HERE WE GO!! (出立) 中編 ◆Live4Uyua6
・◆・◆・◆・
「あの、じゃあ、私も質問していーですか?」
教室内にやや不穏な雰囲気が漂い始めようとした時、そこにそれを払拭する明るい声があがった。
その声の主はやよいで、彼女は九条に「ナイアという人物は結局何者なのか?」と、問うた。
その声の主はやよいで、彼女は九条に「ナイアという人物は結局何者なのか?」と、問うた。
「それにさっき那岐が聞き捨てならねーことを言ってたよな。
”ゲームマスターと目的が一致してる”とかなんとかよ。そこらへんの説明も合わせて頼むぜ」
”ゲームマスターと目的が一致してる”とかなんとかよ。そこらへんの説明も合わせて頼むぜ」
続けて、やよいの右手にはまったパペット人形であるプッチャンからも質問が飛び出す。
彼女達はそのナイアと直接出会って話をしており、それぞれに彼女に対する印象を持っている。
更には、トーニャやファル達とその印象を材料にあれやこれやと彼女の役割と正体を推理し、ある程度の回答も持ち合わせていた。
もし新しく現れたメッセンジャーである九条がその答えを持っているのだとすれば、それを求めるのは当然の行動だ。
彼女達はそのナイアと直接出会って話をしており、それぞれに彼女に対する印象を持っている。
更には、トーニャやファル達とその印象を材料にあれやこれやと彼女の役割と正体を推理し、ある程度の回答も持ち合わせていた。
もし新しく現れたメッセンジャーである九条がその答えを持っているのだとすれば、それを求めるのは当然の行動だ。
「そうね。正直に話すと、私もナイアの確かな正体は知らないわ。
なのであなた達と同じくその目的と言動からどういった人物なのかを推測しないといけないのだけれども、
私から見た印象も、あなた達が出した答えとそうは変わらない。つまり――」
なのであなた達と同じくその目的と言動からどういった人物なのかを推測しないといけないのだけれども、
私から見た印象も、あなた達が出した答えとそうは変わらない。つまり――」
悪い人ではなく。そして、この催し全体をエンターテイメントとして楽しんでいる人物。
そうであると九条は答え、少し安心したようなやよいの顔とツンと済ましたトーニャの横顔とを見て、そして話を続ける。
そうであると九条は答え、少し安心したようなやよいの顔とツンと済ましたトーニャの横顔とを見て、そして話を続ける。
「しかし、悪い人でないというのは良い人であるという意味と同じではないわ。
私達をこの様な生死を賭ける儀式に巻き込んだことに善意があるはずもないのは当然のことだけれども、
かと言って積極的な悪意があったかといいうと、私もそうは思えない。
つまりは、エンターテイメント。彼女は楽しんでいるだけだと思うのよ。それこそ我々が盤と駒を使って遊ぶが如くにね。
そこには悪意も善意もなく彼女自身にとっての愉悦だけがあると、私はそう思っているわ」
私達をこの様な生死を賭ける儀式に巻き込んだことに善意があるはずもないのは当然のことだけれども、
かと言って積極的な悪意があったかといいうと、私もそうは思えない。
つまりは、エンターテイメント。彼女は楽しんでいるだけだと思うのよ。それこそ我々が盤と駒を使って遊ぶが如くにね。
そこには悪意も善意もなく彼女自身にとっての愉悦だけがあると、私はそう思っているわ」
九条の話に教室内が僅かにざわめき、各人がそれぞれに感想を持ち反応する。
意思ある者を駒と扱うことに憤慨する者もいれば、盤の外にいるというのならば最早関係のないものだと思う者。
得体の知れなさに困惑する者や、話の難しさに頭を抱える者などなど、だ。
意思ある者を駒と扱うことに憤慨する者もいれば、盤の外にいるというのならば最早関係のないものだと思う者。
得体の知れなさに困惑する者や、話の難しさに頭を抱える者などなど、だ。
「まぁ愉快な話でないのは確かですが、この中で神殺しの称号を欲する人がいますか? いないでしょう?
だったら神様なんてものは一種の舞台装置。物理法則の一つ。一冊のルールブックとして割り切り、無視するのが常道です。
この”ゲーム”。私個人としては最低得点でもクリアできればそれで良しなのですから」
だったら神様なんてものは一種の舞台装置。物理法則の一つ。一冊のルールブックとして割り切り、無視するのが常道です。
この”ゲーム”。私個人としては最低得点でもクリアできればそれで良しなのですから」
ハイスコアを狙って不必要なリスクを背負うなんて愚の骨頂。安全確実第一ですよ。と、トーニャは周りの人間に釘を刺した。
大体の人間はそれで納得できたようだが、しかし彼女の隣で眉根を寄せているアルだけは少し不服そうであった。
大体の人間はそれで納得できたようだが、しかし彼女の隣で眉根を寄せているアルだけは少し不服そうであった。
「確かにそれはその通りだろうさ。審判に突っかかってレッドカード退場ってのも御免だしな。
で、それは解ったとして結局そのナイアって奴の目的はなんなんだ? 俺達の目的と一致するってことはつまり――」
「――媛星を落とすことなんだよね。僕としては非常に困ったことに」
で、それは解ったとして結局そのナイアって奴の目的はなんなんだ? 俺達の目的と一致するってことはつまり――」
「――媛星を落とすことなんだよね。僕としては非常に困ったことに」
プッチャンの言葉を継ぎ、那岐はやれやれと肩をすくめる。
「やっぱりそれが本命なのかよ。で、その媛星って巨大隕石とやらをよぉ、落としてそれがどうなるって話なんだ?」
問われ、九条は少し躊躇した後、彼女があの牢屋の前で言峰から聞いたのと同じ解答を示した。
今現在。神の視点よりも有り得なかった星詠みの舞の儀式の失敗――つまりは神にとっての奇跡を目にする為だと。
今現在。神の視点よりも有り得なかった星詠みの舞の儀式の失敗――つまりは神にとっての奇跡を目にする為だと。
「もしかしたら、姫星をこの作り上げた世界で落とすことによって彼女には何か得るものがあるのかも知れない。
けどそれはわからないし、この答えが嘘だと言うには彼女のやり方は回りくどすぎる。
少なくとも、私達が神埼を倒し儀式を失敗させることを望んで……いや、楽しみにしているというのは間違っていないはずだわ」
けどそれはわからないし、この答えが嘘だと言うには彼女のやり方は回りくどすぎる。
少なくとも、私達が神埼を倒し儀式を失敗させることを望んで……いや、楽しみにしているというのは間違っていないはずだわ」
そして、九条はナイアがいかにしてこの場を設け現在の状況を作り上げるの為に暗躍していたのかを語り始めた。
「ナイアの力を持ってすれば、媛星を落とすこと自体は非常に容易いことよ。
儀式を司る人間を消去するなり、姫星そのものを自身の力で移動させ直接ぶつけるなりすればいいのだから」
儀式を司る人間を消去するなり、姫星そのものを自身の力で移動させ直接ぶつけるなりすればいいのだから」
しかしナイアはそうはしなかった。彼女が望むのはあくまで”自らが関わらない状態で儀式が失敗し姫星が落下すること”なのだから。
なので、彼女が画策したのが”自発的に儀式の失敗を目論む人間”を作り出すことであった。
そして白羽の矢を立てられたのが、神崎に使役されており本来の儀式遂行役である那岐と、今現在残っている参加者達である。
ナイアは儀式と参加者を隔離した世界に集めると、それを成す為に第1のゲームという状況を生み出し、それを走らせた。
なので、彼女が画策したのが”自発的に儀式の失敗を目論む人間”を作り出すことであった。
そして白羽の矢を立てられたのが、神崎に使役されており本来の儀式遂行役である那岐と、今現在残っている参加者達である。
ナイアは儀式と参加者を隔離した世界に集めると、それを成す為に第1のゲームという状況を生み出し、それを走らせた。
「簡単に言えば、これはドミノ倒しというものに似ていると言えるわ。
彼女は綺麗に牌を並べ、そしてその牌である私達はその思惑通りに倒れ、今現在の図ができあがった」
彼女は綺麗に牌を並べ、そしてその牌である私達はその思惑通りに倒れ、今現在の図ができあがった」
この段階にしても、何故こうまでに回りくどいのか? その理由は人間の意思を奪わないことにある。
