HERE WE GO!! (出立) 後編 ◆Live4Uyua6
・◆・◆・◆・
カチカチと。
金属がぶつかり合う小さな小さな音が狭い狭い部屋に響く。
その部屋はテーブルとモニターとユニットバスのみという簡素な部屋だった。
窓も無く時計がなければ時間が分からないほど世界から隔離されたような部屋。
そんな部屋に彼女はいた。
金属がぶつかり合う小さな小さな音が狭い狭い部屋に響く。
その部屋はテーブルとモニターとユニットバスのみという簡素な部屋だった。
窓も無く時計がなければ時間が分からないほど世界から隔離されたような部屋。
そんな部屋に彼女はいた。
「やれやれ……ステーキとは無駄に豪勢な、しかもなんだこの霜降り……無駄に高級の肉を……」
愚痴愚痴と文句を言う彼女は来ヶ谷唯湖。
殺し合いの『元』参加者であり今は色々な事情により主催の陣営に組み込まれた者。
その彼女が今は夕食を味わっていた。
テーブルに並ぶのは豪華絢爛といってもいいほどの料理が並んでいる。
はち切れんばかり霜が降っている豪華なステーキ。
新鮮な野菜を豊富に使ったシーザーサラダ。
じっくり煮込まれたスープ。
今までの殺し合いの中で食べたよりも格段に美味しいものなのだが……
殺し合いの『元』参加者であり今は色々な事情により主催の陣営に組み込まれた者。
その彼女が今は夕食を味わっていた。
テーブルに並ぶのは豪華絢爛といってもいいほどの料理が並んでいる。
はち切れんばかり霜が降っている豪華なステーキ。
新鮮な野菜を豊富に使ったシーザーサラダ。
じっくり煮込まれたスープ。
今までの殺し合いの中で食べたよりも格段に美味しいものなのだが……
「つまらんな……」
唯湖にとってとても味気なく素っ気無いものだった。
美味しい。
美味しいはずなのにとてもとても味気ない。
美味しいとは思えなかった。
ただ、無機質なものを味わっているようにしか感じられない。
美味しい。
美味しいはずなのにとてもとても味気ない。
美味しいとは思えなかった。
ただ、無機質なものを味わっているようにしか感じられない。
何故?
何故だろうか?
そもそも美味しいものって何だっけと唯湖は思う。
何故だろうか?
そもそも美味しいものって何だっけと唯湖は思う。
「ああ……そうか」
唯湖が思うのはあの時の事。
温泉でクリスと食べた昼食の事。
今とは比べようないほどの質素のものだったがそれでも美味しいと思えた。
それはきっと温かいものだったから。
クリスと交わした言葉が。
クリスとふざけあったことが。
全て温かなものだった。
今目の前にある料理は『暖か』ではあるが『温か』では無い。
温泉でクリスと食べた昼食の事。
今とは比べようないほどの質素のものだったがそれでも美味しいと思えた。
それはきっと温かいものだったから。
クリスと交わした言葉が。
クリスとふざけあったことが。
全て温かなものだった。
今目の前にある料理は『暖か』ではあるが『温か』では無い。
「……ふふ。それも今は懐かしい……本当に懐かしい想い出だ」
でも唯湖はそれも今はとても懐かしいものに感じた。
たった1日ぐらいしかたっていないのに。
酷く懐かしく感じるのだ。
何故だろう。
それの理由は直ぐ思い立った。
たった1日ぐらいしかたっていないのに。
酷く懐かしく感じるのだ。
何故だろう。
それの理由は直ぐ思い立った。
「クリス君……頑張ったんだな」
クリスの今までの道程の事。
ここにあったモニターで彼の行動は確認できた。
気になったから。
唯湖はそれを見続けていた。
そして、唯湖は嬉しかった。
ここにあったモニターで彼の行動は確認できた。
気になったから。
唯湖はそれを見続けていた。
そして、唯湖は嬉しかった。
クリスはしっかり歩めていたんだと。
1人でもしっかりと。
誰かを救う為に。
哀しみの連鎖を止める為に。
1人でもしっかりと。
誰かを救う為に。
哀しみの連鎖を止める為に。
その結果、静留と対峙した。
静留は結局唯湖と別れた後殺しを止めなかった。
でも。
それでも。
唯湖から見たら。
静留は結局唯湖と別れた後殺しを止めなかった。
でも。
それでも。
唯湖から見たら。
幸せそうだった。
彼女は。
きっと幸せに逝けたんだろう。
幸せに。
幸せに囲まれて。
幸せに囲まれて。
