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OVER MASTER (超越) 6

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OVER MASTER (超越) 6 ◆Live4Uyua6



 ・◆・◆・◆・


 **時×*分、神崎黎人は連絡通路を通って中央本部にある会議室に向かっていた。
終焉プログラム、それは主催側の勝利宣告。会場は3時間も掛からずに禁止エリアに埋め尽くされる。
反抗側は本来、これのせいで準備もままならぬまま、主催の本拠地に突入するしかなかった。
だが、ナイアが舞台を降り、那岐にサイコロが渡った今、終焉の希望は閉ざされた。
しかも、手駒となるHiMEは命と唯湖の二人のみ。かつての主催優位の状況は見る影もない。
ゆえに、主催側は新たな対策を練る必要に迫られていた。

 なに、勝負はまだ決まった訳じゃない。戦力はこちらの方が圧倒的に有利だ。
神崎は自分にそう言い聞かせ、歩調が鈍らないように気を引き締める。


 突然、声無き警告が彼の思考を中断させた。新生弥勒だ。あれには人工HiMEを感知する能力がある。
神崎は十秒も経たぬうちに、彼のHiME、妹のミコトの後姿を見出した。彼は身体の緊張をわずかに解いて彼女の元に近づいて、

「僕の大事な妹、愛するミコト。部屋にいなきゃ駄目じゃないか」
「私を妹と呼ぶなっ! 黎人、お前はジイの仇だ」

 神崎は稲妻に打たれたような衝撃を受ける。彼女の目は剃刀のように鋭く、強い殺気を放っていた。
だが、彼はミコトの兄であると同時に、世界の王となるべき器である。
己の困惑を顔に表すことをせず、彼女をしっかりと見据えて問い正す。

「ミコト、それを誰から聞いたんだい。部屋の外はお前を騙そうとする人間で一杯なんだよ」
「神父様が全部教えてくれた。兄上が小さい頃からずっと独りぼっちで辛かったのは嘘だったそうだな。
 私に会いたかったというのも出鱈目で、私を殺して王になりたいだけだと聞いたぞ」


 よりにもよって、彼女は実の兄より言峰綺礼を信じるのか。人の心をかき乱し、その苦悩を啜り取る、吸血鬼のような男を。
言峰はシアーズに匿われているのか。だが、あの男なら単独で潜伏できても可笑しくはない気もする。
いや、そんなことはどうでもいい。ミコトは神崎黎人の妹はその程度の器ではない。彼は絶対的な確信を持ち、すぐに思い直す。

 ならば、眼前の少女はミコトに身をやつしたアンドロイドか、それとも幻術の産物か。
だが、弥勒は彼女をHiMEと認識している。そして、もうひとりのHiME、来ヶ谷唯湖はクリスの命を担保に取られ、こちらに逆らうことが出来ない。

(すると、すずの言霊で操られているのか。確かに、ミコトよりもすずを懐柔する方が楽だな)

 だが、神崎はその結論に奇妙な違和を感じていた。何やら決められた脚本に載せられている心地がある。
もどかしいが、その理由はまだ掴めない。いや、掴ませてくれない、と言ったほうが正解か。

「……やれやれ、ミコト、僕は失望したよ。そんなことを言い出すなんて。
 僕には他にもHiMEがいる。お前が先に死んでも儀式は続けられるんだよ」

 彼は深く息を吐き、ミコトの持つ本来のエレメント、カムツカに目をやった。
それは刀の柄の形をしており、弥勒の代わりにシアーズの作った擬似エレメントが収められている。
チャイルドの消滅は思い人の死を意味する。だが、ミコトがカムツカでミロクを制御している限り、チャイルドの発動はありえない。
しかし、神崎は今回、その戦略を選ばなかった。それは、前回の神崎の死は、ミロクを他人に任せた為に起きたという反省のため。
そして、今回の一部の参加者たちは想い人なしでチャイルドを召喚しており、チャイルドの消滅は自分の死に直結しないと踏んだため。

 だが、本当にそれだけなのだろうか。


「闘え、早く私と闘え!」

 ミコトは鞘からミロクに酷似した直刀を抜き出すと、慣れた手付きで大上段に構える。
その刀身は小柄な少女と同じくらいの大きさでありながら、彼女はそれに振り回されている印象はまったくない。

「ミコト、君は聞き分けのない子だね。僕が兄として厳しく躾けてあげるよ」

 神崎は弥勒でゆっくりと円を描く。全身が禍々しいオーラに包まれ、神経が研ぎ澄まされていく。
黒曜の君がHiMEに負けるわけがない。まずはミコトを気絶させて拘束だ。洗脳の解除はその後で良い。

「うおぉぉぉぉっ!」

 ミコトが腹に力を入れて叫ぶと、闘気が爆発的に膨れ上がる。少女のはずが獅子の気迫。
彼女は瞬く間に兄との距離をつめてくる。されど、神崎は動じない。彼女の太刀筋はミコトが飛び出すより前からを読み切っている。

