した。
士郎と深優の真横から飛び出す影がある。
身体そのものが弾丸のような速度で士郎へと肉薄すると、彼の左腕が螺旋を描いて咆哮した。
―――九鬼流絶招 肆式名山 内の壱―――
今度は士郎が防御の姿勢を取らなければならなかった。
だが、振り下ろそうとした刀は止まらない。
何とか刀身を敵の一撃を合わせようとするが、そんなものでは止まらない。
九鬼流はどのような妖怪を相手にしても葬る、そのための螺旋を描いた一撃だ。
だが、振り下ろそうとした刀は止まらない。
何とか刀身を敵の一撃を合わせようとするが、そんなものでは止まらない。
九鬼流はどのような妖怪を相手にしても葬る、そのための螺旋を描いた一撃だ。
どんなに硬い敵でも。
どんなに軟体な敵でも。
妖怪の身体の芯を撃ち抜くための一撃が、皹の入った刀でどうして止められようか。
どんなに軟体な敵でも。
妖怪の身体の芯を撃ち抜くための一撃が、皹の入った刀でどうして止められようか。
「焔螺子」
ずどん、と壮絶な音が響いた。
今度こそ鬼切りのために生み出された維斗という名の刀が根元から折れる。
ごめん、と如月双七は刀に対して謝った。
それでも渾身の力を込めて振りぬく一撃に迷いはなく、腹部を強打された士郎は吹っ飛ばされてゴロゴロと後ろに転がっていった。
今度こそ鬼切りのために生み出された維斗という名の刀が根元から折れる。
ごめん、と如月双七は刀に対して謝った。
それでも渾身の力を込めて振りぬく一撃に迷いはなく、腹部を強打された士郎は吹っ飛ばされてゴロゴロと後ろに転がっていった。
「ぎっ……!」
「ぐうっ、!?」
「ぐうっ、!?」
両者が激痛を訴える。
身体の中に生えた剣まで叩き折られるような一撃に士郎が呻き声をあげ。
それでも拳を傷付けて顔を歪ませる双七の姿がある。
深優の思考はそのときばかりは停止したかも知れない。少なくとも目の前の光景が信じられない。
身体の中に生えた剣まで叩き折られるような一撃に士郎が呻き声をあげ。
それでも拳を傷付けて顔を歪ませる双七の姿がある。
深優の思考はそのときばかりは停止したかも知れない。少なくとも目の前の光景が信じられない。
「如月さん、何故」
別離は告げたはずだ。
決別したはずだ。
彼と彼女の道は交わらない。
ならば殺し合いに乗った者同士の戦いなど介入する必要がない。
そうしている間に彼は別の誰かを助けに行かなければならないはずだ。それが双七の理念だったはずだ。
それなのに彼はここにいる。拮抗した戦いを深優に大きく傾けるため、如月双七はそこに立っていた。
決別したはずだ。
彼と彼女の道は交わらない。
ならば殺し合いに乗った者同士の戦いなど介入する必要がない。
そうしている間に彼は別の誰かを助けに行かなければならないはずだ。それが双七の理念だったはずだ。
それなのに彼はここにいる。拮抗した戦いを深優に大きく傾けるため、如月双七はそこに立っていた。
「何故って」
それこそ当然のような顔で一度振り返る。
そこにはこれまで深優に接してきた彼と変わらない双七の表情がある。
計算などない。ただ愚直に、ただ一途に、ただ真っ直ぐに双七は笑顔で語る。
そこにはこれまで深優に接してきた彼と変わらない双七の表情がある。
計算などない。ただ愚直に、ただ一途に、ただ真っ直ぐに双七は笑顔で語る。
「言ったろ。初めて逢ったとき、俺は深優を守りたいって思った……ってさ」
百の言葉では深優を止められなかった。
ならば千の言葉を叩き付けるために双七は再び舞い戻った。
それが例え無駄なことだとしても、意味のないことだとしても、それが愚かなのだとしても。
深優を放っておけなかった。
きっといつか、修羅の道を歩き続ける深優を見て後悔する日が来る。そんなことは嫌だったから。
ならば千の言葉を叩き付けるために双七は再び舞い戻った。
それが例え無駄なことだとしても、意味のないことだとしても、それが愚かなのだとしても。