本番である第2のゲームにおいて、儀式の失敗を目指す側は自らの意思でそれに望まなければ彼女にとって意味がないからだ。
ナイアに利用されていると自覚した上でなお、それぞれの理由でもって動く人間でなければ儀式は彼女の手から離れたとは言えない。
本番である第2のゲームにおいて、儀式の失敗を目指す側は自らの意思でそれに望まなければ彼女にとって意味がないからだ。
ナイアに利用されていると自覚した上でなお、それぞれの理由でもって動く人間でなければ儀式は彼女の手から離れたとは言えない。
「私の場合は、娘であるなつきを救おうとした結果ここに辿り着くこととなったわ。
娘を救う唯一の方法が私の知りえる範囲内にあったことは彼女の仕業ではあるけど、それを選択したのは私自身なの」
娘を救う唯一の方法が私の知りえる範囲内にあったことは彼女の仕業ではあるけど、それを選択したのは私自身なの」
それは同じく主催側を裏切った那岐も同様だ。
ナイアの告白により今回の儀式に懸念を抱いたのは確かだが、自らを解放する手段を探し神崎を欺いたのは彼自身である。
そして、これはこの場にいる全員に対しても当てはまる。例えば――高槻やよいの場合。
ナイアの告白により今回の儀式に懸念を抱いたのは確かだが、自らを解放する手段を探し神崎を欺いたのは彼自身である。
そして、これはこの場にいる全員に対しても当てはまる。例えば――高槻やよいの場合。
「ええっ! 私ですかっ!?」
九条に名前を呼ばれやよいが大きな声をあげる。
ステージに上がった時の様に周りの視線が集中するが、それは心地よいものではなく小さな心臓がドキドキと跳ねていた。
ステージに上がった時の様に周りの視線が集中するが、それは心地よいものではなく小さな心臓がドキドキと跳ねていた。
「で、でも……その、私はそんな大事なことはできていないっていいうか……うぅ……」
「おいおい謙遜だぜやよい。俺とのデュエットで見せたあのステージを忘れたっていうのか?」
「そうそう。この僕にルールブレイカーを突き刺し、神崎の手から解放してくれたのは君自身じゃないか」
「おいおい謙遜だぜやよい。俺とのデュエットで見せたあのステージを忘れたっていうのか?」
「そうそう。この僕にルールブレイカーを突き刺し、神崎の手から解放してくれたのは君自身じゃないか」
やよいの言葉に、プッチャンが、那岐が、と続きそして更に九条が彼女の役割としての重要性を語る。
反抗側の首魁。媛星を落とす者として選ばれた那岐を解放するというのは第1のゲームにおいて終着点に当たる。
とすれば、やよいの重要度は他よりも抜きん出ていると。
反抗側の首魁。媛星を落とす者として選ばれた那岐を解放するというのは第1のゲームにおいて終着点に当たる。
とすれば、やよいの重要度は他よりも抜きん出ていると。
「うっうー……、でも大事なのは私じゃなくてあの魔法のナイフなんじゃあないですか?」
ふむと九条は頷く。確かにやよいの言うとおり大事だったのはルールブレイカーとその特質である。
しかしながら、だとすれば持っていた者は誰でもよかったのかと言うとそうでもない。
仮にトーニャがそれを持っていたとして那岐に突き刺す展開があっただろうか? 他の者だった場合は?
本人の能力。思考。状況。そして、それを見た那岐が神崎を欺く策を思いつきそれが可能であると判断する人物は?
それに何よりも重要なのが、それが起きる現場までルールブレイカーを運ぶという役割。
しかしながら、だとすれば持っていた者は誰でもよかったのかと言うとそうでもない。
仮にトーニャがそれを持っていたとして那岐に突き刺す展開があっただろうか? 他の者だった場合は?
本人の能力。思考。状況。そして、それを見た那岐が神崎を欺く策を思いつきそれが可能であると判断する人物は?
それに何よりも重要なのが、それが起きる現場までルールブレイカーを運ぶという役割。
「そもそもとして、高槻さんはルールブレイカーをどうやって手に入れたのかしら?」
「あれは、元々葛木先生の……博物館で見つけた物で、私が持っていたのは偶然なんだと思うんですけど」
「あれは、元々葛木先生の……博物館で見つけた物で、私が持っていたのは偶然なんだと思うんですけど」
それは違うと九条は首を振った。
一見。たまたま偶然にやよいの手に渡ったと思えるが、実はゲームが始まった段階ですでにそれは確定していたのだと。
一見。たまたま偶然にやよいの手に渡ったと思えるが、実はゲームが始まった段階ですでにそれは確定していたのだと。
高槻やよいと葛木宗一郎。そしてプッチャン。それらを駒として最初に配したのはだれか。それは言うまでもない。
黒幕の思惑通りに彼らは出会い。そして一番近くにあった博物館へと足を運び、必然として葛木はあの短剣を手に取った。
黒幕の思惑通りに彼らは出会い。そして一番近くにあった博物館へと足を運び、必然として葛木はあの短剣を手に取った。
「そして、教会へと辿り着いたあなた達はナイア本人と出会っている。
これは彼女があなた達を特に重要視しており、あなたに皆を導く役目を与える為だったと思われるわ」
「私が……導く?」
これは彼女があなた達を特に重要視しており、あなたに皆を導く役目を与える為だったと思われるわ」
「私が……導く?」
首をかしげるやよいへと九条は更に説明を聞かせる。
意味深でかつ謎の登場人物であったナイア。その存在を知れば、その謎を解明しようと動くのは当然の流れだ。
実際に、葛木を失った後のやよいには教会を離れる選択肢も存在したが、結局彼女は教会へと戻った。
そして、同じくナイアの干渉を受けていたとおぼしき井ノ原真人率いるグループと接触し、彼らにその情報を伝播させた。
結果どうなったかというとそれは言うまでもないことだが、彼らはただ推測を重ねながら教会に留まり続けたのである。
懺悔室の扉から那岐をおびき出すかのように。
意味深でかつ謎の登場人物であったナイア。その存在を知れば、その謎を解明しようと動くのは当然の流れだ。
実際に、葛木を失った後のやよいには教会を離れる選択肢も存在したが、結局彼女は教会へと戻った。
そして、同じくナイアの干渉を受けていたとおぼしき井ノ原真人率いるグループと接触し、彼らにその情報を伝播させた。
結果どうなったかというとそれは言うまでもないことだが、彼らはただ推測を重ねながら教会に留まり続けたのである。
懺悔室の扉から那岐をおびき出すかのように。
「確かに、ここが怪しいですよってあからさまにされちゃあ、もうそっから動けねぇよな……」
「うっうー……、だんだん難しくなってきました」
「うっうー……、だんだん難しくなってきました」
頭を抱え始めたやよいへと、九条はまだ更に説明を重ねる。
それは彼女のアイドル候補生仲間であり、同時にそうではなかった菊地真のことであった。
それは彼女のアイドル候補生仲間であり、同時にそうではなかった菊地真のことであった。
「真さんですかっ!」
「ええ。実はあなたがあの教会から地下へと繋がる階段を下りてこの島より姿を消していた時、彼女はあの懺悔室の中にいたのよ。
そして、彼女もその姿をこの島の中より一時消失させ――」
「ええ。実はあなたがあの教会から地下へと繋がる階段を下りてこの島より姿を消していた時、彼女はあの懺悔室の中にいたのよ。
そして、彼女もその姿をこの島の中より一時消失させ――」
言葉を区切り九条はアルの方へと視線を移す。それを受け、彼女は続く言葉を引き受けた。
「うむ。真は妾らの目の前に姿を現しおった。ドミノ牌が飛び、そして次へと繋がった訳じゃな。
そして、あやつの話を聞き妾は教会とその謎の人物……つまりナイアであるわけだが、それを知ってここまで足を運んだと言う訳じゃ」
そして、あやつの話を聞き妾は教会とその謎の人物……つまりナイアであるわけだが、それを知ってここまで足を運んだと言う訳じゃ」
そして生き残っていた参加者のほぼ全員が教会の方へと足を向け、まるで予め決まっていたかのように順に到着した。
この広い島の中で、各々がそれぞれの確固たる意思でここへと来ることを決定し、そしてこの様な大集団でそこで結成される。
普通に可能性として考えた場合、それはどれぐらいのものだろうか?