 弥勒が最小限の動作で振り下ろされる。ミコトの太刀の軌道と重なり合う。刃音が鳴り響き、人外じみた剛力が弥勒に圧し掛かる。
神崎はそれを緻密な刀捌きで逸らしていく。




……はずだった。




「バ、バカな……弥勒が、折れただとッ!」

 神崎はショックで体の震えが止まらない。よく見ると自分の腹に折れた弥勒が突き刺さっていた。
そして、吐血、強い眩暈。神崎は力なくその場に崩れ落ちる。
王の器とは自ら幸運を引き寄せるもの。だが、自分が引いたのは凶の籤ばかりだ。彼は心の中で自嘲する。


「神崎黎人、貴様の役目はここで終わりだ」

 聞き覚えのある渋い声が聞こえた。神崎は最後の力を振り絞って顔を上げる。
いつの間にか言峰綺礼がミコトの傍に立ち、愉悦の表情で彼を眺めていた。
神崎は男に憎まれ口のひとつでも叩こうとするも、また一塊の血反吐。そして、ミコトは怒りの表情を崩さず、ただ、そこに立っていた。

(ミコト、騙す形で利用したのはすまなかった。祖父の死だって、直接は手を下してはいないとは言え、一番地の長たる自分に責任がある。
 だけど、僕がお前を愛しているのは本当だよ。今だってそうだ)

 言峰はミコトの首から下がったペンダントに手を掛ける。それはガラス玉に紐を通しただけの古風で質素な首飾り。
だが、彼女はそれに抵抗することも声を上げることもしない。いや、上げる気力がない。

 彼は左手でペンダントを持ったまま、神崎の眼前でそれを広げる。首飾りは重力法則に従って落ちる。
紫色のガラス玉は僅かばかりの光を放ち、床にぶつかって軽い音を立てた。

 それと同時に、神崎の目は霞み、あっという間に見えなくなった。間を置かずして、あの男が首飾りを靴底で踏みにじる音が聞こえてくる。

 あまりにも惨めな結末。こんなことがあってよいのだろうか。いや、あるはずがない。
間違っているのは自分ではなく、げん……





 びゅ――――ん、しゅぱ――――ん!





 長き刃が宙を舞い、命ある者の首は撥ねられた。




 ・◆・◆・◆・



 シアーズ技術開発総括は腕時計に目をやった。対策会議の開始予定時刻から5分を経過している。
だが、神崎は未だ不在。普段の彼なら少なくとも10分前には席に着いているはずだ。

 テーブルの各席に紅茶が淹れられた。気品高きアッサムの香りは出席者達の心を平穏に包む。
緋目のアンドロイド、アリッサ・シアーズは、飲食不要にも関わらず給仕に紅茶を要求したようだ。
そして、ティーカップに息を吹きかけ、黄金色の波紋を楽しんでいた。
その仕草は、深優の愛した碧眼の少女、アリッサ・シアーズを髣髴させた。

 この会議はさほど格式ばったものではなく、お茶会形式で行われる。
これは神崎の所属する、風華学園での生徒会会議をなぞらえているのだろう。
議長の神崎はさながら、お茶会のホストと言ったところか。


 尚、会議の出席者は以下の通りである。

  【一番地】       
  |黒曜の君(神崎黎人)   
  |一番地統合幕僚長
  |一番地警備本部長
  |一番地情報本部長
  |一番地特別補佐官 ※言峰綺礼の裏切りにより欠員
  |その他数名の幹部 

  【シアーズ財団】
  |シアーズ極東計画代表 ※極東計画とは、シアーズのHiME計画全般を指す
  |シアーズ技術開発総括 ※ジョセフ・グリーア死亡により繰り上がり
  |シアーズ技術開発特別顧問 ※九条むつみの裏切りにより欠員
  |シアーズ防衛総括
  |オブザーバー(アリッサ・シアーズ)
  |その他数名の幹部


 会場にいる一番地の連中は、ナイアがこの組織から作為、もしくは無作為に選んで転送したものだ。
そして、神崎がそこから能力や人格を鑑みて幹部を抜擢した。
対して、シアーズ総帥はこの邪神と契約を結び、自ら選別した人材をこのゲームの供物とした。
ただし、こちらも表向きは彼女による選択となっている。
そのため、両者とも寄せ集めの組織であり、肩書きに統一性は乏しい。

 唐突にドアが開く。出席者が一斉に注視する。清掃員が部屋を間違えただけだった。

 さらに5分経過。席上から、背後の職員から、ひそひそ声が聞こえ始める。
皆、神崎の身に何かあったのか気になって仕方ないのだろう。
シアーズ技術総括はその様子を見て、頬の筋肉を緩める。キングのないチェスはゲームそのものが成立しないのだ。



 だが、それから1分も経たないうちに、神崎がシアーズ極東計画代表と共に姿を現した。

「遅れて申し訳ありません。全ては僕の失態です。少々支度に手間取ってしまいまして」

 神崎黎人は他の出席者に頭を垂れると、長方形のテーブルの上座に腰掛けた。
シアーズ防衛総括は五体満足の黒曜の君を見て、馬鹿な、と小声で呟いた。
アリッサは足を前後に揺らしながら神崎を『本人確認』する。
シアーズ技術開発総括はそれを聞き、困惑の表情を隠せない。