深優を放っておけなかった。
きっといつか、修羅の道を歩き続ける深優を見て後悔する日が来る。そんなことは嫌だったから。
「………………次に逢ったときは敵同士、と警告したはずです」
「うっ……」
「うっ……」
そこまで考えが至らなかったらしく、双七が引きつった顔を見せる。
本当にただ一途に子供のように、ただ助けたいという想いだけで彼はここまで来たのだろう。
深優は溜息をついてしまう。
そんなことができるほど、深優の世界はこの一日で大きく変わっていた。
本当にただ一途に子供のように、ただ助けたいという想いだけで彼はここまで来たのだろう。
深優は溜息をついてしまう。
そんなことができるほど、深優の世界はこの一日で大きく変わっていた。
「後にしましょう。今は敵勢力の撃破を」
「わ、分かった」
「わ、分かった」
一度決別した二人は、再び並び立つ。
眼前にはようやく立ち上がった赤毛の少年の姿がある。
深優は不思議と負ける気分がしなかった。
背後にはアリッサ・シアーズがいて、隣には愚直な仲間の姿があるのだから。
眼前にはようやく立ち上がった赤毛の少年の姿がある。
深優は不思議と負ける気分がしなかった。
背後にはアリッサ・シアーズがいて、隣には愚直な仲間の姿があるのだから。
◇ ◇ ◇ ◇
(負けるのか……?)
士郎の脳裏にその可能性がよぎる。
状況は絶望的で、先ほどの一撃は激烈だ。
幸いにも身体は剣で出来ている。肉を抉り取る一撃でも容易には砕けまい。
だが、そんなことで優位に立てるとは到底思えない。
状況は絶望的で、先ほどの一撃は激烈だ。
幸いにも身体は剣で出来ている。肉を抉り取る一撃でも容易には砕けまい。
だが、そんなことで優位に立てるとは到底思えない。
強化を利用した弓は通じない。
魔導書による刀の爆弾では深優しか止めることはできない。
接近戦ならば双七のほうに分があることは認めざるを得ない。
魔導書による刀の爆弾では深優しか止めることはできない。
接近戦ならば双七のほうに分があることは認めざるを得ない。
(負ける、なんて……許されない)
接近戦でも遠距離戦でも、もはや優位には保てない。
このままでは緩やかに衛宮士郎は壊れていく。
ただ無為に使い古される刀のように。いずれは折れて使い物にならなくなる。
桜の剣は敗北できないのに、どうしようもなく士郎には敗北の道しかない。
このままでは緩やかに衛宮士郎は壊れていく。
ただ無為に使い古される刀のように。いずれは折れて使い物にならなくなる。
桜の剣は敗北できないのに、どうしようもなく士郎には敗北の道しかない。
(負けられない……)
己を鼓舞して士郎は前を見る。
何もかもを捨ててきた。
かつての衛宮士郎の全てを捨ててきたし、これからも棄て続けるだろう。
その先にあるのは希望ではなく、絶望だってことも心の内では理解している。
何もかもを捨ててきた。
かつての衛宮士郎の全てを捨ててきたし、これからも棄て続けるだろう。
その先にあるのは希望ではなく、絶望だってことも心の内では理解している。
それでも、まだ手を尽くせるうちは。
たった一人の愛する人の味方で在り続ける限り、衛宮士郎は絶対に止まらない。
これまで殺してきた者たちに頭を下げて、それでもこの在り方しかもうないのだから。
たった一人の愛する人の味方で在り続ける限り、衛宮士郎は絶対に止まらない。
これまで殺してきた者たちに頭を下げて、それでもこの在り方しかもうないのだから。
(もう、余力は残せない。俺は負けられない。桜の味方は止まれない―――――!!)
如月双七が誰かを守る正義の味方として戦うのならば。
深優・グリーアが大切な人を賭けてまで戦うことを選択するというのならば。
同じく改めてここに誓おう。
衛宮士郎は間桐桜という愛する女性のために戦い続け、己の全てを捧げよう―――――!