この広い島の中で、各々がそれぞれの確固たる意思でここへと来ることを決定し、そしてこの様な大集団でそこで結成される。
普通に可能性として考えた場合、それはどれぐらいのものだろうか?
「ふむ。改めて考えてみれば脚本があったとしか思えぬ様な結果じゃな。忌々しくもそれはよくできておったらしい」
アルの言葉を聞いてやよいは驚き、そしてナイアの仕掛けに色々な感情の混ざった溜息をついた。
彼女の右手にはまっているプッチャンも、これらの事実を始めて知った他の者達も同様だ。
彼女の右手にはまっているプッチャンも、これらの事実を始めて知った他の者達も同様だ。
「他にも挙げてゆけばきりがないし、調べ尽くせている訳でもないけれど、それは概ねナイアの想定通りに事が運んだと思われるわ。
そして、このドミノ倒しの中で”本線”というものがあるのだとしたら、それがあなたであることは間違いないの」
そして、このドミノ倒しの中で”本線”というものがあるのだとしたら、それがあなたであることは間違いないの」
真実を聞かされ、やよいは見えない何かが圧し掛かったかの様に身体を傾げた。
那岐を解放したり教会に仲間を集めるという大役を成したのかも知れない。しかし同時にあらゆる不幸のトリガーだったのかも知れない。
誰々のおかげと辿れば全て自分の手柄なのかも知れないが、誰々のせいと辿れば全て自分の責任なのかも知れない。
もっともそんなことはただの屁理屈にすぎないはずで、やよい自身に落ち度があるわけではないのだが――
那岐を解放したり教会に仲間を集めるという大役を成したのかも知れない。しかし同時にあらゆる不幸のトリガーだったのかも知れない。
誰々のおかげと辿れば全て自分の手柄なのかも知れないが、誰々のせいと辿れば全て自分の責任なのかも知れない。
もっともそんなことはただの屁理屈にすぎないはずで、やよい自身に落ち度があるわけではないのだが――
「これはあんまり知らないでいたかったかもだな……」
「聞かなきゃよかったです……うぅ……」
「聞かなきゃよかったです……うぅ……」
――ただ、その事実が彼女にはとても重たかった。
・◆・◆・◆・
「僕からも聞いていいですか?」
重く沈んだ空気の教室内に静かな、しかしそれでいて強い意志を秘めたクリスの声があがった。
一体何を質問するのか? それは質問の主が彼だということから察するのは容易で、九条は先回りしてそれに答える。
一体何を質問するのか? それは質問の主が彼だということから察するのは容易で、九条は先回りしてそれに答える。
「来ヶ谷唯湖さんのことね。残念だけど、私も彼女がどうして主催側にいるのかということには答えられないわ。
少なくとも私があちら側を出た時点までは、彼女がただの一参加者として行動していたのは確かなのだけど……」
少なくとも私があちら側を出た時点までは、彼女がただの一参加者として行動していたのは確かなのだけど……」
それを聞いてクリスは肩を落とす。
唯湖が自分の為、そして彼女自身の為に非道を繰り返しているとは先刻那岐より聞いたばかりだ。
クリスの中には彼女を説得し救うという決意がある。
なので、彼女がどうして、そしてどこにいるのかということは聞きたかったのだが、しかし明らかではないという。
唯湖が自分の為、そして彼女自身の為に非道を繰り返しているとは先刻那岐より聞いたばかりだ。
クリスの中には彼女を説得し救うという決意がある。
なので、彼女がどうして、そしてどこにいるのかということは聞きたかったのだが、しかし明らかではないという。
「とは言え想像ぐらいできるのではないか?