それをクリスは成し遂げたのだ。
たとえそれが死だとしても。
彼女は哀しみの連鎖から脱する事が出来たのだから。
ああと思う。
クリス君は頑張ったんだなと。
クリス君は成長したんだなと。
とても大きくなったんだなと。
それが堪らなく良かった。
でも。
それなのに。
「遠いな……君がとても……遠く感じる……よ」
クリスが遠く感じてしまう。
成長する事によって唯湖から離れていく感覚。
それがどうしても感じて。
そして何よりも。
彼女の存在がどうしてもクリスを遠く感じてしまう。
何も知らずなつきを選んだクリスが悪いのだろうか。
自分ではなくなつきを愛したクリスが憎いのだろうか。
また、横から分捕り取ったなつきが悪いのだろうか。
何も知らずクリスを愛したなつきが憎いのだろうか。
自分ではなくなつきを愛したクリスが憎いのだろうか。
また、横から分捕り取ったなつきが悪いのだろうか。
何も知らずクリスを愛したなつきが憎いのだろうか。
「……そんな訳……無いだろう……ある訳がないだろう」
違うと唯湖は思った。
クリスは悪くない。
クリスは求め、求められただけだ。
彼が成長したのは傍に居て支えてくれた彼女が居たお陰なのだから。
クリスは求め、求められただけだ。
彼が成長したのは傍に居て支えてくれた彼女が居たお陰なのだから。
なつきもそうなのだろう。
なつきも求め、求められただけだ。
彼女が彼女である為に、彼女が生きていようと思ったのは支えてくれたクリスなのだから。
なつきも求め、求められただけだ。
彼女が彼女である為に、彼女が生きていようと思ったのは支えてくれたクリスなのだから。
そんな二人に罪なんて無い。
ある訳が無い。
悪いのは自分。
離れて戻らなかった自分。
離れて戻らなかった自分。
クリスの為と勝手に考えて。
クリスは大丈夫と勝手に考えて。
クリスは大丈夫と勝手に考えて。
何よりも自分が悪いのだから。
くだらない自分のエゴで。
どうしても通したい自分の想いだけを考えて。
どうしても通したい自分の想いだけを考えて。
『クリス・ヴェルティン』の事など考えていなかったから。
そんな自分に。
彼の事を責める権利などあるのだろうか?
いや、ある訳が無かった。
たぶん、これがきっと
「私の罪に課せられた罰……なのだろうか」
罰なのだろうと。
唯湖はそう思う。
地獄に落ちるべき唯湖に課された哀しい罰。
でも。
それでも。
それでも。
「いいだろう……それでもきっとクリス君は幸せなのだから……私は喜んで受けよう」
いいと思える。
だってクリスは幸せなのだから。
今も。
この先も。
今も。
この先も。
たとえ唯湖が死んでも大丈夫。
なつきが居るのだから。
それならば。
その罰を喜んで受けよう。
それが唯湖の業なのだから。
そう思えたから。
そう言えるから。
そう言えるから。
だけど
たった一つだけ
唯湖は思う。
「やはり……哀しいな……君はもう想ってくれないんだな……それが……哀しいよ」
クリスが。
愛している彼が。
愛している彼が。
きっと。
もう二度と。
もう二度と。
自分を想わない事が。
途轍もなく哀しいのだ。
なつきを愛するクリスは自分を想う訳が無いから。
だから。
たとえ我が儘でも。
哀しくて。
寂しいのだ。
寂しいのだ。
「寂しいな……寂しいよ……」
唯湖はそのまま静かに味気ない料理を食べ続ける。
もう二度と手に入る事を『温かさ』を想いながら。
静かに。
独りで。
もう二度と手に入る事を『温かさ』を想いながら。
静かに。
独りで。
食べ続ける。
・◆・◆・◆・
「…………えっと。ここはどこ? 私は……私は美希ですね。うん」
おはようございます。と、誰ともなしに呟き美希はシーツをのけてベッドの上で身体を起こした。
そこは寄宿舎の一室で、窓にかけられたカーテンの隙間から白い光が射して美希の身体の上に一本の線を引いている。
久しぶりの睡眠だったからか、それともいつもこうなのか美希は寝惚けた様子で僅かな時間を消費し、そして気付く。
そこは寄宿舎の一室で、窓にかけられたカーテンの隙間から白い光が射して美希の身体の上に一本の線を引いている。
久しぶりの睡眠だったからか、それともいつもこうなのか美希は寝惚けた様子で僅かな時間を消費し、そして気付く。
「……ふぁ。…………あれ? ファルさんは……?」