深優・グリーアが大切な人を賭けてまで戦うことを選択するというのならば。
同じく改めてここに誓おう。
衛宮士郎は間桐桜という愛する女性のために戦い続け、己の全てを捧げよう―――――!
「投 影 開 始」
がちり、と。
撃鉄が落ちる。
世界が歪曲する。
身体が弾ける激痛。
何かを喪失する悪夢。
英霊の腕が士郎に情報を供給。
現状で最高の威力と効果を期待する宝具を検索。
何度となく繰り返される失敗(エラー)にも構うことなく創作。
無から有を生み出し限りなく近い形でこの世に存在する尊い幻想を模索。
取り出されるのは最強のサーヴァントが誇る最重量の一撃とそこに至る想いの欠片。
元々の属性は相手や状況によって姿を変える万能の宝具をもっとも適切な形として固定。
撃鉄が落ちる。
世界が歪曲する。
身体が弾ける激痛。
何かを喪失する悪夢。
英霊の腕が士郎に情報を供給。
現状で最高の威力と効果を期待する宝具を検索。
何度となく繰り返される失敗(エラー)にも構うことなく創作。
無から有を生み出し限りなく近い形でこの世に存在する尊い幻想を模索。
取り出されるのは最強のサーヴァントが誇る最重量の一撃とそこに至る想いの欠片。
元々の属性は相手や状況によって姿を変える万能の宝具をもっとも適切な形として固定。
「――――投影、装填(トリガー・オフ)」
己を破壊してまで魔術を行使する士郎の左腕の聖骸布は既に剥ぎ取られ漆黒の腕が姿を現す。
士郎の中では緑色の暴風が吹き荒れてエミヤシロウという存在を崩壊させようとしていた。
少年を壊し続ける体内の毒は人間の身で英霊の腕を移植したことによる代償だ。
絶大な力を得るために喪失していくのは衛宮士郎という存在の人間性。
既に二度の投影を敢行した代償は身体を内側から喰らい尽くす。
遠くない未来に彼の生命は停止するだろうことは間違いない。
衛宮士郎自身にもそんなことは分かっていた。
結末は多分幸福には終わらない。
それでも願い続けたかった。
桜の味方でいたかった。
それだけだった。
士郎の中では緑色の暴風が吹き荒れてエミヤシロウという存在を崩壊させようとしていた。
少年を壊し続ける体内の毒は人間の身で英霊の腕を移植したことによる代償だ。
絶大な力を得るために喪失していくのは衛宮士郎という存在の人間性。
既に二度の投影を敢行した代償は身体を内側から喰らい尽くす。
遠くない未来に彼の生命は停止するだろうことは間違いない。
衛宮士郎自身にもそんなことは分かっていた。
結末は多分幸福には終わらない。
それでも願い続けたかった。
桜の味方でいたかった。
それだけだった。
「全工程投影完了――――(セット)」
その願いをこの一撃に乗せる。
ギリシャ神話の大英雄ヘラクレスが、十二の試練の際にヒュドラを葬るのに用いた宝具。
その本来の形は『弓矢』である。
平行世界があるのならば、斧剣として投影する衛宮士郎が存在していただろう。
ギリシャ神話の大英雄ヘラクレスが、十二の試練の際にヒュドラを葬るのに用いた宝具。
その本来の形は『弓矢』である。
平行世界があるのならば、斧剣として投影する衛宮士郎が存在していただろう。
だが、敵は複数なのだ。ならばこの一撃は剣として放つ必要はない。
剣ではなく矢として放つ必殺の宝具。
対幻想種を想定された九つの光の矢。その一撃はひとつの矢で九つの獣を貫いたと言われる絶大なる一撃――――!
剣ではなく矢として放つ必殺の宝具。
対幻想種を想定された九つの光の矢。その一撃はひとつの矢で九つの獣を貫いたと言われる絶大なる一撃――――!