 シアーズ極東計画代表の遅刻に関しては、さして関心はなかった。
なぜなら、この恰幅の良い白髪頭はすずの言霊で神崎の犬に成り果てていたから。
彼は資産家で財団に多少の影響力を持つ人物だが、この箱庭世界では大した意味を持たない。

 一方、一番地統合幕僚長、黎人を昔から良く知る老人は、全てを見透かすような片眼で神崎を凝視する。
そして、深い皺の刻まれた鉄面皮は口元を僅かばかり綻ばせ、微かな愉悦を表した。


 神崎が開会を宣言し、幹部達による一通りの挨拶がされる。
その後、神崎の秘書は立体モニターを通して、現在のゲームの状況を説明する。
たとえば、現在の禁止エリア、主催側と反抗側の戦力比較、警戒すべき支給品などである。

 次は儀式完遂のための計画立案だ。ただし、事前におおよその作戦は定まっている。
それは会場に大軍を展開して参加者を消耗させ、その後で強化したHiMEを投入して殺害するものだ。

 だが、神崎の口から出た言葉はそれとは180度異なるものだった。

「こちらからは会場の参加者には一切手出しはしません。

 彼らが本拠地に進入してきたところで、鬼道による閉鎖結界を発動させます。
 そして、結界の発動限界である12時間以内に参加者を捕獲して監禁、HiMEに殺害させます」

 会議室に沸き起こるどよめき。早速、シアーズ防衛総括から反論が起こる。
彼は目つきの鋭い男で、細身ながらよく響く声を持っていた。

「戦力優勢の軍は早期決戦を挑むのが兵法の常道ではないかな。今一度、反抗側の総合戦闘力を確認してもらいたい」



  【RANK:S】 人知を超えた戦闘力を持つ者
  |※該当者は存在しない。

  【RANK:A】 人類としての極限。又はそれを超越した戦闘力を持つ者。
  |[深優・グリーア][杉浦碧][吾妻玲二][九条むつみ]

  【RANK:B】 人類として最上級に達し、異能を含む戦闘力を持つ者。
  |[アル・アジフ][玖我なつき][柚明][アントニーナ・アントーノヴナ・ニキーチナ]

  【RANK:C】 対抗する存在として最低限以上の戦闘力を持つ者。
  |[羽藤桂][大十字九郎][ドクター・ウェスト][クリス・ヴェルティン]

  【RANK:D】 脅威となり得るほどの戦闘力は持っていない者。
  |[高槻やよい][山辺美希][ファルシータ・フォーセット]

  【RANK:X】 その能力が未知数な者。
  |[那岐][ダンセイニ][プッチャン]



 ディスプレイに映し出される戦闘ランキング。素の身体能力だけでなく、戦闘経験なども加味してある。
無論、これは便宜的なものであり、装備や状況に応じて変動しうる。
また、神崎やシアーズの知る人物や何度も戦績を収めた人物はランクが高くなり、
逆に未だ爪を隠していたり、会場での戦いの少ない参加者は少し低めに見積もられてるかもしれない。

 今のところ、反抗側にランクAを超えたランクSの存在、つまりは橘平蔵のような怪物は存在しない。
ちなみに主催側の一般戦闘員はランクC、アンドロイドと平均的なオーファンがランクBである。そして、シアーズ防衛総括は言葉を続ける。

「それに加えて、彼らには強力な支給品があり、ランク以上の力を発揮する可能性が高い。
 口惜しいが、少人数戦闘においては、反抗側に長があると言わざるを得ない。

 さらに、本拠地には狭い空間が多く、こちらの数の利を生かすことは困難。
 篭城戦に持ち込むならば、反抗側に個別撃破されるのが関の山ではないかね?」

 その時、神崎の犬、シアーズ極東計画代表が席から立ち上がり、顔を真っ赤にして口をカッと開く、

「貴様、神崎様の意見にケチを付けるのかっ!」
「代表、この会議の目的を――」
「目的? 神崎様に忠誠を誓い合うことだっ!!」

 彼は口泡を飛ばして喚きたてる。これは犬は犬でも番犬ではなく、無謀に甲高く吼える愛玩犬だ。
一番地から聞こえる忍び笑い。シアーズ防衛総括ほとほと困り果てた様子を見せる。
そこで、主人たる神崎はシアーズ極東計画代表に鋭い声で着席を命じる。

「まあまあ、二人とも落ち着いてください。シアーズ防衛総括の意見も普通の戦争であれば、賢明な判断でしょう。
 ですが、これはあくまでも星詠の儀、次のルールをお忘れですか」


 ●会場での人工HiME以外の攻撃は、人工HiMEの死の決定的な要因になってはならない
 ●本拠地内での人工HiME以外の攻撃は自衛として扱われ、瀕死にする程度までは許される
   ただし、止めだけは人工HiMEに行わせなければならない
 ●上記のルール破った場合、想いの力が首輪に継承されない可能性が極めて高い