修道士が寝泊りする為のその狭い部屋には簡素なベッドが一つしかなく、そしてその上には今、美希一人しかいない。
美希は手を伸ばし、ファルが寝ていたはずの場所を触ってみる。
少しだけまだぬくもりが残っているような気がした。気がするだけかもしれない。寝起きの頭ではよくわからなかった。
美希は手を伸ばし、ファルが寝ていたはずの場所を触ってみる。
少しだけまだぬくもりが残っているような気がした。気がするだけかもしれない。寝起きの頭ではよくわからなかった。
「おいてけぼりってのはないと思いますけど……さて、起きなくちゃ……はふ」
大きく伸びをすると美希はベッドを降り、カーテンを開いてその肢体を朝陽の元へと露にした。
下着は上下ともに清楚を意味する純白色。
美希はただの美少女でなく、純潔な美少女なのである。そして未だにそれを守っている。昨晩は少し危なかったかもしれない。
下着は上下ともに清楚を意味する純白色。
美希はただの美少女でなく、純潔な美少女なのである。そして未だにそれを守っている。昨晩は少し危なかったかもしれない。
「デフェンスに定評のあるミキミキ……なんちって」
半目でふふふと笑い、一人受けすると美希はのろのろと服を身に着け始める。
昨日なつきからゆずり受けたゴシック風のかわいい衣装だ。
髪をまとめるのが面倒なのでせっかくのミミ付きフードを被ることができないが、それでもとても可愛い。
昨日なつきからゆずり受けたゴシック風のかわいい衣装だ。
髪をまとめるのが面倒なのでせっかくのミミ付きフードを被ることができないが、それでもとても可愛い。
「ん? …………この懐かしき香りは」
どこからか郷愁の念を誘うおいしそうな匂いが流れてくる。
なんだろう? 考えるまでもない――朝食だ。
ハイニーソックスを一気にずり上げ、つま先でゴンゴンと床を鳴らして靴を履くと、美希は扉を開いて廊下へと出た。
なんだろう? 考えるまでもない――朝食だ。
ハイニーソックスを一気にずり上げ、つま先でゴンゴンと床を鳴らして靴を履くと、美希は扉を開いて廊下へと出た。
「クリスくん、そこの鍋の火を止めてくれるかしら? なつきはそのお皿を向こうへと運んでちょうだい」
匂いにつられた美希が台所を覗いてみると、そこでは九条が朝食の支度を進めているところだった。
クリスが調理を手伝い。そして実の娘であるなつきは運搬に従事させられている。
的確な役割分担と言えるだろう。昨日の昼食を思い返せば、なつきに食材を扱わせることがどれだけ危険なことか解る。
クリスが調理を手伝い。そして実の娘であるなつきは運搬に従事させられている。
的確な役割分担と言えるだろう。昨日の昼食を思い返せば、なつきに食材を扱わせることがどれだけ危険なことか解る。
「あら、美希もようやく目が覚めたのね」
あなたが最後よ。と、声をかけてきたのはいなくなっていた――つまりは先に起きていたファルであった。
まだ朝も早いというのに、その佇まいに隙はない。
昨日と同じく着物と袴を清楚に着こなし、表情ははっきりとし髪にも櫛が通っており、相変わらずの妖精の様な美しさを保っていた。
まだ朝も早いというのに、その佇まいに隙はない。
昨日と同じく着物と袴を清楚に着こなし、表情ははっきりとし髪にも櫛が通っており、相変わらずの妖精の様な美しさを保っていた。
「今朝も見目麗しく、美希としては感服するばかりでして……いえ、美希も美少女で通っているんですけどね」
「ふふ。まだ少し夢の中にいるのかしら? 顔を洗ってくるといいわ。廊下の突き当たりの……わかる?」
「ふふ。まだ少し夢の中にいるのかしら? 顔を洗ってくるといいわ。廊下の突き当たりの……わかる?」
聞かれて、美希はらじゃーっすと敬礼してファルと別れる。
あまり広くない寄宿舎の、あまり長くない廊下の端につくのはすぐで、洗面所につくと中には碧と九郎の姿があった。
あまり広くない寄宿舎の、あまり長くない廊下の端につくのはすぐで、洗面所につくと中には碧と九郎の姿があった。
「九郎くんは朝からトイレがなっがーい。ほんとレディがいるんだから遠慮しなさいよ」
「いや、これも事情がありましてね。えーと、言うならば俺の内に潜む俺の敵? へっ、また疼き出しやがったぜ。みたいな」
「何それ? 魔法使う人の言うことは碧ちゃんにはわかりませんなー」