「是、射殺す百頭(ナインライブスブレイドワークス)――――!!!」
◇ ◇ ◇ ◇
「全工程投影完了――――(セット)」
「っ―――――――!!?」
「なっ……!?」
「っ―――――――!!?」
「なっ……!?」
深優と双七、二人の顔が驚愕に歪む。
追い詰めたはずの士郎の身体には戦意が宿り、そして絶望すらするような一撃が放たれようとしている。
深優には分かる。士郎が放とうとしているものは弓矢や爆弾などというものではない。
一撃がこの教室を粉砕してしまいかねないほどのホーミングレーザーが、それも九つの弾丸となって降り注ごうとしている。
追い詰めたはずの士郎の身体には戦意が宿り、そして絶望すらするような一撃が放たれようとしている。
深優には分かる。士郎が放とうとしているものは弓矢や爆弾などというものではない。
一撃がこの教室を粉砕してしまいかねないほどのホーミングレーザーが、それも九つの弾丸となって降り注ごうとしている。
莫迦な、と思わず双七は吐き捨てた。
それほどの一撃を解放されば士郎とて無事では済まないはずだ。
まさに自爆覚悟の最後の攻勢に顔を歪めざるを得ない。
それほどの一撃を解放されば士郎とて無事では済まないはずだ。
まさに自爆覚悟の最後の攻勢に顔を歪めざるを得ない。
深優は即座にHiMEとしての力を発露させる。
神々しい織物のような武装から光の一撃を発射させようとするが、間に合わない。
深優の中で行われた演算が生存不可能だと冷酷に告げていた。
双七の勘もまた告げている。あれは放たれた時点でどうしようもないだろうことは明白だ、と告げていた。
神々しい織物のような武装から光の一撃を発射させようとするが、間に合わない。
深優の中で行われた演算が生存不可能だと冷酷に告げていた。
双七の勘もまた告げている。あれは放たれた時点でどうしようもないだろうことは明白だ、と告げていた。
それどころか、校舎が持たないだろう。
恐らくこの一撃が放たれた時点で建物は倒壊し、自分たちは例外なく瓦礫に埋もれることとなる。
もはや、どうしようもないほどにチェックメイトだった。
恐らくこの一撃が放たれた時点で建物は倒壊し、自分たちは例外なく瓦礫に埋もれることとなる。
もはや、どうしようもないほどにチェックメイトだった。
(それでも……)
(たとえ、そうだとしても)
(たとえ、そうだとしても)
諦められない願いがある。
捨てることのできない誓いがある。
何よりも大切な想いがある限り、決して諦めることなどない。
捨てることのできない誓いがある。
何よりも大切な想いがある限り、決して諦めることなどない。
深優は決死の一撃を迎撃するために構える。
双七もまた人妖能力を発動。この周辺にある金属の全てに召集をかける。
衛宮士郎に譲れない想いがあるように。
深優・グリーアにも如月双七にも絶対に譲れない想いがある。
双七もまた人妖能力を発動。この周辺にある金属の全てに召集をかける。
衛宮士郎に譲れない想いがあるように。
深優・グリーアにも如月双七にも絶対に譲れない想いがある。
士郎の絶対なる意志が破滅の運命を強固にするように。
深優の絶対の想いが破滅の運命を捻じ曲げるように。
双七の絶対なる誓いが破滅の運命を打破させるように。
深優の絶対の想いが破滅の運命を捻じ曲げるように。
双七の絶対なる誓いが破滅の運命を打破させるように。
「是、射殺す百頭(ナインライブスブレイドワークス)――――!!!」
放たれた絶命の宝具。
幻想種すら殺し尽くす一撃が怒涛の勢いで二人へと迫ってくる。
双七には何もできない。
いかに九鬼流でも強大なエネルギーを粉砕できるような技はない。
幻想種すら殺し尽くす一撃が怒涛の勢いで二人へと迫ってくる。
双七には何もできない。
いかに九鬼流でも強大なエネルギーを粉砕できるような技はない。