 秘書は手際よく画面を切り替えていた。神崎は相応の準備をした上で、作戦を立案したのだと伺える。
すると、妙齢の女性、一番地警備本部長は足を組みなおして神崎の意見を肯首する。

「ステイルメイト。会場へ出ていっても、負けはしないが勝ちもしない状況なのよね。HiMEをまともに攻撃できないのは本当に痛いわ」
「……むむ、それは分かっている。どちらにせよ、直接手を下させないのは同じだ。敵方に決戦の主導権を与えるのは納得いかぬ」

「いっそ、カジノとか主要施設だけでもぶち壊す? それならはルールとか関係ないし。
 でも、あいつらを脱出不可能にしちゃったら、こんな悪党に媛星なんて渡せるかー、って、
 首輪、勝手に外しちゃうかもしれないわよ」

 たとえ、首輪を外せなくとも、単身でわざと人工HiME以外に殺されれば儀式は破綻する。
そう、反抗側が迂闊に儀式を潰せないように、主催側も迂闊にロケット製作の芽を潰すことはできない。

 シアーズ防衛総括は渋い顔で口ごもった。彼は神崎生存という事実の動揺が尾を引いて、彼本来のペースで議論できていないようだ。
それとは対照的に、神崎は確信に満ちた様子で持論を展開する。

「攻撃の計略が立たない時は防御して機を伺え、これも定石です。
 無理に攻め手を考えあぐねるよりは、弱点の克服に力を入れるべきではないでしょうか。

 幸いなことに、こちらはレーダーで人工HiMEの現在位置を補足可能。
 彼らの奇襲を案ずることなく、こちらのペースで戦力増強できますからね」

 一番地警備本部長は楽しそうに身を乗り出してきた。

「それは興味あるわね。お姉さんに教えてくれないかしら?」
「反抗側の強者たちに物量で対抗する。その先入観を覆します。こちらも少数精鋭の機動部隊を結成しましょう。
 強化するのは人工HiMEに限りません。シアーズ財団は持ち主の潜在能力を引き出す、新しい擬似エレメントを開発したそうですね」

 神崎はそう言って、シアーズ技術開発総括に眼差しを向ける。それはあの、ヤコブプロジェクト、儀式乗っ取り計画の副産物を差しているのだろう。
アリッサはこの男の着崩したブランドシャツが背汗で滲むのを感知した。
シアーズ極東計画代表は不審な顔つきで彼を指差し、追い討ちをかける。

「そんなことは聞いていないぞ。私にまで隠し立てするとは、どういう腹積もりだっ!?」
「申し訳ありません。あれはまだ試作段階でして、量産体制に移行した時点で報告するつもりでした」

 シアーズ技術開発総括は動揺を抑えながら、冷静な口調で秘密兵器の機能を説明する。

 旧来の擬似エレメントは、通常のエレメントをベースに製造されている。
それは剣や銃の形を取り、威力は通常の携帯用兵器よりも上である。
想いの力を動力とするため、弾数は無制限、更にチャイルドやオーファンに対して有効なダメージを与えることか可能だ。

 だが、新しい擬似エレメントはそれだけではない。
これはクサナギやミロクを原型としており、装備するだけで身体能力が向上するのだ。
その特定の人間とは、鋳造時に組み込まれた遺伝子によって決定される。
つまり、各々の専用武器であり、反抗側に奪われても実害に乏しい。
 要するに、高村恭司だけがクサナギを振るって、常人離れした力を発揮できるのと同じである。
ただし、ミコトのような旧来からのHiMEは、元々想いの力で身体強化されるので、この擬似エレメントの恩恵はない。

 もちろん、シアーズ技術開発総括はこれを用いて星繰の儀を行えることを出席者に伏せていた。
もっとも、それを遂行しうるだけの能力を持っているのは、アリッサただ1体であったが。

「悪くない選択ね。試しに6本ほど、私のナイトたちにリクエストしようかしら」

「了解しました」

 シアーズ技術開発総括は一番地警備本部長に誠実な声を装って応じる。
彼は彼女の視線が他に行ったのを確認すると、間接の指が白くなるまで椅子の肘掛を握り、声を出さずに呟く。

「……十干兄弟衆、一番地最強の暗殺者集団、戦闘ランクA。奴らをあれ以上強くしろと言うのか」

 一番地は才ある美少年に心理学と鬼道を応用した洗脳術を施し、忠実な猟犬の如く任務を達成する自動人形に改造した。
彼らは特殊部隊や裏社会のノウハウを凝縮させた訓練を受けており、実力は一番地では規格外と言える。
彼らにはもはや人としての心は認められない。能面を被り、名前ではなく十干にちなんだ符丁で呼ばれている。
ただし、甲・乙・丙は訳あって組織を裏切り、10番目の癸は発掘中なので、手元にいるのは丁・戌・己・庚・辛・壬(つまり、4~9番)の6人だけだ。