「違いますって。これはそういうのではなくて……って、あれ? あの”おぞましさ”はやっぱりあれなのかな……?」
「いや、これも事情がありましてね。えーと、言うならば俺の内に潜む俺の敵? へっ、また疼き出しやがったぜ。みたいな」
「何それ? 魔法使う人の言うことは碧ちゃんにはわかりませんなー」
「違いますって。これはそういうのではなくて……って、あれ? あの”おぞましさ”はやっぱりあれなのかな……?」
朝から相変わらずだ。そんな印象を抱くと、おはよーございますと声をかけて美希もその二人の隣に並び朝の身支度を始めた。
まずは冷たい水で顔を洗い。雑貨屋で調達しておいた真新しい歯ブラシで歯をみがき、次に髪を梳いてゆく。
まずは冷たい水で顔を洗い。雑貨屋で調達しておいた真新しい歯ブラシで歯をみがき、次に髪を梳いてゆく。
「今日は美希めらを守ってくださいね。二人とも頼りにしてますんで」
「まっかしときなさーい! あたしらこう見えても……んにゃ、見た目通りに正義のヒーローだから」
「おう、俺も絶対にこれ以上は誰も犠牲にしないって誓ってるんだ。守ってみせるぜ」
「まっかしときなさーい! あたしらこう見えても……んにゃ、見た目通りに正義のヒーローだから」
「おう、俺も絶対にこれ以上は誰も犠牲にしないって誓ってるんだ。守ってみせるぜ」
頼りになるのやらならないのやら。美希は苦笑し、そして身支度を終えると3人連れ立って朝餉の席へと向かった。
「「「 いただきまーす 」」」
全員で声を合わせ、そして各々に食前の礼をして用意された朝食へと手をつけ始める。
場所は昨日と同じく教室の中。しかしその人数は大幅に数を減らしていた。
今ここにいるのは、九条、なつき、クリス、ファル、美希、九郎、碧の7人だけで、他の者達の姿は見えない。
場所は昨日と同じく教室の中。しかしその人数は大幅に数を減らしていた。
今ここにいるのは、九条、なつき、クリス、ファル、美希、九郎、碧の7人だけで、他の者達の姿は見えない。
「えーと、那岐さんチームの方はもう出て行っちゃったんですか?」
「そうね……、あなたが起きてくる少し前かしら」
「そうね……、あなたが起きてくる少し前かしら」
問い。そしてファルの答えを聞いて、そうですかーと頷きながら美希は箸の先で玉子焼きをつまみ口へと放り入れた。
甘いそれをむぐむぐとしながら時計の方を見れば、針は8時前を示している。
昨日聞いた話の記憶が正しければ自分達もこの後すぐに出発だと、美希は口の動きを少し早くする。
甘いそれをむぐむぐとしながら時計の方を見れば、針は8時前を示している。
昨日聞いた話の記憶が正しければ自分達もこの後すぐに出発だと、美希は口の動きを少し早くする。
「美希はとても器用に使うのね。その……ハシだったかしら?」
「え? まぁ、美希も立派な日本人の端くれでありますし。でも、わりとぶきっちょな方だとは思うんですけどね」
「え? まぁ、美希も立派な日本人の端くれでありますし。でも、わりとぶきっちょな方だとは思うんですけどね」
今朝の献立は昨日とは打って変わっての純和風のものだった。
ご飯は皿ではなく茶碗に盛られ、その脇には小皿の上に乗せられた海苔と生卵が添えられている。
加えて香りが鼻をくすぐるお味噌汁に漬物。更に大根おろしと焼き魚。そしてふっくらと甘く黄色い玉子焼き。
私は日本人ですな面々には嬉しいもので嬉々と箸を伸ばし、逆にそうでない面々――主にファルは、戸惑いながらもそれを楽しんでいた。
ご飯は皿ではなく茶碗に盛られ、その脇には小皿の上に乗せられた海苔と生卵が添えられている。
加えて香りが鼻をくすぐるお味噌汁に漬物。更に大根おろしと焼き魚。そしてふっくらと甘く黄色い玉子焼き。
私は日本人ですな面々には嬉しいもので嬉々と箸を伸ばし、逆にそうでない面々――主にファルは、戸惑いながらもそれを楽しんでいた。
「しかし、クリスは何時の間にハシの使い方なんて覚えたのかしら……?」
「クリスくんは昨日の朝も和食だったからねー。それで覚えたんじゃないかな? 器用そうな子だし」
「クリスくんは昨日の朝も和食だったからねー。それで覚えたんじゃないかな? 器用そうな子だし」
早々に箸を使うことを諦め、スプーンで味噌汁をいただきながらファルは横目に隣のテーブルを伺う。