「―――――最大出力ッ!!」
だから、これは深優・グリーアの戦いだ。
放たれる天子の羽、その一撃一撃に通常の十倍以上の出力を注ぎ込んで発射する。
この一撃は衛宮士郎の想いの結晶だ。
ならば深優のエレメントはアリッサへの想いの一撃、敗北することなど深優・グリーアは決して許さない。
放たれる天子の羽、その一撃一撃に通常の十倍以上の出力を注ぎ込んで発射する。
この一撃は衛宮士郎の想いの結晶だ。
ならば深優のエレメントはアリッサへの想いの一撃、敗北することなど深優・グリーアは決して許さない。
轟音が響いた。
二度、三度と雷が落ちたような音が轟いた。
注ぎ込むのは想いだ。大切な誰かを護りたいという想いならば。
深優は負けたくない。
絶対に負けられない。
二度、三度と雷が落ちたような音が轟いた。
注ぎ込むのは想いだ。大切な誰かを護りたいという想いならば。
深優は負けたくない。
絶対に負けられない。
「はあっ……!」
霧散する光の弾丸。
深優の想いが士郎の一撃を上回る。
相殺したことを告げるように衝撃波を伴って、敵の弾丸が空気の中へと解けていく。
深優の想いが士郎の一撃を上回る。
相殺したことを告げるように衝撃波を伴って、敵の弾丸が空気の中へと解けていく。
まだ、ようやく九つのうちのひとつを潰しただけだった。
これほどなのか。
士郎が注ぎ込む想いとはこんなにも重いのか。
深優・グリーアの身体が震えた。あまりにも強い想いに壊れそうだった。
頭の冷静な部分が絶体絶命を告げている。
もう、今の深優では次の一撃すら止められないだろう、と冷静な演算が絶望を告げていた。
士郎が注ぎ込む想いとはこんなにも重いのか。
深優・グリーアの身体が震えた。あまりにも強い想いに壊れそうだった。
頭の冷静な部分が絶体絶命を告げている。
もう、今の深優では次の一撃すら止められないだろう、と冷静な演算が絶望を告げていた。
迫る二撃目。
どうやら一度に解放すれば校舎が倒壊することは士郎も承知済みらしい。
一撃、一撃をぶつけていくつもりらしい。
その戦い方は利口だった。結果として深優は疲労してしまっており、次の一撃すら受け止められない。
どうやら一度に解放すれば校舎が倒壊することは士郎も承知済みらしい。
一撃、一撃をぶつけていくつもりらしい。
その戦い方は利口だった。結果として深優は疲労してしまっており、次の一撃すら受け止められない。
「っ……っ――――!!」
だが。
受け止められないはずの一撃。
計算ではもう不可能であるはずの光の奔流が、再び深優の生み出す天子の羽によって受け止められた。
双七も、士郎も息を呑んだ。
深優は諦めなかった。あまりにも重い一撃が彼女を蝕むが、それでも鬩ぎ合いは止まらない。
受け止められないはずの一撃。
計算ではもう不可能であるはずの光の奔流が、再び深優の生み出す天子の羽によって受け止められた。
双七も、士郎も息を呑んだ。
深優は諦めなかった。あまりにも重い一撃が彼女を蝕むが、それでも鬩ぎ合いは止まらない。
再び霧散する光の弾丸。
これでふたつ。残り七つの光の矢は伝承によれば一矢で九つの獣を葬るほどの一撃だ。
真名は『射殺す百頭』、その名のとおりこの宝具は百の獣を滅ぼし尽くすほどの威力を秘めているのかもしれない。
だが、そんなことはどうでもいい。
これでふたつ。残り七つの光の矢は伝承によれば一矢で九つの獣を葬るほどの一撃だ。
真名は『射殺す百頭』、その名のとおりこの宝具は百の獣を滅ぼし尽くすほどの威力を秘めているのかもしれない。
だが、そんなことはどうでもいい。
(このエレメントがアリッサ様の力で)
三度、迫る宝具。
常に死力を尽くす深優はどんどん消費していく。
もうエネルギーは底を突こうとしているはずだ。少なくとも冷静な頭は無慈悲に事実を突きつける。