妾達と違い、汝や那岐は主催の側におったのだろう? とすれば、言えることもあるはずじゃ」
妾達と違い、汝や那岐は主催の側におったのだろう? とすれば、言えることもあるはずじゃ」
以外なところからの助け舟にクリスは瞳をぱちくりとさせ、そしてその瞳で九条と那岐の方を見つめた。
期待の眼差しを受け、九条らは考え、それを少しずつ口に出してゆく。
期待の眼差しを受け、九条らは考え、それを少しずつ口に出してゆく。
「そうね……少なくとも、神崎君からのアプローチであったのは確かではないかしら?」
「ふむ、そうだねぇ。
恐らく風華学園の水晶宮から基地内に移動したんだろうけど、参加者である彼女に見つけられるはずは無いし」
「ふむ、そうだねぇ。
恐らく風華学園の水晶宮から基地内に移動したんだろうけど、参加者である彼女に見つけられるはずは無いし」
神崎か、もしくはナイアから勧誘を受けて主催側に移ったのはないかと、九条と那岐は結論を出した。
しかしそこに碧が疑問を投げかけた。
しかしそこに碧が疑問を投げかけた。
「ねぇちょっと待ってよ。
神埼君でもナイアさんでもいいけどさ。勧誘ってつまりは取引きでしょう? だったとしたらそれはどんな条件なの?」
神埼君でもナイアさんでもいいけどさ。勧誘ってつまりは取引きでしょう? だったとしたらそれはどんな条件なの?」
それが思いつかないよ。と、唯湖が凶刃を振るう動機を知っている碧は渋い顔をした。
同じく、動機を知っている那岐も首をかしげている。
同じく、動機を知っている那岐も首をかしげている。
「そうだね。彼女が望んでいるのは甘美なる破滅。愛するクリス君により最期の幕を引いて貰いたいってことだ。
確かに、この段階で彼女がわざわざ主催側に移る理由はない」
確かに、この段階で彼女がわざわざ主催側に移る理由はない」
那岐の言葉を聞き、クリスの顔が曇る。
彼が別れの際に訴えた通りに彼女は自身の内に心を見出し、己が人形なんかではないこと、人間であることを知った。
それはとても嬉しいことだ。しかし彼女はそれ故に、知ってしまった感情に苛まれ、結果として破滅の道を選んでしまったのである。
その彼女が今更ながらに主催側へと移るとは、那岐と同じくクリスからも答えは浮かばない。
彼が別れの際に訴えた通りに彼女は自身の内に心を見出し、己が人形なんかではないこと、人間であることを知った。
それはとても嬉しいことだ。しかし彼女はそれ故に、知ってしまった感情に苛まれ、結果として破滅の道を選んでしまったのである。
その彼女が今更ながらに主催側へと移るとは、那岐と同じくクリスからも答えは浮かばない。
「何も彼女の側に理由があるとは限らないじゃありませんか。
我々が一致団結した以上、主催側としては儀式を進める為の駒は貴重。となれば、彼女を保護したとも考えられませんか?」
我々が一致団結した以上、主催側としては儀式を進める為の駒は貴重。となれば、彼女を保護したとも考えられませんか?」
議論の中にトーニャが加わり、何人かがその意見になるほどと頷いた。
儀式の性質上、参加者による殺し合いが放棄されてしまえばその時点で神崎側からは詰みとなってしまう。
取りうる手段としては手の内に囲った最後のHiMEである命を使うぐらいしかないが、それも安々と打てる手ではない。
となれば、先んじて参加者の一人である唯湖を取り上げ、それを強化して打ち込むというのが有効だと言える。
儀式の性質上、参加者による殺し合いが放棄されてしまえばその時点で神崎側からは詰みとなってしまう。
取りうる手段としては手の内に囲った最後のHiMEである命を使うぐらいしかないが、それも安々と打てる手ではない。
となれば、先んじて参加者の一人である唯湖を取り上げ、それを強化して打ち込むというのが有効だと言える。
「そも。その唯湖とやらが一人でここに来て何ができたのか、というのもあるしのう。
となれば、一旦主催側について妾達を待ち受けるというのはそやつにとっても悪いことではないかもしれん」
「ですね。ナイアもわざわざ放送で”ナイト”などと言う言葉を使って挑発したのです。
大方、”そのナイトと対面できる状況を作ってやるからこちら側の駒となれ”なんてあたりが真相ではないでしょうか」
となれば、一旦主催側について妾達を待ち受けるというのはそやつにとっても悪いことではないかもしれん」
「ですね。ナイアもわざわざ放送で”ナイト”などと言う言葉を使って挑発したのです。
大方、”そのナイトと対面できる状況を作ってやるからこちら側の駒となれ”なんてあたりが真相ではないでしょうか」
これでよろしいですか? と、トーニャに問われ、クリスは頷いた。
真実は解らない。それでも、もし唯湖が自分のことを待っているのだとしたら、迎えに行こう。そうするだけだと彼は思う。
真実は解らない。それでも、もし唯湖が自分のことを待っているのだとしたら、迎えに行こう。そうするだけだと彼は思う。
「さて、簡単に済ませるつもりが長くなってしまいましたね。
今後の活動方針やその他諸々に関しては、また後ほどに場を設けるとして――」
今後の活動方針やその他諸々に関しては、また後ほどに場を設けるとして――」
昼食をとらせてもらいましょうか。と、トーニャは空いている椅子へと近寄りちょこんと腰掛けた。
それに同じく昼食がまだであったアルや九条らも続き、先に食事を済ませていたやよいや桂が給仕係りとして動き出す。
壁にかけられた時計の方を見れば時刻はおやつをいただく頃合で、壁際の窓からは明るく強い光が差し込んでいた。
それに同じく昼食がまだであったアルや九条らも続き、先に食事を済ませていたやよいや桂が給仕係りとして動き出す。
壁にかけられた時計の方を見れば時刻はおやつをいただく頃合で、壁際の窓からは明るく強い光が差し込んでいた。
・◆・◆・◆・
時間は過ぎて夕刻の頃。
傾きそして真っ赤に色を変えた太陽が地平線の際より光を射し、世界をそれと同じ赤一色に染めていた。
熱にうなされている様な風景の中に冷たい風が通り抜け、少女の小麦色の髪をそよそよと揺らす。
寄宿舎の屋根の上で一人。
美希は、無音の断末魔をあげながら世界の縁より消え行くそれを見届けるが如く、ただ無言でじぃっと赤い夕日を見つめていた。
傾きそして真っ赤に色を変えた太陽が地平線の際より光を射し、世界をそれと同じ赤一色に染めていた。
熱にうなされている様な風景の中に冷たい風が通り抜け、少女の小麦色の髪をそよそよと揺らす。
寄宿舎の屋根の上で一人。
美希は、無音の断末魔をあげながら世界の縁より消え行くそれを見届けるが如く、ただ無言でじぃっと赤い夕日を見つめていた。
「夕日が好きなのかい?」
声をかけられ、美希ははっとして振り返る。
するとそこには梯子に手をかけ屋上の縁よりこちら側を覗き込む那岐の姿があった。
するとそこには梯子に手をかけ屋上の縁よりこちら側を覗き込む那岐の姿があった。
「いえ、どちらかといえばそうでも。……というよりかは、怖い。ですかね」
どこか困っている様な、そんな半笑いで美希は那岐に答える。
那岐は、そうだったねと何かに納得すると、梯子から手を離してふわりと宙に浮き、そして美希の隣へと降り立った。
那岐は、そうだったねと何かに納得すると、梯子から手を離してふわりと宙に浮き、そして美希の隣へと降り立った。
「そういえば、那岐さんは美希のことも知っていましたっけ」
「まぁね。一応、儀式に集められた人間のプロフィールは確認させてもらっている。これも仕事のうちだし」
「まぁね。一応、儀式に集められた人間のプロフィールは確認させてもらっている。これも仕事のうちだし」
言って、二人は並んで夕日を見る。
見てる間にそれは少しずつ沈んで行き、そしてそれに合わせて天上にかかる薄紫の帳の色が濃くなってゆく。
見てる間にそれは少しずつ沈んで行き、そしてそれに合わせて天上にかかる薄紫の帳の色が濃くなってゆく。
「赤色の空は、その世界の終焉を意味する――だっけ?」
「ええ。ですから、そうじゃないと知っていても夕焼けにはドキっとしちゃうんですよ」
「ええ。ですから、そうじゃないと知っていても夕焼けにはドキっとしちゃうんですよ」
美希と彼女の友人達が迷い込んでしまった終わることなく繰り返され続けるとある夏の一週間。
それは週末の決まった時間に訪れる赤い空をその知らせに、全てが週の初めへと巻き戻ってしまう。
例え何かを成し遂げていようとも、仮に誰かと誰かの想いが結ばれようとも、もしその間に死んでしまっていたとしても、だ。
記憶も、事実も、変化も、喪失も、時間すらもが巻き戻り、全てがなかったことになり、そこから意味が失われてしまう。
唯一の例外はとある一点の場所だけで、美希はその例外を利用して意味喪失を避け、自らの”固有”を保っていた。
それは週末の決まった時間に訪れる赤い空をその知らせに、全てが週の初めへと巻き戻ってしまう。
例え何かを成し遂げていようとも、仮に誰かと誰かの想いが結ばれようとも、もしその間に死んでしまっていたとしても、だ。
記憶も、事実も、変化も、喪失も、時間すらもが巻き戻り、全てがなかったことになり、そこから意味が失われてしまう。
唯一の例外はとある一点の場所だけで、美希はその例外を利用して意味喪失を避け、自らの”固有”を保っていた。
「繰り返し繰り返し、行けども行けども、どこにも辿り着けず堂々巡りの――メビウスの輪。ループする世界」
演技がかった口調で那岐は言い、そして彼は美希に問いかけた。
「知ってたかい?