「反抗側の最大の弱点は持久力です。閉鎖結界が存在する限り、彼らは地上に逃げ込むことは出来ません。
 まず、彼らに重要度の低い拠点をわざと陥落させて疲弊させます。そこを精鋭部隊に強襲させましょう。

 うまく行けば彼らに勝利を確信させたまま、奈落の底に突き落とすことも可能でしょう」

 黒曜の君は不敵に微笑む。これは互いに偽りの希望を持たせ合い、一瞬の隙を突いて相手の頭を潰す、狐と狸の化かしあいゲームなのだ。


 神崎は次から次と戦略を提出していく。シアーズ側は弱みでも握られたせいか、闇雲に異議を唱えることもなく、会議はスムーズに進んでいった。
もちろん、会議室で一から十まで策を練るような愚かなことはしない。
所詮、敵の反応など3/4は闇の中であり、現場の指揮により臨機応変に戦う必要がある。
今必要なのは、柔軟に目標を達成するためにいかに戦力を増強するかだ。

「へえ、ただの可愛い坊やだと思っていたけど、結構やるじゃない」

 一番地警備本部長は頬杖しながら嬉しそうに語る。それを爽やかに、はにかんで見せる神崎。

「いえ、これも一番地の教育の賜物です。もちろん、具体的な部隊配置や中間目標の設定は、専門のお二方にお任せしますよ」
「じゃあ、お姉さんも張り切っちゃおうかな。その代わり、媛星の分け前は弾んで頂戴。シアーズ防衛総括はどうするのかしら?」
「……承知した、最高の布陣で必ずや儀式の成功を導こう」

 会議室から湧き上がる拍手。シアーズ防衛総括は無理に笑顔を作り、今にも溢れ出しそうな黒いものをぐっと飲み込んだ。


 ・◆・◆・◆・


 アリッサはシアーズ側の不甲斐なさを見て、大げさなため息をつく。
かく言う彼女も議論に参加せず、角砂糖を積み重ねて、小皿にブロックのタワーを作っていたのだが。

 そして、議題はある意味最も重要なテーマへと移行する。


――儀式が失敗した時はどうするか?


 要するに参加者が勝手に首輪を外したり、想いの力の継承に失敗したりした場合である。
あって欲しくないことを、あるはずがないと判断するのは愚将。最悪の事態を想定し、策を練ってこそ名将だ。

 シアーズ防衛総括は神崎をちらちらと横目で見ながら言った。

「正攻法は、反抗側の首輪を遠隔爆破、九条むつみやドクターウェストを脅迫してロケット作成し、この世界から脱出、であろうな」


 一番地情報本部長は、自分のノートパソコンから顔を上げずに、まるで独り言のように付け足した。

「でも、こちらの勝利条件は儀式の成功なんですよね。儀式失敗後のヒントは『安易に交渉するな』のみ。
 ナイア女史からの細かいルールは確認できないんでしょうかねえ」

 一番地情報本部長は不遜にため息をつく。これはナイア女史が黒曜の君との茶話でふと漏らした警告。
こんな漠然としたもの縋るしかないのは、あまりにも心細い。
シアーズ参謀本部長は長髪めがね男の言葉を聞くや否や、こめかみに欠陥が浮かび上がらせた。
だが、神崎はそれを制して幹部達に穏やかに語る。

「大丈夫ですよ。そもそも、彼女の目的は娯楽。その割に、首輪に関しては事故が起きる可能性が高過ぎます。
 それでこちらの希望は潰えてゲームは終了、では彼女も興ざめでしょう。
 ですから、死力を尽くした上の生還ならば、貴方達の行為を大目に見てくれると思いますよ」


 そして、僅かばかりの沈黙が続く。一番地防衛本部長は紅茶を飲み干すと、黒い瞳にエクスタシーを浮かべて、

「ふふ、お姉さんも一緒だから、寂しがらなくて大丈夫。だって、媛星の力が手に入らないんだったら、みんな死んじゃった方がマシだもの」

 彼女は本気とも冗談ともつかぬ、乾いた笑い声を上げる。米寿の男、一番地統合幕僚長は白く濁った瞳でその様子をじっと見つめていた。
神崎は男の様子に気付くと、神妙な面持ちでゆっくりと両手を組んだ。

「敗将にそこまでの気遣いは不要ですよ。もっとも、僕はこのゲームに負ける気はしませんけどね。

 そうそう、皆さんは既にご存知でしょうが、先刻の調査でこの星は偽りの地球だと確定しました。
 つまり、媛星が地上に衝突しても、死亡するのは僕達だけです。
 それ自体は喜ばしいことですが、新たな課題が浮上しました」

 実は第二ゲームの開始と共に、遠海にあった大陸や無数の都市が消滅した。
それどころか、この星自体がスカスカの穴開きチーズだった。質量はそのままだが存在が妙に薄い。
これらは恐らく、ナイアの仕込んだハリボテだったのだろう。

 無論、星空が奇妙であるなどおかしい部分も多かった。だが、もしもの場合を考えて、大地の安否を気遣う者も少なくなかった。
それを今になって種明かしするとは、彼女は甚だしく意地が悪い。