本当に、そんなことすらもどうでもいい。
常に死力を尽くす深優はどんどん消費していく。
もうエネルギーは底を突こうとしているはずだ。少なくとも冷静な頭は無慈悲に事実を突きつける。
本当に、そんなことすらもどうでもいい。
(この力が想いによって生み出されたというのなら)
もう、光の矢を消滅させることはできない。
それほどの力はもう無くなっていたが、決死の一撃は光の矢の軌道を逸らすことに成功した。
巨大な光の一撃が壁を貫き、この校舎の隣に建てられた校舎を粉砕した。
深優は真っ直ぐに目の前の修羅を睨み付ける。
絶対にこの想いだけは負けられない、と。無表情に無機質な瞳だと言うのに、その意志だけが確かにそこにあった。
それほどの力はもう無くなっていたが、決死の一撃は光の矢の軌道を逸らすことに成功した。
巨大な光の一撃が壁を貫き、この校舎の隣に建てられた校舎を粉砕した。
深優は真っ直ぐに目の前の修羅を睨み付ける。
絶対にこの想いだけは負けられない、と。無表情に無機質な瞳だと言うのに、その意志だけが確かにそこにあった。
(アリッサ様に力を貸していただいてる私が負ける道理など、何一つありません)
四度目の暴力が迫り来る。
二度目すらないはずの彼女が、絶対の意志を持って破滅の運命を退ける。
それでも限界は近い。
深優にできることは破滅を先延ばしにすることだった。
二度目すらないはずの彼女が、絶対の意志を持って破滅の運命を退ける。
それでも限界は近い。
深優にできることは破滅を先延ばしにすることだった。
◇ ◇ ◇ ◇
ならば、その力の源を倒せばいい。
単純明快な答えを実践できるのは一人しかいなかった。
如月双七は床を強く踏みしめて走る。
目指すは衛宮士郎そのもの。光の奔流の全てを断ち切るために双七は雄たけびをあげた。
単純明快な答えを実践できるのは一人しかいなかった。
如月双七は床を強く踏みしめて走る。
目指すは衛宮士郎そのもの。光の奔流の全てを断ち切るために双七は雄たけびをあげた。
「うっ、ぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!!!!」
自殺行為だ、と士郎は断ずる。
四度目の光の矢を深優が受け止めている間に、士郎は第五の一撃を双七へと向ける。
接近戦を主体とする双七には、一撃だって対応できない。
深優を信じて士郎の攻撃を受けきり、両者が疲労しきったところを叩くしかないはずだった。
四度目の光の矢を深優が受け止めている間に、士郎は第五の一撃を双七へと向ける。
接近戦を主体とする双七には、一撃だって対応できない。
深優を信じて士郎の攻撃を受けきり、両者が疲労しきったところを叩くしかないはずだった。
だが、双七にも分かっていることだった。
深優は限界だ。本来なら一撃を受け止めること自体が驚嘆に値するほどだ。
それを四度。もう見てはいられなかった。
深優は限界だ。本来なら一撃を受け止めること自体が驚嘆に値するほどだ。
それを四度。もう見てはいられなかった。
光の奔流が迫る。
それでも双七の装備などでは受け止めることなどできない。
それは必然の事実で、絶対の真実だが――――――双七は決して一人ではない。
それでも双七の装備などでは受け止めることなどできない。
それは必然の事実で、絶対の真実だが――――――双七は決して一人ではない。
「集結ッ――――!」
人妖、付喪神。
九十九年の時を経て魂を得るに至りし妖怪。
その中でも妖怪殺しを理念として作り上げられた刀の付喪神、それが如月双七の祖だ。
彼は金属の全てを味方とする。その総てを支配し、協力や助力を得ることができる。
九十九年の時を経て魂を得るに至りし妖怪。
その中でも妖怪殺しを理念として作り上げられた刀の付喪神、それが如月双七の祖だ。