この儀式に集められた者の中には、そのループする世界から来たって子が君達以外にもいたってこと」
「私や太一先輩。きりちんや支倉先輩の他にも、ですか……初耳ですね」
「全員が全員ってわけじゃあないけど、その可能性の希少さから言えば多いってぐらいにはいたかな。
もっとも、一言にループと言ってもその周期は様々だけどね」
この儀式に集められた者の中には、そのループする世界から来たって子が君達以外にもいたってこと」
「私や太一先輩。きりちんや支倉先輩の他にも、ですか……初耳ですね」
「全員が全員ってわけじゃあないけど、その可能性の希少さから言えば多いってぐらいにはいたかな。
もっとも、一言にループと言ってもその周期は様々だけどね」
例えばそれが一週間であったり、またはもっと長い期間であったり、当人が気付いていたりそうでなかったり。
そんな那岐の言葉に美希はふぅんと頷く。
関心が薄いような素振りだが内心は興味津々。と、そんな振りをして、また実際にそれは正しかった。
そんな那岐の言葉に美希はふぅんと頷く。
関心が薄いような素振りだが内心は興味津々。と、そんな振りをして、また実際にそれは正しかった。
「そして、僕もある意味ではそのループする世界の住人なのかもしれない」
言って、那岐は蒼の深くなってきた空を見上げる。つられて美希もそうすると、そこには真白な月が浮かんでいた。
美希にはそれしか見えないが、星詠みの舞に関わる者達にはそこに紅く輝く姫星が見えていると彼女は聞いている。
美希にはそれしか見えないが、星詠みの舞に関わる者達にはそこに紅く輝く姫星が見えていると彼女は聞いている。
「遥か古より三百年の周期で繰り返される姫星の接近。そして、その度に繰り返される星詠みの舞の儀式。
世界の命運を賭けたそれは、儀式に参加する乙女達にとってはそれこそ一生に一度の一大事。
だけど僕からして見れば、それは毎度おなじみの繰り返されるだけの仕事に過ぎない」
世界の命運を賭けたそれは、儀式に参加する乙女達にとってはそれこそ一生に一度の一大事。
だけど僕からして見れば、それは毎度おなじみの繰り返されるだけの仕事に過ぎない」
とも言える訳だ。と、那岐は薄く笑う。
彼がどうしてこんな話を自分に聞かせるのか。美希には痛いほどにはっきりと理解できていた。
彼がどうしてこんな話を自分に聞かせるのか。美希には痛いほどにはっきりと理解できていた。
「そうとでも思わなきゃやっていけねー……って話ですか」
ご名答と那岐は首肯する。
世界を、地球に住まう全ての命を救う為という理由があり、それを人の身を捨て己を捨てて成せと姉に託された責任がある。
しかしどれだけ大義名分を掲げようとも、儀式そのものが悲劇であるという事実は捻じ曲げられない。
世界を、地球に住まう全ての命を救う為という理由があり、それを人の身を捨て己を捨てて成せと姉に託された責任がある。
しかしどれだけ大義名分を掲げようとも、儀式そのものが悲劇であるという事実は捻じ曲げられない。
「まったく、僕も美希ちゃんも苦労人気質だよね」
「はい。本当に」
「はい。本当に」
夕日を並んで浴びる二人は同じ様に笑う。苦悩を隠し、自分を欺くために覚えた防衛手段としての笑みを。
大儀の元に、己が命よりも大切な者を賭けさせ、そこに生まれる星を還すほどに強い乙女の想いとその命を奪い続けてきた者。
自らが固有である為に、親友を、尊敬する者を、淡く想いを向ける者を、それらの命を繰り返し何度も見捨て使い捨ててきた者。
正しき理由と感性を持ち、尚それより強い理由と理性を持ち、悲劇に目を瞑り、ただ灰色の心を保ちその道を歩み続けてきた者達。
大儀の元に、己が命よりも大切な者を賭けさせ、そこに生まれる星を還すほどに強い乙女の想いとその命を奪い続けてきた者。
自らが固有である為に、親友を、尊敬する者を、淡く想いを向ける者を、それらの命を繰り返し何度も見捨て使い捨ててきた者。
正しき理由と感性を持ち、尚それより強い理由と理性を持ち、悲劇に目を瞑り、ただ灰色の心を保ちその道を歩み続けてきた者達。
「たまには愚痴の一つもこぼしたくなるよね」
「まったくですよ。苦労苦労の連続ですから」
「まったくですよ。苦労苦労の連続ですから」
悲しくない――わけがない。苦しくない――わけがない。何故なら、彼も彼女もその周りの者も皆、人間なのだから。
故に、彼と彼女はおどけ、ふざけて、そして笑うのだ。大切な心を失ってしまわないように。自分が人間であることを固有するために。
故に、彼と彼女はおどけ、ふざけて、そして笑うのだ。大切な心を失ってしまわないように。自分が人間であることを固有するために。
「そういえば、作戦会議の方はもう終わったんですか?」
ふと思いついたかの様に美希は那岐へと問いかける。
そもそもとして、彼女がここで一人佇んでいたのは他の人達が急がしそうで、でも自分は暇だったからという理由からだ。
そもそもとして、彼女がここで一人佇んでいたのは他の人達が急がしそうで、でも自分は暇だったからという理由からだ。
教室での長い昼食を終えた後、九条やトーニャを筆頭とする所謂頭いい人系な面々は部屋を移して作戦会議を始め、
やよいと碧ちゃんを中心とするアットホーム手作り料理派な面々は早速次の食事の準備へと取り掛かり、
そして残りのあぶれた面々はと言うと待機と言う名のほったらかし。勿論、美希はこの中に含まれ手持ち無沙汰でフラフラしていた。
やよいと碧ちゃんを中心とするアットホーム手作り料理派な面々は早速次の食事の準備へと取り掛かり、
そして残りのあぶれた面々はと言うと待機と言う名のほったらかし。勿論、美希はこの中に含まれ手持ち無沙汰でフラフラしていた。
「一応は終わったと言えるかな? 今のままじゃあ本格的な作戦も立てようがないしね」
それはどういうことです? と、美希が問うと那岐は首輪を小突き、それを見てなるほどと美希は頷く。
「まぁ、後で発表されると思うけど、今のところの大まかな指針だけは決まったってところだね。それ以上は明日以降になると思う」
「あ。すぐに突撃ーってことにはならないんですね」
「あ。すぐに突撃ーってことにはならないんですね」
ちょっと安心しましたと美希は笑う。
元々、前に出て戦うなんて思ってはいないが、しかしそれでも全面対決となれば逃げを決め込むこともできないだろう。
となれば、少々……いや、かなり心の準備期間が欲しいと思っていたのだ。むしろ準備してる間に全部終われば万々歳というぐらいに。
元々、前に出て戦うなんて思ってはいないが、しかしそれでも全面対決となれば逃げを決め込むこともできないだろう。
となれば、少々……いや、かなり心の準備期間が欲しいと思っていたのだ。むしろ準備してる間に全部終われば万々歳というぐらいに。
「主催側としてもこの事態は寝耳に水だった訳で、早々にこちら側には手が出せないはず。