 一番地情報本部長はキーを叩き、構成員の内部状況をグラフとマッピングで映した。そして、相も変わらず淡々とした口調で言った。

「このように、事実を構成員に隠し通すのはもはや限界ですね。

 地球を救うという大儀の消滅によって、構成員全体の士気低下、
 最悪の場合、反抗側の工作によって、投降者が発生する可能性もあります」

「相変わらず、他人事みたいな言い方するわね。あたしも人のことは言えないけどさ」

 一番地防衛本部長はやや不機嫌そうな声を出す。だが彼はあまり気にする様子を見せない。

「そう言われても、事実ですから仕方ないです。
 構成員の6割は中産階級で、報酬を増やす程度で命を捨てるとは思えません。
 速やかに何らかの措置を取らなければ、儀式の成功率は激減するでしょう」

 神崎は会場で、媛星のためになら幾らでも人を殺せるような連中を幹部に据えていた。
だが、構成員全てが人の生死にドライなわけではない。
家族や恋人を救うため、再び彼らと会うため、仕方なしに殺し合いに協力している者も少なくないのだ。

 すると、シアーズ極東計画代表は拳を振り回し、突然演説し始めた。

「言霊だ、全員に言霊を掛けろ。全ての者を神崎様に跪かせろっ!!」

 それは居酒屋の酔ったオヤジのようにも見えた。
もしかすると、実際に酔っているのかもしれない。一番地情報本部長は彼の言葉に律儀に反応した。

「それは一考に値するアイディアですね。
 リアリストであれば、この状況で道義を論う余裕がないのは容易に理解できます。

 もっとも、幹部クラスに言霊は不要でしょう。
 万が一、私たちが反抗者に投降しても、彼らに殺されるのが目に見えてますから」

 そう語る彼の耳には奇妙なイヤホンが付けられていた。
これは音声を音響機器を介して聞くためのもの。実はすずの言霊は肉声でなければ効果はない。
これは、すずがトーニャ達に言霊を放った時、盗聴した職員は言霊に掛からなかったのだから容易に推測できる。
もっとも、これは身内の一番地だから黙認されているのであり、シアーズ財団がこんなことをすれば警戒されるのは間違いない。

 シアーズ防衛総括は慌てて、議論の流れに楔を打ち込もうとする。

「いや、その策はあの妖に依存し過ぎではないかね。彼女が陥落した時、形勢逆転されかねない」

 シアーズ財団は目的達成のために、一番地に面従腹背を貫いている。
だが、言霊による構成員の統制は、絶対に避けたい最後の一線。
されど、あの犬は同胞も思いを露とも知らず、全身をわなわな震わせて反論の主に食らいつく。

「それならば、国に帰る足も壊してしまえば良いっ! ロケットの部品になりそうな――」

 その刹那、音速の破裂音が部屋全体に鳴り響く。

 シアーズ極東計画代表はゆっくりと後ろに仰け反り倒れる。警備員が慌てて彼に駆け寄るも既に息はない。
お茶会の場は一瞬で凍りつく。その沈黙は幼き少女の冷徹な声で破られた。

「キャンキャンうるさい犬は死んじゃえ!」

 幹部たちの視線はアリッサに注がれる。彼女は角砂糖をまるでビー玉のように、宙に放って戯れている。
職員が彼の死体を調べる。眉間に穴が開いていて、中に甘ったるい砂糖が詰まっていた。
そう、砂糖なのだ。幾ら固めても奥歯で砕ける砂糖なのだ。物理的にありえない。誰がこのような末路を予期できるだろう。
 それでも、神崎や十干兄弟なら危機回避できたかもしれない。だが、弾丸の軌道は彼らの死角になっていた。

「ちゃんと、カンツーしないようにてかげんしたよ。だって、パパが食べものを床にこぼすのはマナー違反だって言ってたから。えらい?」

 アリッサは胸を張り、アリでも潰したよう時のように何食わぬ顔で言い放つ。そして、残りの角砂糖を隣のティーカップに放り込んだ。
騒然となる会議室。特にシアーズ技術開発総括は顔面蒼白である。
いつの間にか、この場にいる3人の十干兄弟がアリッサに銃口を向けている。他の警備員も慌ててそれに倣う。

「も、申し訳ありません。OS調整に幾分ミスがあったようで。直にチェックしますから」

 シアーズ技術開発総括、本当のシアーズ極東計画代表はぎこちないジェスチャーを交えて、必死にフォローしようとする。
だが、当のアリッサは動じることも、悪びれることもせず、既に息絶えた男を冷め切った紅瞳で一瞥。
そしてシアーズ技術開発総括に膨れっ面をしてみせる。

「えー、アリッサにシュウセイなんてヒツヨウないよ。あのオジサン、コトダマのせいでバカなんだもん。儀式のじゃまなんだよ」

 このまま戦いになれば惨事は避けられまい。皆がそう思った刹那、神崎は警備隊に銃口を下げるように命令した。
そして、死体の方にゆっくりと近づき、腰を下ろして観察する。