そこにはたどたどしいながらも箸を使って食事をとろうとしているクリスの姿があった。
あくまでとろうとしているだけで正しく食事ができているわけではないのだが、しかしそれは隣に寄り添うなつきがフォローしている。
そこにはたどたどしいながらも箸を使って食事をとろうとしているクリスの姿があった。
あくまでとろうとしているだけで正しく食事ができているわけではないのだが、しかしそれは隣に寄り添うなつきがフォローしている。
「ほら、クリス。口をあけろ。せっかく食べさしてやろうっていうんだから」
「別にそんなことしなくても僕は大丈夫だよ。……でも、うん。ありがとう。……あ~ん」
「あらあら。今日はクリス君の方が子供なのね」
「別にそんなことしなくても僕は大丈夫だよ。……でも、うん。ありがとう。……あ~ん」
「あらあら。今日はクリス君の方が子供なのね」
「…………………………クリス」
「…………………………いやはやこれは」
「…………………………若さっていいねぇー」
「…………………………いやはやこれは」
「…………………………若さっていいねぇー」
これは目に毒だ。と、ファルは、そして美希と碧もそこから目を逸らした。
乙女達の間に少しなんだかアンニュイな雰囲気が漂う。各人ともに何かそれぞれに思うところがあるらしい。
乙女達の間に少しなんだかアンニュイな雰囲気が漂う。各人ともに何かそれぞれに思うところがあるらしい。
「どうした? 朝を抜くと身体に悪いぜ? それともお前らまさかダイエットか? だったら俺が――って、何故睨む!?」
九郎にはわからない。そう口を揃えると、3人は居心地悪そうな九郎を他所に食事を再開した。
ゆるやかな朝食の後、丁寧に後片付けまでを済ませた一行はそれぞれの荷物を背に教会の正門へと集合していた。
その顔には先ほどまでとは変わって幾分かの緊張が浮かんでいる。
主催側がおいそれと手を出してこないと考えてはいるものの、戦力を割ったこの状況は相手側にとって好機であることは確かなのだ。
それこそ本当にどこから何が現れるかわからないとなれば、警戒心は以前より高めないといけないだろう。
その顔には先ほどまでとは変わって幾分かの緊張が浮かんでいる。
主催側がおいそれと手を出してこないと考えてはいるものの、戦力を割ったこの状況は相手側にとって好機であることは確かなのだ。
それこそ本当にどこから何が現れるかわからないとなれば、警戒心は以前より高めないといけないだろう。
「さて。では出発前に簡単な確認だけをしておくわね」
無言で頷く面々を前に、九条は懐から地図を取り出し本日の予定を改めて説明し始めた。
各チームの最終的な目的地は島の南東に位置する”カジノ”であり、ここを対主催に向けての新しい拠点とすること。
その為に九条率いる7人のチームは到着を優先してここより南下。地形の穏やかな島の南西を回ってそこに向かうこととなる。
逆にすでに出発している那岐が引率するチームは、島の北東側を周ってカジノへと向かっているはずだ。
各チームの最終的な目的地は島の南東に位置する”カジノ”であり、ここを対主催に向けての新しい拠点とすること。
その為に九条率いる7人のチームは到着を優先してここより南下。地形の穏やかな島の南西を回ってそこに向かうこととなる。
逆にすでに出発している那岐が引率するチームは、島の北東側を周ってカジノへと向かっているはずだ。
「禁止エリアの方は問題ないのかしら?」
「夜の内に指定されたのは……、2時より”G-2”と4時より”A-6”。
そして今朝指定されたのは……、8時より”G-8”と、この後10時より”E-8”。
到着は午後から夕方ぐらいになる予定だけど、よほどのことがなければこちらも那岐くんの方にも大きな影響はないはずよ」
「夜の内に指定されたのは……、2時より”G-2”と4時より”A-6”。
そして今朝指定されたのは……、8時より”G-8”と、この後10時より”E-8”。
到着は午後から夕方ぐらいになる予定だけど、よほどのことがなければこちらも那岐くんの方にも大きな影響はないはずよ」
禁止エリアを記された地図を見てファルはふむと頷き、そしてその脇で美希は昨日の那岐の言葉を密かに思い出していた。
神は賽を投げない――おそらく禁止エリアは予め決まっていたんじゃないかと言う話だ。