自慢じゃないけど、こう見えても僕は強いしね。それに、九条さんも向こうから出てくる際に何か手を打ったらしいし……」
自慢じゃないけど、こう見えても僕は強いしね。それに、九条さんも向こうから出てくる際に何か手を打ったらしいし……」
まぁ、しばらくは互いに戦争の準備期間だね。と、那岐は笑った。
「おっと、忘れないうちに”これ”を振っておかなきゃ」
「なんです、それ?」
「なんです、それ?」
那岐が懐から取り出したものを見て、美希は頭の上に疑問符を浮かべた。
美希と同程度しかない小柄な彼の手の平に納まる程度の、二つある金色の何か。よく見てみるとそこには文字と数字が刻まれていると判る。
美希と同程度しかない小柄な彼の手の平に納まる程度の、二つある金色の何か。よく見てみるとそこには文字と数字が刻まれていると判る。
「サイコロだよ。八面体のね」
「美希は6まであるサイコロ以外は初めて見るかも知れません」
「美希は6まであるサイコロ以外は初めて見るかも知れません」
それでこれは何に使うんです? と、問う美希に那岐は、僕達の運命を決めるさ。と、答えそれを屋上の床に転がした。
夕日を反射しキラキラと輝くそれは硬い床の上でくるりくるりと回り、……そして、程なくしてぴたりと動きを止める。
金色の賽のアルファベットを刻まれた方は”F”。そして数字を刻まれた方は”8”の面を天へと向け、それぞれに目を表していた。
夕日を反射しキラキラと輝くそれは硬い床の上でくるりくるりと回り、……そして、程なくしてぴたりと動きを止める。
金色の賽のアルファベットを刻まれた方は”F”。そして数字を刻まれた方は”8”の面を天へと向け、それぞれに目を表していた。
「”F-8”か。とりあえずは無難なところだね」
「…………え? あ、あれ? これって、いやそれってもしかしてひょっとすると」
「そう。首輪をした君達が避けなくてはならない”禁止エリア”を決めるためのサイコロさ」
「ちょっと、意外だったかも知れませんね。どうやって決めているのかなんて考えたこともありませんでしたけど」
「…………え? あ、あれ? これって、いやそれってもしかしてひょっとすると」
「そう。首輪をした君達が避けなくてはならない”禁止エリア”を決めるためのサイコロさ」
「ちょっと、意外だったかも知れませんね。どうやって決めているのかなんて考えたこともありませんでしたけど」
那岐はサイコロを拾い上げると、美希に向かって意味深に微笑み、そしてただ一言”神は賽を投げない”と口にした。
美希の頭上にまたしても疑問符が浮かび上がり、彼女はきょとんとした表情を浮かべる。
美希の頭上にまたしても疑問符が浮かび上がり、彼女はきょとんとした表情を浮かべる。
「一応、プレイヤーである二人。
今は僕と神埼黎人がそうなんだけど、それぞれがこれを振って禁止エリアを決めるということにはなっている」
「違うんですか?」
「違わないけど、この賽に偶然ってものは存在しないと僕は思っているよ。つまり、出る目の決まっているイカサマだね。
僕だってこれでも一応は人ならざる者の端くれなんだ。ここに”何者か”の力が働いていることぐらいわかるさ」
今は僕と神埼黎人がそうなんだけど、それぞれがこれを振って禁止エリアを決めるということにはなっている」
「違うんですか?」
「違わないけど、この賽に偶然ってものは存在しないと僕は思っているよ。つまり、出る目の決まっているイカサマだね。
僕だってこれでも一応は人ならざる者の端くれなんだ。ここに”何者か”の力が働いていることぐらいわかるさ」
その何者かの名前までは那岐は口にしない。しかし、それが誰かなのかは美希にも容易に察することができる。
全ての黒幕にして、このゲームの調整役。ルールを司るあの者以外にこんなことをする者はいないだろう。
全ての黒幕にして、このゲームの調整役。ルールを司るあの者以外にこんなことをする者はいないだろう。
”――放送の時間だ。”
そして、今までとなんら変わることなく神崎黎人の声により定時の放送が始まる。
そこに何が見えると言うわけでもないが、那岐と美希は声の響いてくる空を見上げてそこへと耳を傾けた。
そこに何が見えると言うわけでもないが、那岐と美希は声の響いてくる空を見上げてそこへと耳を傾けた。
”新しい禁止エリアは、20時より「F-1」。22時より「F-8」となる。”
では以上だ。と、今までの中で最も簡素で短い第7回放送はぷつりとそっけなく終了した。
聞いていた二人は苦笑するとまた視線を沈み行く夕日へと向け、そしてそれが沈み終えるまでただ静かに時間を過ごした。
聞いていた二人は苦笑するとまた視線を沈み行く夕日へと向け、そしてそれが沈み終えるまでただ静かに時間を過ごした。
・◆・◆・◆・
「お腹に、いや心に染み入るこの味。この刺激☆ 美希はうれしくてうれしくて涙がこぼれてしまいます」
だって辛いんだもん! と、美希はテーブルの上のコップをあおり水をガブガブと飲み込んだ。
彼女の目の前にはどこかの性悪神父とかが大好き。最早毒の一歩手前と言っても過言ではない激辛麻婆丼が存在している。
彼女の目の前にはどこかの性悪神父とかが大好き。最早毒の一歩手前と言っても過言ではない激辛麻婆丼が存在している。
「これは……すごいね。ちょっと普通の辛さじゃあないと思うよ」
「とんだ悪魔風(alla diavola)ね。どこか本当の悪魔が作ったかの様な悪意を感じるわ……」
「とんだ悪魔風(alla diavola)ね。どこか本当の悪魔が作ったかの様な悪意を感じるわ……」
美希に続いて、那岐とファルも感想を述べ同じ様に水の入ったコップへと手を伸ばした。
昼食と同じ4人がけのテーブルではあったが、席に座る面子はそれぞれのテーブルであの時と少し異なっている。
今、美希と同席しているのは目の前の那岐と隣のファル。そして、悪魔の夕食を演出した張本人――
昼食と同じ4人がけのテーブルではあったが、席に座る面子はそれぞれのテーブルであの時と少し異なっている。
今、美希と同席しているのは目の前の那岐と隣のファル。そして、悪魔の夕食を演出した張本人――
「あちゃー。ごめんね。まっさかこんなに辛いものができちゃうなんて思わなかったからさー……」
3人の前で苦笑する杉浦碧その人であった。
昼食のカレーライスが好評だったので、ならば同じご飯に餡をかけた丼ものがよいだろうと発想したまでは問題なかったのだが、
しかし、彼女の「みんな辛いの平気みたいだし」「これもバイト先で作ったことある」という発言で、夕食製作班はその道を踏み外し、
昼食のカレーライスが好評だったので、ならば同じご飯に餡をかけた丼ものがよいだろうと発想したまでは問題なかったのだが、
しかし、彼女の「みんな辛いの平気みたいだし」「これもバイト先で作ったことある」という発言で、夕食製作班はその道を踏み外し、