彼は金属の全てを味方とする。その総てを支配し、協力や助力を得ることができる。
例えば放置された車。
例えば学校の防火扉。
金属を含む物体なら何でも取り込むことができる。
例えば学校の防火扉。
金属を含む物体なら何でも取り込むことができる。
「防げッ!!」
今の双七の力では、この大学の中にあるものを引き寄せることが精一杯だ。
幸いにも双七の制限は首輪との意思疎通の禁止などに大きく割り振られている。
死力を尽くせば。
想いを心の底から叫ぶ力があるなら。
幸いにも双七の制限は首輪との意思疎通の禁止などに大きく割り振られている。
死力を尽くせば。
想いを心の底から叫ぶ力があるなら。
織り込まれたのは金属で作られた盾。
だが、光の矢はそれすら無慈悲に貫通させた。
九つの標的を貫くとされる神秘そのものの具現。その威力あってこその宝具。
だが、光の矢はそれすら無慈悲に貫通させた。
九つの標的を貫くとされる神秘そのものの具現。その威力あってこその宝具。
だが、それで十分。
「―――――――っ!!?」
士郎は息を呑んだ。
第五の矢は金属の盾ごと双七を貫き、そのまま校舎を飛び出していくはずだった。
だが、双七がそこに立っていた。
防ぐのではなく目暗ましとして。かろうじて絶対死の一撃をやり過ごした如月双七の姿がそこにあった。
第五の矢は金属の盾ごと双七を貫き、そのまま校舎を飛び出していくはずだった。
だが、双七がそこに立っていた。
防ぐのではなく目暗ましとして。かろうじて絶対死の一撃をやり過ごした如月双七の姿がそこにあった。
士郎は次の一撃を放とうとする。
だが、それよりも双七が士郎に肉薄するほうがずっと早かった。
がちり、と士郎の胸倉を双七が掴む。決して逃がさぬように、決して退かせぬように。
だが、それよりも双七が士郎に肉薄するほうがずっと早かった。
がちり、と士郎の胸倉を双七が掴む。決して逃がさぬように、決して退かせぬように。
―――九鬼流絶招 肆式名山 内の弐―――
「焔錐――――ッ!!」
ぐちゃりっ、と壮絶な音が再び響いた。
双七の右手が士郎の身体でグチャグチャになり、双七の一撃が士郎の左肩を貫いた。
心臓を狙ったはずだが、どうやら身体をずらされたらしい。
もちろんこれで終わりではない。あの光の矢を消滅させるためには、士郎の意識を刈り取らなければならないのだから。
双七の右手が士郎の身体でグチャグチャになり、双七の一撃が士郎の左肩を貫いた。
心臓を狙ったはずだが、どうやら身体をずらされたらしい。
もちろんこれで終わりではない。あの光の矢を消滅させるためには、士郎の意識を刈り取らなければならないのだから。
左手を離す。
ボロボロの右手で士郎を掴もうとする。
突如、双七の右腕が消滅した。
光の矢の一部が双七の腕を呑み込み、肘から先が綺麗に消し飛んだ。
激痛が走る。
腕が無くなったという事実だけで吐きそうだった。
ボロボロの右手で士郎を掴もうとする。
突如、双七の右腕が消滅した。
光の矢の一部が双七の腕を呑み込み、肘から先が綺麗に消し飛んだ。
激痛が走る。
腕が無くなったという事実だけで吐きそうだった。
―――九鬼流絶招 肆式名山 内の壱―――
それでも、残された左腕が螺旋を描くことはやめない。
身体は剣で出来ている。
それを体現した衛宮士郎が唯一、剣に侵食されていない一点。
敵の顔面に目掛けて。死力を尽くした双七の拳が大きく振り抜かれた。
身体は剣で出来ている。
それを体現した衛宮士郎が唯一、剣に侵食されていない一点。
敵の顔面に目掛けて。死力を尽くした双七の拳が大きく振り抜かれた。
「焔、螺子ぃぃいいいいっ!!!!」
意識を刈り取る一撃。
士郎の顎へと螺旋の拳が突き刺さる。
それで終わりだ。
例え師匠の九鬼であろうとも、想いを込められた拳には耐えられない。