「子供はこれくらいの方が元気で良いですよ。ウチの妹も腕白でしょっちゅう備品を壊しますし」

 神崎は男の瞼をそっと閉じる。彼の怖いほど晴やかな笑顔は確実に、シアーズの幹部たちの肝を縮こまらせた。
シアーズ技術開発総括はアリッサの手を引いて、何度も頭を下げながら、そそくさと出入り口に向かった。


 他の出席者は事の状況をイマイチ呑み込めず、唖然としている。だが、一番地統合幕僚長は事の一部始終を、ただ静かに見守っていた。


 ・◆・◆・◆・


 アリッサ達が去り、続けて死体も外に運ばれた。残されたシアーズの幹部はより一層、肩身の狭い様子だった。
神崎は給仕に新しい紅茶に入れ替えるように言付ける。そして、場の空気の落ち着いたのを見計らうと、毅然とした声で語った。

「アリッサちゃんの言う通り、言霊が本人の才覚を鈍らせることもあるかもしれませんね。

 言霊は適材適所といきましょう。十把一絡げの三下連中には言霊を使います。死を恐れぬ兵士を作らない手はありません。
 彼らの感情が暴走して、HiMEを誤殺する危険もなくなりますからね。
 ただし、優秀な指揮官は忠義が厚ければ除外します。メンバーをリスト化して提出してください」

 末端が洗脳されてしまえば、上の者も実質的に大規模なクーデターは困難になる。別に全員を言霊で拘束する必要はないのだ。
その時、一番地警備本部長は落ち着いた声で疑問を呈する。
彼女はシアーズ統合参謀本部死亡直後とはうって変わって、ケロリとした表情を見せていた。

「んー、本当にそれでよいのかしら。シアーズ防衛総括の言い分にも一理あるのよね。
 たとえ、狐っ子が裏切っても、アレで言霊の書き換えは防げるかもしれないけど、本人が死んだりしたら、リセットされるかもしれないわよ」

 彼女はそう言って、一番地通信本部長のイヤホンに視線を注ぐ。
実際は尻尾を切ることで言霊は解除される。
だが、すずはその時、死よりも恐ろしい代償を払うことになる。ただ、一番地の者たちはそのことを知らない。

 神崎は既にその問いを予期していたかのように苦笑する。

「言霊が解けたときには、僕達は相当な恨みを買うでしょうね。ですが、代償を恐れては最悪の結果しか生みません。
 ならばいっそのこと、言霊を使ったことを反抗者たちに放送で伝えてしまいましょう」

 一番地警備本部長は軽く首を傾げた後、うんうんと頷いた。

「要するに、言霊のリスクは覚悟の上、逆にこの餌であいつらを釣ってやりたいのね。じゃあ、特上の毒針を仕込んでおいてあげる」

 その時、一番地統合幕僚長がおもむろに挙手をした。出席者はざわめき立つ。この老人は元の世界における一番地の重鎮の一人。
彼に睨まれた者は、陽の下を堂々と歩くことはできず、月明かりの下を歩いても無事に済まされないという。
しかも、彼はこれまで一切の発言をせず、議決でも棄権を貫いていた。彼らがこの老人の一挙一動に注目するのは当然である。

 神崎が彼に発言の許可を与える。会場がしんと静まり返る。男は暫く目を瞑り何かを考えた様子を見せると、ゆっくり口を開いた。

「わしはお前に一番地の運命を託そう」



 会場は再び騒然となる。なぜ、一番地統合幕僚長はこのような発言をしただろう。
では、彼の考えた第二のゲームで最もあり得る結末は何か。それは儀式の成功でもロケットによる脱出でもない。それは――



           全           滅



 つまり、主催側が星詠を行えず、反抗側もロケットを完成できないまま、媛星が落下して滅んでしまうということ。
事故や誤殺などのちょっとした手違い、もしくは命令違反によって、HiMEの死は容易に起こり得る。
儀式の破綻と共に、規律無きサバイバルゲームが始まり、最後には誰ひとり生き残らないだろう。
いや、そこまでいかなくても、誰かがドクター・ウェストを殺した時点で全てが終わる。

 他の幹部連中は少なくとも全滅はないと思っているかもしれない。自分達は愚かではないと。
だが、戦争の理論と現実にはずれがある。恐怖、憎しみ、愛情――人の思いは最善手を容易に踏みにじる。
それに加え、この舞台では激情が元の世界の数倍の速度で育まれる。冷静な判断力を何処まで維持できるか分かるまい。
最悪の場合、何十人もの構成員が悪鬼と化して、手当たり次第を食い荒らす惨状も覚悟せねばなるまい。

 今まで、感情の増幅は会場にいる人工のHiMEに限定されたかもしれない。
そして、ナイアは表舞台から退場し、これ以上の干渉はないように見える。
だが、ナイアにも干渉の機会はあった。それが第二ラウンド開始時の放送だ。
その時に彼女は主催側を名指しし、プレーヤーとして組み込んだと考えられないだろうか。
シアーズの連中があそこまで醜態を晒したのもそのせいだろう。
彼らが何を失敗したのかは知らないが、あの程度で我を失うはずがないのだ。