「特別辛味調味料? ……入れちゃえ。燃えろファイアー! 気合いれてくぞー!」
という発言により、至極の晩餐は地獄で凄惨なものへと変化を遂げてしまったのであった。
もっとも麻婆丼自体は美味だったので、それも最初の内だけでしばらくすると皆食事を楽しむようになっていたが。
もっとも麻婆丼自体は美味だったので、それも最初の内だけでしばらくすると皆食事を楽しむようになっていたが。
「それでは、簡単ながら今後の予定を発表したいと思います」
食べながら聞いていただいて結構です。と、九条は教壇に立ち、前の時と同じ様に説明を始める。
今晩から翌朝まではこの教会に留まって休息を取ること。翌朝より具体的な行動を起こし拠点を新しい場所に移すこと。
その際の道程や班分けされる面子。到着予定時間やら合流後の予定。そこからエトセトラエトセトラ――……。
今晩から翌朝まではこの教会に留まって休息を取ること。翌朝より具体的な行動を起こし拠点を新しい場所に移すこと。
その際の道程や班分けされる面子。到着予定時間やら合流後の予定。そこからエトセトラエトセトラ――……。
「ここから移るんですか?」
ファルが九条の妨げにならぬよう小声で那岐へと問う。
この教会の礼拝堂にある懺悔室の扉。あれは主催者のいる場所へと繋がっていたはずで、そこから離れるというのは疑問だった。
てっきりあそこから全員で突入するものだと彼女は思い込んでいたのだ。
この教会の礼拝堂にある懺悔室の扉。あれは主催者のいる場所へと繋がっていたはずで、そこから離れるというのは疑問だった。
てっきりあそこから全員で突入するものだと彼女は思い込んでいたのだ。
「あの扉……っていうか、この教会から繋がっているのは実際にはあのナイアがテリトリーとする古本屋なのさ。
そこから主催本拠地にも行けるから、あの扉が主催本拠地への扉と言っても間違いではないんだけども
イレギュラーであることには変わりないからオススメはできないね」
そこから主催本拠地にも行けるから、あの扉が主催本拠地への扉と言っても間違いではないんだけども
イレギュラーであることには変わりないからオススメはできないね」
そして、風華学園の水晶宮など普通に異次元を介さずに主催本拠地へと繋がっている場所はたくさんあるのだと那岐は説明する。
ならば無理をしてどんなちょっかいをかけられるかわからないナイアの鼻先を通ることはないというのが結論だと。
ならば無理をしてどんなちょっかいをかけられるかわからないナイアの鼻先を通ることはないというのが結論だと。
「それに、君とやよいちゃんにはまだあのすずって子にかけられた言霊が残っているんじゃないかな?」
それを聞いて、ファルは「あ」と息を漏らした。
やよいと連れ立ってあの扉の中へと入りそこで一人の少女と出合ったことと、気付けば入り口に戻っていたことを思い出す。
あの後、不思議ともう一度あの扉を潜ろうという気は起こらなかったが、意識してみれば今もそれは変わりなかった。
やよいと連れ立ってあの扉の中へと入りそこで一人の少女と出合ったことと、気付けば入り口に戻っていたことを思い出す。
あの後、不思議ともう一度あの扉を潜ろうという気は起こらなかったが、意識してみれば今もそれは変わりなかった。
「確かにその言霊……? というものの力は働いているみたいね。あそこに入れる気がしないわ」
「でしょう? まぁ、ここを離れる理由はそれだけじゃないけどね。他には――」
「でしょう? まぁ、ここを離れる理由はそれだけじゃないけどね。他には――」
と、那岐は美希の方へと視線を移す。
「えっと、美希めに何か問題があるのでしょうか……?」
「いや、君に借りたパソコンさ。
九条さんが向こうを出る際に色んなデータを持ち出してくれたみたいなんだけど、あれじゃ扱えないものを多いらしくてね」
「いや、君に借りたパソコンさ。
九条さんが向こうを出る際に色んなデータを持ち出してくれたみたいなんだけど、あれじゃ扱えないものを多いらしくてね」
一瞬、冷や汗をかいた美希はほっと胸を撫で下ろす。
自分にもいつの間にかに魔法だの妖術だのよくわからない力がかかっていたとしたら、それはぞっとしない話だ。
もしそれで、例えば言霊とやらで何かを命じられていたとしたら、それは固有してきた自分を見失う原因にもなりかねないのだから。
自分にもいつの間にかに魔法だの妖術だのよくわからない力がかかっていたとしたら、それはぞっとしない話だ。
もしそれで、例えば言霊とやらで何かを命じられていたとしたら、それは固有してきた自分を見失う原因にもなりかねないのだから。
九条の話も終わり那岐との質疑も一段落したところで、美希はデザートをいただきながらそれとなしに周りを観察する。
「なつき。テーブルの上に零しているわよ。もう少し行儀よく食べないと――」
「こっちもだよ、なつき。ほら、拭いてあげるから――」
「あ。だ、大丈夫だからっ! ママ! それにクリスも、ちょっとやめ、にゃあっ――」
「こっちもだよ、なつき。ほら、拭いてあげるから――」
「あ。だ、大丈夫だからっ! ママ! それにクリスも、ちょっとやめ、にゃあっ――」
まず目に付いたのが、説明を終えて着席した九条と、同じテーブルに同席するなつきとクリス。
なんというか、あの怒りんぼさんななつきが子供になって世話を焼かれているを見るのは微笑ましいやら可愛らしいと言った感じだ。
突然に生き別れの家族が現れたらならもっと躊躇するものかと思ったが、それは美希が見る限り杞憂であったらしい。
聞くところによると九条は常に草葉の陰から娘を見守っていたという。となれば、きっと溜まっていた親子愛が今溢れ出しているのだろう。
母は娘とその恋人の関係にも理解があるようだし、めでたしめでたしである。
なんというか、あの怒りんぼさんななつきが子供になって世話を焼かれているを見るのは微笑ましいやら可愛らしいと言った感じだ。
突然に生き別れの家族が現れたらならもっと躊躇するものかと思ったが、それは美希が見る限り杞憂であったらしい。
聞くところによると九条は常に草葉の陰から娘を見守っていたという。となれば、きっと溜まっていた親子愛が今溢れ出しているのだろう。
母は娘とその恋人の関係にも理解があるようだし、めでたしめでたしである。
「この馬鹿野郎っ! 俺のを勝手に食ってんじゃねぇ――」
「何を言うか我が宿敵大十字九郎よっ!
この世は所詮弱肉強食! 全ては早い者勝ちの特売セール! 牛乳はお一人様5パックまでなのであろうがっ!
とすれば、情熱思想理念その他諸々何より気品がこれっぽっちも足りない――って、どうして我輩の皿が消失ミステリーっ!?」
「……お前達、ずっとこの調子で進めるつもりか」
「何を言うか我が宿敵大十字九郎よっ!
この世は所詮弱肉強食! 全ては早い者勝ちの特売セール! 牛乳はお一人様5パックまでなのであろうがっ!