衛宮士郎は痛恨の一撃に為す術も無く意識を失い、切り札の魔術とて霧散していく。
士郎の顎へと螺旋の拳が突き刺さる。
それで終わりだ。
例え師匠の九鬼であろうとも、想いを込められた拳には耐えられない。
衛宮士郎は痛恨の一撃に為す術も無く意識を失い、切り札の魔術とて霧散していく。
「あ、……」
だが。
「あ、ああああぁああぁああぁぁぁぁぁああああああああぁあああぁああッ!!!!!」
絶対の想いというのならば。
衛宮士郎こそ誰にも敗北できない想いがある。
衛宮士郎こそ誰にも敗北できない想いがある。
深優が決して譲れぬように。
双七が決して諦めぬように。
士郎は決して負けられない。
双七が決して諦めぬように。
士郎は決して負けられない。
運命を覆すのが想いだというのならば。
運命を強固にするのもまた想いなのだから。
運命を強固にするのもまた想いなのだから。
「――――――!!?」
「なっ……!」
「なっ……!」
深優が、双七が今度こそ凍りつく。
残る二つの光の矢が轟音と雄たけびと共に放たれる。
士郎の意識は刈り取られない。明確な動きで残る二つの脅威が咆哮をあげる。
残る二つの光の矢が轟音と雄たけびと共に放たれる。
士郎の意識は刈り取られない。明確な動きで残る二つの脅威が咆哮をあげる。
誰が意図した一撃でもなかった。
士郎が願ったものではないし、双七や深優が望んだわけでもない。
ただ事実として光の矢は深優たちへと向けられることはなく。
ただこの校舎を完全に崩壊させるために疾駆した。
士郎が願ったものではないし、双七や深優が望んだわけでもない。
ただ事実として光の矢は深優たちへと向けられることはなく。
ただこの校舎を完全に崩壊させるために疾駆した。
止める暇などなかった。
逃げる余力もなかった。
それぞれが死力を尽くした結果だった。
逃げる余力もなかった。
それぞれが死力を尽くした結果だった。
対峙する三人の運命を賭けて。
それぞれの想いの全てを賭けて。
学び舎を舞台とした最後の攻防が始まり。
そして、その総てを呑み込むように校舎が崩壊する。
それぞれの想いの全てを賭けて。
学び舎を舞台とした最後の攻防が始まり。
そして、その総てを呑み込むように校舎が崩壊する。
終焉はあっさりと訪れる。
桜を救いたいと願った衛宮士郎も。
アリッサのために戦うという想いを獲得した深優・グリーアも。
二度と悲劇を生み出さないことを誓った如月双七も。
桜を救いたいと願った衛宮士郎も。
アリッサのために戦うという想いを獲得した深優・グリーアも。
二度と悲劇を生み出さないことを誓った如月双七も。
何もかも。
何もかもが呑み込まれていく。
何もかもが呑み込まれていく。
一切の容赦もなく。
一切の慈悲もなく。
一切の寛容もなく。
一切の加減もなく。
一切の慈悲もなく。
一切の寛容もなく。
一切の加減もなく。
誰の想いが叶えられたのだろうか。
誰の願いが潰えることになったのか。
誰も知らないことだった。
誰にも分からないことだった。
誰の願いが潰えることになったのか。
誰も知らないことだった。
誰にも分からないことだった。
後に残されたのは瓦礫の山。
彼らのいた校舎だけでなく、多くの建物は完全に倒壊した。
動くものはなにひとつない。
願望も誓約も何もかも、総ては崩壊した瓦礫の中に。寂滅に包まれて消滅する。
彼らのいた校舎だけでなく、多くの建物は完全に倒壊した。
動くものはなにひとつない。
願望も誓約も何もかも、総ては崩壊した瓦礫の中に。寂滅に包まれて消滅する。
これがひとつの結末だ。
想いを賭けて戦った戦士たちの結末だ。
想いを賭けて戦った戦士たちの結末だ。
203:死闘/舞姫異聞録 | 投下順 | 203:修羅の系統樹 |
時系列順 | ||
如月双七 | ||
衛宮士郎 | ||
深優・グリーア | ||
ジョセフ・グリーア |