そして彼の推測が正しければ、興を殺いだりゲームが破綻するような禁止エリアの置かれ方はしないということらしい。
ならば、当面の間はそれに関してはそんなに心配しなくてもよいと彼は言っていた。
神は賽を投げない――おそらく禁止エリアは予め決まっていたんじゃないかと言う話だ。
そして彼の推測が正しければ、興を殺いだりゲームが破綻するような禁止エリアの置かれ方はしないということらしい。
ならば、当面の間はそれに関してはそんなに心配しなくてもよいと彼は言っていた。
「それじゃあ、出発進行ー! 出ませい――愕ッ、天ッ、王ッ!」
勢いよく号令をあげて碧は己のチャイルドを顕現させ、さぁさ乗りませいと皆を促す。
7人ともなればさすがにその巨体と言えども窮屈な感は否めなかったが、しかしそれで足が鈍るような感じは微塵たりともない。
では一気に行っちゃいますかと碧が手を振ろうとしたところで――
7人ともなればさすがにその巨体と言えども窮屈な感は否めなかったが、しかしそれで足が鈍るような感じは微塵たりともない。
では一気に行っちゃいますかと碧が手を振ろうとしたところで――
「ちょっと待って、杉浦先生」
――九条がそれを制した。
愕天王の巨体がつんのめり、背中の上で小さななだれが起きて誰かの可愛い悲鳴や九郎の潰れる音がする。
愕天王の巨体がつんのめり、背中の上で小さななだれが起きて誰かの可愛い悲鳴や九郎の潰れる音がする。
「何かな? っていうか、ここに来て先生って呼ばれたのは初めてかも……」
「ダウンタウンの端にウェスト博士が乗っていたトラックが置いてあるから、まずはそっちに向かってくれないかしら?」
「ダウンタウンの端にウェスト博士が乗っていたトラックが置いてあるから、まずはそっちに向かってくれないかしら?」
ホワイ? トラックなんかなくても一ッ跳びですよ。という顔をする碧に九条はその理由を述べた。
それは単純な話だ。もしなんらかの襲撃を受けた際、この場で一番頼りになるのが碧の愕天王であることは間違いない。
しかしその上に7人が乗ったきりではどうだろうか? しかもそこには戦いが得意でない者も多数存在するのだ。
それは単純な話だ。もしなんらかの襲撃を受けた際、この場で一番頼りになるのが碧の愕天王であることは間違いない。
しかしその上に7人が乗ったきりではどうだろうか? しかもそこには戦いが得意でない者も多数存在するのだ。
「あ、そっか。振り落とすわけにも、飛び降りてもらうわけにもいかないしね。うん。合点承知!」
納得いくと、碧は戟を振り上げ改めて博士の異常な愛情が篭ったトラックの元へと愕天王を走らせ始めた。
巨体が風をごうと切り罅割れたアスファルトを踏んで、見る見る間に滞在していた教会が景色の向こうに小さくなってゆく。
そしてそこで二度の新生を果たした少女がそれを振り返り、景色から消えるまでただじっと見続けていた。
巨体が風をごうと切り罅割れたアスファルトを踏んで、見る見る間に滞在していた教会が景色の向こうに小さくなってゆく。
そしてそこで二度の新生を果たした少女がそれを振り返り、景色から消えるまでただじっと見続けていた。
「(――出立。そうね。これから先がどうなるかはわからないけど、これは紛れもない新しい出立)」
ファルは思う。
記憶を失い無垢な自分を知り、そして記憶を取り戻して真実の自分を知り、新しい自分を生み出したそこは彼女にとって特別な場所だ。
おそらくもう二度とこの場所に戻ってくることはないだろう。
あそこで思い出さなくてはならないことはもう何もない。だから、一人の人間として未知なるその先へと向かい自分は、皆は――
記憶を失い無垢な自分を知り、そして記憶を取り戻して真実の自分を知り、新しい自分を生み出したそこは彼女にとって特別な場所だ。
おそらくもう二度とこの場所に戻ってくることはないだろう。
あそこで思い出さなくてはならないことはもう何もない。だから、一人の人間として未知なるその先へと向かい自分は、皆は――
――出立するのだ。
【ギャルゲ・ロワイアル2nd 第二幕 連作歌曲第二番 「al fine (後後)」】 へと、つづく――……
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