とすれば、情熱思想理念その他諸々何より気品がこれっぽっちも足りない――って、どうして我輩の皿が消失ミステリーっ!?」
「……お前達、ずっとこの調子で進めるつもりか」
次に目に付く……というよりも、目に付かざるを得ないというか思わずスルーしたくなるのは、教室の中でも一番騒がしいテーブルだ。
九郎、ドクター・ウェスト、玲二と男ばかりが揃ったこの部屋の中でも異色のそこは、文化というかそのノリも異彩を放っている。
誰が頼んだ訳でもないのに騒々しい寸劇を繰り返しては、その隣のテーブルから飛んでくるツッコミに鎮圧されていた。
九郎、ドクター・ウェスト、玲二と男ばかりが揃ったこの部屋の中でも異色のそこは、文化というかそのノリも異彩を放っている。
誰が頼んだ訳でもないのに騒々しい寸劇を繰り返しては、その隣のテーブルから飛んでくるツッコミに鎮圧されていた。
「ここは馬鹿が空気感染する病気でなかったことを神に感謝するところでしょうか」
「ふむ。しかしながら馬鹿につける薬はないとも言う。不治の病に冒されているというのはあやつらの不幸じゃ」
「適切な観測と判断があれば予見、予防できうるものでもあります。ここは自業自得と判断するべきでしょう」
「てけり・り」
「ふむ。しかしながら馬鹿につける薬はないとも言う。不治の病に冒されているというのはあやつらの不幸じゃ」
「適切な観測と判断があれば予見、予防できうるものでもあります。ここは自業自得と判断するべきでしょう」
「てけり・り」
してその隣では、トーニャ、アル、深優の神秘的な美貌を備えた三人が顔に似合わぬ辛辣な意見を述べていた。
そしてアルの小さなお尻の下ではそれに同調するかのようにダンセイニがただ「てけり・り」と合わせている。
人でなく、そして人らしく、そして人を超えし美少女達。
可愛いわ。頭いいわ。強いわ。で、美希からするとややコンプレックス感じないでもないですチクショーと言ったところだが、
とある部分がひかえめ系であることについては親近感覚えますですはい。でもあったりした。需要はそこにあるのだ。
そしてアルの小さなお尻の下ではそれに同調するかのようにダンセイニがただ「てけり・り」と合わせている。
人でなく、そして人らしく、そして人を超えし美少女達。
可愛いわ。頭いいわ。強いわ。で、美希からするとややコンプレックス感じないでもないですチクショーと言ったところだが、
とある部分がひかえめ系であることについては親近感覚えますですはい。でもあったりした。需要はそこにあるのだ。
「うっうー……、辛いぃ……。けど、残しません! おいしく全部いただきます!」
「その意気だやよい! この俺もバーニングしてきやがったぜ。桂と柚明もやよいに負けてるんじゃないぜぇ?」
「んくんく……ふぁ……。これ、かっらいけどおいしいよね柚明さん」
「……うん。そうだね、桂ちゃん」
「その意気だやよい! この俺もバーニングしてきやがったぜ。桂と柚明もやよいに負けてるんじゃないぜぇ?」
「んくんく……ふぁ……。これ、かっらいけどおいしいよね柚明さん」
「……うん。そうだね、桂ちゃん」
5つ目のテーブルには、昼と同じく席を並べるやよいと桂、柚明の姿があり、そしてその構図も以前の時と同じであった。
やよいが見ていると力づけられるその元気さをアピールし、プッチャンがそれに応援を加えて場のテンションを盛り上げる。
勿論その狙いは目の前の二人といち早く打ち解け、”いっしょ”の仲間になるためで、幾分かそれも功を奏しているかのように見受けられ、
出会った頃に比べれば彼女達の間で交わされる会話は軽い様に見えた……が、しかしそうだと見抜ける程度にはまだ固いとも言える。
柚明の目の前の皿がほとんど手付かずなのも、その辛さだけが原因ではないだろう。
やよいが見ていると力づけられるその元気さをアピールし、プッチャンがそれに応援を加えて場のテンションを盛り上げる。
勿論その狙いは目の前の二人といち早く打ち解け、”いっしょ”の仲間になるためで、幾分かそれも功を奏しているかのように見受けられ、
出会った頃に比べれば彼女達の間で交わされる会話は軽い様に見えた……が、しかしそうだと見抜ける程度にはまだ固いとも言える。
柚明の目の前の皿がほとんど手付かずなのも、その辛さだけが原因ではないだろう。
さてと視線を一回りさせたところで、美希の感想としてはただ混沌とだけだろうか。
人と人ではない者が揃いに揃って18人。どいつもこいつも一癖二癖ある持ち主で変人奇人に慣れていた美希でも眩暈がするほどだ。
だがしかし、その混沌は不思議と心地がいい。
まるでお祭りの喧騒の中にいるような、もしくは映画館で上映が始まる前のざわめきのような、奇妙で心沸き立つ予感があった。
人と人ではない者が揃いに揃って18人。どいつもこいつも一癖二癖ある持ち主で変人奇人に慣れていた美希でも眩暈がするほどだ。
だがしかし、その混沌は不思議と心地がいい。
まるでお祭りの喧騒の中にいるような、もしくは映画館で上映が始まる前のざわめきのような、奇妙で心沸き立つ予感があった。
「ちょっとー! おかわりはいくらでもいくらでもあるんだから、いい加減つまんない喧嘩はやめなさーい!」
「止めないでくれ碧さん! 男ってのはな、時にはそのつまらないモノってやつに命を張らなきゃいけない時があるんだ!」
「その台詞気に入ったぜ九郎! 俺も燃えてきたーっ!」
「うっうー! プッチャンが暴れるとごはんが食べられませーん!」
「ギャハハハハハ! 片手が塞がっているならもう一本腕を足せばいいじゃない。ということでって――ギャアアアアッ!」
「ほんと、いい加減脳ミソだけを取り出してホルマリン漬けにしますよ。この万年ハラショー野郎はっ!」
「ええい、九郎もいい加減大人しくせぬか! マスターの恥は妾の恥でもあるのだぞ自重せいっ!」
「ほんと賑やかですねぇ。美希は割りとロンリーなことが多かったので、これはこれで楽しいです」
「うんうんわかるよ。僕もマスターがあれだったから楽しい食卓なんてものには無縁だったからさぁ」
「制圧プログラムを起動します――」
「――連携を取るぞ」
「やれやれ見ていられないわね。こっちも、あっちの方も」
「ほら、また零しているわよなつき」
「お水のおかわりはいるかな? なつき」
「あーん! ママもクリスも私を子供扱いしないで~っ!」
「まるでお祭りみたいだね。柚明さん」
「……ええ。本当に」
「てけり・り」
「止めないでくれ碧さん! 男ってのはな、時にはそのつまらないモノってやつに命を張らなきゃいけない時があるんだ!」
「その台詞気に入ったぜ九郎! 俺も燃えてきたーっ!」
「うっうー! プッチャンが暴れるとごはんが食べられませーん!」
「ギャハハハハハ! 片手が塞がっているならもう一本腕を足せばいいじゃない。ということでって――ギャアアアアッ!」
「ほんと、いい加減脳ミソだけを取り出してホルマリン漬けにしますよ。この万年ハラショー野郎はっ!」
「ええい、九郎もいい加減大人しくせぬか! マスターの恥は妾の恥でもあるのだぞ自重せいっ!」
「ほんと賑やかですねぇ。美希は割りとロンリーなことが多かったので、これはこれで楽しいです」
「うんうんわかるよ。僕もマスターがあれだったから楽しい食卓なんてものには無縁だったからさぁ」
「制圧プログラムを起動します――」
「――連携を取るぞ」
「やれやれ見ていられないわね。こっちも、あっちの方も」
「ほら、また零しているわよなつき」
「お水のおかわりはいるかな? なつき」
「あーん! ママもクリスも私を子供扱いしないで~っ!」
「まるでお祭りみたいだね。柚明さん」
「……ええ。本当に」
「てけり・り」
そして、夜は更けてゆく――……
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