 全滅の危険は人が増えるほど幾何級数的に増大する。
ならば、人を減らせばよい。言霊で人の心をブリキに入れ替えれば良い。
これで儀式の破綻、そして、破綻後のゼノサイドの可能性を引き下げることができよう。
結局、このゲームを始めるためには、言霊は絶対必要不可欠なのだ。
人の心を縛るのは非人道的だとか、洗脳でしか人を動かせないのはカリスマのない証拠、などという反論は奇麗事でしかない。


 だが、それだけではまだ足りない。反抗側がすずの言霊をいつ解除するか分からない。
最悪のタイミングでリセットされれば、混乱と恐怖の増幅と共にやはり全滅の危機が訪れる。
 だから、反抗側に伝えなければならない。彼らが作戦立案するよりも早く、洗脳の事実を。
加えて、それにより、反抗者は敵意を部下ではなく、支配者たる神崎に向けるだろう。
これは部下との感情のぶつかり合いを最小限に抑え、全滅のリスクを下げることにも繋がる。

 無論、その代償は多い。神崎はここで己に仕える者の全ての生、全ての死を背負い、孤独に戦わねばならない。
もし敗れれば、歴代最悪の黒曜の君として、誰からも認められず、愛されずに死ぬことになろう。
神崎を諸悪の権化にするストーリーを作るのは簡単なことだ。これもまた、ナイアが神崎に仕込んだ過酷な運命。

 一番地統合幕僚長が神崎に微かな変化を感じたのは、本人にその覚悟ができたからだろう。
だから、この老骨は黒幕の加虐趣味をただ傍観するくらいなら、あの若造に委ねてみたいと思ったのである。


「一番地統合幕僚長、右も左も分からぬ青二才には勿体無い言葉です」

 神崎は一番地統合幕僚長に深々とお辞儀をした。


 ・◆・◆・◆・


 ▼とある研究員のドキュメント1 ――『異界の武器に似せることの意義』


 まず初めに、シアーズが異世界の知識を把握している理由を説明せねばなるまい。
ひとつは会場の大学にある図書館の書籍だ。ただし、ゲーム開始時に、主催側は閲覧禁止になる。
そしてもうひとつは、会場に飛び交う異世界からの断片的な情報である。黒須太一ならこれを電波と命名するところだろう。
電波は本来、支給品『大山祈の愛読書』の魔術、4と3/4チャンネルを活用するためのもの。
だが、シアーズはその電波を手当たり次第解析し、有用な技術を掘り当てていた。

 当然、幾らシアーズ財団と雖も、異世界の技術を短期間で完全に理解できるわけがない。
そこで出来るだけ似せたものを作り、ブラックボックスのまま使ってしまおうと言うわけだ。アンドロイドに組み込んだ魔術回路はその最たる例だ。
TKF3型は異世界のホムンクルスの技術を取り入れることで、容易に回路を組み込むことができた。


 さらに、擬似エレメントに関しては他の理由もあった。まず、シアーズの世界にあるエレメントは、想いの力によって精製される武器である。
それは無意識の内にデザインされるため、武器の知識はさほど必要ない。
たとえば、なつきのエレメントは二丁拳銃だが、彼女は別に軍隊出身でもガンマニアでもないのだ。
その代わり、幾ら銃に詳しくなっても、武器自体の性能は向上しない。

 これに対して、言峰綺礼の世界にある『投影』とは、術者のイメージで対象物を再現する魔術だ。
真作を複製するために必要な情報は膨大で、外見を似せるだけでも一苦労、しかも時間が経つと消滅してしまう。
ただし、オリジナルの創造理念や材質、製法等を学習することで、より本物に近い効果を得られるようになる。

 これら二つの世界律が入り混じた相乗効果なのだろうか。擬似エレメント設計の際に予期せぬ特典が生まれていた。
それを強力な武器、もしくは強力な使い手が愛用した武器に姿を似せることで、エレメントの機能を底上げなされるのだ。
例えばエクスカリバーに似せると衝撃波の威力が増大するし、ゲイボルグに似せると追尾能力の精度が増す。
あの銃にしてもこれを利用しなければ、あそこまで機能を詰め込むことはできなかっただろう。

 そして、あの技術の究極系が例の魔剣である。無論、あれを作るには膨大な資源と繊細な技術を必要としており、現段階での量産は不可能だが。


 また、幾ら姿を模してもシアーズに扱えぬ能力を持たせることはできない。
あの銃の変則的な能力さえ、既存エレメント能力の組み合わせでしかないのだ。
たとえば、聖杯そっくりのエレメントを作っても、時の逆流や死者蘇生は不可能である。



 こっそり、エレメントで宇宙船の部品を作りたかったが、色々な事情で難しくなってしまった。
理由についてはここでは述べないが、とばっちりを受けるのは下っ端ということだ。


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